説明

多重遺伝子ベクターによってコードされる組換えウイルス様粒子

本発明は、産生のための組換えDNA技術および細胞培養技術に基づいて、ワクチン、診断ツールおよびR&Dツールとして使用するための新たなウイルス様粒子を記載する。本発明の組換えウイルス様粒子は、(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、いくつかの、特に2個以上の異なるエピトープを取り込んだポリペプチド鎖によって会合されている。その後、これらのエピトープは粒子表面上にディスプレイされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、異なるウイルス株に由来するエピトープを含む組換えウイルス様粒子、およびこれらをコードするベクターに関する。
【0002】
発明の背景
小さな天然の生体分子を、異なる局面で、生物医学、ナノテクノロジーおよび材料科学において使用することに関心が高まっている。ウイルスシミュレーター、ウイルスカプシドまたはウイルス様粒子は、その規則的な構造、その均一な粒子サイズ、その安定性、生産のし易さ、および操作についての可能性から、非常に魅力的である。ウイルス様粒子は動的な構造を有し、その内部に近づくことができ、そしてさらに外被は修飾可能である。適用に依存して、ウイルス様粒子はエンベロープを有してもまたは有していなくてもよく、そしてウイルスシミュレーターとして選択され得る。これらの態様を、薬物送達および生体結合のための、新たな生物学的な実体またはターゲットとして、ワクチンとして、抗体産生のための抗原として、研究ツールとして、診断ツールとして使用し得る。これらのウイルスシミュレーターは、多くのウイルスのエンベロープおよびまたはカプシドタンパク質の自己会合によって形成される。サイズは特定のウイルスの形態に依存して22〜150nmの間で変動する。ウイルスシミュレーターは非感染性である。なぜなら、それらは遺伝子材料を取り込まずに会合しているからである。適用に依存して外来遺伝子材料を本明細書において記載したウイルスシミュレーターに含めることができる。
【0003】
これらのウイルスシミュレーターの期待される適用は、種々の疾病に対するワクチンの生産である。なぜなら、その反復的で高密度なエピトープのディスプレイは強力な免疫応答を誘起することが多いからである。粒子の小さなサイズは樹状細胞による取り込みに有利である。キメラウイルスシミュレーターはしばしば、選択的な多重エピトープの、多重タンパク質の、多重血清型の、多重株の、または多重種の提示において非常に大きな可能性を与える。
【0004】
ウイルスシミュレーターの産生のための多くの発現系が存在し、これには、バキュロウイルス/昆虫細胞系、ウイルス発現ベクターで安定にまたは一過性にトランスフェクションまたは形質導入された種々の哺乳動物細胞株、さらに酵母の種々の種(Saccharomyces cerevisiaeおよびPichia pastorisを含む)、並びにEscherichia colおよび他の細菌が挙げられる。
【0005】
ワクチン接種は、感染症から防御するに十分な免疫の発生に依存する。最も使用される弱毒化ウイルスワクチンは、免疫化後の宿主におけるウイルスの少ない複製に依拠する。しかしこの種類のワクチン接種は、いくらかの患者において重度の反応を引き起こす可能性がある。それ故、サブユニットワクチンとしてのウイルス様粒子(VLP)の開発が有益である。なぜなら、この粒子は一般的にDNAまたはRNAゲノムを欠失しているが、天然ウイルスの真正のコンフォメーションを有しているからである。
【0006】
ワクチン接種は、例えば季節性またはパンデミックなインフルエンザ大流行などの脅威に対する最も強力で対費用効果の高い対応策の1つである。エアロゾルとして蔓延し易いことおよび特に感受性のあるヒトの重度の病気の原因であることが、なぜインフルエンザが最も壊滅的なウイルス疾病の1つであるかの主要な理由である。現在認可されている季節性ワクチンはほんの部分的に防御性であり、そして卵に基づいた生産は非常に時間がかかり費用が大きい。この戦略は、ワクチンとあまり一致していないか全く一致していない流行株の予期せぬ出現に対して脆弱である。トリインフルエンザまたは他の起源のインフルエンザ株が出現する危険性に因り、新たなワクチンアプローチが必要である。
【0007】
別の局面において、HCV、HIV、エボラなどのいくつかの重要なウイルスの分野の研究は、バイオセイフティー問題から非常に困難である。現在までにウイルス侵入およびウイルス輸送の調査のためのモデルは僅かしか存在しない。診断ツールは、適切な非感染性ウイルスモデルがないために、これらのウイルスのゲノムに基づく。
【0008】
現在市販されているヒトインフルエンザワクチンは、その唯一のまたは主要なウイルス抗原として赤血球凝集素を含む。その生産は、発育鶏卵上で、またはより最近では哺乳動物細胞の組織培養液中で増殖させたウイルスから始まる。卵中での生産は、高い収量のリアソータントウイルス株の選択を必要とし、容量が少なく、時間がかかり(6〜8カ月)、そして費用が高い。その他にそれは卵タンパク質に対してアレルギーのあるワクチン接種を受けるヒトに問題を引き起こす可能性がある。生産は、非致死性のトリ株でのみ可能である。卵に基づいた生産の最も重要な欠点の1つは少ない容量である。パンデミックの場合、長期でさらにより致死的な事象をもたらし得るパンデミックインフルエンザワクチンの生産を優先するために、季節性インフルエンザワクチンの生産を停止しなければならない。
【0009】
ウイルス疾病に対するワクチンは、伝統的に、弱毒化ウイルス株または感染性ウイルスの不活性化に依拠する。適切な環境が、高度に病原性または出血性のウイルスのために必要であり、このためバイオセーフティレベル(例えばBL3/BL4)のために生産能が制約される。ヒトパピローマウイルスのようないくつかのウイルスでは、前記ウイルスはin vitroにおいて増殖できないために、弱毒化は十分ではないだろう。ヒトパピローマウイルス(HPV)様粒子に基づいたワクチン(ガーダシル、サーバリックス)の生産能が、女性の子宮頸癌の予防に対する見通しを変化させた。
【0010】
トリインフルエンザまたは他の起源の株が出現する危険性に因り、増強された防御をもたらす新たなワクチンアプローチが必要である。
【0011】
発明の要約
本発明は、(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、2個以上の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、組換えウイルス様粒子に関する。これらの組換えウイルス様粒子はワクチンとして有用であり、そして本発明はこれらのワクチンに関する。
【0012】
さらに、本発明は、(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質をコードする2個以上のポリヌクレオチドを含むベクター、並びにこれらのベクターを含む宿主細胞に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】多重エピトープウイルス様粒子を発現するベクター構築物の図解。(A)(配列番号1)H1N1ウイルス株(M1、M2)並びにH3N2(HA、NA)ウイルス株に由来する異なるエピトープを含む多価インフルエンザA型ウイルスシミュレーター。(B)(配列番号2)血清型HPV16およびHPV18に由来するエピトープ(L1)を含むキメラヒトパピローマウイルス様粒子。(C)(配列番号3)インフルエンザB型/フロリダ単離株に由来する包埋されたエピトープ(HA、NA、M1、M2)を有する発現ベクター構築物。(D)(配列番号4)HPV16およびHPV18血清型のエピトープ(L1)の発現のためのベクター構築物(両方の遺伝子が異なるプロモーターの制御下にある)(E)(配列番号5)プロモーターp10の欠失した(B)と同じベクター構築物。ベクターは、polhから選択される2つのプロモーターP1およびP2
【数1】


、p10およびpXIV超後期バキュロウイルスプロモーター、vp39バキュロウイルス後期プロモーター、vp39polhバキュロウイルス後期/超後期ハイブリッドプロモーター、pca/polh、pcna、etl、p35、egt、da26バキュロウイルス初期プロモーター;CMV、SV40、UBc.EF−1、RSVLTR、MT、PDS47、Ac5、PGALおよびPADHを含む。転写終結配列T1およびT2(T)は、SV40、HSVtkまたはBGH(ウシ成長ホルモン)から選択される。さらにベクターは、MultiBacbacmidの生成のためのトランスポゾン部位TnLおよびTnR(L、R)、部位特異的相同的組換え(プラスミド融合)のためのloxP部位(LP)、複製起点(O)、アンピシリン(A)およびゲンタマイシン(G)耐性遺伝子、並びに規定の制限酵素部位を含む。
【図2】発現されたキメラインフルエンザウイルス様粒子の分析。(A)分泌VLP(A、レーン2)並びに細胞内VLP(配列番号1から調製、レーン1)のコンフォメーションを、タンパク質HA(H3)、NA(H3)およびM2(H1)に対する特異的な抗体を使用したイムノブロットによって確認する。レーン3=ラダー、タンパク質サイズ(kDa)。エピトープは同じ場所に局在し、これはそれらが1つの粒子に会合していることを意味する。(B)酢酸ウラニルを用いての陰性染色を使用した電子顕微鏡によるキメラインフルエンザウイルス様粒子(配列番号3から調製)の可視化。エピトープHAを示すスパイクが見える。粒子のサイズは50〜80nmの範囲である。
【図3】配列番号1から調製された分泌された多重エピトープインフルエンザウイルス様粒子のクロマトグラフィーによる精製および分析。(A)ゲルろ過精製のクロマトグラム。最初のピーク(1)はウイルス様粒子(VLP)を含む。他のピーク(2〜6)はコンタミタンパク質を示す。(B)クーマシー染色したSDS−PAGE。VLPを含むピークの最初の部分(レーン1)、中間の部分(レーン2)および最後の部分(レーン3)を示す最初のピーク(1)に由来する異なる画分を分析することによってウイルス様粒子の多重エピトープが確認される。ラダー[kDa]を最初のレーンの左に示す。エピトープの検出を矢印によって示す。(C)抗HA抗体を使用してクーマシー染色したゲルによるウェスタンブロット分析。
【図4】天然様インフルエンザウイルス様粒子(VLP)の機能性。精製VLP(配列番号3から調製)の2倍連続希釈シリーズ(1:2から1:2048)を、標準的な赤血球凝集アッセイによって分析する。50μLの精製した粒子溶液を、赤血球(red blood cells)(赤血球、erythrocytes)と共にインキュベーションした96ウェルプレート上にコーティングする。インフルエンザVLP(1、上の部分)は用量依存的に赤血球を凝集させることができる。最も高い希釈度は1:1024である。これとは対照的に、対照(C)として使用したPBSでは赤血球の沈降だけが起こり、ウェルの中央に「ドット」として見える。
【図5】多重エピトープインフルエンザウイルス様粒子のin vivoにおける評価。マウスに、配列番号3から調製された50ng(マウス1〜5)または100ng(マウス6〜10)の精製VLPのいずれかを用いて、そして対照としてPBS(マウス11〜12)を用いて免疫化する。初回注射後(注射から3週間後)の抗体力価を白いボックスとして示し、ブースト注射後(注射から6週間後)の力価を黒いボックスとして示す。力価を、マウス血清の希釈度(y軸)として示す。VLPは抗体免疫応答を効果的に刺激する。免疫化を100μl(マウス6〜10)を用いて実施した場合に最善の結果が得られ、このことは用量依存的な免疫応答を示す。抗VLP抗体の量の明確な増加がブースト後に観察される。予期したように、対照動物(マウス11〜12)は免疫応答を全く示さなかった。
【図6】赤血球凝集阻害アッセイによる多重エピトープインフルエンザVLPに対する特異的な免疫応答の確認。ELISA試験を、注射から6週間後に採取した血清を用いて実施し、特異的な抗HA抗体の存在を分析した。配列番号3から調製した多重エピトープウイルス様粒子を96ウェルプレート上にコーティングし、血清と混合し、そして30分間インキュベーションした。血清を2倍希釈液シリーズ(1:2から1:1024)中で試験した。インキュベーション後、赤血球を加え、そしてさらに30分間インキュベーションした。多重エピトープウイルス様粒子に結合する異なるマウスに由来する特異的な抗インフルエンザHA抗体により、1:128(1)の希釈度および1:256(2)の希釈度まで赤血球の凝集が阻害され、これはウェルの中央に赤血球の沈降(「ドット」)として見られる。対照マウスの血清試料(C)では赤血球凝集阻害は観察されない。
【図7】50mLのバイオリアクターを使用した最善の発現条件のスクリーニング。1〜2×10個の細胞/mLの範囲の最初の細胞量(TOI、1または2)、ウイルス接種材料(MOI、0.01〜2)および収集時刻(感染後の日数、2日後から6日後)をドットブロット分析によって決定した。(A)対照として使用する唯1つのエピトープL1を有する発現構築物の最善の発現パラメーターの決定。特異的な抗HPV18抗体(Abcam)による検出。(B)異なる血清型に由来する2つのエピトープを有する多重エピトープ発現構築物の最善の発現パラメーターの決定(配列番号2)。2つのエピトープHPV16 L1およびHPV18 L1に対する、特異的な抗HPV16抗体(Camvir, Santa Cruz)および抗HPV18(Abcam)抗体による検出。
【図8】配列番号2から調製される多重エピトープヒトパピローマウイルス様粒子のクロマトグラフィーによる精製および分析。(A)DEAE−セファロースカラムを使用した陰イオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラム。通過画分(1)、洗浄(2)および溶出ピーク(3〜5)を番号(1〜5)によって示す。溶出緩衝液の増加したイオン強度は線[%]によって示される。3=300mM NaClを用いての溶出、4=420mM NaClを用いての溶出、5=680mM NaClを用いての溶出。(B)クーマシー染色したSDS−PAGE。ウイルス様粒子の多重エピトープの存在を、クロマトグラムの異なる部分を分析することによって確認した。レーン1=ラダー[kDa]、レーン2=精製前のVLP、レーン3=洗浄工程、レーン4=300mM NaClを用いての溶出、レーン5=420mM NaClを用いての溶出、レーン6=500mM NaClを用いての溶出、レーン7=680mM NaClを用いての溶出。エピトープを矢印(L1)によって示す。(C)矢印(L1)によって示される2つのエピトープに対する特異的な抗体を使用したクーマシー染色したゲルを用いてのウェスタンブロット分析。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、産生のための組換えDNA技術および細胞培養技術に基づいて、ワクチン、診断ツールおよびR&Dツールとして使用するための新たなウイルス様粒子を産生することを目的とする。本発明の粒子は、可能性のあるパンデミックインフルエンザの大流行と戦うに適したワクチンへの要求を充足する。本発明の組換えウイルス様粒子は、(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、いくつかの、特に2個以上、例えば2個、3個、4個もしくは5個、またはまた3の倍数、例えば6個、9個もしくは12個の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を取り込んだ、ポリペプチド鎖によってアセンブルされている。その後、これらのエピトープは粒子表面上にディスプレイされる。異なる株、異なる血清型および/または異なる宿主に特異的なウイルスに由来するエピトープの選択により、天然で起こるような、例えば2009年4月のブタインフルエンザの大流行中に観察されたようなウイルスの天然の変化を模倣した多機能性のウイルス様粒子が得られる。当技術分野において最新技術のウイルス様粒子は、単一のタンパク質から構成されるか、または同じウイルス株に由来する3個までの異なるエピトープを含むかのいずれかである。本発明の粒子は、昆虫細胞、細菌細胞および哺乳動物細胞などの宿主細胞における産生のために使用される、単一のDNAベクター(ウイルスまたはプラスミドのいずれかに基づく)によってコードされる。好ましい態様において、DNAベクターはバキュロウイルスベクターであり、そして宿主細胞は昆虫細胞である。
【0015】
本発明のエピトープは、4〜1000アミノ酸、好ましくは6〜100アミノ酸からなる免疫原性ペプチドであり、そして好ましくは中和エピトープである。中和エピトープは、抗体に結合した場合、免疫原性応答の結果として、このような中和エピトープを有するウイルスの中和をもたらすエピトープである。本明細書において理解されるようなエピトープは反復性であり得、そしてより大きなタンパク質の一部、特に抗原の一部、ウイルス表面タンパク質の一部またはウイルス膜タンパク質の一部であり得る。ウイルス表面タンパク質またはウイルス膜タンパク質に取り込まれたこのようなエピトープが好ましい。本発明によるウイルス様粒子の目的とする使用がR&Dツール、診断ツールまたはウイルスシミュレーターとしてである場合、エピトープは、完全なウイルス型表面を与える完全なウイルスタンパク質の一部であることが重要である。
【0016】
本発明の異なるウイルス株は、例えば、インフルエンザウイルスの異なる株、例えば、インフルエンザウイルスA型のH1N1株、H5N1株、H9N1株、H1N2株、H2N2株、H3N2株もしくはH9N2株、またはまたインフルエンザウイルスB型もしくはインフルエンザウイルスC型である。
【0017】
本発明の異なる血清型は、例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)の異なる血清型、例えば血清型6、11、16、18、31、33、35、39、45、48、52、58、62、66、68、70、73および82であるが、癌原遺伝子型HPV5、8、14、17、20および47に由来し、またはまたパピローマ関連型HPV6、11、13、26、28、32および60に由来する。
【0018】
異なる宿主に特異的なウイルス株は、対応する宿主に特に適応することを意味し、そしてこれは例えば、ヒトインフルエンザウイルス株、ブタインフルエンザウイルス株およびトリインフルエンザウイルス株である。これに関して、宿主に特異的とは、ウイルスがある宿主から同じタイプの別の宿主へと容易に伝染するが、異なるタイプの宿主には伝染しないことを意味する。例えば、トリウイルス株は、トリから他のトリへと容易に伝染するが、他の動物またはヒトには伝染しない。
【0019】
好ましい態様において、異なる株、異なる血清型および/または異なる宿主に特異的なウイルスに由来するエピトープを含む粒子を、B細胞エピトープおよび/またはT細胞エピトープと合わせて、より広範な免疫応答を誘導する。
【0020】
別の好ましい態様において、ウイルス様粒子は、場合によりさらにカプシドおよびヌクレオポアタンパク質を含む、完全なウイルス様表面を形成するタンパク質からなる。
【0021】
本発明のウイルス様粒子は、蛍光タンパク質、粒子の精製目的のためにまたは標識を付着するために有用なタンパク質、並びに輸送プロセスおよび安定性のために必要とされるタンパク質性構造をさらに含み得る。
【0022】
本明細書において記載したポリペプチドおよびウイルス様粒子は、特異的な遺伝子およびプロセス工学ツールの使用に因り、実際のワクチン製造プロセスと比較して、より短い時間および無制限な量で生産される。現代の分子生物学的方法、例えばMultiBac技術(WO 2005/085456; I. Berger et al., Nature Biotechnology 22, 1583, 2004)、Polybac技術(WO 2007/054250)、または遺伝子合成などによって必要とされるウイルス遺伝子を会合させる能力は、例えば、コードDNAベクターの迅速な会合を可能とする。これらの技術の使用は、本発明のウイルス様粒子およびワクチンの開発、製造または投与中における、元来の危険な可能性のあるウイルスの物理的な移動を全く必要としない。本発明の粒子の構築のために、感染個体からのヌクレオチド配列を使用することで十分である。これは、種株ウイルスとして遺伝子的に改変されたウイルスを必要とする、古典的な卵に基づいたワクチンを生成するための方法とは大きな違いである。本発明の粒子は、現代の使い捨ての組織培養技術を使用して製造され、これは高い生産能を可能とする。宿主細胞としてのバキュロウイルスベクターおよび昆虫細胞の好ましい態様において、製造プロセスを迅速にセットアップでき、そして生産時間は短く、すなわち、卵に基づいた方法と比較して数カ月ではなく数週間の範囲である。さらに、使い捨て組織培養器具の構築は、卵に基づいた器具をセットアップするのに比べて、時間も費用もあまりかからない。結果として、全人口に対する大量のワクチンを短い時間枠で生産および再生産することができ、そしていくつかの異なるタイプのワクチン、例えば季節性インフルエンザワクチンおよびパンデミックインフルエンザワクチンを容易に並行して生産することができる。卵に基づいたワクチン製造工場の容量限界に因る、あるワクチンまたは他のワクチンにするかの保険衛生当局による困難な決定は必要ない。
【0023】
本発明は、(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、2個以上、例えば2個、3個、4個もしくは5個、またはまた3の倍数、例えば6個、9個もしくは12個の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、組換えウイルス様粒子に関する。好ましいのは、3個以上、好ましくは4個以上の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、組換えウイルス様粒子である。同様に好ましいのは、3の倍数、例えば6個、9個もしくは12個の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、組換えウイルス様粒子である。エピトープは、2個の異なる株、異なる血清型もしくは異なる宿主に特異的なウイルス株から、または3個の異なる株、異なる血清型もしくは異なる宿主に特異的なウイルス株から、または4個の異なる株もしくは血清型から選択される。好ましいのは、3個の異なる株または血清型に由来するいくつかのエピトープを含むウイルス様粒子である。同様に好ましいのは、2個または3個の異なる宿主に特異的なウイルス株に由来するいくつかのエピトープを含むウイルス様粒子である。
【0024】
さらに、本発明は、(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、エピトープを、またはエピトープを含む異なるタンパク質をコードする、2個以上、例えば2個、3個、4個もしくは5個、またはまた3の倍数、例えば6個、9個もしくは12個の異なるポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0025】
本明細書において使用する「ポリヌクレオチド」は、12〜3000ヌクレオチドの鎖を示し得、一般的に呼称されるオリゴヌクレオチドを含み、そして記載の異なるウイルス源に由来するウイルス遺伝子またはオープンリーディングフレーム、特に、ウイルス表面タンパク質またはウイルス膜タンパク質をコードする遺伝子またはオープンリーディングフレームであり得る。
【0026】
好ましいのは、本明細書において前記した好ましいウイルス様粒子をコードするベクターである。
【0027】
最も好ましいのは、配列番号1〜5から選択されるポリヌクレオチド配列を含むベクターである。
【0028】
好ましい態様において、本発明のウイルス様粒子は、
(1)同じウイルスの2個または3個の異なる株または血清型に由来する、同じ型の表面タンパク質;
(2)異なるウイルス株に由来する、例えばインフルエンザウイルスH5N1株およびH1N1株に由来する、2個を超える異なる表面タンパク質の混合物;
(3)異なる宿主に特異的なウイルス、例えばブタ、ヒトおよび/またはトリ宿主に特異的なインフルエンザウイルスの合わせられた、異なる表面タンパク質の混合物
を含む。
【0029】
本発明のウイルス様粒子に含めようとするエピトープ源として考えられるウイルスは、例えば、インフルエンザウイルス、HPV、HIV、CMV、デング、HCVおよびニューカッスル病ウイルスである。エピトープを、他のウイルスからおよび細菌から得てもよい。特に好ましいのはインフルエンザウイルスである。等しく好ましいのはヒトパピローマウイルス(HPV)である。
【0030】
考えられるベクターはDNAベクターであり、そしてプラスミドベクターまたはウイルスベクターのいずれかであり得る。このようなベクターを会合させる方法は、分子生物学の技術分野の最新技術の標準的な方法である。好ましい方法は、CAP(登録商標)技術および当技術分野の最新技術の遺伝子合成技術と合わせた、WO 2005/085456およびI. Berger et al., Nature Biotechnology 22, 1583, 2004に記載のようなMultiBac、または例えばWO 2007/054250に記載のようなPolybac法である。これらの技術は、異なる宿主細胞における発現に適した多重遺伝子同時発現DNAベクターの会合を可能とする。本発明の好ましいDNAベクターはバキュロウイルスベクターである。
【0031】
本発明のベクターの発現のために使用される宿主細胞は、原核細胞発現細胞株(例えばE.coli)であっても、または真核細胞発現細胞株であってもよい。好ましいバキュロウイルスベクターの発現のために、昆虫細胞株が好ましい。昆虫細胞株の例は、例えば、SF9、SF21、Hi−5、Express Sf+およびS2シュナイダー細胞である。真核細胞系における発現のために、哺乳動物細胞、特にヒト細胞、例えばHeLa、Huh7、HEK293、HepG2、BHK、CHO、MT−2、骨髄線維芽細胞、一次ニューロン細胞、または胚細胞が好ましい。酵母における発現のためには、S. cerevisiae、S. pombe、C. albicans、またはP. pastoris細胞が使用され得る。
【0032】
本発明による宿主細胞の培養および増殖を、特定の宿主細胞のための適切な条件を提供する、任意の容器、バイオリアクターまたは使い捨てユニットにおいて行なうことができる。
【0033】
本発明のウイルス様粒子をワクチンとして使用することができる。さらに、それらを、診断ツールにおける抗原として、抗体生成のための抗原として、並びに研究および開発ツール(例えばウイルス侵入研究およびウイルス−宿主相互作用の研究)のためのウイルスシミュレーターとして使用し得る。
【0034】
本発明によるワクチンは、当技術分野の最新技術において公知であるような、粘度調節化合物、安定化化合物および/または免疫原性を高めるアジュバントを場合によりさらに含む、水溶液中の組換えウイルス様粒子を含む。
【0035】
特定の態様において、H3N2インフルエンザウイルス様粒子を、Berger et al., Nature Biotechnology, 2004、WO 2005/085456およびWO 2007/054250の方法およびCAP(登録商標)技術を使用して構築する。H1N1インフルエンザ株A型/Puerto Rico/834の少なくとも1つのM1およびM2遺伝子を、PCR増幅によって導入ベクターpFL(WO 2007/054250、図1)に、インフルエンザA型/Brisbane10/2007のHA遺伝子およびインフルエンザA型/Brisbane10/2007のNA遺伝子と一緒にクローニングする。構築物をDNAシークエンスによって確認する。
【0036】
別の特定の態様において、同じクローニング技術を使用して、導入ベクターpFLにクローニングされた、HPV16およびHPV18の両血清型、または2、4、6、11、31、33〜35、39、40〜45、51〜53、55〜59、62、66、68、70、73および77の群に由来するさらに他の血清型の少なくとも1つのL1遺伝子を導入する(図1)。
【0037】
実験部
E.coli細胞における増殖を可能とするMultiBacまたはYFPMultiBac(WO 2005/085456)と名付けられたバキュロウイルスベクター、およびCAP(登録商標)技術を、従来のシステム(Fitzgerald et al., Nature Methods, 3, 1021, 2006)を使用して組換えAcNPVs(Autographa californica核多角体病ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)、バキュロウイルス)を生成するために使用する。10ngの多重遺伝子ベクターを、DH10MultiBacおよび/またはDH10YFPMultiBacコンピテント細胞において形質転換する。青色/白色スクリーニングおよびPCRによって陽性クローンを選択する。対応するMultiBac bacmidDNAを、Birnboim & Doly法を使用して単離する。1μgの多重遺伝子MultiBac bacmidを、製造業者のプロトコールに従って、トランスフェクション試薬Fugene(Roche)を使用して0.9×10個のSf21(Invitrogen)細胞中にトランスフェクションすることによって、組換えAcNPVsを生成する。ウイルスの増殖は、以前に記載されている通りに行なう(Fitzgerald et al., Nature Methods, 3, 1021, 2006)。全ての組換えAcNPVの力価を、Bac-to-Bac-マニュアル(Invitrogen)に記載のプラークアッセイによって決定する。感染効率(MOI)、細胞数(TOI)および収集時刻(TOH)のようなタンパク質産生パラメーターを、小規模な発現研究を用いて分析する。
【0038】
実施例1:発現ベクター構築物の生成
種々の構築物を製造するために、導入ベクターpFLに存在する増殖モジュールMを(WO 2005/085456およびCAP(登録商標)技術)、WO 2005/085456に記載の方法に従って使用する。エピトープのDNAを、元のウイルスからウイルスRNAを単離し、その後、PCRと合わせた逆転写を行なうことによって(インフルエンザウイルスエピトープについて)、または遺伝子合成によって(Geneart社によって提供)のいずれかで得る。逆転写を、製造業者のプロトコールに従って、RevertAid(登録商標)H Minus First strand cDNA合成キット(Fermentas)を使用して実施する。cDNA(2μL)をPCR反応のための鋳型として使用する。以下の条件を、製造業者のプロトコールに基づいて使用する。50μLの全容量の反応のために、0.2mM dNTP(NEB)、1.2%DMSO、0.5μM逆方向および正方向プライマー(Microsynth)、10μlの5×Phusion GC反応緩衝液、並びに2UのPhusion Hot Startポリメラーゼ(Finnzyme)を使用する。多重遺伝子会合のために適切な制限酵素部位(BstZ17I、SpeI、PmeI、AvrII)をPCRを使用して導入する。PCRフラグメントを制限酵素で切断し、その後、ライゲーションおよび形質転換プロセスを行ない、導入ベクターに増殖モジュールを組み込む。ライゲーションを、500ngの鎖状導入ベクター(pFL)、4μLのPCR産物および1UのT4−DNAリガーゼ(Fermentas)を使用して4℃で一晩かけて行なう。プラスミドを生成するために、4μLのライゲーション溶液を、50μlのコンピテントなDH5α細胞に加え、そして氷上で30分間インキュベーションする。42℃で30秒間の熱ショックおよび4℃で2分間の寒冷ショックの後、200μlのLB培地を加え、そして37℃および220rpmで1時間インキュベーションする。その後、80μlの細胞懸濁液を、適切な抗生物質(この場合、100μgのアンピシリンおよび100μgのゲンタマイシン)を含むLB寒天プレート上に播く。全手順を、全エピトープが導入ベクターに導入されるまで繰り返す。
【0039】
インフルエンザエピトープは、HAおよびNA遺伝子から選択され(両方共にH3N2/Brisbane10/2007株から選択される)、一方、M1およびM2からのエピトープは、H1N1/Puerto Rico/834株から選択される。M1エピトープはプロモーターp10によって制御され、全ての他のエピトープはポリヘドリンプロモーターpolhによって制御される。全てのエピトープは同じベクター構築物上に存在する(図1A、配列番号1)。インフルエンザB型/Florida/2006単離株は、遺伝子HA、NA、M1およびM2に由来する複数のエピトープを有する構築物を生成するように選択される(図1C、配列番号3)。ヒトパピローマウイルスエピトープは、癌関連血清型HPV16およびHPV18に由来する遺伝子L1から選択され、そして1つのベクター構築物に一体化される。両方のエピトープが、ポリヘドリンプロモーターpolhによって制御される(図1B、配列番号2)。発現収量を向上させるために、さらに他の構築物においてはp10プロモーターを欠失させる(図1E、配列番号5)。別の構築物においては、HPV16エピトープはp10プロモーターによって制御されるが、HPV18エピトープのためにはポリヘドリンプロモーターpolhが選択される(図1D、配列番号4)。
【0040】
実施例2:組換えバキュロウイルスの生成
このウイルスは、複数のエピトープをその表面上に提示するウイルス様粒子またはウイルスシミュレーターを生成するための、前記の複数のエピトープを含む。ウイルス様粒子を、種々の適用のために、例えばインフルエンザ分野におけるワクチンとして使用することができる。AcNPV由来バキュロウイルスは、2008/2009−VLPワクチン接種キャンペーンのためにWHOによって推奨されるウイルス株に由来する複数の異なるエピトープを含む。導入ベクターの全ての遺伝子は、WO2005/085456のプロトコールによる、MultiBac細胞中への部位特異的相同的組換えによって置き換えられる。
【0041】
10ngの導入ベクターを100μlのMultiBacコンピテント細胞に加え、そして30分間4℃でインキュベーションする。42℃で45秒間の熱ショックおよび4℃で2分間の寒冷ショックの後、400μlのLB培地を加え、そして細胞溶液を37℃および220rpmで4時間インキュベーションする。異なる希釈液を、種々の抗生物質耐性を含む適切なLB寒天プレート上に播く。青色/白色およびPCRスクリーニングに基づいて、いくつかの正しいMlutiBacクローンを選択する。対応するMultiBac bacmidDNAを、Birnboim & Doly法を使用して単離する。少なくとも4個のMultiBac bacmidクローンを、Sf9またはSf21のような昆虫細胞の最初のトランスフェクションのために選択して、組換えAcNPV由来バキュロウイルスを生成する。これは、1μgの多重遺伝子MultiBac bacmidを、製造業者のプロトコールに従って、トランスフェクション試薬Fugene(Roche)を使用して0.9×10個のSf21(Invitrogen)細胞にトランスフェクションすることによって生成される。ウイルスの増殖を、以前に記載されている通りに行なう(Fitzgerald et al., Nature Methods, 3, 1021, 2006; Bac-to-Bac-マニュアル, Invitrogen)。ウイルスを増殖させて容量を増大させ、そして感染力価を増加させ、これをBac-to-Bac-マニュアル(Invitrogen)に従ってプラークアッセイによって決定する。最善の発現構築物は、50mLの小規模発現実験、次いでブラッドフォードアッセイ(ADV, Cytosceleton)によるタンパク質収量の決定によって決定される。最善の発現体の発現をさらに、複数の異なるエピトープに対する抗体を用いてのウェスタンブロット分析によって確認する(図2A)。
【0042】
実施例3:昆虫細胞における多重エピトープインフルエンザウイルス様粒子の産生および精製
最善の発現構築物の決定の後、細胞株、細胞数(TOI)、組換えウイルス接種材料の量(感染効率、MOI)および収集時刻(TOH)のようなバイオテクノロジー産生パラメーターを、50mLのバイオリアクター中において決定する。異なるTOI、MOIおよびTOHのマトリックスを、Eibl、RiesenおよびJohn (Bioforum 03/2009)およびFriesen J. (Bachelor thesis, University of Applied Science, Esslingen, Germany)に従って設計する。分泌または細胞内多重エピトープウイルス様粒子の発現を、毎日の試料採取により6〜8日間観察する。細胞内粒子(例えばHPV)のために、細胞ペレットを、50mMトリスHCl、pH7.6、100mM NaCl、0.1%TritonX100を用いて溶解し、そして4℃および8000×gで10分間遠心分離にかける。上清中に存在するウイルス様粒子のエピトープを、特異的抗体を用いて、ドットブロット装置(Biometra)、次いでウェスタンブロットを使用してさらに確認する。最も高い収量が得られる条件を発現パラメーターとして規定し、3日間から4日間の収集時刻が好ましい。これらの規定されたパラメーターに従って、ウイルス様粒子を、振とうフラスコまたは揺動培養バッグ中のいずれかのfall armywormのSpodoptera frugiperda細胞Sf9およびSf21において産生する。多重エピトープインフルエンザウイルス様粒子発現のための、Sf21細胞は、以下の条件を用いて選択される:1.5×10個の細胞/mL、MOI 0.05および収集時刻は感染から4日後。細胞を、27℃で二酸化炭素の非存在下、ウシ胎児血清を補充することなく、増殖させる。規定の収集時刻に従って、分泌されたウイルス様粒子を、4℃で500〜1000×gで20分間の遠心分離によって回収する。粒子を含む上清容量を、100kDaのカットオフを有するカセット(Sartocon-Slice 200、SartoriusおよびCentramateOS, PALL)を使用したタンジェンシャルフローろ過による精製のために減少させる。ウイルス様粒子の精製を、計れるクロマトグラフィー法およびスクロース勾配超遠心分離法を用いて実施する。
【0043】
クロマトグラフィー精製は、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、およびゲルろ過クロマトグラフィーを使用する多段階精製である。上清を、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)中のFPLC−システム(AEKTA purifier, GE Healthcare)に接続したCaptoQカラムにのせる。粒子を、50mMリン酸、1M NaCl、pH7.4を使用する線形勾配での漸増塩濃度で溶出する。粒子を含む画分をプールし、そしてさらに、ゲルろ過クロマトグラフィーによって精製する(配列番号1からのVLP、図3)。精製を、50mMリン酸、150mM NaCl、pH7.4の緩衝液中で、HighLoad Superdex200pgカラムを使用して実施する。全てのクロマトグラフィー工程をSDS−PAGE、その後、クーマシー染色およびイムノブロットによって分析する。
【0044】
実施例4:精製インフルエンザウイルス様粒子の分析
異なるエピトープの存在を確認するために、精製した材料をSDS−PAGE、その後、クーマシー染色またはウェスタンブロットによって分析する。150μlの異なるクロマトグラフィー画分を、4〜12%Bis−Tris NuPAGEゲル(Invitrogen)にのせ、150Vで15分間および175Vで45分間流し、そしてSimplyBlueSafestain (Invitrogen)を使用してクーマシー染色する。イムノブロットのためにタンパク質をニトロセルロース膜(BioRAD)に19Vで40分間かけて半乾燥装置(BioRAD)を使用して転写する。5%無脂肪ドライミルク−トリスCl−Tween20(0.1%)溶液を用いて30分間かけて非特異的結合部位を遮断した後、膜を、HA、NAおよびマトリックスタンパク質に対する抗体と共に一晩かけて4℃でインキュベーションする。膜を数回、トリスCl−Tween20(0.1%)緩衝液を用いて洗浄する。一次抗体の起源に依存して、二次抗体は、検出のためのアルカリホスファターゼまたはセイヨウワサビペルオキシダーゼと接続された抗マウスまたは抗ウサギのいずれかである。これらのタンパク質の同じ場所における局在は、1つの発現ベクターおよび1つのバキュロウイルスの会合およびそれからの産生を示す(図3B、配列番号1から)。この同じ場所における局在はまた、遺伝子HA、NAおよび両方のマトリックスタンパク質M1およびM2(その膜アンカーを含む)を含む発現構築物についても示され得る。
【0045】
実施例5:インフルエンザウイルス様粒子(VLP)の機能性
VLPがその表面に赤血球凝集素タンパク質(HA)を正しく組み込んだかどうかを分析するために、ニワトリ由来の赤血球(RBC)を使用する標準的な赤血球凝集アッセイを実施する(図4、配列番号3のVLP)。精製VLPの2倍連続希釈を、V底96ウェルプレートにおいてPBS(1×)を用いて行なう。等量の赤血球(1%溶液)を加え、そして1時間4℃でインキュベーションする。ウェルの底上のRBC凝集体の外見は、赤血球凝集がないことを示す。力価は、RBCを凝集させる精製VLP溶液の最も高い希釈度の逆数として表現される。得られた結果は、VLPがニワトリ赤血球を凝集させることができ、そしてVLP表面上におけるHAの存在を間接的に示す。陰性対照(PBS)は凝集を全く示さない。
【0046】
実施例6:インフルエンザVLPのin vivoにおける評価
VLP(配列番号3から調製)の免疫原性(免疫系の刺激)をin vivoにおいて、それぞれ0週間目および3週間目にプライム・ブースト計画で皮下免疫化を受ける2群のマウスを使用して試験する。免疫化を、50または100μl(50または100ng)のVLP懸濁液を使用して実施する。VLP単独の免疫応答の品質を決定するために、アジュバントを全く使用しない。マウスを3週間目および6週間目に出血させ、そして血清を、免疫化VLPに対する抗体応答について調べるために分析する。得られた結果は、VLPが、抗体免疫応答を刺激するのに効果的であることを示す。最善の結果は、免疫化を100μlを用いて実施した場合に得られ、このことは用量依存的な免疫応答を示す。抗VLP抗体の量の明瞭な増加が、ブースト後に観察される。予期した通り、ナイーブな動物は免疫応答を全く示さない。
【0047】
免疫応答の特異性を再確認するために、赤血球凝集阻害試験を6週間目に実施して、特異的な抗HA抗体の存在を分析する。結果は、特異的な抗インフルエンザHA抗体が、128希釈度(マウス6)および256希釈度(マウス8)まで赤血球の凝集を阻害することができることを示す。ナイーブマウスの血清試料では赤血球凝集阻害は全く観察されない。新たに生成された多重エピトープインフルエンザVLPは用量依存的に免疫系を刺激することができる。免疫系をブーストを用いて再刺激する場合、免疫応答は少なくとも15倍増加する。誘起された免疫応答の特異性をELISAおよび赤血球凝集試験によって分析する。
【0048】
実施例7:種々の細胞株におけるヒトパピローマウイルスエピトープを有する多重エピトープウイルス様粒子の産生および精製
細胞株、細胞数(TOI)、組換えウイルス接種材料の量(感染効率、MOI)および収集時刻(TOH)のようなバイオテクノロジー産生パラメーターを、Eibl et al. (Bioforum 3/2009)に従って50mLのバイオリアクター(図7)中で決定する。これらの規定されたパラメーターに従って、ウイルス様粒子を、振とうフラスコまたは揺動培養バッグのいずれかの中のfall armywormのSpodoptera frugiperda細胞Sf9およびSf21において産生する。多重エピトープパピローマウイルス様粒子は、2×10個の細胞/mL、MOI 0.5および感染から3日後の収集時刻を使用して、Sf21細胞において配列番号2から発現される。細胞を、27℃で二酸化炭素の非存在下、ウシ胎児血清を補充することなく、増殖させる。規定の収集時刻に(感染から3日後)、細胞内ウイルス様粒子を500〜1000×gで20分間4℃での遠心分離によって回収する。細胞を低浸透圧リン酸緩衝液、その後、超音波を使用することによって溶解する。4℃および2000×gでの遠心分離工程後、上清を回収する。ウイルス様粒子の精製を、計れるクロマトグラフィー法およびスクロース勾配超遠心分離法を用いて実施する。クロマトグラフィー精製は、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーを使用する多段階精製である。上清を、50mMリン酸緩衝液(pH7.4)中のFPLC−システム(AEKTA purifier, GE Healthcare)に接続したCaptoDEAEカラムにのせる。粒子を、50mMリン酸、1M NaCl、pH7.4を使用する線形勾配での漸増塩濃度で溶出する(図8A)。粒子を含む画分をプールし、そしてさらに、ヒドロキシアパタイトカラムを使用して精製する。結合を、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)中で実施し、その後、500mMリン酸、150mM NaCl、pH7.0を用いての線形勾配溶出を実施する。多重エピトープ粒子を磨くために、ゲルろ過クロマトグラフィーを実施する。精製を、HighLoad Superdex200pgカラムを使用して50mMリン酸、150mM NaCl、pH7.4緩衝液中で実施する。全てのクロマトグラフィー工程をSDS−PAGEによって、その後、クーマシー染色およびイムノブロットによって分析する。
【0049】
実施例8:精製キメラヒトパピローマウイルス様粒子の分析
精製された材料における異なるエピトープの存在を確認するために、配列番号2から調製したVLPをSDS−PAGEにより、その後、クーマシー染色および(図8B)およびウェスタンブロット(図8C)によって分析する。イムノブロットのために、異なる血清型のL1タンパク質に対する抗体を使用する。150μlの異なるクロマトグラフィー画分を4〜12%Bis−トリスNuPAGEゲル(Invitrogen)にのせ、150Vで15分間および175Vで45分間流し、そしてSimplyBlueSafestain (Invitrogen)を使用してクーマシー染色する。イムノブロットのために、タンパク質を、半乾燥装置(BioRAD)を使用して19Vで40分間かけてニトロセルロース膜(BioRAD)上に転写する。5%無脂肪ドライミルク−トリスCl−Tween20(0.1%)溶液を用いて非特異的な結合部位を30分間かけて遮断した後、膜を、L1エピトープに対する抗体と共に一晩かけて4℃でインキュベーションする。Camvir抗体(SantaCruz)をHPV16検出のために使用し、そしてHPV18検出のために抗HPV18ab(Abcam)を使用する。膜を、トリスCl−Tween20(0.1%)緩衝液を用いて数回洗浄する。膜を、検出のためのアルカリホスファターゼと接続された抗マウス抗体と共に1時間インキュベーションする。エピトープを、BCIP/NPT溶液によって検出する。これらのタンパク質の同じ場所での局在は、1つの発現ベクターおよび1つのバキュロウイルスのアセンブルおよびそれからの産生を示す。
【0050】
実施例9:キメラヒトパピローマウイルス様粒子(VLP)の機能性
配列番号2から調製したヒトパピローマウイルス様粒子がその表面にL1タンパク質を正しく組み込んだかどうかを分析するために、標準的なELISAアッセイを実施する。精製VLPの2倍連続希釈を、V底96ウェルプレートにおいてPBS(1×)を用いて行なう。等量の血清型特異的抗体(濃度1:1000)を加え、そして1時間37℃でインキュベーションする。L1タンパク質への抗体の適切な結合を、セイヨウワサビペルオキシダーゼを有する二次抗体および化学発光検出システムを使用して検出する。得られた結果は、用量依存的な組換え発現エピトープへの抗体の結合を示す。陰性対照(PBS)は全く結合を示さなかった。
【図1A)】

【図1B)】

【図1C)】

【図1D)】

【図1E)】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図3C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、2個以上の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、組換えウイルス様粒子。
【請求項2】
3個以上の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、請求項1記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項3】
4個以上の異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、請求項1記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項4】
6個、9個または12個のエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質を含む、請求項1記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項5】
エピトープが、3個以上の異なるウイルス株または血清型に由来する、請求項1〜4のいずれか記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項6】
B細胞エピトープおよび/またはT細胞エピトープをさらに含む、請求項1〜5のいずれか記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項7】
完全なウイルス様表面を形成するタンパク質並びに場合によりカプシドおよび/またはヌクレオポアタンパク質をさらに含む、請求項1〜6のいずれか記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項8】
蛍光タンパク質、粒子の精製目的のためにもしくは標識を付着するために有用なタンパク質、および/または輸送プロセスのために必要とされるタンパク質性構造をさらに含む、請求項1〜7のいずれか記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項9】
ウイルスが、インフルエンザウイルスである、請求項1〜8のいずれか記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項10】
ウイルスが、ヒトパピローマウイルスである、請求項1〜9のいずれか記載の組換えウイルス様粒子。
【請求項11】
(a)同じウイルスの異なるウイルス株および/または(b)同じウイルスの異なる血清型および/または(c)異なる宿主に特異的な異なるウイルス株のいずれかから選択される、異なるエピトープまたはエピトープを含む異なるタンパク質をコードする2個以上のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか記載の組換えウイルス様粒子をコードする、請求項11記載のベクター。
【請求項13】
バキュロウイルスベクターである、請求項11または12記載のベクター。
【請求項14】
配列番号1〜5から選択されるポリヌクレオチド配列を含む、請求項11記載のベクター。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか記載の組換えウイルス様粒子を含むワクチン。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【公表番号】特表2012−525133(P2012−525133A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507783(P2012−507783)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055943
【国際公開番号】WO2010/125201
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511265718)レッドバイオテック・アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】REDBIOTEC AG
【Fターム(参考)】