説明

多目的調理装置

【目的】屋外(被災地等)において、種々の調理具を最適な状態で設置し、安全に調理作業ができる多目的調理装置を提供すること。
【構成】前方開口と上方開口を有する本体と、前方側開口を開閉する両開きの2個の正面扉と、上方開口を開閉する両開きの2個の上方蓋と、コンロが設置される棚板と、安全杆とからなり、本体の両側板部の内方側で且つ上下方向に棚板を載置可能とした複数段の載置桟が設けられ、最下段の載置桟を第1載置桟として寸胴鍋用とし、第1載置桟の上方に位置する載置桟を第2載置桟として普通鍋用とし、第2載置桟の上方に位置する載置桟を第3載置桟としてコンロ専用とし、第3載置桟の上方で且つ両側板部の上端付近に位置する載置桟を第4載置桟として鉄板専用とし、載置桟に配置された寸胴鍋、普通鍋、鉄板の上面の高さ位置は同等に構成され、且つ安全杆は本体の前方開口で且つ最上段に位置する載置桟の前端箇所に着脱自在としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外、特に過酷な状況の被災地において、炊物,煮物,焼き物等の種々の調理具と、コンロを最適な状態で設置することができ、安全な状態で調理作業ができる多目的調理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調理を屋外で行うための装置が種々開発されている。その目的として、多くのものはキャンプ地や、ガーデン等の行楽地での使用のものがほとんどである。したがって、鍋や、フライパン等も少人数から中人数向けのサイズのものが使用できるように、設計されている。この種のものとして、特許文献1乃至特許文献4が存在する。
【0003】
ところで、近年、地震,台風等の自然災害が頻発しており、特に大災害になると、多くの被災民を救援しなければならない機会が増えてきた。このような被災地における食事の配給のため及び被災民に希望を与えるために、多くの人々やボランティアによって炊き出しが行われることが多くなってきた。このような状況においては、上述した調理装置では、多数の被災民に対して、短時間のうちに十分な食事を配給することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−145950号公報
【特許文献2】特開2007−319619号公報
【特許文献3】特開2006−102488号公報
【特許文献4】実用新案登録第3038639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屋外で使用することができる調理装置として、特許文献1乃至特許文献4が存在する。特許文献1では、蝶番等にて連結された複数枚のパネルと、ガスコンロと、金棒とが具備され、パネルには、前記金棒を装着することができる取付片が装着されている。そして、前記金棒は取付片に装着されて鍋,フライパン等の調理器具を載置することができるようになっている。前記取付片は、前記パネルの上下方向に2段配置され、金棒の高さ調整が可能となっている。
【0006】
上記特許文献1では、たしかに屋外において、構造が簡易であり、組立が行いやすく、だれが使用しても調理することができるし、複数台を備えれば、比較的多い人数でもこなすことは可能である。しかし、近年の大規模災害では、地震であれば、長期に亘って余震が頻発するし、また、台風等では、そのあとでも強風が生じることもある。特に、被災民は多数となり、数百人の単位で、具体的には約300人以上となることもある。
【0007】
このように、極めて過酷な状況において調理を行うには、特許文献1に見られるような簡易な構成の調理装置では、余震が起きたときや、強風が発生したときには、鍋やコンロ等が倒れたりして極めて危険な状態となり、調理作業が満足に行えず、その結果、多数の被災民に対して十分な食事を供給することは不可能である。
【0008】
また、特許文献2乃至特許文献4においても、寸胴鍋,普通鍋或い鉄板等の種々の調理器具に対応することができず、調理内容も限定される。また、被災民のように大勢の人数にも対応できるものではない。さらに、特許文献1乃至特許文献4における調理装置では、使用する鍋の高さ寸法或いは焼き物用の鉄板によって、調理する人にとっては、作業高さ種々変化することになり、調理作業時における姿勢が座り姿勢又は中腰姿勢となり、人に余計な肉体的負担をかけることにもなりうる。
【0009】
本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、被災地における過酷で厳しい状況においても、寸胴鍋や普通鍋或いは焼き物用の鉄板等を最も調理作業が行いやすい状態で使用することができ、且つ多くの被災民に十分な食事を提供することができる多目的調理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、底板部と該底板部の幅方向両側に設けられる側板部と前記底板部の奥側に設けられる奥板部と前方開口と上方開口とを有する本体と、該本体の前方側開口を開閉する両開きの2個の正面扉と、前記上方開口を開閉する両開きの2個の上方蓋と、コンロが設置される棚板と、安全杆とからなり、前記本体の両側板部の内方側で且つ上下方向に前記棚板を載置可能とした複数段の載置桟が設けられ、最下段に位置する該載置桟を第1載置桟として寸胴鍋用とし、前記第1載置桟の上方に位置する載置桟を第2載置桟として普通鍋用とし、前記第2載置桟の上方に位置する載置桟を第3載置桟として前記コンロ専用とし、前記第3載置桟の上方で且つ両側板部の上端付近に位置する載置桟を第4載置桟として鉄板専用とし、それぞれの載置桟に配置された前記寸胴鍋、普通鍋、鉄板の上面の高さ位置は同等になるように構成され、且つ前記安全杆は前記本体の前方開口で且つ最上段に位置する前記載置桟の前端箇所に着脱自在として構成されてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0011】
請求項2の発明を、請求項1において、前記安全杆には正面扉固定枠部が形成され、前記安全杆が前記載置桟に装着された状態にて閉じ状態での前記両正面扉同士の上端箇所が前記正面扉固定枠にて被せられるようにして固定された構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記上方蓋は、開き状態を前記本体の上方開口面と同一面上なるように、開き規制部が具備された構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0012】
請求項4の発明を、請求項3において、前記開き規制部には軸状の握部が設けられる構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、請求項1,2,3又は4のいずれか1項の記載において、前記棚板の面板部には多数の貫通孔が形成された構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項6の発明を、請求項1,2,3,4又は5のいずれか1項の記載において、前記両側板部及び前記奥板部は、内部に空隙部が形成された構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0013】
請求項7の発明を、請求項6において、前記両側板部及び前記奥板部は、空隙部と外部とを連通する換気孔が形成された構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項8の発明を、請求項1,2,3,4,5,6又は7のいずれか1項の記載において、前記本体には、キャスタが具備された構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0014】
請求項9の発明を、請求項1,2,3,4,5,6,7又は8のいずれか1項の記載において、前記奥板部には、前記鉄板の使用時と共に使用するカス受が具備され、該カス受は、筐体部と係止部とからなり、該係止部は奥板部上端に着脱自在に係止されると共に前記筐体部は鉄板の下部に位置するように構成としてなる多目的調理装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、本体は、底板部と、該底板部の幅方向両側に設けられる側板部ととから構成され、その前方に前方開口を有し、上方に上方開口を有するものである。さらに、コンロが配置されるための棚板を載置可能とした複数段の載置桟が前記本体の両側板部の内方側で且つ上下方向に設けられている。
【0016】
これによって、本体では、両正面扉及び両上方蓋を開いた状態で、前方開口と上方開口とが存在し、棚板の載置桟への載置が容易にできると共にコンロ,鍋等の設置も楽にできる。さらに、本体では、前方開口と上方開口以外は、底板部,両側板部及び奥板部によって囲まれ、コンロは本体内に棚板を介して設置されることとなり、屋外での調理にて外部の風の影響を受けずに鍋,鉄板の加熱作業ができる。
【0017】
また、両側板部の内方側に設けた複数段の載置桟において、最下段に位置する載置桟を第1載置桟として寸胴鍋用とし、前記第1載置桟の上方に位置する載置桟を第2載置桟として普通鍋用とし、前記第2載置桟の上方に位置する載置桟を第3載置桟として前記コンロ専用とし、前記第3載置桟の上方で且つ両側板部の上端付近に位置する載置桟を第4載置桟として鉄板専用とした。
【0018】
そして、それぞれの適正位置の載置桟に棚板とコンロを介して配置されたときの寸胴鍋、普通鍋及び載置桟に直接載置された鉄板の上面の高さ位置は略同等になるように構成した。この構成によって、寸胴鍋,該寸胴鍋以外の普通鍋及び鉄板のいずれの調理具を使用するときでも、常に同等高さであり、調理する人は、姿勢を崩すことなく、略同一姿勢にて調理作業を行うことができる。特に、鉄板を使用して焼肉,焼きそば,お好み焼き等を調理するときには、極めて自然な立ち姿勢で作業を行うことができ、人に優しい装置である。これによって、調理作業者の肉体的負担を減らすことができる。
【0019】
また、安全杆は、前記本体の前方開口で且つ最上段に位置する前記載置桟の前端箇所に着脱自在として構成されてなる多目的調理装置としたことにより、寸胴鍋,普通鍋及び鉄板は、本体に設置した状態で、両側板部,奥板部及び安全杆によってそれぞれの調理具の周囲を包囲された状態となり、寸胴鍋が倒れたり、普通鍋が地面に落ちたり、鉄板の位置がずれることを防止できる。特に、震災による被災地では、余震が起きた場合に、極めて有効に調理具を保護することができる。
【0020】
請求項2の発明では、前記安全杆には正面扉固定枠部が形成され、前記安全杆が前記載置桟に装着された状態にて閉じ状態での前記両正面扉同士の上端箇所が前記正面扉固定枠にて被せられるようにして固定されるので、両正面扉同士の閉じ状態を維持するロックとしての役目を果たすものである。つまり、安全杆は、本発明で調理を行っているときには調理具の倒れや脱落を防止し、調理が終了して別の場所に移送するときには、両正面扉が固定され、移送時の安全を確保できる。
【0021】
請求項3の発明では、前記上方蓋は、開き状態を前記本体の上方開口面と同一面上なるように、開き規制部が具備された構成により、前記上方蓋は、開き状態で内面側が、本体の上方開口面と略同一面となり、調理における作業範囲を拡大し、調理具や調味料を配置することができ、調理における作業効率を向上させることができる。
【0022】
請求項4の発明では、開き規制部には軸状の握部が設けられる構成としたことにより、本発明の装置の移送で、手で押したり、引いたりするときに極めて有効である。請求項5の発明では、前記棚板の面板部には多数の貫通孔が形成された構成としたことにより、棚板の上下における熱の流通が促進され、コンロから発生する熱によって、本体全体に熱が伝達することを防止でき、調理作業で環境を良好にすることができる。
【0023】
請求項6の発明では、両側板部及び奥板部は、内部に空隙部が形成された構成としたので、該空隙部によって側板部と奥板部の断熱性が良好となり、調理時におけるコンロ及び過熱された寸胴鍋,普通鍋或いは鉄板等からの放射熱の熱伝達を防止できる。また、請求項7の発明では、前記空隙部と、両側板部及び奥板部の外部とを連通する換気孔が形成されたことにより、空隙部に空気が流通し、より一層、側板部及び奥板部の断熱性能を向上させることができる。請求項8の発明では、本体には、キャスタが具備されたことにより、本発明の多目的調理装置の移送作業を効率良く行うことができる。
【0024】
請求項9の発明では、前記奥板部には、前記鉄板の使用時と共に使用するカス受が具備され、該カス受は、筐体部と係止部とからなり、該係止部は奥板部上端に着脱自在に係止されると共に前記筐体部は鉄板の下部に位置するように構成としたことにより、特に、調理において油カス等が生じ易い料理には好適である。またカス受は、奥板部に着脱自在なので、鉄板による調理が終了すると、鉄板と共に容易に外すことができ、あと片付けも簡単にできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)は本発明の多目的調理装置の正面扉及び上方蓋を開いた状態の斜視図、(B)は本発明の多目的調理装置の正面扉及び上方蓋を閉じた状態の斜視図、(C)は本発明における棚板の斜視図である。
【図2】(A)は本発明の多目的調理装置の正面扉及び上方蓋を開いた状態の正面図、(B)は本発明の多目的調理装置の縦断正面図、(C)は本発明の多目的調理装置の縦断側面図、(D)は本発明の多目的調理装置の正面扉及び上方蓋を開いた状態の平面図である。
【図3】(A)は本発明の多目的調理装置において寸胴鍋を使用して調理する状態の斜視図、(B)は本発明の多目的調理装置において寸胴鍋を使用して調理する状態の正面図、(C)は本発明の多目的調理装置において正面扉と上方蓋とを省略し、寸胴鍋を使用して調理する平面図である。
【図4】(A)は本発明の多目的調理装置において傾斜面で使用された寸胴鍋を安全杆にて倒れ防止した状態の縦断側面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)は安全杆及び最上段の載置桟(第4載置桟)の分離した状態の斜視図である。
【図5】(A)は本発明の多目的調理装置において鉄板を使用して調理する状態の斜視図、(B)は本発明の多目的調理装置において鉄板を使用して調理する状態の正面図、(C)は鉄板の斜視図である。
【図6】(A)は本発明の多目的調理装置において鉄板を使用して調理する状態の縦断側面図、(B)は(A)の(イ)部拡大図、(C)はカス受の斜視図である。
【図7】本発明の多目的調理装置において普通鍋を使用して調理する状態の正面図である。
【図8】本発明の多目的調理装置において全調理具を収納した状態の正面扉を省略した正面図である。
【図9】(A)は本発明の多目的調理装置において安全杆によって両正面扉をロックした移送直前の状態の斜視図、(B)は安全杆を最上段の載置桟(第4載置桟)に装着して両正面扉をロックしようとする状態の斜視図、(C)は安全杆を最上段の載置桟(第4載置桟)に装着して両正面扉をロックしようとする状態の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。本発明は、図1及び図2等に示すように、主に本体1,正面扉41,上方蓋42,棚板3等から構成される。また、本発明において使用される調理具9は、主に寸胴鍋91(図3参照),普通鍋92(図6参照)及び鉄板93(図5参照)等であるが、その他の種類の調理具でも十分に使用可能である。
【0027】
本体1は、図1,図2に示すように、底板部11の幅方向両側に側板部12,12が設けられ、前記底板部11の奥側に設けられる奥板部13が設けられる。ここで、本発明における正面側とは、調理作業を行う人が位置する側である。前記底板部11は、適宜の厚さを有する正方形又は長方形等の方形状に形成されている。
【0028】
また、同様に前記両側板部12,12側及び奥板部13も適宜の厚さを有する正方形又は長方形等の方形状に形成されている。そして、底板部11を水平状にして最も下方となる位置とし、該底板部11を基準にして、幅方向両辺を挟むようにして両側板部12,12の下端寄りの内側面が固着され、底板部11の奥側辺に当接するようにして奥板部13の内側面が固着される。
【0029】
本体1は、正面側より見て底板部11と、両側板部12,12にて略「コ」字形状又は角「U」字形状に構成されており、正面の開口を前方開口fsと称する〔図2(A),(D)参照〕。また、本体1は、上方より見て両側板部12,12と奥板部13にて略「コ」字形状又は角「U」字形状に構成され、その上面の開口を上方開口fuと称する〔図2(D)参照〕。前記本体1の両側板部12,12の内方側で且つ上下方向に前記棚板3を載置可能とした複数段の載置桟2,2,…が設けられている〔図1(A),図2(A),(B)参照〕。
【0030】
そして、最下段に位置する載置桟2を第1載置桟21として寸胴鍋91使用時の棚板3の載置用とする〔図3(A),(B),図4(A)等参照〕。また、前記第1載置桟21の上方に位置する載置桟2を第2載置桟22として普通鍋92使用時の棚板3の載置用とする(図7参照)。前記第2載置桟22の上方に位置する載置桟2を第3載置桟23として前記コンロ94専用の棚板3の載置用とし、前記第3載置桟23の上方で且つ両側板部の上端付近に位置する載置桟2を第4載置桟24として鉄板93使用時用の棚板3の載置用としている〔図5(A),(B),図6(A)等参照〕。
【0031】
最下段に位置する第1載置桟21は、底板部11より僅かに高い位置に設けられている。そして、両側板部12,12の両第1載置桟21,21に、棚板3が載置され、該棚板3にコンロ94及び寸胴鍋91が設置されると、該寸胴鍋91の頂部位置は、前記本体1の上方開口fuより僅かに突出した位置となる〔図3(A),(B),図4(A)参照〕。同様に、両側板部12,12の両第2載置桟22,22に、棚板3が載置され、該棚板3にコンロ94及び普通鍋92が設置されると、普通鍋92の頂部位置は、前記本体1の上方開口fuより僅かに突出した位置となり、前記寸胴鍋91の頂部と略同等位置となる(図7参照)。
【0032】
さらに、両側板部12,12の両第3載置桟23,23とし、これら両第3載置桟23,23に載置される棚板3にはコンロ94のみを設置し、両第4載置桟24,24には、鉄板93が直接、載置される〔図5(A),(B),図6(A)参照〕。第3載置桟23,23に棚板3を介して設置されたコンロ94は、前記鉄板93の下面側に近接し、鉄板93を過熱するのに最も良好な位置関係となる。
【0033】
以上のようにして、第1載置桟21と第2載置桟22にそれぞれ棚板3を介して設置された寸胴鍋91,普通鍋92や、第4載置桟24に直接、設置された鉄板93は、それぞれの頂部が略同等高さとなるように設定されている。つまり、寸胴鍋91,普通鍋92及び鉄板93のいずれを使用しても、その頂部位置は、ほとんど同等の位置となり、調理を行う人は、常時同一の状態で作業することができる。
【0034】
そして、寸胴鍋91,普通鍋92及び鉄板93のそれぞれの頂部の高さ位置の寸法Hは、調理作業を行う人にとって、最も調理作業を行いやすい位置である〔図2(A),図6(A),図7参照〕。高さHの具体的な寸法は、約800mmから約1100mm程度であるがこの範囲に限定されるものではなく、この範囲以下でも範囲以上でもかまわない。
【0035】
前記載置桟2(第1載置桟21乃至第4載置桟24)は全て同一形状であり、断面L字形状の材質のものが使用される。載置桟2の長手方向の寸法は、棚板3の奥行き寸法と略同一寸法である。そして、載置桟2は、長手方向を水平となるようにして、側板部12に固着される〔図1(A),図2等参照〕。
【0036】
棚板3は、図1(C)に示すように、面板部31と、側面部32とから構成され、面板部31は正方形又は長方形等の方形状に形成され、その各辺に直角となるように側面部32が形成され、棚板3が補強される。棚板3の幅方向寸法は前記両側板部12,12の間隔よりも僅かに狭い程度であり、奥行き寸法は側板部12の奥行き寸法よりも僅かに小さく形成されている。
【0037】
そして、面板部31には、多数の貫通孔31a,31a,…が 形成されている〔図1(C)参照〕。これら多数の貫通孔31a,31a,…が形成されたことにより、棚板3の上下における熱の流通が促進され、コンロ94から発生する熱によって、底板部11,側板部12,12,奥板部13等の本体全体に熱が伝達することを防止でき、調理作業で環境を良好にすることができる。
【0038】
両側板部12,12及び前記奥板部13は、内部に空隙部Sが形成された構成としている〔図2(B),(C),図6(B)等参照〕。また、空隙部Sと、両側板部12,12及び前記奥板部13の外部とを連通する多数の換気孔14,14,…が形成されることもある〔図1(A),(B),図2(B),図4(A),図6(A),(B)参照〕。
【0039】
前記空隙部Sによって、側板部12と、奥板部13の断熱性は良好となり、調理時におけるコンロ94及び過熱された寸胴鍋91,普通鍋92或いは鉄板93等からの放射熱の熱伝達を防止できる。また、多数の換気孔14,14,…によって、前記空隙部Sと、側板部12及び奥板部13の外部との間の空気流通が、より一層良好となり、断熱性能を向上させることができる。
【0040】
次に、安全杆5は、本体1の前方開口fsで且つ最上段に位置する前記載置桟2,2の前端箇所に着脱自在として構成されている。安全杆5は、倒れ止杆部51と正面扉固定枠部52とから構成されている(図4参照)。前記倒れ止杆部51には、係止ピン51a,51aが装着されている。また、前記載置桟2,2,…の最上段に位置する載置桟2の先端部分には、被係止孔2aが形成されている〔図1(A),図2(D),図4(B),(C),図9(B),(C)参照〕。
【0041】
そして、最上段に位置する両載置桟2,2の両被係止孔2a,2aに、前記安全杆5の倒れ止杆部51の両係止ピン51a,51aが挿入されて固定される〔図4(B),(C)参照〕。このような構成によって安全杆5は、載置桟2,2に対して着脱自在である。ここで、最上段に位置する載置桟2とは、第4載置桟24,24のことである。
【0042】
安全杆5は、前記本体1の前方開口fsで且つ最上段に位置する前記載置桟2,2の前端箇所に着脱自在としたことにより、寸胴鍋91,普通鍋92及び鉄板93は、本体1に設置した状態で、両側板部12,12,奥板部13及び安全杆5によって、それぞれの調理具の周囲を包囲された状態となり〔図3,図4(A),(B)参照〕、寸胴鍋91が倒れたり、普通鍋92が地面に落ちたり、鉄板93の位置がずれることを防止できる。
【0043】
特に、本発明の多目的調理装置を、設置環境が悪く例えば角度θの傾斜面で使用しなくてはならない場合で、且つ寸胴鍋91等のように重心位置が高くなり、倒れ易い状態の調理具9に対して、安全杆5の多目的調理装置への装着によって安全性を向上させることができる〔図4(A)参照〕。
【0044】
また、寸胴鍋91は、奥板部13及び安全杆5に対して隙間tによる僅かなあそびを設けておくことが、より一層安全性を高めることができる〔図4(A),(B)参照〕。安全杆5によって、調理具9(寸胴鍋91,普通鍋92,鉄板93等)の倒れ,脱落又はズレ等を防止するときには安全杆5の倒れ止杆部51を本体1外方とし、正面扉固定枠部52を奥板部13側に向けて装着する〔図3(A),(C),図4(A),(B)参照〕。
【0045】
また、正面扉固定枠部52は、両正面扉41,41を前方開口fsに対して閉じた状態でロック(固定)する役目をなす(図9参照)。正面扉固定枠部52は、断面門形状に形成され〔図9(B),(C)参照〕、両正面扉41,41の上端に被せられる形状に形成されたものである〔図9(C)参照〕。
【0046】
そして、正面扉固定枠部52を前方側に向けて、最上段の前記載置桟2,2に装着することで、閉じ状態での前記両正面扉同士の上端箇所が前記正面扉固定枠にて被せられるようにして固定されるので、両正面扉同士の閉じ状態を維持するロックとしての役目を果たすものである〔図9(A)参照〕。両正面扉41,41の閉じた状態でロックする場合には、前述した調理具9の倒れ,脱落又はズレを防止する場合とは逆で正面扉固定枠部52を本体1の外方に向け、倒れ止杆部51を奥板部13側に向けて使用する(図9参照)。
【0047】
このように、安全杆5は、本発明で調理を行っているときには調理具9の倒れや脱落を防止し、調理が終了して別の場所に移送するときには、両正面扉41,41が閉じた状態でロック(固定)し、多目的調理装置の移送時における安全性を確保できる。しかも、上記役目(調理具9の安全性と、両正面扉41,41のロック)は、1本の安全杆5を前後反対に装着するのみで簡単にできる。
【0048】
本体1には、前方開口fsを開閉する両開きタイプの2個の正面扉41,41と、前記上方開口fuを開閉する両開きの2個の上方蓋42,42が具備されている〔図1(A),(B),図2(A),(B).(D)参照〕。両正面扉41,41は、本体1の両側板部12,12の前方側端部に複数の蝶番43を介して連結され、両側板部12,12に対して、水平面上を回動して前方開口fsを開閉する。
【0049】
また、両上方蓋42,42は、本体1の両側板部12,12の上端部に複数の蝶番43を介して連結され、両側板部12,12に対して、垂直面上を回動して上方開口fuを開閉する。両正面扉41,41には、内面側にポケット部41a,41aが具備されている。両ポケット部41a,41aは、調理道具又は調味料等が収納されるようになっている〔図1(A)参照〕。両ポケット部41a,41aは、両正面扉41,41が本体1に閉じられた状態で、内部に収納された調理具9と干渉しない程度のサイズである。
【0050】
両上方蓋42,42には、開き規制部6が装着され、該開き規制部6によって本体1の上方開口fuの開口面と同一面上なるように構成されている。開き規制部6は、略台形板状のブロック材で、その1辺を垂直当接面6aとしたものである。そして上方蓋42,42を180度(略180度も含む)開いたときに、前記両垂直当接面6a,6aが両側板部12,12に当接して、両上方蓋42,42の内面側が上方となって、水平状となり本体1の上方開口fuの開口面と同一面上なる〔図1(A),(B),図2(A)参照〕。
【0051】
そして、前記開き規制部6は、それぞれの上方蓋42に対して2個具備され、且つ上方蓋42の回動中心側で、且つ前後方向両端に装着されている〔図1(B),図2(D)参照〕。また、それぞれの上方蓋42に装着された2個の規制部6,6の間に亘って、軸状の握部61が設けられている。該握部61によって、本発明の多目的調理装置を搬送する際に、押したり、或いは引いたりするときに極めて有効である。
【0052】
また、本発明の多目的調理装置には、カス受7が具備されている(図6参照)。該カス受7は、多目的調理装置において前記鉄板93が使用されるとき、共に使用されるものである。カス受7は、筐体部71と係止部72とからなり〔図6(C)参照〕、該係止部71は、奥板部13上端に着脱自在に係止される。そして、前記筐体部71は鉄板93の下部に位置するように構成される〔図6(A),(B)参照〕。
【0053】
カス受7が奥板部13に装着されることによって、鉄板93等を使用した場合の油カス等が生じ易い料理には、カス受7の筐体部71にカスを廃棄することができ、調理の作業効率を向上させることができる。しかも、カス受7は、奥板部13に対して着脱自在なので、鉄板93による調理が終了すると、該鉄板93と共に容易に外すことができ、あと片付けも簡単にできる。
【0054】
さらに、前記本体1の底板部11には、キャスタ8が具備されている。具体的には、底板部11の下面側で、その4隅に装着される。キャスタ8は、通常のゴム車輪が装着されたもので構わない。複数のキャスタ8,8,…が本体1の底板部11に装着されたことにより、本発明の多目的調理装置の移送作業を効率良く行うことができる。なお、本体1にキャスタ8を装着しなこともあるが、この場合には、本体1は、別の台車等に積んで、移動し、そのまま使用するか、又は台車から降ろして使用するものである。
【0055】
本発明において、調理具9は、寸胴鍋91,普通鍋92及び鉄板93及びコンロ94である。寸胴鍋91は、最も高さ寸法が高いものであって、大量の食事を作ることができる。また、普通鍋92とは、寸胴鍋91以外の鍋のことである。鉄板93は、焼肉、焼きそば、お好み焼き等を調理するものであり、焼き面部93aには、切欠き部93bが形成され、前記焼き面部93aには取手部93cが装着されている。前記切欠き部93bは、調理時に出る油かす等を排除する部位である。
【0056】
次に、使用方法について、説明する。まず、本発明の多目的調理装置は、被災地等にトラック等の車両によって搬送される。そして、現地に到着すると、適正な位置に設置される。キャスタ8が具備されている場合には、そのまま、適正位置に移動できる。適正位置にて、キャスタ8にロックをかけて、安定させ、まず、両上方蓋42,42を開き、上方開口fuを外部に露出させる。多目的調理装置にキャスタ8が具備されていないものは、台車に積んで移送する。
【0057】
両上方蓋42,42は、開き規制部6によって、上方開口fuの開口面と略同一面となる〔図1(A),図2参照〕。また、安全杆5を外して、両正面扉41,41のロックを解除して開く。両正面扉41,41は、その上端が上方蓋42,42に当接して、前方開口fsの開口面と略同一面となるように開く。そして、使用する調理具9に合わせて、棚板3を所定の載置桟2,2に載置し、棚板3にコンロ94を設置して、寸胴鍋91,普通鍋92を設置する(図3参照)。
【0058】
調理具9の設置が完了したら、安全杆5を最上段の載置桟2,2に装着して、調理具9を両側板部12,12,奥板部13及び安全杆5にて包囲するようにして、セットする。また、鉄板93を使用する場合には、最上段の載置桟2,2である第4載置桟24,24に直接設置する。さらに、最上段の載置桟2,2の一段下の載置桟2,2である第3載置桟23,23に棚板3を載置しコンロ94を設置する。
【0059】
調理が全て完了したら、棚板3は、最下段の載置桟2,2である第1載置桟21,21に載置する。そして、底板部11と棚板3との間に、鉄板93を収納し、寸胴鍋91にコンロ94を収納すると共に普通鍋92を重合し、これを棚板3に設置する(図8参照)。そして、両正面扉41,41を閉じて、安全杆5の正面扉固定枠部52を被せるようにして、両正面扉41,41を閉じた状態で固定し、さらに両上方蓋42,42を閉じる。これによって、次の搬送先に移動することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…本体1、11…底板部、12…側板部、13…奥板部、14…換気孔、
2…載置桟、21…第1載置桟、22…第2載置桟、23…第3載置桟、
24…第4載置桟、3…棚板、31…面板部、31a…貫通孔、41…正面扉、
42…上方蓋、5…安全杆、52…正面扉固定枠部、6…開き規制部、61…握部、
7…カス受、8…キャスタ、S…空隙部、fs…前方開口、fu…上方開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部と該底板部の幅方向両側に設けられる側板部と前記底板部の奥側に設けられる奥板部と前方開口と上方開口とを有する本体と、該本体の前方側開口を開閉する両開きの2個の正面扉と、前記上方開口を開閉する両開きの2個の上方蓋と、コンロが設置される棚板と、安全杆とからなり、前記本体の両側板部の内方側で且つ上下方向に前記棚板を載置可能とした複数段の載置桟が設けられ、最下段に位置する該載置桟を第1載置桟として寸胴鍋用とし、前記第1載置桟の上方に位置する載置桟を第2載置桟として普通鍋用とし、前記第2載置桟の上方に位置する載置桟を第3載置桟として前記コンロ専用とし、前記第3載置桟の上方で且つ両側板部の上端付近に位置する載置桟を第4載置桟として鉄板専用とし、それぞれの載置桟に配置された前記寸胴鍋、普通鍋、鉄板の上面の高さ位置は同等になるように構成され、且つ前記安全杆は前記本体の前方開口で且つ最上段に位置する前記載置桟の前端箇所に着脱自在として構成されてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記安全杆には正面扉固定枠部が形成され、前記安全杆が前記載置桟に装着された状態にて閉じ状態での前記両正面扉同士の上端箇所が前記正面扉固定枠にて被せられるようにして固定された構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記上方蓋は、開き状態を前記本体の上方開口面と同一面上なるように、開き規制部が具備された構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項4】
請求項3において、前記開き規制部には軸状の握部が設けられる構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4のいずれか1項の記載において、前記棚板の面板部には多数の貫通孔が形成された構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項6】
請求項1,2,3,4又は5のいずれか1項の記載において、前記両側板部及び前記奥板部は、内部に空隙部が形成された構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項7】
請求項6において、前記両側板部及び前記奥板部は、空隙部と外部とを連通する換気孔が形成された構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項8】
請求項1,2,3,4,5,6又は7のいずれか1項の記載において、前記本体には、キャスタが具備された構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。
【請求項9】
請求項1,2,3,4,5,6,7又は8のいずれか1項の記載において、前記奥板部には、前記鉄板の使用時と共に使用するカス受が具備され、該カス受は、筐体部と係止部とからなり、該係止部は奥板部上端に着脱自在に係止されると共に前記筐体部は鉄板の下部に位置するように構成としてなることを特徴とする多目的調理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−90701(P2013−90701A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233437(P2011−233437)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【特許番号】特許第4877864号(P4877864)
【特許公報発行日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(511257470)株式会社エム・ティー・フード (1)