説明

多段式植物栽培棚及びこれを利用した植物育成方法

【課題】太陽光及び人工光の照射比率を植物栽培に最適な値にすることが簡単な構造で実現でき、光源への電力供給コストを最小限に抑えることと、照射する人工光の制御のみによって特定成分が増強された市場価値の高い高品質植物を作ることのできる多段式植物栽培棚を提供する。
【解決手段】多段式植物栽培棚1は、植物保持部2と、その保持部2を支える支持部3からなる棚状のもので、前記植物保持部2及び植物4の間に配置され副光L2を照射する光源7を備える。前記植物保持部2相互間の距離は、上部から照射される主光L1の量が、前記副光L2の量との関係において各段であらかじめ定められた値になるように設定し、最上段では主光L1のみを、残りの各段では主光L1に加えて互いに異なる種類の副光L2を植物に照射する。成長に応じて植物4を最上段から最下段へと移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段式植物栽培棚に関し、特に人工光源を備える多段式植物栽培棚及びこれを利用した植物育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多段式の植物栽培棚は、限られた土地で植物を栽培するときに利用され、特許文献1に示すように、植物に蛍光灯やLEDなどの人工光を照射する光源を各棚ごとに設けている。この特許文献記載のものは、人工光のみで植物を育成するタイプであるが、ビニールハウスのようなところで、昼は太陽光をも取り入れ、人工光と併せて育成するようにしたものも知られている。ところで、かかる従来の植物栽培棚は、育成する植物の種類や成長度合いによって棚の高さを異ならせることこそあれ、そうでない場合は、各棚の高さを一定に揃えておくのが通常である。
【特許文献1】特開2000−270698
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、太陽光を取り入れる場合、上の棚の方ほど太陽光が多く照射されて棚ごとの光量や光質が異なってしまうことから、各棚で均一に植物を栽培することが難しくなるという不具合が生じる。
【0004】
一方、近年著しい食への関心の増大とともに、農薬などが使用されていない安全で、かつ例えば特定の栄養成分が増強された健康志向型食品の需要が高まってきている。
【0005】
そこで本発明は、この太陽光(すなわち主光)の光量が棚ごとに異なることを逆に利用し、棚の高さを調整すれば主光の量を簡単にコントロールできることに着目してなされたものであって、副光のコントロールと併せて主光及び人工光の照射比率を植物栽培に最適な値にすることを簡単な構造で実現するとともに、光源への電力供給コストを最小限に抑えることと、照射する人工光の制御のみによって特定成分が増強された市場価値の高い高品質植物を作ることのできる多段式植物栽培棚を提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明にかかる多段式植物栽培棚は、上下に棚状に複数段並べた植物保持部と、前記植物保持部及び植物の間に配置され、副光を植物に照射する光源と、を備えており、上部から照射される主光の量が、前記副光の量との関係において各段であらかじめ定められた値になるように、前記植物保持部間の高さ寸法を少なくとも一部で異ならせていることを特徴とする。
【0007】
このようなものであれば、棚の高さ調整のみで太陽光及び人工光の照射比率が植物栽培に最適な値に設定でき、光源への電力供給コストを最小限に抑えることができ、照射する人工光の制御のみによって特定成分が増強された市場価値の高い高品質植物を作ることができる。
【0008】
具体的な実施態様としては、前記主光が、ある所定の角度から照射する太陽光を基準とした光であるものを挙げることができる。主光は太陽光に限らず、例えばこの植物栽培棚が配置される部屋全体を照明するための天井の蛍光灯などを主光としても構わない。
【0009】
特定成分が増強された植物を効率よく栽培するには成長過程に応じて異なる種類の光を照射するのがよいため、前記植物保持部において、前記植物は、成長に応じて最上段から最下段へと移動されるものであって、最上段では前記主光のみが照射され、残りの各段では前記副光の光質を互いに異ならせているものが好ましい。光質とは光量、光のスペクトルを少なくとも含んだ光の質を表す概念である。
【0010】
具体的には、前記植物保持部が3段で、最上段では前記主光のみを照射し、2段目では前記植物の発色制御のための前記副光を照射し、3段目では前記植物成分制御のための前記副光を照射するものが好適である。
【0011】
従来の植物栽培棚は、例えば単に市販の棚に人工光源を取り付けただけに過ぎずものであり、人工光の照射効率が最適になるように設計されているとは限らず、光照射に無駄な部分が生じるため、光源への供給電力に無駄が生ずる。これを改善し、副光の効率的照射によるエネルギー削減を行うためには、前記光源の配設位置を、前記植物の植栽位置と一対一に対応させているものが好ましい。
【0012】
電力供給コスト削減により適したものとして、前記光源が、LEDであるものを挙げることができる。
【0013】
光量調節を簡単に行うには、前記光源が、高さ方向に移動可能であるものが好適である。
【0014】
主光の量が十分なときには主光を取り入れ、不十分なときには副光を効率よく照射するためには、前記植物保持部の側周囲に、光遮断部材をさらに備えるものがよい。
【0015】
さらに、前記光遮断部材が、前記主光を感知して自動的に開閉するものであれば、人の手を煩わせることもなくなお好ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、太陽光を利用して光源への電力供給コストを最小限に抑えることができるうえに、照射する人工光の制御によって特定成分が増強された市場価値の高い高品質植物を作ることが簡単な構造で可能となる。また、人工光源では太陽光と全く同じ種類の光を作り出すことは不可能であり、この点は人工光による植物栽培の限界であり弱点とも考えられているが、逆に人工光の性質を制御して太陽光では得られない種類の光を照射して、植物の特定の成分を増強することを可能とする本発明によれば、その弱点を逆に利点として活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る多段式植物栽培棚1は、図1に模式的構造図を示すように、例えば、植物4を育成するための植物栽培用容器5を載せて、主光である太陽光L1の降り注ぐ屋外に設置されるビニールハウス6の内部に設置する。ここで主光とは、植物を育成するために必要な主たる光のことである。
【0019】
多段式植物栽培棚1は、網状長方形の植物保持部2と、植物保持部2を支えるためにその4角に取り付けられた柱状の支持部3からなる棚状のものとし、本実施例においては植物保持部2は3段とする。植物保持部2の大きさは、栽培される植物の大きさによって異なる。また、植物保持部2及び支持部3は、耐水性に優れた例えばステンレス製のものとする。
【0020】
植物保持部2相互間の距離は、植物を生産する季節におけるある時間、例えば朝10時の太陽の照射角度における光量を基準として、主光L1対副光L2の光量比率が、例えば、最上段から順に、10:0、9:1、7:3となるように設定する。また、植物保持部2の各段で、主光の光量が異なるように段間の高さを設定する。最上段と2段目との距離D1と、2段目と3段目との距離D2との比は、例えばここでは5:3とし、下の段ほど主光の光量が小さくなるように設定している。ここで副光とは、基本的には前記主光L1に付加されて植物の育成を補助し、あるいは、制御する光のことである。
【0021】
植物に副光L2を照射する光源7は、図2(a)に示すように、光を透過するビニールシート71に配設して、図1及び図2(b)に示すように、植物4の上方に設置する。このように複数の光源7を一体化させたものであれば、必要に応じた設置や光源の種類変更による取替えが容易であり、さらには植物4と光源7との間の距離の変更も容易である。
【0022】
また、植物4と光源7とは、図2(a)に示すように、a=a’、b=b’となるようにそれぞれを配置、植栽する。このようにすることで、図2(b)に示すように、光源7を植物4の上方に設置したときに各々一対一対応し、副光L2を植物に無駄なく照射することが可能となる。
【0023】
光源7には、20mAより大きい電流が流れるハイパワーLEDを用いる。このようなものであれば、光量が多く人工光源として好適である。植物保持部2の上から2段目の光源7には強光刺激を与えるために紫外線LEDを使用し、3段目の光源7には色刺激を与えるために青色LEDを使用する。なお、光照射効率をさらに高めるために、各光源7には光拡散防止レンズを取り付ける。
【0024】
次に、このように構成される多段式植物栽培棚1の作用を説明する。最上段の植物保持部2においては、植物4には太陽光L1のみが照射される。太陽光L1による成長が所定の基準に達すれば、植物栽培用容器5を2段目に移動する。2段目においては、光源7から副光L2(紫外線LED光)を照射して、太陽光L1に加えて強光刺激を与えることで植物4の発色を制御する。植物4が2段目での成長基準に達すれば、次に植物栽培用容器5を3段目に移動し、光源7から副光L2(青色LED光)を照射して、太陽光L1に加えて色刺激を与えることで植物4の成分を制御する。3段目での成長基準に達すれば、植物4を収穫する。植物栽培用容器5の移動後には、随時同様の手順で植物栽培用容器5の補充、移動を行い、常に全ての段で植物が栽培されている状態を保つ。
【0025】
このように構成した本実施形態に係る多段式植物栽培棚1によれば、2段目では紫外線刺激による発色制御で赤色を増強でき、3段目では色刺激による成分制御でビタミンCを増強できるので、太陽光のみの利用では栽培できない市場価値の高い植物を栽培することが可能となる。さらに、栽培棚自体の設計を工夫することで簡単に副光の照射効率を最大限まで高めることができるので、光照射にかかるエネルギー消費を大幅に抑えてコスト削減を図ることが可能となる。
【0026】
次に、本発明の変形態様について説明する。なお、以下の説明中、前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付している。
【0027】
前記副光L2の種類は、前記植物保持部2の2段目と3段目で逆であっても、同じ効果を奏するのであれば構わないし、また、前記光源7の種類は、植物の成分制御の目的に応じて変更すればよい。例えば、光源に半導体レーザーや蛍光灯、白熱灯などを使用して構わない。
【0028】
主光は太陽光に限られず、多段式植物栽培棚を設置する屋内に配置した人工光を主光としてもよい。
【0029】
主光対副光の比率は、増強したい成分の制御に必要な副光の種類に応じて変更すればよい。
【0030】
植物保持部は、網状のものに限らず、格子状のものでも、一枚の板状のものでもよく、また、形状も長方形に限らず、正方形その他どのようなものでもよく、植物栽培用容器を保持できるものであればよい。さらに、その素材も金属、木、プラスチックなど植物栽培用容器の重量に耐えるものであればどのようなものでもよい。
【0031】
植物保持部の数は、植物の成分制御の目的に応じて必要となる副光の数によって決定すればよい。
【0032】
さらに、本発明は、図3に示すように、夜間等主光L1(主として太陽光)を使用しない場合には、植物保持部2の周囲を例えば遮光カーテンや板などの光遮断部材8で覆うことで副光L2を漏らさずに照射効率を向上することが可能である。また、この光遮断部材8が、主光L1を感知してその光量に応じて自動的に開閉するように制御されるものであれば、人の手を煩わせることなく機能するので、さらに実用的である。
【0033】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態における多段式植物栽培棚の模式的構造図。
【図2】前記形態における光源及び植物の模式的配置図。
【図3】本発明の変形例における模式的構造図。
【符号の説明】
【0035】
1 ・・・多段式植物栽培棚
2 ・・・植物保持部
4 ・・・植物
7 ・・・光源
8 ・・・光遮断部材
L1 ・・・主光(太陽光)
L2 ・・・副光(LED光)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に棚状に複数段並べた植物保持部と、
前記植物保持部及び植物の間に配置され、副光を植物に照射する光源と、
を備えており、
上部から照射される主光の量が、前記副光の量との関係において各段であらかじめ定められた値になるように、前記植物保持部間の高さ寸法を少なくとも一部で異ならせていることを特徴とする多段式植物栽培棚。
【請求項2】
前記主光が、ある所定の角度から照射する太陽光を基準とした光である請求項1記載の多段式植物栽培棚。
【請求項3】
前記植物保持部において、前記植物は、成長に応じて異なる段へと移動されるものであって、最上段では前記主光のみが照射され、残りの各段では前記副光の光質を互いに異ならせている請求項1又は2記載の多段式植物栽培棚。
【請求項4】
前記植物保持部が3段で、最上段では前記主光のみを照射し、2段目では前記植物の発色制御のための前記副光を照射し、3段目では前記植物成分制御のための前記副光を照射するものである請求項1、2、又は3記載の多段式植物栽培棚。
【請求項5】
前記光源の配設位置が、前記植物の植栽位置と一対一に対応している請求項1、2、3又は4記載の多段式植物栽培棚。
【請求項6】
前記光源が、LEDである請求項1、2、3、4又は5記載の多段式植物栽培棚。
【請求項7】
前記光源が、高さ方向に移動可能である請求項1、2、3、4、5又は6記載の多段式植物栽培棚。
【請求項8】
前記植物保持部の側周囲に、光遮断部材をさらに備える請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の多段式植物栽培棚。
【請求項9】
前記光遮断部材が、前記主光を感知して自動的に開閉するものである請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の多段式植物栽培棚。
【請求項10】
請求項1記載の多段式植物栽培棚を利用した植物育成方法であって、前記植物を成長に伴って植物保持部の上段から下段へと移動させるとともに、最上段では前記主光のみを照射し、残りの各段では前記副光の光質を互いに異ならせて植物に照射することを特徴とする植物育成方法。
【請求項11】
前記植物保持部が3段で、最上段では前記主光のみを照射し、2段目では前記植物の発色制御のための前記副光を照射し、3段目では前記植物成分制御のための前記副光を照射する請求項10記載の植物育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−182951(P2008−182951A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19029(P2007−19029)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】