多胴船の推進性能向上装置
【課題】船体のシンケージやトリムを抑制できるようにする。
【解決手段】主船体1と、左右両側部の一対のサイドハル2とを、船首方向に所要の迎角を備えた側面翼型形状の連結デッキ3Aを介して連結して一体構造の船体を備えた三胴船Iを形成する。三胴船Iの航走時には、各連結デッキ3Aの下側に形成されているトンネル状空間4と、各連結デッキ3Aの上側に、相対的に船首側より船尾方向への空気の流れ5が形成されるようになるため、この各連結デッキ3Aの上下両側の空気の流れ5により、各連結デッキ3Aに上向きの力を発生させて、三胴船Iの船体全体が沈み込み難くなるようにさせる。
【解決手段】主船体1と、左右両側部の一対のサイドハル2とを、船首方向に所要の迎角を備えた側面翼型形状の連結デッキ3Aを介して連結して一体構造の船体を備えた三胴船Iを形成する。三胴船Iの航走時には、各連結デッキ3Aの下側に形成されているトンネル状空間4と、各連結デッキ3Aの上側に、相対的に船首側より船尾方向への空気の流れ5が形成されるようになるため、この各連結デッキ3Aの上下両側の空気の流れ5により、各連結デッキ3Aに上向きの力を発生させて、三胴船Iの船体全体が沈み込み難くなるようにさせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央部の主船体の左右両側部にサイドハルを備えて、主船体とサイドハルとを半没水状態で航走させるようにしてある多胴船の推進性能を向上させるようにする多胴船の推進性能向上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中央部の主船体の左右両側部にサイドハルを備える三胴船や五胴船の如き多胴船は、単胴型の船舶や双胴型の船舶に比べて、中央部の主船体の左右両側部に一対又は複数対のサイドハルを有するという船型により、中央部の主船体の左右にある各サイドハルから上向きの力が発生することから、姿勢の安定化が図れるものである。
【0003】
図10は従来提案されている多胴船としての三胴船の一例の概略を示すもので、該三胴船Iは、中央部の主船体1の左右両側部に、一対のサイドハル2を配置し、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを上部の連結デッキ3で連結して一体構造の船体とし、且つ上記中央部の主船体1と各サイドハル2とを半没水状態とするようにしてある。(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
又、図11は従来提案されている多胴船としての五胴船の一例の概略を示すもので、該五胴船IIは、たとえば、中央部の主船体1の前部寄りの左右両側部に一対の前部サイドハル2aを、又、上記主船体1の後部寄りの左右両側部に一対の後部サイドハル2bをそれぞれ配置し、上記主船体1と、前部と後部に配した左右の各サイドハル2a,2bとを上部の連結デッキ3で連結して、一体構造の船体としてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2002−516785号公報(図3、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記図10に示した三胴船Iや、図11に示した五胴船IIのように、中央部の主船体1の左右両側部にサイドハル2,2a,2bを備えてなる多胴船では、上記主船体1と左右の各サイドハル2,2a,2bとを連結している各連結デッキ3の下側に、上記主船体1と左右の各サイドハル2,2a,2bとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放された図10に符号4で示す如きトンネル状空間がそれぞれ形成されているため、上記多胴船の航走時には、該トンネル状空間4内に、相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れが形成されるようになる。したがって、多胴船の航走時には、上記主船体1と左右の各サイドハル2,2a,2bとを連結している連結デッキ3の部分では、その上下両側に、船首側から船尾方向へ向かう空気の流れが形成されるようになっているが、上記各連結デッキ3の形は、単に目標とする構造強度が得られるように決められているのみであって、該各連結デッキ3を多胴船の推進性能の向上に寄与させることができるようにする考えは、従来、特に提案されていないというのが実状である。
【0007】
又、上記各連結デッキ3は、その形状によっては風波抵抗となってしまっていることもある。
【0008】
そこで、本発明は、多胴船における中央部の主船体と左右両側部のサイドハルとを連結している連結デッキを有効活用して、該多胴船の推進性能の向上化を図ることができるようにした多胴船の推進性能向上装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、中央の主船体と、該主船体の左右両側部に配置したサイドハルとを、連結デッキでそれぞれ連結して、該各連結デッキの下側に、主船体と各サイドハルとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間が形成されるようにしてなる多胴船における上記各連結デッキを、翼型断面形状として、航走時に各連結デッキに生じる揚力で船体の沈み込みを抑制できるようにしてなる構成とする。
【0010】
又、上記構成において、各連結デッキを、船首方向に所要の迎角を備えてなるものとした構成とする。
【0011】
更に、上記各構成において、翼型断面形状としてある各連結デッキの前縁部と後縁部のいずれか一方又は双方に、高揚力装置を設けるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)中央の主船体と、該主船体の左右両側部に配置したサイドハルとを、連結デッキでそれぞれ連結して、該各連結デッキの下側に、主船体と各サイドハルとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間が形成されるようにしてなる多胴船における上記各連結デッキを、翼型断面形状として、航走時に各連結デッキに生じる揚力で船体の沈み込みを抑制できるようにしてなる構成を有する構成としてあるので、多胴船を航走させると、主船体と左右の各サイドハルとを連結している各連結デッキの下側のトンネル状空間を通して相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れと、上記各連結デッキの上側にて相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れにより、翼型断面形状としてある各連結デッキに揚力による上向きの力を作用させることができて、多胴船が航走時に沈み込み難くなるようにしてあることから、シンケージやトリムを抑えることができる。これにより、多胴船の航行時における船体の無駄な上下方向の動きを減らすことができるため、該多胴船の推進効率を高めることができる。
(2)又、多胴船の航走時における縦揺れを抑制する効果も期待できる。
(3)各連結デッキを、船首方向に所要の迎角を備えてなるものとした構成とすることにより、各連結デッキの下側の各トンネル状空間内では、船首側より流入する空気の圧力を高めることができて、この圧力が高められた空気によっても、上記各連結デッキに対して上向きの力を作用させることができるようになるため、上記(1)(2)の効果をより高めることが可能となる。
(4)翼型断面形状としてある各連結デッキの前縁部と後縁部のいずれか一方又は双方に、高揚力装置を設けるようにした構成とすることにより、多胴船の航行時に翼型断面形状としてある各連結デッキで発生させる揚力として、高揚力を確保することができるようになるため、上記(1)(2)(3)の効果をより高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0014】
図1乃至図3は本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の一形態として、多胴船としての三胴船に適用した場合を示すもので、図10に示したと同様に、中央部の主船体1の左右両側部に、一対のサイドハル2を配置し、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを上部の連結デッキで連結して一体構造の船体としてなる三胴船Iにおいて、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを連結する各連結デッキを、それぞれ側面翼型形状の連結デッキ3Aとしてなる構成とする。
【0015】
更に、上記各連結デッキ3Aを、それぞれ船首方向に所要の迎角を備えた構成とする。
【0016】
なお、上記各連結デッキ3Aは、低い迎角で高揚力型の側面翼型形状となるようにすることが望ましい。又、上記各連結デッキ3Aは、目標とする構造強度の仕様を十分に満たす構造強度を備えてなるものとする。
【0017】
その他、図10に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0018】
以上の構成としてある本発明の多胴船の推進性能向上装置を装備した三胴船Iを航走させると、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを連結している各連結デッキ3Aの下側にて上記主船体1と左右の各サイドハル2との間で前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間4内に、相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成される。又、同時に、上記三胴船Iが航走することに起因して上記各連結デッキ3Aの上側にも相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成される。
【0019】
この際、上記各連結デッキ3Aが船首方向に所要の迎角を備えているため、上記各トンネル状空間4内では、船首側より流入する空気の圧力が高められるようになるため、該圧力が高められた空気により上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用するようになる。
【0020】
更に、上記各連結デッキ3Aを側面翼型形状としてあるため、上記各連結デッキ3Aの下側にてトンネル状空間4内を相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5と、該各連結デッキ3Aの上側を相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5に基づいて、上記各連結デッキ3Aには揚力が生じ、この揚力によっても、該各連結デッキ3Aに対し上向きの力が作用するようになる。
【0021】
したがって、上記三胴船Iの航走時には、上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用することで、上記主船体1と各サイドハル2と各連結デッキ3Aからなる該三胴船Iの船体全体が沈み難くなることから、シンケージやトリムを抑えることができるようになる。これにより、三胴船Iの航行時におけるシンケージやトリムの発生を抑えることで、船体の無駄な動きを減らすことができるようになるため、該三胴船Iの推進効率をより高めることができるようになる。
【0022】
このように、本発明の多胴船の推進性能向上装置によれば、多胴船としての三胴船Iの推進性能の向上化を図ることができる。更には、三胴船Iの航走時に上記各連結デッキ3Aに上向きの力が作用することで、船体運動時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果も期待できる。
【0023】
次に、図4乃至図6は本発明の実施の他の形態として、多胴船としての五胴船に適用した場合を示すもので、図11に示したと同様に、中央部の主船体1の前部寄り位置と後部寄り位置の左右両側部に、前部と後部の左右一対のサイドハル2a,2bをそれぞれ配置し、上記主船体1とその左右両側の上記前部及び後部の各サイドハル2a及び2bとを上部の連結デッキで連結して一体構造の船体としてなる五胴船IIにおいて、上記主船体1とその左右両側の前部及び後部の各サイドハル2a及び2bとを連結する各連結デッキを、それぞれ船首方向に所要の迎角を備えた側面翼型形状の連結デッキ3Aとしてなる構成としたものである。
【0024】
なお、上記各連結デッキ3Aの側面翼型形状は、低い迎角で高揚力型となるようにしてあるものとする。又、上記各連結デッキ3Aは、目標とする構造強度の仕様を十分に満たす構造強度を備えてなるものとする。
【0025】
その他の構成は図1乃至図3に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0026】
以上の構成としてある本実施の形態の多胴船の推進性能向上装置を装備した五胴船IIによっても、航走時には、上記主船体1とその左右両側の前部及び後部の各サイドハル2a及び2bを連結している各連結デッキ3Aの下側に形成されているトンネル状空間4内に、相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成されると同時に、上記三胴船Iが航走することに起因して上記各連結デッキ3Aの上側にも相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成されるようになり、このため、上記各トンネル状空間4内では、上記各連結デッキ3Aが船首方向に所要の迎角を備えていることに起因して、船首側より流入する空気の圧力が高められ、この圧力が高められた空気により上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用するようになる。
【0027】
更に、上記各連結デッキ3Aを側面翼型形状としてあることに起因して、該各連結デッキ3Aの上下両側に相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成されるときには、各連結デッキ3Aに揚力が生じるため、この揚力によっても、該各連結デッキ3Aに対し上向きの力が作用するようになる。
【0028】
したがって、上記五胴船IIの航走時には、上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用することで、上記主船体1と前部及び後部の各サイドハル2a及び2bと各連結デッキ3Aからなる該五胴船IIの船体全体が沈み難くなることから、シンケージやトリムを抑えることができ、これにより、五胴船IIの航行時における船体の無駄な動きを減らすことができて、該五胴船IIの推進効率の向上化を図ることができる。更には、五胴船IIの航走時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果も期待できる。
【0029】
次いで、図7乃至図9は本発明の実施の更に他の形態として、図1乃至図3の実施の形態の応用例を示すもので、図1乃至図3に示したと同様に、中央部の主船体1と、その左右両側部のサイドハル2とを、側面翼型形状の連結デッキ3Aでそれぞれ連結した構成において、該各連結デッキ3Aの前縁部における連結デッキ3A下側のトンネル状空間4と対応する幅方向の所要個所に、高揚力装置として、たとえば、スラット6を設け、更に、上記各連結デッキ3Aの後縁部における連結デッキ3A下側のトンネル状空間4と対応する幅方向の所要個所に、高揚力装置としてのフラップ7を設けてなる構成としたものである。
【0030】
その他の構成は図1乃至図3に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0031】
本実施の形態によれば、各連結デッキ3Aの前縁部に設けてあるスラット6と、後縁部に設けてあるフラップ7を、必要に応じて図8に実線で示した状態から二点鎖線で示した状態となるようにそれぞれ作動させることで、三胴船Iの航走時に該各連結デッキ3Aで発生させる揚力が高められるようになる。
【0032】
よって、三胴船Iの航走時には、上記各連結デッキ3Aに高揚力が確保できるため、該三胴船Iのシンケージやトリムを抑える効果を高めることができる。このため、三胴船Iの航行時における船体の無駄な動きをより低減させることができて、該三胴船Iの推進効率の更なる向上化を図ることができる。更に、三胴船Iの航走時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果の向上化も期待できる。
【0033】
なお、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、中央部の主船体1と、その左右両側部のサイドハル2とを連結する連結デッキ3Aの平面形状や、上下方向の配置は、本発明の多胴船の推進性能向上装置を適用する多胴船の主船体1とサイドハルの配置やサイズや形状等に応じて適宜変更してもよい。
【0034】
各連結デッキ3Aは、少なくとも下方にトンネル状空間が形成されている部分が船首方向に所要の迎角を備えた翼型断面形状としてあればよい。したがって、各連結デッキ3aが主船体1や各サイドハル2,2a,2bの上側に取り付けられている部分については、必ずしも翼型としなくてもよい。
【0035】
図4乃至図6の実施の形態と同様の構成において、中央部の主船体1と、その左右両側部のサイドハル2a,2bとを連結している側面翼型形状の連結デッキ3Aの前縁部と後縁部に、図7乃至図9の実施の形態に示した、高揚力装置としてのスラット6とフラップ7をそれぞれ設ける構成としてもよい。このようにすれば、五胴船IIの航走時におけるシンケージやトリムを抑える効果を高めることができ、五胴船IIの航行時における船体の無駄な動きをより低減させることができて、該五胴船IIの推進効率の更なる向上化を図ることができると共に、五胴船IIの航走時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果の向上化が期待できる。
【0036】
図7乃至図9の実施の形態において、各連結デッキ3Aの前縁部のスラット6と、後縁部のフラップ7のいずれか一方を、省略するようにしてもよい。又、図7乃至図9の実施の形態における各連結デッキ3Aの前縁部に設ける高揚力装置は、必要に応じて多胴船の航走時に該各連結デッキ3Aで発生させる揚力を高めるように作動させることができれば、前縁フラップ等、図示したスラット6以外の形式の高揚力装置としてもよい。又、各連結デッキ3Aの後縁部に設ける高揚力装置は、必要に応じて多胴船の航走時に該各連結デッキ3Aで発生させる揚力を高めるように作動させることができれば、図示したフラップ7以外のいかなる形式の高揚力装置を採用してもよい。
【0037】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の一形態として三胴船に適用した状態を示す概略平面図である。
【図2】図1の装置の概略側面図である。
【図3】図2のA−A方向矢視拡大図である。
【図4】本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の他の形態として五胴船に適用した状態を示は概略平面図である。
【図5】図4の装置の概略側面図である。
【図6】図5のB−B方向矢視拡大図である。
【図7】本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の更に他の形態として、図1乃至図3の実施の形態の応用例を示す概略平面図である。
【図8】図7のC−C方向矢視拡大図である。
【図9】図8のD−D方向矢視図である。
【図10】従来提案されている三胴船の一例の概要を示す正面図である。
【図11】従来提案されている五胴船の一例の概要を示す平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 主船体
2,2a,2b サイドハル
3A 連結デッキ
4 トンネル状空間
6 スラット(高揚力装置)
7 フラップ(高揚力装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央部の主船体の左右両側部にサイドハルを備えて、主船体とサイドハルとを半没水状態で航走させるようにしてある多胴船の推進性能を向上させるようにする多胴船の推進性能向上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中央部の主船体の左右両側部にサイドハルを備える三胴船や五胴船の如き多胴船は、単胴型の船舶や双胴型の船舶に比べて、中央部の主船体の左右両側部に一対又は複数対のサイドハルを有するという船型により、中央部の主船体の左右にある各サイドハルから上向きの力が発生することから、姿勢の安定化が図れるものである。
【0003】
図10は従来提案されている多胴船としての三胴船の一例の概略を示すもので、該三胴船Iは、中央部の主船体1の左右両側部に、一対のサイドハル2を配置し、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを上部の連結デッキ3で連結して一体構造の船体とし、且つ上記中央部の主船体1と各サイドハル2とを半没水状態とするようにしてある。(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
又、図11は従来提案されている多胴船としての五胴船の一例の概略を示すもので、該五胴船IIは、たとえば、中央部の主船体1の前部寄りの左右両側部に一対の前部サイドハル2aを、又、上記主船体1の後部寄りの左右両側部に一対の後部サイドハル2bをそれぞれ配置し、上記主船体1と、前部と後部に配した左右の各サイドハル2a,2bとを上部の連結デッキ3で連結して、一体構造の船体としてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2002−516785号公報(図3、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記図10に示した三胴船Iや、図11に示した五胴船IIのように、中央部の主船体1の左右両側部にサイドハル2,2a,2bを備えてなる多胴船では、上記主船体1と左右の各サイドハル2,2a,2bとを連結している各連結デッキ3の下側に、上記主船体1と左右の各サイドハル2,2a,2bとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放された図10に符号4で示す如きトンネル状空間がそれぞれ形成されているため、上記多胴船の航走時には、該トンネル状空間4内に、相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れが形成されるようになる。したがって、多胴船の航走時には、上記主船体1と左右の各サイドハル2,2a,2bとを連結している連結デッキ3の部分では、その上下両側に、船首側から船尾方向へ向かう空気の流れが形成されるようになっているが、上記各連結デッキ3の形は、単に目標とする構造強度が得られるように決められているのみであって、該各連結デッキ3を多胴船の推進性能の向上に寄与させることができるようにする考えは、従来、特に提案されていないというのが実状である。
【0007】
又、上記各連結デッキ3は、その形状によっては風波抵抗となってしまっていることもある。
【0008】
そこで、本発明は、多胴船における中央部の主船体と左右両側部のサイドハルとを連結している連結デッキを有効活用して、該多胴船の推進性能の向上化を図ることができるようにした多胴船の推進性能向上装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、中央の主船体と、該主船体の左右両側部に配置したサイドハルとを、連結デッキでそれぞれ連結して、該各連結デッキの下側に、主船体と各サイドハルとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間が形成されるようにしてなる多胴船における上記各連結デッキを、翼型断面形状として、航走時に各連結デッキに生じる揚力で船体の沈み込みを抑制できるようにしてなる構成とする。
【0010】
又、上記構成において、各連結デッキを、船首方向に所要の迎角を備えてなるものとした構成とする。
【0011】
更に、上記各構成において、翼型断面形状としてある各連結デッキの前縁部と後縁部のいずれか一方又は双方に、高揚力装置を設けるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)中央の主船体と、該主船体の左右両側部に配置したサイドハルとを、連結デッキでそれぞれ連結して、該各連結デッキの下側に、主船体と各サイドハルとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間が形成されるようにしてなる多胴船における上記各連結デッキを、翼型断面形状として、航走時に各連結デッキに生じる揚力で船体の沈み込みを抑制できるようにしてなる構成を有する構成としてあるので、多胴船を航走させると、主船体と左右の各サイドハルとを連結している各連結デッキの下側のトンネル状空間を通して相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れと、上記各連結デッキの上側にて相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れにより、翼型断面形状としてある各連結デッキに揚力による上向きの力を作用させることができて、多胴船が航走時に沈み込み難くなるようにしてあることから、シンケージやトリムを抑えることができる。これにより、多胴船の航行時における船体の無駄な上下方向の動きを減らすことができるため、該多胴船の推進効率を高めることができる。
(2)又、多胴船の航走時における縦揺れを抑制する効果も期待できる。
(3)各連結デッキを、船首方向に所要の迎角を備えてなるものとした構成とすることにより、各連結デッキの下側の各トンネル状空間内では、船首側より流入する空気の圧力を高めることができて、この圧力が高められた空気によっても、上記各連結デッキに対して上向きの力を作用させることができるようになるため、上記(1)(2)の効果をより高めることが可能となる。
(4)翼型断面形状としてある各連結デッキの前縁部と後縁部のいずれか一方又は双方に、高揚力装置を設けるようにした構成とすることにより、多胴船の航行時に翼型断面形状としてある各連結デッキで発生させる揚力として、高揚力を確保することができるようになるため、上記(1)(2)(3)の効果をより高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0014】
図1乃至図3は本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の一形態として、多胴船としての三胴船に適用した場合を示すもので、図10に示したと同様に、中央部の主船体1の左右両側部に、一対のサイドハル2を配置し、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを上部の連結デッキで連結して一体構造の船体としてなる三胴船Iにおいて、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを連結する各連結デッキを、それぞれ側面翼型形状の連結デッキ3Aとしてなる構成とする。
【0015】
更に、上記各連結デッキ3Aを、それぞれ船首方向に所要の迎角を備えた構成とする。
【0016】
なお、上記各連結デッキ3Aは、低い迎角で高揚力型の側面翼型形状となるようにすることが望ましい。又、上記各連結デッキ3Aは、目標とする構造強度の仕様を十分に満たす構造強度を備えてなるものとする。
【0017】
その他、図10に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0018】
以上の構成としてある本発明の多胴船の推進性能向上装置を装備した三胴船Iを航走させると、上記主船体1と左右の各サイドハル2とを連結している各連結デッキ3Aの下側にて上記主船体1と左右の各サイドハル2との間で前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間4内に、相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成される。又、同時に、上記三胴船Iが航走することに起因して上記各連結デッキ3Aの上側にも相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成される。
【0019】
この際、上記各連結デッキ3Aが船首方向に所要の迎角を備えているため、上記各トンネル状空間4内では、船首側より流入する空気の圧力が高められるようになるため、該圧力が高められた空気により上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用するようになる。
【0020】
更に、上記各連結デッキ3Aを側面翼型形状としてあるため、上記各連結デッキ3Aの下側にてトンネル状空間4内を相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5と、該各連結デッキ3Aの上側を相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5に基づいて、上記各連結デッキ3Aには揚力が生じ、この揚力によっても、該各連結デッキ3Aに対し上向きの力が作用するようになる。
【0021】
したがって、上記三胴船Iの航走時には、上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用することで、上記主船体1と各サイドハル2と各連結デッキ3Aからなる該三胴船Iの船体全体が沈み難くなることから、シンケージやトリムを抑えることができるようになる。これにより、三胴船Iの航行時におけるシンケージやトリムの発生を抑えることで、船体の無駄な動きを減らすことができるようになるため、該三胴船Iの推進効率をより高めることができるようになる。
【0022】
このように、本発明の多胴船の推進性能向上装置によれば、多胴船としての三胴船Iの推進性能の向上化を図ることができる。更には、三胴船Iの航走時に上記各連結デッキ3Aに上向きの力が作用することで、船体運動時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果も期待できる。
【0023】
次に、図4乃至図6は本発明の実施の他の形態として、多胴船としての五胴船に適用した場合を示すもので、図11に示したと同様に、中央部の主船体1の前部寄り位置と後部寄り位置の左右両側部に、前部と後部の左右一対のサイドハル2a,2bをそれぞれ配置し、上記主船体1とその左右両側の上記前部及び後部の各サイドハル2a及び2bとを上部の連結デッキで連結して一体構造の船体としてなる五胴船IIにおいて、上記主船体1とその左右両側の前部及び後部の各サイドハル2a及び2bとを連結する各連結デッキを、それぞれ船首方向に所要の迎角を備えた側面翼型形状の連結デッキ3Aとしてなる構成としたものである。
【0024】
なお、上記各連結デッキ3Aの側面翼型形状は、低い迎角で高揚力型となるようにしてあるものとする。又、上記各連結デッキ3Aは、目標とする構造強度の仕様を十分に満たす構造強度を備えてなるものとする。
【0025】
その他の構成は図1乃至図3に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0026】
以上の構成としてある本実施の形態の多胴船の推進性能向上装置を装備した五胴船IIによっても、航走時には、上記主船体1とその左右両側の前部及び後部の各サイドハル2a及び2bを連結している各連結デッキ3Aの下側に形成されているトンネル状空間4内に、相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成されると同時に、上記三胴船Iが航走することに起因して上記各連結デッキ3Aの上側にも相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成されるようになり、このため、上記各トンネル状空間4内では、上記各連結デッキ3Aが船首方向に所要の迎角を備えていることに起因して、船首側より流入する空気の圧力が高められ、この圧力が高められた空気により上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用するようになる。
【0027】
更に、上記各連結デッキ3Aを側面翼型形状としてあることに起因して、該各連結デッキ3Aの上下両側に相対的に船首側より船尾方向へ向かう空気の流れ5が形成されるときには、各連結デッキ3Aに揚力が生じるため、この揚力によっても、該各連結デッキ3Aに対し上向きの力が作用するようになる。
【0028】
したがって、上記五胴船IIの航走時には、上記各連結デッキ3Aに対して上向きの力が作用することで、上記主船体1と前部及び後部の各サイドハル2a及び2bと各連結デッキ3Aからなる該五胴船IIの船体全体が沈み難くなることから、シンケージやトリムを抑えることができ、これにより、五胴船IIの航行時における船体の無駄な動きを減らすことができて、該五胴船IIの推進効率の向上化を図ることができる。更には、五胴船IIの航走時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果も期待できる。
【0029】
次いで、図7乃至図9は本発明の実施の更に他の形態として、図1乃至図3の実施の形態の応用例を示すもので、図1乃至図3に示したと同様に、中央部の主船体1と、その左右両側部のサイドハル2とを、側面翼型形状の連結デッキ3Aでそれぞれ連結した構成において、該各連結デッキ3Aの前縁部における連結デッキ3A下側のトンネル状空間4と対応する幅方向の所要個所に、高揚力装置として、たとえば、スラット6を設け、更に、上記各連結デッキ3Aの後縁部における連結デッキ3A下側のトンネル状空間4と対応する幅方向の所要個所に、高揚力装置としてのフラップ7を設けてなる構成としたものである。
【0030】
その他の構成は図1乃至図3に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0031】
本実施の形態によれば、各連結デッキ3Aの前縁部に設けてあるスラット6と、後縁部に設けてあるフラップ7を、必要に応じて図8に実線で示した状態から二点鎖線で示した状態となるようにそれぞれ作動させることで、三胴船Iの航走時に該各連結デッキ3Aで発生させる揚力が高められるようになる。
【0032】
よって、三胴船Iの航走時には、上記各連結デッキ3Aに高揚力が確保できるため、該三胴船Iのシンケージやトリムを抑える効果を高めることができる。このため、三胴船Iの航行時における船体の無駄な動きをより低減させることができて、該三胴船Iの推進効率の更なる向上化を図ることができる。更に、三胴船Iの航走時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果の向上化も期待できる。
【0033】
なお、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、中央部の主船体1と、その左右両側部のサイドハル2とを連結する連結デッキ3Aの平面形状や、上下方向の配置は、本発明の多胴船の推進性能向上装置を適用する多胴船の主船体1とサイドハルの配置やサイズや形状等に応じて適宜変更してもよい。
【0034】
各連結デッキ3Aは、少なくとも下方にトンネル状空間が形成されている部分が船首方向に所要の迎角を備えた翼型断面形状としてあればよい。したがって、各連結デッキ3aが主船体1や各サイドハル2,2a,2bの上側に取り付けられている部分については、必ずしも翼型としなくてもよい。
【0035】
図4乃至図6の実施の形態と同様の構成において、中央部の主船体1と、その左右両側部のサイドハル2a,2bとを連結している側面翼型形状の連結デッキ3Aの前縁部と後縁部に、図7乃至図9の実施の形態に示した、高揚力装置としてのスラット6とフラップ7をそれぞれ設ける構成としてもよい。このようにすれば、五胴船IIの航走時におけるシンケージやトリムを抑える効果を高めることができ、五胴船IIの航行時における船体の無駄な動きをより低減させることができて、該五胴船IIの推進効率の更なる向上化を図ることができると共に、五胴船IIの航走時における縦揺れ(ピッチング)を抑制する効果の向上化が期待できる。
【0036】
図7乃至図9の実施の形態において、各連結デッキ3Aの前縁部のスラット6と、後縁部のフラップ7のいずれか一方を、省略するようにしてもよい。又、図7乃至図9の実施の形態における各連結デッキ3Aの前縁部に設ける高揚力装置は、必要に応じて多胴船の航走時に該各連結デッキ3Aで発生させる揚力を高めるように作動させることができれば、前縁フラップ等、図示したスラット6以外の形式の高揚力装置としてもよい。又、各連結デッキ3Aの後縁部に設ける高揚力装置は、必要に応じて多胴船の航走時に該各連結デッキ3Aで発生させる揚力を高めるように作動させることができれば、図示したフラップ7以外のいかなる形式の高揚力装置を採用してもよい。
【0037】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の一形態として三胴船に適用した状態を示す概略平面図である。
【図2】図1の装置の概略側面図である。
【図3】図2のA−A方向矢視拡大図である。
【図4】本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の他の形態として五胴船に適用した状態を示は概略平面図である。
【図5】図4の装置の概略側面図である。
【図6】図5のB−B方向矢視拡大図である。
【図7】本発明の多胴船の推進性能向上装置の実施の更に他の形態として、図1乃至図3の実施の形態の応用例を示す概略平面図である。
【図8】図7のC−C方向矢視拡大図である。
【図9】図8のD−D方向矢視図である。
【図10】従来提案されている三胴船の一例の概要を示す正面図である。
【図11】従来提案されている五胴船の一例の概要を示す平面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 主船体
2,2a,2b サイドハル
3A 連結デッキ
4 トンネル状空間
6 スラット(高揚力装置)
7 フラップ(高揚力装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央の主船体と、該主船体の左右両側部に配置したサイドハルとを、連結デッキでそれぞれ連結して、該各連結デッキの下側に、主船体と各サイドハルとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間が形成されるようにしてなる多胴船における上記各連結デッキを、翼型断面形状として、航走時に各連結デッキに生じる揚力で船体の沈み込みを抑制できるようにしてなる構成を有することを特徴とする多胴船の推進性能向上装置。
【請求項2】
各連結デッキを、船首方向に所要の迎角を備えてなるものとした請求項1記載の多胴船の推進性能向上装置。
【請求項3】
翼型断面形状としてある各連結デッキの前縁部と後縁部のいずれか一方又は双方に、高揚力装置を設けるようにした請求項1又は2記載の多胴船の推進性能向上装置。
【請求項1】
中央の主船体と、該主船体の左右両側部に配置したサイドハルとを、連結デッキでそれぞれ連結して、該各連結デッキの下側に、主船体と各サイドハルとの間を通して前後方向に延び且つ前後両側が開放されたトンネル状空間が形成されるようにしてなる多胴船における上記各連結デッキを、翼型断面形状として、航走時に各連結デッキに生じる揚力で船体の沈み込みを抑制できるようにしてなる構成を有することを特徴とする多胴船の推進性能向上装置。
【請求項2】
各連結デッキを、船首方向に所要の迎角を備えてなるものとした請求項1記載の多胴船の推進性能向上装置。
【請求項3】
翼型断面形状としてある各連結デッキの前縁部と後縁部のいずれか一方又は双方に、高揚力装置を設けるようにした請求項1又は2記載の多胴船の推進性能向上装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−52565(P2010−52565A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219072(P2008−219072)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
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