説明

多孔質材及びその製造方法

【課題】 本発明の目的は、カーボンナノファイバーを効率よく利用できる多孔質材およびその製造方法をを提供することにある。
【解決手段】 本発明にかかる多孔質材の製造方法は、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、炭素系材料の表面に金属または炭素を蒸着させる工程(c)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノファイバーを用いた複合材料が注目されている。このような複合材料は、カーボンナノファイバーを含むことで、機械的強度などの向上が期待されている。
【0003】
また、金属の複合材料の鋳造方法として、酸化物系セラミックスからなる多孔質成形体内にマグネシウム蒸気を浸透、分散させ、同時に窒素ガスを導入することで、多孔質成形体内に金属を浸透させるようにした鋳造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、カーボンナノファイバーは相互に強い凝集性を有するため、複合材料の基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることが非常に困難とされている。そのため、現状では、所望の特性を有するカーボンナノファイバーの複合材料を得ることが難しく、また、高価なカーボンナノファイバーを効率よく利用することができない。
【0005】
従来の酸化物系セラミックスからなる多孔質成形体に金属を浸透させる鋳造方法は、複雑な処理を行うため、工業上の生産は困難である。
【特許文献1】特開平10−183269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノファイバーを効率よく利用できる多孔質材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる多孔質材の製造方法は、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料の表面に金属または炭素を蒸着させる工程(c)と、
を含む。
【0008】
本発明の製造方法の工程(a)によれば、剪断力によって剪断されたエラストマーに形成されたフリーラジカルが、カーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化する。そして、本発明の製造方法の工程(b)によれば、熱処理によってエラストマーが気化することで、表面が活性化された炭素系材料が残る。さらに、この炭素系材料は、その表面が活性化され、他の物質例えば金属との濡れ性が向上しているため、本発明の製造方法の工程(c)によって金属または炭素を蒸着することができる。このようにして得られた多孔質材は、カーボンナノファイバーが工程(a)によってエラストマー中に分散された状態を保持したまま蒸着された金属または炭素によってカーボンナノファイバー同士を連結している。したがって、本発明にかかる多孔質材は、多孔質の形態を保持したまま他の工程などで容易に取り扱うことができる。
【0009】
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよい。原料エラストマーとしては、ゴム系エラストマーの場合、未架橋体が用いられる。
【0010】
前記エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程(a)は、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法などを用いて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
本実施の形態にかかる多孔質材の製造方法は、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、前記炭素系材料の表面に金属または炭素を蒸着させる工程(c)と、を含む。
【0013】
(A)まず、エラストマーについて説明する。
【0014】
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0015】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0016】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0017】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0018】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0019】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0020】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0021】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0022】
本実施の形態のエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは未架橋体が好ましい。
【0023】
(B)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
【0024】
本実施の形態に用いられるカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましいく、複合材料の強度を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
【0025】
カーボンナノファイバーの配合量は、多孔質材の用途に応じて設定できるが、本実施の形態の複合エラストマーは、カーボンナノファイバーを0.01〜50重量%の割合で含むことが好ましい。
【0026】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0027】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0028】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0029】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0030】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0031】
なお、これらのカーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0032】
(C)次に、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混合させ、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)について説明する。
【0033】
前記エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程(a)は、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法などを用いて行うことができる。
【0034】
本実施の形態では、エラストマーにカーボンナノファイバーを混合させる工程として、ロール間隔が0.5mm以下の薄通しを行なうオープンロール法を用いた例について述べる。
【0035】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば1.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。
【0036】
まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内にカーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させると、エラストマーとカーボンナノファイバーの混合物が得られる。この混合物をオープンロールから取り出す。さらに、第1のロール10と第2のロール20の間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔に設定し、得られたエラストマーとカーボンナノファイバーの混合物をオープンロールに投入して薄通しを行なう。薄通しの回数は、例えば10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0037】
このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。
【0038】
また、カーボンナノファイバー40の投入に先立って、金属もしくは非金属の粒子をバンク32に投入しておくと、ロールによる剪断力はこれらの粒子のまわりに乱流状の流動を発生させ、カーボンナノファイバーをエラストマー30にさらに分散させることができる。
【0039】
また、この工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。なお、エラストマーとしてEPDMを用いた場合には、2段階の混練工程を行なうことが望ましく、第1の混練工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、EPDMとカーボンナノファイバーとの混合は、第2の混練工程より50〜100℃低い第1の温度で行なわれる。第1の温度は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の第1の温度である。ロールの第2の温度は、50〜150℃の比較的高い温度に設定することでカーボンナノファイバーの分散性を向上させることができる。
【0040】
また、この工程(a)では、剪断力によって剪断されたエラストマーにフリーラジカルが生成され、そのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化される。例えば、エラストマーに天然ゴム(NR)を用いた場合には、各天然ゴム(NR)分子はロールによって混練される間に切断され、オープンロールへ投入する前よりも小さな分子量になる。このように切断された天然ゴム(NR)分子にはラジカルが生成しており、混練の間にラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃するので、カーボンナノファイバーの表面が活性化する。
【0041】
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、特にカーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(一端分散したカーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた複合エラストマーを得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0042】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、既に述べた密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離でき、かつエラストマー分子を切断してラジカルを生成する剪断力をエラストマーに与えることができればよい。
【0043】
エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
【0044】
(D)次に、上記方法によって得られた複合エラストマーについて述べる。
【0045】
本実施の形態の複合エラストマーは、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる複合エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。
【0046】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。
【0047】
以上のことから、本実施の形態にかかる複合エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0048】
すなわち、未架橋体において、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0049】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0050】
本実施の形態にかかる複合エラストマーは、動的粘弾性の温度依存性測定における流動温度が、原料エラストマー単体の流動温度より20℃以上高温であることが好ましい。本実施の形態の複合エラストマーは、エラストマーにカーボンナノファイバーとが良好に分散されている。このことは、上述したように、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、流動性が低下する。
【0051】
(E)次に、複合エラストマーを熱処理し、炭素系材料を得る工程(b)について説明する。
【0052】
複合エラストマーを熱処理することで、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーが気化して、表面が活性化された多孔質の炭素系材料を製造することができる。複合エラストマーからエラストマーを除去して得られた炭素系材料は、エラストマー中に均一に分散され状態のままカーボンナノファイバーだけが残された多孔質の材料である。このような炭素系材料は、脆く、多孔質の状態を維持したまま取り扱うことが難しい。
【0053】
このような熱処理は、使用されるエラストマーの種類によって種々の条件を選択することができるが、少なくとも熱処理温度は、エラストマーの気化する温度以上であって、かつカーボンナノファイバーが気化する温度よりも低い温度に設定される。
【0054】
本実施の形態にかかる工程(b)は、熱処理炉に工程(a)で得られた複合エラストマーを配置し、炉内をエラストマーの気化する温度、例えば500℃に加熱する。この加熱によって、エラストマーは気化し、炭素系材料が製造される。このとき、炭素系材料を、カーボンナノファイバーの表面の炭素と、炉内の雰囲気に含まれる酸素もしくはエラストマーに含まれる酸素と、を結合させて、酸化させることができる。カーボンナノファイバーの表面は、工程(a)によってせん断されたエラストマー分子のフリーラジカルによって活性化されており、例えば炉内雰囲気中に酸素が存在すると容易に結びつくことができる。このようにして得られた炭素系材料の表面は、他の物質例えば金属との濡れ性が向上する。
【0055】
こうして得られた炭素系材料の表面構造については、先に出願した特願2004−212854号に詳細に説明されているが、X線分光分析(XPS)によって解析することができ、また、EDS分析(Energy Dispersive Spectrum)によっても解析することができる。
【0056】
なお、酸素の代わりに窒素をカーボンナノファイバーの表面に結合させたい場合には、熱処理炉をアンモニウムガス雰囲気とすることで実施できる。
【0057】
(F)次に、炭素系材料の表面に金属を蒸着させる工程(c)について説明する。
【0058】
炭素系材料への蒸着方法としては、真空蒸着法を採用することができる。上記工程(b)で得られた炭素系材料を、例えば10−2〜10−5Paの真空装置内に置き、その装置内で亜鉛等の金属または炭素を熱して蒸発させ、放射状に飛散する金属蒸気または炭素蒸気を炭素系材料に付着させ、多孔質材を得る。また、本実施の形態にかかる工程(c)は、上記工程(b)の炉を用いて、引き続き実施することができる。なお、蒸着させる金属の種類によっては真空でない炉でも可能であり、また、公知のスパッタリング蒸着やイオンプレーティングを採用することも可能である。工程(c)において金属を蒸着させる場合は、上記真空装置内のタングステンボード中に金属粒子もしくは金属線を配置させ、タングステンボードに電流を流して加熱溶融させて炭素系材料に蒸着を行なう。また、工程(c)において炭素を蒸着させる場合は、上記真空装置内の電極に接続された1組の炭素棒に電流を流してアーク放電させ、炭素系材料に蒸着を行なう。
【0059】
また、本実施の形態にかかる炭素系材料に蒸着される金属としては、具体的には、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、クロム、ゲルマニウム、セレン、チタン、スズ、亜鉛等が挙げられるが、得られた多孔質材の用途によって適宜選択することができる。特に、本実施の形態にかかる多孔質材を複合材料の強化材として用いる場合には、複合材料のマトリクスとなる材料との濡れ性などを考慮して選択される。
【0060】
このようにして得られた多孔質材は、エラストマー中に分散された状態を保持したカーボンナノファイバーが金属蒸着膜によって連結され、多数の微小空孔を有し、その多孔質の形態を維持する強度を有しており、他の工程での取り扱いも容易である。多孔質材の圧縮強度は、用途によっても異なるが、ハンドリング時にその形態を維持できる程度の強度を有し、例えば1.0MPa以上であることが好ましい。多孔質材の金属蒸着膜の厚さは、上記真空装置内に配置された水晶振動子膜厚計を用いて測定することができ、10〜300nmである。また、多孔質材の空孔率は、20〜90%であることが好ましい。
【0061】
このように、本実施の形態にかかる多孔質材は、金属蒸着または炭素蒸着によって、カーボンナノファイバー同士が連結され、カーボンナノファーバーによって形成される微細な多孔質構造を維持したまま保管、搬送などで容易にハンドリングすることができる。
【0062】
[実施例]
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1〜4、比較例1)
(1)サンプルの作製
(a)複合エラストマーの作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す所定量(100g)の天然ゴム(NR:100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせた。
【0064】
第2の工程:天然ゴムに対して表1に示す量(重量部)のカーボンナノファイバー(表1では、カーボンナノファイバーを「CNT」と記載する)を天然ゴムに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0065】
第4の工程:カーボンナノファイバーを投入し終わったら、天然ゴムとカーボンナノファイバーとの混合物をロールから取り出した。
【0066】
第5の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0067】
第6の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
【0068】
このようにして、実施例1〜4及び比較例1の複合エラストマーを得た。なお、実施例1〜4及び比較例1において、カーボンナノファイバーは、直径(繊維径)が約10〜20nmのカーボンナノファイバーを用いた。
【0069】
(b)炭素系材料の作製
上記(a)の実施例1〜4及び比較例1で得られた複合エラストマー(未架橋)を酸素を含む窒素雰囲気の炉内でエラストマーの気化温度以上である500℃で3時間熱処理して、エラストマーを気化させると同時に酸化させて、炭素系材料を得た。この酸化反応は、窒素雰囲気中に含まれる微量の酸素及び水蒸気や、エラストマー中に含まれる微量の酸素及び水分などから得られた酸素分子が用いられた。
【0070】
(c)多孔質材の作製
上記(b)の実施例1〜4で得られた炭素系材料を10gを30×40×20mmの大きさに圧縮成形し、10−5Paの真空装置内に置き、同装置内で表1に示す金属または炭素を熱して蒸発させ、炭素系材料に金属蒸着または炭素蒸着させ、多孔質材を得た。蒸着させた物質は、実施例1及び2がアルミニウム(Al)、実施例3が亜鉛(Zn)、実施例4が炭素(C)であった。なお、比較例1はこの工程(蒸着)を行なっていない。
【0071】
(2)電子顕微鏡による多孔質材の観察
上記(b)で得られた実施例1〜4の多孔質材及び比較例1の炭素系材料を電子顕微鏡で観察した。実施例1の多孔質材の電子顕微鏡写真を図2及び図3に示す。図3は、図2における多孔質材の部分拡大写真である。図2の撮影条件は加速電圧が1.0kVで、倍率が10.0kであり、図3の撮影条件は加速電圧が1.0kVで、倍率が200.0kであった。
【0072】
(3)圧縮強度の測定
上記(c)で得られた実施例1〜4の多孔質材及び比較例1の炭素系材料について、厚さ5mmの10×10mmの試験片を、0.01mm/minで圧縮したときの圧縮強度(MPa)を測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から、本発明の実施例1〜4によれば、以下のことが確認された。
【0075】
比較例1の炭素系材料はほとんど形態を保つことができず圧縮強度も0であったが、実施例1〜4の多孔質材の圧縮強度は1.0MPa以上でハンドリング可能であった。
【0076】
また、顕微鏡観察の結果から、実施例1〜4の多孔質材が、カーボンナノファイバー間の空孔を形成したまま相互に連結していることがわかった。
【0077】
以上のことから、本発明によれば、一般に取り扱いの難しいカーボンナノファイバーを主原料とする多孔質材が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】実施例1で得られた多孔質材の電子顕微鏡写真である。
【図3】図2の多孔質材の部分拡大電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0079】
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料の表面に金属または炭素を蒸着させる工程(c)と、
を含む、多孔質材の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、多孔質材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、分子量が5000ないし500万である、多孔質材の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択されるカーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を少なくともひとつ有する、多孔質材の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、多孔質材の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いて行われる、多孔質材の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、密閉式混練法によって行われる、多孔質材の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、多軸押出し混練法によって行われる、多孔質材の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、0ないし50℃で行われる、多孔質材の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の製造方法によって得られた多孔質材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−188401(P2006−188401A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2466(P2005−2466)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】