説明

大豆紅麹およびその製造方法

【課題】
半割れ粒大豆を用いて培養した場合には、製麹工程中に半粒同士がくっつき合う現象が生じ、「半割れ粒」と「半割れ粒同士が結合したもの」とが混合した紅麹ができあがってしまう。このように場合、製品加工時に上述した支障をきたすことになるという問題があった。
【解決手段】
本発明においては、原料である半割れ粒大豆をあらかじめ一定温度で、一定時間オートクレーブで加熱処理することによって、半割れ粒を維持したまま製麹された半割れ粒大豆紅麹、およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半割れ粒大豆を原料とした大豆紅麹であって、食べやすい形状をし、かつ食味に優れた健康食として摂食することができる大豆紅麹、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅麹は穀類にモナスカス属の菌株を繁殖させた麹で、中国、台湾などでは紅酒、老酒、紅乳腐などの醸造原料として利用されており、また古来より生薬として「消食活血」「健脾燥胃」などの効果が知られている。( 李時珍「本草綱目」(1590年)) 。また、血圧降下作用、コレステロール改善作用等、様々な機能を有することが知られ、味噌、醤油、食酢等の醸造食品をはじめ、パン、麺類等、色々な食品に使われている。更に、サプリメントとして、或いは、抽出されたエキスを添加したドリンク剤としても利用されている。
【0003】
大豆紅麹は、従来の米紅麹の短所である味臭の問題を解決して、香り、味とも良好であって、かつ、コレステロール低減作用のあるモナコリンK成分を含有する紅麹である。そして、そのままの形で摂取できることを特長としている。大豆を原料とした紅麹に関して、本願出願人は、血圧降下成分を多く含む紅麹の製造法として、大豆類、小麦類、胚芽類の何れかを白米に混ぜて製麹する方法(特許文献1)、コレステロール低下作用を有するモナコリンKを多く含有する紅麹の製造法として、大豆を原料とした方法(特許文献2)、更にイソフラボンアグリコンを含有する紅麹に関して大豆を用いた技術など(特許文献3〜5)を提案している。
【0004】
しかし、丸粒大豆を原料として大豆紅麹を製造した場合、培養前に大豆を水に浸漬させた時や培養中に大豆が脱皮することによって、多くの大豆が割れて半割れ粒となってしまう。そして、大豆紅麹の製造工程において、製麹後丸粒と半割れ粒が混合した状態になってしまう。丸粒と半割れ粒が混合した状態では、製品加工時において規格通りの分包に支障をきたすという問題があった。さらには、大豆紅麹はそのままの状態で食することができるものであるが、入れ歯を使用する高齢者などにとって丸粒大豆は硬くて噛み砕きづらいという問題点もあった。
【0005】
そこで、大豆紅麹の製造にあたってはあらかじめ半割りした半割れ粒大豆を原料として使用することが考えられる。半割れ粒大豆を用いた方が、紅麹菌の繁殖も良好でモナコリンKの生産性も高いという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-279163号公報
【特許文献2】特開2001-204460号公報
【特許文献3】特開2002-288号公報
【特許文献4】特開2006-75003号公報
【特許文献5】特開2006-121989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、半割れ粒大豆を用いて培養した場合には、製麹工程中に半粒同士がくっつき合う現象が生じ、「半割れ粒」と「半割れ粒同士が結合したもの」とが混合した紅麹ができあがってしまう。このように場合、製品加工時に上述した支障をきたすことになるという問題があった。そこで本発明は、半割れ粒大豆を原料として紅麹を製造した場合であっても、製麹工程中に半割れ粒大豆同士が結合しない半割れ粒大豆紅麹、および半割れ粒大豆紅麹の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、原料である半割れ粒大豆をあらかじめ一定温度で、一定時間オートクレーブで加熱処理することによって、半割れ粒を維持したまま製麹された半割れ粒大豆紅麹、およびその製造方法である。
【0009】
本願発明者らは鋭意検討の結果、あらかじめ半割りした半割れ粒大豆を、一定の温度範囲および一定時間処理することにより、原料である半割れ粒大豆を滅菌するだけでなく、製麹工程中において半割れ粒大豆結合が再結合する割合を5%以下にできることを見出し、本発明を完成した。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明に用いる紅麹菌は、モナスカス(Monascus)属に属するものであればいずれの菌であってもよく、例えば、モナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)、モナスカス・アンカ(Monascus anka)、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)や、これらの変種、変異株などが例示できるが、特に、当該目的において、モナスカス・ピローサス(Monascus pilosus)が好ましい。これらの紅麹菌は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明は、大豆を原料とするものである。かかる大豆の原産地、品種は特に限定されない。即ち、白大豆、黒豆、青豆等各種のものを用いることができ、勿論、これらを適宜混合して用いても良い。かかる大豆は、脱脂大豆、大豆胚軸、丸大豆の何れでもよいが、特に、丸大豆が好ましい。
【0012】
原料として用いる半割れ粒大豆は、丸大豆を約100℃で1時間熱処理し、冷却した後に豆摺り機等を用いて脱皮するなどの方法で半割り加工することによって調製できる。
【0013】
原料として用いる半割れ粒大豆は、製麹工程前にあらかじめ滅菌処理を行う。滅菌処理はオートクレーブを用いた蒸気滅菌が好ましい。本願発明者は、蒸気滅菌の滅菌温度および滅菌時間を検討することにより、製麹工程中に原料の半割れ粒大豆どうしが結合しない製造方法を見いだした。
【0014】
滅菌温度は100℃以上であればよいが、温度が高すぎると製麹工程中に原料の半割れ粒大豆どうしが結合する割合が高くなるだけでなく、原料が軟化してしまうおそれがある。滅菌温度は100℃以上、120℃以下が好ましい。
【0015】
滅菌時間は滅菌温度との関係で、滅菌効果が得られる範囲で適宜決めることができるが、滅菌時間が長すぎると原料の品質に影響を及ぼす可能性があり、できるだけ短くすることがのぞましい。滅菌時間としては、20分以上30分以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、原料として半割れ粒大豆を用いて紅麹を製造した場合においても、半粒の形態を維持した大豆紅麹が95%以上となる生産が可能となり、製品加工時において規格通りの分包が可能となる。さらに、半割れ粒を原料とすることによってモナコリンKの生産効率が向上するという効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0018】
(実施例)
半割れ粒大豆を1〜2時間水に浸漬し、0.5〜1時間水切りした。オートクレーブを用いて蒸気滅菌された蒸大豆を得た。オートクレーブ処理の温度と時間は、1)125℃、30分間、2)125℃、20分間、3)120℃、20分間、4)110℃、30分間、5)110℃、20分間の5通りとした。得られた蒸大豆にMonascus pilosus NBRC4520を植菌し、培養開始から最初の5日間は30〜35℃、培養開始から6日以後は25〜27℃で、計21日間培養して大豆紅麹を得た。
【0019】
培養容器(1Lボトル)の回転条件は、培養開始時から常時回転(毎分1回転)させて培養する方法と、培養開始から最初の5日間は静置し、培養開始から6日目以後に常時回転(毎分1回転)させて培養する方法の2通りの条件で培養を行った。なお、培養期間中の水分率は35〜45%に調整した。
【0020】
培養開始から10、13、17、19、21日目にサンプリングを行った。得られた大豆紅麹を110℃、30分間熱処理することによって紅麹菌と酵素を失活させ、その後に通風60℃で水分率を約10%まで乾燥させ、半割大豆紅麹を得た。
【0021】
(比較例)
半割り加工をしていない丸大豆を用いたこと以外、前記方法と同じ方法で培養し、大豆紅麹を得た。
【0022】
(評価)
サンプリングした大豆紅麹を乾燥させた後、サンプルから20〜30g(80〜120粒)を抜き取り、粒の形態を観察した。サンプルのうち、半粒の状態である大豆紅麹の割合を求めた。
また、実施例、比較例とも培養7、11、15、19、22、27日後にそれぞれ10gの紅麹を採取した。得られた紅麹を110℃、30分間熱処理することによって紅麹菌と酵素を失活させ、その後に通風60℃で水分率を約10%まで乾燥させ、さらに粉砕して大豆紅麹粉末にした。調製した紅麹粉末に20〜100倍量の60%エタノールを加え、攪拌しながら30分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけることによりモナコリンK含量を定量した。
【0023】
(結果)
(1)培養後の半割れ粒大豆紅麹の割合
培養開始時から常時回転(毎分1回転)させて培養した場合の結果を表1に、培養開始から6日目以後に常時回転(毎分1回転)させて培養した場合の結果を表2に示した。
(2)培養後のモナコリンK含量
培養日数とモナコリンK含量を表3に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
表1および表2に示すように、培養前の処理温度が110℃〜120℃であり、かつ処理時間が20分〜30分で半粒大豆を処理することによって、培養後の半割れ粒大豆状態である大豆紅麹の割合が95%以上にすることが可能になった。
【0028】
表3に示すように、いずれの培養期間においても半割れ粒大豆を用いて培養した方がモナコリンK含量が多く、半割れ粒大豆を原料として用いることにより高モナコリンK含量の大豆紅麹を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の大豆紅麹は、あらかじめ半割れ粒大豆を用いて紅麹を製造した場合においても、半割れ粒大豆の形態を維持した大豆紅麹が95%以上となる生産が可能であり、製品加工時において規格通りの分包が可能となるものである。さらに、半割れ粒大豆を原料とすることによって、モナコリンKの生産効率が向上するという効果も得られるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半割れ粒大豆に紅麹菌を植菌、培養して麹化させることによって得られる、モナコリンKを含有する大豆紅麹。
【請求項2】
モナコリンKの含量が200mg/100g以上である請求項1に記載の大豆紅麹。
【請求項3】
半割れ粒大豆をあらかじめ熱処理する温度が100℃以上125℃未満であって、処理時間が20分以上30分未満であることを特徴とする請求項1に記載の大豆紅麹の製造方法。
【請求項4】
半割れ粒大豆を原料として、以下の条件にて培養することを特徴とするモナコリンKを200mg/100g以上含有する半割れ粒大豆紅麹を得ることを特徴とする製麹方法。
(1)半割れ粒大豆を100℃以上125℃未満で20分以上30分未満熱処理する。
(2)熱処理した半割れ粒大豆の水分率を35%以上45%以下に調製する。
(3)モナスカス属に属する糸状菌を植菌する。
(4)植菌した半割れ粒大豆を培養容器に入れ、回転させながら培養する。
(5)培養期間中の水分率を35%以上45%以下に調整する。
(6)培養した半割れ粒大豆を110℃で30分間処理する。