説明

天然ゴム系ラテックス組成物および天然ゴム系成形体

【課題】ゴム特有の臭いを現状よりもさらに低減した成形体を製造しうる天然ゴム系ラテックス組成物と、前記天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される天然ゴム系成形体とを提供する。
【解決手段】天然ゴム系ラテックス組成物は、天然ゴム系ラテックスに、分子量が10,000以上のポリフェノールを含有させた。天然ゴム系成形体は、前記天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴム系ラテックスの組成物と、前記組成物を原料として製造される天然ゴム系成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ゴム系ラテックスは安価で加工がしやすい上、前記天然ゴム系ラテックスを原料として製造される成形体の機械的特性にも優れるなどの多くの利点があり、例えば手袋や長靴、玩具、コンドーム等の幅広い分野で利用されている。特に近年、脱石油化学資源が求められる中で、前記天然ゴム系ラテックスは天然由来の材料ということで、その需要がますます増加する傾向にある。
【0003】
しかし天然ゴム系ラテックスを用いて製造される成形体はゴム特有の臭いを有している。特に手袋やコンドームといった直接肌に接する用途ではこの臭いが問題とされ、これら製品の普及を妨げる要因の一つとなっている。臭いの原因は完全には解明されていないものの、ラテックスに含まれるタンパク質が主な原因と考えられている。
天然ゴム系ラテックスは、東南アジア等で広く栽培されている熱帯樹「ヘベアブラジリエンス」から抽出される抽出液(樹液)を生成したものであり、タンパク質や脂質といった不純物を含んでいる。このうちタンパク質が成形体中に残存し、その後分解して空気中に蒸散することで臭いの原因になると推測されている。
【0004】
天然ゴム系ラテックスに特有の前記臭いをなくするため、例えば特許文献1では、ゴムの成形体をアミン化合物と多価アルコールとの配合物で処理している。また特許文献2では、天然ゴム系ラテックス製のスポンジ化粧用パフに、茶抽出物、カテキン、サポニン、タンニン等を染着している。
特許文献3では、コンドームに付着させる水性潤滑剤に、茶ポリフェノールを含有させている。特許文献4では、天然ゴム系ラテックスからなる発泡エラストマーにタンニン酸を含有させている。
【0005】
さらに特許文献5、6では、凝固前の天然ゴム系ラテックス、あるいは凝固させ、粉砕して得た天然ゴムにL−アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、亜硫酸アルカリ金属塩類、亜硫酸アルカリ土類金属塩類、カテキン、トコフェロール、フェノール、レゾルシン、アミノフェノール、キシレノール、フェノール系老化防止剤、p−フェニレンジアミン系老化防止剤、アミン・ケトン系老化防止剤、硫黄系二次老化防止剤等を含有させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−171140号公報
【特許文献2】特開2000−308519号公報
【特許文献3】特開2003−27083号公報
【特許文献4】特開2008−56858号公報
【特許文献5】特開2005−29590号公報
【特許文献6】特開2006−176593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記各特許文献に記載されたいずれかの成分を含有させると、確かにゴムの臭いをある程度は低減することができる。しかしその効果は未だ十分ではなく、さらなる臭いの低減が求められている。
本発明の目的は、ゴム特有の臭いを現状よりもさらに低減した成形体を製造しうる天然ゴム系ラテックス組成物と、前記天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される天然ゴム系成形体とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、分子量が10,000以上という特定のポリフェノールを天然ゴム系ラテックスに含有させると、前記特定のポリフェノールは、前記天然ゴム系ラテックス中に含まれるタンパク質と強い相互作用をして、前記タンパク質を分解しにくい構造に変性させるため、前記ポリフェノールを含む天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いをこれまでに比べて大幅に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、天然ゴム系ラテックスに、分子量10,000以上のポリフェノールを含有させたことを特徴とする天然ゴム系ラテックス組成物である。
前記本発明の天然ゴム系ラテックス組成物は、pH=12以上の条件下で前記ポリフェノールを配合して調製されるのが好ましい。
pH=12以上の条件下では、前記特定のポリフェノール中のフェノール性水酸基の極性が高まるため、天然ゴム系ラテックス中に含まれるタンパク質との相互作用がさらに強化される。そのため、前記タンパク質をより一層分解し難い構造に変性させて、前記天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いをさらに大幅に低減することができる。
【0010】
前記天然ゴム系ラテックスとしては、脱タンパク天然ゴム系ラテックスを用いるのが好ましい。これにより、臭いのもとになるタンパク質の量自体を少なくして、特定のポリフェノールを含有させることによる前記の効果と相まって、天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いをさらに大幅に低減することができる。
本発明の天然ゴム系成形体は、前記本発明の天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造されるため臭いが少なく、様々な用途において臭いを気にせずに製品化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴム特有の臭いを現状よりもさらに低減した成形体を製造しうる天然ゴム系ラテックス組成物と、前記天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される天然ゴム系成形体とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〈天然ゴム系ラテックス組成物〉
本発明の天然ゴム系ラテックス組成物は、天然ゴム系ラテックスに、分子量10,000以上のポリフェノールを含有させたものである。
ポリフェノールは、同一分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であって自然界におよそ4,000種以上存在するといわれている。赤ワインやカカオ等に多く含まれ、抗酸化作用等の効果があることで知られている。
【0013】
ポリフェノールは、抽出される植物によって様々な分子量を持つものがあり、高分子量のものでは分子量がおよそ20,000程度のものも知られている。
特許文献2、3、5、6等において挙げられたカテキン、タンニン、茶ポリフェノールなどもポリフェノールの1種である。しかしこれらの化合物は、いずれも分子量が10,000未満の低分子量のものであって、先に説明したように、天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いを低減する効果は十分ではない。
【0014】
これに対し本発明では、分子量10,000以上のポリフェノールを選択的に使用することにより、タンパク質を分解しにくい構造に変性させて、前記成形体の臭いをこれまでに比べて大幅に低減することができる。
分子量10,000以上のポリフェノールとしては、例えば柿から抽出される柿タンニンが挙げられる。前記柿タンニンは、フラバノール化合物が縮合したプロアントシアニジン骨格を基本とする、分子量13,000〜15,000程度の縮合型タンニンである。
【0015】
前記柿タンニンを主成分とし、粉末状、あるいは液状等としたものが提供されている。例えばリリース科学工業(株)製の商品名パンシルFG−30、FG−70、FG−99、HM−500(以上、柿タンニンの5%水溶液)、PO−10(柿タンニンの5%エタノール溶液)、SBP−K100(白色微粉末状)、(株)トミヤマ製の商品名「柿渋」(液状)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0016】
ただし分子量が10,000以上のポリフェノールであれば、前記柿タンニンに限定されるものではない。分子量が10,000以上であれば同様の効果を奏することができる。
本発明の天然ゴム系ラテックス組成物は、天然ゴム系ラテックスに前記分子量10,000以上のポリフェノールを配合して調製する。その際、天然ゴム系ラテックスのpHを12以上に調整しておくのが好ましい。
【0017】
pH=12以上の条件下では、前記特定のポリフェノール中のフェノール性水酸基の極性が高まるため、天然ゴム系ラテックス中に含まれるタンパク質との相互作用がさらに強化される。そのため、前記タンパク質をより一層分解し難い構造に変性させて、前記天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いをさらに大幅に低減することができる。
【0018】
天然ゴム系ラテックスのpHを12以上に調整するためには、前記天然ゴム系ラテックスに、例えば水酸化カリウム等のアルカリを適量配合すればよい。
天然ゴム系ラテックスとしては、例えばゴム樹液として得られるフィールドラテックスや、あるいはアンモニア保存濃縮ラテックス等の1種または2種以上が挙げられる。
また前記通常の天然ゴム系ラテックスを脱タンパク処理した、いわゆる脱タンパク天然ゴム系ラテックスを用いてもよい。
【0019】
かかる脱タンパク天然ゴム系ラテックスは、未処理の天然ゴム系ラテックスに比べて臭いのもとになるタンパク質の量自体少がないため、前記特定のポリフェノールを含有させることによる効果と相まって、天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いをさらに大幅に低減できる。
前記脱タンパク天然ゴム系ラテックスとしては、前記フィールドラテックスやアンモニア保存濃縮ラテックス等の天然ゴム系ラテックスを、タンパク分解酵素を用いてタンパク分解処理したのち遠心分離処理等によりラテックスを洗浄する方法等、種々の方法によってタンパク質を除去したものがいずれも使用可能である。
【0020】
前記脱タンパク天然ゴム系ラテックスの具体例としては、例えば住友ゴム工業(株)製、丸紅テクノラバー(株)取り扱いの登録商標SELATEX3821等が挙げられる。
天然ゴム系ラテックスに対する分子量10,000以上のポリフェノールの配合量は、通常の天然ゴム系ラテックス、および脱タンパク天然ゴム系ラテックスのいずれにおいても、天然ゴム系ラテックスの乾燥重量100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下であるのが好ましい。
【0021】
配合量が前記範囲未満では、前記ポリフェノールを含有させることによる、天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される成形体の臭いを低減する効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の効果は得られず、経済的でない。
なお前記配合量は、例えば先に説明した柿タンニンの水溶液を用いる場合は、前記水溶液中に含まれる有効成分としての柿タンニンそれ自体の配合量である。
【0022】
〈天然ゴム系成形体〉
本発明の天然ゴム系成形体は、前記本発明の天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造される。前記天然ゴム系成形体としては、例えば手袋、長靴、玩具、コンドーム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例えば浸漬法では、前記天然ゴム系ラテックス組成物に、さらにゴム分を加硫させるための加硫剤その他の添加剤を適量配合して浸漬法用のコンパウンドを調製する。また成形体の立体形状に対応した型を用意し、その表面を凝固処理しておく。
【0023】
そして前記型をコンパウンドに浸漬して一定時間保持したのち引き上げて、前記型の表面にコンパウンドを付着させたのち、乾燥させるとともにゴムを加硫させ、そして脱型することで、本発明の天然ゴム系成形体が製造される。
前記添加剤としては、加硫剤の他に、例えば安定化剤、界面活性剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0024】
このうち加硫剤としては、例えば硫黄等が挙げられる。また安定化剤としては、例えばアンモニアカゼイン等が挙げられる。界面活性剤としては非イオン系界面活性剤が好ましい。加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)等が挙げられる。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華等が挙げられる。老化防止剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)PBK(p-クレソールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物)等が挙げられる。さらに充填剤としては、例えば酸化チタン等が挙げられる。
【0025】
また、型を凝固処理するための凝固剤としては、例えば硝酸カルシウム、塩化カルシウム、有機アルキルアミン塩等のアノード凝固剤、ポリビニルメチルエーテル、シリコーン系感熱化剤等の感熱化剤などが挙げられる。
かくして製造される本発明の天然ゴム系成形体は、先に説明した分子量10,000以上のポリフェノールの効果によって臭いを大幅に低減することができる。そのため、特に手袋やコンドームといった直接肌に接する用途への幅広い利用が期待できる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
〈実施例1〉
天然ゴム系ラテックスとして、脱タンパク天然ゴム系ラテックス〔DPNR、前出の住友ゴム工業(株)製、丸紅テクノラバー(株)取り扱いの登録商標SELATEX3821、ゴム分濃度60質量%〕を用い、水酸化カリウム水溶液を加えてpHを10.7に調整した。
【0027】
次いで前記DPNRに、分子量10,000以上のポリフェノールとしての柿タンニンの5%水溶液〔前出のリリース科学工業(株)製の商品名パンシルFG−30〕を配合して天然ゴム系ラテックス組成物を調製した。DPNRの乾燥重量100質量部あたりの、前記水溶液中に含まれる有効成分としての柿タンニンの配合量は8.5質量部とした。
次いで前記天然ゴム系ラテックス組成物100質量部に、さらに安定化剤としてのアンモニアカゼイン0.3質量部、非イオン系界面活性剤0.3質量部、加硫剤としての硫黄1質量部、加硫促進剤としてのブチルジチオカルバミン酸亜鉛〔前出の大内新興化学工業(株)製のノクセラーBZ〕1質量部、老化防止剤〔前出の大内新興化学工業(株)製のノクラックPBK〕1質量部、および充填剤としての酸化チタン3質量部を配合して浸漬法用のコンパウンドを調製した。
【0028】
次に、陶器製のテストチューブの表面を硝酸カルシウム水溶液で凝固処理した状態で、前記コンパウンドに浸漬し、引き上げて100℃のオーブン中で1時間加熱したのち脱型してチューブ状の試験片を作製した。
〈実施例2〉
天然ゴム系ラテックスとして、脱タンパク処理していない天然ゴム系ラテックス(NR、ゴム分濃度60質量%)を用い、水酸化カリウム水溶液を加えてpHを12.5に調整した。
【0029】
次いで前記NRに、分子量10,000以上のポリフェノールとしての柿タンニンの5%水溶液〔前出のリリース科学工業(株)製の商品名パンシルFG−30〕を配合して天然ゴム系ラテックス組成物を調製した。NRの乾燥重量100質量部あたりの、前記水溶液中に含まれる有効成分としての柿タンニンの配合量は10質量部であった。
次いで前記天然ゴム系ラテックス組成物を使用したこと以外は実施例1と同様にして浸漬法用のコンパウンドを調製し、チューブ状の試験片を作製した。
【0030】
〈実施例3〉
柿タンニンを配合する際のNRのpHを10.7に調整したこと、および前記NRの乾燥重量100質量部あたりの、前記水溶液中に含まれる有効成分としての柿タンニンの配合量を20質量部としたこと以外は実施例2と同様にして天然ゴム系ラテックス組成物を調製し、浸漬法用のコンパウンドを調製し、さらにチューブ状の試験片を作製した。
【0031】
〈比較例1〉
柿タンニンを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして天然ゴム系ラテックス組成物を調製し、浸漬法用のコンパウンドを調製し、さらにチューブ状の試験片を作製した。
〈比較例2〉
柿タンニンを配合しなかったこと以外は実施例3と同様にして天然ゴム系ラテックス組成物を調製し、浸漬法用のコンパウンドを調製し、さらにチューブ状の試験片を作製した。
【0032】
〈比較例3〉
柿タンニンに代えて、分子量が10,000未満であるポリフェノールである茶カテキン〔長良サイエンス(株)製の(−)−エピガロカテキンガレート、分子量458〕を用いたこと、およびDPNRの乾燥重量100質量部あたりの、前記茶カテキンの配合量を20質量部としたこと以外は実施例1と同様にして天然ゴム系ラテックス組成物を調製し、浸漬法用のコンパウンドを調製し、さらにチューブ状の試験片を作製した。
【0033】
〈臭いの評価〉
実施例、比較例で作製したチューブ状の試験片を、新コスモス電機(株)製のポータブル型ニオイセンサmini XP−329mのガス吸入口に被せて、前記試験片から蒸散する臭いを吸引させ、1分後にニオイセンサが表示した数値を「臭い強度」として記録した。臭い強度の数値が小さいほど、臭いは少ないと判定した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、従来の分子量の小さいポリフェノールを配合した場合(比較例3)でも、ある程度は成形体の臭いを低減する効果はあるものの、実施例1〜3に示すように分子量10,000以上のポリフェノールである柿タンニンを配合することで、成形体の臭いを大幅に低減できることが判った。また前記柿タンニンを配合する際のpHを12以上としたり(実施例2)、DPNRを用いたり(実施例1)することにより、成形体のにおいをさらに低減できることも判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム系ラテックスに、分子量10,000以上のポリフェノールを含有させたことを特徴とする天然ゴム系ラテックス組成物。
【請求項2】
pH=12以上の条件下で前記ポリフェノールを配合して調製される請求項1に記載の天然ゴム系ラテックス組成物。
【請求項3】
前記天然ゴム系ラテックスが脱タンパク天然ゴム系ラテックスである請求項1または2に記載の天然ゴム系ラテックス組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の天然ゴム系ラテックス組成物を原料として製造されることを特徴とする天然ゴム系成形体。