説明

多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法

【課題】紫外線を照射する光源による熱の影響を低減して、外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を提供する。
【解決手段】吸水膨潤させた含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体の外周に被覆する工程と、前記金属導体の外周に被覆された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し架橋硬化させるとともに、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理して多孔質化する工程と、を含む多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目で、LEDを用いて紫外線を照射した後、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属導体の外周に多孔質の紫外線硬化型樹脂組成物被覆を施した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野をはじめとする精密電子機器類や通信機器類の小型化や高密度実装化が進むなかで、これらに使用される電線・ケーブルもますます細径化が図られている。特に信号線等では、伝送信号の一層の高速化を求める傾向が顕著であり、これに使用される電線の絶縁体層を薄くかつ可能な限り低誘電率化することにより伝送信号の高速化を図ることが望まれている。
【0003】
この絶縁体層には従来、ポリエチレンやふっ素樹脂などの誘電率の低い絶縁材料を発泡(多孔質化)させたものが使われている。発泡した絶縁体層の形成は、予め発泡させたフィルムを導体上に巻き付ける方法や押出方式が知られており、特に押出方式が広く用いられている。
【0004】
押出方式により発泡を形成する方法は、大きく物理的な発泡方法と化学的な発泡方法に分けられる。物理的な発泡方法としては、液体フロンのような揮発性発泡用液体を溶融樹脂中に注入し、その気化圧により発泡させる方法や窒素ガス、炭酸ガスなど押出機中の溶融樹脂に直接気泡形成用ガスを圧入させることにより一様に分布した細胞状の微細な独立気泡体を樹脂中に発生させる方法などがある。化学的な発泡方法としては、樹脂中に発泡剤を分散混合した状態で成形し、その後熱を加えることにより発泡剤の分解反応を発生させ、分解により発生するガスを利用して発泡させる方法がよく知られている。
【0005】
押出方式に代わる薄肉被覆方式として、エナメル線に代表される熱硬化樹脂のコーティングや光ファイバの紫外線硬化型樹脂のコーティングなどのコーティング方式が知られている。
【0006】
また、押出方式やコーティング方式に代わる方法として、予め水を吸収させ膨潤させた含水吸水性ポリマを液状の架橋硬化型樹脂組成物に分散させた有機樹脂組成物を、紫外線又は熱により架橋硬化後に含水吸水性ポリマの水分を除去することにより、空孔を形成し多孔質層とする方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、薄肉で細径の発泡絶縁層の形成を高速化することが容易となり、また、環境負荷も抑制することが可能となる。
【0007】
また、光ファイバの表面における紫外線硬化型樹脂の架橋硬化に際して、従来のUVランプ(放電ランプ)と比較して長寿命、低消費電力のLEDランプを用いる方法がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−209190号公報
【特許文献2】特開2010−117527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の物理的な発泡方法において、溶融樹脂中に揮発性発泡用液体を注
入する方法は、気化圧が大きく気泡の微細形成が難しいため薄肉成形に限界があり、揮発性発泡用液体の注入速度が遅いため、高速成形が難しく生産性に劣るという問題がある。また、押出機中で直接気泡形成用ガスを圧入する方法は、細径薄肉化に限界があること、安全面で特別な設備や技術を必要とするため、生産性に劣ることや製造コストの上昇を招いてしまう問題がある。また、フロン、ブタン、炭酸ガス等を用いる物理的な発泡方法は環境負荷が大きい問題がある。
【0010】
また、上記の化学的な発泡方法においては、予め樹脂中に発泡剤を混練し、発泡剤を反応分解させて発生したガスにより発泡させるため、樹脂の成形加工温度は、発泡剤の分解温度より低く保持しなければならない問題がある。さらに、素線の径が細くなると、押出被覆では樹脂圧により断線が起こりやすく、高速化が難しくなるという別の問題もある。また、化学的な発泡方法に用いる発泡剤は価格が高いといった問題がある。
【0011】
さらに、コーティング方式においては、薄肉被覆に有効な熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂などの液状材料を被覆させるが、熱硬化樹脂の場合、材料のかなりの部分を占める溶剤を揮散させるとともに焼付する必要がある。このため、1回のコーティングで得られる膜厚は数μm以下となり、多層塗りを必要とし、発泡層(多孔質層)の形成が困難である。また、撚導体では導体の隙間に溶剤が入り込み、溶剤の揮散がしにくく、被覆のふくれなどが発生しやすい。さらに溶剤を使用するため環境負荷が大きい問題がある。
【0012】
また、特許文献1の方法を紫外線樹脂被覆電線の製造に用いた場合、紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外径変動が生じやすいという問題があった。この問題を検討したところ、紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して架橋硬化する紫外線ランプとして、高圧水銀灯やメタルハライドランプなどの放電ランプを用いているためであることが明らかになった。すなわち、放電ランプからは紫外線だけでなく赤外線や輻射熱が放射されるため、含水吸水性ポリマ中の水分が急激に熱せられることになる。このため、紫外線硬化型樹脂が架橋硬化する前において含水吸水性ポリマ中からの水分の放出、および紫外線硬化樹脂の急激な粘性変化により、紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線に外径変動が生じていた。
【0013】
本発明は、紫外線を照射する光源による熱の影響を低減して、外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線が得られる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、吸水膨潤させた含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体の外周に被覆する工程と、前記金属導体の外周に被覆された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し架橋硬化させるとともに、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理して多孔質化する工程と、を含む多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目で、LEDを用いて紫外線を照射した後、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理する多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法である。
【0015】
上記記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記LEDにより紫外線を照射した後に、放電ランプを用いて紫外線をさらに照射することが好ましい。
【0016】
上記記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記脱水処理は、マイクロ波による加熱であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紫外線を照射する光源による熱の影響を低減して、外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法で用いた製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】(a)は脱水処理前の含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の断面図であり、(b)は(a)の含水吸水性ポリマ中の水分を脱水した後の断面図である。
【図3】図1の製造装置の紫外線照射炉を示すもので、(a)はLEDランプを備える紫外線照射炉の一例を示す概略構成図であり、(b)は放電ランプを備える紫外線照射炉の一例を示す概略構成図である。
【図4】(a)は実施例の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外観を示す電子顕微鏡写真であり、(b)は(a)の電線の拡大した断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例における紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述したように、従来にあっては、放電ランプを用いて紫外線を照射するため、樹脂組成物の架橋硬化と同時に、含水吸水性ポリマから水分が加熱、脱水されていた。すなわち、樹脂組成物が十分に架橋硬化する前の硬化過程おいて脱水が生じるため、空孔の形成が阻害されるとともに、製造される被覆電線の外径変動が大きくなっていた。このことから、本発明者らは紫外線を照射する光源による熱の影響を排除すべく鋭意検討した。その結果、紫外線照射の1灯目において放電ランプとは発光原理の異なるLEDを用いて樹脂組成物の架橋硬化を行い、このLEDによる架橋硬化後に含水吸水性ポリマの脱水処理を行うことによって、所定の空孔を有する多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を、その外径変動を抑制して形成できることを見出し、本発明を創作するに至った。
【0020】
以下に、本発明にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を、図1に示す製造装置を用いて製造する製造方法について説明する。図1は本発明の一実施形態にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を製造する製造装置の一例を示す概略構成図である。図1に示すように、製造装置は、金属導体2を送り出す送出機16と、送出機16から送り出された金属導体2に多孔質紫外線硬化型樹脂組成物を被覆形成して巻き取る引取・巻取機19との間の搬送経路には、垂直下方に電線を搬送する垂直搬送ラインを有し、この垂直搬送ラインには、上から順に、垂直下方に送られる金属導体2の外周に含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を塗布する加圧塗布槽17と、LEDランプを備える紫外線照射炉10と、放電ランプを備える紫外線照射炉13と、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物に被覆された電線の外径を測定する外径測定機18と、が配置されている。さらに、上記搬送経路には、金属導体2をガイドする複数のローラ20が配置されるとともに、引取・巻取機19は乾燥部21内に設置されている。
【0021】
本実施形態にかかる多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線1の製造方法は、図1に示すように、含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体2の外周に被覆する工程と、LEDランプを備える紫外線照射炉10で金属導体2上の紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射して被覆層5を形成する工程と、放電ランプを備える紫外線照射炉13でさらに被覆層5に紫外線を照射する工程と、被覆層5の含水吸水性ポリマ中の水分を脱水処理して、空孔を形成し被覆層5を多孔質化する工程と、を含む。
【0022】
まず、液状の紫外線硬化型樹脂組成物に、予め吸水し膨潤させた吸水性ポリマを分散させて、含水吸水性ポリマが分散した紫外線硬化型樹脂組成物を準備する。
吸水性ポリマとは、非常に良く水を吸い込み、保水力が強いため多少の圧力を加えても吸水した水を放出しない高分子物質で、含水吸水性ポリマとは、吸水性ポリマに水を吸水させたものである。吸水性ポリマとしては、電気絶縁性を低下させる要因となるナトリウムを含まないものが好ましく、例えばポリアルキレンオキサイド系樹脂などがあげられる。含水吸水性ポリマは、吸水性ポリマ1gあたりに吸水する水の量を示す吸水量が、20〜100g/gの範囲内の数値であることが好ましい。これは、吸水量が20g/gより少ないと、多孔質化する際の高い空隙率を得るために吸水性ポリマの添加量を多くする必要があり、コスト面や機械的特性面での問題や空孔形成効率の低下が生じやすくなるためである。一方、吸水量が100g/gより多いと、多孔質化する際の脱水効率が低下することや微細な空孔形成が難しくなるためである。
【0023】
また、吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させるのは、空孔のサイズや形状が、吸水性ポリマの粒子径と吸水量で制御できることや、吸水膨潤によりゲル状となった吸水性ポリマが水を多く含み、水と液状の紫外線硬化型樹脂組成物とは非相溶なので、撹拌分散の際に、独立分散しやすく、且つ球状となって分散しやすくなるからである。このため硬化後の脱水によって得られる空孔形状を球に近い形状とすることができ、つぶれに対して強いものが得られやすくなる。
【0024】
なお、紫外線硬化型樹脂組成物としては、紫外線により硬化するもので、ウレタン系、シリコーン系、ふっ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系など公知の樹脂組成を選択できるが、樹脂成分の誘電率が4以下であることが好ましく、3以下であるとさらに好ましい。また、紫外線硬化型樹脂組成物に添加される光重合開始剤は、使用する紫外線照射ランプの波長領域に適したものが、公知の光重合開始剤から選択される。また、金属導体2としては、銅、アルミ、ニッケルなど、またはこれらをベースとした合金が用いられ、例えば、銅メッキ線、錫メッキ線などがあげられる。
【0025】
次に、送出機16から金属導体(撚り線)2を送り出し、ローラ20により金属導体2をガイドして加圧塗布槽17に送る。この加圧塗布槽17において、塗布ダイス(図示せず)により、金属導体2の外周に、上記の含水吸水性ポリマが分散した液状の紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線3を形成する。含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線3は、金属導体2の外周に、含水吸水性ポリマが分散した紫外線硬化型樹脂組成物が所定の厚さで塗布されている。
【0026】
次に、図1、図2(a)に示すように、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線3を、LED(発光ダイオード)を用いたLEDランプを備える紫外線照射炉10に送り、金属導体2の外周の紫外線硬化型樹脂組成物6に紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂組成物6が架橋硬化されて被覆層5が形成された、硬化した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線4(以下、硬化した被覆電線4とする)を形成する。この被覆層5は、金属導体2の外周に形成され、硬化した紫外線硬化型樹脂組成物6中に含水吸水性ポリマ7が分散した構造となっている。
【0027】
LEDランプを備える紫外線照射炉10は、図3(a)に示すように、炉内には紫外線を照射するLEDランプ11が設けられるとともに、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線3が垂直に通過する石英管12が設置されている。LEDランプ11からの紫外線により金属導体2外周の紫外線硬化型樹脂組成物6は架橋硬化される。LEDランプ11からの光は、赤外線をほとんど含まない特定の狭い波長帯域の紫外線からなる。
すなわち、電極を加熱することにより放電し、紫外線以外に赤外線を多く発光する高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどの放電ランプと比較して、LEDランプはほとん
ど紫外線のみを照射するため、輻射熱による金属導体2などの温度上昇を抑制することができる。また、LEDランプは、放電ランプと比較して、発光に際して発熱量が少なく、LEDランプを備える紫外線照射炉10内の温度上昇を抑制することができる。
このように、紫外線照射の一段目ないし1灯目のLEDランプを備えた紫外線照射炉10において、LEDを用いて紫外線を照射することにより、発光に伴う紫外線照射炉10内の温度上昇および輻射熱にともなう金属導体2などの温度上昇を抑制しつつ、紫外線硬化型樹脂組成物6を硬化させることができる。
したがって、紫外線硬化型樹脂組成物6の硬化過程(硬化が不十分な状態)において、含水吸水性ポリマ7中の水分の加熱による放出、紫外線硬化型樹脂組成物6の急激な粘性変化を抑制でき、空孔形成の阻害および樹脂組成物被覆電線の外径変動を抑制することができる。
【0028】
続いて、硬化した被覆電線4を、放電ランプを備える紫外線照射炉13に送り紫外線を照射して、被覆層5をさらに十分に架橋硬化する。放電ランプを備える紫外線照射炉13は、図3(b)に示すように、放電ランプ14、石英管12、赤外線を透過させ紫外線を反射する反射鏡としてのコールドミラー(図示せず)を備えており、放電ランプを備える紫外線照射炉13は上述したLEDランプを備える紫外線照射炉10とは、用いる紫外線照射光源およびコールドミラーの有無の点で異なる。
本実施形態においては、LEDランプ11により紫外線を照射した被覆層5に対して放電ランプ14により紫外線をさらに照射している。放電ランプ14を用いることにより含水吸水性ポリマの水分が加熱されるが、上述した一段目のLEDランプを備える紫外線照射炉10において、紫外線硬化型樹脂は外径変動が生じない程度に架橋硬化された被覆層5が形成されるので、外径の変動は生じにくい。しかも、放電ランプ14を用いることにより、紫外線照射炉13での被覆層5の架橋硬化に加えて脱水処理も同時になされ、後述する脱水工程において、脱水処理時間の短縮や脱水処理装置の縮小などが可能となる。さらに、放電ランプ14を用いることにより、紫外線硬化型樹脂に含まれる光重合開始剤の吸収ピーク波長の近くの帯域を含む幅広い波長帯域の光を照射することとなり、被覆層5をさらに確実に架橋硬化することが可能となる。
【0029】
続いて、図1に示すように、硬化した被覆電線4は外径測定機18を通過することにより、その外径が連続的に測定され、搬送速度の制御などに利用される。外径測定機18としては非接触のレーザ方式などが用いられる。
【0030】
続いて、硬化した被覆電線4は乾燥部21内の引取・巻取機19へと巻き取られる。乾燥部21は、図1に示すように、硬化した被覆電線4の搬送距離を長くして乾燥時間を長くするために、硬化した被覆電線4を反転する複数のローラ20が配置される。この乾燥部21において、硬化した被覆電線4の搬送中あるいは引取・巻取機19に巻き取った硬化した被覆電線4を放置することにより被覆層5中に分散した含水吸水性ポリマ7の水分を自然乾燥し脱水する。この乾燥による脱水処理で、含水吸水性ポリマ7中の水分が脱水、除去され、図2(b)に示すような空孔8が形成され、被覆層5が多孔質化された多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線1が形成される。
上記実施形態においては、脱水処理を自然乾燥により行ったが、乾燥部21内を高温に保持し乾燥による脱水処理を促進するようにしてもよい。また、マイクロ波により加熱して脱水することも可能である。マイクロ波による加熱によれば水分を急速に加熱できるので、吸水性ポリマや周囲の樹脂などに影響をあたえることなく、短時間で効率よく空孔8を形成できる。また、電線を搬送する距離を低減することができるので、装置を縮小化することができる。
【0031】
上述したように、本実施形態においては、金属導体の外周に塗布された含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目においてLEDを用いて紫外線
を照射している。この構成により、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の被覆された金属導体を、比較的温度の低い紫外線照射炉内を通過させ、かつ輻射熱による金属導体の温度上昇を抑制するため、紫外線硬化型樹脂組成物の硬化過程(架橋硬化が不十分な状態)において、含水吸水性ポリマからの水分の加熱、脱水を最小限に抑制することができる。そして、紫外線硬化型樹脂組成物の硬化前における急速な粘性変化や流動化による空孔の形成の阻害を抑制し、被覆樹脂組成物の塗りムラがなく外径の安定した多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を形成することができる。また、被覆樹脂組成物を多孔質化して誘電率を低下することができるので、伝送損失の少ない信号線などに好適な細径、薄肉化した被覆電線を形成することができる。
【0032】
上記実施形態において、LEDから照射される紫外線の波長は300nm以上400nm以下であることが好ましい。この波長帯域のLEDでは発光効率がよく高輝度のものが容易に入手可能である。
【0033】
なお、上記実施形態では、一段目のLEDランプと二段目の放電ランプとの二段構成の紫外線照射の場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、二段以上(2灯以上)のLEDランプのみによる紫外線照射、または、LEDランプと放電ランプを組み合わせ三段以上の紫外線照射としてもよい。また、ラインタイプのLEDランプに限らず、面状のLEDランプを用いたり、あるいはLED素子を石英管の外周を取り囲むように配置したりしてもよい。いずれの場合においても、少なくとも1灯目の紫外線照射炉はLEDランプにより紫外線照射することとする。また、本発明の金属導体は、複数の金属導体を撚りあわせた撚り線に限らず、単線の金属導体の電線にも適用可能である。また、本発明は、電線に限定されず、多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の外周に、さらに金属導体およびシースを設けた同軸ケーブルや、複数の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を用い、これら電線を平行に束ねたりして、その外周にシースを設けたケーブルなどにも適用できる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0035】
まず、本発明の実施例において用いる含水吸水性ポリマ含有の紫外線硬化型樹脂について説明する。
紫外線硬化型樹脂組成物には、オリゴマー成分として、H−MDI変性ポリエチレングリコールアジペートジメタクリレートオリゴマ(UA-4002HM、新中村化学)を100重量
部、モノマー成分として、シクロペンタニルアクリレート(FA-513AS、日立化成工業)を55重量部、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184、チバスペシャリテイケミカルズ)を3重量部、および2,4,6−トリメチルベ
ンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO、チバスペシャリテイケミカ
ルズ)を4.5重量部、酸化防止剤として2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1035、チバスペシャリテイケミカルズ)を0.15重量部、安定剤としてヒドロキノンを0.15重量部、を添加して混練機により混練した、紫外線硬化型樹脂組成物Aを使用した。
【0036】
紫外線硬化型樹脂組成物Aに分散させる含水吸水性ポリマは、平均粒径50μmの吸水性ポリマ(アクアコークTWP−PF 住友精化製)と蒸留水とを1:31の比率で混ぜ合わせ24時間静置した後、高圧ホモジナイザー(PANDA 2K型 Niro Soavi社製)を用い
圧力130MPaで、1回処理した含水吸水性ポリマBを使用した。
【0037】
上記紫外線硬化型樹脂組成物Aに、含水率が60%となるように含水吸水性ポリマBを添加して、50℃に加温しながら30分、回転数600rpmで攪拌分散し、含水吸水性
ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Cを準備した。
【0038】
(実施例1)
金属導体として、40AWG(素線本数7、素線直径0.03mm)の銀メッキ銅撚り線の外周に、加圧塗布槽を用いて、40℃に加温した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Cを速度100m/minで被覆した。そして、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Cに被覆された撚り線を、一段目の紫外線照射炉としての、石英管を装着した波長385±10nmのUV−LEDを備えた紫外線照射炉(パナソニック電工製、UD80、有効照射幅25mm、出力4000mW/cm)に通して、含水吸水性ポリマ
分散紫外線硬化型樹脂組成物を架橋硬化して被覆層を形成した。さらに、二段目の紫外線照射炉としての、石英管を装着しメタルハライドランプを備えた紫外線照射炉(メタルハライドランプ:アイグラフィックス製6kW、ランプ長250mm、波長230〜600
nm)に通して、さらに架橋硬化して、被覆厚が約110μmの被覆層を形成した。硬化された被覆層は、その後乾燥、もしくはマイクロ波などにより加熱され、被覆層中の含水吸水性ポリマの水分を除去して空孔を形成することにより、多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を得た。
【0039】
上記で得られた多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を、電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、図4(a)に示すように、電線の外径は安定しており、その外径変動は±20μm以下となっていた。また、図4(b)に示すように、空孔は潰されることなく被覆層中に分散されて形成されていた。なお、外径変動の許容範囲は被覆層の厚さにより変化し、例えば被覆層の厚さが110μm程度の場合は±20μm以下であれば実用上問題はない。
【0040】
(比較例1)
比較例1では、一段目および二段目のそれぞれにおいて、石英管を装着しメタルハライドランプを備えた紫外線照射炉(メタルハライドランプ:アイグラフィックス製 6kW,
ランプ長250mm、波長230〜600nm)を用いて紫外線を照射した。メタルハライドランプを二段階(2灯)用いた点が実施例1と異なるだけで、その他の構成については実施例1と同じである。
【0041】
実施例1と同様に、電子顕微鏡により観察した結果、図5に示すように、電線の外径が不安定となり、空孔の潰れや金属導体の露出が観察された。また、電線の外径変動は±50μm以上となっており、実用上問題が生じる。
【0042】
実施例及び比較例から明らかなように、含水吸水性ポリマ含有の紫外線硬化型樹脂を金属導体上に被覆して架橋硬化させる際に、少なくとも紫外線照射の1灯目において、LEDランプにより赤外線をほとんど含まない紫外線を照射して架橋硬化することで、安定した外径の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線を得られることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
1 多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線
2 金属導体
3 含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線
4 硬化した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線
5 被覆層
6 紫外線硬化型樹脂組成物
7 含水吸水性ポリマ
8 空孔
10 LEDランプを備える紫外線照射炉
11 LEDランプ
12 石英管
13 放電ランプを備える紫外線照射炉
14 放電ランプ
16 送出機
17 加圧塗布槽
18 外径測定機
19 引取・巻取機
20 ローラ
21 乾燥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水膨潤させた含水吸水性ポリマが分散された紫外線硬化型樹脂組成物を金属導体の外周に被覆する工程と、
前記金属導体の外周に被覆された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し架橋硬化させるとともに、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理して多孔質化する工程と、を含む多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、
前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射する1灯目で、LEDを用いて紫外線を照射した後、前記含水吸水性ポリマの水分を脱水処理することを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記LEDにより紫外線を照射した後に、放電ランプを用いて紫外線をさらに照射することを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法において、前記脱水処理は、マイクロ波による加熱であることを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂組成物被覆電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172116(P2012−172116A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37606(P2011−37606)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】