説明

多層抄き紙の製造方法と多層抄き紙

【課題】 湿紙を複数層抄き合わせて製造する多層紙の製造方法において、少ない薬品添加量で多層抄き紙の層間強度を十分に向上する。
【解決手段】 湿紙6a、6b間の抄き合わせ箇所に向けて噴霧手段7から紙力増強剤を噴霧する。特に、紙力増強剤として、アクリルアミド・アクリル酸共重合物を用い、固形分で0.02〜0.06g/m2 、より好適には0.025〜0.05g/m2 程度の少ない添加量を噴射するだけで層間強度が十分に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層抄き紙の製造方法と多層抄き紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
梱包用や包装用に用いられる段ボールライナーやその他の板紙は多層抄きによって構成されており、板紙同士を接着剤などで接合したときに、板紙がその表層や表層下層とその下層との間で剥離してしまって、板紙間で所要の接合強度が得られないという問題が発生することがある。そのため、多層抄き紙、特に梱包用のライナーや板紙においては、層間強度の向上が求められることが多い。
【0003】
多層抄き紙において、層間強度を向上する方法としては、一般に原料パルプのフリーネスを低く調整することで層間強度を向上する方法や内添紙力増強剤を添加する方法が知られているが、効果が低いという問題がある。そこで、内添紙力増強剤として、カチオン基とアニオン基を持った両性澱粉を添加する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、抄き合わせる前の湿紙に、澱粉やカチオン性ポリアクリルアミド等を噴霧する方法も知られているが、澱粉は溶解が必要で、ハンドリング性が悪く、溶解後は腐敗し易いという問題があり、カチオン性ポリアクリルアミドは粘性があり、シリンダーワイヤの汚れが発生し易く、効果も低いという問題がある。そこで、噴霧する薬品として、アニオン性水溶性高分子微粒子と澱粉粒子を含有する混合物分散液を用いたり、イタコン酸を含むイオン性水溶性単量体と非イオン性単量体と高分子分散剤を塩水溶液中で分散重合して得られたイオン性重合体微粒子の分散液を用いることが提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2003−268699号公報
【特許文献2】特開2002−294595号公報
【特許文献3】特開2003−253593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に開示された方法では両性澱粉を内添するだけであるため、層間強度の向上に関してはなお十分な効果が得られないという問題があり、特許文献2や特許文献3に開示された薬品を用い、抄き合わせる前の湿紙に噴霧する方法においても、薬品を多量に(例えば、0.1g/m2 以上)添加しないと層間強度の向上効果が出ず、しかも層間強度が向上してもなお不十分でかつ薬品コストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、少ない薬品添加量で多層抄き紙の層間強度を十分に向上できる多層抄き紙の製造方法と多層抄き紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多層抄き紙の製造方法は、湿紙を複数層抄き合わせて製造する多層紙の製造方法であって、湿紙間の抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を噴霧するものである。
【0008】
この構成によれば、単に抄き合わせる前の湿紙に紙力増強剤を噴霧するのではなく、湿紙間の抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を噴霧することにより、湿紙同士を抄き合わせる際の繊維の絡みに紙力増強剤が効果的に分散添加されることで、少ない薬品添加量で多層抄き紙の層間強度を格段に向上することができる。
【0009】
また、紙力増強剤として、粒子状高分子化合物の水分散液を用いると、澱粉のように溶解が必要でかつ溶解後は腐敗し易いというようなハンドリング性の悪さが無く、特にその粒子状高分子化合物がアニオン性のアクリルアミド・アクリル酸共重合物であると、ポリアクリルアミドのように粘性があってシリンダーワイヤの汚れが発生し易いというような弊害がなく、かつより大きな層間強度を確保することができる。
【0010】
また、紙力増強剤として噴霧添加するアクリルアミド・アクリル酸共重合物の量は、固形分で0.02〜0.06g/m2 、より好適には0.025〜0.05g/m2 とするのが好適である。添加量が0.02g/m2 未満では層間強度が十分に向上せず、0.06g/m2 を越えると層間強度の向上効果が頭打ちになる一方で薬品コストが高くなり、またシリンダーワイヤや毛布の汚れが発生する。
【0011】
また、紙力増強剤を噴霧して抄き合わせた直後に、湿紙を真空脱水すると、噴霧添加した紙力増強剤が湿紙中に効果的に浸透し、層間強度を一層向上することができる。
【0012】
また、本発明の多層抄き紙は、以上の方法で添加された紙力増強剤にて少なくとも表層とその直下層が結合されているものであり、最も層間強度が低く剥離が生じやすい表層の剥離を確実に防止することができ、薬品コストの低廉化を図りながら層間剥離を生じない多層抄き紙を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、湿紙の抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を噴霧することにより、湿紙同士を抄き合わせる際の繊維の絡みに紙力増強剤が効果的に分散添加させれることで、少ない薬品添加量で多層抄き紙の層間強度を格段に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の多層抄き紙の製造方法の一実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
本実施形態における抄紙機は、5つの円網ワイヤを有するワイヤパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダー、及びリールを備え、5層の湿紙を抄き合わせて板紙を製造するものである。ワイヤパートにおいては、図1に示すように、5つの円網1a〜1eが適当な間隔をあけて直列して配設され、これら円網1a〜1eの上端に下面が接するように無端ベルト状の毛布2が配設され、毛布2が円網1aから円網1eの上端に順次接した後上向きに反転し、後続工程のプレスパート10に抄き合わせた湿紙6を受け渡した後円網1aに戻る無端状の回動経路3を円網1a〜1eの周速と等速で同期して回動するように構成されている。各円網1a〜1eには、その上端よりも回転方向上手側位置にそれぞれに原料スラリーを供給して円網1a〜1eの周面上に湿紙を形成するインレット4a〜4eが配設され、かつ各円網1a〜1eの上部に、円網1a〜1e上の湿紙を毛布2に転移させて保持させるように加圧するローラ5a〜5eが配設されている。
【0016】
板紙の表層を形成する湿紙6aは第1番目の円網1a上に形成された後毛布2に保持され、2層目の湿紙6bは第2番目の円網1b上に形成された後表層の湿紙6aの下面に抄き合わされ、以下同様に第3番面の円網1c上に形成された湿紙6c、第4番面の円網1d上に形成された湿紙6d、第5番面の円網1e上に形成された湿紙6eが順次抄き合わされ、その後5層に抄き合わされた湿紙6がプレスパート10に向けて搬送されて受け渡される。
【0017】
第2番目の円網1bの近傍には、円網1b上に形成された2層目の湿紙6bを毛布2に保持された表層の湿紙6a下面に抄き合わせる際に、その抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を噴霧する噴霧手段7が配設されている。この噴霧手段7は、図2に詳細に示すように、円網1bに向けて原料スラリーを供給するインレット1bと毛布2との間の毛布2の下部近傍位置に、円網1bの軸芯と平行に紙力増強剤を送給する送給パイプ7aが配設され、この送給パイプ7aに上記湿紙6aと6bの抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を均一に噴霧するように複数の噴霧ノズル7bが適当間隔あけて配設されている。
【0018】
紙力増強剤としては、アクリルアミド・アクリル酸共重合物の分散液タイプの薬品を水で希釈したものが好適である。具体例としては、商品名「ハイモロックMJ−450」、「ハイモロックMJ−500」、「ハイモロックMJ−700」(ハイモ株式会社製)などが好適である。なお、一般的な紙力増強剤を使用することも可能であり、その中でも粒子状高分子化合物からなる紙力増強剤は比較的好適に使用できるが、アニオン性のアクリルアミド・アクリル酸共重合物は層間強度を向上する効果が特に顕著である。
【0019】
また、円網1bの毛布2移動方向下手側の位置には、毛布2上に真空脱水手段8が配設され、湿紙6a、6bに含有している水を毛布2を介して真空脱水するように構成されている。
【0020】
以上の構成によれば、湿紙6a、6b間の抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を噴霧することによって、単に湿紙にそれぞれ紙力増強剤を噴霧した後相互に合わせる場合に比して、湿紙6a、6bを抄き合わせる際の繊維の絡みに紙力増強剤が効果的に分散添加されることで、少ない薬品添加量で多層抄き紙の層間強度を格段に向上することができる。
【0021】
また、紙力増強剤として粒子状高分子化合物の水分散液を用いることにより、澱粉のように溶解が必要でかつ溶解後は腐敗し易いというようなハンドリング性の悪さが無く、特にアニオン性のアクリルアミド・アクリル酸共重合物を用いることによりポリアクリルアミドのように粘性があってシリンダーワイヤの汚れが発生し易いというような弊害がなく、かつより大きな層間強度を確保することができる。
【0022】
また、紙力増強剤としてアクリルアミド・アクリル酸共重合物を用いる場合、固形分で0.02〜0.06g/m2 、より好適には0.025〜0.05g/m2 程度の少ない噴霧添加量によって層間強度が十分に向上するとともに、薬品コストの低廉化を図ることができ、またシリンダーワイヤや毛布の汚れの発生を抑制することができる。
【0023】
さらに、紙力増強剤を噴霧して抄き合わせた直後に、真空脱水手段8にて湿紙6a、6bを真空脱水することにより、噴霧添加した紙力増強剤が湿紙6a中に効果的に浸透し、層間強度を一層向上することができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、円網1a〜1eに対してインレット4a〜4eから原料スラリーを供給するようにした多層抄き抄紙機の例を示したが、図3に示すように、円網1a〜1eの下部をスラリー槽9内に浸漬させ、円網1a〜1eの回転によって湿紙6a〜6eを抄き上げるようにした多層抄き抄紙機においても同様の作用効果が得られることは言うまでもない。また、ヤンキー多筒抄紙機においても本発明を適用することで、同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明のいくつかの実施例と比較例を説明する。
【0026】
(実施例1)
表層の第1層の湿紙は、上質紙(LBKP、NBKPを原料として抄造した紙)の白損から成る上白古紙を主成分とする原料スラリーを用い、第2層の湿紙は、コート紙の印刷製本時に発生した裁落損紙から成るケント古紙を主成分とする原料スラリーを用い、第3〜第5層は、紙器製造時に発生した裁落損紙、新聞、雑誌などを原料として抄造した白ボール紙の損紙から成る地券古紙を主成分とする原料スラリーを用い、坪量210g/m2 の多層抄き紙を抄造した。そして、第1層と第2層の抄き合わせ箇所に向けて、噴射手段7から紙力増強剤として「ハイモロックMJ−500」(ハイモ株式会社製)を、固形分で0.02g/m2 の噴射量で噴射した。
【0027】
(実施例2)
「ハイモロックMJ−500」の噴射量を0.025g/m2 に変化させた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0028】
(実施例3)
「ハイモロックMJ−500」の噴射量を0.04g/m2 に変化させた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0029】
(実施例4)
「ハイモロックMJ−500」の噴射量を0.05g/m2 に変化させた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0030】
(実施例5)
「ハイモロックMJ−500」の噴射量を0.06g/m2 に変化させた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0031】
(実施例6)
「ハイモロックMJ−500」の噴射量を0.07g/m2 に変化させた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0032】
(実施例7)
「ハイモロックMJ−500」の噴射量を0.015g/m2 に変化させた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0033】
(実施例8)
紙力増強剤を、「ハイモロックMJ−450」(ハイモ株式会社製)に変化させ、固形分で0.04g/m2 の噴射量で噴射した以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0034】
(実施例9)
「ハイモロックMJ−450」の噴射量を0.025g/m2 に変化させた以外は、実施例8と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0035】
(実施例10)
紙力増強剤を、カチオン性ポリアクリルアミドに変化させ、固形分で0.06g/m2 の噴射量で噴射した以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0036】
(実施例11)
カチオン性ポリアクリルアミドの噴射量を0.1g/m2 に変化させた以外は、実施例9と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0037】
(比較例1)
「ハイモロックMJ−500」の噴射方向を毛布上の湿紙に向けた以外は、実施例3と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0038】
(比較例2)
「ハイモロックMJ−500」の噴射方向を毛布上の湿紙に向け、かつ真空脱水を無くした以外は、実施例3と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0039】
(比較例3)
「ハイモロックMJ−500」の噴射方向を円網上の湿紙に向けた以外は、実施例3と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0040】
(比較例4)
紙力増強剤を、カチオン性ポリアクリルアミドに変化させ、固形分で0.1g/m2 の噴射量で毛布上の湿紙に向けた以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0041】
(比較例5)
カチオン性ポリアクリルアミドの噴射方向を毛布上の湿紙に向け、かつ真空脱水を無くした以外は、比較例4と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0042】
(比較例6)
紙力増強剤を噴射しない以外は、実施例1と同様にして多層抄き紙を抄造した。
【0043】
以上のようにした抄造した実施例1〜11及び比較例1〜6の多層抄き紙について、JAPAN TAPPI NO.19−77に基づいてT字剥離強さを(縦方向)それぞれ
5点づつ測定し、その平均値を測定値とした。また、円網ワイヤや毛布の汚れについて相対評価を行った。汚れの評価は、◎は汚れが発生せず、○は僅かに汚れが見られるが操業上全く問題がなく、△は汚れが多少見られるが短期間に操業上問題になることはなく、×は汚れが短期間で目立ち操業上支障になるものとして評価した。
【0044】
【表1】

表1に、測定及び評価の結果を示した。
【0045】
表1から、実施例3と比較例1〜3、また実施例11と比較例4、5を比較すると、同じ紙力増強剤を同量用いても、紙力増強剤を抄き合わせ箇所に向けて噴霧することにより、相対的に高いT字剥離強さを得ることができるとともに、毛布や円網ワイヤに汚れをあまり発生しないことが分かる。比較例1〜5では、毛布叉はシリンダーワイヤに汚れが発生している。また、紙力増強剤を噴射しない比較例6では、汚れは発生しないもののT字剥離強さが低くなっている。
【0046】
また、各実施例1〜11において、実施例1〜9のように紙力増強剤として「ハイモロックMJ−500」や「ハイモロックMJ−450」を用いると、実施例10、11のようにカチオン性ポリアクリルアミドを用いた場合に比して、少ない薬品量で高いT字剥離強さが得られることが分かる。また、実施例2、3と実施例8、9の比較から「ハイモロックMJ−500」と「ハイモロックMJ−450」では、「ハイモロックMJ−500」の方が若干効果が高いことが分かる。また、「ハイモロックMJ−500」や「ハイモロックMJ−450」の噴霧量は、実施例1〜5のように0.02〜0.06g/m2 程度の少ない量でも層間強度を向上できるが、実施例6のように0.07g/m2 と多くなると、層間強度は向上できても汚れが発生するようになり、実施例7のように0.015g/m2 と少なくなると、層間強度の向上が十分でなくなることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態における多層抄き抄紙機のワイヤパートの概略構成図である。
【図2】同多層抄き抄紙機の要部の概略構成図である。
【図3】他の多層抄き抄紙機における要部の概略構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1a〜1e 円網
2 毛布
4a〜4e インレット
6、6a〜6e 湿紙
7 噴霧手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿紙を複数層抄き合わせて製造する多層紙の製造方法であって、湿紙間の抄き合わせ箇所に向けて紙力増強剤を噴霧することを特徴とする多層抄き紙の製造方法。
【請求項2】
紙力増強剤は、粒子状高分子化合物の水分散液であることを特徴とする請求項1記載の多層抄き紙の製造方法。
【請求項3】
粒子状高分子化合物は、アニオン性のアクリルアミド・アクリル酸共重合物であることを特徴とする請求項2記載の多層抄き紙の製造方法。
【請求項4】
紙力増強剤の添加量は、固形分で0.02〜0.06g/m2 であることを特徴とする請求項3記載の多層抄き紙の製造方法。
【請求項5】
紙力増強剤を噴霧して抄き合わせた直後に、湿紙を真空脱水することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の多層抄き紙の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の方法で添加された紙力増強剤にて、少なくとも表層とその直下層が結合されていることを特徴とする多層抄き紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−37288(P2006−37288A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220451(P2004−220451)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】