説明

大スパン屋根の設計方法

【課題】実際の振動に適合した最適な設計をすることができて、建築コストの低減化を図ることができる大スパン屋根の設計方法を提供すること。
【解決手段】換気用開口部3を有する大スパン構造物4の屋根2を設計する際に用いられる大スパン屋根の設計方法であって、前記換気用開口部3を介して空気が出入りする際に発生する空力減衰を加味して、前記屋根2の予想振幅が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大スパン屋根の設計方法に関し、例えば、建屋と屋根との間に換気用開口部を有する大スパン構造物の屋根を設計する際に用いられる設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建屋と屋根との間に換気用開口部を有する大スパン構造物(例えば、特許文献1の図1に開示された大スパン構造物)の屋根を設計する際には、構造物自身が有する構造減衰のみが考慮されていた。
【特許文献1】特開平11−81742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような設計方法は、実際の振動よりも大きな振動に対しても耐えられる過剰な設計となるため、建設コストが増加してしまうといった問題点があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、実際の振動に適合した最適な設計をすることができて、建築コストの低減化を図ることができる大スパン屋根の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る大スパン屋根の設計方法は、換気用開口部を有する大スパン構造物の屋根を設計する際に用いられる大スパン屋根の設計方法であって、前記換気用開口部を介して空気が出入りする際に発生する空力減衰を加味して、前記屋根の予想振幅が算出される。
【0006】
また、本発明に係る大スパン構造物の製造方法は、屋根と換気用開口部とを有する大スパン構造物の製造方法であって、前記屋根を設計する際に、前記換気用開口部を介して空気が出入りする際に発生する空力減衰を加味して、前記換気用開口部に必要な圧力損失係数を算出する段階と、算出された結果に基づいて選択された抵抗体を換気用開口部に設置する段階とを備えている。
【0007】
本発明に係る大スパン屋根の設計方法または本発明に係る大スパン構造物の製造方法によれば、大スパン構造物の屋根を設計する際(より詳しくは、屋根の予想振幅を算出する際)に、空力減衰が考慮されることとなるので、実際の振動よりも大きな振動に対しても耐えられる過剰な設計となることを防止することができ、実際の振動に適合した最適な設計をすることができて、建築コストの低減化を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る大スパン屋根の設計方法によれば、実際の振動に適合した最適な設計をすることができて、建築コストの低減化を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る大スパン屋根の設計方法の一実施形態について、図1および図2を参照しながら説明する。
本実施形態に係る大スパン屋根の設計方法は、例えば、図1に示すような、建屋1と屋根2との間に換気用開口部(以下、「開口部」という。)3を有する大スパン構造物4の屋根2を設計する際に用いられる設計方法である。
なお、大スパン構造物4の具体例としては、例えば、航空機の格納庫、工場、倉庫、スポーツ施設、レジャー施設、店舗等を挙げることができる。
【0010】
さて、図2に示すように、本実施形態では、大スパン構造物4の屋根2を設計する際(より詳しくは、屋根2の予想振幅ηを算出する際)に、下式数1で定義される空力減衰δaeroが考慮される(例えば、データとして計算機内に取り込まれる)。
【0011】
【数1】

【0012】
なお、上式数1中のζは開口部3の圧力損失係数、ρは空気密度、ηは屋根2の最大応答変位、Aは開口部3の面積、φはモード関数、mは単位面積あたりの質量であり、積分範囲は屋根面全体としている。
【0013】
すなわち、本実施形態では、屋根2の予想振幅ηを求める式が下式数2で定義される。
【0014】
【数2】

【0015】
なお、上式数2中のUは風速、Aは屋根2の面積、CL0は屋根2に作用する変動揚力係数、δstrは構造減衰、fは屋根2の固有振動数である。
【0016】
つぎに、上式数2に上式数1を代入し、開口部3の圧力損失係数ζについて整理して下式数3を得る。
【0017】
【数3】

【0018】
ただし、上式数3中のαは下式数4で定義される。
【0019】
【数4】

【0020】
つづいて、上式数3に上式数4を代入するとともに、予想振幅ηに許容振幅を代入して、開口部3の圧力損失係数ζを算出する。
そして、開口部3の圧力損失係数(開口部3に必要な圧力損失係数)ζを、例えば、I.E.Idelchik「Handbook of Hydraulic Resistance,3rd Edition」p.516,p.522,p.223,p.233に記載されたデータと照らし合わせ、開口部3に設置する(嵌め込む)抵抗体(例えば、金網、オリフィス(絞り)、フラップ等)5を選択(決定)する。
【0021】
本実施形態に係る大スパン屋根の設計方法によれば、大スパン構造物4の屋根2を設計する際(より詳しくは、屋根2の予想振幅を算出する際)に、空力減衰δaeroが考慮されることとなるので、実際の振動よりも大きな振動に対しても耐えられる過剰な設計となることを防止することができ、実際の振動に適合した最適な設計をすることができて、建築コストの低減化を図ることができる。
【0022】
なお、本発明に係る大スパン屋根の設計方法は、図3に示すような、低ライズのドーム10、すなわち、比較的柔らかく軽量なドーム屋根11で全体が覆われ、建物内部が空胴になった内部空間を持ち、そのドーム屋根11の上部および下部に、換気用開口部12が設置された大スパン構造物や、図4に示すような、低ライズのドーム20、すなわち、比較的柔らかく軽量なドーム屋根21で全体が覆われ、建物内部が空胴になった内部空間を持ち、そのドーム屋根21の上部に、換気用開口部22が設置された大スパン構造物を設計する際にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る大スパン屋根の設計方法が適用される大スパン構造物の一具体例を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る大スパン屋根の設計方法の概要を把握するためのフローチャートである。
【図3】本発明に係る大スパン屋根の設計方法が適用される大スパン構造物の他の具体例を示す縦断面図である。
【図4】本発明に係る大スパン屋根の設計方法が適用される大スパン構造物の別の具体例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0024】
2 屋根
3 換気用開口部
4 大スパン構造物
5 抵抗体
10 大スパン構造物
11 屋根
12 換気用開口部
20 大スパン構造物
21 屋根
22 換気用開口部
δaero 空力減衰
η 予想振幅
ζ 圧力損失係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
換気用開口部を有する大スパン構造物の屋根を設計する際に用いられる大スパン屋根の設計方法であって、
前記換気用開口部を介して空気が出入りする際に発生する空力減衰を加味して、前記屋根の予想振幅を算出することを特徴とする大スパン屋根の設計方法。
【請求項2】
屋根と換気用開口部とを有する大スパン構造物の製造方法であって、
前記屋根を設計する際に、前記換気用開口部を介して空気が出入りする際に発生する空力減衰を加味して、前記換気用開口部に必要な圧力損失係数を算出する段階と、算出された結果に基づいて選択された抵抗体を換気用開口部に設置する段階とを備えていることを特徴とする大スパン構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−108618(P2009−108618A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282950(P2007−282950)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)