説明

多層金属繊維糸

新規の金属繊維糸(1)およびこのような糸を得るための方法が提供されている。金属繊維糸は、少なくとも9本の連続金属繊維束(8)を備えている。これらの束の各々は、少なくとも30本の繊維(7)を備えている。少なくとも9本の束が、金属繊維糸の横断面で見て、少なくとも2つの連続金属繊維束層に配置されている。この新規の金属繊維糸は、増大した曲げ寿命と強度とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、素線の集束伸線によって得られる連続金属繊維および連続金属繊維の束に関する。さらに詳細には、本発明は、高品質金属繊維糸およびこれらの金属繊維糸を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属繊維束は、種々の方法によって得ることができる。金属繊維は、例えば、特許文献1に記載されているような集束伸線法によって得ることができる。また、金属繊維は、例えば、端引出(end drawing)とも呼ばれる、最終直径まで伸線する方法によって得ることもできる。典型的には、金属繊維は、60μm未満の等価直径を有している。金属繊維束は、一般的に、平行に揃えられた金属繊維の配列として特徴付けられている。金属繊維束の一形態は、例えば、集束伸線または端引出によって得られた連続金属繊維を備えている。具体的には、これらの連続金属繊維が結集され、これによって、各束が得られることになる。次いで、このような金属繊維束を組み合わせることによって、金属繊維糸を作製することができる。これらの糸は、決められた強度および電気抵抗などの特性を有している。
【0003】
ある厚みの連続金属繊維を含む金属繊維糸の強度を増大させるには、より多くの金属繊維が糸内に含まれている必要がある。これは、2つの方法によって、すなわち、束内の金属繊維の本数を増やすことによって、または糸内の金属繊維束の本数を増やすことによって、行うことができる。
【0004】
しかし、糸内の束当たりの金属繊維の本数を増やすと、金属繊維糸の柔軟性に悪影響が生じる。
【0005】
5本以上の金属繊維束からなる糸の場合、スリービング現象が大きくなると共に、糸の破断力を期待されるほど増大させることができないことから、当技術分野における関係者らは、糸内に5本以上の金属繊維束を含ませることは好ましくない、という判断を下していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,379,000号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、より高い柔軟性と曲げ寿命とを有する金属繊維糸を提供することを目指すものである。本発明のさらに工夫を凝らした構成によれば、強度および加工性を向上させた金属繊維糸が提供されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許請求の範囲に記載されている本発明の一態様は、少なくとも9本の連続金属繊維束を備えている金属繊維糸を提供することになる。これらの束の各々は、少なくとも30本の金属繊維を備えている。少なくとも9本の束が、金属繊維糸の横断面で見て、少なくとも2つの連続金属繊維束層に配置されている。さらに好ましくは、少なくとも9本の束は、金属繊維糸の横断面で見て、少なくとも3層に配置されている。
【0009】
金属繊維束は、例えば、該金属繊維を1m当たり所定の捩れ回数で一緒に撚り合せることによって、金属繊維糸に結集されることになる。束の中心から糸の中心までの距離が等しい束は、糸内の同一の束層の一部と見なされる。好ましい実施形態では、1m当たりの捩れ回数は、層ごとに適合されている。
【0010】
さらに一層好ましくは、層ごとの捩れ回数は、互いに異なる層内のそれぞれの束が全て同じ長さを有するように、適合されている。本発明のこのさらに一層好ましい実施形態によって、繊維束のそれぞれの長さが、前記金属繊維糸の単位長さにつき、互いに実質的に等しくなっている金属繊維糸が提供されることになる。同時に、これらの繊維束は、前記金属繊維糸の単位長さにつき、金属繊維糸の単位長さよりも大きい長さを有している。これらの種類の金属繊維糸は、良好な加工性を有する高強度金属繊維糸が得られるというさらなる利点も有している。
【0011】
他の好ましい実施形態では、1m当たりの捩れ回数は、金属繊維糸内の全ての金属繊維束に対して、同じになっている。さらに好ましくは、金属繊維糸の互いに異なる層内の全ての束は、同じ方向に撚られている。これは、当技術分野において、SSまたはZZ構造と呼ばれているものである。これによって、良好な曲げ寿命に加え、高強度も有する金属繊維糸が提供されることになる。さらに一層好ましくは、金属繊維糸は、層ごとに作製され、これによって、伸びを向上させた金属繊維糸を得ることができる。
【0012】
代替的なさらに好ましい実施形態では、金属繊維糸の互いに隣接する層内の束が、互いに逆方向に撚り合されている。これは、当技術分野において、SZ撚りと呼ばれているものである。互いに隣接する層内に互いに異なる捩れをもたらすことによって、糸構造は、長手方向に負荷が掛けられたときに、捩じりモーメントを生じることがない。
【0013】
他の好ましい実施形態では、金属繊維の少なくとも一部は、集束伸線された金属繊維である。さらに他の好ましい実施形態では、金属繊維の少なくとも一部は、ステンレス鋼から作製されている。
【0014】
本発明による糸の1本または複数本の束は、好ましくは、集束伸線法によって得られている。このような方法は、一般的に知られており、例えば、米国特許第3,379,000号明細書、第3,394,213号明細書、第2,050,298号明細書、または第3,277,564号明細書に記載されているように、複数の金属素線(各束)に被覆を施し、該束をカバー材料によって包み込み、当技術分野において複合線材と呼ばれるものを得て、該複合線材を適切な直径まで伸線し、個々の素線(繊維)と束とのカバーおよび被覆材料を除去することを含んでいる。この方法によって得られた繊維は、多角形、通常、5角形または6角形の断面を有しており、これらの繊維の周囲は、米国特許第2,050,298号明細書の図2に示されているように、通常、鋸歯状になっている。単伸線された複数の繊維を一緒にして束を形成するのと比較して、集束伸線法は、繊維直径をさらに減少させることが可能である。繊維直径を減少させることによって、曲げ寿命への良好な効果が得られることが認められている。
【0015】
本発明による糸の束内に用いられる金属繊維は、単伸線されたものであってもよいし、または集束伸線されたものであってもよい。集束伸線の説明は、前述した通りである。単伸線された繊維の場合、減径は、1本の繊維ごとに、金型の列によって、行われることになる。集束伸線による繊維の場合、減径は、束の全体に対して、単一の金型列によって行われることになる。集束伸線加工の場合、繊維の断面は、通常、円断面を有している単伸線された繊維と対照的に、米国特許第2,050,298号明細書の図2に示されているように、5角形または6角形を有しており、繊維断面の周囲は、通常、鋸歯状である。
【0016】
本発明では、金属は、金属および金属合金(例えば、ステンレス鋼または炭素鋼)の両方を含むものとして理解されたい。好ましくは、金属繊維は、ステンレス鋼、例えば、AISI316,316L,302,304から作製されている。他の好ましい実施形態では、金属繊維は、FeCrAl合金、銅、またはニッケルから作製されている。他の好ましい実施形態では、金属繊維は、特開平5−177243号公報、国際特許出願公開第03/095724号パンフレット、および国際特許出願公開第2006/120045号パンフレットに記載されているような多層金属繊維、例えば、銅のコアおよびステンレス鋼の外層を有する金属繊維、または鋼のコア、銅の中間層、およびステンレス鋼の外層を有する3層の金属繊維である。金属繊維は、直接伸線または端引出技術または集束伸線技術のいずれかによって作製可能である。糸内の金属繊維は、0.5μmから60μmの範囲内、さらに好ましくは、2μmから60μmの範囲内、さらに一層好ましくは、6μmから40μmの範囲内、最も好ましくは、8μmから30μmの範囲内の好ましい等価直径を有している。
【0017】
連続金属繊維束の各々は、横断面で見て、少なくとも30本、好ましくは、2500本未満の金属繊維を備えている。さらに好ましい実施形態では、連続金属繊維束の各々は、1000本の繊維を備えている。代替的な好ましい実施形態では、連続金属繊維束の各々は、275本または90本の繊維を備えている。他の代替的な実施形態では、糸は、互いに異なる本数の金属繊維を含むそれぞれの束、例えば、90本の繊維からなる束と組み合わされた275本の繊維からなる束を備えている。糸内の連続繊維束の本数は、好ましくは、30本以下、例えば、9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29本である。
【0018】
金属繊維糸は、適切な被膜、好ましくは、PVC、PVA、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロメチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー)、MFA(パーフルオロアルコキシポリマー)またはポリウレタンラッカーによって、さらに被覆されていてもよい。代替的に、金属繊維糸は、潤滑剤を含んでいてもよい。
【0019】
特許請求の範囲に記載されている本発明の他の態様は、金属繊維束の少なくとも一部が塑性変形されている、例えば、波形状に成形されている、本発明による金属繊維糸を提供することになる。
【0020】
本発明の他の態様は、加熱可能な織物要素、例えば、カーシート加熱(car seat heating)における抵抗加熱要素としての本発明の金属繊維糸の使用を提供することになる。
【0021】
本発明の他の態様は、縫合糸としての本発明の金属繊維糸の使用を提供することになる。
【0022】
本発明の他の態様は、リードワイヤとしての本発明の金属繊維糸の使用を提供することになる。
【0023】
本発明の他の態様は、例えば、カーガラスを所望の形状に成形するためのカーガラスの作製に用いられる隔離材料のような耐熱布地、または例えば、織物または編物の形態にあるバーナ薄膜のような耐熱布地を作製するための本発明の金属繊維糸の使用を提供することになる。
【0024】
本発明の他の態様は、複合材料内の補強要素としての本発明の金属繊維糸の使用を提供することになる。
【0025】
特許請求の範囲に記載されている本発明の他の態様は、本発明の金属繊維糸を作製する方法を提供することになる。
【0026】
第1の方法では、本発明による金属繊維糸が、少なくとも9本の金属繊維束を設けることによって、得られている。好ましくは、これらの束の各々は、集束伸線された金属繊維の束である。これらの束の各々は、少なくとも30本、好ましくは、2500本未満の金属繊維を備えている。金属繊維束は、一緒に撚り合されている。この方法では、糸は、2つ以上のステップによって作製されるようになっている。具体的には、第1のステップにおいて、少なくとも2本の連続金属繊維束が1m当たり所定の捩れ回数で互いに撚り合される。第2のステップにおいて、残りの束が、1m当たり所定の捩れ回数で第1の層の周囲に撚り合される。さらに多くの層が、さらに多くのステップによって追加されてもよい。1m当たりの捩れ回数は、糸内の互いに異なる層に対して、異なっていてもよいし、または同じであってもよい。好ましい方法では、高強度および高伸びを有する糸を得るために、互いに異なる層内のそれぞれの束が、同じ方向に撚り合されている。他の好ましい方法では、互いに異なる層内のそれぞれの束は、長手方向に負荷が加えられたとき、捩じりモーメントを生じない糸を得るために、互いに逆方向に撚り合されている。さらに他の好ましい方法では、全ての層内の全ての繊維束のそれぞれの長さを等しくするために、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度が同じになっている必要がある。
【0027】
第2の代替的な好ましい実施形態は、第1の方法に類似している。但し、この方法では、全ての束は、集束伸線によって得られた金属繊維束であるが、各束は、最終直径まで伸線された複合線材の形態にある。これらの複合線材の各々は、素地内に多数のフィラメントを備えている。
この方法は、糸構造を作製した後、複合線材のシートおよび素地を適切な酸に溶解させることによって、複合線材から素地およびシートを除去するステップをさらに含んでいる。さらに好ましい方法では、複合線材の互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度は、溶出後、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度が同じになり、これによって、糸構造の単位長さにつき、全ての層内の全ての繊維束の長さが互いに実質的に等しくなる金属繊維束が得られるように、設定されている。
【0028】
第3の方法では、本発明による金属繊維糸は、少なくとも9本の金属繊維束を設けることによって、得られている。好ましくは、これらの束の各々は、集束伸線された金属繊維の束である。これらの束の各々は、少なくとも30本、好ましくは、2500本未満の金属繊維を備えている。この方法では、糸は、1つのステップによって作製されている。具体的には、互いに異なる層内の全ての金属繊維束は、1ステップで、1m当たり同一の所定の捩れ回数で、互いに撚り合されている。これによって、高強度および低伸びを有する糸が得られることになる。
【0029】
第4の方法は、第3の方法と類似している。但し、この方法では、全ての束は、集束伸線によって得られた金属繊維束であるが、各束は、複合線材の形態にある。これらの複合線材の各々は、素地内に多数のフィラメントを備えている。この方法は、糸構造を作製した後、複合線材のシートおよび素地を適切な酸に溶解させることによって、複合材料から素地およびシートを除去するステップをさらに含んでいる。
【0030】
さらに他の方法では、本発明による例示的な金属繊維糸は、少なくとも9本の複合線材を設けることによって、得られている。前記複合線材の各々は、素地内に多数の金属フィラメントを備えている。次いで、除去可能なコアが設けられる。除去プロセスは、取り囲んでいる複合線材の空間配置を変化させないどのような除去プロセス、例えば、溶出、溶解、燃焼、微粉砕、蒸発などであってもよい。1つの好ましい実施形態では、この除去可能なコアは、鉄線から作製されている。代替的な好ましい実施形態では、この除去可能なコアは、水溶性であり、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)から作製されている。他の好ましい実施形態では、除去可能なコアは、酸の影響を受けやすいポリマー、例えば、ナイロンまたは酸の影響を受けやすい金属、例えば、銅から構成されている。
次いで、除去可能な素線、繊維または糸、または除去可能な素線、繊維、および/または糸の群がコアとされ、複合線材がこのコアの周囲に少なくとも2つの層を形成している構造が、得られることになる。複合線材は、1つ以上のステップによって、除去可能なコアの周囲に2つ以上の層に撚り合されることになる。その後、複合線材の素地およびシートならびに除去可能なコアが、シート、素地、および除去可能なコアの適切な液体、例えば、酸による(溶出とも呼ばれている)溶解によって、除去されることになる。代替的な実施形態では、素地およびシートならびに除去可能なコアは、2つのステップによって除去されるようになっている。具体的には、最初、除去可能なコアが、例えば、第1の液体、例えば、に水に溶解させることによって除去され、第2のステップにおいて、素地およびシートが、第2の液体、例えば、適切な酸に溶解させることによって、除去されるようになっている。
【0031】
好ましくは、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度は、溶出後、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度が同じになるように設定されており、これによって、全ての複合線材のそれぞれの長さが、糸構造の単位長さに対して、互いに実質的に等しくなる。全ての複合線材のそれぞれの長さが、糸構造の単位長さに対して、互いに実質的に等しくなっているので、金属繊維束のそれぞれの長さは、溶出ステップの後、金属繊維糸の単位長さに対して、互いに等しくなる。また、複合線材が除去可能なコアの周囲に撚り合されているので、単位長さ当たりの金属繊維束のそれぞれの長さは、単位長さ当たりの金属繊維糸の長さよりも大きくなっている。
【0032】
代替的な方法では、金属繊維束の少なくとも一部が、例えば、波形付けによって塑性変形されている糸が、前述の方法によって、得られている。さらに好ましくは、金属繊維糸の同一層内のそれぞれの束は、同じ程度の塑性変形、例えば、波形付けを有している。
【0033】
<定義>
金属繊維糸内の「層(layer)」という用語は、糸の長さに沿ってこの層内に延在している束の群によって糸内に形成されている層として理解されたい。従って、層内の束は、それらの中心から糸の中心までの距離が等しくなっている。
【0034】
繊維の「等価直径(equivalent diameter)」という用語は、繊維の半径方向断面の表面と等しい表面積を有する仮想円の直径として理解されたい。集束伸線加工の場合、米国特許第2,050,298号明細書の図2に示されているように、繊維の断面は、通常、5角形または6角形であり、繊維断面の周囲は、通常、鋸歯状である。単伸線された繊維の場合、等価直径は、その直径として理解されたい。
【0035】
「繊維束(fiber bundle)」という用語は、個々の連続繊維を束ねたものとして理解されたい。
【0036】
「連続繊維(continuous fiber)」という用語は、絹などに本来的に見られるようなまたは伸線法によって得られるような無限長さまたは極限長さの繊維として理解されたい。「連続金属繊維束(continuous fiber bundle)」は、本発明の文脈では、最終直径まで伸線された連続繊維を結集し、その後、束ねることによって得られた連続金属繊維束、または集束伸線された複合線材を溶出することによって得られた連続金属繊維束として理解されたい。
【0037】
「糸(yarn)」という用語は、織布を形成するための製編、製織、またはそれ以外の撚合せに適する形態にある繊維、素線、または材料の連続ストランドとして理解されたい。従って、「糸(yarn)」は、新規の糸を形成するために一緒にされた最初の糸も含むことができる。
【0038】
「複合線材(composite wire)」という用語は、例えば、米国特許第3,379,000号明細書によって知られている集束伸線法に用いられる複合線材として理解されたい。この複合線材は、シース材料内に包まれた素地材料内に埋設された金属素線の全体を指している。所望の直径まで伸線された複合材料が溶出され、これによって、素地およびシース材料が除去されると、連続金属素線が現れ、これらの連続金属素線が、以後、連続金属繊維と呼ばれることになる。
【0039】
「糸の単位長さ(unit length of a yarn)」という用語は、糸が伸張状態にあるときの糸の単位長さとして理解されたい。
【0040】
「ケーブリング角度(cabling angle)」という用語は、当業者には知られているが、疑念があれば、参考文献(K. Feyrer、「ワイヤロープ:計算、運転、安全(Drahtseile: Bemessung, Betrieb, Sicherheit)、ベルリン、Springer-Verlag, 2000、page 22-23)を参照されたい。
【0041】
「曲げ寿命(flexlife)」という用語は、「繰返し曲げ状態にある糸の破断抵抗(the resistance to rupture of the yarn under repetitive bending conditions)」として理解されたい。この曲げ寿命は、束が2Nの負荷によって20mmの直径を有するロッドの周囲に180°曲げられた状態で破断に至るまでのサイクル数として決められるものである。この試験は、絶対値を与えるものではなく、互いに異なる糸間の良好な比較をもたらすものである。
【0042】
以下、添付の図面を参照して、本発明の例示的な実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の例示的な実施形態の断面図である。
【図2】2つの異なる方法によって作製された本発明による2本の糸の荷重−伸び曲線を比較する図である。
【図3】金属繊維の本数が略同一になっている単金属繊維束と本発明の金属繊維糸との間の曲げ寿命の差を示すグラフである。
【図4】糸内の繊維束の長さを測定するための方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照して、本発明の金属繊維糸の例および本発明の金属繊維糸を得るための種々の方法について説明する。
【0045】
図1は、コアの3本の金属繊維束8,9および外層の9本の金属繊維束8,10からなる金属繊維糸1の断面図である。各々が275本の12μmの等価直径を有するAISI316Lからなるフィラメントを備えている12本の複合線材が、1ステップで、1m当たり100回の捩れ回数で互いに撚り合されている。その後、複合線材の素地およびシートが、適切な酸に溶解されている。糸の互いに異なる層が、図1に示されている。具体的には、内層の束は、実線で縁取られた楕円によって示されており、参照番号9が付されている。外層の束は、点線で縁取られた楕円によって示されており、参照番号10が付されている。
【0046】
図1の例は、12本の金属繊維束8を備えているが、他の例では、他の本数の金属繊維束が設けられていてもよいし、および/または金属繊維束は、それぞれの層内に図示されているのと異なる比率に分配されていてもよい。
【0047】
図2は、本発明による2本の金属繊維糸A,Bの荷重−伸び曲線の結果を示している。横軸は、%で表されている伸びεであり、縦軸は、ニュートン(N)で表されている荷重Fである。図2に示されているように、糸が異なる方法によって作製されると、該糸の機械的挙動が異なることになる。グラフに示されている糸は、いずれも、2つの層、すなわち、3本の繊維束を備える内層および9本の繊維束を備える外層から構成されている。各束は、275本の12μmの等価直径を有するAISI316Lからなる連続金属繊維を備えている。全ての束は、1m当たり100回の捩れ回数で互いに撚り合されている。第1の糸構造(図2のA)は、1ステップで作製されている。具体的には、全ての複合線材は、1m当たり100回の捩れ回数で互いに撚り合されており、これによって、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度が互いに異なるという効果が得られている。第2の糸構造(図2のB)は、2ステップで作製されている。具体的には、最初、3本の複合線材を1m当たり100回の捩れ回数で互いに撚り合せることによって、コア層が形成され、9本の複合線材をコア層の周囲に1m当たり100回の捩れ回数で同じ捩れ方向に撚り合せることによって、第2の層が形成されている。これは、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度が同じになるように、行われている。両方の糸構造において、複合線材の素地およびシートは、適切な酸に溶解されている。図2に示されているように、両方の糸は、同じ強度を有しているが、1ステップで作製された糸Aは、2ステップで作製された糸Bと比較して、低い伸びを示している。両方の糸は、いずれも、同じ曲げ寿命を示している。
【0048】
図3は、単一束糸(図3のD)および多層糸(図3のC)を比較するための曲げ寿命試験の結果を示している。これらの糸は、糸内に同じ本数のフィラメントを含んでおり、糸内の全ての束に対して、1m当たり同じ回数の捩れが与えられている。第1の糸(図3のD)は、1000本の14μmの等価直径を有するAISI316Lからなる金属フィラメントを備えている複合線材をその軸を中心として1m当たり100回の捩れ回数で撚り合せることによって、1ステップで作製されている。第2の糸(図3のC)は、コアの3本の金属繊維束および外層の9本の金属繊維束からなる金属繊維糸である。各束は、90本の14μmの等価直径を有するAISI316Lからなる金属フィラメントを備えている。この糸は、2ステップで作製されている。最初に、3本の複合線材を1m当たり100回の捩れ回数で互いに撚り合せることによって、コア層が形成され、9本の複合線材をコア層の周囲に1m当たり100回の捩れ回数で同一の捩れ方向に撚り合せることによって、第2の層が形成されている。これは、互いに異なる層のそれぞれのケーブリング角度が同じになるように、行われている。いずれの糸構造も、複合線材の素地およびシートが適切な酸に溶解されている。両方の糸の曲げ寿命のサイクル数が、図3に示されている。これらの結果は、両方の糸が、同一の等価直径を有する同数のフィラメントを備えており、1m当たり同じ回数の捩れが、糸内の束に加えられているが、多層糸((図3のC)は、単一束糸((図3のD)と比較して、より多くのサイクルに耐えることができることを示している。
【0049】
繊維束のそれぞれの長さが、前記金属繊維糸の単位長さにつき、互いに実質的に等しくなっており、同時に、これらの繊維束が、前記金属繊維糸の単位長さにつき、金属繊維糸の単位長さよりも大きい長さを有している(例えば、図2の糸Bのような)好ましい実施形態の場合、金属繊維糸内の個々の繊維束の長さは、図4に示されているような捩じりベンチ試験機によって測定されることになる。1mの長さの金属繊維糸(1)が、図4に示されているように、2つのクランプ間に固定される。クランプの1つ(3)は、回転可能であるが、水平方向に移動することができないようになっており、他のクランプ(2)は、回転しないが、糸の伸張方向に沿って水平方向に前後に移動することができるようになっている。水平方向に移動可能なクランプ(2)は、逆転プーリ(5)に案内されて17Nの錘(6)に接続されたワイヤ(4)によって、負荷が掛けられる。次いで、糸は、金属繊維糸の捩れサイクルの数と同じ数だけ、糸内の金属繊維束の捩れ方向と逆方向に捩られる。
糸から捩れが除去されるので、糸が伸長する。糸には錘(6)によって張力が掛けられているので、錘(6)が下方(b)に移動する。その結果、水平方向に移動可能なクランプ(2)が後方に移動するが、このとき、糸の伸張は、クランプ(2)が移動した距離(a)と等しくなる。
糸が不均等な長さを有する多数の束から構成されている場合、最も短い束が、クランプ間で張力を受け、他の束は、浮き上がっていることになる。ここで、クランプ間の距離は、糸内の最も短い束の長さである。最も短い束が切断すると、糸が再び伸張し、該糸内の第2の最も短い束が張力を受ける。このとき、クランプ間の距離は、糸内の第2の最も短い束の長さである。この切断、伸長、および長さの測定は、最後の束が張力を受けるまで、繰り返される。
【0050】
「糸の長さ(length of a yarn)」という用語は、本発明の観点から、糸が17Nの負荷によって伸張したときの糸の長さとして理解されたい。これは、糸に17Nの負荷が掛けられた後で糸が逆に捩じられる前の捩じりベンチ試験機のクランプ間の長さLとして測定される。
【0051】
「束の長さ(length of a bundle)」という用語は、17Nの負荷を受けた状態で逆に捩じられた(n本の束からなる)糸の単一束xの長さLとして理解されたい。糸内の最も短い束xの長さLは、糸が17Nの負荷を受けた状態で逆に捩じられたときの捩じりベンチ試験機のクランプ間の距離として測定される。糸内の第2の最も短い束xの長さLは、糸内の最も短い束xが切断された後、糸が17Nの負荷を受けた状態で逆に捩られたときの捩じりベンチ試験機のクランプ間の距離として測定される。糸内のx番目の束の長さLは、糸内の全てのより短い束x・・・xn−1が切断された後、糸が17Nの負荷を受けた状態で逆に捩じられたときの捩じりベンチ試験機のクランプ間の距離として測定される。
【0052】
糸内の全ての束のそれぞれの長さは、もし{[最大(L・・・L)−最小(L・・・L)]/最小(L・・・L)}*100%の式に従って、束間の長さの差ΔLが1%未満であるなら、互いに「実質的に等しい(substantially equal)」と見なされる。
【0053】
このように、曲げ寿命および強度を向上させた新規の金属繊維糸が記載されている。この新規の金属繊維糸は、少なくとも9本の連続金属繊維を備えている。これらの束の各々は、少なくとも30本の金属繊維を備えている。少なくとも9本の束が、金属繊維糸の横断面から見て、少なくとも2つの連続金属繊維束層に配置されている。この新規の金属繊維糸を得るための方法も開示されている。
【符号の説明】
【0054】
1 金属繊維糸
2 水平方向に移動可能なクランプ
3 回転可能なクランプ
4 ワイヤ
5 逆転プーリ
6 錘(17N)
7 金属繊維
8 金属繊維束
9 第1の層の金属繊維束
10 第2の層の金属繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続金属繊維(7)からなる少なくとも9本の連続金属繊維束(8)を備えており、前記連続金属繊維束(8)の各々が少なくとも30本の金属繊維(7)を備え、かつ、前記連続金属繊維束(8)が1m当たり所定の捩れ回数で撚り合されて形成されている金属繊維糸(1)において、前記少なくとも9本の連続金属繊維束(8)は、前記金属繊維糸の横断面で見て、少なくとも2層に配置されていることを特徴とする金属繊維糸。
【請求項2】
前記少なくとも9本の連続金属繊維束(8)は、前記金属繊維糸の横断面で見て、少なくとも3層に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の金属繊維糸。
【請求項3】
前記各層は、同じ方向に撚り合されていることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項4】
前記各層のケーブリング角度および/またはケーブリング方向が、全ての層に対して、互いに等しくなっていないことを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項5】
前記金属繊維の少なくとも一部は、集束伸線された金属繊維であることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項6】
前記金属繊維(7)の少なくとも一部は、ステンレス鋼から作製されていることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項7】
前記金属繊維束(8)内の前記金属繊維(7)の少なくとも一部は、金属心材の周囲に少なくとも1つの同心の金属層を備える断面を有していることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項8】
前記繊維(7)の前記心材は、銅であり、前記外層は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項7に記載の金属繊維糸。
【請求項9】
前記繊維(7)の前記心材は、ステンレス鋼であり、前記外層は、銅であることを特徴とする請求項7に記載の金属繊維糸。
【請求項10】
束当たり同じ本数の繊維(7)を有する連続繊維束(8)を備えていることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項11】
前記繊維束(8)のそれぞれの長さは、前記金属繊維糸(1)の単位長さにつき、互いに実質的に等しくなっており、前記金属繊維糸(1)の単位長さ当たりの前記繊維束(8)のそれぞれの長さは、前記金属繊維糸(1)の単位長さよりも大きくなっていることを特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の金属繊維糸。
【請求項12】
金属繊維糸(1)を作製する方法であって、
−各々が少なくとも30本の連続金属繊維(7)を備える少なくとも9本の連続金属繊維束(8)を用意するステップと、
−前記金属繊維束の一部を1m当たり所定の捩れ回数で撚り合せることによって第1の層を得るステップと、
−前記金属繊維束の残りを前記第1の層の周囲に1m当たり所定の捩れ回数で少なくとも1つの次の層として撚り合せるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
金属繊維糸(1)を作製する方法であって、
−各々が少なくとも30本の連続金属繊維(7)を備える少なくとも9本の連続金属繊維束(8)を用意するステップと、
−前記金属繊維束(8)の全てを1m当たり所定の捩れ回数で撚り合せることによって、前記少なくとも9本の連続金属繊維束(8)が前記金属繊維糸(1)の横断面で見て少なくとも2層に配置されている金属繊維糸(1)を得るステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
金属繊維糸(1)を作製する方法であって、
−各々が少なくとも30本の連続金属繊維(7)を備えかつ最終直径まで伸線された少なくとも9本の複合線材を用意するステップと、
−前記複合線材の一部を1m当たり所定の捩れ回数で撚り合せることによって第1の層を得るステップと、
−前記複合線材の残りを前記第1の層の周囲に1m当たり所定の捩れ回数で少なくとも1つの次の層として撚り合せることによって複合線材構造を得るステップと、
−前記複合線材構造を適切な酸に溶出させることによって前記金属繊維糸を得るステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
金属繊維糸を作製する方法であって、
−各々が少なくとも30本の連続金属繊維(7)を備えかつ最終直径まで伸線された少なくとも9本の複合線材を用意するステップと、
−前記複合線材の全てを1m当たり所定の捩れ回数で撚り合せることによって複合線材構造を得るステップと、
−前記複合線材構造を適切な酸に溶出させることによって前記金属繊維糸を得るステップと、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−509997(P2012−509997A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536902(P2011−536902)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065771
【国際公開番号】WO2010/060910
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】