説明

多方向入力装置

【課題】環状弾性部材の復帰力によって操作部を復帰されるものにおいて、薄型化を図ることができる多方向入力装置を提供すること。
【解決手段】開口部23が形成されたハウジングと、開口部23を介して外部に突出する操作部2が設けられ、ハウジング内を平面方向にスライド移動する可動部41を有する移動部材12と、移動部材12のスライド移動を検出する検出手段と、可動部41を囲うようにハウジング内で支持され、可動部41を初期位置に復帰させるコイルばね13とを備え、検出手段は、導電パターンと、可動部41のスライド移動に伴って導電パターンを摺動する摺動子65が設けられたスライダ16、17とを含み、スライダ16、17がコイルばねの内側に配設される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多方向入力装置に関し、特に、携帯電話装置やゲーム機用コントローラ等における方位入力操作に好適な多方向入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操作体のスライド操作により、多方向の方位入力可能な多方向入力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この多方向入力装置は、上下2つの空洞部が形成された2階建て構造のハウジングを有している。上側の空洞部には、ハウジング上面に形成された開口部から操作体の操作部を外部に突出させた状態で、操作体の鍔状の可動部が配置されている。また、可動部の外周には、環状弾性部材として操作体を自動復帰させるために、上側の空洞部内に組み込まれた環状コイルが装着されている。
【0003】
下側の空洞部には、操作体の操作方向および操作量を検出する検出手段が設けられている。そして、操作体が操作されると、環状コイルの収縮力に抗して可動部がハウジング内をスライドされ、可動部によって環状コイルが内側から押し広げられる。この状態から、操作体の操作が解除されると、環状コイルの復帰力により操作体が元の位置に戻される。
このように、多方向入力装置は、操作体のスライドにより操作方向および操作量を入力すると共に、環状コイルの復帰力により操作体を自動復帰させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−310670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、電子機器の小型化に伴い、多方向入力装置の薄型化が望まれている。しかしながら、上記した特許文献1に記載の多方向入力装置では、ハウジングが上下2つの空洞部を有する2階建て構造であるため、薄型化の要求に応えることが困難となっていた。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、環状弾性部材の復帰力によって操作体を復帰されるものにおいて、薄型化を図ることができる多方向入力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多方向入力装置は、開口部が形成されたハウジングと、前記開口部を介して一部が露出し、前記ハウジング内を平面方向にスライド移動する可動部を有する移動部材と、前記移動部材のスライド移動を検出する検出手段と、前記可動部を囲うように前記ハウジング内で支持され、前記可動部を初期位置に復帰させる環状弾性部材とを備え、前記検出手段は、前記移動部材と対向するように設けられた導電パターンと、前記可動部のスライド移動に伴って前記導電パターンを摺動する摺動子が設けられたスライダとを含み、前記スライダが前記環状弾性部材の内側に配設されることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、摺動子が設けられたスライダが環状弾性部材の内側に配設されるため、スライダの厚み寸法が環状弾性部材の内側の空間で吸収される。よって、ハウジングに、環状弾性部材が収容される空間とは別にスライダ用の収容空間を設ける必要がなく、多方向入力装置の薄型化を図ることができる。
【0009】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記導電パターンは、平面視にて前記環状弾性部材の内側に形成されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、導電パターンが平面視にて環状弾性部材の内側に配設されるため、例えば、導電パターンが形成された基板を環状弾性部材の内側に配置することが可能となる。このように構成した場合には、基板の厚み寸法を環状弾性部材の内側の空間で吸収させて、多方向入力装置の薄型化を図ることができる。
【0011】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記ハウジング内に固定的に設けられ、前記環状弾性部材を内周側から支持する支持部材を備え、前記導電パターンは、第1の導電パターン及び第2の導電パターンを有し、前記スライダは、前記第1の導電パターンに対応する第1のスライダ及び前記第2の導電パターンに対応する第2のスライダを有し、前記支持部材には、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダをスライド可能に保持する貫通部が形成され、前記移動部材は、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダに係合して、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダを前記貫通部に沿って駆動させることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、移動部材と第1のスライダ及び第2のスライダとが係合されるため、移動部材のスライド動作を第1のスライダ及び第2のスライダに確実に伝達でき、第1のスライダ及び第2のスライダを貫通部に沿って円滑に駆動させることができる。また、移動部材の一方向の移動時に、支持部材により環状弾性部材の他方向側が係止されるため、簡易な構成で環状弾性部材の収縮力により移動部材を初期位置に復帰させることができる。
【0013】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記移動部材は、前記可動部の前記第1のスライダ及び前記第2のスライダに対向する対向面において、直交する2方向に延在する第1の溝部及び第2の溝部を有し、前記第1のスライダは、前記第1の溝部に挿入される突部を有し、前記第2のスライダは、前記第2の溝部に挿入される突部を有し、前記第1の溝部及び前記第2の溝部に前記突部が挿入されることで、前記移動部材と前記第1のスライダ及び前記第2のスライダとが相対移動可能に係合されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、移動部材と第1のスライダ及び第2のスライダとを確実に係合できる。また、溝部が直交する2方向に延在するため、移動部材が第1の溝部の延在方向にスライドされることで、第2の溝部を介して係合された第2のスライダのみを駆動させ、移動部材が第2の溝部の延在方向にスライドされることで、第1の溝部を介して係合された第1のスライダのみを駆動させることができる。
【0015】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記移動部材には、前記第1の溝部及び前記第2の溝部のそれぞれが、平行に延在して2つ形成されており、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダには、前記突部が2つ設けられたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第1のスライダ及び第2のスライダのそれぞれが移動部材に対して2箇所で係合されるため、第1のスライダ及び第2のスライダのスライド移動時のブレを抑制して、貫通部に沿って円滑に駆動させることができる。
【0017】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記第1の導電パターン及び前記第2の導電パターンは、直交する2方向に延在する前記第1の溝部及び前記第2の溝部のそれぞれに対して交差する方向に、並列に延在することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、移動部材のスライド移動を所定量確保する場合に第1の導電パターン及び第2の導電パターンの延在長を短くできる。よって、ハウジング内でのスペース効率を高めることができ、多方向入力装置の小型化を図ることができる。
【0019】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記第1の導電パターン及び前記第2の導電パターンが、前記第1の溝部及び前記第2の溝部に対して略45度に交差する方向に延在することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ハウジング内でのスペース効率を更に高めることができ、多方向入力装置の小型化を図ることができる。
【0021】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記移動部材の平面方向における回転移動を規制する規制部材を備えたことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、移動部材の平面方向における回転移動が規制されるため、多方向入力装置の操作性が向上される。また、移動部材の回転移動が規制されることから、移動部材の回転動作が係合部分を介してスライダに伝達されることが抑制されるため、導電パターン上のスライダの位置ズレを防止できる。
【0023】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記ハウジングの前記開口部が形成された天板には、前記ハウジング内に突出する突堤部が設けられており、前記規制部材は、前記天板と前記移動部材との間に配置され、前記環状弾性部材の上動を規制しており、前記突堤部は、前記天板において、前記移動部材が初期位置にある状態で前記規制部材を介して前記環状弾性部材に対向する位置に形成されたことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、ハウジングに形成された突堤部により、規制部材を介して環状弾性部材の上動が確実に押えられ、支持部材から環状弾性部材が外れることがない。よって、環状弾性部材の収縮力が移動部材に適切に作用されるため、多方向入力装置の操作性が悪化することがない。
【0025】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記検出手段は、それぞれ前記摺動子が設けられた3つ以上の前記スライダを有し、前記3つ以上のスライダは、前記環状弾性部材を内周側から支持しており、前記移動部材が初期位置にある状態で前記可動部を収容可能な凹部を形成し、前記導電パターンは、前記3つ以上のスライダに対応して3つ以上設けられ、前記移動部材は、前記可動部を前記凹部の内側から前記スライダに押し当てることで、前記スライダを駆動させることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、凹部に収容された可動部がスライダに押し当てられることで、移動部材のスライド動作をスライダに伝達できる。また、移動部材の一方向の移動によってスライダが駆動される場合に、残りのスライダによって環状弾性部材の他方向側が係止されるため、簡易な構成で環状弾性部材の収縮力により移動部材を初期位置に復帰させることができる。
【0027】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記3つ以上のスライダは、前記環状弾性部材の内周側を支持する支持面に、前記環状弾性部材の上動を規制する規制部が設けられたことを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、支持面に設けられた規制部により、環状弾性部材の上動が確実に押えられ、支持部材から環状弾性部材が外れることがない。よって、環状弾性部材の収縮力が移動部材に適切に作用されるため、多方向入力装置の操作性が悪化することがない。
【0029】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記ハウジングには、前記3つ以上のスライダの駆動をガイドする溝部が形成され、前記3つ以上のスライダは、前記溝部に挿入される突部を有することを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、ハウジングの溝部にスライダの突部が挿通されることで、スライダを溝部に沿って円滑にガイドすることができる。
【0031】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記3つ以上のスライダは、4つのスライダであり、前記摺動子は、前記導電パターンに接する接点部を前記環状弾性部材の中央寄りに設けたことを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、4つのスライダにより移動部材の4方向のスライド移動を良好に行うことができる。また、摺動子の接点部が環状弾性部材の中央寄りに設けられるため、接点部が環状弾性部材の外方寄りに設けられる構成と比較して、各スライダに対応する4つの導電パターンを近接して配置できる。
【0033】
また本発明は、上記多方向入力装置において、前記移動部材の平面方向における回転移動を規制する規制部材を備えたことを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、移動部材の平面方向における回転移動が規制されるため、多方向入力装置の操作性を向上できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、検出手段のスライダを環状弾性部材の内側に配置することで、環状弾性部材の復帰力によって移動部材を復帰させるものにおいて、多方向入力装置の薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置の斜視図である。
【図2】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置の上面側から見た分解斜視図である。
【図3】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置の背面側から見た分解斜視図である。
【図4】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、検出構成周辺の分解斜視図である。
【図5】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、フレキシブル基板における導電パターンの説明図である。
【図6】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、移動部材と第1、第2のスライダとの連結構成の説明図である。
【図7】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置を断面視した場合の動作説明図である。
【図8】本発明に係る多方向入力装置の第1の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置を上方から見た場合の動作説明図である。
【図9】本発明に係る多方向入力装置の第2の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置の斜視図である。
【図10】本発明に係る多方向入力装置の第2の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置の上面側から見た分解斜視図である。
【図11】本発明に係る多方向入力装置の第2の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置の背面側から見た分解斜視図である。
【図12】本発明に係る多方向入力装置の第2の実施の形態を示す図であり、フレキシブル基板における導電パターンの説明図である。
【図13】本発明に係る多方向入力装置の第2の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置を断面視した場合の動作説明図である。
【図14】本発明に係る多方向入力装置の第2の実施の形態を示す図であり、多方向入力装置を上方から見た場合の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の第1の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態に係る多方向入力装置は、例えば、携帯電話装置やゲーム機用コントローラ等における方位入力操作に用いられるものである。なお、本実施の形態に係る多方向入力装置の用途については、これらに限定されるものではなく適宜変更が可能である。
【0038】
図1から図4を参照して、多方向入力装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る多方向入力装置の斜視図である。図2は、本発明の第1の実施の形態に係る多方向入力装置の上面側から見た分解斜視図である。図3は、本発明の第1の実施の形態に係る多方向入力装置の背面側から見た分解斜視図である。図4は、本発明の第1の実施の形態に係る検出構成周辺の分解斜視図である。また、以下において、ハウジングの対向する2辺に沿う方向をX軸方向、ハウジングの残りの2辺に沿う方向をY軸方向として説明する。
【0039】
図1から図3に示すように、本実施の形態に係る多方向入力装置1は、摘みとして機能する操作部2の操作により多方向入力を可能とするものであり、蓋体3及びハウジング本体4からなるハウジング内に各種構成部品を収納して構成される。操作部2は、ユーザからのスライド操作を受付可能にハウジング外に露出されると共に、スライド操作を伝達可能にハウジング内の各種構成部品に連結される。
【0040】
蓋体3は、ステンレス鋼等の金属板材により下面を開口した扁平箱状に形成され、上面視矩形状の天板部21と、天板部21の四辺から下方に折り曲げられた側板部22とを有している。天板部21の中央には、ハウジングの内外を連通する円形状の開口部23が形成されている。天板部21における開口部23の周囲には、ハウジング内側に突出した環状の突堤部24が設けられている。蓋体3の四隅において一対の側板部22及び天板部21には、ハウジング本体4との結合用の係止孔25が形成されている。
【0041】
ハウジング本体4は、上面を開口した扁平箱状に形成され、液晶ポリマー等の樹脂材料からなる枠状部31に、ステンレス鋼等の金属板材からなる底板部32をインサートして成形される。枠状部31の外側面には、蓋体3の係止孔25に対応して係止部33が設けられている。ハウジング本体4及び蓋体3は、係止部33による係止孔25の係止によって、スナップ結合されることで一体化される。枠状部31の内周面は、上面視円形状であり、ハウジング本体4と蓋体3との結合により上面視円形状の扁平空間を形成する。
【0042】
このように構成されたハウジング内の扁平空間には、規制部材11、移動部材12、コイルばね13、支持ケース14が組み込まれる。規制部材11は、中央に長孔28が形成された金属板であり、蓋体3と移動部材12との間に配置される。移動部材12は、操作部2を取り付けるための取付部43を、規制部材11の長孔28及び蓋体3の開口部23を介してハウジング外に突出させている。また、移動部材12は、規制部材11の下方に円板状の可動部41を平面方向にスライド動作可能に配置している。支持ケース14は、一対の長孔52が形成されており、ハウジング本体4の底板部32に取り付けられる。
【0043】
支持ケース14の内側には、導電パターンが形成されたフレキシブル基板15が配置され、各導電パターン上には一対の長孔52に沿ってスライド動作する第1、第2のスライダ16、17が配置されている。また、可動部41及び支持ケース14は、その外周形状が略同一の平面視円形状をなしており、非操作状態において外周面が面一となっている。環状弾性部材としての環状のコイルばね13は、所定長のコイルばねの両端のフック(図示せず)等を連結して形成され、可動部41及び支持ケース14の外周径よりも小さい内周径を有している。コイルばね13は、押し広げられるようにして可動部41及び支持ケース14の外周面に装着される。なお、図2等においては、コイルばね13を簡略化してリング状に示している。以下、ハウジング内の扁平空間に配置される各構成部材の構成について説明する。
【0044】
規制部材11は、ステンレス鋼等の金属板材により形成され、ハウジングの対向する2辺に向けて延びる矩形状の平板部26と、平板部26からハウジングの残りの2辺に向けて延びる半円状の押え部27とを有している。規制部材11の中央には、平板部26の延在方向(X軸方向)に延びる長孔28が形成されている。長孔28は、移動部材12の後述する段部42を延在方向にガイドすると共に、規制部材11に対する移動部材12の回転動作を規制する。平板部26の長手方向の両端は、枠状部31の外側面に沿って下方に折り曲げられ、規制部材11を長孔28の延在方向に対する直交方向(Y軸方向)にガイドする一対のガイド片29となっている。一対のガイド片29は、ハウジング本体4に対する規制部材11の回転動作を規制する。これにより、移動部材12は、規制部材11を介してハウジング本体4に対して回転動作が規制される。
【0045】
押え部27は、可動部41及び支持ケース14の外周面に装着されたコイルばね13の上方に位置し、コイルばね13の上動を押える。押え部27の上面は、ハウジングの天板部21に設けられた突堤部24に当接されており、移動部材12に対する規制部材11の浮きが防止される。このため、突堤部24により押え部27を介してコイルばね13の上動が確実に押えられ、移動部材12のスライド動作時に支持ケース14からコイルばね13が外れることがない。また、突堤部24により天板部21と規制部材11とに隙間が設けられることで、隙間にグリスが入り込んでも天板部21と平板部26との粘着性(密着性)が低減され、操作性に影響を与えることがない。
【0046】
移動部材12は、ポリアセタール等の樹脂材料により形成され、外形が円形状をなした板状(本実施の形態では円板状)の可動部41と、可動部41の上面から僅かに突出した長尺状の段部42と、段部42の上面から上方に突出した取付部43とを有している。取付部43は、規制部材11の長孔28及び蓋体3の開口部23に挿通されて、開口部23を介して外部に突出して露出される。取付部43の突出端側には、中央のカシメピン44の四方に位置決め部45が設けられている。取付部43に取り付けられる操作部2には、カシメピン44に対応してピン孔37が形成され、位置決め部45に対応して位置決め孔38が形成されている。操作部2は、位置決め孔38に位置決め部45が挿通され、ピン孔37に挿通されたカシメピン44がカシメられることで、位置決め状態で移動部材12に固定される。なお、本実施の形態においては、移動部材12に設けられる操作部2を移動部材12と別部材で構成したが、操作部2が開口部23よりも小さい場合には、移動部材12に設けられる操作部を移動部材12と同一部材で構成してもよい。
【0047】
操作部2の上面には、上面視円形状の凹部39が形成されている。凹部39には、両面テープ6を介して円板状のキャップ7が貼り付けられる。このキャップ7により、移動部材12と操作部2との取り付け部分が隠されて、ユーザに対して操作部2と移動部材12とを一体に見せることが可能となる。
【0048】
段部42は、規制部材11の長孔28の幅寸法に合った幅寸法に形成され、規制部材11の長孔28の長さ寸法よりも短い長さ寸法に形成されている。したがって、移動部材12は、長孔28に段部42が入り込むことで規制部材11に対する回転動作が規制される。また、上記したように、規制部材11の一対のガイド片29が枠状部31の外側面に沿うように設けられている。よって、移動部材12は、回転力が与えられた場合に、一対のガイド片29が枠状部31の外側面に当接されて回転動作が規制される。移動部材12は、長孔28と段部42とによりX軸方向に移動可能にガイドされ、一対のガイド片29と枠状部31の外側面とによりY軸方向に移動可能にガイドされる。このように、移動部材12は、規制部材11により回転動作が規制されつつ、平面方向にスライド移動される。
【0049】
可動部41の下面には、X軸方向に延在する第1の溝部46及びY軸方向に延在する第2の溝部47からなる一対のL字状の溝部が並列に設けられている。一対の第1の溝部46には、第1のスライダ16に設けられた一対の係合ピン61が挿入される。一対の第2の溝部47には、第2のスライダ17に設けられた一対の係合ピン61が挿入される。移動部材12は、第1、第2の溝部46、47に第1、第2のスライダ16、17の突起からなる係合ピン61が挿入されることで、第1、第2のスライダ16、17に係合する。なお、第1、第2の溝部46、47は、貫通形成されていてもよい。
【0050】
コイルばね13は、上記したように、ばねの両端を連結して環状に形成され、押し広げられるようにして可動部41及び支持ケース14の外周面に装着される。このとき、コイルばね13の上半部がハウジング内をスライド動作する可動部41によって内側から支持され、コイルばね13の下半部がハウジングに固定された支持ケース14によって内側から支持される。この状態で、コイルばね13の一方向側を押し広げるように可動部41がスライドされると、コイルばね13の他方向側が支持ケース14に係止される。よって、可動部41に対してコイルばね13の収縮力が作用して、移動部材12(可動部41)が初期位置に復帰される。なお、初期位置とは、可動部41及び支持ケース14の外周面が面一となって、両者が上下に重なる位置である。
【0051】
図4(a)、(b)に示すように、支持部材である支持ケース14は、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂材料により下面を開放した筒状に形成される。支持ケース14の上面部51には、第1、第2のスライダ16、17の駆動をガイドする貫通部からなる一対の長孔52が平行に形成されている。上面部51の四方には、ハウジング本体4の底板部32に対して支持ケース14を位置決めする位置決め孔53が形成されている。また、上面部51の裏面中央には、位置決め孔53と共に底板部32に対して支持ケース14を位置決めする突出部54が設けられている。
【0052】
第1、第2のスライダ16、17は、ポリアセタール等の樹脂材料からなるホルダ62に、リン青銅等の導電金属材料からなる摺動片63を圧入して構成される。摺動片63は、上面視略矩形状に形成され、スライド方向に沿う2辺をL字状に折り曲げて形成された一対の係合片64を有している。また、摺動片63は、スライド方向に直交する1辺から裏面側に折り返された片持ちばね状の一対の摺動子65を有している。摺動片63は、ホルダ62に対して上方から圧入により取り付けられる。ホルダ62には、上面に取り付けられた摺動片63の一対の摺動子65が挿通される一対の挿通孔66が形成されている。一対の摺動子65は、一対の挿通孔66を介してホルダ62の下面側から露出される。ホルダ62のスライド方向の前方及び後方には、可動部41の裏面に形成された第1、第2の溝部46、47に挿通される係合ピン61が設けられている。
【0053】
第1、第2のスライダ16、17は、支持ケース14の一対の長孔52内に配置される。支持ケース14において各長孔52の長手方向に沿う縁部分55は、裏面側が僅かに窪んで段状に形成される。第1、第2のスライダ16、17は、一対の係合片64が支持ケース14の縁部分55に係合されることで、支持ケース14にスライド可能に保持される。この場合、ホルダ62の四隅に設けられたガイド部67が支持ケース14の絶縁部55に当接することにより、摺動片63と支持ケース14の縁部分55との接触が抑えられた状態で、第1、第2のスライダ16、17の駆動がガイドされる。なお、第1、第2のスライダ16、17の係合ピン61、係合片64、ガイド部67は、それぞれホルダ62に設けられる構成でもよいし、摺動片63に設けられる構成でもよい。
【0054】
フレキシブル基板15には、抵抗体パターン71及び集電体パターン72を一組みとした導電パターンが2組設けられている。抵抗体パターン71及び集電体パターン72は、支持ケース14の一対の長孔52に対応(対向)して形成されている。第1、第2のスライダ16、17は、一方の摺動子65を抵抗体パターン71上で摺動させ、他方の摺動子65を集電体パターン72上で摺動させながら、一対の長孔52に沿って駆動される。このため、集電体パターン72及び抵抗体パターン71は、第1、第2のスライダ16、17の摺動片63を介して導通される。
【0055】
フレキシブル基板15は、両面テープ8を介してハウジング本体4の底板部32に貼り付けられる。この場合、フレキシブル基板15及び両面テープ8には、それぞれ支持ケース14の位置決め孔53に対応して位置決め孔56、57が形成され、支持ケース14の突出部54が挿通される挿通孔58、59が形成されている。
【0056】
図2に戻り、ハウジング本体4の底板部32には、支持ケース14、フレキシブル基板15、両面テープ8の位置決め孔53、56、57に対応して、位置決め片34が切り起こされている。また、ハウジング本体4の底板部32には、支持ケース14の突出部54が挿通される挿通孔35が形成されている。このような構成により、支持ケース14及びフレキシブル基板15は、底板部32に対して位置決め状態で固定される。すなわち、抵抗体パターン71及び集電体パターン72が設けられたフレキシブル基板15の円形状をなした基部、支持ケース14及び両面テープ8よりも小さく形成されている。そして、フレキシブル基板15の前記基部から外周側に露出した部分の両面テープ8によって、支持ケース14の外周壁(端面)が、底板部32に貼り付けられて、支持ケース14とハウジング本体4とが一体化される。この支持ケース14及びフレキシブル基板15の位置決め片34による位置決めによって、長孔52、抵抗体パターン71、集電体パターン72のそれぞれの延在方向が、矩形状(略正方形状)をなしたハウジングの対角線に平行な向きに合わせられる。
【0057】
この多方向入力装置1では、コイルばね13の内側空間に支持ケース14、第1、第2のスライダ16、17、フレキシブル基板15が配置される。したがって、コイルばね13の内側の空間に、支持ケース14、第1、第2のスライダ16、17、フレキシブル基板15の厚み寸法が吸収される(図7参照)。よって、ハウジングを扁平箱状に形成して、多方向入力装置1の薄型化を図ることが可能となっている。
【0058】
図5を参照して、フレキシブル基板に設けられた導電パターンについて説明する。図5は、本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブル基板における導電パターンの説明図である。
【0059】
図5に示すように、フレキシブル基板15上には、抵抗体パターン71a、71b、集電体パターン72a、72b、配線パターン73a−73dが形成されている。抵抗体パターン71a、71bは、フレキシブル基板15上に印刷されたカーボン層で形成されている。抵抗体パターン71a、71bの両端の電極74a、74bは、フレキシブル基板15上に印刷された銀層上にさらにカーボン層を印刷して形成される。集電体パターン72a、72bは、フレキシブル基板15上に印刷された銀層上に保護用のカーボン層を印刷して形成される。抵抗体パターン71a、71b及び集電体パターン72a、72bからなる2組の導電パターンは、ハウジングの1つの対角線に対して平行に配置される。
【0060】
抵抗体パターン71a、71bの両端(電極74)及び集電体パターン72の一端には、それぞれ配線パターン73a−73dが接続されている。各配線パターン73a−73dは、集電体パターン72a、72bと同様に銀層と保護用のカーボン層の2層構造となっている。各配線パターン73a−73dは、フレキシブル基板15の略円形状をなした基部から帯状の接続部分75の先端部76まで延びている。接続部分75の先端部76は、携帯電話等の電子機器との接続端子として機能する。各配線パターン73a−73dは、活電部の露出防止及び保護のために先端側を除いて絶縁性のレジスト層に覆われている。なお、接続部分75は、ハウジング本体4の底板部32に設けられたスリットを通って、ハウジング本体4の外部(底板部32の裏面側)へ引き出されている(図7参照)。
【0061】
抵抗体パターン71a、71bの一端には、電源電圧Vddの入力用の配線パターン73aが接続される。抵抗体パターン71a、71bの他端には、グランド接地用の配線パターン73cが接続される。集電体パターン72aの一端には、信号出力用の配線パターン73dが接続される。集電体パターン72bの一端には、信号出力用の配線パターン73bが接続される。抵抗体パターン71a及び集電体パターン72aは、第1のスライダ16の摺動片63を介して導通される。抵抗体パターン71b及び集電体パターン72bは、第2のスライダ17の摺動片63を介して導通される。このとき、第1、第2のスライダ16、17のスライド位置に応じて抵抗体パターン71の抵抗値が可変される。
【0062】
第1、第2のスライダ16、17は、移動部材12のXY平面におけるスライド動作に応じて駆動する。集電体パターン72aからは移動部材12のスライド動作のY軸方向成分に応じた信号が出力される。集電体パターン72bからは移動部材12のスライド動作のX軸方向成分に応じた信号が出力される。そして、移動部材12のスライド動作のY軸方向成分及びX軸方向成分に応じた信号の合成処理により、移動部材12のスライド方向およびスライド量が検出される。
【0063】
図6を参照して、移動部材と第1、第2のスライダとの連結構成について説明する。図6は、本発明の第1の実施の形態に係る移動部材と第1、第2のスライダとの連結構成の説明図である。なお、図6においては、説明の便宜上、蓋体及び規制部材を省略すると共に、移動部材を破線で示している。
【0064】
図6(a)に示すように、環状のコイルばね13の内側に、支持ケース14及び移動部材12の可動部41が配置される。可動部41の裏面には、第1の溝部46及び第2の溝部47からなる一対のL字状の溝部が並列に形成されている。X軸方向に延在する一対の第1の溝部46には、第1のスライダ16の一対の係合ピン61が挿通され、Y軸方向に延在する一対の第2の溝部47には、第2のスライダ17の一対の係合ピン61が挿通される。第1、第2のスライダ16、17は、支持ケース14の一対の長孔52に配置され、長孔52に沿って駆動可能に保持される。第1、第2のスライダ16、17の下方には、支持ケース14の一対の長孔52に対応して抵抗体パターン71及び集電体パターン72が形成されている。すなわち、抵抗体パターン71及び集電体パターン72は、支持ケース14(長孔52)を介して、移動部材12の可動部41と対向した状態で配設されている。
【0065】
この状態で、可動部41が平面方向にスライド動作されることで、第1、第2のスライダ16、17が一対の長孔52に沿って斜めに駆動される。このとき、第1、第2のスライダ16、17は、それぞれ第1、第2の溝部46、47への一対の係合ピン61の挿通により、可動部41に対して2箇所で係合される。したがって、第1、第2のスライダ16、17の駆動時のブレが抑制され、第1、第2のスライダ16、17が抵抗体パターン71及び集電体パターン72上を円滑に駆動される。また、抵抗体パターン71及び集電体パターン72は、第1、第2の溝部46、47の延在方向に対して略45度に交差する方向に延在している。
【0066】
このため、抵抗体パターン71及び集電体パターン72の延在長を最も短くすることができる。具体的には、図6(b)に示すように、導電パターンと溝部との交差角度が45度と30度との場合を比較すると、可動部41をY軸方向にL1だけスライドさせるのに必要な導電パターンの延在長が、交差角度30度(L2)よりも交差角度45度(L3)で短い。よって、環状のコイルばね13の内側において抵抗体パターン71及び集電体パターン72を効率的に配置することができ、ハウジング内でのスペース効率を最も高めることができる。ハウジング内でのスペース効率を高めることができることから、多方向入力装置1を小型化することができる。
【0067】
また、X軸方向及びY軸方向への移動部材12の動作時に第1、第2のスライダ16、17のいずれかが駆動するため、信号処理が容易となる。なお、本実施の形態では、長孔52、抵抗体パターン71、集電体パターン72が、第1、第2の溝部46、47の延在方向に対して略45度に交差する構成としたが、この構成に限定されない。
【0068】
例えば、図6(c)に示すように、抵抗体パターン71及び集電体パターン72が、第1、第2の溝部46、47の延在方向に対して直交する構成としてもよい。この構成では、環状のコイルばね13の内側において、抵抗体パターン71及び集電体パターン72がL字状に配置される。抵抗体パターン71及び集電体パターン72を、環状のコイルばね13の内側に配置するためには、コイルばね13の内周径の寸法を大きくとらなければならない。よって、図6(a)の構成と比較して、ハウジング内のスペース効率が低下することから、多方向入力装置1を小型化することが困難である。
【0069】
さらに、図6(d)に示すように、抵抗体パターン71及び集電体パターン72が、第1、第2の溝部46、47に対して略45度以外の角度で斜めに交差する構成としてもよい。この構成では、図6(b)に示すような交差角度の関係により、交差角度が45度の場合と比較して抵抗体パターン71及び集電体パターン72の延在長を長くとらなければならない。よって、図6(a)の構成と比較して、ハウジング内のスペース効率が低下することから、多方向入力装置1を小型化することが困難である。この場合、交差角度が略45度になるように、第1、第2の溝部46、47をX軸方向及びY軸方向に対して傾ける構成が考えられるが、X軸方向及びY軸方向への移動部材12の移動時に第1、第2のスライダ16、17が両方駆動してしまうため、信号処理が煩雑となる。
【0070】
図7及び図8を参照して、多方向入力装置の動作について説明する。図7は、本発明の第1の実施の形態に係る多方向入力装置を鉛直面で切断して断面視した場合の動作説明図である。図8は、本発明の第1の実施の形態に係る多方向入力装置を上方から見た場合の動作説明図である。なお、図8においては、説明の便宜上、蓋体、規制部材を省略すると共に、移動部材については破線で示している。
【0071】
断面視した多方向入力装置1の動作について説明する。図7(a)に示すように、操作部2の非操作状態においては、移動部材12がハウジングの略中央の初期位置に位置されている。この場合、移動部材12の可動部41は、コイルばね13の収縮力によって支持ケース14に対する初期位置に位置合わせされている。この非操作状態では、規制部材11が、蓋体3の天板部21に設けられた突堤部24により移動部材12の可動部41に向けて押し当てられている。また、突堤部24は、規制部材11の押え部27を挟んでコイルばね13に対向し、非操作時におけるコイルばね13の上動を確実に防止している。
【0072】
そして、図7(b)に示すように、この非操作状態から操作部2が一方向側(図示右方向)に操作されると、コイルばね13の収縮力に抗して可動部41が一方向にスライド移動(平面移動)される。可動部41のスライド移動により、コイルばね13が他方向側(図示左方向)に位置する支持ケース14によって係止されると共に、一方向側に位置する可動部41のスライド移動によって押し広げられる。このとき、コイルばね13の他方向に位置する部分(他端側)は、天板部21の突堤部24及び規制部材11の押え部27により上動が抑えられ、支持ケース14から外れることがない。このため、図7(c)に示す押え部27を有さない規制部材11のように、コイルばね13が支持ケース14から外れて規制部材11の端面に当接することがない。よって、コイルばね13の収縮力を移動部材12に対して適切に作用させることができ、操作部2の操作性を向上できる。
【0073】
操作部2の操作が解除されると、コイルばね13の収縮力により一方向側の支持ケース14に対して可動部41が他方向側に引き戻される。そして、コイルばね13の収縮力により支持ケース14の外周面に対して可動部41の外周面が面一となるように位置合わせされ、移動部材12が初期位置に復帰される。
【0074】
次に、上方から見た多方向入力装置1の動作について説明する。図8(a)に示すように、操作部2の非操作状態では、移動部材12の可動部41がハウジング本体4の略中央の初期位置に位置されている。この場合、コイルばね13の収縮力によって、支持ケース14に対して可動部41が重なるように位置合わせされている。第1のスライダ16の一対の係合ピン61は、一対の第1の溝部46のX軸方向の中間に位置され、第2のスライダ17の一対の係合ピン61は、一対の第2の溝部47のY軸方向の中間に位置されている。また、第1、第2のスライダ16、17は、支持ケース14の一対の長孔52の延在方向の中間に位置されている。
【0075】
図8(b)に示すように、操作部2がX軸方向(図示左方向)に操作されると、可動部41が初期位置からコイルばね13の収縮力に抗してX軸方向にスライド動作される。可動部41のX軸方向へのスライド動作は、第1の溝部46がX軸方向に延在するため、係合ピン61を介して第1のスライダ16には伝達されない。よって、第1のスライダ16は、可動部41のX軸方向への移動時には駆動しない。
【0076】
一方、可動部41のX軸方向へのスライド動作は、第2の溝部47がY軸方向に延在するため、第2の溝部47と係合ピン61との当接により第2のスライダ17に伝達される。第2のスライダ17は、スライド動作の伝達により長孔52に沿って斜め方向(図示左下方向)に駆動される。このように、移動部材12のX軸方向移動時には、第2のスライダ17に対応した抵抗体パターン71の抵抗値のみが可変される。
【0077】
このとき、コイルばね13は、支持ケース14によって略半部が支持された状態で、可動部41のスライド動作によってスライド方向であるX軸方向に押し広げられる。よって、コイルばね13は、上面視円形状からX軸方向が長径となる上面視略楕円形状(小判形状)に変形される。ここで、コイルばね13は、移動部材12がスライド操作された側のみならず、支持ケース14によって支持される部分も含めて全体的に伸びて弾性変形する。そして、移動部材12の操作が解除されると、コイルばね13の収縮力により可動部41が押し戻される。これにより、移動部材12は、図8(a)に示す初期位置に自動的に復帰される。
【0078】
図8(c)に示すように、操作部2がY軸方向(図示上方向)に操作されると、可動部41が初期位置からコイルばね13の収縮力に抗してY軸方向にスライド動作される。可動部41のY軸方向へのスライド動作は、第2の溝部47がY軸方向に延在するため、係合ピン61を介して第2のスライダ17には伝達されない。よって、第2のスライダ17は、可動部41のY軸方向への移動時には駆動しない。
【0079】
一方、可動部41のY軸方向へのスライド動作は、第1の溝部46がX軸方向に延在するため、第1の溝部46と係合ピン61との当接により第1のスライダ16に伝達される。第1のスライダ16は、スライド動作の伝達により長孔52に沿って斜め方向(図示右上方向)に駆動される。このように、移動部材12のY軸方向移動時には、第1のスライダ16に対応した抵抗体パターン71の抵抗値のみが可変される。
【0080】
このとき、コイルばね13は、支持ケース14によって略半部が支持された状態で、可動部41のスライド動作によってスライド方向であるY軸方向に押し広げられる。よって、コイルばね13は、上面視円形状からY軸方向が長径となる上面視略楕円形状(小判形状)に変形される。そして、移動部材12の操作が解除されると、コイルばね13の収縮力により可動部41が押し戻される。これにより、移動部材12は、図8(a)に示す初期位置に自動的に復帰される。
【0081】
図8(d)に示すように、操作部2が斜め方向(図示左上方向)に操作されると、可動部41が初期位置からコイルばね13の収縮力に抗して斜め方向にスライド動作される。可動部41の斜め方向へのスライド動作は、第1の溝部46がX軸方向に延在するため、第1の溝部46と係合ピン61との当接により第1のスライダ16に伝達される。第1のスライダ16は、スライド動作の伝達により長孔52に沿って斜め方向(図示右上方向)に駆動される。
【0082】
また、可動部41の斜め方向へのスライド動作は、第2の溝部47がY軸方向に延在するため、第2の溝部47と係合ピン61との当接により第2のスライダ17に伝達される。第2のスライダ17は、スライド動作の伝達により長孔52に沿って斜め方向(図示左下方向)に駆動される。このように、移動部材12の斜め方向移動時には、第1、第2のスライダ16、17に対応した抵抗体パターン71の抵抗値が可変される。
【0083】
このとき、コイルばね13は、支持ケース14によって略半部が支持された状態で、可動部41のスライド動作によってスライド方向である斜め方向に押し広げられる。よって、コイルばね13は、上面視円形状から斜め方向が長径となる上面視略楕円形状(小判形状)に変形される。そして、移動部材12の操作が解除されると、コイルばね13の収縮力により可動部41が押し戻される。これにより、移動部材12は、図8(a)に示す初期位置に自動的に復帰される。
【0084】
この移動部材12のスライド動作には、規制部材11によって移動部材12の回転動作が規制される。このため、移動部材12に対して回転力が付与された場合に、規制部材11によって移動部材12の回転動作が規制されるため、第1、第2のスライダ16、17に回転力が伝達されることがない。第1、第2のスライダ16、17に回転力が伝達されないため、抵抗体パターン71上及び集電体パターン72上における第1、第2のスライダ16、17の位置ズレが抑制される。よって、移動部材12のスライド動作が、第1、第2のスライダ16、17の駆動量に正確に変換されるため、多方向入力装置1の検出精度の低下が防止される。
【0085】
以上のように、本実施の形態に係る多方向入力装置1によれば、摺動子65が設けられた第1、第2のスライダ16、17がコイルばね13の内側に配設されるため、スライダ16、17の厚み寸法がコイルばね13の内側の空間で吸収される。同様に、抵抗体パターン71及び集電体パターン72が形成されたフレキシブル基板15が環状のコイルばね13の内側に配置されるため、フレキシブル基板15の厚み寸法がコイルばね13の内側の空間で吸収される。よって、ハウジングに、コイルばね13が収容される空間とは別に、第1、第2のスライダ16、17及びフレキシブル基板15用の収容空間を設ける必要がなく、多方向入力装置1の薄型化を図ることができる。また、簡易な構成により、可変抵抗式の検出手段を小型化することができる。
【0086】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図9から図11を参照して、多方向入力装置の全体構成について説明する。図9は、本発明の第2の実施の形態に係る多方向入力装置の斜視図である。図10は、本発明の第2の実施の形態に係る多方向入力装置の上面側から見た分解斜視図である。図11は、本発明の第2の実施の形態に係る多方向入力装置の背面側から見た分解斜視図である。また、以下において、ハウジングの対向する2辺に沿う方向をX軸方向、ハウジングの残りの2辺に沿う方向をY軸方向として説明する。
【0087】
図9から図11に示すように、本実施の形態に係る多方向入力装置81は、摘みとしても機能する操作部の操作により多方向入力を可能とするものであり、蓋体82及びハウジング本体83等からなるハウジング内に各種構成部品を収納して構成される。ハウジングは、ハウジング本体83の上面に蓋体82が固定されることで一体化される。また、ハウジング本体83は、フレキシブル基板84を挟んで取付板85が背面側からスナップ結合されることで、フレキシブル基板84と一体化される。なお、取付板85も、蓋体82及びハウジング本体83と共に、多方向入力装置81のハウジングを構成する。
【0088】
蓋体82は、ステンレス鋼等の金属板材により形成されている。蓋体82の天板部91は、上面視矩形状に形成され、中央にハウジングの内外を連通する円形状の開口部92が形成されている。天板部91の対向する2辺には、ハウジング本体83の外側面に沿って折り曲げた側板部93が設けられている。天板部91の対向する残りの2辺には、ハウジング本体83との結合用の結合板部94が設けられている。結合板部94には、長手方向の両端部にカシメ用のピン孔95が形成されている。
【0089】
ハウジング本体83は、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料で上面を開口した扁平箱状に形成されている。ハウジング本体83の上面の四隅には、蓋体82のピン孔95に挿通されるカシメピン101が形成されている。ハウジング本体83は、ピン孔95に挿通されたカシメピン101がカシメられることで蓋体82と一体化される。ハウジング本体83の底面部103には、フレキシブル基板84を扁平空間内に露出させる十字孔102が形成されている。ハウジング本体83の四方に位置する各外側面には、長手方向の両端部に取付板85との結合用の係止部104が設けられている。なお、ハウジング本体83の対向する2面の外側面の両端部には、段部が設けられており、この段部上に係止部104が形成されている。ハウジング本体83の内周面は、上面視円形状であり、蓋体82との結合により上面視円形状の扁平空間を形成する。
【0090】
このように構成されたハウジング内の扁平空間には、規制部材86、移動部材87、複数(本実施の形態では4つ)のスライダ88、コイルばね89が組み込まれる。規制部材86は、中央に長孔97が形成された金属板であり、蓋体82と移動部材87との間に配置される。移動部材87は、この移動部材87と一体に形成された操作部108を、規制部材86の長孔97及び蓋体82の開口部92を介してハウジング外に突出させている。また、移動部材87は、規制部材86の下方に円状をなした板状の可動部109を平面方向にスライド動作可能に配置している。本実施の形態において、ハウジング外に突出した操作部108は、ユーザからのスライド操作を受付可能に構成されている。ただし、操作部108に別体の摘み(図示せず)を圧入等により取り付け、この摘みをユーザがスライド操作してもよい。
【0091】
複数のスライダ88は、移動部材87の可動部109の周囲に配置される。この場合、複数のスライダ88は、上面視円形状の部材を扇形状に4分割することで形成されており、組み合わされることで可動部109を収容する凹部114(図14参照)を形成する。環状弾性部材である環状のコイルばね89は、所定長のコイルばねの両端のフック(図示せず)等を連結して形成され、複数のスライダ88が一体化した円形部材の外周径よりも小さい内周径を有している。コイルばね89は、押し広げられるようにして複数のスライダ88の外周面に装着される。なお、図10等においては、コイルばね89を簡略化してリング状に示している。また、ハウジング本体83の下面には、導電パターンが形成されたフレキシブル基板84が取付板85を介して取り付けられている。以下、扁平空間に配置される各構成部材の構成について説明する。
【0092】
規制部材86は、ステンレス鋼等の金属板材により上面視矩形状に形成されている。規制部材86の中央には、平板部96の延在方向(X軸方向)に延びる長孔97が形成されている。長孔97は、移動部材87の後述する段部107を延在方向にガイドすると共に、規制部材86に対する移動部材87の回転動作を規制する。平板部96の長手方向の両端は、ハウジング本体83の外側面に沿って下方に折り曲げられ、規制部材86を長孔97の延在方向に対する直交方向(Y軸方向)にガイドする一対のガイド片98となっている。一対のガイド片98は、ハウジング本体83に対する規制部材86の回転動作を規制する。これにより、移動部材87は、規制部材86を介してハウジング本体83に対して回転動作が規制される。
【0093】
移動部材87は、ポリアセタール等の樹脂材料により形成され、円板状の可動部109と、可動部109の上面から僅かに突出した長尺状の段部107と、段部107の上面から上方に突出した円柱状の操作部108とを有している。操作部108は、規制部材86の長孔97及び蓋体82の開口部92に挿通され、開口部92を介して外部に突出して露出される。段部107は、規制部材86の長孔97の幅寸法に合った幅寸法に形成され、規制部材86の長孔97の長さ寸法よりも短い長さ寸法に形成されている。したがって、移動部材87は、長孔97に段部107が入り込むことで規制部材86に対する回転動作が規制される。また、上記したように、規制部材86の一対のガイド片98がハウジング本体83の外側面に沿うように設けられている。
【0094】
したがって、移動部材87は、回転力が与えられた場合に、一対のガイド片98がハウジング本体83の外側面に当接されて回転動作が規制される。移動部材87は、長孔97と段部107とによりX軸方向に移動可能にガイドされ、一対のガイド片98とハウジング本体83の外側面とによりY軸方向に移動可能にガイドされる。このように、移動部材87は、規制部材86により回転動作が規制されつつ、平面方向にスライド移動される。
【0095】
コイルばね89は、上記したように、ばねの両端を連結して環状に形成され、押し広げられるようにして複数のスライダ88の外周面に装着される。このとき、複数のスライダ88は、コイルばね89の収縮力により一体化されるように押し合わされ、凹部114内の可動部109が初期位置に位置付けられる。この状態で、可動部109が一方向側に操作されると、コイルばね89の一方向側が一部のスライダ88によって押し広げられ、コイルばね89の他方向側が他のスライダ88に支持される。よって、可動部109に対してコイルばね89の収縮力が作用して、移動部材87(可動部109)が初期位置に復帰される。なお、初期位置とは、複数のスライダ88が一体化され、凹部114内に収容される位置である。
【0096】
複数のスライダ88は、ポリアセタール等の樹脂材料からなるホルダ(保持部)111の下面に、リン青銅等の導電金属材料からなる摺動片112をカシメあるいは圧入することにより構成される。ホルダ111は、上面視扇状に形成されており、径方向内側が窪んで形成されている。この窪みにより、複数のスライダ88が一体化されることで、可動部109を収容する上面視略矩形状の凹部114(図14参照)が形成される。ホルダ111の外周面には、断面視において、厚み方向の中間部分から上方に向けて、径方向外側に張り出すように湾曲した保持面113が形成されている。保持面113は、周方向に沿って形成されており、環状のコイルばね89の内周側を支持する支持面となっている。
【0097】
この場合、保持面113は、コイルばね89の内周側の上部を覆っており、コイルばね89の上方向のズレを規制する規制部が設けられたものとなっている。一方で、コイルばね89は、その収縮力により各ホルダ111の保持面113に対して強く押し当てられている。このため、コイルばね89は、各ホルダ111の保持面113から抜け外れることが抑制される。ホルダ111の下面には、ハウジング本体83の底面部103に形成された一対の溝部105に移動可能にガイドされるレール状の一対の突部115が設けられている。
【0098】
この一対の溝部105は、底面部103に形成された十字孔102に沿うようにして四方に延在している。各スライダ88は、レール状の一対の突部115が一対の溝部105にガイドされることで、ハウジングの中央付近から外側に向けて直線的に駆動される。また、一対の溝部105は、ハウジング内における各スライダ88の駆動範囲を規制し、移動部材87のスライド動作を所定範囲内に収めている。なお、溝部105は底面部103を貫通して形成されてもよいし、有底の穴部で形成されてもよい。また、レール状の一対の突部115は、ホルダ111に設けられる代わりに、摺動片112に設けられる構成でもよい。
【0099】
摺動片112は、上面視矩形状に形成され、ハウジング外側寄りの一端からハウジング中央に向けて裏面側に折り返された片持ちばね状の一対の摺動子116を有している。一対の摺動子116は、底面部103の十字孔102から露出されたフレキシブル基板84上の導電パターンに接触される。このように構成された複数のスライダ88は、凹部114内に配置された可動部109に当接されることで、導電パターン上を駆動する。
【0100】
フレキシブル基板84には、抵抗体パターン121及び集電体パターン122を一組みとした導電パターンが4組設けられている。抵抗体パターン121及び集電体パターン122は、ハウジング本体83の十字孔102に対応(対向)して、ハウジングの内側から外側に向かって四方に延在するように配置されている。すなわち、抵抗体パターン121及び集電体パターン122は、十字孔102及びスライダ88を介して、移動部材87の可動部109と対向するように配設されている。各スライダ88は、一方の摺動子116を抵抗体パターン121上で摺動させ、他方の摺動子116を集電体パターン122上で摺動させながら、十字孔102に沿って駆動する。このため、集電体パターン122及び抵抗体パターン121は、各スライダ88の摺動片112を介して導通される。
【0101】
このとき、一対の摺動子116の先端側の接点部は、コイルばね89の中央寄りに位置するため、接点部がコイルばね89の外方よりに設けられる構成と比較して、各スライダ88に対応する導電パターンを近接して配置できる。また、フレキシブル基板84は、ハウジング本体83の十字孔102の外縁に形成された押え部106により、取付板85に押し付けられる。押え部106の裏面側は、フレキシブル基板84の表面形状に合わせて窪まされているため、ハウジング本体83や取付板85に対してフレキシブル基板84の略十字形状をなした基部が位置決めされる。
【0102】
取付板85は、ステンレス鋼等の金属板材により形成されている。取付板85の底板部117は、上面視矩形状に形成され、四辺からハウジング本体83の外側面に沿って折り曲げた側板部118を有している。また、底板部117には、ハウジング本体83と取付板85とによって、略十字形状の基部が挟持されたフレキシブル基板84の後述する接続部分125を挿通させるスリットが設けられている。各側板部118の長手方向の両端部には、ハウジング本体83の係止部104に係止される係止孔119が形成される。ハウジング本体83及び取付板85は、係止部104による係止孔119の係止によって、スナップ結合されることで一体化される。なお、規制部材86のガイド片98及び蓋体82の側板部93は、ハウジング本体83の段部が設けられた外側面と取付板85のが底板部118との間に配設されている(図13参照)。
【0103】
この多方向入力装置81では、コイルばね89の内側空間に摺動片112を有する複数のスライダ88が配置される。したがって、コイルばね89の内側の空間に、複数のスライダ88の厚み寸法が吸収される(図13参照)。よって、ハウジングを扁平箱状に形成して、多方向入力装置81の薄型化を図ることが可能となっている。
【0104】
図12を参照して、フレキシブル基板に設けられた導電パターンについて説明する。図12は、本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブル基板における導電パターンの説明図である。
【0105】
図12に示すように、フレキシブル基板84上には、抵抗体パターン121a−121d、集電体パターン122a−122d、配線パターン123a−123gが形成されている。抵抗体パターン121a−121dは、フレキシブル基板84上に印刷されたカーボン層で形成されている。抵抗体パターン121a−121dの両端の電極124a−124dは、フレキシブル基板84上に印刷された銀層上にさらにカーボン層を印刷して形成される。集電体パターン122a−122dは、フレキシブル基板84上に印刷された銀層上に保護用のカーボン層を印刷して形成される。抵抗体パターン121a―121d及び集電体パターン122a−122dからなる4組の導電パターンは、フレキシブル基板84上において十字方向に延在するように配置される。
【0106】
抵抗体パターン121a−121dの両端(電極124)及び集電体パターン122の一端には、それぞれ配線パターン123a−123gが接続されている。各配線パターン123a―123gは、集電体パターン122a−122dと同様に銀層と保護用のカーボン層の2層構造となっている。また、各配線パターン123a−123gは、フレキシブル基板84の略十字状をなした基部から帯状の接続部分125の先端側まで延びている。接続部分125の先端側は、携帯電話等の電子機器との接続端子として機能する。各配線パターン123a−123gは、活電部の露出防止及び保護のために先端側を除いて絶縁性のレジスト層に覆われている。なお、接続部分125は、取付板85の底板部117に設けられたスリットを通って、取付板85の外部(底板部117の裏面側)へ引き出される(図13参照)。
【0107】
抵抗体パターン121a−121dの一端には、電源電圧Vddの入力用の配線パターン123cが接続される。抵抗体パターン121a、121bの他端には、グランド接地用の配線パターン123aが接続される。抵抗体パターン121c、121dの他端には、グランド接地用の配線パターン123eが接続される。集電体パターン122aの一端には、信号出力用の配線パターン123bが接続される。集電体パターン122bの一端には、信号出力用の配線パターン123gが接続される。集電体パターン122cの一端には、信号出力用の配線パターン123fが接続される。集電体パターン122dの一端には、信号出力用の配線パターン123dが接続される。
【0108】
抵抗体パターン121a―121d及び集電体パターン122a−122dからなる4組の導電パターンは、それぞれスライダ88の摺動片112を介して導通される。このとき、各スライダ88のスライド位置に応じて抵抗体パターン121a−121dの抵抗値が可変される。各スライダ88は、移動部材87のXY平面におけるスライド動作に応じて駆動する。集電体パターン122a、122cからは移動部材87のスライド動作のY軸方向成分に応じた信号が出力される。集電体パターン122b、122dからは移動部材87のスライド動作のX軸方向成分に応じた信号が出力される。そして、移動部材87のスライド動作のY軸方向成分及びX軸方向成分に応じた信号の合成処理により、移動部材87のスライド方向およびスライド量が検出される。
【0109】
図13及び図14を参照して、多方向入力装置の動作について説明する。図13は、本発明の第2の実施の形態に係る多方向入力装置を鉛直面で切断して断面視した場合の動作説明図である。図14は、本発明の第2の実施の形態に係る多方向入力装置を上方から見た場合の動作説明図である。なお、図14においては、説明の便宜上、蓋体、規制部材を省略すると共に、移動部材については破線で示している。
【0110】
断面視した多方向入力装置81の動作について説明する。図13(a)に示すように、操作部108の非操作状態においては、移動部材87がハウジングの略中央の初期位置に位置されている。この場合、移動部材87の可動部109は、コイルばね89の収縮力によって複数のスライダ88を介して初期位置に位置合わせされている。図13(b)に示すように、この非操作状態から操作部108が一方向側(図示左方向)に操作されると、コイルばね89の収縮力に抗して可動部109が一方向にスライド移動(平面移動)される。可動部109のスライド移動により、コイルばね89が他方向側(図示右方向)に位置するスライダ88によって係止されると共に、一方向側に位置するスライダ88の駆動(スライド移動)によって押し広げられる。なお、ここで、多方向側(図示右側)に位置するスライダ88に設けた一対の突部115は、対応する溝部105の端面に当接しており、このスライダ88の一方向側への移動が規制されている。
【0111】
このとき、コイルばね89の他方向側に位置する部分(他端側)は、スライダ88の保持面113により上動が抑えられ、スライダ88から外れることがない。よって、コイルばね89の収縮力を移動部材87に対して適切に作用させることができ、操作部の操作性を向上できる。操作部の操作が解除されると、コイルばね89の収縮力により一方向側のスライダ88を介して可動部109が他方向側に引き戻される。そして、コイルばね89の収縮力により、複数のスライダ88が一体化されて凹部114を形成し、移動部材87が凹部114内の初期位置に復帰される。
【0112】
次に、上方から見た多方向入力装置81の動作について説明する。図14(a)に示すように、操作部108の非操作状態では、移動部材87の可動部109がハウジング本体83の略中央の初期位置に位置されている。この場合、コイルばね89の収縮力によって、複数のスライダ88がハウジング本体83中央で円形状の部材を形成するように一体化されている。また、可動部109が、複数のスライダ88の一体化によって形成される上面視略矩形状の凹部114に収容されている。
【0113】
図14(b)に示すように、操作部108(移送部材87)がX軸方向(図示右方向)に操作されると、可動部109が初期位置からコイルばね89の収縮力に抗してX軸方向にスライド動作される。スライダ88aは、可動部109によって凹部114の内側から当接され、ハウジング本体83の側壁部に向けて押し込まれる。スライダ88aは、可動部109の当接により一対の溝部105に沿ってX軸方向(図示右方向)に駆動される。このように、移動部材87のX軸方向(図示右方向)への移動時には、スライダ88aに対応した抵抗体パターン121の抵抗値のみが可変される。
【0114】
このとき、コイルばね89は、スライダ88b−88dによって略半部が支持された状態で、スライダ88aの駆動によって駆動方向であるX軸方向に押し広げられる。よって、コイルばね89は、上面視円形状からX軸方向が長径となる上面視略楕円形状(小判形状)に変形される。そして、移動部材87の操作が解除されると、コイルばね89の収縮力により可動部109がスライダ88aを介して押し戻される。これにより、移動部材87は、図14(a)に示す初期位置に自動的に復帰される。ここで、コイルばね89は、移動部材87がスライド操作されたスライダ88a側のみならず、スライダ88b−88dによって支持される部分も含めて全体的に伸びて弾性変形する。
【0115】
図14(c)に示すように、操作部108がY軸方向(図示上方向)に操作されると、可動部109が初期位置からコイルばね89の収縮力に抗してY軸方向にスライド動作される。スライダ88dは、可動部109によって凹部114の内側から当接され、ハウジング本体83の側壁部に向けて押し込まれる。スライダ88dは、可動部109の当接により一対の溝部105に沿ってY軸方向(図示上方向)に駆動される。このように、移動部材87のY軸方向(図示上方向)への移動時には、スライダ88dに対応した抵抗体パターン121の抵抗値のみが可変される。
【0116】
このとき、コイルばね89は、スライダ88a−88cによって略半部が支持された状態で、スライダ88dの駆動によって駆動方向であるY軸方向に押し広げられる。よって、コイルばね89は、上面視円形状からY軸方向が長径となる上面視略楕円形状(小判形状)に変形される。そして、移動部材87の操作が解除されると、コイルばね89の収縮力により可動部109がスライダ88dを介して押し戻される。これにより、移動部材87は、図14(a)に示す初期位置に自動的に復帰される。
【0117】
図14(d)に示すように、操作部108が斜め方向(図示右上方向)に操作されると、可動部109が初期位置からコイルばね89の収縮力に抗して斜め方向にスライド動作される。スライダ88a、88dは、可動部109によって凹部114の内側から当接され、それぞれハウジング本体83の側壁部に向けて押し込まれる。スライダ88aは、可動部109の当接により一対の溝部105に沿ってX軸方向(図示右方向)に駆動される。スライダ88dは、可動部109の当接により一対の溝部105に沿ってY軸方向(図示上方向)に駆動される。このように、移動部材87の斜め方向(図示右上方向)への移動時には、スライダ88a、88dに対応した抵抗体パターン121の抵抗値が可変される。
【0118】
このとき、コイルばね89は、スライダ88b、88cによって略半部が支持された状態で、スライダ88aのX軸方向の駆動及びスライダ88dのY軸方向の駆動によってスライダ88a及びスライダ88dの移動方向に応じて押し広げられる。よって、コイルばね89の略半部が、上面視半円形状から半惰円形状(小判形状)に変形される。そして、移動部材87の操作が解除されると、コイルばね89の収縮力により可動部109がスライダ88a、88dを介して押し戻される。これにより、移動部材87は、図14(a)に示す初期位置に自動的に復帰される。
【0119】
以上のように、本実施の形態に係る多方向入力装置81によれば、摺動子116が設けられた複数のスライダ88がコイルばね89の内側に配設されるため、スライダ88の厚み寸法がコイルばね89の内側の空間で吸収される。よって、ハウジングに、コイルばね89が収容される空間とは別に、複数のスライダ88用の収容空間を設ける必要がなく、多方向入力装置81の薄型化を図ることができる。また、抵抗体パターン121及び集電体パターン122が平面視において環状のコイルばね89の内側に配置されるため、摺動子116もコイルばね89の内側に配設されるものとなり、簡易な構成により、可変抵抗式の検出手段を小型化することができる。
【0120】
なお、上記した各実施の形態において、蓋体の開口部は、円形状に限定されるものではなく、例えば、惰円形状でもよい。また、規制部材に長孔が形成されているが、長孔を延在方向に横切るように桟部を設けて2分割してもよい。この場合、分割された長孔に合わせて、移動部材から突出した取付部等が2分割される。
【0121】
また、上記した各実施の形態において、抵抗体パターン及び集電体パターンからなる導電パターンにより、可変抵抗式の検出手段が構成されたが、この構成に限定されるものではない。検出手段は、導電パターンとして、A相信号を得るための第1の導電パターンと、B相信号を得るための第2の導電パターンと、コモンパターンとを用いて、エンコーダ検出を行う構成でもよい。この場合、各スライダに第1、第2の導電パターン及びコモンパターンに対応して摺動接点が3つ設けられる。
【0122】
また、上記した第1の実施の形態において、コイルばねの内側空間にスライダ及びフレキシブル基板の厚み寸法が吸収される構成としたが、少なくともスライダの厚み寸法だけがコイルばねの内側空間に吸収される構成としてもよい。このような構成でも、多方向入力装置の薄型化を十分に図ることができる。また、上記した第1の実施の形態において、環状のコイルばねを内周側から支持する支持ケース(支持部材)を両面テープによりハウジング本体に貼り付けて一体化する構成としたが、この構成に限定されない。支持ケースは、ハウジング本体と一部材で一体的に形成することも可能である。この場合には、例えば、ハウジング本体を形成する金属板材からなる底板部に中央部に開口部を設ける。そして、この底板部をインサート成形により、樹脂材料からなる中央部の支持部材と外周側の枠状部とに埋設する。ここで、支持部材は、上記した第1の実施の形態に係る支持ケースに相当し、スライダをスライド移動可能に保持する長孔からなる貫通部が形成されている。そして、このハウジング本体(底板部)の裏面側に、支持部材の貫通部から露出する抵抗体パターン及び集電体パターンが形成されたリジッド基板あるいはフレキシブル基板等の絶縁基板を取り付けて構成する。絶縁基板の取付手段としては、例えば、絶縁基板を支持する取付部材を別途設けて、この取付部材をハウジング本体にスナップ止めする手段等が考えられる。また、絶縁基板に複数の孔を設け、この孔にハウジング本体の下方に突出したカシメ用突起を挿通させて、カシメ用突起の先端をカシメて変形させることにより、絶縁基板を取り付けてもよい。なお、ハウジング本体は、底板部も含めて、支持部材及び枠状部と同じ樹脂材料により1つの成形部材として構成してもよい。
【0123】
また、上記した第1の実施の形態において、可動部及び支持ケースの外周形状が、平面視において同一の円形状に形成される構成としたが、この構成に限定されるものではない。可動部及び支持ケースは、コイルばねを内側から支持可能であれば、どのような外周形状であってもよい。
【0124】
また、上記した第1の実施の形態において、支持ケースに一対の長孔が形成される構成としたが、この構成に限定されない。支持ケースは、第1、第2のスライダの駆動をガイド可能であれば、どのような形状の孔が形成されていてもよい。
【0125】
また、上記した第1の実施の形態において、可動部の溝部にスライダの係合ピンが挿入されることで、移動部材とスライダとが係合される構成としたが、この構成に限定されるものではない。移動部材のスライド動作が、スライダに伝達されるように係合されていれば、どのように係合されてもよい。また、移動部材とスライダとが2箇所で係合される構成に限定されず、1箇所で係合されてもよい。
【0126】
また、上記した第1の実施の形態において、第1、第2の溝部がL字状に連結される構成としたが、この構成に限定されるものではない。第1、第2の溝部は、直交するように配置されればよく、例えば、相互に離間して配置される構成としてもよい。なお、第1、第2の溝部は、完全に直交して配置される構成に限定されず、検出精度に影響を与えない範囲で交差するように配置されてもよい。
【0127】
また、上記した第2の実施の形態において、スライダの数は4つに限らず、3つでもよいし、5つ以上でもよい。また、スライダの形状は、コイルばねを内側から保持可能であればよく、円形状の部材を等分割した扇状に限らない。また、複数のスライダにより形成される凹部は、上面視略矩形状に限定されず、例えば、八角形状等の上面視多角形状でもよい。また、複数のスライダにより形成される凹部に収容される可動部は、上面視円形状に限定されず、例えば、略矩形状をなした凹部に対し、辺の角度が約45度傾いた上面視矩形状や八角形状等の上面視多角形状でもよい。
【0128】
また、上記した第2の実施の形態において、スライダのレール状の突部にハウジング本体の溝部に挿通されることで、スライダがハウジン本体にガイドされる構成としたが、この構成に限定されない。スライダは、ハウジング本体に対して一方向に駆動可能にガイドされる構成であればよく、例えば、スライダの溝部にハウジング本体のレール状の突部が挿通される構成としてもよい。
【0129】
また、上記した第2の実施の形態において、コイルばねが複数のスライダの保持面により、上動が規制される構成としたが、この構成に限定されない。第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に規制部材に押え部を設けて、コイルばねの上動が規制される構成としてもよい。
【0130】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上説明したように、本発明は、環状弾性部材の復帰力によって操作体を復帰されるものにおいて、薄型化を図ることができるという効果を有し、特に、携帯電話装置やゲーム機用コントローラ等における方位入力操作に好適な多方向入力装置に有用である。
【符号の説明】
【0132】
1、81 多方向入力装置
2、108 操作部
3、82 蓋体(ハウジング)
4、83 ハウジング本体(ハウジング)
11、86 規制部材
12、87 移動部材
13、89 コイルばね(環状弾性部材)
14 支持ケース(支持部材)
15、84 フレキシブル基板
16 第1のスライダ
17 第2のスライダ
23、92 開口部
24 突堤部
41、109 可動部
46 第1の溝部
47 第2の溝部
52 長孔(貫通部)
61 係合ピン(突部)
62、111 ホルダ
63、112 摺動片
65、116 摺動子
71、121 抵抗体パターン(導電パターン)
72、122 集電体パターン(導電パターン)
73、123 配線パターン(導電パターン)
74、124 電極
85 取付板(ハウジング)
88 スライダ
105 溝部
113 保持面(規制部)
114 凹部
115 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成されたハウジングと、
前記開口部を介して一部が露出し、前記ハウジング内を平面方向にスライド移動する可動部を有する移動部材と、
前記移動部材のスライド移動を検出する検出手段と、
前記可動部を囲うように前記ハウジング内で支持され、前記可動部を初期位置に復帰させる環状弾性部材とを備え、
前記検出手段は、前記移動部材に対向するように設けられた導電パターンと、前記可動部のスライド移動に伴って前記導電パターンを摺動する摺動子が設けられたスライダとを含み、前記スライダが前記環状弾性部材の内側に配設されることを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
前記導電パターンは、平面視にて前記環状弾性部材の内側に形成されることを特徴とする請求項1に記載の多方向入力装置。
【請求項3】
前記ハウジング内に固定的に設けられ、前記環状弾性部材を内周側から支持する支持部材を備え、
前記導電パターンは、第1の導電パターン及び第2の導電パターンを有し、
前記スライダは、前記第1の導電パターンに対応する第1のスライダ及び前記第2の導電パターンに対応する第2のスライダを有し、
前記支持部材には、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダをスライド可能に保持する貫通部が形成され、
前記移動部材は、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダに係合して、前記第1のスライダ及び前記第2のスライダを前記貫通部に沿って駆動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多方向入力装置。
【請求項4】
前記移動部材は、前記可動部の前記第1のスライダ及び前記第2のスライダに対向する対向面において、直交する2方向に延在する第1の溝部及び第2の溝部を有し、
前記第1のスライダは、前記第1の溝部に挿入される突部を有し、前記第2のスライダは、前記第2の溝部に挿入される突部を有し、
前記第1の溝部及び前記第2の溝部に前記突部が挿入されることで、前記移動部材と前記第1のスライダ及び前記第2のスライダとが相対移動可能に係合されることを特徴とする請求項3に記載の多方向入力装置。
【請求項5】
前記移動部材には、前記第1の溝部及び前記第2の溝部のそれぞれが、平行に延在して2つ形成されており、
前記第1のスライダ及び前記第2のスライダには、前記突部が2つ設けられたことを特徴とする請求項4に記載の多方向入力装置。
【請求項6】
前記第1の導電パターン及び前記第2の導電パターンは、直交する2方向に延在する前記第1の溝部及び前記第2の溝部のそれぞれに対して交差する方向に、並列に延在することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の多方向入力装置。
【請求項7】
前記第1の導電パターン及び前記第2の導電パターンが、前記第1の溝部及び前記第2の溝部に対して略45度に交差する方向に延在することを特徴とする請求項6に記載の多方向入力装置。
【請求項8】
前記移動部材の平面方向における回転移動を規制する規制部材を備えたことを特徴とする請求項3から請求項7のいずれかに記載の多方向入力装置。
【請求項9】
前記ハウジングの前記開口部が形成された天板には、前記ハウジング内に突出する突堤部が設けられており、
前記規制部材は、前記天板と前記移動部材との間に配置され、前記環状弾性部材の上動を規制しており、
前記突堤部は、前記天板において、前記移動部材が初期位置にある状態で前記規制部材を介して前記環状弾性部材に対向する位置に形成されたことを特徴とする請求項8に記載の多方向入力装置。
【請求項10】
前記検出手段は、それぞれ前記摺動子が設けられた3つ以上の前記スライダを有し、
前記3つ以上のスライダは、前記環状弾性部材を内周側から支持しており、前記移動部材が初期位置にある状態で前記可動部を収容可能な凹部を形成し、
前記導電パターンは、前記3つ以上のスライダに対応して3つ以上設けられ、
前記移動部材は、前記可動部を前記凹部の内側から前記スライダに押し当てることで、前記スライダを駆動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多方向入力装置。
【請求項11】
前記3つ以上のスライダは、前記環状弾性部材の内周側を支持する支持面に、前記環状弾性部材の上動を規制する規制部が設けられたことを特徴とする請求項10に記載の多方向入力装置。
【請求項12】
前記ハウジングには、前記3つ以上のスライダのスライド移動をガイドする溝部が形成され、
前記3つ以上のスライダは、前記溝部に挿入される突部を有することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の多方向入力装置。
【請求項13】
前記3つ以上のスライダは、4つのスライダであり、
前記摺動子は、前記導電パターンに接する接点部を前記環状弾性部材の中央寄りに設けたことを特徴とする請求項10から請求項12のいずれかに記載の多方向入力装置。
【請求項14】
前記移動部材の平面方向における回転移動を規制する規制部材を備えたことを特徴とする請求項10から請求項13のいずれかに記載の多方向入力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate