説明

多孔質膜の製造方法

【課題】均一な空隙を備え、優れた透気度を有する多孔質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】高分子または該高分子の前駆体を含んでいる溶液および凝固液を準備し、前記溶液を前記凝固液上に噴霧し、前記高分子または該高分子の前駆体を凝固させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子からなる多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高分子からなる多孔質膜の製造方法として、例えば、特開2009−73124号公報に記載の方法が開示されている。
【0003】
特開2009−73124号公報に記載の製造方法では、まず、多孔質膜を構成すべき高分子を含んでいる溶液が準備される。該溶液は基材上にフィルム状に流延され、該基材に直に接して保持される。その後、高湿度雰囲気下で保持され、これが凝固液中に浸漬されることで前記高分子が凝固され、該高分子からなる多孔質膜が得られる。フィルム状に流延後の前記溶液が高湿度雰囲気下に保持されることで、水分が該溶液内部へと侵入し、該溶液の相分離が効率的に促進され、連通性の高い多孔質膜が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−73124号公報
【発明の概要】
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術は、高分子を含んでいる溶液が、一旦、基材上にて高湿度雰囲気下で保持されるため、該溶液に溶解している高分子の一部が保持中に凝固、析出し、偏析するという問題があった。このため、得られる多孔質膜は空隙が不均一となり、優れた透気度を達成するのが困難であった。
【0007】
そこで、本発明では、均一な空隙を備え、優れた透気度を有する多孔質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記目的を達成するために、高分子または該高分子の前駆体を含んでいる溶液を準備する工程と、凝固液を準備する工程と、前記溶液を前記凝固液上に噴霧し、前記高分子または該高分子の前駆体を凝固させる工程とを有する、前記高分子からなる多孔質膜の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、高分子または該高分子の前駆体を含んでいる溶液を準備する工程と、基材上に凝固液の層を形成する工程と、前記溶液を前記凝固液上に噴霧し、前記高分子または該高分子の前駆体を凝固させ、前記基材上に堆積させる工程とを有する、前記高分子からなる多孔質膜の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の多孔質膜の製造方法は、前記凝固液がヒドロキシ基を有する化合物または水を主成分とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の多孔質膜の製造方法は、前記凝固液がアルコールを主成分とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明の多孔質膜の製造方法は、前記高分子がポリアミドイミドを主成分とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る多孔質膜の製造方法によれば、凝固液上に高分子または該高分子の前駆体を含んでいる溶液が噴霧され、溶液中の高分子または該高分子の前駆体が凝固されることで多孔質膜が作製される。このため、均一な空隙を備え、優れた透気度を有する多孔質膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1による多孔質膜の製造方法を説明するための模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1による製造方法にて作製された多孔質膜の表面のSEM写真である。
【図3】本発明の実施の形態1による製造方法にて作製された多孔質膜をセパレータとして用いた電気二重層コンデンサのバルク抵抗を、交流インピーダンス法にて測定した結果を示すグラフである。
【図4】比較例1による製造方法にて作製された多孔質膜の表面のSEM写真である。
【図5】比較例2による不織布の表面のSEM写真である。
【図6】本発明の実施の形態2による多孔質膜の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《実施の形態1》
以下において、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1による多孔質膜の製造方法を説明するための図である。同図(A)は、高分子を含む溶液を凝固液上に噴霧する工程を説明するための模式図、同図(B)は、該溶液中の高分子成分が凝固し、多孔質膜が得られる工程を説明するための模式図である。同図(C)は、該多孔質膜の膜厚が成長する工程を説明するための模式図、同図(D)は、本発明の実施の形態1による製造方法にて作製された多孔質膜を模式的に示す断面図である。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態1による製造方法にて作製された多孔質膜の表面のSEM写真である。
【0018】
高分子を含む溶液として、ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績株式会社製:パイロマックスR「HR11NN」)を準備した。該溶液に溶剤NMP(N−メチルピロリドン)を加え、固形分濃度5wt%の溶液1を作製した。溶液1の固形分濃度は、溶液1を噴霧するのに適した粘度となるように設定した。
【0019】
次に、図1(A)に示すように、前記溶液1が凝固液2a上に噴霧される。凝固液2aは、前記高分子を凝固させる溶剤であればよい。好ましくは、前記高分子または高分子の前駆体を溶かしている溶剤と相溶性を有するものがよい。また、前記高分子または高分子の前駆体を溶解しないものが好適である。例えば、アルコールなどのヒドロキシ基を有する化合物、水またはこれらの混合物などが用いられる。本実施の形態1では、凝固液2aとして水を用いた。
【0020】
これにより、図1(B)に示すように、溶液1に溶解している高分子成分が速やかに凝固され、ポリアミドイミドからなる多孔質膜3aが得られた。その後も、図1(C)に示すように、連続して溶液1を凝固液2a上に噴霧することで、膜厚が40μmの多孔質膜3bが得られた。多孔質膜3aは多孔質であるため、凝固液2aは多孔質膜3aの表面に吸い上げられる。このため、多孔質膜3aの表面に噴霧される溶液1は、常に凝固液2aと接触することとなり、多孔質膜3aの表面で速やかに凝固され、堆積していく。このようにして、多孔質膜3aの膜厚を成長させ、膜厚40μmの多孔質膜3bとすることができる。
【0021】
溶液1の噴霧は、前記多孔質膜3bの膜厚が所望の厚さとなるように、噴霧量,噴霧時間が設定される。また、溶液1は連続して噴霧されなくてもよく、断続して噴霧されてもよい。
【0022】
このように、本発明では、溶液1が凝固液2a上に噴霧されるため、溶液1に直に接して、これを保持するための基材を必要としない。このため、工程が簡略化され、生産性が向上する。
【0023】
また、溶液1に凝固液2aが接触すると速やかに前記高分子は凝固されるため、均一な空隙を備えた多孔質膜が得られる。
【0024】
次に、多孔質膜3bを水で洗浄し、乾燥に付すことで、凝固液等の溶剤成分を除去し、多孔質膜3cを得た。
【0025】
なお、得られた多孔質膜が高分子の前駆体などの膜の場合は、さらに重合処理も実施される。
【0026】
多孔質膜3cの表面のSEM写真を図2に示す。図2に示すように、本発明の実施の形態1による製造方法にて作製された多孔質膜は、空隙の孔径が大きく、高い空隙率であることが分かる。
【0027】
多孔質膜3cの透気度を測定したところ、1sec/100ccであった。測定は、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、デジタル型王研式透気度試験機(旭精工株式会社製「EG01−5−1MR」)を使用し、シリンダー圧0.25MPa、測定圧0.05MPa、測定部内径30mmにて行った。
【0028】
また、多孔質膜3cをセパレータとして用い、電気二重層コンデンサセルを作製し、セパレータ部に起因するバルク抵抗を交流インピーダンス法にて測定した結果を図3の曲線Aに示す。セパレータのサイズは10mm×10mm×40μmとし、電解質としてTEMA−BF4(テトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウム)、有機溶媒としてPC(プロピレンカーボネート)を用いた。測定は、ポテンショスタット/ガルバノスタット(Solartron社製「1287型」)を使用し、周波数範囲10mHz〜1MHzにて行った。測定の結果、バルク抵抗は0.88Ωであった。
【0029】
(比較例1)
高分子成分を含む溶液として、ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績株式会社製:パイロマックスR「HR11NN」)を準備した。該溶液をPETフィルム上に塗布し、温度50℃,湿度約100%の雰囲気下で水蒸気に暴露した。その後、これを凝固液中に浸漬し、得られた膜を自然乾燥することで、膜厚9μmの多孔質膜を作製した。凝固液としては水を用いた。
【0030】
該多孔質膜の表面のSEM写真を図4に示す。図4に示すように、比較例1による多孔質膜は、空隙の孔径が小さく、空隙率が低いことが分かる。
【0031】
該多孔質膜の透気度を測定したところ、4219sec/100ccであった。測定は、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、デジタル型王研式透気度試験機(旭精工株式会社製「EG01−5−1MR」)を使用し、シリンダー圧0.25MPa、測定圧0.05MPa、測定部内径30mmにて行った。
【0032】
このように、該多孔質膜の透気度は数値的に大きく、例えば電気二重層コンデンサや非水電解質二次電池などの電気エネルギーデバイスのセパレータとした場合には、電気抵抗が非常に高くなる。このため、セパレータとしては適していない。
【0033】
以上のように、前記実施の形態1および比較例1の結果から、本実施の形態1の多孔質膜の製造方法によれば、透気度が1sec/100ccと数値的に小さく優れており、空隙の孔径が大きく、高い空隙率を有する多孔質膜が得られる。
【0034】
(比較例2)
セパレータとして、従来から使用されているポリアミドイミドからなる不織布(厚さ40μm)を準備した。該不織布の透気度を測定したところ、2sec/100ccであった。測定は、JIS P 8117に準拠した方法で行われ、デジタル型王研式透気度試験機(旭精工株式会社製「EG01−5−1MR」)を使用し、シリンダー圧0.25MPa、測定圧0.05MPa、測定部内径30mmにて行った。
【0035】
該不織布を用いて、電気二重層コンデンサセルを作製した。該不織布の表面のSEM写真を図5に示す。セパレータの種類以外は、実施の形態1と同一の要領で該電気二重層コンデンサセルを作製した。セパレータのサイズは10mm×10mm×40μmとし、電解質としてTEMA−BF4、有機溶媒としてPCを用いた。前記電気二重層コンデンサセルのセパレータ部に起因するバルク抵抗を交流インピーダンス法にて測定した結果を図3の曲線Bに示す。測定は、ポテンショスタット/ガルバノスタット(Solartron社製「1287型」)を使用し、周波数範囲10mHz〜1MHzにて行った。測定の結果、バルク抵抗は1.29Ωであった。
【0036】
以上のように、前記実施の形態1および比較例2の結果から、本発明の製造方法にて作製された多孔質膜を電気二重層コンデンサや非水電解質二次電池などの電気エネルギーデバイスのセパレータとして用いた場合、従来よりもバルク抵抗が低く、優れた性能を出すことが可能となる。
《実施の形態2》
以下において、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態2について説明する。なお、実施の形態1と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0037】
図6は、本発明の実施の形態2による多孔質膜の製造方法を説明するための図である。同図(A)は、高分子を含む溶液を凝固液上に噴霧する工程を説明するための模式図、同図(B)は、該溶液中の高分子成分が凝固し、多孔質膜が得られる工程を説明するための模式図である。同図(C)は、電極の上に多孔質膜が形成された積層体を模式的に示す断面図、同図(D)は、多孔質膜を介して、対となる電極が形成された積層体を模式的に示す断面図である。
【0038】
まず、図6(A)に示すように、活性炭を高分子バインダー中に分散し成形された分極性電極4bが、アルミニウムからなる集電体4a上に形成された、電極4を基材として準備した。電極4は集電体4aが支持台5に保持されることで、固定される。電極4の分極性電極4bが形成された表面上に凝固液2bが滴下され、電極4が凝固液2bで覆われる。凝固液2bとしては水を用いた。
【0039】
次に、高分子を含む溶液として、ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績株式会社製:パイロマックスR「HR11NN」)を準備した。該溶液に溶剤NMP(N−メチルピロリドン)を加え、固形分濃度5wt%の溶液1を作製した。溶液1の固形分濃度は、溶液1を噴霧するのに適した粘度となるように設定した。
【0040】
次に、前記溶液1が凝固液2b上に噴霧される。凝固液2bは、前記高分子を凝固させる溶剤であればよい。好ましくは、前記高分子または高分子の前駆体を溶かしている溶剤と相溶性を有するものがよい。また、前記高分子または高分子の前駆体を溶解しないものが好適である。例えば、アルコールなどのヒドロキシ基を有する化合物、水またはこれらの混合物などが用いられる。
【0041】
これにより、図6(B)に示すように、溶液1に溶解している高分子成分が速やかに凝固され、ポリアミドイミドからなる多孔質膜3dが電極4上に堆積する。溶液1の噴霧は、前記多孔質膜3dの膜厚が所望の厚さとなるように、噴霧量,噴霧時間が設定される。また、溶液1は連続して噴霧されなくてもよく、断続して噴霧されてもよい。
【0042】
次に、これを水で洗浄し、乾燥に付すことで、図6(C)に示すように、電極4の分極性電極4b上に多孔質膜3dが形成された積層体6を得た。
【0043】
なお、得られた多孔質膜が高分子の前駆体などの膜の場合は、さらに重合処理も実施される。
【0044】
次に、図6(D)に示すように、電極4と同一の要領で、活性炭を高分子バインダー中に分散し成形された分極性電極7bが、アルミニウムからなる集電体7a上に形成された電極7を準備した。該電極7を、分極性電極7bが多孔質膜3dを介して分極性電極4bと対向するように、多孔質膜3d上に積層することで、積層体8を得た。
【0045】
次に、積層体8がアルミラミネート体からなる外装体に収納され、仮封止される。集電体4a,7aにはそれぞれリード線が電気的に接続され、外装体外に引き出される。仮封止された外装体内に電解液が充填され、封止されることで、電気二重層コンデンサが作製される。前記電解液は、電解質としてTEMA−BF4を用い、有機溶媒としてPCを用いた。
【0046】
以上のように、本実施の形態2の多孔質膜の製造方法によれば、実施の形態1とほぼ同様の作用効果を奏することができる。更に、基材を電極として用い、該基材上に堆積された多孔質膜をセパレータとして、電気二重層コンデンサや非水電解質二次電池などのエネルギーデバイスを作製することができる。このため、セパレータの作製と該セパレータの電極上への積層が同時にでき、工程が簡略化され、生産性が向上する。
【0047】
なお、本発明の多孔質膜の製造方法によれば、前記高分子または高分子の前駆体を含む溶液中に、アルミナなどからなる粉末等が分散されていてもよい。このような溶液であっても、凝固液上に噴霧されると速やかに前記高分子または高分子の前駆体が凝固されるため、膜中に前記粉末等が均一に分散した多孔質膜を作製することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 溶液
2a,2b 凝固液
3a,3b,3c 多孔質膜
4,7 電極
4a,7a 集電体
4b,7b 分極性電極
5 支持台
6,8 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子からなる多孔質膜の製造方法であって、
前記高分子または前記高分子の前駆体を含んでいる溶液を準備する工程と、
凝固液を準備する工程と、
前記溶液を前記凝固液上に噴霧し、前記高分子または前記高分子の前駆体を凝固させる工程と、
を有することを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
高分子からなる多孔質膜の製造方法であって、
前記高分子または前記高分子の前駆体を含んでいる溶液を準備する工程と、
基材上に凝固液の層を形成する工程と、
前記溶液を前記凝固液上に噴霧し、前記高分子または前記高分子の前駆体を凝固させ、前記基材上に堆積させる工程と、
を有することを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記凝固液がヒドロキシ基を有する化合物または水を主成分とすること、
を特徴とする請求項1または2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記凝固液がアルコールを主成分とすること、
を特徴とする請求項1または3に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記高分子がポリアミドイミドを主成分とすること、
を特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−57847(P2011−57847A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208914(P2009−208914)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】