説明

多官能ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】
多官能ポリオールへのラクトン化合物の開環付加によって、分岐性がより高い多官能ポリエステル樹脂を、着色することなく得る製造方法を提供する。
【解決手段】
多官能ポリオールにラクトン化合物を開環付加して、多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法であって、
(1)多官能ポリオールにラクトン化合物a−1を開環付加する工程、
(2)鎖延長停止剤を加える工程
(3)さらにラクトン化合物a−2を開環付加する工程、
からなる製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1つの分子内に3つ以上の官能基末端を持つ、いわゆるスター型の構造を有する化合物は、硬化反応に用いた場合に物性向上が図れるなどの利点を有していることが知られている。アクリル樹脂やポリエステル樹脂において、3つ以上の官能基末端を持たせることは容易であるが、この場合には、一般的に官能基が主鎖に対して近い位置に存在していて分岐性が低くなってしまい、上記のような利点を有しない。
【0003】
一方、環状エステル化合物であるラクトン化合物が水酸基に開環付加重合することによって、ポリエステル化合物が得られることが知られている(例えば、特許文献1)。そこで、3つ以上の水酸基を有する多官能ポリオールにラクトン化合物を開環付加重合させることによって、分岐性が高いポリエステル化合物を得ることができるはずである。
【0004】
しかし、多官能ポリオールへのラクトン化合物の開環付加重合は、無触媒で行うと、分岐性が高いポリエステル化合物が得られる。しかし、着色が著しいため、その用途が限定されてしまう。これに対し、ラクトン化合物の開環重合触媒としてよく知られているリン酸などの酸触媒を用いた場合には、多官能ポリオールの水酸基よりも開環付加して生じた水酸基への開環付加重合が優先して起こるため、結果として、一部の水酸基のみにポリエステル鎖が形成された構造を有する、分岐性の低いものしか得ることができない。
【特許文献1】特開平04−292620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多官能ポリオールへのラクトン化合物の開環付加によって、分岐性がより高い多官能ポリエステル樹脂を、着色することなく得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の製造方法は、多官能ポリオールにラクトン化合物を開環付加して、多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法であって、
(1)多官能ポリオールにラクトン化合物a−1を開環付加する工程、
(2)鎖延長停止剤を加える工程
(3)さらにラクトン化合物a−2を開環付加する工程、
からなるものである。ここで、上記ラクトン化合物a−1と上記ラクトン化合物a−2とのモル比が3/7〜7/3であってよい。また、さらに、(4)官能基導入剤を加える工程を含んでいてもよく、上記ラクトン化合物a−1と上記ラクトン化合物a−2とが同一化合物であってよい。また、上記ラクトン化合物a−1と上記ラクトン化合物a−2とがε−カプロラクトンであってよく、上記鎖延長停止剤と上記官能基導入剤とが同一化合物であってよい。
本発明の多官能ポリエステル樹脂は、先の製造方法によって得られるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法は、ラクトン化合物を2段階で開環付加させるため、分岐性がより高い多官能ポリエステル樹脂を着色することなく得ることができる。これは以下のように考えることができる。すなわち、多官能ポリエステル樹脂を得るための出発物質である多官能ポリオールの水酸基よりも、その水酸基にラクトン化合物が開環付加して生じた水酸基の方が立体障害が少ない。このため、ラクトン化合物を一時に加えた場合、ラクトン化合物は開環付加して生じた水酸基に次々と付加してしまい、結果として、1つ、または2つの長い鎖を持つ、分岐性の低いポリエステル樹脂が得られることとなる。
【0008】
これに対し、本発明の製造方法では、開環付加重合の成長末端となる水酸基を鎖延長停止剤で変性してしまうことにより、それ以上に鎖長が伸びることを防止した後にラクトン化合物をさらに加えるため、それまで未反応だった多官能ポリオールの水酸基に開環付加することができ、結果として、分岐性のより高い多官能ポリエステル樹脂を着色することなく得ることができる。
【0009】
本発明の製造方法で得られた多官能ポリエステル樹脂は、従来の一括仕込みにより得られたものよりも分岐性が高いため、塗料に用いた場合、固形分濃度を高めるとともに、架橋密度を増加させることができる。また、無触媒で製造した場合に比べ、着色が外観に影響を及ぼすことがないので種々の分野に適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法は、多官能ポリオールにラクトン化合物を開環付加して、多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法である。
【0011】
上記多官能ポリオールとしては、水酸基を1分子中に3個以上有する化合物が挙げられる。具体例として、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、α−メチルグルコシド、ソルビトール、キシリット、マンニット、ジペンタエリスリトール、グルコース、フルクトース、ショ糖などが挙げられるが、後述するラクトン化合物との溶解性および反応性を考慮すると、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが好ましい。最も好ましいのは、水酸基数の多いペンタエリスリトールである。
【0012】
一方、上記多官能ポリオールに対して反応させるラクトン化合物としては、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトンなどの各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトンなどが挙げられるが、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンが入手容易性の点から好ましい。最も好ましいのは、ε−カプロラクトンである。
【0013】
本発明の多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法は、少なくとも下記の3つの工程からなる。
(1)多官能ポリオールにラクトン化合物a−1を開環付加する工程、
(2)鎖延長停止剤を加える工程
(3)さらにラクトン化合物a−2を開環付加する工程、からなる。
【0014】
上記第1の工程においては、多官能ポリオールに対して、ラクトン化合物a−1の開環付加を行う。上記多官能ポリオールおよびラクトン化合物の具体例については、すでに述べた。
【0015】
上記第1の工程における上記多官能ポリオールに対する上記ラクトン化合物a−1の量は以下のようにして決定することができる。まず、上記多官能ポリオール1分子に導入するラクトン化合物のモル数Aを先に決めておく。このモル数Aは、上記多官能ポリオール1分子が有する水酸基の個数に4をかけて得られる値以下であることが好ましい。この値を越えると、結晶化が生じて流動しなくなるおそれがある。一方、下限値としては、分岐性を有するため、上記多官能ポリオール1分子が有する水酸基の個数以上であることが好ましい。なお、上記モル数Aは整数でなくてもよい。次に、上記第1の工程において使用する上記ラクトン化合物a−1を選択し、その量を、上記モル数Aに対して25〜75%の範囲内になるように決定する。これらの範囲外では分岐性が低下するおそれがある。
【0016】
上記多官能ポリオールとラクトン化合物a−1との開環付加重合反応自体は、一般的によく知られているものである。すなわち、攪拌装置、脱水管、窒素ガス吸込管および冷却管を備えた反応容器に、上記多官能ポリオールとラクトン化合物a−1とを所定量仕込み、ここに開環付加重合のための触媒を加え、内容物を攪拌下、140〜180℃で2〜8時間反応させることにより行われる。上記触媒としては、テトラブチルチタネート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウレートなどのスズ系触媒、リン酸などを用いることができる。
【0017】
上記第1の工程は、用いたラクトン化合物a−1が消費されるまで行われることが好ましい。このため、ガスクロマトグラフィーなどの上記ラクトン化合物a−1の残存を確認することができる分析手段によって、上記反応の進行状況を追跡して、終点を決定することができる。
【0018】
上記第1の工程終了時の生成物の多くは、上記ラクトン化合物a−1が、上記多官能ポリオールが有する水酸基のうち、1個または2個の水酸基に対して付加したものであるものと考えられる。
【0019】
本発明の多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法において、上記第1の工程の後に、鎖延長停止剤を加える第2の工程を実施する。この第2の工程では、後の第3の工程において、ラクトン化合物a−1が付加して生じた水酸基からの開環付加重合の進行を防止するため、上記鎖延長停止剤によって、ラクトン化合物a−1が付加して生じた水酸基の変性を行う。
【0020】
このため、上記鎖延長停止剤は、水酸基と反応しうる官能基を有している必要がある。上記水酸基と反応しうる官能基としては、反応性が高いものが好ましく、酸無水物基、酸ハロゲン基、イソシアネート基などが挙げられる。このため、これらの高反応性基を有する化合物を鎖延長停止剤として用いることができる。
【0021】
上記酸無水物基は、水酸基と反応してカルボキシル基を生成するため、カルボキシル基を官能基として導入したい場合に好ましい。また、イソシアネート基は水酸基と反応してウレタン結合を生成する。また、上記水酸基と反応しうる官能基以外の別の官能基、例えば、重合性二重結合を有することで、末端に官能基を導入することが可能である。
【0022】
これらの鎖延長停止剤の具体例としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸、無水アジピン酸、無水アゼライン酸、無水セバシン酸などの酸無水物、(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリロイルイソシアネートなどが挙げられる。
【0023】
第2の工程においては、上記第1の工程で得られた生成物に上記鎖延長停止剤が加えられる。その後、必要に応じて、鎖延長停止剤と水酸基とが反応するよう加熱などの条件を整える。上記第2の工程は、鎖延長停止剤が消費されるまで行われることが好ましい。このため、第1の工程と同様に、使用する鎖延長停止剤の残存を確認することができる分析手段によって、上記反応の進行状況を追跡して、終点を決定することができる。
【0024】
上記鎖延長停止剤の量は、上記第1の工程で用いられたラクトン化合物a−1に対して、1〜2倍のモル量であることが好ましい。1倍未満だと、ラクトン化合物a−1が付加して生じた水酸基からの開環付加重合の進行を防止できず、分岐性が低下するおそれがある。一方、2倍を上回ると、未反応の多官能ポリオールの水酸基との反応が生じてしまい、目的とする化合物が得られないおそれがある。
【0025】
なお、第1の工程終了時において系内には、ラクトン化合物a−1が付加して生じた水酸基以外に、多官能ポリオールの水酸基が存在する。一般的に、ラクトン化合物a−1の付加により生じた水酸基の方が多官能ポリオールの水酸基よりも反応性が高いと考えられるため、上記鎖延長停止剤は、主として、ラクトン化合物a−1が付加して生じた水酸基と反応すると思われるが、多官能ポリオールの水酸基との反応を完全に否定することはできない。
【0026】
本発明の多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法において、上記第2の工程の後に、さらにラクトン化合物a−2を開環付加する第3の工程を実施する。
【0027】
上記ラクトン化合物a−2は、先に説明した上記ラクトン化合物の中から選ばれるものであり、上記ラクトン化合物a−1と異なっていてもよいが、特別な意図がない限り、上記ラクトン化合物a−1と上記ラクトン化合物a−2とは同一化合物であることが好ましい。最も好ましいラクトン化合物a−2は、ε−カプロラクトンである。
【0028】
第3の工程においては、上記第2の工程で得られた生成物に上記ラクトン化合物a−2を加え、先の第1の工程で説明した開環付加重合反応の内容に基づき実施することができる。
【0029】
上記第3の工程において用いられる、上記ラクトン化合物a−2の量は、上記多官能ポリオール1分子に導入するラクトン化合物のモル数Aから、上記第1の工程において用いたラクトン化合物a−1のモル数を除いたモル数に基づく量である。上記ラクトン化合物a−1と上記ラクトン化合物a−2とが同一化合物である場合、上記ラクトン化合物a−2の量は、上記多官能ポリオール1分子に導入するラクトン化合物の総量から、上記第1の工程において用いたラクトン化合物a−1の量を除いた残りの量となる。このとき、上記ラクトン化合物a−1とラクトン化合物a−2とのモル比は3/7〜7/3とすることができる。これ以外の範囲では、ラクトン化合物を違える意味が認められにくい。
【0030】
上記第3の工程の終了は、上記第1の工程における説明と同様に、ラクトン化合物a−2の量を追跡することにより決定することができる。上記第3の工程が終了した時点で、ラクトン化合物の開環により生じた水酸基が鎖延長停止剤で変性された末端基を有する鎖とラクトン化合物の開環により生じた末端水酸基を有する鎖とを持つ多官能ポリエステル樹脂が得られていると考えられる。
【0031】
本発明の多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法において、上記第3の工程の後に、さらに官能基導入剤を加える第4の工程を実施することができる。この工程は、上記第3の工程が終了した時点で得られる化合物が有する官能基とは、異なる官能基を導入することを目的とする。
【0032】
上記官能基導入剤は、水酸基と反応する官能基を有している。また、必要に応じて、上記水酸基と反応する官能基以外の反応性官能基を有することができる。上記官能基導入剤として、カルボキシル基を導入する場合には、先に鎖延長停止剤として例示した、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸、無水アジピン酸、無水アゼライン酸、無水セバシン酸などの酸無水物を用いることができる。重合性二重結合を導入する場合には、先に挙げた(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリロイルイソシアネートに加えて、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチルなどの一般的なメタクリル酸エステルなどを用いることができる。また、活性メチレン基を導入する場合には、アセト酢酸メチルやマロン酸エチルなどの活性メチレン基含有エステル化合物を用いることができる。さらに、イソシアネート基を導入する場合には、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を用いることができる。
【0033】
上記第2の工程で使用した鎖延長停止剤と上記官能基導入剤とは、同一の化合物でなくてもよいが、より同一の官能基を多く有する化合物を得るためには、上記鎖延長停止剤と上記官能基導入剤とは、同一化合物であることが好ましい。
【0034】
上記第4の工程は、先の鎖延長停止剤を用いる第2の工程と同様にして行うことができる。第4の工程によって、ラクトン化合物の開環により生じた水酸基が鎖延長停止剤または上記官能基導入剤で変性された末端基を有する鎖を持つ多官能ポリエステル樹脂が得られていると考えられる。
【0035】
本発明の製造方法により得られるものを、多官能ポリエステル樹脂としたことは以下の理由による。多官能ポリオールに対する複数分子のラクトン化合物の開環付加を完全に制御することができるのであれば、単一構造の化合物が得られるはずである。しかし、実際には、上記多官能ポリオールの各水酸基へのラクトン化合物の付加モル数を完全に制御することは実質的に不可能である。このため、単一の構造ではない、分子量分布を持つ混合物が得られる。よって、この混合物が多官能ポリオールからラクトン化合物が開環付加重合して得られることから、多官能ポリエステル樹脂と名付けた。
【0036】
本発明の多官能ポリエステル樹脂は、先の製造方法によって得られるものである。その製造方法については、先に詳細な説明を行っている。上記多官能ポリエステル樹脂は、原料として用いられた多官能ポリオール1分子に複数分子のラクトン化合物が付加しており、その末端に官能基が存在する構造を有している。るため、上記多官能ポリエステル樹脂は単一の構造ではなく、種々の構造を有する混合物であると考えられる。
【0037】
上記多官能ポリエステル樹脂は分岐性が高い。例えば、多官能ポリオールがペンタエリスリトールである場合、ペンタエリスリトールが有する水酸基の個数は4なので、ラクトン化合物が付加した水酸基の個数が2個以上であれば、分岐性が高いと言える。なお、上記多官能ポリオールが有する水酸基にラクトン化合物が付加した個数は、種々の分析手段、例えば、C13−NMRによって定量することが可能である。上記分岐性の高さは、通常の方法、すなわち、ラクトン化合物を一括仕込みして、触媒存在下で付加反応させたときに得られる多官能ポリエステル樹脂の分岐性に比べて高いかどうかで判断される。なお、上記多官能ポリオールが有する水酸基の個数に対する、ラクトン化合物が付加した水酸基の個数の比率は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
上記多官能ポリエステル樹脂が有する官能基としては、水酸基、カルボキシル基、重合性二重結合基、活性メチレン基、イソシアネート基、ウレタン結合などが挙げられる。上記官能基が水酸基以外の場合、その種類は先の製造方法で説明した鎖延長停止剤および官能基導入剤が有する官能基に基づくものである。一方、水酸基である場合には、その量は上記官能基導入剤の使用量に基づく。なお、上記カルボキシル基、重合性二重結合基、活性メチレン基については、上記鎖延長停止剤と官能基導入剤とを同じものにすることで、上記多官能ポリエステル樹脂が有する官能基を同じ種類のものにすることができる。
【0039】
上記多官能ポリエステル樹脂が有する官能基がカルボキシル基である場合、上記多官能ポリエステル樹脂の固形分酸価は50〜350であることが好ましい。酸価が350を越えると樹脂の粘度が高くなりすぎて作業性が劣るおそれがあり、酸価が50を下回るとカルボキシル基の機能を十分に発現できないおそれがある。より好ましくは100〜300、さらに好ましくは150〜250mgKOH/gである。
【0040】
上記多官能ポリエステル樹脂の数平均分子量は、400〜3500であることが好ましい。分子量が3500を越えると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて作業性が劣るおそれがあり、分子量が400を下回るとラクトン化合物を開環付加する効果が得られにくい。より好ましくは500〜2500、さらに好ましくは700〜2000である。また、重量平均分子量/数平均分子量との比率は1.8以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.5以下、より好ましくは1.35以下である。
【実施例】
【0041】
以下本発明について実施例を掲げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0042】
実施例1
ペンタエリスリトール136部、ε−カプロラクトン456部(ペンタエリスリトールに対して4倍モル量)およびジブチルスズオキサイド0.12部を反応容器に仕込み、170℃まで加熱して、窒素を吹き込みながら2.5時間攪拌を行った。ガスクロマトグラフィーでε−カプロラクトンのピークが消失していることを確認し、100℃まで冷却した。無水ヘキサヒドロフタル酸308部(ペンタエリスリトールに対して2倍モル量)を加え、150℃まで昇温して、そのまま1.5時間攪拌を続けた。FT−IRで酸無水物基に基づくピークが消失していることを確認し、ε−カプロラクトン456部(ペンタエリスリトールに対して4倍モル量)を加えて、140℃で1.5時間攪拌した。先と同様にFT−IRでε−カプロラクトンに基づくピークが消失していることを確認し、無水ヘキサヒドロフタル酸231部(ペンタエリスリトールに対して1.5倍モル量)を加え、150℃で1.5時間反応を行い、FT−IRで酸無水物基に基づくピークが消失していることを確認し、反応を終了した。
得られた多官能ポリエステル樹脂の数平均分子量は2470、重量平均分子量は3500であり、固形分酸価は128であった。また、デジタル色数計(日本電色工業社製OME−2000)のガードナーモードで測定した色数値は0.2であった。
【0043】
<分岐性の評価>
反応生成物について、C13−NMR測定を行った。この系において、ε−カプロラクトンが開環して得られる構造は以下の3種類と考えられる。
A.末端に水酸基を有する構造(無水ヘキサヒドロフタル酸と反応せず)
B.末端に別のε−カプロラクトンが付加した構造
C.末端に無水ヘキサヒドロフタル酸が付加した構造
ここで上記Bの構造は、さらにε−カプロラクトンが付加しているため、末端部に位置することはない。逆に上記AおよびCの構造は、ε−カプロラクトンが開環して得られた(ポリ)エステル部分において末端に位置する構造単位となる。このため、上記AおよびCの個数が、ペンタエリスリトールにおける、ε−カプロラクトンが付加した水酸基の個数となる。
【0044】
上記3種類の構造について、ε−カプロラクトンが開環して生じる水酸基のβ位に当たるメチレン基は、それぞれ、A…32.3ppm、B…28.0ppm、C…27.9ppmに出現する。よって、上記3つの位置に出現したピークの面積を合計し、A〜Cそれぞれのピーク面積をこの合計値で割って得られた比率を求め、これに反応に用いたε−カプロラクトンのモル倍数である8をそれぞれ掛けたところ、A/B/Cは、0.09/5.14/2.77となった。
【0045】
上で述べたように、上記A〜Cの構造の中で、AおよびCが、ペンタエリスリトールの水酸基にε−カプロラクトンが付加した場合に生じる構造であると見なされる。すなわち、ペンタエリスリトールが有する4個の水酸基のうち、0.09+2.77=2.86個にε−カプロラクトンが付加しており、分岐性は2.86/4=約72%と高い値を示した。
【0046】
実施例2および3
実施例1において、ε−カプロラクトンの量を表1に示すように変更した以外は同様にして、多官能ポリエステル樹脂を得た。表1に得られた樹脂の特数値を挙げた。
【0047】
比較例1
ペンタエリスリトール136部、ε−カプロラクトン912部(ペンタエリスリトールに対して8倍モル量)およびジブチルスズオキサイド0.12部を反応容器に仕込み、170℃まで加熱して、窒素を吹き込みながら2.5時間攪拌を行った。ガスクロマトグラフィーでε−カプロラクトンのピークが消失していることを確認し、100℃まで冷却した。無水ヘキサヒドロフタル酸539部(ペンタエリスリトールに対して3.5倍モル量)を加え、150℃まで昇温して、そのまま1.5時間攪拌を続けた。FT−IRで酸無水物基に基づくピークが消失していることを確認し、反応を終了した。 得られた多官能ポリエステル樹脂の数平均分子量は2300、重量平均分子量は3040であり、固形分酸価は128であった。また、実施例1と同様にして、得られた色数値は0.2であった。さらに実施例1と同様にして、分岐性の評価を行ったところ、分岐性は63%であった。
【0048】
比較例2
比較例1で、ε−カプロラクトンの量を456部(ペンタエリスリトールに対して4倍モル量)に変更した以外は同様の手順で多官能ポリエステル樹脂を得た。数平均分子量は1490、重量平均分子量は1900であり、固形分酸価は174であった。また、色数値は0.1であった。さらに実施例1と同様にして、分岐性の評価を行ったところ、分岐性は約42%と低かった。
【0049】
比較例3
ペンタエリスリトール136部、ε−カプロラクトン456部(ペンタエリスリトールに対して4倍モル量)を反応容器に仕込み、170℃まで加熱して、窒素を吹き込みながら8時間攪拌を行った。ガスクロマトグラフィーでε−カプロラクトンのピークが消失していることを確認し、100℃まで冷却した。無水ヘキサヒドロフタル酸539部(ペンタエリスリトールに対して3.5倍モル量)を加え、150℃まで昇温して、そのまま1.5時間攪拌を続けた。FT−IRで酸無水物基に基づくピークが消失していることを確認し、反応を終了した。
得られた多官能ポリエステル樹脂の数平均分子量は1420、重量平均分子量は1800であり、固形分酸価は174であった。また、実施例1と同様にして、得られた色数値は6.7であった。さらに分岐性の評価を行ったところ、分岐性は70%であった。
【0050】
【表1】

本発明の実施例では、いずれも分岐性が高い多官能ポリエステル樹脂を、着色することなく得ることができた。これに対し、ラクトン化合物を一括して加えた比較例1は、実施例1に比べて低い分岐性を示した。また、実施例2では分岐性が50%を下回っていた。一方、触媒を使用しない比較例3では、分岐性が高い樹脂が得られたものの、着色が著しく、上塗り塗料の用途には使用するのが困難なレベルであったため、下記の硬化性評価を実施しなかった。
【0051】
<硬化性評価>
ハーフエステル酸基含有アクリル共重合体の製造
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた3Lの反応槽に、キシレン527.9部を仕込み127℃に昇温した。この反応槽に、滴下ロートを用い、スチレン210部、メタクリル酸シクロヘキシル225.3部、アクリル酸−2−エチルヘキシル139.4重量部、アクリル酸−n−ブチル219.6部、アクリル酸25.7部、無水マレイン酸180部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート250部およびt−ブチルパーオクトエート90部とキシレン100部とからなる溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後30分間にわたり127℃で保持した後、t−ブチルパーオクトエート5部とキシレン50部とからなる溶液を30分間で滴下した。この滴下終了後、さらに1時間、127℃にて反応を継続させ、数平均分子量2500のアクリルポリ酸無水物を含む不揮発分57%のワニスを得た。得られたワニス1922.9部に、メタノール99.2部を加え、70℃で23時間反応させ、ハーフエステル酸基含有アクリル共重合体を含むワニスを得た。なお、このハーフエステル酸基含有アクリル共重合体についてFT−IRを測定し、酸無水物基の吸収(1785cm−1)が消失しているのを確認した。
【0052】
エポキシ基および水酸基含有アクリル共重合体の製造
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた2Lの反応槽に、キシレン200部を仕込み、125℃に昇温した。この反応槽に滴下ロートを用いメタクリル酸グリシジル354部、スチレン250部、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル116部、アクリル酸−n−ブチル60重量部、メタクリル酸−イソ−ブチル220部、ジターシャルアミルパーオキサイド33部、およびキシレン90部からなる溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後30分間にわたり125℃で保持して反応を行った後、ジターシャルアミルパーオキサイド3.5部とキシレン13.2部とからなる溶液を30分間で滴下した。この滴下後、さらに1時間、125℃にて反応を継続させ、数平均分子量2200のエポキシ基および水酸基含有アクリル共重合体を含む不揮発分77.4%のワニスを得た。
【0053】
エポキシ基含有アクリル共重合体の製造
温度計、攪拌機、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた2Lの反応槽に、キシレン200部を仕込み、125℃に昇温した。この反応槽に滴下ロートを用いメタクリル酸グリシジル431部、スチレン250部、アクリル酸−n−ブチル319部、ジターシャルアミルパーオキサイド30部、およびキシレン80部からなる溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後30分間にわたり125℃で保持して反応を行った後、ジターシャルアミルパーオキサイド2.4部とキシレン8部とからなる溶液を30分間で滴下した。この滴下後、さらに1時間、125℃にて反応を継続させ、数平均分子量1600のエポキシ基含有共重合体を含む不揮発分78.2%のワニスを得た。
【0054】
クリア塗料の製造および評価
先に製造したハーフエステル酸基含有アクリル共重合体を固形分で32.3部(以下、同様)、エポキシ基および水酸基含有アクリル共重合体42.7部、およびエポキシ基含有共重合体10部に、先の実施例1〜3ならびに比較例1および2で得られた多官能ポリエステル樹脂をそれぞれ15部、チヌビン900(紫外線吸収剤、チバスペシャリティーケミカル社製)2部、チヌビン123(光安定化剤、チバスペシャリティーケミカル社製)1部およびモダフロー(表面調整剤、モンサント社製)0.1部を加え、ディスパーで攪拌してクリア塗料1〜5を得た。次いで得られた5種類のクリア塗料について、酢酸ブチル/キシレン=1/1からなるシンナーで希釈し、粘度がNo.4フォードカップで28秒となるよう調整した。希釈した塗料について、JISK 5601−1−2に示された方法で固形分濃度を測定するとともに、それぞれブリキ板上に乾燥膜厚が60μmとなるよう塗装して、140℃で25分間焼付け乾燥を行った。得られた硬化塗膜についてレオバイブロン(動的粘弾性自動測定機、オリエンテック社製)を用いて架橋密度を測定した。表2に固形分濃度および架橋密度の測定結果を示す。
【0055】
【表2】

【0056】
結果から、本発明の多官能ポリエステル樹脂を用いることで、塗装時の固形分濃度を高めるとともに、架橋密度が増加することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法で得られた多官能ポリエステル樹脂は、塗料やプラスティック成型品などの材料として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能ポリオールにラクトン化合物を開環付加して、多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法であって、
(1)多官能ポリオールにラクトン化合物a−1を開環付加する工程、
(2)鎖延長停止剤を加える工程
(3)さらにラクトン化合物a−2を開環付加する工程、
からなる、多官能ポリエステル樹脂を得る製造方法。
【請求項2】
前記ラクトン化合物a−1と前記ラクトン化合物a−2とのモル比が3/7〜7/3である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、(4)官能基導入剤を加える工程を含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ラクトン化合物a−1と前記ラクトン化合物a−2とが同一化合物である請求項1〜3いずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ラクトン化合物a−1と前記ラクトン化合物a−2とがε−カプロラクトンである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記鎖延長停止剤と前記官能基導入剤とが同一化合物である請求項1〜5いずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された製造方法によって得られる多官能ポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2007−238895(P2007−238895A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67334(P2006−67334)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】