説明

天然高分子化合物の抽出・精製システム

【課題】天然原料から大量の天然高分子(有用多糖類)を短時間で且つ自動的に取得するためのシステムを提供する。
【解決手段】抽出・精製システム(1)は、天然材料(160)と抽出溶媒(162)の混合物を攪拌しつつ上記天然材料(160)に含まれる天然高分子化合物を抽出する抽出装置(2)と、上記抽出装置(2)で抽出された天然高分子化合物を精製する精製装置(4)とを備えている。抽出装置(2)は、抽出溶媒(162)を収容する外槽(10)と、上記抽出溶媒(162)が通過できる複数の連通孔(64)を備えており、天然材料(160)を収容して上記外槽(10)の内側に上記外槽(10)と同心的に固定される内槽(46)と、上記外槽(10)に固定された上記内槽(46)を正逆回転する回転手段(40)を備えている。好ましくは、内槽(46)はその開口率を調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然材料から天然高分子(例えば、多糖類、タンパク質)を抽出して精製するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は生体において様々な役割を果たしている。なかでも、最近注目されているのがコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリンなどのムコ多糖類である。例えば、コンドロイチン硫酸は関節炎に対する効果や神経痛の改善効果などが認められており健康食品、サプリメントおよび医薬品等に用いられている。ヒアルロン酸は水分保持効果を有することから化粧品等に多く用いられている。ヘパリンは抗血液凝固作用があり、医療現場で用いられている。これらの物質は従来から医薬品として用いられており、最近では健康食品やサプリメントとしての需要が激増している。これらの多糖類は天然組織を原料として得られている。その方法も多くのものが開発されているが、とりわけ透析工程、限外濾過工程、有機溶媒による沈殿工程などに時間がかかるので効率が良いとはいえず、かつ、大規模で複雑かつ高価な施設を要することが多い(特許文献1〜3等参照)。
【0003】
また、ムコ多糖類をはじめとする有用多糖類は動物(陸生、水生を含む)や真菌類の組織由来のものがほとんどであり、ほとんどの場合、ヒトが食用としている動物の組織から得られている。最近では、資源の有効利用の面から、従来は廃棄されていた食用動物の不可食部(調理には適さない部位)から有用多糖類を得る試みもなされている。しかも食用動物の不可食部の量は膨大である。
【0004】
かかる事情に鑑みると、単純かつ効率的な方法にて、大量の原料から大量の有用多糖類を短時間のうちに得るための方法が必要である。
【特許文献1】特開2000−273102号公報
【特許文献2】特開2003−268004号公報
【特許文献3】特開2004−189825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題は、大量の天然原料から大量の天然高分子(有用多糖類)を短時間で且つ自動的に取得するためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
具体的に、本発明に係る抽出・精製システム(1)は、天然材料(160)と抽出溶媒(162)の混合物を攪拌しつつ上記天然材料(160)に含まれる天然高分子化合物を抽出する抽出装置(2)と、上記抽出装置(2)で抽出された天然高分子化合物を精製する精製装置(4)とを備えている。抽出装置(2)は、抽出溶媒(162)を収容する外槽(10)と、上記抽出溶媒(162)が通過できる複数の連通孔(64)を備えており、天然材料(160)を収容して上記外槽(10)の内側に上記外槽(10)と同心的に固定される内槽(46)と、上記外槽(10)に固定された上記内槽(46)を正逆回転する回転手段(40)を備えている。
【発明の効果】
【0007】
このような構成を備えた抽出・精製システムによれば、単純かつ効率的に、大量の原料から大量の有用多糖類を短時間のうちに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明に係る、天然高分子化合物(多糖類)の抽出・精製システムの実施形態を説明する。
【0009】
〔1.システム概要〕
図1に示すように、抽出・精製システム1は、概略、抽出溶媒を用いて天然材料から天然高分子(例えば、多糖類)を抽出する抽出装置2と、抽出装置2で抽出された天然高分子を精製する精製装置4と、抽出装置2から精製装置4に抽出溶媒と天然高分子を輸送する輸送装置6と、これら抽出装置2と輸送装置6を自動制御する自動制御装置8を有する。
【0010】
〔2.抽出装置〕
図2,3を参照すると、抽出装置2は、外槽(恒温槽)10を有する。実施形態では、外槽10は、上部に開口部を有する円筒状の容器で、建物(図示せず)の床12に固定されている。図2に詳細に示すように、外槽10は、中心軸14を中心とする円周上に配置された外側円筒部16及び内側円筒部18と、外側円筒部16及び内側円筒部18の底部をそれぞれ塞ぐ底板20,22と、外側円筒部16と内側円筒部18の上端部を連結する環状の板部24を備えており、これらの部材によって囲まれた空間の温水循環室(温度調整媒体収容室)26に温度調整媒体28である流体が密封して収容できるようにしてある。
【0011】
温水循環室26に収容される温度調整媒体28の温度は、処理する天然材料に応じて最適に調整される。そのため、実施形態の抽出装置2は、温水循環室26にある温度調整媒体28の温度を検出する温度検出器30と、温度検出器30で検出された温度に応じて、必要であれば温度調整媒体28を加熱する加熱器32と、温水循環室26における温度調整媒体28を循環させる循環手段34を有する。例えば、循環手段34は、図1,2に示すように、温水循環室26の底部と上部を接続する循環パイプ36と、循環パイプ36に設けられたポンプ38を有し、ポンプ38を駆動することによって、循環パイプ36を介して、温水循環室26の温度調整媒体28を循環する。
【0012】
外槽10の底部には、正逆回転可能なモータ40が固定されている。モータ40の駆動軸42は、外槽10の中心軸14と同軸上に配置されており、外槽10の底板20,22を貫通して、外槽10の内側に突出している。図示するように、温水循環室26を貫通する駆動軸42の周囲は筒状又は環状の隔壁44によって囲まれてシールされている。
【0013】
外槽10の内側に突出したモータ駆動軸42に内槽(材料収容槽)46が着脱自在に連結されている。図示するように、モータ駆動軸42に連結される内槽46は円筒体からなり、この円筒体の中心軸が外槽10の中心軸14に一致させてある。図3に詳細に示すように、内槽46は、円筒状の外側バスケット48と内側バスケット50を有する。外側バスケット48は、上部を開放した円筒容器の形をしており、円筒部52と底部54を有する。円筒部52と底部54は、内側と外側を連通する多数の開口(外側開口)56を規則的に有する。同様に、内側バスケット50は、上部を開放した円筒容器の形をしており、円筒部58と底部60を有する。円筒部58と底部60は、内側と外側を連通する多数の開口(内側開口)62を規則的に有する。
【0014】
外側バスケット円筒部52の内径は内側バスケット円筒部58の外径とほぼ等しくしてある。したがって、外側バスケット48に内側バスケット50を装入すると、外側バスケット48の内面(内周円筒面及び内側底面)に内側バスケット50の外面(外周円筒面及び外側底面)がぴったりと又はほぼぴったりと一致し、それら円筒部52,58の間には実質的な隙間ができないようにしてある。なお、円筒部52,58の高さはほぼ等しく、外側バスケット48に内側バスケット50を装入した状態で、両者の上端部が一致するか、内側バスケット50の上端が外側バスケット48の上端から若干突出することが好ましい。
【0015】
実施例では外側と内側のバスケット48,50に形成された開口56,62の形は円形であるが、その形は任意(例えば、四角形、他の矩形等、スロット状、星形)である。具体的には、バスケット48,50(円筒部及び底板)を構成する材料には、公知のステンレス製パンチングメタルが好適に利用できる。周知のとおり、パンチングメタルには、開口56,62がバスケット48,50に縦方向、横方向、斜め方向に一定の間隔をあけて規則的に形成されている。したがって、外側バスケット48に対して内側バスケット50を相対的に回転又は上下すれば、外側バスケット48の開口56と内側バスケット50の開口62が一致して形成される連通孔64(図5参照)の面積(内槽の開口面積又は開口率)が変化する。
【0016】
内槽46の開口率を予め決められた複数の値に調整できる開口率調整手段66を備えていることが好ましい。実施形態では、外側バスケット48に対して内側バスケット50を回転することによって開口率を調整する方法が採用されている。したがって、図6に示すように、実施形態では、開口率調整手段66として、バスケット底部54,60の中央に環状板68,70が固定されており、内側バスケット50の環状板70には一つの貫通孔72が形成され、また、外側バスケット48の環状板68には複数のねじ孔74a〜74eが形成され、内側バスケット環状板70の貫通孔72を介して外側バスケット環状板68の複数のねじ孔74a〜74eのいずれかにねじ76を螺合することによって、開口率が100%、80%、70%、60%、50%に調整できるようにしてある。
【0017】
代わりに、外側バスケット48に対して内側バスケット50を相対的に上昇することで開口率を調整できる。この場合、図示しないが、高さ方向に関して、外側バスケット48に対して内側バスケット50を複数の位置で固定できる手段(例えば、高さ調整治具、ボルトとねじ孔又はボルトとナットの組み合わせ)を設け、要求される開口率に応じて内側バスケット50の高さを調整する。
【0018】
外側と内側のバスケット48,50に異なる形の開口を設けてもよい。また、開口56,62はバスケット48,50の全体に形成することが必須でなく、内槽46の開口率が調整できれば、バスケット48,50の少なくとも一部に形成するだけでもよい。さらに、開口率調整に際して、外側バスケット48に対して内側バスケット50を回転又は上昇させたとき、それらの全ての開口56,62の重なり合う面積が変化する必要はなく、それら開口56,62の少なくとも一部の重なり合う面積が変化することによって結果的に内槽46の開口率が変化するようにすればよい。
【0019】
また、図2,4に示すように、内側バスケット50には、円筒部58の内面、又は底部60の内面、若しくはそれらの両方に撹拌羽根78を設けることが好ましい。撹拌羽根78の形状、大きさは、処理する天然材料の種類に応じて適宜変更することができる。
【0020】
図2,3に示すように、外槽10に対して内槽46を正確に同心的に位置決めするために、外槽10の上端近傍には、ガイド手段80を均等に配置することが好ましい。例えば、実施形態では、各ガイド手段80は、外槽10の内面に固定されたブラケット82と、ブラケット82に固定された垂直軸84を介して回転可能に支持されたローラ86を有する。当然、複数のローラ86の内側に内槽46が正確に位置決めされるために、複数のローラ86に内接する円(図示せず)が、内槽46の外周面に一致又はほぼ一致することが好ましい。
【0021】
図2を参照すると、以上のように構成された内槽46は、外槽10の内側に装入される。このとき、内側バスケット底部60の中央に設けた環状板70の中央貫通孔88(図6参照)にモータ駆動軸42が挿通され、該モータ駆動軸42の上端外ねじ部(図示せず)に内ねじを有するキャップ90を螺合して、内側バスケット50がモータ駆動軸42に固定される。図示するように、この状態で、外槽10と内槽46の間には、ほぼ一定の厚みの空間が形成されるように、外槽10の内部に突出したモータ駆動軸42の周囲には環状の調整部材92が設けることが好ましい。
【0022】
〔3.精製装置〕
図1に戻り、精製装置4は、ゲル濾過クロマトグラフィー用のカラム100を有する。後に説明するように、イオン交換クロマトグラフィー用のカラム102を追加的に設けてもよい。カラム100,102の構成は周知であることから、その説明は省略する。
【0023】
〔4.輸送装置〕
輸送装置6は、外槽10の内側、正確には内側円筒部18と内側底板22で囲まれた空間(処理室)の底部とゲル濾過クロマトグラフィー用カラム100の上部(入口)を接続する配管104、ゲル濾過クロマトグラフィー用カラム100の下端(出口)とイオン交換クロマトグラフィー用カラム102の上端(入口)を接続する配管106を有する。前者の配管104には2つの電磁弁108、110と一つのポンプ112が設けてある。後者の配管1096には2つの電磁弁114,116と一つのポンプ118が設けてある。イオン交換クロマトグラフィー用カラム102の下端(出口)と電磁弁116が配管120で接続されており、この配管120に別の電磁弁122が設けてある。そして、電磁弁108,110,114,122がそれぞれ配管124,126,128,130対応する容器132,134,136,138に接続されている。
【0024】
〔5.自動制御装置〕
自動制御装置8は、中央処理装置(CPU)140と、ROM142、RAM144、タイマ146、入力部148、及び出力部150を有する。これら各部の構成と動作は以下に説明するシステムの動作の中で具体的に説明する。
【0025】
〔6.システムの動作〕
以上の構成を有するシステム1を用いて、天然材料から高分子化合物である多糖類を得る方法を説明する。なお、有用多糖類を豊富に含有する天然組織としては、アガリクスなどの担子菌の菌糸体や子実体、魚類や動物の軟骨や内臓、イカの頭部などに由来するものが挙げられる。例えば、魚類(エイやサメを包含)の軟骨などからコンドロイチン硫酸を得ることができる。ニワトリのトサカなどからヒアルロン酸を得ることができる。あるいはブタ小腸粘膜などからヘパリンを得ることができる。さらに、食用生物の不可食部、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜、サケ、イワシ等の魚類、イカ、タコ等の軟体動物、エビ、カニ等の甲殻類の不可食部は量的に膨大であり、そこから有用多糖類を取得することもできる。クラゲなどの組織から多糖類を取得することもできる。また、例えば、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリンなどのムコ多糖類が含まれる。例えば、魚類(エイやサメを包含)の軟骨などからコンドロイチン硫酸を得ることができ、ニワトリのトサカなどからヒアルロン酸を得ることができ、あるいはブタ小腸粘膜などからヘパリンを得ることができる。また、例えば、ソデイカ、スルメイカ、コウイカ、モンゴウイカ、ハリイカ、ケンサキイカ、ヤリイカ、アオリイカ、ジンドウイカ、アカイカ、マツイカなどのイカ、特にその胴体を除く部分(例えば頭部、足、皮、ひれ、眼球、軟骨ならびに他の不可食部)、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどの家畜や家禽類の臓器(例えば肝臓、腸、気道など)およびその他の部位(例えば、鼻軟骨などの軟骨、眼球、皮膚など)、特にニワトリ軟骨(例えば胸軟骨、関節軟骨など)、あるいは魚類軟骨などからコンドロイチン硫酸やその他の多糖類を取ることもできる。さらに、例えばアガリクスやサルノコシカケ等の担子菌からベータグルカン等の多糖類を得ることもできる。
【0026】
〔6−1.準備工程〕
抽出装置2では、外槽10の温水循環室26に温度調整媒体28を充填する。温度調整媒体28は、水、エチレングリコールが好適に利用できる。また、内槽46を外槽10に装入し、内槽46を外槽10に対して固定する。このとき、内槽46は、所望の開口率に応じて、外側バスケット48に対する内側バスケット50の位置を固定しておく。次に、内槽46に処理対象である天然材料(処理材料)160を投入する。投入される天然材料160の大きさは、内槽46の連通孔(開口面積)64及びバスケット48,50の開口56,62よりも大きく、天然材料160が連通孔64および開口56,62を通じて外部に流出することはない。また、内槽46及び外槽10の内側に、抽出溶媒162を投入する。抽出溶媒162としては水性溶媒が好ましく用いられ、例えば、水、中性付近の緩衝液(例えば、pH約5〜約9の酢酸緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液等)が例示されるがこれらに限らない。あるいは水性溶媒と有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン等)との混合物を抽出に用いてもよい。
【0027】
精製装置4では、ゲル濾過クロマトグラフィー用カラム100にゲル濾過担体を充填しておく。ゲル濾過に用いる担体の種類、カラムのサイズ、溶出液の組成等、流速等の条件は、生体組織の由来、必要な多糖類の種類(および分子量や荷電状態等)、量、純度などの要因に応じて、当業者が適宜選択・決定することができる。これらの条件の選択・決定に際しては、必要な多糖類がゲル濾過担体にトラップされずに、あるいはほとんどトラップされずに素通し画分または高分子画分に溶出され、他の成分がゲル濾過担体にトラップされるようにする。本発明の方法に用いられるゲル濾過担体としては、デキストラン、アガロース、ポリアクリルアミド、ガラスビーズ等がある。具体例としては、各種セファロース、各種セファデックス、各種セファクリル、各種トヨパール、各種スーパーデックス、各種スーパーロース等がある。また、ゲル濾過工程に用いる展開液を容器134に充填する。展開液としては、水、中性付近の緩衝液(例えばpH約5〜約9の酢酸緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液等)などが例示されるがこれらに限らない。また、ゲル濾過担体と多糖類との相互作用を調節するために食塩等の塩類を展開液に添加してもよい。
【0028】
また、イオン交換クロマトグラフィー用カラム102にイオン交換体を充填しておく。イオン交換体は、必要な多糖類の種類、必要とされる純度、原料の種類や量、必要とされる多糖類の収量などを考慮して、適宜選択することができる。イオン交換体は様々なものが市販されており、それらから選択することもできる。陰イオン交換体としては、ダウエックス、アンバーライト、ムロマックなどの陰イオン交換樹脂、ハイドロタルサイト、キトパール”ベーシック”、DEAE−キトパール、Capto Q、Mono Q、SAX、イグゼなどの陰イオン交換体、DEAE−セルロース、DEAE−セファデックスなどの陰イオン交換セルロースなどが挙げられ、市販もされている。硫酸基を有する多糖類の分離・精製には弱陰イオン交換体を用いることができ、例えば、DEAE−セルロース、DEAE−セファデックス、ダウエックスなどの陰イオン交換体を用いることができる。イオン交換クロマトグラフィー工程において、目的の多糖類を精製するためには、通常、目的の多糖類をイオン交換体に吸着させておいて、その後、例えば溶離液のイオン強度を上昇させる等の手法により目的の多糖類をイオン交換体から溶出させる。イオン強度の上昇法としては、ステップワイズ法、グラジエント法などがある。また、目的の多糖類を吸着しない、逆の電荷を有するイオン交換体によるクロマトグラフィー工程を用いることにより、目的の多糖類の純度をさらに高めることもできる。この目的には陽イオン交換体が好ましく用いられる。陽イオン交換体としては、ダウエックス、アンバーライト、ムロマックなどの陽イオン交換樹脂、ゼオライト、カルボキシル化キトパール、スルホン化キトパール、Capto S、Mono S、SCX、イグゼなどの陽イオン交換体などが挙げられ、市販もされている。本発明に用いるイオン交換クロマトグラフィー工程は、カラム式、バッチ式のいずれで行ってもよい。イオン交換クロマトグラフィー工程で使用するイオン交換体の選択、溶離液の種類、組成、各成分の濃度、pH、温度、流速などの条件の選択は、当業者が通常に行いうる範囲のことである。
【0029】
〔6−2.抽出工程〕
処理する天然材料(処理材料)160に応じて、制御装置8における入力部148を通じて、外槽10の温水循環室26に貯蔵されている温度調整媒体28の設定温度、モータ40の正逆回転時間(正方向の回転時間と逆方向の回転時間)、モータ40の駆動時間を設定する。設定された条件は、RAM144に記憶される。設定温度、回転時間、駆動時間は各処理材料に応じて決めておき、その決められた設定温度等を制御装置8のROM142に記憶し、入力部148から処理材料の種類を入力するだけで、設定温度等が自動的に設定されるようにしてもよい。
【0030】
必要な条件の入力が完了すると、制御装置8のCPU140は、入力された条件をもとに、出力部150を介して加熱器32と循環ポンプ38を駆動し、外槽10の温水循環室26と循環パイプ36で温度調整媒体28を循環しながら、温度検出器30の出力(温度調整媒体28の温度)をもとに温度調整媒体28の温度を調整する。なお、抽出工程における温度調整媒体28の温度は一定である必要はなく、例えばROM142又はRAM144に入力された温度管理プログラム(図示せず)に基づいて、各段階で設定温度を変更してもよい。
【0031】
CPU140はまた、モータ40の回転方向を正方向と逆方向に交互に切り換え、内槽46を正方向と逆方向に交互に回転する。これにより、内槽46に収容されている天然材料160は、内槽46に設けた撹拌羽根78によって攪拌されて抽出溶媒162と十分に接触し、天然高分子の抽出が良好に行われる。
【0032】
正方向の回転時間と逆方向の回転時間(回転持続時間)は任意に決定できる。例えば、入力部148を通じて入力することもできるし、処理材料に適した回転時間を予めROM142に記憶しておき、その情報に基づいてCPU140がモータ40の駆動を制御してもよい。正方向(又は逆方向)の回転とそれに続く逆方向(又は正方向)の回転との間には、所定の休止時間を設けてもよい。この場合、まず正方向(又は逆方向)の回転により、内槽46内の抽出溶媒162は遠心力によって径方向外側に移動し、内槽46の連通孔64を介して内槽46の外側に移動する。同様に、処理材料も遠心力を受けて、内槽46の周壁近傍に集まる。次に、正方向(又は逆方向)の回転を停止すると、内槽46の外側に移動していた抽出溶媒162が内槽46の連通孔64を通じて内槽46の内側に移動する。その結果、この抽出溶媒162の移動によって、内槽46の周壁近傍に集まっていた天然材料160が分散し、各処理材料片は効果的に抽出溶媒162と接触し、天然高分子の抽出が促進される。
【0033】
天然材料160と抽出溶媒162の攪拌は所定時間行われる。この時間は、入力部148で設定された時間である。代わりに、処理材料に適した回転時間を予めROM142に記憶しておき、その情報に基づいてCPU140がモータ40の駆動時間(全攪拌時間)を制御してもよい。
【0034】
攪拌時間は、天然材料及び抽出すべき天然高分子に応じて異なる。参考までに、イカ皮からコンドロイチン硫酸を抽出する場合、抽出溶媒を室温状態に維持しながら約12時間攪拌する。うろこからコラーゲンを抽出する場合、抽出溶媒を約100℃に維持しながら約2〜3時間攪拌する。椎茸からベータグルカンを抽出する場合、抽出溶媒を約100℃に維持しながら約12時間攪拌する。
【0035】
〔6−3.排出・乾燥工程〕
所定時間の攪拌が終了すると、CPU140がモータ40を停止する。次に、電磁弁108,110を操作し、ポンプ112を駆動し、天然高分子を含む抽出溶媒162をゲル濾過クロマトグラフィー用カラム100に送る。天然材料160の間に残留する天然高分子を完全に排出するために、抽出溶媒162の排出中もモータ40の回転は維持することが好ましい。このとき、モータ40の回転数は、抽出工程におけるモータ40の回転数よりも大きく設定し、内槽46を高速回転することが更に好ましい。高速回転時間は、入力部148から入力してもよいし、予めROM142に記憶しておいてもよい。排出が完了した後、CPU140がモータ40を所定時間駆動し、内槽46に残留する材料を乾燥することもできる。抽出された天然高分子を含む抽出溶媒162が完全にカラム100に送られると、CPU140はポンプ112を停止し、電磁弁108,110を閉じる。その後、外槽10と内槽46を洗浄する場合、電磁弁108を操作し、洗浄水を廃水容器132に導く。
【0036】
〔6−4.精製(ゲル濾過クロマトグラフィー)工程〕
精製(ゲル濾過クロマトグラフィー)工程では、カラム100に送られた抽出溶媒162及び天然高分子をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、その素通し画分または高分子画分を得る。このとき、CPU140は電磁弁110を操作し、ポンプ112を駆動し、容器134から展開液をカラム100に供給する。その結果、カラム100の中では、必要な多糖類がゲル濾過担体にトラップされずに、あるいはほとんどトラップされずに素通し画分または高分子画分に溶出され、他の成分がゲル濾過担体にトラップされる。
【0037】
クロマトグラフィー条件の選択において、好ましくは、目的とする多糖類が、送液開始後、ゲル濾過担体の総ベッド体積の約13〜約33%までの画分に溶出されるように、さらに好ましくはゲル濾過担体の総ベッド体積の約20%までの画分中に溶出されるように、ゲル濾過クロマトグラフィー条件を選択する。したがって、本明細書において、「素通し画分または高分子画分」とは、試料の粘度や試料に含まれる多糖の種類、所望多糖の分子量、使用担体の種類などにもよるが、通常、担体の総ベッド体積の約33%までの溶出液中に得られる画分をいう。例えば、ゲル濾過担体の総ベッド体積の約13%〜約20%までの溶出液中に得られる画分を「素通し画分または高分子画分」として集めて、多糖類を得てもよい。
【0038】
ゲル濾過クロマトグラフィーからの画分中の多糖類の検出・確認には、種々の公知方法を用いることができ、例えば、カルバゾール法、ジメチルフェノール法、フェノール硫酸法、紫外吸収測定法、屈折率測定法などを用いてもよい。
【0039】
精製(ゲル濾過クロマトグラフィー)工程の間、CPU140は電磁弁114を開き、カラム100を通過した天然高分子を容器136に回収する。ただし、以下に説明する精製(イオン交換クロマトグラフィー)工程を行う場合、CPU140は、電磁弁114,116を操作し、ポンプ118を駆動し、カラム100からの天然高分子を更にイオン交換クロマトグラフィー用カラム102に送る。
【0040】
本発明者が行った実験では、ゲル濾過クロマトグラフィーにより、ニワトリ胸軟骨から純度100%のコンドロイチン硫酸、また、イカ皮から純度68%のコンドロイチン硫酸を得た。
【0041】
〔6−5.精製(イオン交換クロマトグラフィー)工程〕
精製(イオン交換クロマトグラフィー)工程では、目的の多糖類を精製するため、通常、カラム102の中で目的の多糖類をイオン交換体に吸着させ、その後、例えば溶離液のイオン強度を上昇させる等の手法により目的の多糖類をイオン交換体から溶出させる。本発明者が行った実験では、ニワトリ膝軟骨由来の粗コンドロイチン硫酸の純度が40%から100%に上昇した。
【0042】
CPU140は、電磁弁114,116,122を操作し、イオン交換体から溶出した高純度天然高分子を容器136に導く。
【0043】
精製工程が収容した後、カラム100,102を洗浄する場合、入力部148からの指令に基づいて、電磁弁122を操作して、洗浄液(廃水)を容器138に導く。
【0044】
このように、上述した抽出・精製システム1によれば、制御装置8によって全ての装置(モータ40、ポンプ38、電磁弁)の操作を自動化することができる。特に、ゲル濾過は分子量の差を利用するために再生工程が不要であることから、抽出から精製(ゲル濾過クロマトグラフィー)までの工程を完全に自動化できるため、大量の天然試料をほぼ連続的に処理して大量の天然高分子を得ることができる。また、天然材料の種類に応じて最適の抽出・精製条件を得ることができる。
【0045】
また、食品あるいは食品添加物のように高い純度を必要としない場合、ゲル濾過精製のみで十分対応できる。他方、医薬品のように高純度を要求する場合は、イオン交換カラムとの併用で高純度品に精製できる
【0046】
さらに、上述の抽出・精製システムは、多糖類の抽出に限らず、タンパク質の抽出にも使用でき、その際、上述のように抽出から精製までの工程を自動的に且つ連続的に行うことができる。
【0047】
さらにまた、上述の抽出・精製システムでは、内槽46を2つのバスケット(外側バスケット48と内側バスケット50)で構成したが、一つのバスケットで構成した抽出・精製システムも本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る抽出・精製システムの概略構成を示す図。
【図2】抽出装置の断面図。
【図3】抽出装置の平面図。
【図4】図2に示す抽出装置の内槽の分解斜視図。
【図5】図2に示す内槽の部分拡大断面図。
【図6】図2に示す内槽の開口率を調整する手段を示す斜視図。
【符号の説明】
【0049】
1:抽出・精製システム
2:抽出装置
4:精製装置
6:輸送装置
8:自動制御装置
10:外槽
12:床
14:中心軸
16:外側円筒部
18:内側円筒部
20:底板
22:底板
24:環状板部
26:内部空間
28:温度調整媒体
30:温度検出器
32:加熱器
34:循環手段
36:循環パイプ
38:ポンプ
40:モータ
42:駆動軸
44:隔壁
46:内槽
48:外側バスケット
50:内側バスケット
52:円筒部
54:底部
56:外側開口
58:円筒部
60:底部
62:内側開口
64:連通孔
66:開口率調整手段
68:環状板
70:環状板
78:攪拌羽根
80:ガイド手段
140:CPU
160:天然材料
162:抽出溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然材料(160)と抽出溶媒(162)の混合物を攪拌しつつ上記天然材料(160)に含まれる天然高分子化合物を抽出する抽出装置(2)と、上記抽出装置(2)で抽出された天然高分子化合物を精製する精製装置(4)とを備えた、抽出・精製システムであって、
上記抽出装置(2)は、
抽出溶媒(162)を収容する外槽(10)と、
上記抽出溶媒(162)が通過できる複数の連通孔(64)を備えており、天然材料(160)を収容して上記外槽(10)の内側に上記外槽(10)と同心的に固定される内槽(46)と、
上記外槽(10)に固定された上記内槽(46)を正逆回転する回転手段(40)を備えたことを特徴とする抽出・精製システム。
【請求項2】
上記内槽(46)の開口率を調整する開口率調整手段(66)を備えていることを特徴とする請求項1の抽出・精製システム。
【請求項3】
上記開口率調整手段(66)は、
(a)上記内槽(46)を、外側バスケット(48)と、上記外側バスケット(48)の内側に配置される内側バスケット(50)で構成し、
(b)上記外側バスケット(48)には複数の外側開口(56)を形成し、上記内側バスケット(50)には複数の内側開口(62)を形成し、
(c)上記内側バスケット(50)を上記外側バスケット(48)の内側に配置した状態で、上記外側開口(62)の少なくとも一部が上記内側開口(56)の少なくとも一部と重なり合って上記複数の連通孔(64)を形成しており、
(d)上記外側バスケット(48)に対する上記内側バスケット(50)の相対的な位置を変えることによって上記内槽(50)の開口率が調整できるように構成されていることを特徴とする請求項2の抽出・精製システム。
【請求項4】
上記開口率調整手段(66)は、上記回転手段(40)の回転軸(42)を中心として、上記外側バスケット(48)に対して上記内側バスケット(50)を相対的に回転することによって、上記内槽(46)の開口率が調整できるようにしてあることを特徴とする請求項3の抽出・精製システム。
【請求項5】
上記開口率調整手段(66)は、上記回転手段(40)の回転軸(42)の中心軸に沿って、上記外側バスケット(48)に対して上記内側バスケット(50)を相対的に移動することによって、上記内槽(46)の開口率が調整できるようにしてあることを特徴とする請求項3の抽出・精製システム。
【請求項6】
上記開口率調整手段(66)は、予め決められた複数の開口率に対応して、上記外側バスケット(48)に対して上記内側バスケット(50)を固定する固定手段(74a〜74e,76)を備えていることを特徴とする請求項4又は5の抽出・精製システム。
【請求項7】
上記抽出・精製システムは制御手段(8)を備えており、
上記制御手段(8)は、上記内槽(46)を正方向に回転する時間と逆方向に回転する時間を調整する調整手段(140,142,148)を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの抽出・精製システム。
【請求項8】
上記抽出装置はまた、上記外槽に収容された抽出溶媒の温度を調整するために、
上記外槽に形成された温度調整媒体収容室(26)と、
上記温度調整媒体収容室(26)に収容された媒体(28)と、
上記温度調整媒体収容室(26)を介して上記媒体を循環させる循環手段(38)と、
上記媒体(28)の温度を検出する温度検出器(30)と、
上記媒体(28)を加熱する加熱器(32)と、
上記加熱器(32)を制御する加熱器制御手段(140)を備えていることを特徴とする請求項1〜7の抽出・精製システム。
【請求項9】
上記抽出・精製システムはまた、
上記抽出装置(2)と上記精製装置(4)を連結し、上記抽出装置(2)で抽出された天然高分子化合物を含む抽出溶媒(162)を上記精製装置(4)に輸送するための輸送配管(104)と、
上記輸送配管(104)に設けられたポンプ(112)と、
上記抽出装置(2)における抽出処理が終了した後、上記ポンプ(112)を駆動して、上記抽出装置(2)から上記精製装置(4)に上記抽出溶媒(162)を自動的に輸送する輸送制御手段(140)を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかの抽出・精製システム。
【請求項10】
上記精製装置(4)は、ゲル濾過クロマトグラフィー用カラム(100)を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかの抽出・精製システム。
【請求項11】
上記精製装置(4)は、イオン交換クロマトグラフィー用カラム(102)を有することを特徴とする請求項10の抽出・精製システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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