説明

天然素材固形糊

【課題】固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい天然材料固形糊を提供する。
【解決手段】K値が30〜120であるポリビニルピロリドンと、プルランと、ゲル化剤と、水と、を少なくとも含んでなり、前記ポリビニルピロリドンおよび前記プルランを重量基準で20〜60%含み、前記ポリビニルピロリドンと前記プルランとの配合割合が、重量基準で2:8〜8:2であり、前記ゲル化剤を重量基準で2〜6%含む固形糊とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、固形糊に関し、さらに詳細には、天然素材を含有した固形糊に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固形糊は、一般的に、接着成分、溶媒としての水、および固化剤としてのゲル化剤などから構成される。従来の固形糊は、ポリビニルピロリドン(以下、PVPとも言う)やポリビニルアルコール(以下、PVAとも言う)などの接着成分を主成分とした化学合成材料からなるものであり、天然素材を用いた固形糊は知られていない。人体や環境への配慮から、天然素材を用いた固形糊が希求されている。
【0003】
ところで、澱粉を原料とした、いわゆる黒酵母とも言われるオーレオバシディウム・プルランスを培養して得られる天然の中性多糖であるプルランが知られている。プルランは急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、変異原性などの試験において安全性が確認されており、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives,JECFA)の第65回会議(2005年6月)において、一日摂取許容量(一日における体重1kg当たりの摂取許容量,acceptable daily intake,ADI)は「特定しない(not specfied)」とされている。化粧品分野において、プルランは「医薬部外品原料規格」に収載されており、薬用化粧品、育毛剤、浴用剤等に上限なく使用できることが、「医薬部外品添加物リスト」に示されている。医薬品においては「医薬品添加物規格1998(平成10年3月4日医薬発第178号厚生省医薬安全局長通知)」に収載されていたものが削除され、第十五改正日本薬局方(平成18年3月31日厚生労働省告示第285号)に収載された天然素材である。
【0004】
また、天然素材としてプルランを活用した一例として、例えば、食品材料に適用したものや(特開2007−295895号公報)、増粘剤に適用したものや(特開2006−166928号公報)、カプセル材料に適用したものや(特開2006−022028号公報)、脱水剤に適用したもの(特開2000−159788号公報)などが提案されている。
【特許文献1】特開2007−295895号公報
【特許文献2】特開2006−166928号公報
【特許文献3】特開2006−022028号公報
【特許文献4】特開2000−159788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、今般、PVPを主体とする固形糊に天然素材であるプルランを特定量添加することにより、固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい固形糊を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0006】
したがって、本発明は、固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい天然材料固形糊を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による天然材料固形糊は、K値が30〜120であるポリビニルピロリドンと、プルランと、ゲル化剤と、水と、を少なくとも含んでなり、前記ポリビニルピロリドンおよび前記プルランを重量基準で20〜60%含み、前記ポリビニルピロリドンと前記プルランとの配合割合が、重量基準で2:8〜8:2であり、前記ゲル化剤を重量基準で2〜6%含む、ことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の好ましい態様においては、固形糊の糸引き抑制剤として、塩化ナトリウムを重量基準で1〜3%さらに含む。
【0009】
また、本発明の好ましい態様においては、保湿剤として、グリセリンを重量基準で1〜5%さらに含む。
【0010】
また、本発明の好ましい態様においては、変色抑制剤として、亜硫酸ナトリウムを重量基準で0.1〜2%さらに含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリビニルピロリドンおよび前記プルランを重量基準で20〜60%含み、前記ポリビニルピロリドンと前記プルランとの配合割合を重量基準で2:8〜8:2の範囲とすることにより、固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい固形糊を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による天然材料固形糊は、接着成分としてプルランおよびポリビニルピロリドンを含有し、固化剤としてのゲル化剤および水を少なくとも含む天然素材固形糊である。以下、各成分について説明する。
【0013】
天然材料固形糊の粘着成分であるポリビニルピロリドンは、K値が30〜120の範囲のものが用いられる。K値が30未満であると固形糊の粘着力が低下する。一方、K値が120を超えても、粘着力が向上しないばかりか材料コストの観点から経済的に不利である。なお、K値とは、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される25℃での相対粘度値である。K値が30〜120の範囲のポリビニルピロリドンとしては、固形糊材料として従来公知のものを用いることができる。例えば、K値が30であるポリビニルピロリドンとしては、例えば、第一工業製薬(株)製の製品名「ピッツコールK−30」を好適に使用することができる。また、K値が120であるポリビニルピロリドンとしては、例えば、第一工業製薬(株)製の製品名「ピッツコールK−120L」を好適に使用することができる。
【0014】
天然材料固形糊の粘着成分であるプルランは、澱粉を原料とし、黒酵母とも言われるオーレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)を培養して得られる天然材料であり、グルコースのみからなる中性多糖類の一種である。グルコース3分子がα1−4結合したマルトトリオースが、α1−6結合で繋がった構造を有する。市販のプルランを用いてもよく、例えば株式会社林原生物化学研究所から「食品添加物プルラン」として入手可能である。
【0015】
本発明においては、上記したポリビニリルピロリドンおよびプルランを、粘着成分として重量基準で20〜60%含む。20%未満であると固形糊の粘着力が不十分となり、一方、60%を超えると、常圧、90℃以上の条件においても、粘着成分が水に完全に溶解しにくくなる。より好ましい範囲は40〜60%である。
【0016】
ポリビニルピロリドンとプルランとの配合割合は重量基準で2:8〜8:2である。この範囲よりもプルランの配合割合が多くなると、固形糊の製造工程時の熱によるプルランの変色により固形糊の色調に問題が生じるだけでなく、糊が脆くなる。一方、プルランの配合割合が上記範囲よりも少なくなると、糊の塗布性が低下する。
【0017】
本発明に用いられるゲル化剤としては、特に制限されるものではなく、公知のゲル化剤から適宜選択できる。例えば、脂肪族カルボン酸の塩等を好適に使用することができる。脂肪族カルボン酸の塩としては、ミリスチン酸ナトリウム塩やステアリン酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの中でもミリスチン酸ナトリウム塩がより好ましい。ゲル化剤は重量基準で2〜6%添加される。ゲル化剤の添加量が2%未満であると糊が固形になりにくく、一方、6%を超えると固形糊の接着性が低下する傾向にある。
【0018】
本発明においては、上記した成分に加え、さらに、糸引き抑制剤として塩化ナトリウムを重量基準で1〜3%含むことが好ましい。塩化ナトリウムを添加することにより、固形糊を被接着物に塗布した際のいわゆる糸引きが抑制される。塩化ナトリウムの添加量が1%未満であると糸引き抑制効果が乏しく、また3%を超える量を添加しても糸引き効果は向上せずコスト高となる。
【0019】
また、本発明においては、さらに、保湿剤として、グリセリンを重量基準で1〜5%含むことが好ましい。グリセリンを添加することにより、固形糊表面の乾燥を防ぐことができる。グリセリンの添加量が1%未満であると保湿効果が期待できず、一方、5%を超えても保湿効果は向上せずコスト高となる。
【0020】
本発明においては、さらに変色抑制剤を含むことが好ましい。上記したように、固形糊を製造する際は、粘着成分であるポリビニルピロリドンおよびプルランを水に溶解させるために加温することが行われる。しかしながら、プルランは熱により容易に黄色ないし黒色に変色するため固形糊の色調が変化する場合がある。変色抑制剤を含有することにより固形糊の変色を抑制することができる。変色抑制剤としては、亜硫酸ナトリウムを好適に使用することができる。また、変色抑制剤の添加量は、重量基準で0.1〜2%であることが好ましい。
【0021】
本発明による天然材料固形糊は水性の固形糊であり、その他の成分として水を含むものである。水としては、水道水、イオン交換水、純水などを適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例および比較例は一例にすぎず、本発明の範囲がこれらの実施例および比較例の範囲内に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「%」は重量%を表す。
【0023】
下記の表1に示す配合割合に従って、K値が90であるポリビニルピロリドン(ピッツコールK−90)、プルラン(株式会社林原生物化学研究所)、ミリスチン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グリセリン、亜硫酸ナトリウム、および水を混合し、70〜80℃で約1時間攪拌した後放冷することにより固形糊を調製した。
【0024】
【表1】

【0025】
得られた固形糊(実施例1〜8および比較例1〜3)のそれぞれについて、下記の表2に示した評価基準に従って、接着力、塗布性、変色および糸引き性の各評価を行った。評価結果は、下記の表3に示される通りであった。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
表3に示した評価結果からも明らかなように、本発明によって提供された天然材料固形糊は、従来のポリビニルピロリドンのみを接着成分とした固形糊よりも、塗布性、色および糸引きなどの使用面で優れており、かつ人と環境に優しい天然素材を活用した固形糊であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K値が30〜120であるポリビニルピロリドンと、プルランと、ゲル化剤と、水と、を少なくとも含んでなり、
前記ポリビニルピロリドンおよび前記プルランを重量基準で20〜60%含み、
前記ポリビニルピロリドンと前記プルランとの配合割合が、重量基準で2:8〜8:2であり、
前記ゲル化剤を重量基準で2〜6%含む、ことを特徴とする、天然素材固形糊。
【請求項2】
固形糊の糸引き抑制剤として、塩化ナトリウムを重量基準で1〜3%さらに含む、請求項1に記載の天然素材固形糊。
【請求項3】
保湿剤として、グリセリンを重量基準で1〜5%さらに含む、請求項1または2に記載の天然素材固形糊。
【請求項4】
変色抑制剤として、亜硫酸ナトリウムを重量基準で0.1〜2%さらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の天然素材固形糊。

【公開番号】特開2010−159329(P2010−159329A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1525(P2009−1525)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(392014313)ヤマト株式会社 (5)
【Fターム(参考)】