説明

多孔質膜処理装置

【課題】薬液処理停止時に多孔質膜に薬液が接触しないようにする作業を簡便にできる多孔質膜処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の中空糸膜処理装置は、多孔質膜または多孔質膜前駆体の薬液処理工程に用いられるものであり、薬液Bが入れられた処理槽10と、処理槽10の外側に設置され、多孔質膜(中空糸膜A)または多孔質膜前駆体の移送方向を転回させて、多孔質膜または多孔質膜前駆体を薬液Bに浸漬させるように走行させる第1のガイド手段12aと、薬液B中を走行する多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向を転回させて、多孔質膜または多孔質膜前駆体を液面上に引き上げるように走行させる第2のガイド手段12bと、第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bを各々支持するとともに、上下に移動可能な支持部材13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤を含む薬液によって多孔質膜を処理する多孔質膜処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、水処理方法として、分離の完全性やコンパクト性などに優れた多孔質膜のろ過膜を用いた方法が注目を集めている。
多孔質膜の製造方法としては、高分子溶液を非溶媒により相分離させて多孔化する非溶媒相分離現象を利用した非溶媒相分離法が知られている。
非溶媒相分離法を用いて多孔質膜を製造する際には、疎水性ポリマー、親水性ポリマー、および溶媒を含む製膜原液を吐出口(紡糸ノズル、Tダイなど)から吐出し、凝固液中で凝固して多孔質膜前駆体(中空糸等)を得る。
上記凝固工程により形成された多孔質膜前駆体には、溶液状態の親水性ポリマーや溶媒が多量に残留している。親水性ポリマーがその後に得られる多孔質膜に多く残留していると、透水性が損なわれ、また、親水性ポリマーが多孔質膜中で乾固すると、膜の機械的強度を低下させるおそれがある。そのため、通常、凝固工程の後には、多孔質膜中に残留する親水性ポリマーを、次亜塩素酸等の酸化剤を含む薬液に浸漬させた後、加熱して分解し、洗浄して親水性ポリマーを充分に除去する処理を施す(特許文献1,2)。
上記の処理方法において、親水性ポリマーを薬液に浸漬させる際には、例えば、薬液が入れられる処理槽と、多孔質膜を薬液に浸漬させるように走行させるガイドロールと、該ガイドロールを支持する支持部材とを備えるものが広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−302449号公報
【特許文献2】特開2005−220202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記処理装置においては、薬液処理停止時に、多孔質膜が薬液に浸漬されたままになる。多孔質膜が薬液に浸漬されると、多孔質膜内部に薬液が浸み込むため、再稼動した際には薬液が浸み込んだ多孔質膜が次工程に送られることになる。そのため、多孔質膜に浸み込んだ酸化剤によって、次工程の装置を腐食させることがあった。そこで、従来、処理停止時には、多孔質膜が薬液に接触しないように多孔質膜を切断し、処理を再開する際には多孔質膜をガイドロールにかけ直していた。しかし、その作業は煩雑であった。
本発明は、薬液処理停止時に多孔質膜に薬液が接触しないようにする作業を簡便にできる多孔質膜処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]多孔質膜または多孔質膜前駆体の薬液処理工程に用いられる多孔質膜の処理装置であって、薬液が入れられた処理槽と、該処理槽の外側に設置され、多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向を転回させて、多孔質膜または多孔質膜前駆体を前記薬液に浸漬させるように走行させる第1のガイド手段と、薬液中を走行する多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向を転回させて、多孔質膜または多孔質膜前駆体を液面上に引き上げるように走行させる第2のガイド手段と、前記第1のガイド手段および前記第2のガイド手段を各々支持するとともに、上下に移動可能な支持部材とを備える多孔質膜処理装置。
[2]前記処理槽は、その内部を、前記薬液が移動可能に複数の部屋に仕切る仕切り板を有しており、薬液が多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっている、[1]に記載の多孔質膜処理装置。
[3]前記第2のガイド手段は、前記仕切り板により仕切られて形成された処理槽内の各洗浄室にそれぞれ1個ずつ配されている、[2]に記載された多孔質膜処理装置。
[4]前記第1ガイド手段および前記第2ガイド手段は、いずれも直径80mm以上のフリーロールからなるガイドロールにより構成される、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
[5]ガイドロールに取り付けられる軸受けが、ポリエーテルエーテルケトン製の外輪及び内輪と、フッ素樹脂またはフッ素樹脂を表面被覆したリテーナーを有する回転軸受けとを備える、[4]に記載の多孔質膜処理装置。
[6]前記回転軸受けは、シリコンカーバイド系のセラミック製のボールベアリングを有する、[5]に記載の多孔質膜処理装置。
[7]前記処理槽がチタン製である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
[8]前記処理槽の内部に冷却器が設けられている、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多孔質膜処理装置によれば、薬液処理停止時に多孔質膜に薬液が接触しないようにする作業を簡便にできる。
本発明の多孔質膜処理装置において、処理槽は、その内部を、薬液が移動可能に複数の部屋に仕切る仕切り板を有しており、薬液が多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっていれば、薬液を効率的に多孔質膜に接触させて浸透させることができる。
第2のガイド手段が、仕切り板により仕切られて形成された処理槽内の各洗浄室にそれぞれ1個ずつ配されていれば、薬液をより効率的に多孔質膜に接触させて浸透させることができる。
また、第1ガイド手段および第2ガイド手段が、いずれも直径80mm以上のフリーロールからなるガイドロールにより構成されると、多孔質膜の細径化および扁平化等の異形化を防止できる。
ガイドロールに取り付けられる軸受けが、ポリエーテルエーテルケトン製の外輪及び内輪と、フッ素樹脂製またはフッ素樹脂を表面被覆したリテーナーを有する回転軸受けとを備えれば、多孔質膜の異形化をより防止できる。
また、前記回転軸受けが、シリコンカーバイド系のセラミック製のボールベアリングを有すれば、磨耗を抑制することができる。
また、処理槽がチタン製であれば、錆の発生を防止できる。
また、処理槽の内部に冷却器が設けられていれば、多孔質膜中に、活性な酸化剤を充分量保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の多孔質膜処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1の多孔質膜処理装置を構成する処理槽を示す上面図である。
【図3】図1の多孔質膜処理装置を構成する薬液浸漬部において、支持部材を上昇させた態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多孔質膜処理装置の一実施形態について、中空糸膜の処理例を一例として説明する。
図1に、本実施形態の多孔質膜処理装置の模式図を示す。本実施形態の多孔質膜処理装置1は、薬液浸漬部10と加熱部20と洗浄部30と乾燥部40とを有する。
【0009】
(薬液浸漬部)
本実施形態における薬液浸漬部10は、薬液Bが入れられた処理槽11と、中空糸膜Aが薬液に複数回浸漬されるように中空糸膜Aをガイドする第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bと、第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bを支持する支持部材13と、処理槽11の内部に設けられた冷却器14と、薬液Bを処理槽11に供給する薬液供給管15と、処理槽11から薬液Bを排出する薬液排出管16とを備える。
【0010】
本実施形態においては、処理槽11は略直方体状であり、その内部を薬液Bが移動可能に複数の洗浄室に仕切る仕切り板11a、11bを有しており、薬液Bが中空糸膜Aの移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっている。本実施形態における処理槽11は、図2に示すように、上面視で長方形の開口部11cを有しており、開口部11cの長手方向に沿った両側壁(第1側壁11d、第2側壁11e)に垂直に、仕切り板11a、11bが複数取り付けられている。仕切り板11a、11bの長さは、第1側壁11dと第2側壁11eとの間の長さよりも短くされている。これにより、仕切り板11aと第2側壁11eとの間、仕切り板11bと第1側壁11dとの間に隙間が形成されている。また、第1側壁11dに取り付けられた仕切り板11aと、第2側壁11eに取り付けられた仕切り板11bとは交互に配置されている。
このような処理槽11では、仕切り板11a、11bに沿って薬液Bが蛇行しながら、中空糸膜Aの移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっている。
また、処理槽11は、耐食性を有する材質とされ、なかでも、チタンが好ましい。処理槽11がチタン製であれば、腐食防止効果が高く、錆の発生を抑制できるため、処理槽11の劣化を抑制でき、また、錆の接触による中空糸膜Aの傷付きを防止できる。
【0011】
本実施形態における第1のガイド手段12aは、薬液Bの液面11fよりも上方に位置するように複数設けられたロールであり、仕切り板11a、11bの上方に設けられている。また、第2のガイド手段12bは、処理槽11の薬液Bの液面11fよりも下方に位置するように複数設けられたロールであり、仕切り板11a、11bによって仕切られて形成された洗浄室11gの内部に設けられている。
これら第1のガイド手段12aと第2のガイド手段12bとに、中空糸膜Aを交互に掛け回して移送方向を反転させることによって、中空糸膜Aを鉛直方向に往復させながら移送させて、中空糸膜Aの薬液Bへの浸漬と中空糸膜Aの薬液Bからの引き上げとを繰り返すようになっている。これにより、中空糸膜Aを薬液Bに複数回浸漬するようになっている。
【0012】
本実施形態における第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bは直径80mm以上のフリーロールであることが好ましく、90mm以上であることがより好ましい。ここで、フリーロールとは、モータ等の駆動手段が取り付けられていないロールのことである。
第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bの直径が80mm以上であれば、中空糸膜Aに付与される張力を抑制でき、中空糸膜の細径化および扁平化等の異形化を防止できる。また、実用性の点からは、第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bの直径は100mm以下であることが好ましい。
また、第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bに取り付けられる軸受けは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂などの耐擦過性に優れた部材からなる外輪及び内輪と、フッ素樹脂製または表面がフッ素樹脂で被覆されたリテーナーを有する回転軸受けとを備えるものが好ましい。これらのうち、後述の酸化剤耐性に優れ、酸化剤を含む薬液を用いても割れにくいことから、外輪及び内輪にはポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いることが好ましく、リテーナーに用いるフッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を用いることが好ましい。
軸受けが上記のようなものであると、磨耗しにくく、ベアリングの交換頻度を減らすことができ、また、回転不良による張力の上昇を抑えることができるため、中空糸膜Aの異形化(細径化や扁平化)をより防止できる。
回転軸受けの例としては、ボールベアリングなどが挙げられるが、ボールベアリングを用いる場合には、耐摩耗性の面から、ベアリング球がセラミック、特にシリコンカーバイド系のセラミックを用いることが好ましい。
【0013】
支持部材13は、第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bを各々支持すると共に上下動可能なものである。これにより、第2のガイド手段12bを処理槽11内の薬液Bに浸漬したり、図3に示すように、第2のガイド手段12bを薬液Bから引き上げたりできるようになっている。支持部材13の上下動は自動であってもよいし、手動であってもよいが、作業をより簡便にする点では、自動であることが好ましい。
【0014】
冷却器14は、その内部に冷却水等の冷媒が流れて冷却できるようになっている。本実施形態では、冷却器14は、中空糸膜Aの移送方向の最下流側(薬液Bの最上流側)の洗浄室11gに、仕切り板11a、11bと平行に取り付けられている。冷却器14の材質は、耐腐食性の点から、チタンであることが好ましい。
薬液供給管15は、中空糸膜Aの移送方向の最下流側の洗浄室11gに取り付けられ、薬液排出管16は、中空糸膜Aの移送方向の最上流側の洗浄室11gに取り付けられている。
【0015】
(加熱部)
本実施形態における加熱部20は、加熱容器21と、加熱容器21の内部に設けられた加熱手段22と、加熱容器21の内部にて中空糸膜Aの走行方向をガイドするガイド手段23とを備える。
本実施形態における加熱手段22は、水蒸気等の加熱用蒸気を噴出する蒸気噴出手段からなり、蒸気によって加熱容器21の内部を加熱するものである。蒸気噴出手段としては、蒸気を供給した配管22aに複数の噴出口22bが形成されたものが使用される。
ガイド手段23は、加熱容器21の上側に配置された上部ガイドロール23aと、加熱容器21の下側に配置された下部ガイドロール23bとからなっている。上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bは各々複数設けられており、中空糸膜Aは上部ガイドロール23aと下部ガイドロール23bとに交互に巻き掛けられる。このようなガイド手段23では、中空糸膜Aの移送方向が鉛直方向になるように中空糸膜Aの移送方向を反転させながら、中空糸膜Aを移送するようになっている。
【0016】
上記の加熱部20では、加熱手段22から蒸気を噴出することによって加熱容器21内を加熱し、ガイド手段23によって走行する中空糸膜Aを気相中で加熱できるようになっている。
【0017】
(洗浄部)
本実施形態における洗浄部30は、洗浄液Cが入れられる洗浄槽31と、第1減圧洗浄手段32と、加圧洗浄手段33と、第2減圧洗浄手段34と、ガイドロール35とを備える。第1減圧洗浄手段32と加圧洗浄手段33と第2減圧洗浄手段34は、洗浄槽31内の洗浄液Cに浸漬されている。また、上流側から、第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33、第2減圧洗浄手段34の順に配置されている。
第1減圧洗浄手段32および第2減圧洗浄手段34には真空ポンプ32a、34aが接続されており、真空ポンプ32a、34aによって中空糸膜Aの外側を減圧して、中空糸膜Aの内部の親水性ポリマー水溶液を中空糸膜Aの外側に排出するようになっている。
加圧洗浄手段33には加圧ポンプ33aが接続されており、加圧ポンプ33aによって中空糸膜Aの外側を加圧して、中空糸膜Aの外側から洗浄液Cを中空糸膜Aの内部に圧入するようになっている。
ガイドロール35は、中空糸膜Aが洗浄槽31内を走行すると共に、第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33および第2減圧洗浄手段34の内部を走行するように配置されている。
【0018】
(乾燥部)
乾燥部40は、洗浄部30で洗浄された中空糸膜Aを乾燥するものである。具体的には、熱風乾燥機、真空乾燥機などが挙げられる。
乾燥部40よりも下流側には、中空糸膜Aを巻き取るボビン等の巻き取り手段が設けられていてもよい。
【0019】
(中空糸膜の処理方法)
上記処理装置を用いた中空糸膜の処理方法の一例について説明する。
本処理例は、薬液浸漬工程と加熱工程と洗浄工程と乾燥工程とを有する。
【0020】
[薬液処理工程]
薬液処理工程では、親水性ポリマーが残留する中空糸膜Aを薬液Bに浸漬する。
具体的には、薬液供給管15を介して処理槽11の洗浄室11gに薬液Bを供給し、仕切り板11a、11bによって仕切られた処理槽11内を蛇行させながら、洗浄室11gから洗浄室11gに向かって移動させる。
それと共に、支持部材13を下降させて第2のガイド手段12bを処理槽11内の薬液Bに浸漬させる。次いで、中空糸膜Aを第1のガイド手段12aと第2のガイド手段12bとの間を往復させながら移送させる。これにより、中空糸膜Aを走行させながら、中空糸膜Aの薬液Bへの浸漬と中空糸膜Aの薬液Bからの引き上げとを繰り返して、中空糸膜Aに薬液Bを浸透させる。
薬液処理工程を停止した際には、図3に示すように、支持部材13を上昇させ、第2のガイド手段12bを処理槽11内の薬液Bから引き上げて、中空糸膜Aを薬液Bに浸漬させないようにする。
【0021】
薬液Bに含まれる酸化剤としては、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過硫酸塩等を挙げられる。これらのなかでも、酸化力が強く分解性能に優れること、取扱性に優れること、安価なこと等の点より、次亜塩素酸塩が好ましい。次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられ、なかでも、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0022】
薬液Bの温度は50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。薬液温度が50℃以下であれば、処理槽11内での親水性ポリマーの酸化分解を抑制でき、酸化剤の消費量を抑えることができる。薬液Bは、冷却器14によって冷却することができる。
ただし、過度に低温であると、酸化分解は抑制されるものの、温度制御に要するコストが高くなる傾向にある。そのため、薬液Bの温度は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0023】
本例において、中空糸膜は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとこれらを溶解する溶媒とを含む製膜原液を紡糸ノズルから吐出し、凝固液で凝固させ、必要に応じて洗浄して得たものであり、充分に多孔質膜化していてもよいし、多孔質膜化が不充分な前駆体であってもよい。
製膜原液は、紡糸ノズルから送出した中空紐状支持体の周面に吐出してもよい。中空紐状支持体としては、編紐または組紐を使用することができる。編紐または組紐を構成する繊維として、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維等が挙げられる。また、繊維の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸のいずれであってもよい。
【0024】
疎水性ポリマーとしては、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。また、これらの共重合体であってもよい。疎水性ポリマーを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記疎水性ポリマーのなかでも、次亜塩素酸などの酸化剤に対する耐久性が優れる点から、フッ素系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンやフッ化ビニリデンと他の単量体からなる共重合体が好ましい。
親水性ポリマーは、製膜原液の粘度を中空糸膜の形成に好適な範囲に調整し、製膜状態の安定化を図るために添加されるものであって、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどが好ましく使用される。これらの中でも、中空糸膜の孔径の制御や中空糸膜の強度の点から、ポリビニルピロリドンやポリビニルピロリドンに他の単量体が共重合した共重合体が好ましい。
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルモルホリン−N−オキシドなどが挙げられ、これらを1種以上使用できる。また、溶媒への疎水性ポリマーや親水性ポリマーの溶解性を損なわない範囲で、疎水性ポリマーや親水性ポリマーの貧溶媒を混合して使用してもよい。
【0025】
[加熱工程]
加熱工程では、加熱部20によって、薬液が浸透した中空糸膜Aを気相中で加熱し、親水性ポリマーを酸化分解して低分子量化する。
具体的には、まず、加熱手段22の噴出口22bから、水蒸気等の蒸気を噴出させ、その蒸気によって加熱容器21の内部を加熱する。次いで、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを、上部ガイドロール23aと下部ガイドロール23bとに交互に巻き掛けて移送することによって、鉛直方向に往復させながら移送する。これにより、加熱した加熱容器21の内部に、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを走行させる。
【0026】
加熱容器21内部の相対湿度は、酸化剤の乾燥を防いで親水性ポリマーの酸化分解を促進できることから、80%以上が好ましく、90%以上とすることがより好ましく、100%近傍とするのが最も好ましい。
加熱温度の下限は、加熱処理時間を短くできることから50℃とすることが好ましく、80℃とすることがより好ましい。加熱温度の上限は、大気圧状態では100℃とすることが好ましい。ここで、加熱温度とは、加熱容器21内の温度のことである。
【0027】
上記のように、気相中で中空糸膜Aを加熱する本実施形態の加熱工程では、加熱した加熱容器21の内部に、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを走行させることにより、中空糸膜Aに残留する親水性ポリマーを薬液B中の酸化剤によって酸化分解する。また、上記加熱工程では、中空糸膜A中に浸透した薬液Bが希釈されにくく、また、薬液Bが加熱媒体中に流出しにくいため、薬液B中の酸化剤を中空糸膜A中に残存する親水性ポリマーの分解に効率的に使用できる。
【0028】
[洗浄工程]
洗浄工程では、中空糸膜Aを、第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33および第2減圧洗浄手段34を通過させながら洗浄して親水性ポリマーを除去する。
具体的には、ガイドロール35によって、中空糸膜Aを、洗浄槽31内の第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33および第2減圧洗浄手段34の内部を走行させる。
第1減圧洗浄手段32では、真空ポンプ32aによって中空糸膜Aの外側を減圧することにより、中空糸膜Aの内部の親水性ポリマー水溶液を中空糸膜Aの外側に排出させる。
加圧洗浄手段33では、加圧ポンプ33aによって中空糸膜Aの外側を加圧することによって、中空糸膜Aの外側から洗浄液Cを中空糸膜Aの内部に圧入し、洗浄液Cで親水性ポリマーを置換、希釈する。
第2減圧洗浄手段34では、真空ポンプ34aによって中空糸膜Aの外側を再度減圧して、中空糸膜Aの内部の親水性ポリマー水溶液を中空糸膜Aの外側に排出させる。
これにより、中空糸膜Aから親水性ポリマーを除去する。
【0029】
[乾燥工程]
乾燥工程の方法としては特に制限はなく、熱風乾燥、真空乾燥等を適用することができる。乾燥工程後には、乾燥された中空糸膜をボビン等の巻き取り手段に巻取ってもよい。
【0030】
(作用効果)
上記実施形態では、薬液浸漬部10にて、中空糸膜Aに薬液Bを浸透させ、加熱部20にて、薬液Bを浸透させた中空糸膜Aを加熱して、中空糸膜Aに残留する親水性ポリマーを低分子量化させ、洗浄部30にて、中空糸膜Aを洗浄して低分子量化した親水性ポリマーを除去する。
上記薬液浸漬部10では、支持部材13が上下動するようになっており、薬液処理の最中には、支持部材13を下降させて中空糸膜Aを薬液Bに浸漬させることができ、薬液処理を停止した際には、支持部材13を上昇させて、中空糸膜Aを薬液Bに浸漬させないようにすることができる。したがって、中空糸膜Aを切断する作業と再開時に中空糸膜Aを第1のガイド手段12aおよび第2のガイド手段12bにかけ直す作業とが不要になるため、薬液処理停止時に中空糸膜に薬液が接触しないようにする作業を簡便にできる。さらに、支持部材13を上昇させることによって、薬液Bに浸漬していた中空糸膜Aの全部を迅速に薬液Bから引き上げることができる。
また、上記薬液浸漬部10では、薬液Bを中空糸膜Aの移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっており、中空糸膜Aの下流側ほど、酸化剤濃度が高い薬液Bに接触するようになっている。そのため、薬液浸漬工程後の中空糸膜A中の酸化剤濃度を一定化しやすい。さらに、仕切り板11a、11bによって薬液Bの流れを蛇行させて滞留時間を長くするため、薬液Bを効率的に中空糸膜Aに接触させて浸透させることができる。
また、上記薬液浸漬部10では、処理槽11の内部の薬液を冷却器14によって冷却できる。薬液Bを冷却すると、中空糸膜Aに残留する親水性ポリマーおよび中空糸膜Aから脱落した親水性ポリマーと、薬液Bに含まれる酸化剤との反応を抑制できる。そのため、加熱部20に移送する中空糸膜A中に、活性な酸化剤を充分量保持させることができる。
【0031】
(他の実施形態)
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
例えば、薬液浸漬部では、処理槽が仕切り板で仕切られていなくてもよい。また、中空糸膜を薬液に繰り返し浸漬させず、1回の浸漬であってもよい。また、薬液を、中空糸膜の移送方向の上流側から下流側に移動させてもよい。
また、薬液浸漬部は冷却器を複数の洗浄室に備えてもよいし、全ての洗浄室に冷却器を備えていなくてもよい。
加熱部は、蒸気を中空糸膜に直接吹き付けて加熱するものであってもよい。
また、上記実施形態における洗浄部は減圧洗浄手段を加圧洗浄手段の上流側と下流側に備えていたが、上流側または下流側のみであってもよい。また、第2減圧洗浄手段の下流側に加圧洗浄手段と減圧洗浄手段をさらに備えてもよい。また、減圧洗浄手段または加圧洗浄手段のみであっても構わない。
また、本発明の処理装置は、中空糸膜のみならずフィルム膜等の平膜に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 薬液浸漬部
11 処理槽
11a,11b 仕切り板
11c 開口部
11d 第1側壁
11e 第2側壁
11f 液面
11g,11g,11g 洗浄室
12a 第1のガイド手段
12b 第2のガイド手段
13 支持部材
14 冷却器
15 薬液供給管
16 薬液排出管
20 加熱部
21 加熱容器
22 加熱手段
22a 配管
22b 噴出口
23 ガイド手段
23a 上部ガイドロール
23b 下部ガイドロール
30 洗浄部
31 洗浄槽
32 第1減圧洗浄手段
32a 真空ポンプ
33 加圧洗浄手段
33a 加圧ポンプ
34 第2減圧洗浄手段
34a 真空ポンプ
35 ガイドロール
40 乾燥部
A 中空糸膜
B 薬液
C 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜または多孔質膜前駆体の薬液処理工程に用いられる多孔質膜の処理装置であって、
薬液が入れられた処理槽と、
該処理槽の外側に設置され、多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向を転回させて、多孔質膜または多孔質膜前駆体を前記薬液に浸漬させるように走行させる第1のガイド手段と、
薬液中を走行する多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向を転回させて、多孔質膜または多孔質膜前駆体を液面上に引き上げるように走行させる第2のガイド手段と、
前記第1のガイド手段および前記第2のガイド手段を各々支持するとともに、上下に移動可能な支持部材とを備える多孔質膜処理装置。
【請求項2】
前記処理槽は、その内部を、前記薬液が移動可能に複数の部屋に仕切る仕切り板を有しており、薬液が多孔質膜または多孔質膜前駆体の移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっている、請求項1に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項3】
前記第2のガイド手段は、前記仕切り板により仕切られて形成された処理槽内の各洗浄室にそれぞれ1個ずつ配されている、請求項2に記載された多孔質膜処理装置。
【請求項4】
前記第1ガイド手段および前記第2ガイド手段は、いずれも直径80mm以上のフリーロールからなるガイドロールにより構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項5】
ガイドロールに取り付けられる軸受けが、ポリエーテルエーテルケトン製の外輪及び内輪と、フッ素樹脂製またはフッ素樹脂を表面被覆したリテーナーを有する回転軸受けとを備える、請求項4に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項6】
前記回転軸受けは、シリコンカーバイド系のセラミック製のボールベアリングを有する、請求項5に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項7】
前記処理槽がチタン製である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項8】
前記処理槽の内部に冷却器が設けられている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−228679(P2012−228679A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99966(P2011−99966)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】