説明

多孔質成形品とその半密閉容器、及びその製造方法

【課題】PTFE不織布使用の現行の通気栓に代わる、安価で耐熱性あり環境問題にも対応する通気栓を得ること。
【解決手段】ペンタエリスリトールとPBTと第3成分を溶融混合して押し出し、次いでペレットとし、これを原料に射出成形で通気栓形状物を成形し、水、又は温水に浸漬処理で水溶性成分を抽出して多孔質とする。第3成分を含めた組成で成形品を得たことで、湯抽出後の空気透過速度は現行使用品並みにすることが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機械、電子機器、家電機器、照明機器に用いられる内圧保証と水浸入防止用の多孔質成形品、多孔質成形品を備えた半密閉容器、及び多孔質成形品の製造方法に関する。更に詳しくは、発光体、電子回路、リレー回路、モーター、その他駆動部品等は、塵や水の浸入から防ぐべく多孔質成形品で密閉されることが多いが、完全密閉したときには内部は温度変化による空気圧変化が生じ好ましくないので、この密閉容器内の内圧変動をなくすべく空気や水蒸気には通過性を有し、液体の水に対しては封止性を持つ通気栓を配置するもの、即ち半密閉容器が一般的である。本発明は、通気栓等に使用される多孔質成形品、多孔質成形品を備えた半密閉容器、及び多孔質成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前述したような通気栓は、人目にはつかないが人が日常的に接触する多くの部品に使用されている。例えば、自動車のヘッドランプは大きな透明性樹脂成形品で出来ており、その中に電球がはめ込まれている。発光時は100℃近くの高温になるのに対し、非点灯時で冬の北海道や山岳地帯ではかなりの氷点下となる。このヘッドランプ内を密閉すると、内部に水が溜まったことによる電気回路上のトラブルはないが、点灯時は昇圧し冬季は減圧となって樹脂構造に対し繰り返す熱応力を与え続けることになり、結局は熱疲労により破壊することにもなる。これを防ぐのが通気栓である。
【0003】
このように目立たぬ部品だが通気栓の役割は大きい。現在、このような通気栓には、ポリ4弗化エチレン樹脂(以下、「PTFE」という。)製の不織布が通気部として使用されている。通気栓の構造部には、ABS樹脂(以下、「ABS」という。)、ポリカーボネート樹脂(以下、「PC」という。)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT」という。)製等の射出成形品が用いられている。この射出成形品に内外を貫通する孔が明けられており、ここにPTFE製の不織布が孔を塞ぐ形で接着されている。この不織布は、空気や水蒸気は通すが水滴は通さないのは、PTFEの持つ撥水性を利用しているからである。現行のPTFE製の不織布で作られた通気栓は性能上の問題はないが、敢えて言えば、製造時に不織布を栓本体に接着剤で貼り付けるときに接着不良等が生じることである。
【0004】
一般にPTFEは接着が困難な樹脂であり、接着剤は改良されてはいるが接着工程の信頼性は低く全数検査が必須とされている。他の問題点は自動車等の廃棄時のことである。PTFEは熱可塑性樹脂ではないので、ヘッドランプから電球等を外した後に、この不織布を外すことなく溶融した場合にPTFEは不溶分となる。この溶融樹脂を再生利用するための押し出し機には網でろ過分離する部品の設置とその定期的に分解して取り出して清掃作業を行う必要がある。また、正確には不明であるが、この不織布が分解して生じる弗化水素が、押し出し機を構成する金属の磨耗を早めないかという問題もある。燃料としてPTFEを含んだ樹脂混合物を、処理することなく燃焼させた場合は弗化水素が生じ、炉を傷め予期せぬ事故に至る可能性があるということである。
【0005】
更に、ダイオキシンを生じる塩素や臭素と同じ種類のハロゲンであることが未解明だが不安を与える。極めて小さい部品であり、仮に前述した懸念が生じていたとしても環境に対する負荷という意味では許容値内と考えられるので、環境問題として捉えるべき事柄ではないとも判断される。しかしながら、自動車産業界等から懸念する指摘もあり、懸念を解消するに越したことはない。本発明者等は現在使用されている前述した通気栓に代替し得ると思われる通気構造を極めて単純な手段で得られないか鋭意研究開発した。
【0006】
本発明は、機能的には現行品と同等であり、その一方で全体が熱可塑性樹脂であって接着等の信頼性を損なう工程がなく、環境問題はクリアでき、且つ低コストにできる可能性が高いものを目標にした。本発明者等は、ペンタエリスリトールとポリプロピレン樹脂(以下、「PP」という。)のコンパウンドを製作し、このコンパウンドを原料として射出成形し、成形品を温水に浸漬して、成型品中の水溶性成分を溶出させて乾燥することでガス透過性に優れた多孔質成形品を製作することに成功した。
【0007】
しかしながら、多孔質品の強度が十分でなく現行の通気栓の代替品として使うには不十分との判断をした。それ故、より強度の強いこと、耐熱性のあること、が期待できるPBT系の多孔質成形品に期待した。本発明者等は、既に開発されているペンタエリスリトール(Pentaerythritol、分子式:C12)を利用した多孔体の製造方法に着目した。即ち特許文献1には、ペンタエリスリトールと熱可塑性樹脂を、ペンタエリスリトールの融点以上で溶融し、これを原料として射出成形し、成形品を何らかのアルコール可溶性の溶剤に浸漬してペンタエリスリトールを抽出し、これを多孔質の成形品とする方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−2825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、PBTは、熱変形温度が高く、高剛性、電気特性、機械的特性等に優れているという特徴を活かし、ランプソケット、ヒューズケース、ハーネスコネクタ等の自動車用電装品に採用されている。他にはシートベルト構成部品、ギア等の機構部品にも使用されている。そこで、本発明者等は良く使用されているこのPBTを用いて、PBT構造のガス透過性ある多孔質品を作ろうと考えた。これによって、懸念されている前述した環境への負荷のないものが実現でき、かつその再生処理も解決することになる。前述した特許文献1には、ペンタエリスリトールとPBTから多孔質の成形品を得たという記載はないので、まず具体的作成方法について考察してみると、ペンタエリスリトールとPBTの組み合わせは困難さを予想させる事項が多い。
【0010】
この予想についての説明をする前にペンタエリスリトールの化学的性質について述べておく。市販ペンタエリスリトールは10%前後の二量体を含んでいるのが通常である。これは常温で固体であるペンタエリスリトールを昇温した場合、よほどの高速で昇温し、且つ急冷しないかぎり融点に達する前に脱水二量化反応が起こることから来ている。量産する限り製造工程内の高温工程によって二量体が含まれた製品になる。要するに、市販ペンタエリスリトールには10%程度の二量体が含まれ、その融点は190℃前後だがこの二量体比率は190℃での平衡値でもある。
【0011】
なお、化学便覧等によると純度100%のペンタエリスリトールの融点は約250℃とされているが、前述した理由により100%純度のペンタエリスリトールは市場から得られない。又、この市販品を原料にして100%品に精製することは多くの化学者にとって不可能ではないが本発明に於いては意味がない。何故なら、二量体も水溶性であり成形品にこれらが含まれていても、ペンタエリスリトールを溶解する溶剤(例えば、水、湯、エタノールである。)で同様に抽出されるからである。
【0012】
それ故、本発明で言うペンタエリスリトールは、むしろ市販ペンタエリスリトールを原料として用い、これを対象とした。よって、実質的な融点は190℃付近であり、そして重要なことは190℃以上に加熱すると平衡での二量体比が10%を超すようになり新たな脱水二量化が始まることである。本発明者等が市販ペンタエリスリトールをオートクレーブに装填して、2℃/分程度の速度で昇温した処、190℃を過ぎたあたりで溶融が認められ、225〜240℃では内圧が急上昇し、水蒸気の急発生が起こっていることが判明した。従って、ペンタエリスリトールを原料にして、押し出し機や熱ロール等を用いてコンパウンドを作る場合、約230℃以上で作業を行うと水蒸気が大量に発生し危険なことが明らかである。
【0013】
結局、ペンタエリスリトールに熱可塑性樹脂を混ぜ込んで溶融してコンパウンド化するのに使える温度域は、190〜230℃の範囲内であり、且つその扱いも円滑に行うべきことが分かる。その上で熱可塑性樹脂として、PBTを採用した場合に予測される問題点について述べる。一つはPBTの融点が225℃付近と高いことである。この温度域は前記市販ペンタエリスリトールの新たな脱水2量化が始まる温度でもある。脱水二量化がコンパウンド作成に支障せぬようにするには230℃以下、即ちPBTの融点以下の温度で液化する以外にない。これが第1難関と考えられた。
【0014】
第1難関を脱することが出来る場合を想定すれば、それはPBTが溶融ペンタエリスリトールに溶解することしかない。可能性を化学的に考察すると、PBT、即ちエステルは元々親アルコール性であることから十分あり得ると考えた。もしこの予想のように溶融ペンタエリスリトールにPBTが溶解するとした場合、逆に新たな難関が2つ予想された。1つは200℃以上の高温でエステルを大量のアルコール液内に共存させるとエステル分解反応が起こり、特にポリエステルでは分子結合が切れて低分子化反応が生じることである。
【0015】
この低分子化反応は高強度の多孔質体を作ろうとした目的にとって不都合となり、もう1つの難関となり得る。即ち、その溶融液は微視構造から見て海島構造にならず均一になる可能性が高いことである。溶けて均一溶融液となったものを急冷固化させたとき、微視構造が殆ど均一に近いまま固化する可能性が高い。均一物の湯抽出は抽出速度が遅いと想像される上、抽出後に出来た多孔質体のガス透過性は劣ったものになると想像された。何故なら、本発明者等の経験で、湯抽出後にガス透過性の高い多孔質体を与える成形品に於いては、成形品の微視構造が、基本的にペンタエリスリトールが海で樹脂が島となった海島構造だったからである。要するに上手くコンパウンドでき成形できたとしても湯抽出して得る多孔質体はガス透過速度の劣った物になると見込まれた。
【0016】
以上のような背景で本発明は開発したものであり、次の目的を達成するものである。
本発明の目的は、使用後の廃棄処理等の環境負荷が少なくて、通気栓等に使用できる多孔質成形品、多孔質成形品を備えた半密閉容器、及び多孔質成形品の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の他の目的は、生産性の高い射出成形により成形できて通気栓等に使用できる多孔質成形品とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明1の多孔質成形品は、ペンタエリスリトール60〜85重量部、ポリブチレンテレフタレート樹脂15〜40重量部、並びに常温で液体の多官能アルコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールから選択される1種以上の0.25〜3重量部からなる成形品を作り、この成形品を水に浸漬させることにより前記成形品中の水溶性成分を前記水に溶解させて抜くことにより、前記成形品にガス透過性を有する多孔質が形成されたものである。
【0019】
本発明2の多孔質成形品は、本発明1の多孔質成形品において、耐水度を向上させるために前記水に浸漬後の前記成型品を4弗化エチレン重合体の水性エマルジョン液に浸漬した後、前記成型品を乾燥することで前記多孔質体の表面、及び前記多孔質体内部の孔内部表面に4弗化エチレン重合体を付着させたものであることを特徴とする。
【0020】
本発明3の多孔質成形品の製造方法は、ペンタエリスリトール、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及び第三成分を含む混合物を200〜235℃にて溶融混合して押し出しペレット化するペレット化工程と、射出成形法で成型品を射出成形により成形する射出成形工程と、前記成形品を水又は湯に浸漬して水溶性成分を抽出する抽出工程とからなる。
【0021】
本発明4の多孔質成形品の製造方法は、本発明3の多孔質成形品の製造方法において、前記抽出工程後に4弗化エチレン重合体の水性エマルジョン液に浸漬し乾燥する浸漬工程とからなることを特徴とする。
【0022】
本発明5の半密閉容器は、本発明1又は2に記載の多孔質成形品を通気栓として用いた半密閉容器であって、前記多孔質成形品を前記容器の壁面に貫通する貫通孔を塞ぐように配置するために前記多孔質成形品を前記壁面に固定するための固定手段を有する。
【0023】
本発明6の半密閉容器は、本発明5半密閉容器において、前記固定手段は、前記貫通孔の内周面に形成した内ネジと、この内ネジにねじ込まれた固定ネジであることを特徴とする。
【0024】
以下、詳細に説明する。ペンタエリスリトールを使用してのガス透過速度の高い多孔質PBT成形品を得る上での困難さは、前記した様に本発明者らが予測した通りであった。即ち、PBTは200℃以上で液体のペンタエリスリトールに溶解し、且つ相溶物をこの温度に長く置くとPBTは加アルコール分解して分子量が急減した。PBTをペンタエリスリトールに溶解してから急冷するまでの時間を短くすることでPBTの低分子量化は抑えられたが、ガス透過速度は前述した予想の通り低いものであった。本発明者らは試行錯誤し、これを打開するのに特定の第3成分の添加が有効なことを発見した。以下、材料調整や各工程について具体的に説明する。
【0025】
[ペンタエリスリトール]
市販品には100%純度品はなく10%前後の二量体を含んでいるが、そのまま本発明では使用でき、10%前後の二量体を含んだ物自体を以下の説明文中ではペンタエリスリトールと称する。このペンタエリスリトールは、融点が約190℃である。これら市販品は一般に粉体であり、平均粒径を示した分級品等もあるが、本発明で使用するペンタエリスリトールは粒径に効果が関与しないので如何なる物でも使用できる。
【0026】
[PBT]
本発明で使用するPBTは、PBTのみでこれ以外を含まないものも使用できるが、PBT以外にガラス繊維や無機フィラーを含んだ市販のPBTも使用できる。原料として使用するPBTの形状は、ペレット又は粉末でも使用できるが、実際にコンパウンドを作成するときは、その形態によって扱い方はやや異なったものとなる。
【0027】
[混合物の作製]
ペンタエリスリトール粉末、PBTペレット又は粉末、及び第3成分はタンブラー、ヘンシェルミキサー等の混合攪拌機でかき混ぜる。得られる疎混合物が押し出し機への供給原料となる。この混合比は、ペンタエリスリトール60〜85重量部、PBT15〜40重量部、並びに液体の多官能アルコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロプレングリコールから選択される1種以上を0.25〜3重量部とする。
【0028】
PBTを基準として考えた場合、ペンタエリスリトールが上記比より大きいと射出成形品が脆くなり射出成形そのものが困難になる。例えば、射出成形工程の離型時に製品が欠けたり割れ易くなることや、射出成形時に於けるランナーの排出が困難になる。又、ペンタエリスリトールが上記比より含有量が小さいと最終品のガス透過性が低いものとなる。
【0029】
液体の多官能アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリン2量体等があげられる。液体の多官能アルコール、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の第3成分が上記比より大きいと最終品での機械的物性が弱くなり、逆に上記比より小さいとガス透過性が著しく低下する。
【0030】
〔ペレットの作成〕
このペレットの作成は、前工程で得た疎混合物を原料として押し出し機にかけ、冷却切断してペレット化する工程である。押し出し機が2軸型の場合、原料PBTはペレットより粉末の方が好ましい。又、押し出し機内の滞在時間は短く且つ練りは少ない方が好ましい。原料にペレットを使用した場合、そのバランスを取るのは不可能ではないがやや大変である。理由は、ペレットPBTを溶解させる間に先に溶解したPBTが低分子化される可能性が増えるからである。ただ、若干の不溶PBTがそのまま押し出し物に残ったとしても実害は少ないのでペレットを原料として使えないわけではなく、実用品の安定生産に支障が出る確率が高いというところである。
【0031】
押し出し機の筒温度は何れのタイプの押し出し機であっても235〜225℃に設定するのが好ましく、理由は前述した通りである。本発明者等が実際に行った多数の実験から言えることは、高温液体のペンタエリスリトールにPBTを溶解させるのは容易であること、同時に起こるPBTの加アルコール分解反応が予想以上に速いこと、の2点であった。従って、押し出し機内の材料通過時間は溶融物がノズルから出せる条件の中で最短であるのが好ましく、練りも少なくてよい、即ち、スクリュー回転速度は一般的に使用されている条件より回転数はより低い方が好ましいとみられる。押し出し機としてもL/Dが小さい機種が向いている。押し出し機ノズルから押し出された溶融物はベルトコンベア上で空冷し、得られるヌードル状物をペレタイザーで切断するのが好ましい。
【0032】
〔射出成形〕
次に、射出成形について述べる。前記工程で得たペレットを原料とし、射出成形する。このときの射出温度は220〜230℃が好ましい。射出成形手段以外の成形方法で成形することは勿論可能であるが、実用品として安価に供給するには射出成形が適している。射出成形法をとる場合、通常の射出成形と変わる点は特にない。金型温度は40〜80℃が好ましい。高分子成分が通常より少ないので成形収縮率が小さく、且つ固化品は脆い。従って金型製作は、成形収縮率等他の樹脂とは異なる特性を考慮した金型設計が必要である。即ち、ランナー、スプルー等では抜き勾配を大きめに取り、かつ成形品の離型を円滑に進めるため、エジェクターピンの先端面積は大きめに取る必要がある。
【0033】
〔湯抽出工程〕
成形品を60〜100℃の温水中に浸漬して、ペンタエリスリトール等の水溶性成分を温水に溶解し、残った成形品を多孔質にする工程である。抽出時間は抽出方法や成形品の厚さによって異なる。本発明者等の実験では、最大厚さが3mm程度であれば向流抽出法では75℃湯で6〜10時間もあれば99%以上抽出できた。80〜90℃とした温風乾燥機内に1時間程度置いて乾燥し最終製品とした。
【0034】
〔多孔質の成形品〕
得られた多孔質体の空気透過速度を測定する。JISのP8117に準拠するガーレー値で空気透過速度を表示するものとする。ガーレー値は、ゲージ圧0.013気圧(定義は43cmに567gの重量がかかる圧力)で、28.6mmφの円面積(6.42cm)当たり100ccの空気が通過するに要する秒数である。主として第3成分の添加量で空気透過速度は変化でき、添加量を増やすと空気透過速度は大きくなり同時に物理的強度が低くなる。添加量を低くするとその逆となる。ガーレー値で言えば、厚さが3mmある場合で、数秒から百数十秒程度でほぼ制御できる。
【0035】
実際に安価な通気栓として使用するには、多孔質ながら構造部にも使用できることを示さねばならない。即ち、図2に一例を示すが、その形状は円形であり周囲が厚くて圧縮に耐える構造とし、その中心部は薄くして空気透過が速い構造が考えられる。穴の開いたネジで本発明成形品の周辺部を締め付けて固定するので周辺部は圧縮で壊れない強度が必要である。PBTはPP等に比較すれば硬いポリマーであり多孔質となってもそれなりの強度があるが、加えて、むやみに空気透過速度を上げることなく、適度な物理強度を持たせた状態で使用するのが好ましい。
【0036】
顕微鏡観察で多孔質体の表面を見ると、0.5〜10μm径の開口部が表面積の5〜30%程度の面積比で観察される。しかも一例として、グリセリン1%程度入れたコンパウンドから作成した多孔質体は、厚さ3mm程度の板状物でガーレー値が5〜10秒で、且つ耐水度が0.005〜0.01MPaであり水も結構通過することが分かった。高速で空気が通過し水も十分通過することから、多くの孔は連続孔となって交差しつつも表から裏に繋がっていることが分かった。開口部の大きさ0.5〜10μm径から孔の最も狭い箇所の径が想像できるわけではないが、ガーレー値や耐水度からみてナノオーダーの微細径でないことは明らかである。
【0037】
それ故にこの多孔質体は濾材に使用できる。生地がポリエステルでしかも加アルコール分解の洗礼を受けているはずだから、ポリエステルポリマーの末端はおそらくペンタエリスリトールとのエステルになっている。従って、多孔質体の表面は、孔の内部表面を含めて全て親水性である。それ故、水性エマルジョンの濾過や分別に使用できる。本発明者らは特に、血液の濾過材、水性細菌培養液の濾過材、その他の生化学関係の機能濾材使用できると考えている。安価に製造できる上に焼却が容易にて厄介な問題がなく安全である。
【0038】
〔撥水性の付与〕
前述した多孔質体に撥水性を持たすことができればガス透過に優れる一方で水や水滴の透過を許さぬようになり、例えば、車載ランプ構造の通気栓の役割等を担うことができるようになる。市中で多くの種類の撥水剤が販売されているが、本発明の多孔質体は外表面も孔の内部表面も親水性故にPTFEの水性エマルジョン材の使用が適していると思われる。
【0039】
これらはやや低分子量のPTFEを、界面活性剤を使ってエマルジョン化したものである。エマルジョン粒子径が大きいと孔に入り難いので、ホモジナイザー(高速回転ミキサー)を使用してエマルジョンを裁断してから浸漬工程に入るのが好ましい。浸漬時間は最終品の耐水度との兼ね合いになるが、概ね数分〜1時間である。エマルジョンから引き上げて常温付近で1日程度乾燥し、次いで温風乾燥機で強制乾燥し最終品とする。
【0040】
[本発明の作用]
一般に、発光体、電子回路、リレー回路、モーター、その他駆動部品を塵や水の浸入から防ぐべく密閉容器や密閉型部材内に使用したとき、温度変化による内圧変化で密閉構造が破壊するおそれがあるが、本発明の多孔質成形品を空気通過性で水に対し封止性をもつ通気栓に使用すると、この恐れがない。また、本発明の多孔質成形品とその製造方法は、PBTの多孔質体によって、機能的にはPTFE不織布による通気栓等に用いられている現行品と機能、性能が変わらず、しかもコストが安価である。
【発明の効果】
【0041】
本発明の多孔質成形品とその製造方法は、安価で耐熱性のある通気栓を提供できる。水溶性で高融点固体であるペンタエリスリトールとPBT樹脂をコンパウンド化し、これを射出成形できたことから本発明の通気栓等に用いる多孔質成形品への道が開けたが、実際にはグリセリン等の第3成分をコンパウンドに含めることが必要であった。第3成分の添加によって実用レベルの空気透過速度が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を次の実施例で説明する。
【実施例】
【0043】
以下、前述した多孔質成形品を製造した実施例を詳記する。
[実施例1]
ペンタエリスリトール(三菱ガス化学社製)7.0Kg、グリセリン(和光純薬社製)0.15Kg、及びPBT「タフペットN1000(三菱レイヨン社製)」をリサイクル用粉砕機で1mm以下に粉砕した粉PBT3Kgをヘンシェルミキサーで撹拌混合し、これを、供給口下は250℃としたが他は225から235℃に制御した32mm2軸押し出し機「BTN−32(株式会社プラスチック工学研究所社製、日本国大阪府)」L/D=30にて300rpmの回転速度で押し出しし、溶融押し出し物をベルトコンベア上に導き霧吹きと冷風で冷却固化しつつその先端をペレタイザーに導き連続切断した。
【0044】
直径46mmで厚さ2mmの円板状成形品1が得られる射出成形金型を製作した。この射出成形金型を50トン型の射出成形機に搭載する。この射出成形金型に、円板状成形品1を成形する区画であるキャビティが配置され、このキャビティの内周面上にゲート2が配置されている。溶融樹脂は、ゲート2経由で、このキャビティーに注入される。図1は、射出成形されたこの円板状成形品1の外観図である。射出成形条件は、射出温度225℃とし金型温度を50℃として射出成形した。得られた50個の円板状成形品1を75℃の湯に浸漬して、4時間毎に湯を清浄なものに代えて10時間漬け続けた。湯から出して80℃にセットした温風乾燥機内に2時間放置して取り出した。
【0045】
この円板状成形品は多孔質体だがこれを折り曲げてみた。90度まで曲げたときに中心から割れたので一定レベルの迅性があると感じとれた。その他の5個の円板状成形品1を1日放置し、空気透過速度を「自動ガーレー透気度計(株式会社マツボー社製、日本国東京都)」で測定した。ガーレー値は平均7秒であった。その後、耐水度を「高水圧型耐水度試験機WP−1000K(大栄科学精器製作所社製、京都府日本国)」で測定した。耐水度は0.008MPaであった。
【0046】
PTFE系エマルジョン型撥水剤「パナキロン木材用・濃縮水溶性タイプ(サワダケミカル社製)」30gに水170gを加え、ホモジナイザー「ヒスコトロンNS−310E(株式会社マイクロテック・ニチオン社製、千葉県日本国)」で30秒処理した。得られた水性エマルジョンを大型デシケータ内に置いたビーカーに移し、前述した円板状多孔質体1をビーカー入れて上から金属網で押さえ蓋のようにして水中に強制して沈め、デシケータの蓋を閉めて減圧した。
【0047】
200mmHg程度まで減圧にしてからゆっくり圧を常圧に戻す行為を5回繰り返し孔の中の空気を抜く操作を行った。常圧に戻してから15分放置しデシケータ蓋を開き、ビーカー内から多孔質体を取り出し垂直壁に斜めに立てかけて1日放置風乾した。次いで温風乾燥機内に段ボール紙を敷いてその上に前記の多孔質体を並べ、90℃で1時間置いて乾燥した。得られた物5個を1日放置し、空気透過速度を「自動ガーレー透気度計(マツボー社製)」で測定した。ガーレー値は平均9秒であった。その後、耐水度を「高水圧型耐水度試験機WP−1000K(大栄科学精器製作所社製)」で測定した。耐水度は0.098MPaと大幅に向上していた。
【0048】
[実施例2]
ペンタエリスリトール(三菱ガス化学社製、東京都日本国)7.0Kg、グリセリン(和光純薬工業株式会社社製、大阪府東京都)0.15Kg、PBT「タフペットN1000(三菱レイヨン社製、東京都日本国)」のペレット3Kgをヘンシェルミキサーで撹拌混合し、これを、供給口下は250℃としたが他は225から235℃に制御した32mm2軸押し出し機「BTN−32」L/D=30にて300rpmの回転速度で押し出しし、溶融押し出し物をベルトコンベア上に導き霧吹きと冷風で冷却固化しつつその先端をペレタイザーに導き連続切断した。
【0049】
実施例1と同様形状、射出成形条件で直径46mmで厚さ2mmの円板状成形品1(図1)が得られる射出成形金型を製作した。得られた成形品10個を75℃の湯に沈めて4時間毎に湯を綺麗なものに代えて10時間漬け続けた。湯から出して80℃にセットした温風乾燥機内に2時間放置して取り出した。この板状品を折り曲げてみたが35度まで曲げて中心から割れ、実施例1で得た物より迅性の劣っていることが分かった。割れ面を拡大鏡でよく見たところ、大粒径の粒状物があり、押し出し時に未溶解のPBT部があったことが想像できた。1日放置し、空気透過速度を「自動ガーレー透気度計(株式会社マツボー社製、日本国東京都)」で測定した。ガーレー値は平均15秒であった。
【0050】
[比較例1]
グリセリンを入れなかった他は実施例1と全く同様にしてコンパウンドペレットを作製し、射出成形し、湯抽出し、得られた物で空気透過速度を測定した。その結果、ガーレー値は10個の平均で900秒であった。グリセリンを入れないだけで空気透過速度は1桁以上遅くなった。
【0051】
[実施例3]
グリセリン0.15Kgに代えてポリプロピレングリコール「PPG900(昭和化学社製)」0.2Kgを使用した他は実施例1と全く同様の成形方法、及び処理方法で最終の多孔質の板状成形品を作成した。この空気透過速度を測定したところ、ガーレー値で平均30秒であった。
【0052】
[実施例4]
グリセリン0.15Kgに代えてポリエチレングリコール「PEG1000(昭和化学工業社製、東京都日本国)」0.2Kgを使用した他は実施例1と全く同様にして最終の多孔質の円板型形状品まで作成した。この空気透過速度を測定したところ、ガーレー値で平均80秒であった。
【0053】
[多孔質成形品の構造例1]
図2は、通気栓に用いた多孔質成形品の外観図である。図3は、図2で示した多孔質部品を組み込んだときの通気栓固定構造の断面図である。図2に示した多孔質成形品3は、円筒状の外観を有し、中心部に円錐状の穴4が形成されている。多孔質成形品3は、通気栓の部品を構成するものであり、全体が多孔質体であり空気を通す通気部品である。この穴4の底部5の肉厚が最も薄いので空気を通す主な通路となる。図3は、この多孔質成形品3を使用した通気栓固定構造の一例を示す断面図である。密閉が必要な容器等の壁部6に貫通した孔7が形成されている。孔7には、同軸に大径孔8が形成されている。この大径孔8の内周面には、内ネジ9が形成されている。
【0054】
大径孔8の底には、多孔質成形品3が挿入されて配置されている。この多孔質成形品3を大径孔7の底に固定するためのものが固定ネジ10である。固定ネジ10の外周には、雄ネジ11が形成されており、この雄ネジ11が内ネジ9にねじ込んで、多孔質成形品3を大径孔8の底に押圧してこれ固定する。多孔質成形品3の外周は、この押圧で圧縮破砕されない程度の強度が要求される。固定ネジ10の中心には、空気を通すためのテーパー孔12が貫通して形成されている。従って、外部の空気は、固定ネジ10のテーパー孔11、多孔質成形品3の穴4、及びその底部5を通り、容器の内外を連通する。
【0055】
この構造において、簡単な加圧テストを次のように行った。多孔質成形品3を大径孔8内に挿入して、固定ネジ10で多孔質成形品3をこの大径孔8内に仮固定した。この固定ネジ10による締め付け仮固定位置は、固定ネジ10が軽くは回らなくなるまで廻した角度位置である。この仮固定位置から、固定ネジ10を更に30度余分に廻して締め付け、固定した。得た部品1300個についてこの締め付け試験をしてから全てを再度分解して顕微観察したが、多孔質成形品3の周辺部に割れ等は発見できなかった。
【0056】
なお、前述した多孔質成形品3の半密閉容器の壁面6への固定構造は、内ネジ9及び固定ネジ10によるものであった。しかしながら、この構造に限定されるわけではない。半密閉容器を成形するとき、多孔質成形品3をインサートして成形時に固定する方法、接着剤による接着、機械的な圧入等他の固定手段であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、ガーレー値測定用の板状成形品の外観図である。
【図2】図2は、通気栓に用いた多孔質成形品の外観図である。
【図3】図3は、図2で示した多孔質部品を組み込んだときの通気栓固定構造の断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…ガーレー測定用成形品
3…多孔質成形品
4…穴
6…壁部
7…貫通孔
9…内ネジ
10…固定ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタエリスリトール60〜85重量部、ポリブチレンテレフタレート樹脂15〜40重量部、並びに常温で液体の多官能アルコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールから選択される1種以上の0.25〜3重量部からなる成形品を作り、
この成形品を水に浸漬させることにより前記成形品中の水溶性成分を前記水に溶解させて抜くことにより、前記成形品にガス透過性を有する多孔質が形成されたものである
多孔質成形品。
【請求項2】
請求項1で示す多孔質成形品において、
耐水度を向上させるために前記水に浸漬後の前記成型品を4弗化エチレン重合体の水性エマルジョン液に浸漬した後、前記成型品を乾燥することで前記多孔質体の表面、及び前記多孔質体内部の孔内部表面に4弗化エチレン重合体を付着させたものである
ことを特徴とする多孔質成形品。
【請求項3】
ペンタエリスリトール、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及び第三成分を含む混合物を200〜235℃にて溶融混合して押し出しペレット化するペレット化工程と、
射出成形法で成型品を射出成形により成形する射出成形工程と、
前記成形品を水又は湯に浸漬して水溶性成分を抽出する抽出工程と
からなる多孔質成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の多孔質成形品の製造方法において、
前記抽出工程後に4弗化エチレン重合体の水性エマルジョン液に浸漬し乾燥する浸漬工程とからなることを特徴とする多孔質成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の多孔質成形品を通気栓として用いた半密閉容器であって、
前記多孔質成形品を前記容器の壁面に貫通する貫通孔を塞ぐように配置するために前記多孔質成形品を前記壁面に固定するための固定手段を有する半密閉容器。
【請求項6】
請求項5に記載の半密閉容器において、
前記固定手段は、前記貫通孔の内周面に形成した内ネジと、この内ネジにねじ込まれた固定ネジである
ことを特徴とする半密閉容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−7534(P2008−7534A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176232(P2006−176232)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【出願人】(506221022)西川化工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】