説明

多孔質セラミックス、およびその製造方法

【課題】形態の自由度が大きく孔径の異なる2種類の孔群を有する多孔質セラミックスを容易に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともシリカを含んでなる粒子と、可燃性の樹脂と、可塑剤とを混合することにより得られた混合物を所定の形状に成型した後、混合物から可塑剤を抽出して、多孔性グリーン成形体を得、次いで、多孔性グリーン成形体に焼結助剤を含む焼結助剤含有液を含浸させ、焼結助剤含有液が含浸された多孔性グリーン成形体を焼成することにより、樹脂を焼失させて、多孔質基材を得る多孔質基材形成工程と、金属アルコキシドと触媒と界面活性剤と水とを含む多孔質膜形成用溶液を多孔質基材に含浸させて、多孔質基材上にその一部が多孔質基材の孔内に入り込んだ塗膜を形成した後、塗膜を焼成することにより、多孔質膜を形成する、多孔質膜形成工程と、を含む多孔質セラミックスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス、およびその製造方法に関し、特にマクロ孔とメソ孔とを有する多孔質セラミックス、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸着材料または反応触媒材料の分野において、小さい容積内に広い反応場(面積)を有する多孔質体が開発されている。しかし、多孔質体中に流体を流す場合、多孔質体の比表面積を大きくすると孔径が小さくなり、圧力損失が高くなる。この場合、一部の孔が機能しなくなる。圧力損失を低くするためには、孔径を大きくする必要があるが、この場合には、反応場となる表面積の割合が小さくなる。そのため、多孔質体を設計する際には、使用用途に応じて、比表面積と孔径とをバランスさせる必要があった。このような背景の下、従来から流体を流すためのマクロ孔(スルーポア)と、反応場として機能するメソ孔(メソポア)とを有し、2つの孔径分布を有する多孔質体が提案されている。
【0003】
特開平11−287791号公報には、内径1000μm以下の毛細管内に2重細孔構造のシリカゲルを形成してなるキャピラリーカラムが開示されている。このシリカゲルは、孔径が0.5〜5μmの孔(スルーポア)と、孔径が2〜50nmの孔(メソポア)を有している。
【0004】
上記キャピラリーカラムは以下のようにして作製される。まず、反応溶液に予め熱分解しうる化合物を溶解させる。そして、ゾル−ゲル法により、溶媒に富む溶媒リッチ相と、無機物質に富み表面に孔を有する骨格相とからなるゲルを、内径1ミリメートル以下の毛細管中において調製する。次いで、湿潤状態のゲルを加熱することにより、上記化合物を熱分解させ、その後、ゲルを乾燥させた後、加熱することにより、キャピラリーカラムが作製される。
【0005】
特開平11−287791号公報には、無機物質として、シリカ(SiO2)を用い、熱分解する化合物として、熱分解によって液性が塩基性に変わる、尿素等のアミド系化合物を用いると、好ましい旨が記載されている。
【0006】
また、特開平11−287791号公報には、キャピラリーカラムの他の作製方法として、以下の方法が開示されている。まず、水溶性高分子および熱分解しうる化合物(低分子化合物)を酸性水溶液に溶かした後、酸性水溶液に加水分解性の官能基を有する金属化合物を添加する。これにより、酸性水溶液中において加水分解反応を行い、内径1ミリメートル以下の毛細管中において生成物を固化させる。次いで、湿潤状態のゲルを加熱することにより、ゲル調製時に酸性水溶液に予め溶解させておいた上記低分子化合物を熱分解させる。次いで、ゲルを乾燥させた後、加熱することにより、キャピラリーカラムが作製される。
【0007】
特開2005−290032号公報には、メソ孔に加えてマクロ孔を併せ持つ無機系多孔質体の製造方法が開示されている。この無機系多孔質体の製造方法では、まず、鋳型成分として両親媒性物質を、ゾル−ゲル反応触媒成分を含む水溶液に溶かし、さらに、加水分解性の官能基を有する無機低分子化合物を上記水溶液に添加して、ゾル−ゲル反応を行わせる。この反応により、溶媒に富む溶媒リッチ相と、上記無機低分子化合物から生成した無機酸化物重合体に富む骨格相とからなるゲルが形成される。上記無機酸化物重合体は、鋳型成分である両親媒性物質の表面に固着している。次いで、乾燥によってゲルから溶媒を除去して、マクロ孔を形成し、乾燥後のゲルから熱分解または抽出により上記鋳型成分を除去して、上記骨格相内にメソ孔を形成する。
【特許文献1】特開平11−287791号公報
【特許文献2】特開2005−290032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開平11−287791号公報や特開2005−290032号公報に記載の方法によれば、マクロ孔の存在によって圧力損失が低減され、メソ孔の存在により広い反応場を有する、多孔質材料が得られる。
【0009】
しかし、特開平11−287791号公報に記載の方法では、反応溶液を内径1ミリメートル以下の毛細管中に充填して多孔質体を得るため、多孔質体の形態の自由度が小さい。
【0010】
特開2005−290032号公報に記載の方法では、比較的脆い構造となっているゲルから鋳型成分を除去することによりメソ孔を形成するので、無機系多孔質体の形態の自由度が小さい。
【0011】
このように、その形態の自由度が大きく、孔径の異なる2種類の孔群を有する多孔質体を容易に製造する方法は、いまだ開示されていない。
【0012】
そこで本発明では、形態の自由度が大きく、孔径の異なる2種類の孔群を有する多孔質セラミックスを容易に製造できる製造方法、および多孔質セラミックスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の多孔質セラミックスの製造方法は、少なくともシリカを含んでなる粒子と、可燃性の樹脂と、可塑剤とを混合することにより得られた混合物を所定の形状に成型した後、前記混合物から前記可塑剤を抽出して、多孔性グリーン成形体を得、次いで、前記多孔性グリーン成形体に焼結助剤を含む焼結助剤含有液を含浸させ、前記焼結助剤含有液が含浸された多孔性グリーン成形体を焼成することにより、前記樹脂を焼失させて、多孔質基材を得る多孔質基材形成工程と、金属アルコキシドと触媒と界面活性剤と水とを含む多孔質膜形成用溶液を、前記多孔質基材に含浸させて、前記多孔質基材上にその一部が多孔質基材の孔内に入り込んだ塗膜を形成した後、前記塗膜を焼成することにより多孔質膜を形成する、多孔質膜形成工程とを含む。
【0014】
本発明の多孔質セラミックスは、少なくともシリカを含んでなり、孔を有する多孔質基材と、無機酸化物を含んでなり、前記多孔質基材上に形成され、その一部が前記多孔質基材の孔内に入り込んでおり、前記多孔質基材の前記孔よりも径が小さい孔を有する多孔質膜と、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明による多孔質シリカセラミックスの製造方法では、形態の自由度が大きく、孔径の異なる2種類の孔群を有する多孔質セラミックスを容易に製造できる。また、本発明の多孔質セラミックスは、多孔質基材と、多孔質基材の孔(例えば、マクロ孔)よりも径が小さい孔(例えば、メソ孔)を有する多孔質膜とを含んでいる。そのため、相対的に孔径の大きい多孔質基材の孔では、液体または気体等の流体が通過しやすく、相対的に孔径の小さい多孔質膜の孔は比表面積が大きいので広い反応場となりうる。よって、本発明の多孔質セラミックスは、例えば、クロマトグラフ用のカラム充填材や、センサ、担持体として使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、金属アルコキシドと触媒と界面活性剤と水とを含む多孔質膜形成用溶液(いわゆるゾルゲル液)が含浸可能で、孔(例えば、マクロ孔)を有する多孔質基材を準備し、上記多孔質膜形成用溶液を用いて、多孔質基材上にその一部が多孔質基材の孔内に入り込んだ塗膜を形成した後、当該塗膜を焼成して、多孔質基材の上記孔よりも孔径の小さい孔(例えば、メソ孔)を有する多孔質膜を形成することにより、形態の自由度が大きく、孔径の異なる2種類の孔群を有する多孔質セラミックスが得られることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明の多孔質セラミックスの製造方法では、まず、多孔性グリーン成形体を得る。次いで、多孔性グリーン成形体に焼結助剤含有液を含浸させ、焼結助剤含有液が含浸された多孔性グリーン成形体を焼成することにより、樹脂を焼失させて、多孔質基材を得る(多孔質基材形成工程)。多孔質基材の表面は、所定の焼結助剤を含む焼結助剤含有液を使用することにより、多孔質膜形成用溶液が含浸されやすくなる。
【0018】
その後、多孔質基材の表面上に、金属アルコキシドと触媒と界面活性剤と水とを含む多孔質膜形成用溶液を用いて塗膜を形成する。次いで、上記塗膜を焼成することにより、多孔質基材上に、その一部が多孔質基材の孔内に入り込んだ多孔質膜を形成する(多孔質膜形成工程)。
【0019】
なお、本発明において、「マクロ孔」および「メソ孔」は、IUPACによって定義されているものとする。すなわち、マクロ孔とは、直径が50nm以上の孔のことであり、メソ孔とは、直径が2nmを超え、50nm未満の孔のことである。
【0020】
本発明の多孔質セラミックスは、その形態について特に制限されない。すなわち、多孔質セラミックスは、粉体であってもよいし、シート状等であってもよい。多孔質セラミックスが粉体であれば、多孔質セラミックスをカラム等に充填して用いることが可能であり、多孔質セラミックスがシート状であれば、フィルタやセパレータとして用いることができる。多孔質膜は、例えば、多孔質基材を完全に被覆するように形成されていてもよいが、例えば、多孔質基材がシート状である場合、多孔質基材の両主面のうちの一方の主面上および/または両主面上にのみ形成されていてもよい。
【0021】
次に、多孔質セラミックスの製造方法を構成する第1の工程である、多孔質基材形成工程について説明する。
【0022】
[多孔性グリーン成形体]
多孔性グリーン成形体は、少なくともシリカを含んでなる粒子と、可燃性の樹脂と、可塑剤とを混合することにより得られる混合物を所定の形状に成形した後、得られた成形物から、例えば、有機溶媒等を用いて、可塑剤を抽出することにより得られる。有機溶媒としては、例えば、トリクロロエチレン,トリブロモエチレン等が挙げられる。有機溶媒は、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。抽出方法としては、例えば、浸漬抽出法,煮沸抽出法,減圧抽出法等が挙げられる。
【0023】
多孔性グリーン成形体は熱可塑性を有していると、シート状,繊維状またはビーズ状等の様々な形状への加工が容易なので、好ましい。例えば、多孔性グリーン成形体の形状がシート状である場合、陶芸用等に用いられるセラミックスペーパーと同様に、折り曲げたり重ねたりして、自由に造形できる。また、シート状の多孔性グリーン成形体をプレスすることによって、波板形状とすることはもちろんのこと、エンボス加工したり、3次元的に成形できる。
【0024】
(シリカ粒子)
多孔性グリーン成形体を構成するシリカ粒子は、シリカのみからなる粒子でもよいし、シリカを主成分として含んでなる粒子でもよい。本明細書では、両方をまとめてシリカ粒子ということがある。シリカは網目構造を形成しやすいので、多孔性グリーン成形体を形成するのに好適である。シリカ粒子の平均二次粒径は、可塑剤や、樹脂との混合が良好に行われる限りにおいて特に制限はない。
【0025】
(樹脂)
樹脂としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,メタクリル樹脂,塩化ビニル樹脂,ポリアミド,ポリアセタール,ポリブチレンテレフタレート,ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート,ポリメチルペンテン,ポリカーボネイト,変性ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトン,ポリテトラフロロエチレン,ポリエーテルイミド,ポリアリレート,ポリサルフォン,ポリエーテルサルフォン,ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。またその形状は、粉体やペレットであれば、好ましく用いられる。
【0026】
上記樹脂のうち、分子量が数十万を超えるものは、例えば、シート形状への成形を容易にするので、好ましい。特に、分子量が100万以上のポリエチレンは、より成形性が良好であるので、好ましい。
【0027】
(可塑剤)
可塑剤としては、タービンオイルやパラフィン系鉱物油(石油系炭化水素)等が使用可能である。特に、混合物の成形を押出成形法により行う場合は、加熱を伴うので、揮発または引火しにくい重質油が好ましい。パラフィン系鉱物油は、樹脂を溶解しやすいので、好ましい。このほか、フタル酸エステル(フタル酸ブチル,フタル酸ジオクチル),アジピン酸エステル,リン酸エステル,トリメリット酸エステル,クエン酸エステルなども、可塑剤として使用できる。
【0028】
上記混合物には、多孔性グリーン成形体に親水性を付与するために、親水性付与剤が含まれていてもよい。上記混合物に親水性付与剤が含まれていると、焼結助剤含有液が、多孔性グリーン成形体に含浸されやすくなるので、好ましい。親水性付与剤としては、例えば、アルキルスルホコハク酸塩,ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物等のアニオン系の親水性付与剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系の親水性付与剤が挙げられる。これらの親水性付与剤は、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。
【0029】
親水性付与剤は、上記混合物に添加されることに代えて、または、上記混合物に添加されることに加えて、上記混合物の成形物から可塑剤を抽出して得た多孔性グリーン成形体にコーティングされてもよい。コーティングは、例えば、ディッピング,スプレーコート,フローコート,スピンコート等の方法により行える。
【0030】
多孔質基材が有する孔の径は、混合物の主構成物である、シリカ粒子と可燃性の樹脂と可塑剤との質量割合を、調整することにより制御できる。混合物中における、シリカ粒子と可燃性の樹脂と可塑剤との各質量割合の好ましい範囲は、シリカ粒子および/または樹脂のサイズによって変化する。例えば、混合物におけるシリカ粒子の質量割合は、混合物をより良好に混練でき、かつ、より適切な強度を有する多孔質基材を形成できるという理由から、20〜50質量%が好ましい。また、混合物における樹脂の質量割合は、シリカ粒子をより好適に分散させることができ、かつ、形状安定性のより良い多孔性グリーン成形体を形成できるという理由から、10〜50質量%が好ましい。また、混合物における可塑剤の含有量は、多孔性グリーン成形体をより良好に成形できるという理由から、15〜60質量%が好ましい。
【0031】
(焼結助剤含有液の多孔性グリーン成形体への含浸)
混合物の成形物から可塑剤を抽出して得られる多孔性グリーン成形体には、空隙が存在している。この空隙に焼結助剤含有液が入るように、多孔性グリーン成形体に焼結助剤含有液を含浸させる。焼結助剤含有液が含浸された多孔性グリーン成形体を焼成すると、シリカ粒子に接した焼結助剤は融剤として作用し、樹脂は焼失する。
【0032】
そのため、焼結助剤含有液の含浸量、すなわち、焼結助剤の含浸量を、多孔性グリーン成形体の部分毎に変化させれば、孔(例えば、マクロ孔)の直径(孔径)を当該部分毎に変化させることができる。この孔径の変化は、階段的にも連続的にも行える。
【0033】
焼結助剤含有液の含浸量を変化させることは、例えば焼結助剤が、後述する水ガラスによって供給される場合、希釈倍率の異なる水ガラスを焼結助剤含有液として、多孔性グリーン成形体の各部分に含浸させることにより実現できる。
【0034】
(焼結助剤含有液)
本発明の多孔質セラミックスの製造方法に用いられる焼結助剤は、シリカ粒子の融点を低下させる機能を有する。上記焼結助剤含有液は、例えば、シリカ粒子内への拡散速度が速いという理由から、アルカリ金属含有化合物,アルカリ土類金属含有化合物,リン含有化合物およびホウ素含有化合物からなる群から選ばれる、少なくとも1種の無機材料を焼結助剤として含んでいると好ましい。これらの焼結助剤のうち、シリカ粒子内への拡散速度がより速く、焼結助剤としての効果が高い、アルカリ金属含有化合物が、焼結助剤含有液に含まれていると、より好ましい。
【0035】
焼結助剤含有液に含まれる焼結助剤の種類や量を調整することにより、多孔質基材の表面のpHを制御できる。
【0036】
本発明の多孔質セラミックスの製造方法で使用される多孔質基材の表面のpHは、8以下に制御されることが好ましい。このように制御されると、上記ゾル−ゲル反応の速度が適度に抑制され、多孔質基材の表面のみならず、表面より内部へ連通している孔の表面へも、多孔質膜形成用溶液が含浸されるので、好ましい。なお、pHの下限については、多孔質基材の表面に塗膜の形成が可能であれば、特に制限はない。
【0037】
焼結助剤として、アルカリ金属含有化合物またはアルカリ土類金属含有化合物を用いた場合、多孔質基材の表面のpHは、アルカリ性側に変化する。これに対して、リン含有化合物またはホウ素含有化合物を用いた場合には、多孔質基材の表面のpHは、酸性側に変化する。焼結助剤の添加量が増えれば、表面のpHの変化も大きくなる。
【0038】
焼結助剤が水に可溶な物質である場合、焼結助剤含有液が、焼結助剤と水とを含む水溶液であると、焼結助剤含有液が、多孔性グリーン成形体に含浸されやすく、好ましい。焼結助剤がアルコールに可溶な化合物である場合、焼結助剤含有液はアルコール溶液であってもよい。
【0039】
アルカリ金属含有化合物には、シリカ粒子によって形成された網目構造に対して、網目修飾酸化物となり、シリカの粘性を低下させて融解を促進させる働きがある。アルカリ金属としては、Na,K,Liなどが挙げられる。このようなアルカリ金属含有化合物としては、水などの溶媒に溶解しやすく、溶液を得やすいという理由から、塩化物,水酸化物,酢酸塩,硫酸塩,炭酸塩または硝酸塩のいずれかの化合物であることが好ましい。
【0040】
アルカリ金属含有化合物としては、具体的には、酸化ナトリウム,塩化ナトリウム,水酸化ナトリウム,酢酸ナトリウム,硫酸ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,硝酸ナトリウム,塩化カリウム,水酸化カリウム,酢酸カリウム,硫酸カリウム,炭酸カリウム,硝酸カリウム,塩化リチウム,水酸化リチウム,酢酸リチウム,硫酸リチウム,炭酸リチウム,硝酸リチウム等を例示できる。アルカリ金属含有化合物の供給源としては、例えば、酸化ナトリウムを含む水ガラスであってもよい。
【0041】
アルカリ土類金属含有化合物には、シリカ粒子によって形成された網目構造に対して、網目修飾酸化物となり、シリカの粘性を低下させて融解を促進させる働きがある。アルカリ土類金属としては、Mg,Ca,Sr,Baなどが挙げられる。このようなアルカリ土類金属含有化合物としては、水などの溶媒に溶解しやすく、溶液を得やすいという理由から、塩化物,水酸化物,酢酸塩,硫酸塩,炭酸塩または硝酸塩のいずれかの化合物であることが好ましい。
【0042】
アルカリ土類金属含有化合物としては、具体的には、塩化マグネシウム,水酸化マグネシウム,酢酸マグネシウム,硫酸マグネシウム,炭酸マグネシウム,硝酸マグネシウム,塩化カルシウム,水酸化カルシウム,酢酸カルシウム,硫酸カルシウム,炭酸カルシウム(石灰石),硝酸カルシウム,塩化ストロンチウム,水酸化ストロンチウム,酢酸ストロンチウム,硫酸ストロンチウム,炭酸ストロンチウム,硝酸ストロンチウム,塩化バリウム,水酸化バリウム,酢酸バリウム,硫酸バリウム,炭酸バリウム,硝酸バリウムなどを例示できる。
【0043】
ホウ素含有化合物およびリン含有化合物にも、シリカ粒子によって形成された網目構造に対して、網目修飾酸化物となり、シリカの粘性を低下させて融解を促進させる働きがある。ホウ素含有化合物としては、水などの溶媒に溶解しやすく、溶液としやすいという理由から、ホウ酸および/またはホウ砂が好ましい。リン含有化合物としては、水などの溶媒に溶解しやすく、溶液としやすいという理由から、オルトリン酸,ホスホン酸,ホスフィン酸およびペルオキソリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0044】
以上、説明した多孔質基材形成工程によれば、孔径のばらつきが小さい網目状の多孔質基材を製造できる。網目状の骨格の太さ,孔径,多孔質基材表面のpHなどは、多孔性グリーン成形体に含浸させる、焼結助剤の種類や量等により制御できる。
【0045】
焼結助剤含有液には、焼結助剤の他に、多孔性グリーン成形体への焼結助剤含有液の浸透性を向上させるために、界面活性剤がさらに含まれていると好ましい。界面活性剤の具体例について特に制限はないが、例えば、ポリオキシレンアルキルエーテル,ポリオキシレンエチレンジスチレン化フェニルエーテル,アセチレングリコール,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0046】
(焼成温度)
多孔質基材形成工程で行われる焼成の温度(焼成温度)は、焼結助剤の濃度に応じて若干異なるが、1000℃以下が好ましく、より好ましくは700℃〜1000℃、さらに好ましくは700℃〜900℃である。なお、焼成温度とは、多孔性グリーン成形体が焼成される雰囲気の温度である。焼成時間については、焼成温度に応じて適宜選定される。
【0047】
上記焼成温度や焼成時間などの焼成条件を変化させることにより、多孔質基材の比表面積を制御できる。
【0048】
次に、多孔質セラミックスの製造方法を構成する第2の工程である、多孔質膜形成工程について説明する。
【0049】
(多孔質膜形成用溶液の作製)
多孔質膜形成用溶液は、水と、触媒と、必要に応じてアルコール系溶媒(アルコールを主成分とする溶媒)とを混合して得られた、触媒含有溶媒に、界面活性剤を溶解させた後、さらに、金属アルコキシドを加えることにより得られる。
【0050】
各成分の質量比は、金属アルコキシドの種類等に応じて異なるが、例えば、金属アルコキシドがシリコンアルコキシドである場合、例えば、シリコンアルコキシド:水:アルコール系溶媒:触媒:界面活性剤=1:(0.3〜1):(0.5〜5):(0.02〜0.1):(0.05〜0.5)の範囲に調製されることが好ましい。このような多孔質膜形成用溶液であれば、界面活性剤のミセル径、シリコンアルコキシドの加水分解反応の速度、塗膜の乾燥速度および焼成速度などを、所定の範囲に制御できる。
【0051】
多孔質膜形成用溶液における、金属アルコキシドと界面活性剤の質量比を変化させることにより、多孔質膜の空隙率を変化させることができる。例えば、金属アルコキシド(骨格成分)に対し、界面活性剤(孔形成成分)を増加させることにより、空隙率は増加する。
【0052】
多孔質膜形成用溶液の総質量に対する、金属アルコキシドの質量と界面活性剤の質量の合計の比率を変えることにより、多孔質膜形成用溶液の粘度を変化させ、塗膜の厚みを変化させることができる。
【0053】
金属アルコキシドとしては、例えば、シリコンアルコキシド,アルミニウムアルコキシド,チタンアルコキシド,ジルコニウムアルコキシドなどが挙げられる。これらの金属アルコキシドは、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。また、多孔質膜と多孔質基材との膨張率の差が小さいほど、多孔質膜と多孔質基材の密着性が良くなるという理由から、金属アルコキシドは、多孔質基材のシリカを構成するSi元素を含む、シリコンアルコキシドであることが好ましい。
【0054】
シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラブトキシシラン,メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,メチルトリブトキシシラン,テトラクロロシラン,メチルトリクロロシランなどが挙げられる。これらのシリコンアルコキシドは、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。
【0055】
多孔質膜形成用溶液に含まれる触媒としては、塩酸,硫酸,触媒硝酸,蟻酸,酢酸,クエン酸,リン酸,メタクリル酸などを用いることができる。これらの触媒は、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。
【0056】
多孔質膜形成用溶液には、水が含まれており、上記のとおり、さらにアルコール系溶媒が含まれていてもよい。アルコール系溶媒に含まれるアルコールとしては、エタノール,メタノール,プロパノールなどの第1アルコールや、ベンジルアルコール,フルフリルアルコール,テトラヒドロキシフルフリルアルコールなどの環状アルコールや、ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,プロピレングリコール,エチレングリコールエチルエーテルなどのグリコール類などが使用可能である。これらのアルコールは、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。
【0057】
多孔質膜形成用溶液に含まれる界面活性剤としては、脂肪族第4級アンモニウム塩,脂肪族アミン塩,アルキル硫酸塩,非イオン性界面活性剤などを使用できる。これらの界面活性剤は、1種のみ用いられてもよいが、2種以上用いられてもよい。このような界面活性剤であれば、孔径が2nmを超え50nm未満で、孔径のばらつきが小さいメソ孔を有する多孔質薄膜を製造できる。
【0058】
脂肪族第4級アンモニウム塩としては、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム,臭化オクタデシルトリメチルアンモニウム,臭化デシルトリメチルアンモニウム,臭化ドデシルトリメチルアンモニウム,臭化ヘキサデシルメチルエチルアンモニウムなどの長鎖アルキルアンモニウムハロゲン化塩などが挙げられる。脂肪族アミン塩としては、ヘキサデシルアミンなどを、アルキル硫酸塩としては、ドデシル硫酸ナトリウムなどを例示できる。
【0059】
非イオン性界面活性剤としては、2つのエチレンオキサイド(EO)鎖の間に、プロピレンオキサイド(PO)鎖、またはブチレンオキサイド(BO)鎖を有する構造のトリブロックポリマー型非イオン性界面活性剤が、メソ孔の孔径の均一性が高まるという理由から、好ましい。具体的には、BASF社やADEKA社によって販売されている、以下に示すEO−PO−EOの構造のトリブロックポリマーが界面活性剤として好ましい。
【0060】
トリブロックポリマー型非イオン性界面活性剤としては、
・"Pluronic"(登録商標)Lシリーズ:L31(EO2PO15EO2),L34(EO7PO15EO7),L44(EO10PO20EO10),L61(EO3PO30EO3),L44(EO10PO20EO10),L62(EO6PO30EO6),L64(EO13PO30EO13),L71(EO3PO35EO3),L72(EO9PO35EO9),L101(EO6PO50EO6),L121(EO7PO60EO7),
・"Pluronic"(登録商標)Pシリーズ:P65(EO20PO30EO20),P84(EO20PO40EO20),P85(EO25PO40EO25),P103(EO20PO50EO20),P105(EO37PO40EO37),P65(EO20PO30EO20),P123(EO20PO70EO20),
・"Pluronic"(登録商標)Fシリーズ:F68(EO80PO30EO80)P65(EO20PO30EO20),F108(EO141PO106EO141),F127(EO106PO70EO106),などが挙げられる。
【0061】
多孔質膜形成用溶液中における固形分(シリカ成分)の含有割合は、乾燥時によるクラックの発生が抑制された塗膜を形成するために、3〜30質量%であることが好ましい。
【0062】
多孔質膜形成用溶液中における界面活性剤の含有割合は、塗膜の乾燥時にラメラ状のクラックが発生することを抑制するという理由から、金属アルコキシド由来の無機成分100質量部に対して、30〜300質量部であることが好ましい。
【0063】
多孔質膜形成用溶液は、例えば、所定の温度で、所定時間攪拌されることにより、金属アルコキシドの部分重合体を含む液体としてから、使用されると好ましい。この場合、多孔質膜形成用溶液の塗布特性が良好となり、多孔質基材上に塗膜を均一性よく形成できる。金属アルコキシドが例えば、シリコンアルコキシドである場合は、25℃〜60℃で、30分〜24時間攪拌される。なお、金属アルコキシドの部分重合体とは、加水分解反応および縮合反応によって得られる重合体であって、アルコキシル基(−O−R)および/または水酸基(−OH)の一部が未反応のまま残存している重合体を意味する。
【0064】
(多孔質膜の形成)
多孔質膜を得るには、まず、多孔質膜形成用溶液を用いて多孔質基材上に塗膜を形成する。塗膜の形成方法について、特に制限はなく、スピンコート法,フローコート法,ディップ法,スプレー法などを採用できる。
【0065】
次いで、塗膜中の水分やアルコール系溶媒を揮発させる。塗膜中の脱水縮合反応を促進させる目的で、塗膜の焼成を行う前に、塗膜を乾燥させてもよい。乾燥方法について、特に制限はないが、例えば、塗膜が形成された多孔質基材を、25℃〜60℃の雰囲気下に、5分〜48時間を放置すればよい。
【0066】
塗膜の厚みについて特に制限はないが、塗膜の乾燥時にクラックが発生することを抑制し、かつ、塗膜が形成された多孔質基体の孔が、多孔質膜形成用溶液によって完全に満たされてしまうことを抑制するために、1μm以下であることが好ましい。
【0067】
(塗膜の焼成)
続いて、塗膜を焼成する。この焼成の過程で、塗膜中に含まれる界面活性剤が分解する。界面活性剤の分解により、界面活性剤が存在していた箇所に孔径が多孔質基材の孔よりも小さい孔(例えば、メソ孔)が形成される。その結果、周期性を有し、シリカからなりかつ孔径の均一性が高い多孔質膜が得られる。焼成は、例えば350℃〜600℃の雰囲気下にて5分〜2時間行うことが好ましい。焼成温度が350℃以上であれば、界面活性剤を完全に分解させることができるので、空隙率の高い多孔質膜を形成できる。
【0068】
以上のようにして、孔(例えば、マクロ孔)を有する多孔質基材の上に、その一部が多孔質基材の孔内に入り込み、多孔質基材の孔よりも孔径が小さい孔(例えば、メソ孔)を有する多孔質膜を形成することができる。これにより、圧力損失が少なく、表面積の高い多孔質セラミックスを容易に作製できる。また、多孔質基材の孔(例えば、マクロ孔)は、基材の厚み方向に貫通し、基材中に均一性よく形成されている。多孔質膜の孔(例えば、メソ孔)も、膜の厚み方向に貫通し、膜中に均一性よく形成されている。このため、マクロ孔とメソ孔とは、相互に連通している。よって、本発明の多孔質セラミックスは、流体が流された場合の圧力損失を小さく抑えながら、広い反応場を必要とする用途に、好適に用いられる。
【0069】
次に、本発明の多孔質セラミックスの製造方法の一例について、実施例を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
(多孔質基材の作製)
実施例1で用いる多孔質基材は、以下のようにして作製した。シリカ粒子(平均二次粒径6.1μm、比表面積200m2/g)を下記量準備した。可燃性の樹脂として、粉状のポリエチレン(重量平均分子量200万)を下記量準備した。可塑剤として鉱物油を下記量準備した。界面活性剤として、アルキルスルホコハク酸塩を下記量準備した。
【0071】
シリカ粒子 27質量部
ポリエチレン 15質量部
鉱物油 57質量部
アルキルスルホコハク酸塩 1質量部
【0072】
上記成分を混合し、次いで、押出機で加熱溶融しながら混練した後、得られた混練物を成形ロールにて加圧成形して、厚さ400μmのシート状物を得た。
【0073】
続いて、該シート状物中の可塑剤を有機溶媒(ノルマルプロピルブロマイド)を用いて抽出除去した後、可塑剤が除去されたシート状物を加熱により乾燥して、厚さ400μm、目付け250(g/m2)の多孔性グリーン成形体を得た。この多孔性グリーン成形体には、抽出された可塑剤の存在していたところに、空隙が形成されていた。多孔質グリーン成形体における、見掛け容積に対する孔の容積の割合を空隙率としたとき、比重から算出される空隙率は60%であった。以下の実施例2〜6および比較例1にも、この多孔性グリーン成形体を用いた。なお、多孔性グリーン成形体等の平均厚さと、目付けは、下記のようにして得た値である。
【0074】
(多孔性グリーン成形体の平均厚さ)
デジマチック標準外側マイクロメータ((株)ミツトヨ製)にて300mm2につき1点測定し、5点を平均して得た。
【0075】
(目付け)
20cm×20cmの試験片3枚を採取し、それぞれの標準状態(温度25℃、105Pa)における質量を各々測定し、その質量より1m2あたりの質量を求め、その平均値を試料の目付けとした。
【0076】
次に、JIS3号水ガラスを準備した。JIS3号水ガラスは、SiO2(28〜30質量%)、Na2O(9〜10質量%)、および水(残部)からなり、モル比(SiO2/Na2O)は2.8〜3.33である。このJIS3号水ガラスを、水で100倍に希釈した溶液に、アセチレングリコールを1質量%添加することにより、焼結助剤含有液(表1中では、WG×100と略する)を得た。この焼結助剤含有液中に多孔性グリーン成形体をディッピングすることにより、多孔性グリーン成形体に焼結助剤含有液を含浸させた。
【0077】
次いで、焼結助剤含有液から多孔性グリーン成形体を引き上げ、多孔性グリーン成形体の表面に付着した余剰な焼結助剤含有液を除去した後、焼結助剤含有液が含浸された多孔性グリーン成形体を、50℃の雰囲気内で1時間乾燥させ、続いて、900℃で1時間、焼成して、多孔質基材を得た。
【0078】
(多孔質膜の作製)
多孔質膜形成用溶液は、以下のように調製した。まず、アルコール系溶媒である、エタノールを主剤とした溶媒AP−7(日本アルコール販売(株))5.9gに、HCl(触媒)(1mol/L)0.2gと、水6.0gとを添加して、触媒含有溶媒を準備し、これに界面活性剤として"Pluronic"(登録商標)P105を1.0g溶解させ、これにテトラエトキシシラン(Si(OC25)4)6.9gを添加した。次いで、この界面活性剤およびテトラエトキシシランが添加された触媒含有溶媒を、50℃で2時間攪拌することにより、テトラエトキシシランの部分重合体を含む多孔質膜形成用溶液を得た。
【0079】
次に、多孔質膜形成用溶液を攪拌しながら、多孔質膜形成用溶液中に多孔質基材を5分間浸漬させた。多孔質基材を多孔質膜形成用溶液から引き上げた後、多孔質基材表面の余剰の多孔質膜形成用溶液を除去し、30℃の雰囲気下で24時間乾燥させた後、500℃で2時間焼成することにより、多孔質シリカセラミックスを得た。
【0080】
[評価]
(SEM観察)
得られた多孔質基材と多孔質シリカセラミックスとについて、走査型電子顕微鏡(キーエンス(株)製、型番:VE−7800)を用い、加速電圧:5kV、撮影倍率:2千倍、5千倍にて観察した。VE−7800によるSEM観察の結果から、均一性の高い多孔質膜の形成の可否について評価した。
【0081】
(孔径・比表面積測定)
多孔質基材の最頻孔径Dmと、多孔質基材および多孔質シリカセラミックスの比表面積とは、ガス吸着装置(日本ベル(株)製、BELsorp-mini)を用いて、77Kにて測定した。測定された最頻孔径Dmと比表面積とは、表1と表2に示している。なお、最頻孔径Dmとは、孔径分布グラフの縦軸の値(孔溶液の微分値)が最大となる孔直径のことである。後述する実施例2〜6や、比較例1においても、同様にして、最頻孔径Dmと比表面積とを求めた。
【0082】
また、SEM観察を行ったところ、多孔質基材が有するマクロ孔は、多孔質基材の厚み方向に貫通していた。多孔質膜の一部が多孔質基材のマクロ孔内に入り込んでいた。また、上記のガス吸着測定が可能であることから、多孔質膜単体が有する孔も、多孔質膜単体の厚み方向に貫通していると考えられる。
【0083】
多孔質基材上に形成した多孔質膜とは別に、別途、灰分定量皿上に多孔質膜を形成し、多孔質膜単体を得た。この多孔質膜単体についても、上記記載の方法で、最頻孔径Dm、比表面積を測定した。その結果は表3に示している。
【0084】
(多孔質基材の表面のpH)
多孔質基材(シリカセラミックス)の表面のpHは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.49-2に規定された方法に基づき、以下のように測定した。まず、下記の6種類のpH測定用指示薬溶液を用意した。
・クレゾールレッド(CR) 測定pH範囲:0.0〜2.4、6.8〜9.2,
・チモールブルー(TB) 測定pH範囲:1.0〜3.4、7.6〜10.0,
・ブロモフェノールブルー(BPB) 測定pH範囲:2.2〜4.8,
・ブロモクレゾールグリーン(BCG) 測定pH範囲:3.6〜6.0,
・メチルレッド(MR) 測定pH範囲:5.0〜7.4,
・ブロモチモールブルー(BTB) 測定pH範囲:5.8〜8.2,
【0085】
多孔質基材を粉砕して、5〜10mm程度の大きさの小塊を選別し、これを試験片とした。続いて、上記試験片の表面に、適当なpH測定用指示薬溶液を滴下した。滴下した溶液は、試験片の表面に自然に広がった。滴下後1〜2分放置して、溶液が半乾きの状態になり、色が均一になった時点で、pH標準変色表の色調と比較して、pHの値を小数点以下1位まで読み取った。2枚の試験片について試験を行い、その平均値を表面pHとした。測定結果は、表1に示している。
【0086】
得られた多孔質基材表面のSEM観察写真(撮影倍率:5千倍)を図1に示し、多孔質シリカセラミックス表面のSEM観察写真(撮影倍率:5千倍)を図2に示している。
【0087】
多孔質セラミックスの表面(多孔質膜の表面)は、SEM観察写真から分かるように、その外観について、多孔質基材のそれと大きく変わらない。また、表1および表2から分かるように、比表面積が多孔質基材よりも大きくなっている。これらのことから、多孔質基材上に多孔質膜が偏ることなく、すなわち、均一性よく形成されていることが確認できた。
【0088】
[実施例2〜4]
実施例2〜4でも、実施例1で用いた多孔質基材と同じものを用いた。実施例2では、多孔質膜形成用溶液を構成する溶媒として、エチレングコールモノエチルエーテル(“エチルセロソルブ”、表4中ではECと略記する)を用い、多孔質膜形成用溶液中の各成分の質量部は表4に示したとおりとした。
【0089】
実施例3で用いた多孔質膜形成用溶液は、各成分の質量部を表4に記載のとおりとしたこと以外は、実施例2で用いた多孔質膜形成用溶液と同じである。
【0090】
実施例4で用いた多孔質膜形成用溶液は、各成分の質量部を表4に記載のとおりとしたこと以外は、実施例2で用いた多孔質膜形成用溶液と同じである。
【0091】
[実施例5]
実施例5は、多孔質基材の作製に用いる焼結助剤含有液として、水酸化カルシウム0.25mol/L(0.5N)溶液に、アセチレングリコールを1質量%添加したもの(表1中では、Ca(OH)2(0.5N)と略記する)を用いた。多孔質膜形成用溶液は実施例4で用いた多孔質膜形成用溶液と同じものを用いた。
【0092】
[実施例6]
実施例6は、多孔質基材の作製に用いる焼結助剤含有液として、リン酸0.33mol/L(1N)溶液に、アセチレングリコールを1質量%添加したもの(表1中では、H3PO4(1N)と略記する)を用いた。多孔質膜形成用溶液は、実施例4で用いた多孔質膜形成用溶液と同じものを用いたと同様である。
【0093】
[比較例1]
比較例1では、実施例1における焼結助剤含有液を、水ガラス3号を水で10倍に希釈した溶液に、アセチレングリコールを各々1質量%添加して得た溶液(表1中では、WG×10と略記する)に変更した。以上のこと以外は実施例1の場合と同様にして、多孔質基材および多孔質シリカセラミックスを得た。
【0094】
比較例1にて得られた多孔質基材の表面のSEM観察写真(撮影倍率:5千倍)を図3に示した。多孔質基材の表面pHは9であり、比表面積は1m2/gよりも小さかった。
【0095】
比較例1にて得られた多孔質シリカセラミックスの表面のSEM観察写真(撮影倍率:2千倍)を図4に示した。多孔質シリカセラミックスの比表面積は1m2/gよりも小さかった。
【0096】
比較例1にて得られた多孔質セラミックスでは、SEM観察写真から分かるように、多孔質基材の表面は部分的に多孔質膜によって被覆されておらず、多孔質基材上に多孔質膜が偏析した様子が確認された。これは、多孔質膜形成用溶液が、多孔質基材上に均一に塗布される前に固化してしまったためであると考えられる。
【0097】
以上のとおり、比較例1では、メソ孔を有する多孔質膜を多孔質基材上に均一性よく形成でなかった。これに対して、実施例1〜6では、メソ孔を有する多孔質膜を多孔質基材上に均一性よく形成できた。これらの結果より、本発明では、孔径の異なる2種類の孔群を有する多孔質体を容易に製造できることが確認できた。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1にて得られた多孔質基材のSEMによる表面観察写真
【図2】実施例1にて得られた多孔質セラミックスのSEMによる表面観察写真
【図3】比較例1にて得られた多孔質基材のSEMによる表面観察写真
【図4】比較例1にて得られた多孔質セラミックスのSEMによる表面観察写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリカを含んでなる粒子と、可燃性の樹脂と、可塑剤とを混合することにより得られた混合物を所定の形状に成型した後、前記混合物から前記可塑剤を抽出して、多孔性グリーン成形体を得、次いで、前記多孔性グリーン成形体に焼結助剤を含む焼結助剤含有液を含浸させ、前記焼結助剤含有液が含浸された多孔性グリーン成形体を焼成することにより、前記樹脂を焼失させて、多孔質基材を得る多孔質基材形成工程と、
金属アルコキシドと触媒と界面活性剤と水とを含む多孔質膜形成用溶液を、前記多孔質基材に含浸させて、前記多孔質基材上にその一部が多孔質基材の孔内に入り込んだ塗膜を形成した後、前記塗膜を焼成することにより多孔質膜を形成する、多孔質膜形成工程とを含む、
多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記粒子がシリカ粒子である、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記金属アルコキシドがシリコンアルコキシドである、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記焼結助剤含有液が、アルカリ金属含有化合物,アルカリ土類金属含有化合物,ホウ素含有化合物およびリン含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の前記焼結助剤を含む、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属含有化合物および/または前記アルカリ土類金属含有化合物が、塩化物,水酸化物,炭酸塩,酢酸塩,硫酸塩または硝酸塩のいずれかである、請求項4に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記ホウ素含有化合物がホウ酸および/またはホウ砂である、請求項4に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記リン含有化合物が、オルトリン酸,ホスホン酸,ホスフィン酸およびペルオキソリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記多孔質膜形成用溶液が含浸される前の前記多孔質基材の表面のpHが、8以下である、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記焼結助剤含有液が含浸された前記多孔性グリーン成形体の焼結温度が、1000℃以下である、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記多孔質膜形成用溶液中の固形分の含有量が、3〜30質量%である、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項11】
前記多孔質膜形成用溶液中の前記界面活性剤の含有量は、前記金属アルコキシド由来の無機成分100質量部に対して、30〜300質量部である請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項12】
前記多孔質膜形成工程において、前記多孔質基材を、前記多孔質膜形成用溶液中に浸漬した後、前記多孔質膜形成用溶液から引き上げることにより、前記塗膜を形成する、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項13】
前記塗膜を乾燥させてから焼成する、請求項12に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項14】
前記多孔性基材が有する孔がマクロ孔である、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項15】
前記多孔質膜が有する孔がメソ孔である、請求項1に記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項16】
少なくともシリカを含んでなり、孔を有する多孔質基材と、
無機酸化物を含んでなり、前記多孔質基材上に形成され、その一部が前記多孔質基材の孔内に入り込んでおり、前記多孔質基材の前記孔よりも径が小さい孔を有する多孔質膜と、を含む多孔質セラミックス。
【請求項17】
前記多孔質基材が有する孔がマクロ孔である、請求項16に記載の多孔質セラミックス。
【請求項18】
前記多孔質膜が有する孔がメソ孔である、請求項16に記載の多孔質セラミックス。
【請求項19】
前記多孔質膜に含まれる無機酸化物がシリカである、請求項16に記載の、多孔質セラミックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−137790(P2009−137790A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314909(P2007−314909)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】