説明

多角孔付きボルトの締付け治具

【課題】 狭いスペースでの作業が可能で、しかも、多角孔付きボルトの締め忘れ防止機能を有する多角孔付きボルトの締付け治具を提供する。
【解決手段】 多角孔付きボルトの締付け治具11は、多角孔付きボルト1の多角孔3に先端部12aが嵌め入れられる軸体12と、軸体12に軸方向移動可能かつ回転可能に嵌められたカバー14と、カバー14に設けられたマーキング部材15とを備えている。軸体12を多角孔付きボルト1の多角孔3に嵌め入れた状態で、カバー14を軸体12に対して軸方向に移動させてマーキング部材15を多角孔付きボルト1の頭部2に当接させ、この状態で、カバー14が回転しないようにして軸体12を回転させることにより、マーキング部材15によって多角孔付きボルト1の頭部2にマークが施されるようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、六角孔付きボルトなどの多角孔付きボルトの締付け治具に関し、特に集積化流体制御装置と称されている流体制御装置の組立てにおいて有用な多角孔付きボルトの締付け治具に関する。
【背景技術】
【0002】
流体制御装置として、特許文献1には、複数の上段部材(通路ブロックを有する流体制御機器)および複数の下段部材(ブロック継手)からなる流体制御装置が開示されている。この流体制御装置は、集積化流体制御装置とも称されており、通路ブロックを六角孔付きボルトを使用して下段部材に固定する構成とされている。
【0003】
このような集積化流体制御装置においては、ボルトの締め忘れを防止することが必要である。ボルトの締め忘れを防止することが可能な締付け治具として、特許文献2には、マーカ内蔵型ソケットレンチが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第4238453号公報
【特許文献1】特開第4489681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような流体制御装置では、六角孔付きボルトの周辺には十分なスペースが無いことから、特許文献2に示されているようなマーカ内蔵型ソケットレンチを使用することができないという問題があり、狭いスペースでの作業が可能で、しかも、ボルトの締め忘れ防止機能を有する締付け治具が課題となっている。
【0006】
この発明の目的は、狭いスペースでの作業が可能で、しかも、多角孔付きボルトの締め忘れ防止機能を有する多角孔付きボルトの締付け治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による多角孔付きボルトの締付け治具は、多角孔付きボルトの多角孔に先端部が嵌め入れられる軸体と、軸体に軸方向移動可能かつ回転可能に嵌められたカバーと、カバーに設けられたマーキング部材とを備えており、軸体を多角孔付きボルトの多角孔に嵌め入れた状態で、カバーを軸体に対して軸方向に移動させてマーキング部材を多角孔付きボルトの頭部に当接させ、この状態で、カバーが回転しないようにして軸体を回転させることにより、マーキング部材によって多角孔付きボルトの頭部にマークが施されるようになされていることを特徴とするものである。
【0008】
軸体は、例えば六角レンチ用の軸体と同様の形状とされる。カバーは、締付け時には、回転しないように保持され、軸体および多角孔付きボルトが回転することで、カバーに固定されたマーキング部材によって、多角孔付きボルトにマークが施される。カバーの横断面は、多角孔付きボルトの頭部の面積と同程度にすることができ、これにより、狭いスペースでの作業が可能で、しかも、多角孔付きボルトの締め忘れ防止機能を有する締付けを行うことができる。
【0009】
多角孔付きボルトは、通常、六角孔付きボルトとされるが、四角孔付きボルトなどであってもよい。
【0010】
カバーは、その先端部が多角孔付きボルトの頭部に被せられるようになされており、マーキング部材は、インク溜まり部およびその端部に設けられたペン先部を有しており、カバーに、軸体の先端側に開口する切欠きが設けられて、マーキング部材は、ペン先部が先端側を向くように切欠き内に嵌め入れられて固定されていることがある。
【0011】
このようにすると、締付け治具の横断面が大きくなることを防いで、マーキング部材を設けることができ、狭いスペースでの作業により有利なものとなる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の多角孔付きボルトの締付け治具によると、多角孔付きボルトの多角孔に先端部が嵌め入れられる軸体と、軸体に軸方向移動可能かつ回転可能に嵌められたカバーと、カバーに設けられたマーキング部材とを備えており、軸体を多角孔付きボルトの多角孔に嵌め入れた状態で、カバーを軸体に対して軸方向に移動させてマーキング部材を多角孔付きボルトの頭部に当接させ、この状態で、カバーが回転しないようにして軸体を回転させることにより、マーキング部材によって多角孔付きボルトの頭部にマークが施されるようになされているので、狭いスペースでの作業が可能で、しかも、締め忘れ防止機能が付加された締付けを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具の締付け開始時の状態を示す斜視図である。
【図2】図2は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具を使用した締付けの手順の前半部分を説明する拡大斜視図である。
【図3】図3は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具の締付け途中の状態を示す斜視図である。
【図4】図4は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具を使用した締付けの手順の中間部分を説明する拡大斜視図である。
【図5】図5は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具の他の締付け途中の状態を示す斜視図である。
【図6】図6は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具を使用した締付けの手順の後半部分を説明する拡大斜視図である。
【図7】図7は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具が対象とする装置の1例としての集積化流体制御装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。なお、上下については、図の上下をいうものとするが、この上下は便宜的なもので、この治具は、上下を逆にしても、水平にしても使用可能である。
【0015】
図1から図6までには、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具およびこれを用いて締付けを行う手順が示されている。
【0016】
図7は、この発明による多角孔付きボルトの締付け治具が対象とする装置の1例としての集積化流体制御装置を示しており、この流体制御装置の1つのライン(41)は、複数の上段部材および複数の下段部材からなり、上段部材として、開閉弁(手動)(44)、プレッシャレギュレータ(45)、圧力センサ(46)、逆V字状通路ブロック(47)、遮断開放器(48)、マスフローコントローラ(49)、開閉弁(自動)(50)、逆V字状通路ブロック(51)およびフィルタ(52)が配置されるとともに、下段部材として、両端に配置された管継手(53)付きL字状通路ブロック継手(54)と、隣り合う上段部材同士を連通するV字状通路ブロック継手(55)とが配置されている。そして、下段部材としての各種継手部材(54)(55)が1つの細長い副基板(43)上に載せられるとともに、これらの下段部材(54)(55)にまたがって上段部材としての各種流体制御機器(44)(45)(46)(47)(48)(49)(50)(51)(52)が取り付けられることで1つのライン(41)が形成され、このライン(41)と類似の構成とされた複数のラインが主基板(42)上に並列に配置されるとともに、各ライン(41)の遮断開放器(48)同士が通路接続手段(56)により接続されることにより、集積化流体制御装置が形成されている。
【0017】
上記の流体制御装置においては、マスフローコントローラ(49)の両側に通路ブロック(49a)(49b)が配置されており、これらの通路ブロック(49a)(49b)は、1対のボルト(57)によって、下段のV字状通路ブロック継手(55)に固定されている。また、上段部材である開閉弁(手動)(44)、プレッシャレギュレータ(45)、圧力センサ(46)、逆V字状通路ブロック(47)、開閉弁(自動)(50)、逆V字状通路ブロック(51)およびフィルタ(52)は、それぞれ通路ブロック(44a)(45a)(46a)(47a)(50a)(51a)(52a)を有しており、これらの通路ブロック(44a)(45a)(46a)(47a)(50a)(51a)(52a)は、1対または2対のボルト(57)によって、下段の通路ブロック継手(54)(55)に固定されている。
【0018】
各通路ブロック(44a)(45a)(46a)(47a)(49a)(49b)(50a)(51a)(52a)には、ボルト(57)が挿通される貫通孔が設けられており、各ボルト(57)は、その頭部を通路ブロック(44a)(45a)(46a)(47a)(49a)(49b)(50a)(51a)(52a)の上面から突出させて、その先端部が通路ブロック継手(54)(55)に設けられためねじ部にねじ合わされている。
【0019】
ボルト(57)は、同一形状の市販品(JIS規格品)で、頭部周面全周に平目のローレット(複数本の軸方向と平行にのびる凸条および凹溝)が形成された六角孔付きボルトとされている。
【0020】
上記のような流体制御装置では、各通路ブロック(44a)(45a)(46a)(47a)(49a)(49b)(50a)(51a)(52a)とブロック継手(54)(55)とは、シール部を介して突き合わされており、シール部によるシール機能を確保するためには、ボルト(57)の締め忘れを防止することが不可欠である。一方、六角孔付きボルト(57)の周辺には十分なスペースが無いことから、狭いスペースでの作業が可能で、しかも、ボルトの締め忘れ防止機能を有する締付け治具が課題となっている。
【0021】
この発明による多角孔付きボルトの締付け治具(11)は、上記の六角孔付きボルト(符号を(1)に変更)を締め付けるのに適したもので、六角孔付きボルト(1)の頭部(2)に設けられた六角孔(3)に下端部(先端部)(12a)が嵌め入れられる上下にのびる六角柱状の軸体(12)と、軸体(12)の上端部に固定されたハンドル部(13)と、軸体(12)に嵌められた円筒状のカバー(14)と、カバー(14)の下端部に設けられたマーキング部材(15)とを備えている。
【0022】
カバー(14)の内周面(円筒面)は、軸体(12)の外周面よりもわずかに大きく(すきまばめ程度に)形成されており、カバー(14)は、軸体(12)に対して軸方向移動可能かつ回転可能とされている。カバー(14)の上下長さ(軸方向長さ)は、軸体(12)の上下長さ(軸方向長さ)よりも短くなされており、図1に示すように、カバー(14)の上端がハンドル部に当接する位置に移動させた状態では、軸体(12)の下端部(12a)がカバー(14)の下端から露出するようになされている。
【0023】
カバー(14)は、その下端部が薄肉とされて六角孔付きボルト(1)の頭部(2)に被せられるようになされている。カバー(14)には、下端(軸体(12)の先端側)に開口する切欠き(16)が設けられている。
【0024】
マーキング部材(15)は、マーカー、マジックインキ、フェルトペン、サインペン等の筆記用具に類似の形状とされており、筒状のインク溜まり部(15a)およびその下端部に設けられたペン先部(15b)を有している。カバー(14)の切欠き(16)の上下長さは、マーキング部材(15)の上下長さに六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の上下長さを加えたものとされており、マーキング部材(15)は、ペン先部(15b)が下端側(先端側)を向くように切欠き(16)内に嵌め入れられて固定されている。これにより、マーキング部材(15)の下端(先端)からカバー(14)下端までの距離は、六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の高さ(上下長さ)に等しくなされている。
【0025】
この多角孔付きボルトの締付け治具(1)により六角孔付きボルト(1)を締め付けるには、まず、図1に示すように、軸体(12)の下端部(12a)を六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の六角孔(3)に嵌め入れる。すなわち、図2(a)に示すように、軸体(12)の下端部(12a)と六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の六角孔(3)とを位置合わせして、締付け治具(1)全体を下方に移動させて、図2(b)に示すように、軸体(12)の下端部(12a)を六角孔(3)に嵌め入れる。軸体(12)のカバー(14)の下端から露出している部分の長さは、六角孔(3)の深さよりも大きくなされており、図2(b)に示す状態では、カバー(14)の下端と六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の上面とは離れている。
【0026】
次いで、図3に示すように、カバー(14)を下方に移動させる。すなわち、図4(a)に示すカバー(14)の下端と六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の上面とが離れた状態から、カバー(14)だけを下方に移動させる。マーキング部材(15)の下端からカバー(14)下端までの距離は、六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の高さに等しくなされているので、これにより、図4(b)に示すように、マーキング部材(15)のペン先部(15b)が六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の上面に当接する。
【0027】
この状態で、図5に示すように、ハンドル部(13)を回転させることで、軸体(12)を回転させる。この際、例えば右手でハンドル部(13)をつかむとともに、左手でカバー(14)をつかむようにして、カバー(14)が軸体(12)とともに回転しないようにする。この結果、軸体(12)の回転に伴って六角孔付きボルト(1)が回転し、図6(a)に示すように、マーキング部材(15)のペン先部(15b)が六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の上面に当接したまま、図4(b)に示した状態を基準にして、マーキング部材(15)が回転しないで、六角孔付きボルト(1)の頭部(2)が回転する。これにより、図6(b)に示すように、マーキング部材(15)によって六角孔付きボルト(1)の頭部(2)の上面にマーク(M)が施される。
【符号の説明】
【0028】
(1):六角孔付きボルト(多角孔付きボルト)、(2):頭部、(3):六角孔(多角孔)、(11):多角孔付きボルトの締付け治具、(12):軸体、(12a):下端部(先端部)、(14):カバー、(15):マーキング部材、(15a):インク溜まり部、(15b):ペン先部、(16):切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角孔付きボルトの多角孔に先端部が嵌め入れられる軸体と、軸体に軸方向移動可能かつ回転可能に嵌められたカバーと、カバーに設けられたマーキング部材とを備えており、軸体を多角孔付きボルトの多角孔に嵌め入れた状態で、カバーを軸体に対して軸方向に移動させてマーキング部材を多角孔付きボルトの頭部に当接させ、この状態で、カバーが回転しないようにして軸体を回転させることにより、マーキング部材によって多角孔付きボルトの頭部にマークが施されるようになされていることを特徴とする多角孔付きボルトの締付け治具。
【請求項2】
カバーは、その先端部が多角孔付きボルトの頭部に被せられるようになされており、マーキング部材は、インク溜まり部およびその端部に設けられたペン先部を有しており、カバーに、軸体の先端側に開口する切欠きが設けられて、マーキング部材は、ペン先部が先端側を向くように切欠き内に嵌め入れられて固定されていることを特徴とする請求項1の多角孔付きボルトの締付け治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−66968(P2013−66968A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206752(P2011−206752)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】