説明

多孔質印材及び多孔質印字体の製造方法

【課題】 本発明の目的は、熱可塑性多孔質印材を加工した多孔質印字体において、凹状非多孔質部の隠蔽性を向上させ、インキ含浸時における多孔質印字体の凸状となっている文字部分とのコントラストを鮮明化し、多孔質印字体の文字視認性を高める技術を提供することである。
【解決手段】 少なくとも主原料である熱可塑性樹脂と、赤外線吸収発熱材と、隠蔽性白色無機顔料を含有してなる連続気泡を有する多孔質印材。前記赤外線吸収発熱材がカーボンブラックであり、前記隠蔽性白色無機顔料が酸化チタンである多孔質印材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインキ内臓タイプの浸透印に使用される連続気泡を有する多孔質印材及びその多孔質印材を用いて製造される多孔質印字体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スタンプ台を使わなくとも連続的に押印使用の可能な熱可塑性樹脂製浸透印は、特公昭47−1173号、特公昭47―39212号、特開昭51―74057号などに開示されており、連続気泡を有する多孔質印材に印面を形成して多孔質印字体を製造し、さらにインキを含浸させて目的の浸透印を得ている。
印面を形成する一例として、赤外線等の熱線を利用して多孔質印材の表面の一部を溶融加熱処理して凹状非多孔質部を施し、残部を多孔質のインキ滲み出し部とした印面を形成した浸透印として特開平9−263030号や特開平10−211756号などが公知となっている。
【0003】
特開平9−263030号多孔質印字体の文字部分は連続気泡が塞がれていないため、インキを含浸させると、その含浸させたインキが文字部分から滲み出して押印可能となるが、この文字部分は赤や青などインキの色彩に拘わらず、黒っぽくみえるものであった。
一方、当該多孔質印字体の凹状非多孔質部は連続気泡が閉塞されているため、含浸させたインキはこの凹状非多孔質部には浸出しない。しかし、多孔質印材内部に含浸させたインキが凹状非多孔質部からそのインキ色が黒っぽく透けて見えるものであったため、印面全体が黒っぽくなってしまい、文字等印面の視認性に欠けるという問題があった。
【0004】
また、カーボンブラックを含有している特開平10−211756号多孔質印字体は、インキ未含浸の状態では文字部分は灰色で凹状非多孔質部は黒色なので視認できるが、インキを含浸すると前述通りインキの色彩にかかわらず黒っぽくなるため、結局印面全体が黒っぽくなってしまい、文字等印面の視認性に欠けるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特公昭47−1173号公報
【特許文献2】特公昭47―39212号公報
【特許文献3】特開昭51―74057号公報
【特許文献4】特開平9−263030号公報
【特許文献5】特開平10−211756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱可塑性多孔質印材を加工した多孔質印字体において、凹状非多孔質部の隠蔽性を向上させ、インキ含浸時における多孔質印字体の凸状となっている文字部分とのコントラストを鮮明化し、多孔質印字体の文字視認性を高める技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
少なくとも主原料である熱可塑性樹脂と、赤外線吸収発熱材と、隠蔽性白色無機顔料を含有してなる連続気泡を有する多孔質印材。
前記赤外線吸収発熱材がカーボンブラックであり、前記隠蔽性白色無機顔料が酸化チタンである多孔質印材。
前記赤外線吸収発熱材が前記熱可塑性樹脂に対して0.1〜3phrの含有率であり、前記隠蔽性白色無機顔料が前記熱可塑性樹脂に対して2〜5phrの含有率である多孔質印材。
少なくとも主原料である熱可塑性樹脂と、赤外線吸収発熱材と、隠蔽性白色無機顔料を含有してなる連続気泡を有する多孔質印材を用い、前記多孔質印材の表面の一部を溶融加熱処理して凹状非多孔質部を施し、残部をインキ滲み出し可能な多孔質部とした印面を形成する多孔質印字体の製造方法。
前記溶融加熱処理の方法が、赤外線照射、YAGレーザ光線照射、YVOレーザ光線照射から選択される方法である多孔質印字体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる多孔質印材及び多孔質印字体は、熱可塑性樹脂中に赤外線発熱材と白色無機顔料を含有させたうえで、多孔質印材の表面に、溶融加熱処理による印面加工を施して、表面に灰色皮膜層と内部に多孔質樹脂層の二層構造を形成したものである。
本発明の効果は上記手段によって、多孔質印字体の灰色皮膜層の隠蔽性を向上させ、インキが浸透するインキ滲み出し可能な多孔質部とのコントラストを鮮明化し、文字視認性を向上させると同時にインキ色の現出も阻害しないものである。上記の効果は長期使用によっても失われないため、本発明はインキの補充によって継続的に繰り返し使用されるインキ内臓タイプの浸透印の利便性向上に資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の多孔質印材について説明する。
本発明の主原料である熱可塑性樹脂としては、エチレンーαオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ−1,2−ブタジエン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリ乳酸、ポリエチレン系熱可塑性エストラマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エストラマー、ポリスチレン系熱可塑性エストラマー、ポリジエン系熱可塑性エストラマー、ポリ塩化物系熱可塑性エストラマーなどを用いることができる。
前記熱可塑性樹脂の中でも、耐侯性、耐薬品性、成形性等物理的側面からエチレンーαオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマーであって、融点が40℃〜150℃のものが好ましく用いられる。
【0010】
赤外線吸収発熱材としては、カーボンブラックが用いられる。前記熱可塑性樹脂に対する含有率は50phr以下で用いることができるが、0.1〜3phrとなるようにすることが好ましい。0.1phrより少ない範囲では赤外線を十分に吸収することが困難で不完全な溶融加工となることがあり、3phrより多い範囲では多孔質印材が黒くなりすぎて本発明の目的であるコントラストに影響を及ぼすことがある。
ここで、phrとはParts per Hundred parts of Resinの略であって、熱可塑性樹脂の重さを100としたときの各成分の重さを表わす単位である。
【0011】
白色無機顔料としては、例えば酸化チタン、亜鉛華(ZnO)、マイカに酸化チタンを被覆したパール顔料を用いることができる。
熱可塑性樹脂に対する含有率は50phr以下で用いることができるが、2〜5phrとなるようにすることが好ましい。2phrより少ない範囲では十分な隠蔽力が得られず、5phrより多い範囲では柔軟性が損なわれ、印字体用の多孔質体としての効果が抑制されるためである。
白色無機顔料の中でも、酸化チタンは他の白色無機顔料に比べて隠蔽力が高く、また、多孔質印材へのインキ浸透性を早くする効果が得られるので、最も好ましく用いられる。また、酸化チタンにはアナターゼ型とルチル型が存在するが、通常ゴム業界で一般に使用されるアナターゼ型が使用される。ただし、ルチル型でも同様の効果が得られるものと考えられる。
【0012】
次に、本発明の多孔質印材の製造方法について説明する。
本発明の多孔質印材は、約1〜500μmの気泡が連通して連続気泡を形成している印材であって、前記熱可塑性樹脂を主原料とする。
本発明にかかる多孔質印材は、熱可塑性樹脂、赤外線吸収発熱材、隠蔽性白色無機顔料に、気泡形成剤および溶出助剤を混錬してシート体とした後、シート体から気泡形成剤および溶出助剤を溶出除去し、内部に連続気泡を形成して得られる。
本発明多孔質印字体の製造方法は後述するが、本発明の多孔質印材は、印面作成のための赤外線吸収力、及び、凹状非多孔質部の隠蔽力と多孔質残部とのコントラスト等を勘案し、前記赤外線吸収発熱材が前記熱可塑性樹脂に対して0.1〜3phrの含有率であり、前記隠蔽性白色無機顔料が前記熱可塑性樹脂に対して2〜5phrの含有率であることが好ましい。この含有率で作成された多孔質印材は、薄い灰色である。
【0013】
本発明に使用することができる気泡形成剤としては、水で溶出可能な水溶性気泡形成剤や、酸やアルカリで溶出可能な難水溶性気泡形成剤をあげることができる。
水溶性気泡形成剤としては、塩や糖などの微粉末をあげることができる。塩は、微粉末化し易く、熱可塑性樹脂の加工温度(40℃〜180℃)において分解せず、かつ、加熱後は水によって容易に除去できる無機化合物が好まれ、具体的には塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなどの金属塩が好ましく用いられる。直径は、通常1〜500μmのものを使用する。糖は、ペントースやヘキトースなどの単糖類、サッカロースやマルトースなどの二糖類、デンプンやグリコーゲンなどの多糖類、ペンタエリスリトールのいずれも使用でき、更に、これらを併用して使用することもできる。粒径は、通常1〜500μmのものを使用する。
難水溶性気泡形成剤としては、金属塩をあげることができる。具体的には炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸バリウムなどの金属塩が好ましく用いられる。直径は、通常1〜500μmのものを使用する。
気泡形成剤の使用比率は、熱可塑性樹脂に対し、約50〜1000phrであり、好ましくは100〜800phrである。
【0014】
本発明に使用することができる溶出助剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン、パラフィン、ワックス、高級脂肪酸などを用いることができる。
この中でも融点が40℃以上であって、前記熱可塑性樹脂の融点において分解せず、かつ、分子量700〜30000程度のポリエチレングリコールが印字体を作成する上で最も好ましく用いられる。当該ポリエチレングリコールは、融点が40℃以上なので常温では固体で存在することができ、後述するシート体を作成する際に固結化した硬質シート体とすることができる。また、当該ポリエチレングリコールは水溶性なので、後述するシート体を洗浄する際に除去される。
溶出助剤の使用比率は、熱可塑性樹脂に対し、約10〜500phr程度である。
【0015】
次に、本発明の多孔質印字体の製造方法について説明する。
本発明の多孔質印字体は、前記多孔質印材の表面の一部を溶融加熱処理して凹状非多孔質部を施し、凸状となった残部を多孔質のインキ滲み出し部として、印面を形成して得られる。
前記溶融加熱処理手段は、文字部分をマスキングしてキセノンランプやフラッシュランプから赤外線を照射する方法、コンピュータ制御されたサーマルヘッドやレーザ光線で直接加熱などの手段が用いられる。
しかしながら、本発明における溶融加熱処理手段は、赤外線照射、YAGレーザ光線照射、YVOレーザ光線照射において、最も顕著な効果が得られる。赤外線吸収発熱材を配合しない多孔質印材では、赤外線照射、YAGレーザ光線照射、YVOレーザ光線照射の各手段を使用できないからである。これらの手段を使用する場合は、赤外線吸収発熱材を配合した多孔質印材を用いることが必須である。
この溶融加熱処理工程では加熱した部分の熱可塑性樹脂が0.01〜5mm程度溶融して多孔質が閉塞し、凹状の非多孔質部が形成される。相対的に加熱しなかった部分が凸状の多孔質部となって残り、非多孔質部と多孔質部とからなる印面が形成される。凹状非多孔質部は多孔質印材が溶融凝縮されることとなるので、しっかりした灰色皮膜層が形成される。したがって、この溶融加熱処理により形成される凹面部は、灰色皮膜層と多孔質樹脂層の二層構造となる。
【0016】
上記の製法によって得られた多孔質印字体は、灰色非多孔質部と薄灰色多孔質部とからなる印面を有する。
実際に、赤・青・黒などのインキを含浸させてみると、灰色非多孔質部は隠蔽性白色無機顔料の隠蔽力が発揮されて灰色のままである。一方、薄灰色多孔質部はインキが浸透して含浸したインキ色とほぼ同色に染まる。よって、両者の色対比が鮮明化し、高い文字視認性が実現される。同時に、含浸したインキ色が明確に判るので、所要の浸透印を容易に選択可能で、誤って他色の浸透印と押し間違えたりする誤操作を未然に防止できる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
気泡形成剤として、5〜60μmの塩化ナトリウム微粒子600重量部をニーダーに投入し90℃に加熱しながら攪拌する。次に、0.01〜1μmのカーボンブラック3重量部、0.5〜2.5μmのアナターゼ型酸化チタン5重量部をニーダーに投入し更に攪拌する。次に、溶出助剤として、ポリエチレングリコール70重量部を少量ずつ加え混合する。更に、エチレンーαオレフィン共重合体100重量部を加え、熱を90℃に保ちながら更に混合する。そうすると、均一な混合物が得られる。(エチレンーαオレフィン共重合体100重量部に対してカーボンブラック3重量部なのでカーボンブラックは3phrとなり、エチレンーαオレフィン共重合体100重量部に対して酸化チタン5重量部なので酸化チタンは5phrとなる。)
次にこの混合物をロールにてシート体に成形して空冷する。このシート体を所要のサイズに切断して、流水で洗い流して塩化ナトリウム及びポリエチレングリコールを完全に除去し、乾燥機で乾燥させると、内部に連続気泡を有した、赤外線吸収発熱材と隠蔽性白色無機系顔料を含有した薄灰色多孔質印材を得ることができる。
このようにして得た多孔質印材に、透明シートにコピートナーで文字等を作図した原稿を圧力を加えつつ密着するよう重ねてマスキングし、キセノンランプやフラッシュランプから赤外線の照射を施す。そうすると、マスキングしなかった部分は赤外線が透過して多孔質印材に直接到達し、その部分の熱可塑性多孔質樹脂を溶融する。溶融した部分は、多孔質が閉塞し、凹状の灰色非多孔質部となる。一方、マスキングした部分は、赤外線が反射又は吸収されて多孔質印材に到達せず熱可塑性多孔質樹脂の状態が保たれ、薄灰色多孔質部となる。こうして非多孔質部と多孔質部とからなる印面を有する多孔質印字体が得られる。
この多孔質印字体に黒色インキを含浸させたところ、文字等の凸状多孔質部は黒くなった。一方、非多孔質部は黒色インキが透けて見えることはなく、灰色のままで黒くならず、鮮明なコントラストが得られた。
【0018】
ここで、実施例1からカーボンブラックを除外した多孔質印字体を比較例1として作成し、実施例1から酸化チタンを除外した多孔質印字体を比較例2として作成した。また、実施例1のカーボンブラックを10phrとし、実施例1の酸化チタンを10phrとした多孔質印字体を比較例3とした。
これらの多孔質印字体に黒色インキを含浸浸透させて、隠蔽力の強さとコントラストと印面加工性について観察して比較評価した結果を以下の表に示す。
【0019】

【0020】
上記評価において、インキはシヤチハタ株式会社製Xスタンパー用顔料黒インキを使用した。
隠蔽力の強さは、多孔質印字体の凸面部の染色度合を観察して、染色が全く認められない場合を◎、完全に染色されている場合を×、ほぼ染色されている場合を△として評価した。
コントラストは、文字認識性やインキ色視認性を判定するものであって、多孔質印字体の凹凸両面の色対比を観察して、鮮明な色対比が認められた場合を◎、色対比が全く認められない場合を×、不鮮明な色対比が認められた場合を△として評価した。
印面加工性は、赤外線照射による溶融加熱処理の方法によって、完全に加工できる場合を◎、全く加工できない場合を×、不完全な加工となる場合を△として評価した。
柔軟性は、多孔質印字体としての捺印感が良好な場合を◎、硬くてスプリング性を喪失している場合を×、適正な硬度ではなく使用感が不良な場合を△として評価した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる熱可塑性多孔質印字体の断面図
【符号の説明】
【0022】
1 多孔質印字体
2 灰色皮膜層
3 凹状非多孔質部
4 多孔質樹脂層
5 灰色多孔質部
6 連続気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも主原料である熱可塑性樹脂と、赤外線吸収発熱材と、隠蔽性白色無機顔料を含有してなる連続気泡を有する多孔質印材。
【請求項2】
前記赤外線吸収発熱材がカーボンブラックであり、前記隠蔽性白色無機顔料が酸化チタンである請求項1記載の多孔質印材。
【請求項3】
前記赤外線吸収発熱材が前記熱可塑性樹脂に対して0.1〜3phrの含有率であり、前記隠蔽性白色無機顔料が前記熱可塑性樹脂に対して2〜5phrの含有率である請求項1又は請求項2に記載の多孔質印材。
【請求項4】
少なくとも主原料である熱可塑性樹脂と、赤外線吸収発熱材と、隠蔽性白色無機顔料を含有してなる連続気泡を有する多孔質印材を用い、前記多孔質印材の表面の一部を溶融加熱処理して凹状非多孔質部を施し、残部をインキ滲み出し可能な多孔質部とした印面を形成する多孔質印字体の製造方法。
【請求項5】
前記溶融加熱処理の方法が、赤外線照射、YAGレーザ光線照射、YVOレーザ光線照射から選択される方法である請求項4に記載の多孔質印字体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−598(P2010−598A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158599(P2008−158599)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)