説明

天井走行クレーン及び搬送方法

【課題】 吊り下げられた被搬送部材を旋回させて搬送方向を変えることが低コストで実現可能な天井走行クレーン及び搬送方法を提供する。
【解決手段】 この天井走行クレーンは、天井に所定間隔で平行に配置された一対の走行レール間に掛け渡されて走行レールに沿って移動可能な走行ガータ11,12が走行レールの走行軸pに対し傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被搬送部材を吊り下げて搬送する天井走行クレーン及び搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場や作業場等において重量のある鉄骨等の被搬送部材を搬送する場合、天井クレーンを用いるのが一般的であるが、被搬送部材が長尺物であり工場の敷地等の関係から被搬送部材の搬送方向を変えることが必要なときがある。このため、天井クレーンで搬送中の被搬送部材を90度回転させるには、例えば図8のような機構が必要である。即ち、図8のように、2台の天井クレーンA,Bによる吊りビームCの共吊りで長尺物の被搬送部材Fを搬送する際に、中心に回転機構Eを搭載した旋回ビームDを吊りビームCの下方に設け、回転機構Eにより旋回ビームDを回転させることで被搬送部材Fを90度旋回させてから搬送していた。
【0003】
また、被搬送部材の搬送方向を変えるために地上にターンテーブルを設置しておき、ターンテーブル上に被搬送部材を載せて回転させることや、地上に台車が旋回可能なようにカーブのあるレールを敷設することも考えられる。
【0004】
しかし、図8のような従来の天井クレーンの機構では、そのような長尺物の搬送の度に専用の回転機構Eを搭載した旋回ビームDを装着する手間が生じ、最終目的位置までの搬送に時間がかかり、不便であった。また、回転機構Eを含めた旋回ビームDの自重のために、被搬送部材Fの重量が制約を受ける欠点があった。
【0005】
また、ターンテーブルの設置は基礎工事が必要なため初期コストが大きくなり、また故障すると復旧の手間がかかり易い。また、旋回可能な台車やレールカーブは煩雑な設計作業が必要と考えられ、また台車を旋回させる操作の際に作業が面倒となり易い。
【0006】
下記特許文献1は、一対の走行レールに掛け渡されて移動可能なガーダが移動に伴い一対の走行レールのスパンに相応させて伸縮することで、移動位置に死角の生じないようにした天井クレーン装置を開示するが、搬送方向を直角に変えるものではない。
【特許文献1】特開2001−226069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、吊り下げられた被搬送部材を旋回させて搬送方向を変えることが低コストで実現可能な天井走行クレーン及び搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による第1の天井走行クレーンは、天井に所定間隔で平行に配置された一対の走行レールと、前記走行レール間に掛け渡されて前記走行レールに沿って移動可能な走行ガータと、を備え、前記走行ガータが前記走行レールの走行軸に対し傾斜していることを特徴とする。
【0009】
第1の天井走行クレーンによれば、走行ガータが走行レールの走行軸に対し傾斜していることで、吊り下げられた被搬送部材の旋回動作を行うことが可能となり、被搬送部材の搬送方向を変えることが低コストで実現可能となる。
【0010】
本発明による第2の天井走行クレーンは、天井に所定間隔で平行に配置された一対の走行レールと、前記走行レール間に掛け渡されて前記走行レールに沿って移動可能な走行ガータと、を備え、前記走行ガータが前記走行レールの走行軸に対し傾斜可能であることを特徴とする。
【0011】
第2の天井走行クレーンによれば、吊り下げられた被搬送部材の旋回動作を行う場合に走行ガータを走行レールの走行軸に対し傾斜させることができるので、被搬送部材の搬送方向を変えることが低コストで実現可能となる。
【0012】
第2の天井走行クレーンにおいて前記走行ガータが前記走行レールに両端部で回動可能に接続しており、少なくともいずれか一方の端部で前記長手方向への移動が可能であるように構成することで、走行ガータを旋回動作のときに傾斜させることができる。なお、第2の天井走行クレーンにおいて走行ガータは通常走行時に走行軸に対しほぼ直角で走行させることができる。
【0013】
第1または第2の天井走行クレーンを2機備え、それぞれが前記走行ガータに設けられた吊り手段を備え、前記各吊り手段で吊り下げられた被搬送部材を2つの前記走行ガータがなす平面に略平行な平面において前記走行ガータに対し旋回可能であるように構成できる。
【0014】
前記各吊り手段は、前記走行ガータの長手方向に沿って移動可能な横行部と、前記横行部から吊り下げられて前記被搬送部材を支持するフック部と、をそれぞれ有することが好ましい。これにより、前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることで前記フック部で支持された被搬送部材を旋回させることができる。例えば、傾斜した走行ガータ間の走行軸方向の相対距離を接近させることで横行部が互いに逆の方向に移動することにより、フック部で支持された被搬送部材を旋回できる。
【0015】
また、前記各横行部を互いに逆の方向に移動させることで前記フック部で支持された被搬送部材を旋回させることができる。
【0016】
また、前記走行ガータを移動させるためのガータ走行用モータと、前記ガータ走行用モータに付属し前記走行ガータの位置を検出するエンコーダと、を備えることで、エンコーダが検出した走行ガータ位置に基づいて走行ガータの走行を制御できる。
【0017】
また、前記横行部を移動させるための横行部用モータと、前記横行部用モータに付属し前記横行部の位置を検出するエンコーダと、を備えることで、エンコーダが検出した横行部位置に基づいて横行部の走行を制御できる。
【0018】
また、前記走行ガータの前記走行軸方向における複数位置を検出するための走行ガータ位置センサを配置することが好ましい。例えば、複数の走行ガータ位置センサによる走行ガータの走行軸方向の検出位置に基づいて上述のエンコーダが検出した走行ガータ位置を修正することが可能となる。
【0019】
また、前記横行部の前記長手方向における複数位置を検出するための横行部位置センサを配置することが好ましい。例えば、複数の横行部位置センサによる横行部の長手方向の検出位置に基づいて上述のエンコーダが検出した横行部位置を修正することが可能となる。
【0020】
本発明による第1の搬送方法は、上述の第1または第2の天井走行クレーンを用いて被搬送部材を搬送する搬送方法であって、前記被搬送部材を前記走行ガータで所定の相対距離を保ちながら搬送し、前記被搬送部材を前記走行ガータに対し旋回させることで前記被搬送部材の搬送方向を変えることを特徴とする。
【0021】
第1の搬送方法によれば、第1または第2の天井走行クレーンにより走行ガータが走行レールの走行軸に対し傾斜することで、吊り下げられた被搬送部材の旋回動作を行うことが可能となり、被搬送部材の搬送方向を変えることが低コストで実現可能となる。
【0022】
本発明による第2の搬送方法は、天井走行クレーンを用いて被搬送部材を搬送する搬送方法であって、前記被搬送部材を2台の走行ガータの横行部から吊り下げて所定の相対距離を保ちながら搬送し、前記各走行ガータを前記走行レールの走行軸に対し傾斜させ、前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることで前記被搬送部材を旋回させることを特徴とする。
【0023】
第2の搬送方法によれば、走行ガータが走行レールの走行軸に対し傾斜し、走行ガータ間の相対距離を変えることで、吊り下げられた被搬送部材の旋回動作を行うことが可能となり、被搬送部材の搬送方向を変えることが低コストで実現可能となる。
【0024】
本発明による第3の搬送方法は、天井走行クレーンを用いて被搬送部材を搬送する搬送方法であって、前記被搬送部材を2台の走行ガータの横行部から吊り下げて所定の相対距離を保ちながら搬送し、前記各走行ガータを前記走行レールの走行軸に対し傾斜させ、前記各走行ガータの長手方向に沿って前記各横行部を互いに逆の方向に移動させることで前記被搬送部材を旋回させることを特徴とする。
【0025】
第3の搬送方法によれば、走行ガータが走行レールの走行軸に対し傾斜し、各横行部を互いに逆の方向に移動させることで、吊り下げられた被搬送部材の旋回動作を行うことが可能となり、被搬送部材の搬送方向を変えることが低コストで実現可能となる。
【0026】
上記第3の搬送方法において前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることで前記被搬送部材を旋回させるようにできる。
【0027】
また、前記各横行部を互いに逆の方向に移動させること及び前記各走行ガータを傾斜させることをほぼ同時に行うことが好ましい。また、前記各横行部を互いに逆の方向に移動させること及び前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることをほぼ同時に行うことが好ましい。
【0028】
なお、上述の各天井走行クレーンは、制御装置としてコンピュータを備えることが好ましく、上述の各搬送方法を実行させるためのプログラムにより上記コンピュータを動作させることで、特に各ガータ走行用モータ及び各横行部用モータを各エンコーダや各位置センサからの位置情報に基づいて制御しながら各走行ガータ及び各横行部を所定位置に移動させるように制御できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の天井走行クレーン及び搬送方法によれば、吊り下げられた被搬送部材を旋回させて搬送方向を変えることが低コストで実現可能となる。特に、長尺物の搬送の際に搬送方向を変えるのに便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【0031】
〈第1の実施の形態〉
【0032】
図1は第1の実施の形態による天井走行クレーンを用いた工場及び隣接の工場敷地を概略的に示す上面図である。図2は第1の実施の形態による天井走行クレーンの概略的構成を示す上面図である。図3は図1,図2の天井走行クレーンによる被搬送部材の各旋回動作を説明するための上面図(a)乃至(c)である。
【0033】
図1に示すように、本実施の形態では、鉄骨等の重量物を製造するために敷地1内に横方向に長く設置された工場2に天井走行クレーンが2機配置されており、2機の天井走行クレーンを用いることで、鉄骨等の長尺物の被搬送部材10を吊り下げて搬送方向aに搬送し、工場2の外側に設けた搬出入部3で搬送用トラックTに積み込む際に、その搬送方向を90度旋回させることができる。
【0034】
図1,図2のように、本実施の形態の天井走行クレーンは、工場2の天井に所定間隔で一対の走行レール13,14が平行に延びて配置されており、走行ガータ11,12が被搬送部材10を吊下横行部15,16で吊り下げて走行レール13,14に沿って移動可能に構成されている。走行ガータ11,12は、それぞれ駆動モータ(図示省略)を備え、それぞれ独立して搬送方向a及びその反対方向bに移動可能である。
【0035】
図1,図2のように、各走行ガータ11,12は、比較的細長く構成されて走行レール13,14間で互いに平行になるよう掛け渡されているが、走行レール13,14の走行軸p(搬送方向a)に対し同じ角度だけ傾斜している。
【0036】
図2のように、各走行ガータ11,12には、それらの長手方向に延びて溝状レール部11a、12aが設けられており、吊下横行部15,16が溝状レール部11a、12a内で走行ガータ11,12の長手方向に移動可能なように支持されている。
【0037】
図1,図2の2機の天井走行クレーンによる被搬送部材の旋回動作について図3を更に参照して説明する。
【0038】
図1の右側及び図2の実線、更に図3(a)にそれぞれ示すように、走行ガータ11,12は、所定の相対距離を保ちつつ、比較的長尺な被搬送部材10を工場2の長手方向に向けて吊下横行部15,16で吊り下げながら搬送方向aに搬送し、搬出入部3において、走行ガータ11を搬送方向aに向けて移動させるとともに、走行ガータ12を搬送方向aの反対方向bに向けて移動させることで、走行ガータ11,12を接近させる。
【0039】
上記接近動作のときに走行ガータ11,12が傾斜していることで溝状レール部11a、12aから吊下横行部15,16に対してある程度の分力が発生し、かかる分力により吊下横行部15,16が溝状レール部11a、12a内で互いに逆の方向に移動する。
【0040】
上述の走行ガータ11,12の接近動作により吊下横行部15,16が溝状レール部11a、12a内で、湾曲方向c、dにそれぞれ軌跡を描くようにして図3(b)のように、それぞれ移動する。このような吊下横行部15,16の移動により、被搬送部材10は、走行ガータ11と12がなす平面に略平行な平面で旋回するようにしてその向きを変えながら図3(b)の位置に至る。
【0041】
次に、走行ガータ11,12を更に接近させることで吊下横行部15,16を同様にして更に移動させ、図3(c)のように、吊下横行部15,16を結ぶ直線が図1の方向tとほぼ同じ向きになるまで移動させる。かかる移動により、長尺の被搬送部材10が図2の一点鎖線の円eの軌跡を描きながら、図3(a)の搬送方向aに向いた被搬送部材10が図3(c)のように90度旋回することができ、被搬送部材10の搬送方向を直角に変えることができる。
【0042】
なお、図3(c)では、走行ガータ11,12を互いが接触する程度まで接近させているが、被搬送部材10の長手方向が方向tと同じになれば、接触前に走行ガータ11,12の接近移動を停止する。
【0043】
以上のように、第1の実施の形態の天井走行クレーンによれば、図1の工場2内で2機の天井走行クレーンで長尺の被搬送部材10を搬送方向a(走行軸p)に長手方向が向いた状態でタンデム搬送し、搬出入部3で、被搬送部材10を90度旋回させて被搬送部材10の長手方向の向きを変えてから、図2,図3の一点鎖線で示すように搬送用トラックTを図1の方向tに搬出入部3に接近させて、被搬送部材10を搬送用トラックTに積み込むことができる。
【0044】
図1〜図3の天井クレーンは、図1において搬送用トラックTが敷地1の関係で、図1の方向tからしか工場2の搬出入部3にアクセスできない場合に有効であり、また、専用の回転機構を搭載した旋回ビームを装着する構成やターンテーブルの設置する従来技術と比べて、非常に経済的である。
【0045】
〈第2の実施の形態〉
【0046】
図4は第2の実施の形態による天井走行クレーンの走行ガータの概略的構成を示す上面図(a)乃至(d)である。図5は図4の天井走行クレーンによる被搬送部材の各旋回動作を説明するための上面図(a)乃至(c)、上面図(a)乃至(c)の方向xから見た側面図(d)乃至(f)、及び上面図(a)乃至(c)の方向yから見た正面図(g)乃至(i)である。図6は図4,図5の天井走行クレーンの制御系を示すブロック図である。
【0047】
第1の実施の形態は走行ガータを予め傾斜させた構成であったが、第2の実施の形態による天井走行クレーンは、走行ガータを必要に応じて走行軸に対し傾斜させることができ、また、横行部(横行台車)を自走させるようにしたものである。
【0048】
図4(a)のように、走行ガータ22は、走行レール13,14間に掛け渡されており、図5(d)のように走行レール13側でピン26が固定された走行台車23を有し、ピン26が走行ガータ22の一端部の内径部28に差し込まれて図4の平面内において回動可能に設けられている。
【0049】
更に、走行ガータ22は、走行レール14側でピン27が固定された走行台車24を有し、ピン27が走行ガータ22の他端部の長円状内径部29に差し込まれて図4の平面内において回動可能に設けられているとともに、長円状内径部29で走行台車24のピン27に対し長手方向に直線移動可能になっている。
【0050】
上述のように、走行ガータ22は、走行レール13側でピン26と内径部28により回動可能に、走行レール14側でピン27と長円状内径部29により回動かつ直線移動可能に、走行レール13、14にピン接合されており、図4(a)、図5(a)の走行軸p(図4の横方向)に対しほぼ直角の状態から、図4(b)〜(d)、図5(b)、(c)のように走行軸pに対し傾斜可能になっている。
【0051】
走行台車23は、図6のエンコーダ51aの付属した走行モータ51で図5(d)の車輪23aを駆動することで走行軸p方向に走行レール13上を走行できるようになっている。同様に、走行台車24は、図6のエンコーダ52aの付属した走行モータ52で図5(d)と同様の車輪を駆動することで走行軸p方向に走行レール14上を走行できる。
【0052】
走行ガータ22には、図4(a)のように、その長手方向mに設けた溝22aに沿って移動可能な横行台車25が設けられている。横行台車25は、図6のエンコーダ53aの付属した横行モータ53で図5(d)、(g)の車輪25dを駆動することで走行ガータ22上で長手方向mに横行し自走できるようになっている。また、横行台車25は、図5(d)のように、ワイヤ25bを巻回可能な巻回ドラム25aを正逆回転させることで、ワイヤ25bの先端のフック部25cを上下動させることができる。
【0053】
図5(a)に示すもう1つの走行ガータ21は、上述の走行ガータ22と同様に構成され、走行ガータ21の長手方向に自走する上述と同様に構成された横行台車30を備える。走行ガータ21は、走行台車23,24で走行レール13,14にピン接合され、同様に走行軸p方向に傾斜可能である。
【0054】
走行ガータ21の走行台車23は、図6のエンコーダ54aの付属した走行モータ54で車輪23aを駆動することで走行軸p方向に走行レール13上を走行できる。走行台車24は、図6のエンコーダ55aの付属した走行モータ55で車輪を駆動することで走行軸p方向に走行レール14上を走行できる。横行台車30は、図6のエンコーダ56aの付属した横行モータ56で車輪25dを駆動することで走行ガータ21上で長手方向mに横行し自走できる。
【0055】
また、図4(a)〜(d)のように、走行ガータ22は、走行レール13側の走行台車23の走行位置検出のための位置センサ61と、走行レール14側の走行台車24の走行位置検出のための位置センサ62と、横行台車25の走行ガータ22の長手方向mにおける横行位置検出のための位置センサ63と、を備える。また、図4(d)のように、走行ガータ21は、走行レール13側の走行台車23の走行位置検出のための位置センサ64と、走行レール14側の走行台車24の走行位置検出のための位置センサ65と、横行台車30の走行ガータ21の長手方向mにおける横行位置検出のための位置センサ66と、を備える。各位置センサ61〜66は、例えば接触センサから構成でき、それぞれ複数の要所で各位置を検出できるようになっている。
【0056】
図6を参照して図4,図5の天井走行クレーンの制御系について説明する。図4,図5の天井走行クレーンは、例えばCPU(中央演算処理装置)等から構成された制御部50により制御される。制御部50は、具体的には、例えばPC(パーソナルコンピュータ)に含まれるようにして構成でき、PCのキーボードやポインティングデバイス等の入力部57からの入力情報や各センサからの位置情報等に基づいて各制御を行い、必要な各種情報を液晶パネルやCRTからなるPCの表示部59に表示させる。また、PCのハードディスク装置等からなる記憶部58は、図4,図5の天井走行クレーンについての各種データを記憶するとともに、図4,図5の天井走行クレーンを所定のシーケンスで作動させるように作成されたプログラムをインストールし、かかるプログラムを必要に応じて読み出すことができる。
【0057】
制御部50は、走行ガータ22の走行レール13側の走行台車23を駆動する走行モータ51,同じく走行レール14側の走行台車24を駆動する走行モータ52及び横行台車25を駆動する横行モータ53を制御する。更に、制御部50は、走行ガータ21の走行レール13側の走行台車23を駆動する走行モータ54,同じく走行レール14側の走行台車24を駆動する走行モータ55及び横行台車30を駆動する横行モータ56を制御する。
【0058】
各モータ51〜56はサーボモータから構成でき、各エンコーダ51a〜56aはアブソリュートエンコーダから構成でき、各モータ51〜56は各エンコーダ51a〜56aの各検出結果に基づいて制御される。
【0059】
走行ガータ22の走行台車23,24は、走行モータ51、52で駆動され、その走行レール13、14に対する各走行位置が各エンコーダ51a、52aで検出できるが、これらの各走行位置は、位置センサ61,62による走行位置検出結果に基づいて適宜修正できる。また、横行台車25は横行モータ53で駆動され、走行ガータ22に対する横行位置がエンコーダ53aで検出できるが、この横行位置は位置センサ63による横行位置検出結果に基づいて適宜修正できる。
【0060】
同様に、走行ガータ21の走行台車23,24は、走行モータ54,55で駆動され、その走行レール13、14に対する各走行位置が各エンコーダ54a、53aで検出できるが、これらの各走行位置は、位置センサ64,65による位置検出結果に基づいて適宜修正できる。また、横行台車30は横行モータ56で駆動され、走行ガータ21に対する横行位置がエンコーダ56aで検出できるが、この横行位置は位置センサ66による横行位置検出結果に基づいて適宜修正できる。
【0061】
次に、図4〜図6の天井走行クレーンの動作について説明するが、基本的動作は図1〜図3と同じであるので、主に、走行ガータ22,21を走行軸pに対し傾斜させる動作及び走行ガータ22,21の横行台車25,30を移動させる動作について説明する。
【0062】
図4(a)、図5(a)、(d)、(g)のように、各走行ガータ22,21は走行レール13,14、走行軸pに対しほぼ直角に位置し、横行台車25,30から吊り下げられた2本のワイヤ25bの各先端のフック部25cで被搬送部材10を2箇所で支持し吊り下げる。この状態で、各走行ガータ22,21を、各走行台車23,24で走行モータ51,52,54,55により一定速度で走行させ、走行ガータ22,21間の相対距離を一定に保って被搬送部材10を搬送する。
【0063】
次に、例えば図1の搬出入部3に達すると、図4(b)、図5(b)、(e)、(h)のように、走行モータ51,52,54,55を止めて走行ガータ22,21を停止させる。
【0064】
次に、走行ガータ22,21について走行モータ52,55を駆動し走行レール14側の各走行台車24を図の右方に所定距離だけ移動させると、走行ガータ22は、ピン26,27を中心に図の時計回り方向に回動するとともにピン27に対し長円状内径部29で直線移動して走行軸pに対し傾斜する。また、走行ガータ21も同様にして走行軸pに対し傾斜する。これらの傾斜角は、図4(b)、(c)のように、各走行台車24の各走行台車23に対する走行軸p方向における相対距離により変化する。
【0065】
そして、上述の走行ガータ22,21の傾斜移動とほぼ同時に、図4(b)のように、走行ガータ22の横行台車25を横行モータ53の駆動で走行レール14側に横行させかつ走行ガータ21の横行台車30を横行モータ56の駆動で走行レール13側に横行させるようにして互いに逆方向に移動させることで、フック部25cで支持された被搬送部材10を図の時計回り方向に旋回させる。
【0066】
次に、図4(d)、図5(c)、(f)、(i)のように、走行ガータ21が停止した状態で走行モータ51,52を駆動して、走行ガータ22を図の右方に移動させて走行ガータ21に接近させるとともに、走行ガータ22の横行台車25を走行レール14側に更に横行させかつ走行ガータ21の横行台車30を走行レール13側に更に横行させることで、フック部25cで支持された被搬送部材10を90度旋回させる。
【0067】
次に、図4〜図6の天井走行クレーンの制御部50による具体的な制御について図7のフローチャートを参照して説明する。
【0068】
まず、走行ガータ22と21との間の相対間隔(被搬送部材10の吊り間隔)を図6の入力部57から入力する(S01)。次に、制御部50で走行ガータ22と21の旋回動作開始前の停止位置を演算し、停止後の走行位置と横行位置の関係式から旋回時の各走行位置と各横行位置を演算する(S02)。
【0069】
次に、走行モータ51,52,54,55を駆動して走行ガータ22,21を移動させながら、各走行モータ51,52,54,55及び各横行モータ53,56の各エンコーダ情報を取り込むことで、走行ガータ22、21の走行台車23の各走行位置情報、走行台車24の各走行位置情報、横行台車25,30の各横行位置情報を得る(S03)。
【0070】
次に、走行ガータ22,21が所定位置(例えば、図1の図1の搬出入部3)に接近したことをエンコーダ情報(または位置センサ61,62,64,65からの走行位置情報)に基づいて検知すると、走行モータ51,52,54,55の低速運転を指示し、次に、所定位置を検知すると、各走行モータの停止を指示する。そして、走行モータ51,52,54,55の独立運転を開始すると同時に、横行モータ53,56により横行台車25,30の横行を開始する。かかる走行及び横行の所定のステップ後の各走行台車23,24の走行位置及び横行台車25,30の横行位置について演算式による誤差演算を行い(S04)、各位置の誤差が許容値以上の場合、誤差修正のためにいずれかの走行台車・横行台車の単独運転を指示する(S05)。
【0071】
次に、上記ステップS03に戻り、各走行台車の各走行位置情報及び各横行台車の各横行位置情報を得て、ステップS04で再演算し、許容誤差範囲内になれば、走行ガータ22,21について次の走行及び横行の運転を継続する(S06)。
【0072】
上述のようにして、被搬送部材10が図5(c)のように90度旋回し走行レール13,14に直交する位置になる(最終ステップS07)まで上記ステップS03〜S06を繰り返す。
【0073】
また、各走行モータ及び各横行モータに付属の各アブソリュートエンコーダ51a〜56aにより各走行台車23,24,横行台車25,30の各絶対位置を検出できるが、要所に設置した各位置センサ61〜66で検出した走行位置及び横行位置をフィードバックし、各位置を修正することが好ましい。
【0074】
以上のように、第2の実施の形態の天井走行クレーンによれば、図1〜図3と同様に、2機の天井走行クレーンで長尺の被搬送部材10をタンデム搬送し、図1の搬出入部3で、被搬送部材10を90度旋回させて被搬送部材10の長手方向の向きを変えてから、搬送用トラックTを図1の方向tに搬出入部3に接近させて、被搬送部材10を搬送用トラックTに積み込むことができる。
【0075】
また、第2の実施の形態の天井走行クレーンは、走行ガータ22,21を接合ピン構造とすることで、長尺物の搬送等の必要な場合にだけ、走行軸pに対して傾斜させることができる。また、図1〜図3と同様に、図1において搬送用トラックTが敷地1の関係で、図1の方向tからしか工場2の搬出入部3にアクセスできない場合に有効であり、また、専用の回転機構を搭載した旋回ビームを装着する構成やターンテーブルの設置する従来技術と比べて、非常に経済的である。
【0076】
また、図7のフローチャートのような各ステップS01〜S07を実行させるようにプログラムしたソフトを図6のPCの記憶部58にインストールし、必要に応じて読み出し、各ステップS01〜S07を自動的に実行させることで、図4〜図7の天井走行クレーンを自動運転することができるので、作業員が面倒な操作を行う必要がなく、簡単に運転可能となる。
【0077】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図1〜図3では、被搬送部材10を搬送用トラックTに積み込んで工場2から搬出する場合を例にして説明したが、これとは逆に、被搬送部材10を搬送用トラックTで工場2内に搬入する場合であってもよく、搬出入部3で、図3(c)のように被搬送部材10を走行ガータ11,12で吊り下げた状態から、走行ガータ11,12を離間するようにして、図3(b)から図3(a)の状態にすることで、被搬送部材10の搬送方向を90度変えることができる。かかる動作は、図4,図5でも同様に行うことができる。
【0078】
また、図2,図3において、吊下横行部15,16を図4、図5のような横行台車25,30と同様の構成にでき、また、走行ガータ11,12の走行を図4、図5のような走行台車23,24と同様にして行うことができ、更に、図6のような制御系を備え、図7と同様にして図2〜図3の天井走行クレーンを自動運転することもできる。
【0079】
また、図1〜図5の各実施の形態では、被搬送部材10を90度旋回させる例を説明したが、必ずしも90度でなくともよく、被搬送部材10を任意の角度だけ旋回させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1の実施の形態による天井走行クレーンを用いた工場及び隣接の工場敷地を概略的に示す上面図である。
【図2】第1の実施の形態による天井走行クレーンの概略的構成を示す上面図である。
【図3】図1,図2の天井走行クレーンによる被搬送部材の各旋回動作を説明するための上面図(a)乃至(c)である。
【図4】第2の実施の形態による天井走行クレーンの走行ガータの概略的構成を示す上面図(a)乃至(d)である。
【図5】図4の天井走行クレーンによる被搬送部材の各旋回動作を説明するための上面図(a)乃至(c)、上面図(a)乃至(c)の方向xから見た側面図(d)乃至(f)、及び上面図(a)乃至(c)の方向yから見た正面図(g)乃至(i)である。
【図6】図4,図5の天井走行クレーンの制御系を示すブロック図である。
【図7】図4〜図6の天井走行クレーンの制御部による具体的な制御のステップを説明するためのフローチャートである。
【図8】従来の被搬送部材を旋回させる天井クレーンの構成例を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0081】
10 被搬送部材
11,12 走行ガータ
11a、12a 溝状レール部
13,14 走行レール
15,16 吊下横行部
21,22 走行ガータ
23,24 走行台車
25,30 横行台車
26,27 ピン
28 内径部
29 長円状内径部
50 制御部
51,52,54,55 走行モータ
51a〜56a エンコーダ
53,56 横行モータ
61〜66 位置センサ
a 搬送方向
b 反対方向
m 長手方向
p 走行軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井に所定間隔で平行に配置された一対の走行レールと、
前記走行レール間に掛け渡されて前記走行レールに沿って移動可能な走行ガータと、を備え、
前記走行ガータが前記走行レールの走行軸に対し傾斜していることを特徴とする天井走行クレーン。
【請求項2】
天井に所定間隔で平行に配置された一対の走行レールと、
前記走行レール間に掛け渡されて前記走行レールに沿って移動可能な走行ガータと、を備え、
前記走行ガータが前記走行レールの走行軸に対し傾斜可能であることを特徴とする天井走行クレーン。
【請求項3】
前記走行ガータが傾斜可能なように前記走行レールに両端部で回動可能に接続しており、少なくともいずれか一方の端部で前記長手方向への移動が可能である請求項2に記載の天井走行クレーン。
【請求項4】
請求項1,2または3に記載の天井走行クレーンを2機備え、それぞれが前記走行ガータに設けられた吊り手段を備え、
前記各吊り手段で吊り下げられた被搬送部材を2つの前記走行ガータがなす平面に略平行な平面において前記走行ガータに対し旋回可能であることを特徴とする天井走行クレーン。
【請求項5】
前記各吊り手段は、前記走行ガータの長手方向に沿って移動可能な横行部と、前記横行部から吊り下げられて前記被搬送部材を支持するフック部と、をそれぞれ有する請求項4に記載の天井走行クレーン。
【請求項6】
前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることで前記フック部で支持された被搬送部材を旋回させる請求項5に記載の天井走行クレーン。
【請求項7】
前記各横行部を互いに逆の方向に移動させることで前記フック部で支持された被搬送部材を旋回させる請求項5または6に記載の天井走行クレーン。
【請求項8】
前記走行ガータを移動させるためのガータ走行用モータと、前記ガータ走行用モータに付属し前記走行ガータの位置を検出するエンコーダと、を備える請求項1乃至7のいずれか1項に記載の天井走行クレーン。
【請求項9】
前記横行部を移動させるための横行部用モータと、前記横行部用モータに付属し前記横行部の位置を検出するエンコーダと、を備える請求項5乃至7のいずれか1項に記載の天井走行クレーン。
【請求項10】
前記走行ガータの前記走行軸方向における複数位置を検出するための走行ガータ位置センサを配置した請求項1乃至9のいずれか1項に記載の天井走行クレーン。
【請求項11】
前記横行部の前記長手方向における複数位置を検出するための横行部位置センサを配置した請求項5乃至7、9のいずれか1項に記載の天井走行クレーン。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の天井走行クレーンを用いて被搬送部材を搬送する搬送方法であって、
前記被搬送部材を前記走行ガータで所定の相対距離を保ちながら搬送し、
前記被搬送部材を前記走行ガータに対し旋回させることで前記被搬送部材の搬送方向を変えることを特徴とする搬送方法。
【請求項13】
天井走行クレーンを用いて被搬送部材を搬送する搬送方法であって、
前記被搬送部材を2台の走行ガータの横行部から吊り下げて所定の相対距離を保ちながら搬送し、
前記各走行ガータを前記走行レールの走行軸に対し傾斜させ、
前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることで前記被搬送部材を旋回させることを特徴とする搬送方法。
【請求項14】
天井走行クレーンを用いて被搬送部材を搬送する搬送方法であって、
前記被搬送部材を2台の走行ガータの横行部から吊り下げて所定の相対距離を保ちながら搬送し、
前記各走行ガータを前記走行レールの走行軸に対し傾斜させ、
前記各走行ガータの長手方向に沿って前記各横行部を互いに逆の方向に移動させることで前記被搬送部材を旋回させることを特徴とする搬送方法。
【請求項15】
前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることで前記被搬送部材を旋回させる請求項14に記載の搬送方法。
【請求項16】
前記各横行部を互いに逆の方向に移動させること及び前記各走行ガータを傾斜させることをほぼ同時に行う請求項14または15に記載の搬送方法。
【請求項17】
前記各横行部を互いに逆の方向に移動させること及び前記走行ガータ間の前記走行軸方向の相対距離を変えることをほぼ同時に行う請求項15または16に記載の搬送方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate