説明

太陽光発電装置

【課題】長期間太陽光に晒されたり、過酷な温度条件下に晒されても、取り付け材料が劣化したり接着力が劣化したりすることが生じず、かつ容易に取り付けたり、取り外したりすることができる太陽光発電装置の取り付け方法を提供する。
【解決手段】太陽光発電モジュール裏面に、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる面ファスナー、特に面ファスナー基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有している面ファスナーを取り付け、一方、取り付け対象物表面にも同面ファスナーを取り付け、両面ファスナーを係合させることにより、取り付け対象物表面に太陽光発電モジュールを取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置、詳しくは太陽光発電モジュールを、テント、工事用の防音シート、農業用シート、防水シートのような可撓性を有する取り付け対象物の表面、あるいは建物の屋根や外装材の表面で特に曲面を有する表面等に取り付けることでき、長期間の屋外での太陽光暴露や過酷な温湿度条件やその変化や雨雪に耐え、かつ必要時に取り付けたり、取り外したりすることを極めて容易に何度も繰り返すことができ、しかも取り付けと取り外しを繰り返しても取り付け面への付着力が殆ど低下しない太陽光発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般に市販されている太陽光発電は、結晶シリコン型のものとアモルファスシリコン型のものに大別され、このうち結晶シリコン型のものは、太陽光発電素子の強度を高めるために表面にガラス板を重ね、裏面に補強板を重ねたものが普及しており、該補強板としてステンレス板、めっき鋼板、ガルバニウム鋼板等が用いられている。そして、このような結晶シリコン型の太陽光発電モジュールは、建物の屋根や外装材の上にボルト等の金属金具により半永久的に固定され、使用されている。
【0003】
しかしながら、このような結晶シリコン型の太陽光発電モジュールは、ステンレス板やめっき鋼板で補強されているため剛性が高く、テントや工事用防音シートや農業用シート等のように可撓性を有するシートの表面に取り付けるのに適しているとは言えない。また、建物の外装材の表面や屋根の表面に取り付ける際にも、外装材や屋根材が曲面を有している場合には、剛性を有する太陽光発電モジュールが容易に曲げることができないことから取り付けが不可能または困難である。さらに建物の防水シートのように、10年前後で取り替えることが要求される場合にも、剛性を有する太陽光モジュールの場合には、半永久的な強固な取り付けがなされているため、取り外し作業および再取り付け作業が極めて煩雑となるという欠点がある。
【0004】
このような剛性を有する結晶シリコン型の太陽光発電モジュールに対してアモルファスシリコン型の太陽光発電モジュールの場合には、可撓性を有する太陽光発電用セルの表面および裏面を可撓性を有するテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体製のシートで保護したものであり、このような可撓性太陽光発電モジュールは、補強用金属板やガラス板を有していないことから、可撓性を有する取り付け対象物や曲面を有する取り付け対象物の表面や、定期的に取り付け・取り外しが要求されるような取り付け対象物の表面に取り付けることが容易にできることとなる。
【0005】
このような可撓性を有する太陽光発電モジュールを取り付け対象物の表面に取り付ける方法として、従来は、太陽光発電モジュールの裏面に粘着剤を塗布し、粘着剤により取り付け対象物の表面に取り付ける方法が一般的に用いられている。しかしながら、粘着剤は温度により粘着力が変化し、さらに永い月日の経過により粘着力が徐々に低下し、粘着力を喪失して、太陽光発電モジュールが取り付け対象物表面から剥離し、落下するという問題点を有している。さらに、粘着剤が粘着・剥離を繰り返すことにより粘着力が低下するという問題点も有している。
【0006】
この粘着剤の問題点を解消する方法として、太陽光発電モジュールの裏面にアクリル変性シリコン系接着剤により面ファスナーを取り付け、一方取り付け対象物の表面にも、該面ファスナーと係合可能なもう一方の面ファスナーを取り付け、両面ファスナーを係合させることにより、太陽光モジュールを取り付け対象物表面に取り付ける方法が提案されている(例えば特許文献1)。そして、同特許文献には、使用できる面ファスナーの具体例として、住友スリーエム株式会社製Scotchimate(登録商標)Hook&Loop FastenerとDual Lock(登録商標)Fastenerが挙げられている。
【0007】
しかしながら、市販されているこれら面ファスナーは、いずれも、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン類やナイロン類等の樹脂からなるものであり[上記Dual Lock(登録商標)Fastenerはポリプロピレン製であり、Scotchimate(登録商標)Hook&Loop Fastenerもポリプロピレン製またはナイロン製である]、さらに面ファスナーの係合素子の形状等から、太陽光に長期間晒され、かつ過酷な温湿度条件で長期間使用されると、面ファスナーのフック状の係合素子やループ状の係合素子や面ファスナー基布が劣化し、係合素子が基布から引き抜かれたり、フック状係合素子のフック頭部が外れたり、さらにはフック状係合素子のステム部が切断されたりして、係合能を消失するという問題を有している。さらに、面ファスナーを太陽光発電モジュールの裏面に接着するのに用いている接着剤の接着力が時間の経過とともに低下するという現象も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−263089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の公知の太陽光発電モジュールの取り付け方法が、長期間太陽光に晒され、過酷な温度条件に晒されることにより面ファスナーが劣化したり接着力が劣化したりして係合能を低下させるという問題を有していたことを解消するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、太陽光発電モジュール裏面にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる面ファスナーが取り付けられていることを特徴とする太陽光発電装置である。
【0011】
そして、好ましくは、上記面ファスナーが、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている場合であり、また好ましくは、該矩形が平行四辺形である場合であり、太陽光発電モジュールが、アモルファスシリコン型のものである場合である。
【0012】
また好ましくは、太陽光発電モジュールが、その表面および裏面にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなるシートを有しており、裏面のテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなるシートと上記面ファスナーの裏面が溶着により一体化されている場合である。
さらにまた、好ましくは、取り付け対象物の表面に、フッ素系繊維からなるループ面ファスナーが取り付けられており、このループ面ファスナーと太陽光発電モジュール裏面に取り付けた面ファスナーが係合することにより太陽光発電モジュールが取り付け対象物の表面に取り付けられている場合であり、あるいは取り付け対象物の表面に、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる雄型面ファスナーが取り付けられており、この雄型面ファスナーと太陽光発電モジュールの裏面側に取り付けた面ファスナーが係合することにより太陽光発電モジュールが取り付け対象物の表面に取り付けられている場合である。
【0013】
さらに、好ましくは、取り付け対象物の表面に取り付けた雄型面ファスナーが、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている場合である。
そして好ましくは、取り付け対象物が、布帛または樹脂フィルムからなる可撓性を有するシートである場合であり、取り付け対象物が、テントまたは農業用温室を覆うフィルムである場合である。
【0014】
さらに本発明は、このような太陽光発電装置に好適に用いられる、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている面ファスナーである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、面ファスナーがテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されていることから、長期間の太陽光暴露に耐え、過酷な温度条件にも耐え、面ファスナーが劣化することが少ない。さらに、好ましくは、面ファスナーとして、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しているような構造を有しているものを使用するものであり、このようなものを使用することにより、より一層太陽光暴露や過酷な温湿度条件に長期間耐え得ることとなる。
【0016】
さらに、面ファスナーを太陽光発電モジュール裏面に取り付ける手段として、面ファスナーおよび太陽光発電モジュール裏面を構成しているテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体を融着させる方法を用いると、従来技術のように粘着剤や接着剤を用いる必要がないことから、粘着剤や接着剤の粘着変化や劣化が原因で生じる問題を解消することができる。
そして本発明の太陽光発電装置において、取り付け対象物が可撓性を有するシートの場合であり、かつ取り付けと取り外しが繰り返し行なわれる場合には、取り付け・取り外し作業が容易であることから、より一層本発明の特長点を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の太陽光発電装置の断面の模式図である。
【図2】本発明の太陽光発電装置を構成する面ファスナーの斜視図である。
【図3】本発明の太陽光発電装置を構成する面ファスナーを製造するのに用いられる押し出しノズルの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明が対象とする好適な太陽光発電装置の断面の模式図である。図中、1は太陽電池セル、3は太陽電池セルの受光面を覆い、表面を保護するためのシート、5は太陽電池セルの反受光面を覆い、裏面を保護するためのシートであり、これらシート3およびシート5は、通常、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されており、厚さ20〜100ミクロンのシートである。太陽電池セル1は、前記したように結晶シリコン型のものとアモルファスシリコン型のものに大別されるが、本発明が対象とするものは、好ましくはアモルファスシリコン型のものであり、このものは通常厚さが10ミクロン以下の板状で可撓性を有している。もちろん、結晶シリコン型の太陽光発電モジュールの固定にも本発明を適用することは可能であるが、アモルファスシリコン型のものの方が、特長を発揮することができる。
【0019】
そして、アモルファスシリコン型の場合には、太陽電池セル1の受光面に表面保護シート3を一体化するための表面側接着剤層2、太陽電池セルの反受光面に裏面保護シート5を一体化するための裏面側接着剤層4が存在している。通常、表面側接着剤層2および裏面側接着剤層4として、ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等が用いられ、厚さとしては100〜1000ミクロンが一般的である。
このように本発明が対象とする太陽光発電のモジュールには、太陽電池セル1、それを保護するための保護シート3および5、そして太陽電池セルと保護シートを一体化するための接着剤層2および4から形成され、太陽光発電モジュールは可撓性を有していることが好ましい。
【0020】
そして、本発明の太陽光発電モジュールの裏面側には、図1に示すように面ファスナー8が一体化されている。面ファスナー8は、主として、基板6と基板表面から突出する雄型係合素子7からなる。
【0021】
図2は、この面ファスナー8の斜視図である。同図から明らかなように、面ファスナーは、基板6の表面に多数の雄型係合素子7が列をなして立設されており、該雄型係合素子7が、基板6から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起9を有しており、かつ該基板6および該雄型係合素子7が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている。本発明において、太陽光発電モジュールの裏面には、このような面ファスナーが一体化されているのがもっとも好ましい。
【0022】
なお、このような面ファスナーにおいて、ステムの上部に係合用突起9が存在しているが、係合用突起の付け根より上部のステムを合わせてヘッド部と称することがある。したがって、雄型係合素子は、係合用突起を有していないステム部と同ステム部の上部に存在しているヘッド部からなると言い換えることもできる。
【0023】
本発明において、面ファスナーとしては、図2に示すように、両サイドに係合用突起を広げたような係合素子7が複数個、縦方向(図2に示すX方向)に一定間隔をおいて列をなして並んでおり、すなわち係合用突起9が存在しない方向に列をなして並んでおり、そして、このような列が横方向に平行に複数列存在している(図2では2列記載している)。
【0024】
従来から、雄型面ファスナーとして種々のものが公知であり、その代表的なものとして、織物からなる面ファスナー基布に雄型係合素子となるモノフィラメントを織り込み、同モノフィラメントを所々基布からループ状に浮き上がらせて熱処理してループ形状を固定し、そして同ループの片側側面を切断してフック状係合素子としたものが一般的である。また、それ以外に、同モノフィラメントのループを頂点でカットするとともにカットした先端を融かして膨頭状に膨らまし、キノコ型の係合素子とした面ファスナーや、溶融樹脂を無数の筒状穴を有するドラム上に流し、冷却させた後、ドラム表面から樹脂シートを剥がして、表面に筒状の突起を多数有するシートを製造した後、該筒状突起の先端部を加熱板に押し付けて先端部を溶融させて円盤状に広げてキノコ状の係合素子としたものなども公知である。
【0025】
しかしながら、本発明者等の研究結果によると、上記の面ファスナーと比べて、図2に示すような雄型面ファスナーがもっとも耐光性に優れていることを見出した。その原因は必ずしも明確ではないが、他の面ファスナーと比べて係合素子が太く、かつ係合素子が密に列をなしていること、さらに係合素子のステムからの係合突起の突出方向がサイド方向の2方向のみであり、通常のきのこ型係合素子のようにステムの全周でなく、したがって係合・剥離を繰り返しても係合素子のヘッド部が係合脱離の際にちぎれ難いことなどが挙げられる。
【0026】
基板6および雄型係合素子7は、ともにテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている。テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体は、エチレンとテトラフルオロエチレンを共重合したものであり、一般にETFE樹脂と称され、市販されている。本発明において、エチレン共重合割合が30〜70モル%のものが成形性の点で好ましく、より完璧な雄型形状の係合素子が成型できることから、より好ましくはエチレン共重合割合が40〜60モル%のものである。もちろん、少量ならば他の共重合成分が共重合されていてもよく、さらにテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体以外の樹脂がブレンドされていてもよい。さらに、面ファスナーを構成するテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体には、耐光性を高めるための紫外線吸収剤や酸化防止剤、耐加水分解剤等の各種安定剤や顔料や染料等が添加されていてもよく、また表面に塗布されていても良い。さらに、面ファスナーの基板裏面には、裏面に貼りあわせる対象物との接着性を高めるために、凹凸の形状とされていたり、アンカー用の突起が設けられていてもよい。
【0027】
本発明に用いる面ファスナーとして、好ましくは図2に示すような雄型係合素子を有する面ファスナーの場合であるが、この場合には、上記したように、ステム部とヘッド部からなり、ヘッド部には、上記したようにステム上部からサイド方向に突出する係合用突起9を有しており、通常はステムから両サイドに対象に係合用突起が突出している。ステムは、通常、基板6から直立している。そして、係合用突起9は係合力を高めるために、基板に平行に、あるいは平行より先端部が基板側に下がるような方向に突出している。
【0028】
次に本発明に好適な雄型面ファスナーである図2に示すような雄型面ファスナーのサイズについて説明する。
まず、このような面ファスナーにおいて、雄型係合素子の係合用突起と、同突起の突出方向に隣り合う雄型係合素子の係合用突起との間隔は0.5〜2.5mmの範囲が好ましく、0.5mmより狭い場合には係合素子の嵌入が難しく、充分な係合力が得られない。また2.5mmより広い場合には、係合素子密度が低くなり、これまた充分な係合力が得られない。
【0029】
また、雄型係合素子の高さとしては1.2〜3.0mmの高さが好ましく、高さが1.2mm未満の場合には、充分な係合力が得られず、また3.0mmを超える場合には係合素子が倒れ易くなる。より好ましくは、1.5〜2.5mmの範囲、さらに好ましくは1.6〜2.4mmの範囲である。
さらに係合用突起は、ステムから0.2〜0.8mm突出しているのが好ましい。0.2mmより突起が短い場合には充分な係合力が得られず、また0.8mmより突起が長い場合には係合が強固となり過ぎ、剥離時に相手の係合素子を破損してしまう。より好ましくは0.3〜0.6mmである。係合用突起は、通常、ステムと同一の樹脂、すなわちテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成され、ステムの形成と同時に形成される。
【0030】
また、雄型係合素子の列方向厚さとしては、0.2〜2.0mmの範囲が好ましい。より好ましくは、係合力の点から0.25〜0.8mmの範囲である。そして、ステム部の太さとしては、係合力の点で、さらに太陽光に対する耐光性の点で、基板に平行な面(ステムの高さ中間地点での平行な面)での断面積が0.1〜0.8mmの範囲が好ましい。そして、雄型係合素子の密度としては、20〜60個/cmの範囲が係合力や耐光性の点で好ましく、より好ましくは30〜50個/cmの範囲である。
【0031】
さらに、本発明に好適に用いられる、図2に示すような形状の面ファスナーにおいて、係合素子のステムの基板に平行な面での断面形状は、後述するような製造方法を用いることから必然的に矩形となるが、係合用突起の頂部を有効に生かして高い係合力が得られることから断面形状は平行四辺形であるのが好ましい。すなわち、面ファスナーを上から見た場合に、係合用突起が60〜85度の範囲の鋭角の頂部を有しているのが好ましい。
【0032】
本発明に好適に用いられる雄型面ファスナーは、図2に示すような形状のものであるが、このような形状の雄型面ファスナーは、他の雄型面ファスナーと比べて、係合素子密度が高い割に係合素子のステムが太いという特徴を有しており、この特徴点が、太陽光発電装置の係合部材として用いた場合に長期間の太陽光暴露や過酷な使用条件での優れた耐性をもたらす原因の大きなひとつである。
【0033】
次に本発明に好適な面ファスナーである、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている雄型面ファスナーの製造方法について説明する。
【0034】
まず、図3に示すようなスリットを有するノズル10から、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体をテープ状に溶融押出し、冷却して、基板表面に、基板に対して直立し、かつ長さ方向に連続しているキノコ状係合素子断面を有する複数の列条を有するテープ状物を成型する。図3に示す11が基板を形成することとなる線状スリットであり、12が雄型係合素子を形成することとなる係合素子用スリットである。図3のようなノズルを用いた場合には、基板表面に直立した雄型係合素子用列条を9列等間隔で存在しているテープ状物が得られる。列条の本数としては、延伸した後のテープ幅1cm当り5〜15列が好ましい。またテープ幅としては20〜50mmが好ましい。
【0035】
次に、得られたテープ状物の表面に存在する係合素子用列条に、該列条長さ方向を横切る方向に小間隔で該列条の先端から付け根付近まで切れ目を入れる。この際の切れ目の角度がテープ状物の長さ方向と直角である場合には、係合素子のステムの断面形状が正方形または長方形となり、直角よりずれている場合には平行四辺形となる。ずれる角度が大きくなるにしたがって、より鋭角な平行四辺形となる。切れ目の間隔としては、0.2〜0.6mm、特に0.3〜0.5mmの範囲が好適である。
【0036】
次いで、切れ目を入れたテープ状物を長さ方向に延伸する。延伸倍率としては、延伸後のテープ状物の長さが元のテープ状物の長さの1.3〜3.5倍となる程度が採用される。この延伸により、列条に入れられた切れ目が広がり、列条が独立した多数の雄型係合素子の列となる。より好ましくは1.6〜2.5倍の延伸である。
【0037】
次に、このような面ファスナーの裏面を太陽光発電モジュールの裏面に取り付ける。取り付け方法としては、接着剤を用いて取り付ける方法、粘着剤を用いて取り付ける方法等種々あるが、モジュール裏面に存在しているテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなるシートは他の樹脂や粘着剤との接着性が低く、長期間に亘り高い剥離強度を得ることは困難である。
【0038】
本発明では、太陽光発電モジュールの裏面がテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体のシートで覆われていること、そして本発明に用いる面ファスナーもテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から構成されていることを利用して、両者を融着する方法を用いて面ファスナーの裏面と太陽光発電モジュールの裏面を接着させる方法を用いるのが好ましい。接着する方法としては通常の融着装置を利用できる。
【0039】
本発明を構成する面ファスナーにおいて、係合素子列に沿って係合素子が存在しない領域の基体層を存在させ、この領域を溶融させて太陽光発電モジュールの裏面シートに融着させる方法を用いることができる。そして、面ファスナーは、太陽光発電モジュールの裏面全面に存在させても、あるいは四隅や辺部に重点的に存在させるようにしてもよい。
【0040】
前記したように、本発明の面ファスナー付の太陽光発電装置は、テント、工事用の防音シートや養生シート、農業用シート、防水シートのような可撓性を有するシートの表面や、建物の外壁や屋根であって曲面を有している部分に取り付けるのに適しているが、このような取り付け対象物の表面には、上記太陽光発電モジュールの裏面に取り付けた面ファスナーと係合できる面ファスナーが取り付けられ、太陽光発電モジュールの裏面に取り付けた面ファスナーと取り付け対象物の表面に取り付けた面ファスナーを係合させることにより、取り付け対象物の表面に太陽光発電モジュールが固定されることとなる。
【0041】
取り付け対象物の表面に取り付ける面ファスナーとしては、通常の面ファスナーでも可能であるが、好ましくは、太陽光暴露に対する耐性を有する面ファスナーが好ましく、例えばフッ素系繊維からなるループ面ファスナーやテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなるキノコ型係合素子を有する面ファスナーなどが挙げられるが、特に基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている面ファスナーが太陽光暴露や過酷な温湿度条件に対する耐性の点で特に好ましい。
【0042】
特に、太陽光発電モジュールの裏面に取り付ける雄型面ファスナーとは係合素子列の間隔が相違する雄型面ファスナーを取り付けるか、あるいは太陽光発電モジュールの裏面に取り付ける雄型面ファスナーの列方向と交差する方向となるように取り付け対象物の表面に取り付けるのが好ましい。
【0043】
取り付け対象物表面に面ファスナーを取り付ける方法としては、取り付け対象物が織物や不織布等の場合には、縫製や接着剤等により取り付けることができる。また建物外壁や屋根材等には接着剤や金具等により取り付けることができる。この際の接着剤としては、長期間の太陽光暴露に耐え得るもの、例えばフッ素系の接着剤が挙げられる。また取り付け対象物が太陽光発電モジュールほども太陽光暴露に耐える必要がない場合、例えば、一定期間で取り替えるようなものの場合には通常の接着剤や粘着剤でも構わない。
【0044】
このように、本発明の太陽光発電装置は、可撓性と極めて優れた耐太陽光暴露性および過酷な温湿度条件での優れた耐性を有しており、さらに着脱が極めて容易であることから一時的に取り付ける分野にも適している。例えば、イベントに使用されるテント表面に取り付けることにより、テント内の照明や電光表示材や電気器具の電源として、またドーム競技場の屋根材となるシートの外表面に取り付けることにより競技場で使用する電気や照明、広告用ネオンサインの電源として、また工事現場を覆う防音シートや養生シート表面に取り付けることにより、工事現場内の照明や注意喚起の照明装置や電気器具の電源として、さらに宣伝用の照明等として、さらに農業ハウスの表面に取り付けることにより、作物の成長を促進や抑制する照明として、あるいは防虫灯やポンプ等の電源等として使用できる。さらに、家庭用電源としても使用できる。
【0045】
さらに建物の曲面等にも取り付けることができることから、従来の結晶シリコン型の太陽光発電モジュールでは取り付けることが不可能であった場所にも太陽光発電装置を取り付けることが可能となる。さらに、取り付け・取り外しが極めて容易であることから、一定期間で取り替えることが要求される防水シート等の上に取り付けるのに適している。
【0046】
また本発明に用いられる面ファスナーは、極めて優れた耐太陽光暴露性を有していることから、太陽光発電モジュールの固定以外にも、屋内外で太陽光に晒される用途分野へも好適に用いることができる。例えば、建物外壁材の壁面への固定、カーテンのカーテンレールへの取り付け材、屋根材の固定、工事現場で用いる養生シートの固定、テントや農業用トンネルハウス用シートや農園芸用シートや部材等の固定、漁業用の網やロープ等の固定、自動車や船舶等の乗物の太陽光に晒される部分に用いられる部材の固定、道路標識や看板の固定等に好適に用いられる。
【実施例】
【0047】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
樹脂としてテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(旭硝子株式会社製C-88AXP、エチレン共重合割合50モル%)を用い、図3に示すノズル(但し、キノコ型係合素子を形成することとなるスリットは10本)から同樹脂の溶融物を320℃で押し出し、直ちに冷水中に投入することにより、係合素子用列条を表面に10列有するテープ状物を作成し、同テープ状物の10列の係合素子用列条の頂部から根元までテープ長さ方向に垂直から20度傾けた方向に0.32mm間隔で切れ目を入れ、そしてそれをテープ長さ方向に220℃で2.5倍延伸し、この状態で220℃、1分間熱固定して、雄型面ファスナーを得た。
【0049】
得られた雄型面ファスナーは、基板の表面にキノコ型係合素子が列をなして並んでおり、各キノコ型係合素子は、平行四辺形断面を有するステム部とその上部にサイド方向のみに広がる突出部を有しており、突出部先端部はやや下がっている。そして、係合素子列を10列有しており、基板の厚さは0.25mm、係合素子高さは1.2mm、係合素子列方向に隣り合う係合素子の間隔は0.33mm、係合素子列方向ステム幅が0.32mm、係合素子列方向と直交する方向のステム幅が0.37mm、隣り合う係合素子列のステム間隔が1.9mm、係合素子の係合用突起の突出長さが0.45mm、係合素子密度が35個/cmであった。
【0050】
市販されているアモルファスシリコン型の太陽光発電モジュール(富士電機株式会社製)の小片の裏面シート(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)の端部に上記雄型面ファスナーの基板裏面を重ね、320℃に加熱した加熱体を端部に押し付けて、面ファスナー端部の係合素子が存在していない部分を該裏面シートに熱融着させて一体化した。
【0051】
一方、農業用の塩化ビニルフィルムの表面に上記の雄型面ファスナーと同一の面ファスナーを熱融着により一体化し、その面に、上記太陽光発電モジュールの裏面の雄型面ファスナーを重ね合わせ、係合素子同士を係合させた。但し、係合素子の突起の突出方向が交差するように係合させた。
係合は、農業用フィルムの表面に貼り付けた面ファスナーと太陽光発電モジュールの裏面に貼り付けた面ファスナーを重ね合わせ、上から軽く押さえるだけで容易にできた。また、係合の剥離も、農業用フィルム面から太陽光発電モジュールを持ち上げることにより容易に行うことができ、このように係合・剥離を労力を掛けることなく極めて簡単に何回でも繰り返すことができた。
【0052】
得られた太陽光発電モジュール付の農業用シートをサンシャインウェザオメーターテストに供した。サンシャインウェザオメーターテストの条件は次の通りである。
[テスト条件]
サンシャインウェザオメーターを使用
ブラックパネル温度と時間:83℃で2000時間放置
【0053】
テスト後に両面ファスナーの係合剥離を500回繰り返したが、テストを行わないものと比べて面ファスナーの係合素子損傷に差は見られなかった。またテストの前後で面ファスナーでの面ファスナーの係合力に関しても劣化は全く見られなかった。
【0054】
比較例1
上記実施例において、雄型面ファスナーを構成する樹脂を市販のポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社 EA7A)に置き換える以外は上記実施例と同様にして雄型面ファスナーを作製した。そしてこの面ファスナーを上記実施例と同様に、太陽光発電モジュールの小片に熱融着させた。そして、同様に上記農業用フィルムにも融着させた。同様に両者を重ね合わせて係合素子同士を係合させ、そしてサンシャインウェザオメーターテストを実施した。その結果、テストの前後で面ファスナーの係合力は30%に低下し、さらにテスト後に係合素子が所々折れたり、ヘッド部がちぎれたものが多く見られた。
【0055】
比較例2
上記実施例において、太陽光発電モジュールの裏面に貼り付ける雄型面ファスナーとして、市販のナイロン繊維製の織フック面ファスナー[クラレファスニング(株)製A03800−00〕に置き換え、農業用フィルムに貼り付ける面ファスナーとして市販のナイロン繊維製の織ループ面ファスナー[クラレファスニング(株)製B10000−00]に置き換え、取り付ける手段として市販されているアクリル系粘着剤を用いる以外は上記実施例と同様にして、太陽光発電モジュールの小片裏面に上記織フック面ファスナーを、そして農業用フィルムの表面に上記織ループ面ファスナーを貼り付けた。
【0056】
そして、これらを上記実施例と同様に両者を重ね合わせて両面ファスナーの係合素子同士を係合させ、そしてサンシャインウェザオメーターテストを実施した。
その結果、粘着剤が劣化したのか、粘着剤箇所で剥離を生じ、さらにテストの前後で面ファスナーの係合力は50%に低下し、さらに係合素子が切断されたり、面ファスナー基布から係合素子用繊維が引き抜かれたりしているものが多数見られた。
【符号の説明】
【0057】
1‥‥太陽電池セル
2、4‥‥接着剤層
3、5‥‥保護シート
6‥‥面ファスナー基板
7‥‥係合素子
8‥‥面ファスナー
9‥‥係合用突起
10‥‥押し出し用ノズル
11‥‥基板用スリット
12‥‥係合素子用スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電モジュール裏面にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる面ファスナーが取り付けられていることを特徴とする太陽光発電装置。
【請求項2】
面ファスナーが、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている請求項1に記載の太陽光発電装置。
【請求項3】
矩形が平行四辺形である請求項2に記載の太陽光発電装置。
【請求項4】
太陽光発電モジュールが、アモルファスシリコン型のものである請求項1〜3のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項5】
太陽光発電モジュールが、その表面および裏面にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなるシートを有しており、裏面のテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなるシートと面ファスナーの裏面が溶着により一体化されている請求項1〜4のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項6】
取り付け対象物の表面に、フッ素系繊維からなるループ面ファスナーが取り付けられており、このループ面ファスナーと太陽光発電モジュール裏面に取り付けた面ファスナーが係合することにより太陽光発電モジュールが取り付け対象物の表面に取り付けられている請求項1〜5のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項7】
取り付け対象物の表面に、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる雄型面ファスナーが取り付けられており、この雄型面ファスナーと太陽光発電モジュールの裏面側に取り付けた面ファスナーが係合することにより太陽光発電モジュールが取り付け対象物の表面に取り付けられている請求項1〜5のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項8】
取り付け対象物の表面に取り付けた雄型面ファスナーが、基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている請求項7に記載の太陽光発電装置。
【請求項9】
取り付け対象物が、布帛または樹脂フィルムからなる可撓性を有するシートである請求項1〜8のいずれかに記載の太陽光発電装置。
【請求項10】
布帛または樹脂フィルムからなる可撓性を有するシートがテントまたは農業用温室を覆うフィルムである請求項9に記載の太陽光発電装置。
【請求項11】
基板の表面に多数の雄型係合素子が列をなして立設されており、該雄型係合素子が、基板から立ち上がる矩形断面のステムと同ステムから両サイドに突出しているが列方向には突出していない係合用突起を有しており、かつ該基板および該雄型係合素子が共にテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体から形成されている面ファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−102100(P2013−102100A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246014(P2011−246014)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(591017939)クラレファスニング株式会社 (43)
【Fターム(参考)】