説明

多糖類ナノファイバー分散液の製造方法、および、該製造方法で得られた多糖類ナノファイバー分散液

【課題】本発明の目的は、低コストで、より簡便に多糖類ナノファイバー分散液を製造する方法を提供することである。
【解決手段】下記式で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液を用いて多糖類含有原料に含まれる多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程、および該膨潤および/または部分溶解した多糖類を解繊する工程を含む多糖類ナノファイバー分散液の製造方法を用いる。
【化1】


式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類ナノファイバー分散液の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、低コストで、より簡便に多糖類ナノファイバー分散液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石資源の枯渇や地球温暖化問題などの資源環境問題は、21世紀における重大な問題の1つである。これらの問題を解決するため、環境にやさしく、かつ、豊富で永続可能な代替資源技術の確立が求められている。多糖類等のバイオマスは、地球上に最も大量に存在し、しかも再生可能な有機資源である。なかでも、セルロースは地球上で年間約4000億トン産出されており、最も豊富なバイオマスである。セルロースは、植物によって最も多く生産される多糖類である。セルロースは、植物のセルロースからリグニンやヘミセルロース等を分離、除去することにより取り出すことができる。
【0003】
ナノファイバーは、非常に大きな比表面積、ナノサイズによる効果、超分子配列効果等から様々な用途への適用が期待されている。セルロースやキチン等の天然由来の多糖類では、多糖類ファイバーは繊維間に非結晶性の不純物を含むため、繊維径が大きい。そのため、天然由来の多糖類を用いたナノファイバーの製造方法が検討されている。例えば、セルロース繊維原料を叩解処理やホモジナイズ処理などにより、フィブリル化させ、セルロースナノファイバーを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。しかし、繊維径の小さいセルロースナノファイバーを得るためには、叩解処理を十分に行う必要があり、その結果、繊維に大きなダメージが加わり、得られたセルロースナノファイバーの強度及びアスペクト比が低下する。また、これらの方法では、セルロースナノファイバーを得るためには、相当な処理回数が必要となり、生産効率が低いという問題がある。セルロースナノファイバーを製造する他の方法としては、メディア撹拌式粉砕機でミクロフィブリル状セルロースを得る方法も提案されている(特許文献3)。しかしながら、繊維状セルロースを懸濁液としたものを直接に粉砕機に投入して粉砕を行うため、叩解処理と同様にセルロースナノファイバーにダメージを与えると共に、セルロースナノファイバー化に要する時間が非常に長く、生産性が低いという問題点がある。さらに、他の方法として、塩酸溶液中、120℃〜130℃で加水分解処理した後、中和、洗浄し、ディスクリファイナーで磨砕する工程を備えた方法も提案されている(特許文献4)。しかしながら、長時間の酸処理はセルロースナノファイバーにダメージを与えるため、セルロースナノファイバーの物性が低下するという問題がある。このように、天然の多糖類をナノファイバー化するためには、高温・高圧下で長時間反応させる必要があり、しかも解繊するためには高圧ホモジナイザー等の設備が必要であり、簡便に製造することは困難である。
【0004】
また、近年、セルロースやキチン等の多糖類ナノファイバーの製造方法として、イミダゾリウム系イオン液体を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献5)。この方法では、簡便に、かつ、セルロースに与えるダメージを抑えて、多糖類ナノファイバーを得ることができる。しかしながら、イミダゾリウム系イオン液体は高価であるため、工業的な多糖類ナノファイバーの製造には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−7592号公報
【特許文献2】特開平8−284090号公報
【特許文献3】特開平6−212587号公報
【特許文献4】特公昭62−30220号公報
【特許文献5】特開2010−104768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決することを目的とするものであり、低コストで、より簡便に多糖類ナノファイバー分散液を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法は、下記式で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液を用いて多糖類含有原料に含まれる多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程、および、該膨潤および/または部分溶解した多糖類を解繊する工程を含む:
【化1】

式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。
好ましい実施形態においては、上記製造方法は、上記多糖類を化学変性および/または加水分解する工程をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記テトラアルキルアンモニウムアセテートはテトラブチルアンモニウムアセテートである。
好ましい実施形態においては、上記非プロトン性極性溶媒のドナー数は20〜50である。
好ましい実施形態においては、上記非プロトン性極性溶媒は、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、および、ピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である。
好ましい実施形態においては、上記非プロトン性極性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジンおよび4−メチルピリジン、ならびに、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。
好ましい実施形態においては、上記多糖類はセルロースまたはキチンである。
好ましい実施形態においては、上記テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒の重量比は0.05:99.95〜20:80である。
好ましい実施形態においては、上記化学変性方法は、エステル化反応および/またはエーテル化反応である。
本発明の別の局面によれば、多糖類ナノファイバー分散液が提供される。本発明の多糖類ナノファイバー分散液は、上記多糖類ナノファイバー分散液の製造方法により得られる。
本発明のさらに別の局面によれば、多糖類ナノファイバーが提供される。本発明の多糖類ナノファイバーは、上記多糖類ナノファイバー分散液から得られる。
本発明のさらに別の局面によれば、複合材料が提供される。本発明の複合材料は、上記多糖類ナノファイバーおよび樹脂を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コストで、かつ、簡便に多糖類ナノファイバー分散液を製造することができる。また、本発明で用いる溶液は、反応溶液としても好適なものであるので、ナノファイバーの製造工程で同時にナノファイバーの表面修飾を行うことも可能である。本発明の製造方法で得られた多糖類ナノファイバー分散液および多糖類ナノファイバーは様々な用途に用いることができる。また、本発明の多糖類ナノファイバー分散液は、溶液中に多糖類ナノファイバーを高分散させた状態で保持できるため、用途に応じた多糖類ナノファイバーの製造に用いる前駆体としても好適である。また、本発明の多糖類ナノファイバーと樹脂を含む複合材料は、耐熱性、結晶性、強度、および弾性率等の優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM写真である。
【図2】実施例1および実施例2で得られたセルロースナノファイバーのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<A.多糖類ナノファイバー分散液の製造方法>
本発明の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法は、下記式で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液を用いて、多糖類含有原料に含まれる多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程、および、該膨潤および/または部分溶解した多糖類を解繊する工程を含む。本発明の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法は、好ましくは上記多糖類を化学変性および/または加水分解する工程をさらに含む。
【化2】

(式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。)
【0011】
<A−1.多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程>
本発明の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法は、上記式で表される特定のテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液を用いて、多糖類含有原料に含まれる多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程を含む。このような溶液を用いることにより、多糖類の結晶形態に依存せず、また多糖類の前処理工程を経ることなく、多糖類を短時間で、かつ、均一に溶解することができる。また、このような溶液を用いることにより、容易に多糖類を膨潤および/または部分溶解させることができる。本発明の溶液は、陰イオンとして、ハロゲンを含まない。したがって、環境への負荷も低減することができる。
【0012】
天然由来の多糖類では、繊維間に存在する非晶性物質が結合剤として機能するため、多糖類繊維がより繊維径の大きい状態で存在している。本明細書において、非晶性物質とは、多糖類に含まれる非晶性の化合物(例えば、非晶性多糖類)をいう。非晶性物質としては、セルロースの場合には、リグニン、ヘミセルロース、非結晶性のセルロース等が、キチンの場合には、タンパク質、無機物および非結晶性のキチン等が挙げられる。本明細書において、多糖類を膨潤させるとは、多糖類に含まれる非晶性物質を膨潤させることをいう。この非晶性物質が膨潤することにより、多糖類ナノファイバーが弛緩し、外力により開裂し易くなる。また、本明細書において、部分溶解とは、多糖類ナノファイバーの結合剤として機能している非晶性物質を溶解することをいう。多糖類を膨潤および/または部分溶解することにより、多糖類ナノファイバー間の結合が弱くなり、多糖類ナノファイバーの解繊をより簡単に行うことができる。
【0013】
多糖類の膨潤および/または部分溶解工程は、任意の適切な方法により行うことができる。例えば、上記溶液に多糖類含有原料を分散させ、静置または撹拌することにより、多糖類を膨潤および/または部分溶解することができる。また、ホモジナイザーまたは超音波を用いて、多糖類の膨潤および/または部分溶解工程と、後述する多糖類の解繊工程を同時に行ってもよい。
【0014】
多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程では、下記式で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液が用いられる。
【化3】

上記式中R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。R、R、RおよびRが炭素数2以下のアルキル基または炭素数7以上のアルキル基である場合、溶液の多糖類の溶解性が低下する、または、多糖類を溶解できないおそれがあり、多糖類を十分に膨潤および/または部分溶解できないおそれがある。R、R、RおよびRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。テトラアルキルアンモニウムアセテートは、好ましくはテトラブチルアンモニウムアセテート、テトラプロピルアンモニウムアセテート、テトラペンチルアンモニウムアセテート、テトラへキシルアンモニウムアセテートであり、より好ましくはテトラブチルアンモニウムアセテートである。該テトラアルキルアンモニウムアセテートは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記非プロトン性極性溶媒としては、任意の適切な溶媒を用いることができ、好ましくはアミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、および、ピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N’−ジメチルエチレン尿素)、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、ピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ならびに、これらの誘導体等が挙げられる。なかでも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン、4−メチルピリジン、ならびに、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。非プロトン性極性溶媒を用いることにより、多糖類ナノファイバー間への溶液の浸透が促進され、多糖類の膨潤および/または部分溶解をより効率よく行うことができる。また、多糖類ナノファイバーの結晶構造の破壊も防ぎ得る。
【0016】
上記非プロトン性極性溶媒のドナー数は、好ましくは20〜50であり、より好ましくは25〜40であり、さらに好ましくは25〜35である。非プロトン性極性溶媒は、強い水素結合アクセプター性とテトラアルキルアンモニウムアセテートと類似の溶解度パラメーターを有することが好ましい。すなわち、ドナー数が50を超える場合、非プロトン性極性溶媒とテトラアルキルアンモニウムアセテートとの相溶性が低下するおそれがある。また、ドナー数が20未満の場合、非プロトン性極性溶媒の水素結合アクセプター性が低下し、多糖類の溶解性が低下するおそれがある。また、多糖類の膨潤および/または部分溶解を十分に行うことができず、ナノファイバーを十分に得られないおそれがある。なお、ドナー数とは、溶媒分子がルイス塩基として作用する際の電子対供与性を示す尺度の一つであり、1,2−ジクロロエタン中で3〜10mol/LのSbClと溶媒分子とが反応する際のエンタルピーをkcal/mol単位で表した時の絶対値をいう。
【0017】
例えば、上記で例示した非プロトン性極性溶媒のドナー数は、N,N−ジメチルホルムアミドは26.6、N,N−ジエチルホルムアミドは30.9、N,N−ジメチルアセトアミドは27.8、N,N−ジエチルアセトアミドは32.2、ジメチルスルホキシドは29.8、N−メチル−2−ピロリドンは27.3、N,N’−ジメチルプロピレン尿素は29.3、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N’−ジメチルエチレン尿素)は27.8、テトラメチル尿素は31.0、テトラエチル尿素は28.0、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素は29.6、ピリジンは33.1、4−メチルピリジンは31.5、2,6−ジメチルピリジンは33.0、2,4,6−トリメチルピリジンは32.7である。本明細書において、各非プロトン性極性溶媒のドナー数はGutmann法により測定した値である。
【0018】
上記非プロトン性極性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、ドナー数が20〜50の範囲にある非プロトン性極性溶媒と、ドナー数がこの範囲外である非プロトン性極性溶媒とを組み合わせて用いてもよい。
【0019】
上記溶液における、テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒との含有量比は、重量比で、好ましくは0.05:99.95〜20:80であり、より好ましくは2:98〜15:85である。テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒の含有量比が上記の範囲内であることにより、多糖類ナノファイバーの結晶構造を破壊せず、短時間で、かつ、均一に溶解することができる。また、上記溶液が多糖類ナノファイバー間により浸透し、多糖類の膨潤および/または部分溶解を効率よく行うことができる。
【0020】
上記溶液に溶解させる多糖類としては、任意の適切な多糖類を含む原料を用いることができ、天然の多糖類含有原料であっても、再生多糖類含有原料であってもよい。多糖類としてセルロースを含む原料としては、木材、木材パルプ、ワラ、サトウキビ、綿、麻など天然セルロース系原料、クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの化学処理木材パルプ、セミケミカルパルプ、古紙またはその再生パルプなどが挙げられる。これらのうち、コスト面、品質面、地球環境面から、木材、木材パルプ、ワラ、サトウキビが好ましい。また、多糖類としてキチンを含む原料としては、カニ、エビ、昆虫などの殻やキノコなどの植物から得られるキチン物質が挙げられる。本発明で用いる溶液は、多糖類の溶解性に優れるため、多糖類含有原料の形状は特に限定されないが、製造工程での処理の容易さや、溶液の浸透を促進させるために、粉砕したものを用いてもよい。
【0021】
上記溶液に加える多糖類含有原料の割合は、好ましくは0.5重量%〜30重量%であり、より好ましくは1.0重量%〜20重量%である。多糖類含有原料の割合が上記範囲内であれば、効率よく、均一に解繊された、多糖類ナノファイバー分散液が得られる。
【0022】
多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程の処理温度は、使用する多糖類含有原料に応じて、適宜設定することができ、例えば、20℃〜100℃で処理され得る。処理温度が100℃を超える場合には、得られる多糖類ナノファイバーにダメージを与えるおそれがある。
【0023】
<A−2.多糖類の解繊工程>
多糖類の解繊工程は、膨潤および/または部分溶解させた多糖類に任意の適切な手段により外力を加えることにより、行うことができ、例えば、機械せん断、粉砕、研磨、ホモジナイズ、超音波処理等が挙げられる。これらの手段は、単独で用いてもよく、2つ以上の手段を組み合わせて用いてもよい。多糖類の解繊工程は、他の工程と独立して行ってもよく、上記の多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程と同時に行ってもよく、後述する多糖類を化学変性および/または加水分解する工程と同時に行ってもよい。本発明の製造方法では、多糖類を膨潤および/または部分溶解することにより、繊維間の結合が弱くなるため、より小さい外力で容易に解繊することができる。
【0024】
<A−3.化学変性および/または加水分解する工程>
本発明の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法は、好ましくは化学変性および/または加水分解する工程をさらに含む。上記化学変性および/または加水分解工程により、多糖類ナノファイバーの結合剤として機能する非晶性物質を溶液に溶解させ、除去し得る。また、多糖類ナノファイバーを化学変性することにより、多糖類ナノファイバーに所望の特性を付与し得る。上記多糖類の膨潤および/または部分溶解工程で用いる溶液は、多糖類の反応溶媒としても好適に機能するものである。したがって、上記化学変性および/または加水分解工程を効率よく行うことができる。上記溶液を好適に用いることができる反応としては、例えば、エステル化反応、エーテル化反応、ハロゲン化反応等の誘導体化反応、および、加水分解反応(糖化反応)、加溶媒分解、酸化反応、グラフト化反応等が挙げられ、本発明の化学変性工程において、これらの反応を行い得る。また、本発明の溶液は均一反応系であるため、マイルドな条件で、かつ、短時間で多糖類を反応させることができ、多糖類の修飾率の制御、または、水酸基の選択修飾反応も可能である。
【0025】
上記化学変性工程と加水分解工程の両方を行う場合、加水分解処理を行った後、化学変性を行うことが好ましい。加水分解処理後、化学変性を行う場合には、加水分解処理後、水分をある程度除去する工程を経ることが好ましい。上記化学変性としては、エステル化反応および/またはエーテル化反応が好ましい。エステル化反応およびエーテル化反応を施す場合、これらの反応を単独で順次行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0026】
<A−3−1.エステル化反応>
上記エステル化反応は、非晶性物質の水酸基の一部又は全てをエステル結合によって修飾する反応、および、多糖類ナノファイバーの表面の一部又は全ての水酸基をエステル化結合させる反応を含む。上記エステルは、適宜選択することができ、例えば、アセテート、アセテートプロピオネート、アセテートブチレート、フタレートが挙げられる。上記エステルは、1種のみでもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0027】
エステル化剤としては、任意の適切なエステル化剤を用いることができ、好ましくは酸塩化物または酸無水物である。上記酸塩化物としては、任意の適切な酸塩化物を用いることができ、例えば、塩化プロピオニル、塩化ブチリル、塩化オクタノイル、塩化ステアロイル、塩化ベンゾイル、塩化パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。また、酸塩化物の反応においては、触媒として働くと同時に、副生物である酸性物質を中和する目的でアルカリ性化合物を添加してもよい。アルカリ性物質としては、任意の適切なアルカリ性物質を用いることができ、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物やピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリ性物質が挙げられる。
【0028】
上記酸無水物としては、任意の適切な酸無水物を用いることができ、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族の酸無水物、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の二塩基酸無水物が挙げられる。また、酸無水物の反応においては触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性触媒、または、トリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を添加してもよい。
【0029】
エステル化した非晶性物質は任意の溶媒で洗浄することによって除去してもよく、多糖類ナノファイバーと一緒に析出させ、ナノファイバーの表面に付着させることによってナノファイバーの表面修飾剤として用いてもよい。
【0030】
上記エステル化反応の反応温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは90℃以下である。このような温度範囲であれば、多糖類ナノファイバーの熱分解および結晶化度の低下が抑制され得る。
【0031】
<A−3−2.エーテル化反応>
上記エーテル化反応は、非晶性物質の一部または全ての水酸基をエーテル結合させる反応、および、多糖類ナノファイバーの表面の一部又はすべての水酸基をエーテル結合によって封鎖し、多糖類エーテルに変換させる反応を含む。上記エーテルは、適宜選択することができ、例えば、炭素数1から10までのエーテル、具体的には、メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、プロピルエーテルが挙げられる。上記エーテルは、1種のみであってもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0032】
エーテル化剤としては、任意の適切なエーテル化剤を用いることができ、例えば、炭素数1〜10のクロライドまたはブロマイド、具体的にはメチルクロライド、メチルブロマイド、エチルクロライド、エチルブロマイド、プロピルクロライド、プロピルブロマイドが挙げられる。また、上記エーテル化反応において、さらに触媒を添加してもよい。触媒としては、任意の適切な触媒を用いることができ、トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物、または、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリ性物質が挙げられる。
【0033】
エーテル化した非晶性物質は任意の溶媒で洗浄することによって除去してもよく、多糖類ナノファイバーと一緒に析出させ、ナノファイバーの表面に付着させ、多糖類ナノファイバーの表面修飾剤として用いても良い。
【0034】
上記エーテル化反応の反応温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは95℃以下である。このような温度範囲であれば、多糖類ナノファイバーの熱分解および結晶化度の低下が抑制され得る。
【0035】
<A−3−3.加水分解反応>
上記加水分解反応では、非晶性物質のエーテル結合またはβ−O−4結合が切断され、より溶解性の高い非晶性物質(例えば、オリゴ糖または単糖)に変換される。これにより、溶解性の高い非晶性物質をそれらの良溶媒を用いて洗浄することにより、容易に除去することができる。オリゴ糖または単糖の場合、例えば、水を用いて洗浄することにより容易に除去することができる。加水分解処理されたリグニンの場合、例えば、アセトン、メタノール、水を用いて洗浄することにより容易に除去することができる。上記加水分解は、加水分解触媒または加水分解酵素の存在下で行われ得る。本発明の加水分解処理は、好ましくは加水分解酵素の存在下で行われ得る。
【0036】
上記加水分解酵素としては、非晶性物質のエーテル結合またはβ−O−4結合を切断することができ、非晶性物質をより溶解性の高い非晶性物質(例えば、オリゴ糖または単糖)に変換可能な任意の適切な酵素を用いることができ、例えば、セルラーゼ等が挙げられる。加水分解酵素の存在下で加水分解を行うことにより、多糖類ナノファイバーへのダメージが抑えられ、より優れた物性を有する多糖類ナノファイバーが得られ得る。
【0037】
水の添加量は、多糖類ナノファイバーを含む溶液に対して好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。水の添加量が上記の範囲内であれば、効率よく、加水分解を行うことができる。
【0038】
加水分解反応の温度は、任意の適切な温度に設定することができ、好ましくは25〜160℃であり、より好ましくは25℃〜120℃である。このような温度範囲であれば、多糖類ナノファイバーの熱分解が抑制され得る。加水分解酵素の存在下で加水分解反応を行う場合には、25℃〜90℃で行うことが好ましい。
【0039】
<A−4.洗浄工程>
本発明の製造方法は、さらに洗浄工程を含んでいてもよい。洗浄工程により、非晶性物質を多糖類ナノファイバー分散液から除くことができる。これにより、多糖類ナノファイバーの有する特性がより好適に発揮され得る。また、多糖類ナノファイバーの用途や所望の物性に応じて、テトラアルキルアンモニウムアセテートを洗浄工程により、多糖類ナノファイバー溶液から除いてもよい。上記化学変性した多糖類ナノファイバーが分散する溶液を、化学変性した物質を溶解可能な溶媒で洗浄することによって、多糖類ナノファイバーを分離することができる。洗浄に用いる溶媒は、各化学変性、または、加水分解に用いた化合物に応じて、適宜選択することができる。
【0040】
化学変性または加水分解のいずれか一方を行わない場合には、上記テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液を用いて洗浄し、非晶性物質を除去した後、水等のテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を溶解し得る溶媒でさらに洗浄してもよい。
【0041】
化学変性としてエステル化反応を行った場合は、水、アルコール類、ケトン類、アミド類、エーテル類、芳香族類等の溶媒を好適に用いることができる。また、エーテル化反応を行った場合は、水、アルコール類、ケトン類、アミド類、エーテル類、芳香族類等の溶媒を好適に用いることができる。上記加水分解を行った場合は、水を好適に用いることができる。上記洗浄に用いる溶媒としては、低コストや安全の面から、テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒、水またはアルコール類が好ましい。これらを単独で用いて洗浄工程を行ってもよく、2種以上の溶媒を用いて、順次洗浄を行ってもよい。
【0042】
上記洗浄工程は、多糖類ナノファイバー分散液に、任意の溶媒を添加して行ってもよく、遠心分離やろ過により、多糖類ナノファイバー分散液を多糖類ナノファイバーと溶液とに分離した後、多糖類ナノファイバーのみを任意の溶媒で洗浄してもよい。多糖類ナノファイバーを分離した後、洗浄工程を行う場合には、洗浄後の多糖類ナノファイバーをテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液に再度分散させ、多糖類ナノファイバー分散液としてもよい。
【0043】
<B.多糖類ナノファイバー分散液>
本発明の多糖類ナノファイバー分散液は、上記の製造方法により得られる。上記の通り、本発明の製造方法に用いられる溶液は、より簡便に、かつ、高効率に多糖類ナノファイバーを製造することができる。また、本発明で用いる溶液は、反応溶媒としても好適に機能するものである。したがって、本発明の多糖類ナノファイバーは、所望の官能基を付与することにより、所望の特性を付与することができる。
【0044】
本発明の製造方法で得られる多糖類ナノファイバー分散液に含まれる多糖類ナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは4nm〜500nmであり、より好ましくは4nm〜200nmであり、さらに好ましくは4nm〜100nmである。また、本発明の製造方法で得られる多糖類ナノファイバー分散液に含まれる多糖類ナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは50nm〜50μmであり、より好ましくは100nm〜10μmである。
【0045】
<C.多糖類ナノファイバー>
本発明の多糖類ナノファイバーは、上記多糖類ナノファイバー分散液から得られる。上記多糖類ナノファイバー分散液から多糖類ナノファイバーを得る方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、上記多糖類ナノファイバー分散液を遠心分離またはろ過し、得られた多糖類ナノファイバーを乾燥させることにより得られる。
【0046】
<D.多糖類ナノファイバーを含む複合材料>
本発明の多糖類ナノファイバーを含有する複合材料は、上記多糖類ナノファイバーおよび樹脂を含む。本発明の多糖類ナノファイバーは、例えば、任意の化学変性反応を経ることにより、より樹脂との相溶性を高め得る。例えば、上記化学変性工程において、エーテル化および/またはエステル化することにより、疎水性ポリマーとも好適に複合材料を形成し得る。本発明の複合材料は、任意の適切な方法で製造することができ、例えば、樹脂に上記多糖類ナノファイバーまたは上記多糖類ナノファイバー分散液を混合することにより得られる。本発明の複合材料は、樹脂の耐熱性、結晶性、強度、弾性率を向上することができる。本発明の多糖類ナノファイバーを含む複合材料の製造方法は、樹脂等に応じて、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、溶融混合法または溶液混合法が挙げられる。
【0047】
上記樹脂としては任意の適切な樹脂を用いることができ、例えば、ポリ乳酸(PLA)系樹脂等の生分解性プラスチック;ポリプロピレン(PP)系樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)系樹脂等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリート(PMMA)等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート(PC)系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、セルロース又はその誘導体等が挙げられる。上記の通り、本発明の多糖類ナノファイバーにエステル化処理および/またはエーテル化処理を施すことにより、疎水性ポリマーとも好適に複合材料を得ることができる。
【0048】
また、本発明の複合材料は、さらに、任意の適切な添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤は、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、相溶化剤、抗酸化剤、可塑剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、他の高分子材料等が挙げられる。該添加剤の配合量は、添加剤の種類や使用目的に応じて、適宜設定すればよい。
【0049】
<E.多糖類ナノファイバーのその他の用途>
本発明の多糖類ナノファイバー分散液および多糖類ナノファイバーは、様々な用途に適用することができ、医療用材料、衣料、不織布、フィルター、フィルム、樹脂の補強材として好適に用いることができる。
【0050】
例えば、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子鎖は、伸びきり鎖結晶となっていることにより、弾性率、強度、熱膨張係数などの特性がマグネシウム合金と同等である。さらに、セルロースナノファイバーは、低比重、高アスペクト、大きい表面積などの特性を有する。そのため、セルロースナノファイバーは、特に樹脂の補強材として利用可能である。また、セルロースナノファイバーは、優れた耐熱性を有するので、耐熱性付与材料としても好適に用いることができる。さらに、エステル化処理および/またはエーテル化処理したセルロースナノファイバーは、水素結合による再凝縮を避けることができ、高分散の状態を維持することができる。そのため、親水性のポリマーだけでなく、疎水性のポリマーにも添加することができる。また、本発明の多糖類ナノファイバーは、結晶促進効果は従来の結晶核材よりも優れているため、樹脂の結晶核材として用いることもできる。
【0051】
また、キチンは良好な生体親和性を持ち、生体内で分解され、さらに創傷治癒効果があるため、医療分野で注目されている。したがって、キチンナノファイバーは、例えば、止血剤、人工皮膚、人口骨、生体吸収性縫合糸などに好適に用いることができる。また、キチンナノファイバーを用いた不織布は、創傷被覆保護材等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
本発明について、実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例で得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は以下のようにして求めた。
(セルロースナノファイバー分散液の固形分濃度)
洗浄後のセルロースナノファイバー分散液を遠心分離機(日立工機社製、製品名:CR22GIII、回転速度:8000rpm)で25分間処理した後、上澄みを捨て、残った固形分(スラリー)の重量(WI)と該固形分の乾燥後の重量(W2)から下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(重量%)=W2/W1×100
【0053】
[実施例1]
200mlの三口フラスコに、ハサミで3mm角に切断したろ紙(東洋濾紙(株)製、ADVANTEC(登録商標)のFILTER PAPER)5.5g、N,N−ジメチルアセトアミド90gおよびテトラブチルアンモニウムアセテート10gを加え、磁性撹拌子で、55℃で12分間撹拌し、ろ紙に含まれるセルロースを膨潤させた。
次いで、撹拌後の溶液をペイントシェイカー(東洋精機社製、ペイントシェイカー用ビーズ:ジルコニアビーズ、Φ0.65mm)を用いて10分間振とうした。振とう後の溶液を遠心分離機(日立工機社製、製品名:CR22GIII、回転速度:8000rpm(4530g))で25分間処理し、溶液相に含まれるN,N−ジメチルアセトアミド、テトラブチルアンモニウムアセテートおよび不定形セルロースを除去した。遠心分離後、N,N−ジメチルアセトアミド95gおよびテトラブチルアンモニウムアセテート5gを加え、磁性撹拌子で10分間撹拌した。次いで、再度遠心分離を行い、溶液相を除去し、セルローススラリーを得た。得られたセルローススラリーに水を加え、N,N−ジメチルアセトアミドとテトラブチルアンモニウムアセテートが完全に除去されるまで、遠心分離を行い、セルロースナノファイバーを洗浄し、セルロースナノファイバーおよび水を含むセルロース分散液を得た。得られたセルロース分散液の固形分濃度は3.5重量%であった。
得られたセルロースナノファイバー分散液を105℃の送風乾燥機で5時間乾燥し、4.5gのセルロースナノファイバーを得た(セルロースナノファイバーの収率:約82重量%)。
得られたセルロースナノファイバーをFE−SEM(日本電子製、製品名:JSM−6700F、測定条件:20mA、60秒)で形態観察した。観察前に、セルロースナノファイバーをPtでコートして用いた。得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は約30nmであった。得られたセルロースナノファイバーのFE−SEM写真を図1に示す。
【0054】
[実施例2]
200mlの三口フラスコに、ハサミで3mm角に切断したろ紙(東洋濾紙(株)製、ADVANTEC(登録商標)のFILTER PAPER)5.5g、N,N−ジメチルアセトアミド90gおよびテトラブチルアンモニウムアセテート10gを加え、磁性撹拌子で、55℃で12分間攪拌し、ろ紙に含まれるセルロースを膨潤させた。
次いで、撹拌後の溶液に無水酢酸30gを加え、溶液の温度を70℃まで上昇させ、さらに30分間撹拌した。撹拌後、遠心分離機(日立工機社製、製品名:CR22GIII、回転速度:8000rpm)を用いて、25分間遠心分離し、溶液相に含まれるセルロースアセテート等の可溶化成分およびテトラブチルアンモニウムアセテートを除去し、セルローススラリーを得た。遠心分離後、セルローススラリーにN,N−ジメチルアセトアミドを加えて、セルロースナノファイバーを分散させ、再度遠心分離を行い、溶液相を除去した。これらの工程を可溶化成分、テトラブチルアンモニウムアセテートおよびN,N−ジメチルアセトアミドが完全に取り除かれるまで繰り返した。
可溶化成分等を除去した後、セルローススラリーにN,N−ジメチルアセトアミドを加え、ペイントシェーカー(東洋精機社製、ペイントシェイカー用ビーズ:ジルコニアビーズ、Φ0.65mm)を用いて10分間振とうした後、再度遠心分離を行い、溶液相を除いた。遠心分離後のセルローススラリーにN,N−ジメチルアセトアミドを加え、セルロースナノファイバー分散液を得た。得られたセルロース分散液の固形分濃度は2.9重量%であった。
得られたセルロースナノファイバー分散液を125℃の送風乾燥機で5時間乾燥し、4.3gのセルロースナノファイバーを得た(セルロースナノファイバーの収率:約78重量%)。
得られたセルロースナノファイバーをFE−SEM(日本電子製、製品名:JSM−6700F、測定条件:20mA、60秒)で形態観察した。観察前に、セルロースナノファイバーをPtでコートして用いた。得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は約30nmであった。得られたセルロースナノファイバーのIR分析により、セルロースナノファイバー表面の水酸基が修飾されていることを確認した。実施例2のセルロースナノファイバーのIRスペクトルを図2に示す。なお、図2には比較のため、実施例1のセルロースナノファイバーのIRスペクトルも併せて示す。
【0055】
[実施例3]
膨潤工程で用いる溶液として、N,N−ジメチルアセトアミド95gとテトラブチルアンモニウムアセテート5gを用いた以外は、実施例2と同様にして、セルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は、3.3重量%であった。
得られたセルロースナノファイバー分散液を実施例2と同様にして乾燥し、4.8gのセルロースナノファイバーを得た(セルロースナノファイバーの収率:約87重量%)。
得られたセルロースナノファイバーを実施例2と同様にしてFE−SEMで形態観察したところ、平均繊維径は約30nmであった。
【0056】
[実施例4]
使用したろ紙を10gとした以外は、実施例2と同様にしてセルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は、3.5重量%であった。
得られたセルロースナノファイバー分散液を実施例2と同様にして乾燥し、4.6gのセルロースナノファイバーを得た(セルロースナノファイバーの収率:約84重量%)。
得られたセルロースナノファイバーを実施例2と同様にしてFE−SEMで形態観察したところ、平均繊維径は約50nmであった。
【0057】
[実施例5]
多糖類の膨潤工程で用いる非プロトン性極性溶媒として、N,N−ジメチルアセトアミドに代えてジメチルスルホキシドを用いた以外は、実施例4と同様にして、セルロースナノファイバー分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は、2.8重量%であった。
得られたセルロースナノファイバー分散液を実施例2と同様にして乾燥し、4.1gのセルロースナノファイバーを得た(セルロースナノファイバーの収率:約75重量%)。
得られたセルロースナノファイバーを実施例2と同様にしてFE−SEMで形態観察した。得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は約35nmであった。
【0058】
[実施例6]
ろ紙に代えてリンターパルプを用いた以外は、実施例2と同様にして、セルロースナノファイバー分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は、2.6重量%であった。
得られたセルロースナノファイバー分散液を実施例2と同様にして乾燥し、4.0gのセルロースナノファイバーを得た(セルロースナノファイバーの収率:約73重量%)。
得られたセルロースナノファイバーを実施例2と同様にしてFE−SEMで形態観察した。得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は約20nmであった。
【0059】
本発明の製造方法を用いた実施例1〜6では高い収率で、セルロースナノファイバーが得られた。本発明の製造方法を用いた場合には、従来のイミダゾリウム系イオン液体を用いた方法に比べて短時間(イミダゾリウム系イオン液体法では2時間)でセルロースナノファイバーを得ることができた。また、高濃度でセルロース等の多糖類含有原料を処理することが可能であり、高い収率で多糖類ナノファイバーを調製することができた。
【0060】
さらに、ろ紙に代えて、リンターパルプを用いた実施例6においても、同様に高い収率でセルロースナノファイバーが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上述のように、本発明の製造方法によれば、低コストで、かつ、簡便に多糖類ナノファイバー分散液および多糖類ナノファイバーを製造することができる。また、本発明の多糖類ナノファイバー分散液は、溶液中に多糖類ナノファイバーを高分散させた状態で保持できるため、用途に応じた多糖類ナノファイバーの製造に用いる前駆体として好適である。本発明の多糖類ナノファイバー分散液および多糖類ナノファイバーは様々な用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む溶液を用いて多糖類含有原料に含まれる多糖類を膨潤および/または部分溶解する工程、および
該膨潤および/または部分溶解した多糖類を解繊する工程、を含む多糖類ナノファイバー分散液の製造方法:
【化1】

式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記多糖類を化学変性および/または加水分解する工程をさらに含む、請求項1に記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項3】
前記テトラアルキルアンモニウムアセテートがテトラブチルアンモニウムアセテートである、請求項1または2に記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項4】
前記非プロトン性極性溶媒のドナー数が20〜50である、請求項1から3のいずれかに記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項5】
前記非プロトン性極性溶媒がアミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、および、ピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である、請求項1から4のいずれかに記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項6】
前記非プロトン性極性溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジンおよび4−メチルピリジン、ならびに、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から5のいずれかに記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項7】
前記多糖類がセルロースまたはキチンである、請求項1から6のいずれかに記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項8】
前記テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒の重量比が0.05:99.95〜20:80である、請求項1から7のいずれかに記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項9】
前記化学変性方法がエステル化反応および/またはエーテル化反応である、請求項1から8のいずれかに記載の多糖類ナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の製造方法で得られた、多糖類ナノファイバー分散液。
【請求項11】
請求項10に記載の多糖類ナノファイバー分散液から得られた、多糖類ナノファイバー。
【請求項12】
請求項11に記載の多糖類ナノファイバーおよび樹脂を含む、複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−91874(P2013−91874A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234679(P2011−234679)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】