説明

天然物由来の原料を用いた高水酸基価を有するウレタン樹脂

【課題】天然物由来の原料を用いた高水酸基価を有するウレタン(ウレア)樹脂を提供することである。
【解決手段】1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールを必須成分として合成されるウレタン樹脂である。
また、前記天然物由来のポリオールが、糖アルコールまたは糖類であることを特徴とする上記ウレタン樹脂が好ましい。さらに、糖アルコールが、D−ソルビットまたはD−マンニットである上記ウレタン樹脂、または、糖類が、フルクトースである上記ウレタン樹脂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高水酸基価を有するウレタン(ウレア)樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂中に水酸基を組み込み、その特性を利用し樹脂塗膜の耐性を向上させたり、あるいは変性サイトとして利用することが従来行われていた。
特にウレタン樹脂の場合、イソシアネート基と水酸基を反応し高分子量化して得られるため、水酸基は基本的に樹脂末端のみに存在し、そのため合成後のウレタン樹脂に多くの水酸基を与えることは困難であった。例えば、従来行われているウレタン樹脂に多くの水酸基を与える方法が、特開平06−103526号公報や特開2005−248063号公報に示されている。
【0003】
しかしながら、特開平06−103526号公報に記載された方法では、樹脂分子量を小さくすることで1分子当たりの末端数が増えて水酸基価は増えるが、十分な塗膜形成性や塗膜物性を得ることができない。あるいは、樹脂骨格中に分岐構造を組み込むことで1分子当たりの末端数を増やすことができるが、分岐構造の導入は合成時にゲル化する問題があるために、その効果は限定的であった。
また、特開2005−248063号公報に記載された方法では、N−(β−アミノエチル)エタノールアミンのような水酸基を有するジアミンを用いて鎖延長し、ウレタンウレア樹脂に水酸基を導入するが、ウレア基の導入は樹脂を硬くしてしまい、過度の導入で可撓性など塗膜物性に不都合を生じる場合がある。あるいは、エポキシ樹脂のような水酸基を有する他樹脂と複合化する方法もあるが、他の樹脂の比率を増やすとウレタン樹脂の特性が損なわれる問題があった。
さらに、天然物由来の原料(糖アルコールや糖類など)を用いたウレタン樹脂は、合成条件の策定が困難であり、優れた塗膜物性、硬化剤との良好な反応性などを満たすことができなかった。
【特許文献1】特開平06−103526号公報
【特許文献2】特開2005−248063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、天然物由来の原料を用いた高水酸基価を有するウレタン(ウレア)樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールを必須成分として合成されるウレタン樹脂に関する。
また、前記天然物由来のポリオールが、糖アルコールまたは糖類であることを特徴とする上記ウレタン樹脂が好ましい。また、糖アルコールが、D−ソルビットまたはD−マンニットである上記ウレタン樹脂が好ましい。また、糖類が、フルクトースである上記ウレタン樹脂が好ましい。
また、樹脂骨格中にウレア結合を有する上記ウレタン樹脂が好ましい。また、樹脂骨格中にエステル結合を有する上記ウレタン樹脂が好ましい。
また、1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールと、不飽和脂肪酸と、縮合剤とを用いて、常温で合成される上記ウレタン樹脂が好ましい。また、縮合剤がジシクロヘキシルカルボジイミドである上記ウレタン樹脂が好ましい。
また、水酸基価が10mgKOH/g以上であることを特徴とする上記ウレタン樹脂が好ましい。
【0006】
次に、本発明は、上記ウレタン樹脂を水またはアルコールで希釈することにより得ることができる樹脂ワニスに関する。
【0007】
次に、本発明は、1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールおよびポリイソシアネート化合物を必須成分として、実質的に前記ポリオール中の1級水酸基をイソシアネート化合物と反応させることにより、前記ポリオール中の2級水酸基を残存させることを特徴とするウレタン樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ウレタン樹脂に多くの水酸基を持たせることができる。これにより、本発明は下記(1)〜(6)の効果を奏する。
(1)塗膜物性の向上
(2)樹脂と硬化剤との反応性向上
(3)水、アルコールへの溶解性向上
(4)吸湿性を利用したバリアコート剤の提供
(5)変性サイトを有する樹脂の提供
(6)非石油系原料を用いているため、環境への負荷低減に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のウレタン樹脂は、1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールとポリイソシアネートとを反応せしめたものである。
【0010】
<糖アルコール、糖類>
1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールとして糖アルコールや糖類が挙げられる。
以下にその例を挙げるが、記載は光学異性体(D体、L体)を含むものである。また、これらのポリオールは単体で用いることも出来るし、目的に応じ適宜組み合わせて用いることも出来る。
【0011】
(糖アルコール)
糖アルコールとしてはグリセリン、トレイット、エリトリット、アラビット、リビット、キシリット、ソルビット、マンニット、イジット、タリット、ガラクチット、アリット、アルトリットなどが挙げられる。
【0012】
(糖類)
糖類としては単糖類、二糖類、多糖類が挙げられる。合成の容易さから単糖類、二糖類が扱いやすく好ましい。
単糖類としてはグリセリンアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロースなどのアルドース類;や、セドヘプツロース、マンノヘプツロース、エリトルロース、リブロース、キシルロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトースなどのケトース類;が挙げられる。
二糖類としてはマルトース、スルロース、セロビオース、ラクトースなどが挙げられる。
【0013】
<ポリイソシアネート>
ポリイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のポリイソシアネート化合物を使用することができる。
例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'−ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ブタン−1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ポリイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等を例示することができる。
さらに必要に応じ3官能以上のポリイソシアネートを併用することもできる。
【0014】
<その他のポリオール>
一分子中に一つ以上の1級水酸基と一つ以上の2級水酸基を同時に有する天然物由来のポリオール以外にも、必要に応じて公知のウレタン合成に使用されるその他のポリオールを併用してもよい。ただし、イソシアネート基と反応させる水酸基が2級水酸基、3級水酸基の場合、糖アルコール・糖類を反応させる前に、あらかじめポリイソシアネートと反応させておく必要がある。
用いうるポリオールとしては、低分子ジオール、あるいは、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオールなどのポリマージオールなどを挙げることができる。これらのポリオールの1種または2種以上を用いて本発明のウレタン樹脂を形成することができる。また必要に応じてトリメチロールプロパンなど3つ以上の1級水酸基を有するポリオールも使用できる。
【0015】
(低分子ジオール)
低分子ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル−1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチレンジオール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水添ビスフェノールAなどの飽和または不飽和の低分子ジオール類がある。
【0016】
(ポリマージオール)
ポリエステルジオールとしては、
上記低分子ジオール類、n-ブチルグリシジルエーテル、および2-エチルヘキシルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル類またはバーサティック酸グリシジルエステルなどのモノカルボン酸グリシジルエステル類と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸またはセバシン酸などのジカルボン酸類あるいはこれらの無水物やダイマー酸とを脱水縮合または重合させて得られるポリエステルジオール類;
環状エステル化合物を開環重合して得られるポリカプロラクトンジオール類;
乳酸、リシノール酸、12ヒドロキシステアリン酸、4-ヒドロキシ-3-メトキシシンナミック アシド、2-ヒドロキシ-3-メチルペンタノイック アシド、2-ヒドロキシ-4-メチルバレリック アシド、3-ヒドロキシブチリック アシド、3-ヒドロキシヘキサノイックアシド、アレウチン酸、を合脱水縮合または重合して得られるポリエステル類;
などのポリエステルジオール類が挙げられる。
【0017】
ポリカーボネートジオールとしては、低分子ジオールとカーボネイトとを反応させて得られるポリカーボネートジオール類が挙げられる。
ポリエーテルジオールとしては、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフラン等の重合体もしくは共重合体等のポリエーテルジオール類;ポリブタジエングリコール類;ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールAに酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加させて得られるグリコール類などが挙げられる。
【0018】
(極性基)
本発明のウレタン樹脂は、必要に応じて、SO3M基、COOM基(M:水素原子またはアルカリ金属、またはアンモニウム)などの極性官能基を含有してもよい。
SO3M基の導入法としては、2−ナトリウムスルホ−1,4−ブタンジオール、2−カリウムスルホ−1,4−ブタンジオール等のスルホン酸金属塩含有グリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホコハク酸等のスルホン酸金属塩含有ジカルボン酸、ビスヒドロキシエチルタウリンの金属塩もしくは4級アンモニウム塩等を前述の長鎖ポリオール原料として、および/または、低分子ジオールとして用いる方法が挙げられる。
COOM基の導入法としては、ビス(2,2 -ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,3-ジヒドロキシプロピオン酸、2,3 -ジヒドロキシ-メチルプロピオン酸、2,2 -ジヒドロキシメチルプロピオン酸、2,3 -ジヒドロキシ-2-(1-メチルエチル)ブタン酸、3,11−ジヒドロキシテトラデカン酸、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸、1 , 2 -ジヒドロ- 6 -ヒドロキシ- 2 -オキシ- 4 -ピリジンカルボン酸、2 , 3 -ジヒドロキシブタン二酸、2, 3 -ジヒドロキシ- 2 -メチルブタン二酸等、及び、これらの塩を前述の長鎖ポリオール原料としておよび/または、低分子ジオールとして用いる方法が挙げられる。
COOM基の導入は、合成中に水酸基とエステル化することを防ぐために、十分低温で行うことが好ましい。
【0019】
<合成条件>
【0020】
合成条件は公知のウレタン樹脂の合成と同様であり、反応に供すべき水酸基とポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基を反応し、ウレタン結合を形成することでウレタン樹脂を得る。この際、反応に供すべき水酸基数がイソシアネート基数より多ければ、樹脂末端は水酸基となり、逆にイソシアネート基数が多ければ末端はイソシアネート基となる。
反応に供すべき水酸基数とイソシアネート基数の差が大きいほど分子量が小さくなるが、例えばイソシアネート基数に対し反応に供すべき水酸基数が極端に多い場合、多くの未反応ポリオールが残存する。また、反応に供すべき水酸基数とイソシアネート基数が等しい場合(計算上分子量が無限に伸びてしまう)には、高分子量となりすぎてゲル化する可能性がある。
【0021】
(反応条件)
反応は諸原料を一括に反応させる方法又は各原料を逐次反応させる方法のいずれでも可能だが、糖アルコール・糖類中の1級水酸基が反応し、かつ、2級水酸基が反応しない条件を選択することが重要である。
2級水酸基が著しく反応する条件では立体架橋により部分的な高分子量化を生じ、極端な場合は合成中にゲル化を生じる。
1級水酸基が反応し、かつ、2級水酸基が反応しない具体的な反応は、糖アルコール・糖類を反応する際に反応温度を十分に低くする方法、反応性の低いイソシアネート基を利用する方法および末端イソシアネートのプレポリマーを合成した後に糖アルコール・糖類を反応する方法などを便宜選択し、或いは組み合わせて行う。
【0022】
(溶剤)
合成は有機溶剤中、水中もしくは無溶剤で行われる。
有機溶剤としては、ウレタン合成に用いられる一般的な溶剤を用いることができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;テレビン油やシメン等のテルペン類やリモネン等天然物由来の有機溶剤等が挙げられる。
また、無溶剤で合成を行った後に上記の有機溶剤で溶解する方法、メタノール、エタノール、ブチルアルコール、プロピルアルコール、フルフリルアルコール等のアルコールで溶解しアルコールワニスとする方法、又は水に溶解あるいは分散し水性ワニスとする方法を利用することもできる。
【0023】
(触媒)
製造の際には、必要に応じて反応触媒を添加することができる。このような触媒としては、オクチル酸スズ、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズモノオクチレート、モノブチルスズモノアセテート、モノブチルスズマレイン酸塩、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジステアレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレイン酸塩などの有機スズ化合物;テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートなどの有機チタン化合物;トリエチルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの3級アミン;などを挙げることができる。
【0024】
<ウレア導入>
また、本発明のウレタン樹脂が有するウレタン結合に加え、樹脂骨格中にウレア結合を導入することも可能である。
ウレア結合の導入はウレタン化した末端イソシアネート基のプレポリマーにアミンを反応する方法、予めウレア化した後ウレタン化する方法、ウレタン化と同時に行う方法のいずれも可能である。
ウレア化に用いるアミンとしてはジヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類; これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
また、分子量調整のためジブチルアミン等のモノアミンを併用しても良い。
【0025】
<樹脂特性>
得られた樹脂の水酸基価は用途に応じて自由に調整できる。特に10mgKOH/g以上が好ましく、20mgKOH/g以上がさらに好ましい。水酸基価が10mgKOH/gを下回ると、硬化剤と混合反応した際に水酸基の導入によって硬化性向上させる等の効果を十分に得ることができない。ただし、耐水性・耐湿性が要求される用途においては、水酸基価が100mgKOH/gを上回るとこれらの物性が低下する場合がある。
また、水酸基価が100mgKOH/gを上回るときは、合成中の粘度上昇を防ぐために適宜溶剤を併用することが好ましい。例えば、極性溶剤などを併用することが好ましい。
【0026】
<後変性>
ウレタン樹脂中の水酸基は従来の方法により様々な後変性を行うことが出来るが、本発明のウレタン樹脂は通常のウレタン樹脂に比べ多くの水酸基を有するため、より多く変性の効果が期待出来る。
後変性方法の例を挙げると、2−メタクロイルオキシエチルイソシアネート、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等の(メタ)アクリレートを有するモノイソシアネートを反応することにより放射線硬化性を付与することが出来るし、また無水コハク酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸等の酸無水物を反応することで、ウレタン樹脂の可撓性を損なうことなく高酸価ウレタン樹脂とすることが可能である。
【0027】
さらに、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N‘−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドおよびその塩酸塩、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩、ジフェニルホスホリルアジド等の縮合剤を用いてウレタン結合が分解しない条件で反応することで、ウレタン樹脂合成後に脂肪酸等をエステル化することが可能である。
例えば、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ピラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸を用いて樹脂の粘性挙動を制御出来る。
また、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プロピオール酸、ステアロール酸、亜麻仁油脂肪酸等の不飽和脂肪酸を用いることで、熱あるいは常温硬化性(金属ドライヤーを併用してもよい)、放射線硬化性(光開始剤、ポリチオールと併用してもよい)を与えることが出来る。
そのほかにメチロール化、ハロゲン化合物との反応、アルデヒド基との反応等が考えられる。
【0028】
<塗膜の硬化>
また、本発明のウレタン樹脂に各種硬化剤を配合することで、その塗膜物性を向上することが出来る。硬化剤としては通常のイソシアネート硬化剤の他に、金属アルコキシドとしてテトラエチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ2−エチルヘキシルチタネート、テトラステアリルチタネート等のチタンアルコキシド;テトラエチルジルコネート、テトラブチルジルコネート、テトラプロピルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラ2−エチルヘキシルジルコネート、テトラステアリルジルコネート等のジルコニウムアルコキシド;アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート等のアルミニウムアルコキシド;等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、文中、部および%は、特に断らない限り重量部および重量%を表す。
【0030】
(実施例1)樹脂および樹脂ワニスの製造
温度計、撹拌装置、還流冷却管を備えた4つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオール30部、イソホロンジイソシアネート(以下IPDI)98.8部、シクロヘキサノン120部、ジブチルラウリル酸すずの10%MEK溶液(以下触媒)0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温して90℃、4時間保持した。放冷後、D−ソルビット19.3部、ポリエーテルジオール(保土ヶ谷化学PTG850SN、水酸基価129.2以下同じ)91.9部を加え、120℃まで徐々に昇温し、赤外線(IR)吸収ピーク測定でイソシアネートのピークが消失するまで反応を続けた。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK440部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価(JIS K3342による、以下同じ)は109mgKOH/g、分子量(GPCによるスチレン換算の重量平均分子量、以下同じ)は21000であった。
【0031】
(実施例2)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール173.2部、IPDI55.4部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃、4時間保持した。放冷後、D−ソルビット11.4部を加え、120℃まで徐々に昇温し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK560部を加え溶解後冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は64mgKOH/g、分子量は32000であった。
【0032】
(実施例3)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、1,6−ヘキサンジオール43部、IPDI141.7部、シクロヘキサノン120部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃、4時間保持した。放冷後、D−ソルビット55.3部を加え、窒素を吹き込みながら、120℃まで徐々に昇温し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK440部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は298mgKOH/g、分子量は12500であった。
【0033】
(実施例4)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、1,6−ヘキサンジオール30部、IPDI98.8部、ジメチルホルムアミド120部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃、4時間保持した。放冷後、D−マンニット19.3部、ポリエーテルジオール91.9部を加え、窒素を吹き込みながら、120℃まで徐々に昇温し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK440部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は109mgKOH/g、分子量は45000であった。
【0034】
(実施例5)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール173.3部、D−フルクトース11.2部、IPDI55.5部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃、4時間保持した。その後120℃まで徐々に昇温し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK560部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は50mgKOH/g、分子量は60000であった。
【0035】
(実施例6)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール183.5部、ヘキサメチレンジイソシアネート44.4部、MEK240部、触媒0.1部を仕込み窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し70℃で4時間反応しプレポリマーを合成した。実施例1と同様の別の装置に、D−ソルビット12.0部をnメチルピロリドン160部に溶解し窒素を吹き込みながら、50〜60℃を保持し攪拌しながら、プレポリマー468部を1時間かけて滴下し、滴下缶に残ったプレポリマーをMEK60部で洗い落とした。温度条件を保ちながらIRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK100部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は68mgKOH/g、分子量は55000であった。
【0036】
(実施例7)樹脂および樹脂ワニスの製造と溶解性
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール110.6部、シクロヘキシルジメタノール13.1部、IPDI84.9部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温して90℃4時間反応した。放冷後、D−ソルビット8.1部、シクロヘキシルジメタノール23.3部を加え、窒素を吹き込みながら、120℃まで徐々に昇温し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、エタノール360部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価(樹脂を乾固した後に測定)は61.5mgKOH/g、分子量は23000であった。ワニスは室温放置で透明、流動性を保持していた。
【0037】
(実施例8)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール190.5部、IPDI85.3部、nメチルピロリドン175部、触媒0.1部を仕込み窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃で2時間反応した。放冷後、D−ソルビット20.0部を加え、窒素を吹き込みながら昇温し、90℃で3時間反応させた後、酢酸エチル262.5部を加えプレポリマーを得た。実施例1と同様の別の装置に、エチレンジアミン2.8部、ジブチルアミン0.6部酢酸エチル180部を仕込み、40〜50℃を保持し攪拌しながら、プレポリマー586.9部を30分かけて滴下し、滴下缶に残ったプレポリマーを酢酸エチル30部で洗い落とした。滴下終了後40〜50℃で1時間保持した後、温度を70℃に上げ2時間反応し、IRでイソシアネートのピークが消失したのを確認して反応を終了した。分子量は32000であった。
【0038】
(実施例9)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1で得られた樹脂ワニス150部を製造例1と同様の装置にとり、亜麻仁油脂肪酸26.5部、4−ジメチルアミノピリジン9.6部、MEK61.9部を加え攪拌しながら氷冷し0℃まで冷却した。これにジシクロヘキシルカルボジイミド(以下、DCCという)22.3部を加え、攪拌状態で0℃付近を保持しDCCの溶解を確認後、氷冷をはずし室温まで自然昇温し、室温で3時間攪拌を続けた。一晩静置後、析出したジシクロヘキシルウレアを濾別し樹脂ワニスを得た。
【0039】
(比較例1)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、1,6−ヘキサンジオール17.4部、ポリエーテルジオール153.7部、IPDI68.9部、シクロヘキサノン120部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温して90℃を保持し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK440部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は7mgKOH/g、分子量は30000であった。
【0040】
(比較例2)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール212.8部、IPDI27.2部、シクロヘキサノン120部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温して90℃を保持し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、MEK440部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価は57.3mgKOH/g、分子量は6500であった。
【0041】
(比較例3)樹脂および樹脂ワニスの製造
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール164.2部、トリメチロールプロパン16.9部、IPDI58.9部、シクロヘキサノン120部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃を保持し反応したが、イソシアネートのピークが消失する以前にゲル化した。
【0042】
(比較例4)樹脂および樹脂ワニスの製造と溶解性
実施例1と同様の装置に、ポリエーテルジオール111.4部、シクロヘキシルジメタノール43.1部、IPDI85.5部、触媒0.1部を仕込み、窒素を吹き込みながら、発熱反応を利用し徐々に昇温し90℃を保持し、IRでイソシアネートのピークが消失するまで反応した。イソシアネートのピーク消失を確認後、エタノール360部を加え冷却し取り出した。得られた樹脂の水酸基価(樹脂を乾固した後に測定)は20.0mgKOH/g、分子量は20000であったが、室温放置でワニスは白濁しプリン状となった。
【0043】
(実施例10)硬化塗膜の調整・評価
実施例1で得られた樹脂ワニス30部にポリイソシアネート系硬化剤(日本ポリウレタン工業製コロネートL)1部を混合し、PETフィルム上にワイヤーバー#10で塗布し風乾した後に80℃で一晩硬化して樹脂塗膜を得た。その後、下記の評価方法で評価した。
【0044】
(実施例11〜16)、(比較例5,6)
実施例2〜6、8および比較例1〜2で得られた樹脂ワニスについても実施例10と同様にして樹脂塗膜を得た。その後、下記の評価方法で評価した。
【0045】
(実施例17)
実施例9で得られた樹脂ワニスをアルミ板上にワイヤーバー#10で塗布し、風乾した後に150℃3時間硬化して樹脂塗膜を得た。その後、下記の評価方法で評価した。
【0046】
(比較例7)
比較例1で得られた樹脂ワニス30部に亜麻仁油5.4部、MEK12.4部を配合し実施例17と同様の方法で塗布〜硬化して樹脂塗膜を得た。その後、下記の評価方法で評価した。
(比較例8)
比較例1で得られた樹脂ワニス30部に亜麻仁油脂肪酸5.4部、MEK12.4部を配合し実施例17と同様の方法で塗布〜硬化して樹脂塗膜を得た。その後、下記の評価方法で評価した。
【0047】
得られた樹脂塗膜を以下の方法で評価した。評価結果を表1および表2に示す。
表面タック:指触により、べたつき度合いを判定
○(タック無し)
×(タックあり)
耐溶剤性:MEKを含浸した綿棒で樹脂塗膜をこすり、塗膜がとられるまでの往復回数を測定
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1および表2から、本発明により良好な耐性を有する樹脂塗膜を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールを必須成分として合成されるウレタン樹脂。
【請求項2】
前記天然物由来のポリオールが、糖アルコールまたは糖類であることを特徴とする請求項1記載のウレタン樹脂。
【請求項3】
糖アルコールが、D−ソルビットまたはD−マンニットであることを特徴とする請求項2記載のウレタン樹脂。
【請求項4】
糖類が、フルクトースであることを特徴とする請求項2記載のウレタン樹脂。
【請求項5】
樹脂骨格中にウレア結合を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のウレタン樹脂。
【請求項6】
樹脂骨格中にエステル結合を有することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のウレタン樹脂。
【請求項7】
1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールと、不飽和脂肪酸と、縮合剤とを用いて、常温で合成される請求項6記載のウレタン樹脂。
【請求項8】
縮合剤がジシクロヘキシルカルボジイミドである請求項7記載のウレタン樹脂。
【請求項9】
水酸基価が10mgKOH/g以上であることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項に記載のウレタン樹脂。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項に記載のウレタン樹脂を水またはアルコールで希釈することにより得ることができる樹脂ワニス。
【請求項11】
1個以上の1級水酸基と1個以上の2級水酸基とを有する天然物由来のポリオールおよびポリイソシアネート化合物を必須成分として、実質的に前記ポリオール中の1級水酸基をイソシアネート化合物と反応させることにより、前記ポリオール中の2級水酸基を残存させることを特徴とするウレタン樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2007−161905(P2007−161905A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361070(P2005−361070)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】