説明

多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法及び多結晶シリコンの製造方法

【課題】必要な品質を確保し、且つ、原料の無駄を押さえることが可能な多結晶シリコンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による多結晶シリコンの製造方法は、所定の製造条件下で第1の多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程と、第1の多結晶シリコンインゴットから所定の厚さのテストウェーハを作製する工程と、テストウェーハの少数キャリア拡散長を測定し、当該少数キャリア拡散長及びテストウェーハの厚さに基づいて、第1の多結晶シリコンインゴットの外周部の鋳肌に存在する低品質領域のカット幅を決定する工程とを備えている。そして、第1の多結晶シリコンインゴットと実質的に同一条件下で鋳造される第2の多結晶シリコンインゴットについては、その外周部の鋳肌に存在する低品質領域をカット幅で切断して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用多結晶シリコンインゴットの外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域のカット幅の決定方法に関するものである。また、本発明は、そのような決定方法を用いた多結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇や地球環境の悪化などを背景に、自然エネルギーを利用した発電が注目されている。中でも、太陽光発電装置(太陽電池とも呼ばれる)は、機械的動作を伴わず、しかも、小規模なタイプから大規模なタイプまで幅広い製品展開が可能であることから、今後ますます需要が増大するものと期待されている。
【0003】
広く知られているように、太陽光発電装置の発電パネルにはシリコンウェーハが用いられる。しかしながら、太陽光発電装置には低コスト化が強く求められることから、ICデバイスに用いられる単結晶シリコンウェーハではなく、より安価な多結晶シリコンウェーハが用いられることが一般的である。また、受光面積を十分に確保すべく、多結晶シリコンウェーハの主面は、単結晶シリコンウェーハのような円形ではなく、四角形であることが望ましい。
【0004】
四角形の多結晶シリコンウェーハを製造する方法としては、溶融シリコンを鋳型で凝固させる鋳造法(「キャスト法」ともいう)や、電磁誘導による連続鋳造法(「電磁鋳造法」ともいう)が知られている(特許文献1、2参照)。なかでも、電磁鋳造法は、高品位な大型の多結晶シリコンインゴットを製造できることから、変換効率の高い太陽光発電パネルを比較的安価に製造することが可能である。
【0005】
一般に、太陽電池用多結晶シリコンは、溶融シリコンを鋳型で凝固させる鋳造法(「キャスト法」ともいう)、または電磁誘導による連続鋳造法(「電磁鋳造法」ともいう)で製造される(特許文献1、2参照)。太陽電池用多結晶シリコンの鋳造では、角形の石英るつぼ、或いは角形のグラファイト製の鋳型が用いられ、得られたシリコンインゴットも角柱状となる。このシリコンインゴットを加工しやすい所定のサイズのシリコンブロックに分割した後、シリコンブロックをスライスすることにより、例えば約15×15cmの正方形の太陽電池用多結晶シリコン基板が完成する。
【0006】
太陽電池セルに関連する従来技術としては例えば特許文献3がある。特許文献3は、Bドープp型結晶シリコン基板を用いて構成された光電変換装置であって、光活性領域であるバルク基板領域部分と、このバルク基板領域以外の部分とからなり、バルク基板領域部分を単独で取り出して、少数キャリア拡散長を光入射面側から測定したときに、0.5<(L1/Lpeak)とすることを特徴とするものである。(L1:バルク基板領域部分の光入射面側の任意の位置における少数キャリア拡散長、Lpeak:上記少数キャリア拡散長を全面にわたって測定して全データを10μmの区間ごとにヒストグラムとし、このヒストグラムの高拡散長側の最大ピークが存在する区間の中心値)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156166号公報
【特許文献2】特開2009−99734号公報
【特許文献3】特開2005−191315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シリコンインゴットから多結晶シリコン基板を切り出す際、インゴットの外周部の鋳肌付近は不純物や結晶欠陥が多いため切り捨てる必要がある。従来、光電変換効率に影響があるインゴット外周部のカット幅は、キャリアのライフタイム測定を行い、事前に決めた変換効率特性との依存性より決定しており、このカット幅を種々のシリコンインゴットに対して一律に適用していた。
【0009】
しかしながら、この方法では必ずしも光電変換効率と対応がとれておらず、カット幅が少なく、低品質部を基板中に混在させてしまったり、過剰に切断してしまい、材料を無駄にしてしまったりしていた。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、太陽電池セルに必要な品質を確保し、且つ、原料の無駄を押さえることが可能な多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法、並びにこれを用いた多結晶シリコンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、多結晶シリコンを用いた太陽電池セルの光電変換効率は多結晶シリコンの少数キャリア拡散長の増加に伴って向上するが、ある程度増加した後は飽和し、変換効率はほぼ一定となることが分かった。一方、ウェーハの少数キャリア拡散長は鋳肌面からのカット幅に依存し、インゴット外周部のカット幅が小さければ少数キャリア拡散長も小さく、逆にカット幅が大きければ少数キャリア拡散長も大きいことが分かった。すなわち、少数キャリア拡散長に基づいて最適なカット幅を導き出せることを見出した。
【0012】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明による多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法は、多結晶シリコンインゴットの外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域のカット幅を決定する方法であって、前記多結晶シリコンインゴットから所定の厚さのテスト基板を作製する工程と、前記テスト基板の少数キャリア拡散長を測定し、当該少数キャリア拡散長及び前記テスト基板の厚さに基づいて、前記多結晶シリコンインゴットの前記カット幅を決定する工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による多結晶シリコンの製造方法は、所定の製造条件下で第1の多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程と、前記第1の多結晶シリコンインゴットから所定の厚さのテスト基板を作製する工程と、前記テスト基板の少数キャリア拡散長を測定し、当該少数キャリア拡散長及び前記テストウェーハの厚さに基づいて、前記第1の多結晶シリコンインゴットの外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域のカット幅を決定する工程と、前記第1の多結晶シリコンインゴットと実質的に同一条件下で鋳造される第2の多結晶シリコンインゴットについて、その外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域を前記カット幅で切断して除去する工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明において、前記テスト基板を作製する工程は、前記多結晶シリコンインゴットをスライスして所定の厚さのシリコンウェーハを作製する工程と、前記シリコンウェーハの表面にエミッタ拡散処理を施して拡散層を形成する工程と、前記シリコンウェーハの前記表面に反射防止膜を形成する工程と、前記シリコンウェーハの前記表面及び裏面に電極を形成するための焼成工程を模擬した熱処理を行う工程と、前記拡散層及び前記反射防止膜を除去する工程を含むことが好ましい。
【0015】
本発明において、前記カット幅を決定する工程は、前記テスト基板の少数キャリア拡散長の面内分布を測定し、前記少数キャリア拡散長の面内分布の平均値及び前記テストウェーハの厚さに基づいて、前記カット幅を決定する工程であることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記カット幅を決定する工程は、前記少数キャリア拡散長の面内分布の平均値が前記テストウェーハの厚さの4倍以上となるように、前記カット幅を決定することが好ましく、4〜5倍となるように前記カット幅を決定することがより好ましく、4倍となるように前記カット幅を決定することが特に好ましい。この場合において、前記テスト基板の厚さは製品に近い150〜200μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、太陽電池セルに必要な品質を確保し、且つ原料を無駄にすることのない多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法、並びにそのような決定方法を用いた多結晶シリコンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】多結晶シリコンウェーハの製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【図2】本実施形態による多結晶シリコンウェーハの製造に用いる電磁鋳造装置10の模式図である。
【図3】無底ルツボの構成を示す略斜視図である。
【図4】多結晶シリコンインゴットからシリコンウェーハを切り出す切断工程を説明するための模式図である。
【図5】多結晶シリコンブロック3の同じ断面から取り出される6枚の多結晶シリコンウェーハ4を示す図である。
【図6】多結晶シリコンインゴットの外周部のカット幅の決定方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】基板厚みを200umとした場合にシミュレータで計算した光電変換効率(相対値)と少数キャリアの拡散長の依存性を示すグラフである。
【図8】鋳肌カット面(最適と予想されるカット幅より十分に小さいカット幅を仮に採用して鋳肌領域をカットした後の最外周面)からのカット幅と少数キャリア拡散長の関係の一例を示すグラフであり、横軸は鋳肌カット面からのカット幅(mm)、縦軸は少数キャリア拡散長(μm)をそれぞれ示している。
【図9】図8の特性を有するウェーハの少数キャリアの拡散長マップである。
【図10】鋳肌カット面からのカット幅と少数キャリア拡散長の関係の他の例を示すグラフであり、横軸は鋳肌カット面からのカット幅(mm)、縦軸は少数キャリア拡散長(μm)をそれぞれ示している。
【図11】図10の特性を有するウェーハの少数キャリアの拡散長マップである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、多結晶シリコンウェーハの製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【0021】
図1に示すように、まず電磁鋳造法によって角柱状の多結晶シリコンインゴットを製造する(ステップS101)。次に、多結晶シリコンインゴットから複数のシリコンブロックを切り出した後(ステップS102)、このシリコンブロックを所定の厚さにスライスし(ステップS103)、さらに洗浄を施すことにより(ステップS104)、多結晶シリコンウェーハが完成する。
【0022】
図2は、本実施形態による多結晶シリコンウェーハの製造に用いる電磁鋳造装置10の模式図である。
【0023】
図2に示す電磁鋳造装置10は、内部の発熱を遮断する二重壁構造の水冷容器からなるチャンバー11を有する。チャンバー11は、上部に設けられた遮蔽手段12を介して原料投入装置5に連結されており、これにより原料投入装置5から原料である粒状又は塊状のシリコン材料Sが連続的に供給される。原料投入装置5から供給されるシリコン材料Sは、原料投入配管13を介して、無底ルツボ14に投入される。無底ルツボ14は、シリコン材料Sの投入口となる上方開口部14aと、多結晶シリコンインゴット1の取り出し口となる下方開口部14bを有している。無底ルツボ14の下方開口部14bから取り出された多結晶シリコンインゴット1は、チャンバー11の底部に設けられた引出し口15から引き出される。また、チャンバー11の上部側壁には不活性ガス導入口16が設けられ、チャンバー11の下部側壁には真空吸引口18が設けられている。
【0024】
図3は、無底ルツボ14の構成を示す略斜視図である。
【0025】
図3に示すように、無底ルツボ14は銅製の水冷角筒体であり、部分的な縦方向のスリット14cにより周方向に複数分割されている。無底ルツボ14の周囲には、誘導コイル14dが設けられている。誘導コイル14dは、無底ルツボ14のスリット14cを設けた位置の外周側に同芯に周設され、図示されていない同軸ケーブルにて電源に接続される。これにより、誘導コイル14dに電流を流すと、無底ルツボ14内のシリコン材料Sが誘導加熱され、シリコン融液S0となる。また、無底ルツボ14の真上には加熱手段19が昇降可能に設けられ、下降した状態で無底ルツボ14内に装入されるようになっている。但し、本発明において加熱手段19を用いることは必須でない。
【0026】
チャンバー11内にはアフターヒーター20が設けられている。アフターヒーター20は、無底ルツボ14の下方開口部14bに同芯に連設され、無底ルツボ14から引き下げられるインゴット1を加熱して、その軸方向に所定の温度勾配を与える。
【0027】
アフターヒーター20の下方には、ガスシール部21が設けられるとともに、インゴット1を支えながら下方へ引き出す引き抜き装置22が設けられている。
【0028】
原料投入配管13は、金属からなる本体部と、本体部とシリコン材料Sとの接触を防止するための被覆部とを備えている。つまり、金属からなる本体部が被覆部によって覆われた構造を有している。これにより、原料投入配管13の本体部とシリコン材料Sとの接触によって生じ得る金属汚染が防止される。さらに、本実施形態では、加熱手段19の表面に、金属材料の露出を防止する被覆部も設けられている。これにより、加熱手段19を構成する金属材料からの汚染についても防止される。原料投入配管13の被覆部としてはシリコンゴムなどを用いることができ、加熱手段19の被覆部としてはシリコンなどを用いることができる。
【0029】
図4は、多結晶シリコンインゴットからシリコンウェーハを切り出す切断工程を説明するための模式図である。
【0030】
図4(a)に示すように、多結晶シリコンインゴット1は、全長Lを分割してn個の中インゴット2を得る。ここで、成長方向に分割とは、図4に示すXY平面で切断することを意味する。ラインC11は等分割の切断位置を示している。インゴットの分割数は特に限定されず、最終目標とするシリコンブロックの長さに応じて適宜決定すればよい。
【0031】
次に、中インゴット2の断面(XY平面)をマトリクス状に4分割又は6分割することによって、断面が略正方形の多結晶シリコンブロック3を得る。インゴットの断面サイズが例えば505×345mmの矩形である場合、中インゴット2を6分割して約156×156mmのシリコンブロックを得ることができる。すなわち、図4(b)に示すように、中インゴット2をラインC21、C22の位置で切断して鋳肌面を除去し、さらにラインC23の位置で切断してX軸方向に2分割する。さらに、図4(c)に示すように、2分割された小インゴット2aの各々をラインC31、C32の位置で切断して鋳肌面を除去し、さらにラインC33、C34の位置で切断してY軸方向に3分割する。以上により、図4(d)に示すように、中インゴット2が最終的に6分割された多結晶シリコンブロック3を得ることができる。
【0032】
このようにして得られた多結晶シリコンブロック3は、成長方向に対して垂直に、つまりXY平面に沿ってスライスされ、これによって図4(e)に示すように、ほぼ正方形の多結晶シリコンウェーハ4が取り出される。
【0033】
図5は、多結晶シリコンブロック3の同じ断面から取り出される6枚の多結晶シリコンウェーハ4を示す図である。
【0034】
図5に示すように、多結晶シリコンブロック3は、X方向のラインC23と、Y方向のラインC33,C34に沿って切断されるため、同じ断面からは6枚のウェーハ4が切り出される。このうち、四隅に位置する4枚の多結晶シリコンウェーハ4aは、直交する2辺が鋳肌側の辺であり、残りの2辺が中央部側の辺である。これに対し、四隅以外に位置する2枚の多結晶シリコンウェーハ4bは、1辺が鋳肌側の辺であり、残りの3辺が中央部側の辺である。
【0035】
また、鋳肌の除去はX方向のラインC21,C22、Y方向のC31,C32に沿って切断することによって実施される。ここで、鋳肌面からのカット幅が小さい場合には低品質領域の影響によって変換効率が低下するおそれがあり、カット幅が大きい場合には外周部を過剰に除去することで材料の無駄が多くなる。ウェーハ品質の確保の原料の効率利用を両立させるためには、以下に示すように、鋳肌付近の金属汚染された微結晶領域のカット幅を最適化することが必要である。
【0036】
図6は、多結晶シリコンインゴットの外周部のカット幅の決定方法を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図6に示すように、本実施形態によるカット幅の決定方法では、まず所定の条件下で製造されたシリコンインゴットからテスト基板を作製する(ステップS201〜S206)。テスト基板の作製では、まずシリコンインゴットから規定サイズの複数のシリコンブロックを切り出す(ステップS201)。このとき、シリコンインゴットの外周部に存在する低品質領域を切断して除去する必要があるが、現時点では最適なカット幅は未定であることから、最適と予想されるカット幅より十分に小さいカット幅を採用して切断しておけば良い。カット後の最外周面を鋳肌カット面と呼ぶ。
【0038】
次に、得られたシリコンブロックを所定の厚さ、例えば拡散長測定時の厚みが200μmになるようにスライスし、洗浄を施すことにより、シリコンウェーハを作製する(ステップS202)。
【0039】
次に、シリコンウェーハに対して通常の太陽電池セルの製造を模擬した加工を実施する。具体的には、まず表裏面の切断ダメージ層をHF/HNOの混酸で除去した後(ステップS203)、熱処理炉に導入して800〜850℃に昇温してから、ガス化したリン拡散源を導入して、10〜20分の熱処理にて、ウェーハ中へのエミッタ拡散を行い、これによりn型拡散層を形成する(ステップS204)。次に、拡散工程で形成された表面のPSG(Phospho-Silicate-Glass)膜の除去を行った後(ステップS205)、SiN膜からなる反射防止膜をPE−CVD(Plasma-Enhanced CVD:プラズマCVD)法により形成する(ステップS206)。
【0040】
その後、ウェーハの表裏面に電極を形成するための焼成工程を模擬した熱処理を実施する(ステップS207)。通常、電極の形成ではAgペースト等の電極材料をスクリーン印刷し、これを焼成する必要があるが、実際の太陽電池セルではなくテスト基板を作製するだけであるため、電極材料のスクリーン印刷は省略してよく、電極焼成時の温度、例えば650〜900℃で数秒〜1分程度加熱すれば足りる。もちろん、実際に電極を形成してもかまわない。
【0041】
次に、シリコンウェーハ上に形成した反射防止膜及びn形拡散層を除去する(ステップS208)。なお電極を形成した場合にはこれも除去する。これらがシリコンウェーハ上に形成された状態のままであると、少数キャリア拡散長の測定の障害となるからである。反射防止膜については、HF液を用いたエッチングにより除去すればよく、n形拡散層については、HFとHNOとを1:3から1:4の割合で混合した混酸を用いて除去すればよい。その後、希HF液で表面処理を行い、さらに純水洗浄し、一定期間大気中で放置して表面処理状態を安定させることが好ましい。これらの処理により、太陽電池セルとして模擬的に加工したシリコンウェーハを元のウェーハ状態に復帰させることができる。以上により、少数キャリア拡散長を測定するためのテスト基板が完成する。
【0042】
次に、テスト基板の少数キャリア拡散長の面内分布を測定し、その平均値を求める(ステップS209)。このようにすることで、テストウェーハに対する少数キャリア拡散長の測定結果の面内バラツキを抑え、測定結果の信頼性を高めることができる。その後、少数キャリア拡散長の面内分布の平均値とテスト基板の厚さに基づいて、多結晶シリコンインゴットのカット幅を決定する(ステップS210)。このカット幅は、この多結晶シリコンインゴットと実質的に同一条件下で鋳造される多結晶シリコンインゴットに対して適用され(ステップS211)、当該インゴットの外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域をこのカット幅で切断して除去することにより、ウェーハ品質の確保の原料の効率利用が実現される。
【0043】
図7は、基板厚みを200μm及び150μmとした場合にシミュレータで計算した光電変換効率と少数キャリアの拡散長の依存性を示すグラフである。なお、光電変換効率は、少数キャリア拡散長が増加することで一定値に近づくことを考慮し、少数キャリア拡散長が3000μmのときの値を基準(100%)として正規化した値を示している。
【0044】
図7に示すように、基板厚みが200μmである太陽電池セルの光電変換効率は、多結晶シリコンの少数キャリア拡散長の増加に伴って向上するが、ある程度増加した後は飽和し、光電変換効率はほぼ一定となる。例えば、少数キャリア拡散長が600μmまでは増加しているが、800μm以降はほぼ100%に達している。
【0045】
また図7に示すように、基板厚みが150μmである太陽電池セルの光電変換効率は、基板厚みが200μmのものよりもわずかに高い傾向が見られ、少数キャリア拡散長が600μmのときに約98%の光電変換効率が得られている。この結果より、少数キャリア拡散長をウェーハ厚みの4倍以上とすれば、光電変換効率は99%以上となり、品質上十分な値に達することが分かる。
【0046】
図8は、鋳肌カット面からのカット幅と少数キャリア拡散長の関係の一例を示すグラフである。同図において、横軸は鋳肌カット面からのカット幅(mm)、縦軸は少数キャリア拡散長(μm)をそれぞれ示している。このグラフは、基板厚みが200μmのものを評価対象し、少数キャリアの拡散長マップ(図9参照)から外周部を5mmずつカットしていき、残りのマップ中の拡散長の平均値を縦軸の値としたものである。
【0047】
図8に示すように、少数キャリア拡散長は、シリコンインゴットの鋳肌カット面からのカット幅に依存して増加する。よって、カット幅が少ない場合には少数キャリア拡散長は小さく、カット幅が大きい場合には少数キャリア拡散長も大きい。具体的には、カット無し(カット幅0mm)の場合には少数キャリア拡散長が約760μmであり、カット幅の増加に伴って増加し、カット幅が18mmの場合には少数キャリア拡散長は約800μmとなる。このことを換言すれば、少数キャリア拡散長が約800μmであるシリコンウェーハを得るためには、鋳肌カット面からのカット幅を18mmとすればよいことが分かる。また、鋳肌カット面からのカット幅が18mm以上であれば、少数キャリア拡散長は800μm以上となることが分かる。
【0048】
上記のように、鋳肌カット面からのカット幅を18mm以上とした場合には、少数キャリアの拡散長を800μm以上とすることができ、800μm以上の少数キャリア拡散長を得るためには、鋳肌カット面からのカット幅を18mm以上とすればよいことが読み取れる。そして、図7から明らかなように、少数キャリア拡散長が800μm以上の場合には、光電変換効率を99%以上にすることができる。しかし、鋳肌カット面からのカット幅を18mmより大きな値、例えば30mmにしたとしても、光電変換効率の増加は僅かであり、端材として廃棄する量が増えるに過ぎない。以上を考慮して、本発明では、少数キャリア拡散長が800〜1000μm、つまりウェーハの厚さの4〜5倍となるように、ウェーハのカット幅を決定するものである。そしてより好ましくは、少数キャリア拡散長が800μm、つまりウェーハの厚さの4倍となるように、ウェーハのカット幅を決定するものである。
【0049】
さらに、ウェーハのカット幅の決定は鋳造する多結晶シリコンインゴットのサイズの決定にも関与する。太陽電池用シリコン基板の規格サイズは例えば156×156mmであり、この規格サイズにカット幅を加えた値がインゴットのサイズとなる必要があるからである。このようにしてインゴットのサイズを決定することにより、最終的には高品質な多結晶シリコン基板を得ることができる。
【0050】
図9は、図8に示した特性を有するウェーハの少数キャリアの拡散長マップであり、白い部分は拡散長が小さい領域であり、黒い部分は拡散長が大きい領域である。
【0051】
図9に示すように、少数キャリアの拡散長はウェーハの面内で不均一であるが、鋳肌カット面から一定幅の領域では、拡散長が特に小さいことが分かる。なおこの多結晶シリコンウェーハは、四隅以外に位置する2枚のウェーハ4bに該当するものであり(図5参照)、1辺が鋳肌側の辺であり、残りの3辺が中央部側の辺である。そして上記のように鋳肌カット面から18mmの範囲を切断した場合には、少数キャリア拡散長の面内分布の平均値を800μmにすることができるので、光電変換効率(相対値)を99%以上にすることができる。
【0052】
図10は、鋳肌カット面からのカット幅と少数キャリア拡散長の関係の他の例を示すグラフである。同図において、横軸は鋳肌カット面からのカット幅(mm)、縦軸は少数キャリア拡散長(μm)をそれぞれ示している。このグラフは、基板厚みが200μmのものを評価対象し、少数キャリアの拡散長マップ(図11参照)から外周部を5mmずつカットしていき、残りのマップ中の拡散長の平均値を縦軸の値としたものである。
【0053】
図10に示すように、少数キャリア拡散長は、シリコンインゴットの鋳肌カット面からのカット幅に依存して増加し、カット無し(カット幅0mm)の場合には少数キャリア拡散長が約703μmであり、カット幅の増加に伴って増加し、カット幅が30mmの場合には少数キャリア拡散長は約800μmとなる。このことを換言すれば、少数キャリア拡散長が約800μmであるシリコンウェーハを得るためには、鋳肌カット面からのカット幅を30mmとすればよいことが分かる。また、鋳肌カット面からのカット幅が30mm以上であれば、少数キャリア拡散長は800μm以上となることが分かる。
【0054】
上記のように、鋳肌カット面からのカット幅を30mm以上とした場合には、少数キャリアの拡散長を800μm以上とすることができ、800μm以上の少数キャリア拡散長を得るためには、鋳肌カット面からのカット幅を30mm以上とすればよいことが読み取れる。そして、図7から明らかなように、少数キャリア拡散長が800μm以上の場合には、光電変換効率を99%以上にすることができる。しかし、鋳肌カット面からのカット幅を30mmより大きな値にしたとしても、光電変換効率の増加は僅かであり、端材として廃棄する量が増えるに過ぎない。以上を考慮して、本発明では、少数キャリア拡散長が800μm、つまりウェーハの厚さの4〜5倍、特に4倍となるように、ウェーハのカット幅を決定することができ、少数キャリア拡散長の面内分布の平均値に基づいて最適なカット幅を導き出せる。
【0055】
図11は、図10に示した特性を有するウェーハの少数キャリアの拡散長マップであり、白い部分は拡散長が小さい領域であり、黒い部分は拡散長が大きい領域である。
【0056】
図11に示すように、少数キャリアの拡散長はウェーハの面内で不均一であるが、鋳肌カット面から一定幅の領域では、拡散長が特に小さいことが分かる。なおこの多結晶シリコンウェーハは、四隅に位置する4枚のウェーハ4aに該当するものであり(図5参照)、2辺が鋳肌側の辺であり、残りの2辺が中央部側の辺である。そして上記のように鋳肌鋳肌カット面から30mmの範囲を切断した場合には、少数キャリア拡散長の面内分布の平均値を800μmにすることができるので、光電変換効率(相対値)を99%以上にすることができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態による多結晶シリコンのカット幅の決定方法は、太陽電池セルの作製工程に適用されるエミッタ拡散工程、PE−CVD工程、電極形成用の焼成工程等を模擬的に実施した後、拡散層や反射防止膜等を除去して加工前の基板構造に戻されたウェーハの少数キャリア拡散長の面内分布を測定し、少数キャリア拡散長の面内分布の平均値が当該シリコン基板の厚さの4〜5倍、特に4倍となるようにカット幅を決定し、同一条件で製造されたインゴットに対してはインゴット外周部の低品質領域をそのカット幅で切断するので、光電変換効率への基板品質の影響は実質上なくなり、したがって、品質と経済性を考慮した最適な加工方法を提供することができる。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0059】
例えば、上記実施形態においては、200μm及び150μmの厚さのテスト基板を用いているが、テスト基板の厚さは特に限定されず、200μmや150μmよりも厚くてもよく、薄くてもかまわない。どのような厚さであっても、少数キャリア拡散長の面内分布の平均値及びテスト基板の厚さに基づいてカット幅を決定するので、品質と経済性を考慮したウェーハの加工が可能である。
【0060】
また、上記実施形態において、テスト基板を製造する工程は、拡散層を形成する工程、反射防止膜を形成する工程、電極焼成工程等、標準的な太陽電池セルを製造する工程を模擬したものであって、上述した工程に限定されるものではない。すなわち、目的とする太陽電池セルを製造する工程を模擬した工程であれば、どのような工程を経てもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 多結晶シリコンインゴット
2 中インゴット
2a 小インゴット
3 多結晶シリコンブロック
4,4a,4b 多結晶シリコンウェーハ
5 原料投入装置
10 電磁鋳造装置
11 チャンバー
12 遮蔽手段
13 原料投入配管
14 無底ルツボ
14a 上方開口部
14b 下方開口部
14c スリット
14d 誘導コイル
15 引き出し口
16 不活性ガス導入口
18 真空吸引口
19 加熱手段
20 アフターヒーター
21 ガスシール部
22 引き抜き装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンインゴットの外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域のカット幅を決定する方法であって、
前記多結晶シリコンインゴットから所定の厚さのテスト基板を作製する工程と、
前記テスト基板の少数キャリア拡散長を測定し、当該少数キャリア拡散長及び前記テスト基板の厚さに基づいて、前記多結晶シリコンインゴットの前記カット幅を決定する工程とを備えることを特徴とする多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法。
【請求項2】
前記テスト基板を作製する工程は、
前記多結晶シリコンインゴットをスライスして所定の厚さのシリコンウェーハを作製する工程と、
前記シリコンウェーハの表面にエミッタ拡散処理を施して拡散層を形成する工程と、
前記シリコンウェーハの前記表面に反射防止膜を形成する工程と、
前記シリコンウェーハの前記表面及び裏面に電極を形成するための焼成工程を模擬した熱処理を行う工程と、
前記拡散層及び前記反射防止膜を除去する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法。
【請求項3】
前記カット幅を決定する工程は、
前記テスト基板の少数キャリア拡散長の面内分布を測定し、前記少数キャリア拡散長の面内分布の平均値及び前記テスト基板の厚さに基づいて、前記カット幅を決定する工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法。
【請求項4】
前記少数キャリア拡散長の面内分布の平均値が前記テスト基板の厚さの4〜5倍となるように、前記カット幅を決定することを特徴とする請求項3に記載の多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法。
【請求項5】
前記テスト基板の厚さが150〜200μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴットのカット幅の決定方法。
【請求項6】
所定の製造条件下で第1の多結晶シリコンインゴットを鋳造する工程と、
前記第1の多結晶シリコンインゴットから所定の厚さのテスト基板を作製する工程と、
前記テスト基板の少数キャリア拡散長を測定し、当該少数キャリア拡散長及び前記テストウェーハの厚さに基づいて、前記第1の多結晶シリコンインゴットの外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域のカット幅を決定する工程と、
前記第1の多結晶シリコンインゴットと実質的に同一条件下で鋳造される第2の多結晶シリコンインゴットについて、その外周部の鋳肌付近に存在する低品質領域を前記カット幅で切断して除去する工程とを備えることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−119372(P2012−119372A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265290(P2010−265290)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】