説明

大腸菌捕捉体及び大腸菌捕捉器具

【課題】安価に確実に大腸菌を捕捉し分離することのできる、新規の大腸菌捕捉器具を提供する。
【解決手段】マンノースを有する糖鎖を担体表面に結合させた。糖鎖としては、好ましくは、2個以上のマンノースを有する糖鎖であり、より好ましくは、マンノビオースであり、さらに好ましくは、α−1,2−マンノビオースである。担体としては、ビーズ、濾紙、植物繊維、化学繊維のいずれかとすることができる。安価に確実に大腸菌を捕捉し分離することのできる、新規の大腸菌捕捉器具を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸菌捕捉体及び大腸菌捕捉器具に関し、特に飲水中の大腸菌を捕捉するための器具に関する。
【背景技術】
【0002】
東南アジアやアフリカの発展途上国においては、水道水に平均100個/mlの大腸菌が混入しており、甚大な健康被害の原因となっている。我が国においても、災害時には大腸菌に集団感染する虞がある。このため、大腸菌を捕捉するための器具の開発が求められている。
【0003】
一方、従来、細菌は糖鎖に特異的に結合し(例えば、特許文献1を参照。)、大腸菌の多くは、人体などの生体の細胞表面に存在する、天然の高マンノース型糖鎖と特異的に結合することが知られている。なお、この天然の高マンノース型糖鎖は、糖鎖中に5〜9個のマンノースを有している。
【0004】
そこで、高マンノース型糖鎖を用いて大腸菌を捕捉することが考えられるが、この高マンノース型糖鎖を工業的に製造するためには原料が高価な上に合成操作が極めて複雑であって多大なコストを要するため、現実的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−176977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安価に確実に大腸菌を捕捉し分離することのできる、新規の大腸菌捕捉器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討し、本発明者は、マンノースの二量体すなわちマンノビオースをビーズに結合させて、大腸菌との結合活性を測定したところ、高い大腸菌結合活性を有することを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の大腸菌捕捉体は、マンノースを有する糖鎖が担体表面に結合していることを特徴とする。
【0009】
また、前記糖鎖は、2個以上のマンノースを有する糖鎖である。
【0010】
また、前記糖鎖は、マンノビオースである。
【0011】
また、前記糖鎖は、α−1,2−マンノビオースである。
【0012】
また、前記担体は、ビーズ、濾紙、植物繊維、化学繊維のいずれかである。
【0013】
本発明の大腸菌捕捉器具は、本発明の大腸菌捕捉体を備えたものである。
【0014】
本発明の浄水器は、本発明の大腸菌捕捉体を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価に確実に大腸菌を捕捉し分離することのできる、新規の大腸菌捕捉器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の結果を示す写真である。
【図2】実施例2の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の大腸菌捕捉体は、マンノースを有する糖鎖が担体表面に結合しているものである。ここで、マンノースを有する糖鎖としては、糖鎖中にマンノースを有していればよく、糖鎖中にマンノース以外の糖を含んでいてもよい。なお、大腸菌を捕捉する観点からは、2個以上のマンノースを有するものが好ましく、特に、少なくとも担体表面に結合していない糖鎖の末端に2個のマンノースからなるマンビオースを有するものが好ましい。
【0018】
また、製造コストの観点からは、マンノビオースが担体表面に直接結合しているものが好ましく、α−1,2−マンノビオースが担体表面に直接結合しているものは、天然物を原料にして製造することができるので、より好ましい。
【0019】
なお、マンノースを有する糖鎖は、化学合成法や酵素合成法でも得ることができるが、天然の高マンノース型糖鎖や天然の高分子である酵母マンナンやコンニャクのグルコマンナンなどを酸加水分解すれば、より容易に得ることができる。
【0020】
糖鎖が結合する担体としては、特定のものに限定されるものではないが、例えば、ビーズ、濾紙、植物繊維(植物多糖)、化学繊維を用いることができる。ここで、ビーズとしては、金属コロイド、化学ポリマー粒子を用いることができ、特に、糖鎖を結合させるためのヒドラジド基を含有するポリマー粒子が好適に用いることができる。このようなポリマー粒子としては、住友ベークライト株式会社から提供されているBlotGlyco(登録商標)が知られている。なお、担体として植物繊維を用いた場合は、使用後に自然分解させることが可能となり、大腸菌捕捉体の廃棄に要するコストと環境負荷を低減することができる。
【0021】
本発明の大腸菌捕捉体は、例えば、円筒カラムなどに充填し、これに飲水を通すことにより飲水中の大腸菌を捕捉することができるため、浄水用のフィルターとして用いることができる。また、飲水を収容した容器中に本発明の大腸菌捕捉体を入れて撹拌するだけで飲水中の大腸菌を捕捉することができるため、携帯用の浄水剤として用いることができる。携帯用の浄水剤として構成する場合は、紅茶などに用いられるティーバッグに本発明の大腸菌捕捉体を収容すれば、飲水からの分離やその後の廃棄が容易となり便利である。
【0022】
本発明の大腸菌捕捉器具は、本発明の大腸菌捕捉体を備えたものであり、例えば、本発明の大腸菌捕捉体をフィルターとして、大腸菌を特異的に捕捉して除去するための浄水器を構成することができる。
【0023】
以下、本発明の大腸菌捕捉体の実施例について具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0024】
ビーズを担体として大腸菌捕捉体を調製し、大腸菌捕捉試験を行った。
【0025】
[マンノオリゴ糖の調製]
マンノシダーゼを用いて合成する方法、マンナンの酸加水分解により調製する方法により、マンノオリゴ糖を得た。なお、下記の方法以外にも種々の調製法がある。
【0026】
(1)マンノシダーゼを用いた合成
マンノース1gをpH5.0の0.1M酢酸緩衝液1mlに溶解した。そして、2.5ユニットのナタ豆α−マンノシダーゼ1mlを加え、60℃で48時間保温した。その後、反応液を100倍量の水で希釈し、活性炭カラムを用いて10%エタノール水溶液で溶出し、マンノオリゴ糖混合物0.3gを分画した。
【0027】
つぎに、このマンノオリゴ糖混合物0.3gを、活性炭カラムを用いて、0%から10%の濃度勾配をつけたエタノール水溶液で溶出し、溶出した各画分中の糖をフェノール硫酸法で定量した。そして、糖の溶出分画をアミノカラム(Lichrosorb−NH)へ充填し、Manα1→2ManとManα1→2Man1→2Manを分画した。得られたManα1→2Manは29mg、Manα1→2Man1→2Manは1.4mgであった。
【0028】
(2)マンナンの酸加水分解による調製
マンナン1gを0.1N塩酸10mlと混合し、封管中、100℃で酸加水分解を4時間行った。そして、反応液をカラム(AG3−X4A(OH))に通してHClを除去した後、ゲルろ過カラム(Bio−Gel P−4)で分画し、Manα1→2/3/6Man1→2/6Manを得た。
【0029】
[糖鎖結合ビーズの調製]
マンノオリゴ糖をビーズに結合させ、糖鎖結合ビーズを調製した。マンノオリゴ糖としては、上記の方法で得たManα1→2ManとManα1→2Man1→2Manを用いた。また、天然の高マンノース型糖鎖を結合させた糖鎖結合ビーズを調製した。
【0030】
それぞれの糖鎖について、糖鎖5μmolとBlotGlyco(登録商標)ビーズ50μlを混合し、80℃で1時間加熱した。その後、還元剤を加え、さらに80℃で35分間加熱した。そして、グアニジン溶液、トリエチルアミン/メタノール溶液、無水酢酸溶液で洗浄して、糖鎖結合ビーズを得た。
【0031】
天然の高マンノース型糖鎖を用いて調製したときのビーズに結合した糖鎖の構造を以下に示す。
【0032】
【化1】

【0033】
また、マンノオリゴ糖Manα1→2Manをビーズに結合させると、結合のために1個のマンノースが開裂するため、以下に示す構造になる。
【0034】
【化2】

【0035】
そして、マンノオリゴ糖Manα1→2Man1→2Manを用いて調製した場合は、以下に示す構造の糖鎖がビーズに結合する。これは、Manα1→2Man1、すなわちα−1,2−マンノビオースがビーズに結合した構造になっている。
【0036】
【化3】

【0037】
[大腸菌捕捉試験]
蛍光標識した大腸菌と糖鎖結合ビーズを混合し、20℃で30〜60分間保温した。その後、共焦点レーザー顕微鏡で解析した。
【0038】
図1に示すように、マンノオリゴ糖Manα1→2Man1→2Manを用いて調製した糖鎖結合ビーズ(図1の「3」)は、天然の高マンノース型糖鎖を用いて調製した糖鎖結合ビーズ(図1の「1」)よりも高い大腸菌捕捉能力を示し、1mgビーズ当り100万個の大腸菌を捕捉することが確認された。一方、マンノオリゴ糖Manα1→2Manを用いて調製した糖鎖結合ビーズ(図1の「2」)の大腸菌捕捉能力は、天然の高マンノース型糖鎖を用いて調製した糖鎖結合ビーズよりも低かった。
【0039】
以上より、マンノースを有する糖鎖、特に2個以上のマンノースを有する糖鎖がビーズ表面に結合した大腸菌捕捉体は、優れた大腸菌捕捉能力を有することが確認された。
【実施例2】
【0040】
濾紙を担体として大腸菌捕捉体を調製し、大腸菌捕捉試験を行った。
【0041】
[糖鎖が結合した濾紙の調製]
実施例1で得たマンノオリゴ糖Manα1→2Man1→2Manを既知の方法によりヒドラジド化することにより、ヒドラジド化した糖鎖を得た。なお、糖タンパク質からヒドラジン分解により糖鎖を遊離させて、ヒドラジド化した糖鎖を得てもよい。
【0042】
一方、既知の方法により、濾紙を過ヨウ素酸で処理し、濾紙の成分であるセルロースにアルデヒド基を誘導した。
【0043】
つぎに、糖鎖と濾紙をともに40℃で8時間保温した。なお、片面の面積が19mmの濾紙1枚につき6nmolの糖鎖を加えた。その後、ジメチルアミノボラン溶液で還元した。なお、還元時の反応温度は4℃、反応時間は16時間であった。そして、濾紙を水で洗浄し、糖鎖が濾紙の片面に0.5nmol結合した濾紙を得た。同様に、加える糖鎖の量を変化させて上記の操作を行い、糖鎖が濾紙の片面に0.1nmol、0.3nmol結合した濾紙を得た。
【0044】
[大腸菌捕捉試験]
蛍光標識した大腸菌を糖鎖が結合した濾紙に付着させ、20℃で30〜60分間保温した。そして、濾紙を1〜3回洗浄後、濾紙に捕捉された大腸菌を軟寒天培地で増殖させ、大腸菌を測定した。
【0045】
図2に示すように、糖鎖が0.5nmol結合した濾紙では、3回の洗浄後であっても、濾紙1cm当り片面で160個、両面で320個の大腸菌を捕捉することが確認された。これに対し、糖鎖の結合量が0.5nmol未満の場合、2回以上の洗浄により大腸菌の数が大幅に減少した。
【0046】
以上より、α−1,2−マンノビオースが濾紙表面に結合した大腸菌捕捉体は、優れた大腸菌捕捉能力を有し、特に、濾紙19mm当たりの糖鎖の結合量が0.5nmol以上、すなわち、濾紙1cm当たりの糖鎖の結合量が3nmol以上のときに、優れた大腸菌捕捉能力を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノースを有する糖鎖が担体表面に結合していることを特徴とする大腸菌捕捉体。
【請求項2】
前記糖鎖は、2個以上のマンノースを有する糖鎖である請求項1記載の大腸菌捕捉体。
【請求項3】
前記糖鎖は、マンノビオースである請求項2記載の大腸菌捕捉体。
【請求項4】
前記糖鎖は、α−1,2−マンノビオースである請求項3記載の大腸菌捕捉体。
【請求項5】
前記担体は、ビーズ、濾紙、植物繊維、化学繊維のいずれかである請求項1〜4のいずれかの大腸菌捕捉体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの大腸菌捕捉体を備えた大腸菌捕捉器具。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの大腸菌捕捉体を備えた浄水器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−173073(P2011−173073A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39650(P2010−39650)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】