説明

太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその製造方法

【課題】環境負荷が小さく短時間で処理可能であり、UV・可視・近赤外域については吸収率が高く、熱放射に関わる赤外域については反射率が高いという特性を持つ太陽熱利用集熱器の選択吸収面の製造方法を提供する。
【解決手段】40〜60重量%硫酸水溶液に過マンガン酸塩を3〜10重量%添加し、酸素ガスの発生が停止するまで反応させて得られる溶液に、ステンレス鋼を65℃〜120℃の温度範囲で、18min〜2.5min浸漬することを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽熱利用集熱器には耐食性に優れたステンレス鋼を使用する必要があるが、このステンレス鋼に選択吸収面を作製する手法としては、化成処理・めっき・スパッタ・熱酸化・黒色塗料塗布などが挙げられる。めっきは化成処理に比べ大電流電源等の設備上の制約が生ずる。スパッタは生産性が悪く、高コストである。熱酸化・黒色塗料塗布は選択吸収特性が不十分で、処理または乾燥に長時間を要する。従って、化成処理が工業的に最も優れており、酸性酸化法、アルカリ性酸化法、硫化酸化法、溶融塩浴法等がある。従来の化成処理方法としては特許文献1に記載の発明の方法などが挙げられ、この方法では特に好ましい方法を酸性酸化法及びアルカリ性酸化法としている。この酸性酸化法は、重クロム酸カリウムもしくは重クロム酸ナトリウムと硫酸からなる酸性溶液中で温度50〜150℃、浸漬時間3〜40分間化成処理することでフェライト系及びオーステナイト系ステンレス鋼表面に選択吸収面を作製する方法である。
【特許文献1】特開昭52−38652号公報
【0003】
しかし、上記のような従来の方法では、6価クロムを使用するため環境負荷が大きい。これに対して特許文献2に記載の発明では硫酸銅水溶液による化成処理を提案しているが、処理時間が極めて長いという欠点があった。また従来の方法においては100℃以上の高温で処理しなくてはならないため、エネルギー消費が多く、水分の蒸発による浴組成の安定性に問題があった。さらに従来の方法では、化成処理反応のためにステンレス鋼基板へのBA処理(光輝焼鈍処理)が必要であったが、BA処理は2B処理(大気焼鈍処理)に比べて溶接性が悪いという問題があった。
【特許文献2】特開昭58−8948号公報
【0004】
環境負荷の小さい化成処理方法として、本願発明と同様の手法を用いた特許文献3の発明が挙げられるが、この発明はステンレス鋼の着色方法という目的の異なる発明であり、本願発明が目的としている選択吸収面に必要な特性であるUV・可視・近赤外の吸収と赤外域の放射という特性を得るための情報及び記載は全く無く、化成処理条件について処理温度並びに浸漬時間についての検討も着色した色調という点のみにおいてしかなされていない。
【特許文献3】特許昭51−40861号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決できる太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
請求項1記載の発明の要旨は、40〜60重量%硫酸水溶液に過マンガン酸塩を3〜10重量%添加し、酸素ガスの発生が停止するまで反応させて得られる溶液に、ステンレス鋼を65℃〜120℃の温度範囲で、18min〜2.5min浸漬することを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面の製造方法に存する。
請求項2記載の発明の要旨は、請求項1に記載の製造方法で得られる選択吸収面を使用した太陽熱利用集熱器に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその製造方法は、過マンガン酸塩を用いるため環境負荷が小さく、また120℃以下の反応温度において比較的短時間で望ましい特性を持つ選択吸収面を得ることが出来、高い生産性をもたらすことが可能であるという利点がある。
【0008】
また、本発明の太陽熱利用集熱器の選択吸収面は、太陽熱吸収に関わるUV・可視・近赤外域については吸収率が高く、熱放射に関わる赤外域については放射率が低いという、集熱器として優れた熱収支特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、環境負荷が小さく、且つ太陽熱利用集熱器として好適な特性である、UV・可視・近赤外域については吸収率が高く、熱放射に関わる赤外域については放射率が低いという特性を持つ選択吸収面を得るための、ステンレス鋼の化成処理条件を鋭意検討した結果、40〜60重量%硫酸水溶液に過マンガン酸塩を3〜10重量%添加し、酸素ガスの発生が停止するまで反応させて得られる溶液に、ステンレス鋼を65℃〜120℃の温度範囲で、18min〜2.5min浸漬することで好適な選択吸収面が得られることを見出した。
【0010】
硫酸水溶液の濃度が40重量%以下であると、浴温を高くするか、長い浸漬時間が必要となり、生産性が悪い。また、硫酸水溶液の濃度が60重量%以上であると、浸漬時間が短く、高い選択吸収面効率を持つ膜を得る制御が難しい。
過マンガン酸塩の濃度が3重量%以下であると、浴温を高くするか、長い浸漬時間が必要となり、生産性が悪い。過マンガン酸塩の濃度が10重量%以上であると、浸漬時間が短く、高い選択吸収面効率を持つ膜を得る制御が難しい。
浸漬時間が2.5min以下であると、成膜されず、高い選択吸収面効率が得られない。浸漬時間が18min以上であると、膜が厚くなり、高い選択吸収面効率が得られない。
反応温度が65℃以下であると、成膜されず、高い選択吸収面効率が得られない。反応温度が120℃以上であると、膜が厚くなり、高い選択吸収面効率が得られない。
【0011】
浸漬温度の条件について、65〜90℃においては低温で処理することにより緻密な膜を形成することができるため膜の耐久性が良いという利点があり、一方で90〜120℃においては高温で処理することで短時間で化成処理を終えることが出来るという利点がある。
【0012】
浸漬時間の条件については、18min〜2.5minの範囲であることが、製造される選択吸収面の熱収支特性の点において好適であることを見出した。望ましい熱収支特性とは、太陽光による熱の主要な部分であるUV・可視・近赤外域の吸収である吸収率は高く、一方で選択吸収面からの熱放射に関わる赤外域の放射である放射率は低いという、太陽光の熱を効率よく吸収しつつも保持する熱を放射して逃がすことの少ない特性である。本発明の選択吸収面の製造方法によれば、膜厚を80〜150nmとすることができ、それにより干渉波長が500〜900nmとなるから、波長範囲0.2μm〜3.0μmで吸収率が高く、波長範囲3.0μm〜25μmで放射率が低い選択吸収面を得ることが出来る。
【0013】
化成処理を行うステンレス鋼の種類については、耐食性の面からフェライト系ステンレス鋼を用いることが好適であるが、本発明の化成処理方法はフェライト系ステンレス鋼に限定される方法ではなく、オーステナイト系及びマルテンサイト系ステンレス鋼においても実施可能である。
【0014】
また従来の化成処理方法では、基板へのBA処理(光輝焼鈍処理)が必要であったが、本発明の化成処理方法においては2B処理(大気焼鈍処理)されたステンレス鋼を用いても良好な選択吸収面を作製することが可能である。2B処理ステンレス鋼は、BA処理ステンレス鋼に比べて溶接性が良好であり、太陽熱利用集熱器の製造に好適である。
【0015】
本発明の化成方法に用いる過マンガン酸塩は、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムなどが好適であるが、これらに限定されることはない。
【実施例1】
【0016】
50.5%硫酸水溶液に過マンガン酸カリウムを5.7%となるよう添加して全体を56.2%として得た溶液に、表1で示す浸漬温度、浸漬時間の条件でステンレス鋼を反応させた。基板には、フェライト系ステンレス鋼の一種であるSUS430系のJFE430LN(JFEスチール(株))をBA処理したJFE430LN−BAを用いた。
【0017】
選択吸収特性の評価は、以下のようにして行った。
吸収率αは、UV・可視・近赤外域(300〜2100nm)の反射率Rを島津製作所製UV−3100を用いて測定し、下記の数式1のI・IIにて算出した。
放射率εは、同様に赤外域(2500〜25000nm)の反射率Rを日本電子製WINSPEC100を用いて測定し、下記の数式1のIII・IVにて算出した。
【0018】
【数1】

【0019】
選択吸収面効率については、下記の数式2より算出した。
【0020】
【数2】

【0021】
結果の一覧を表1に示す。表1のように、反応温度110℃では2.5min〜8min、95℃では4min〜14min、80℃では8min〜14min、65℃では15min〜18minの条件において、優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。本発明によって得られる優れた特性とは、表1に記載されるように、太陽光による熱の主要な部分であるUV・可視・近赤外域の吸収である吸収率αが概ね0.75以上と高く、且つ選択吸収面からの熱放射に関わる赤外域の放射である放射率εが概ね0.13以下であるという、太陽光の熱を効率よく吸収しつつも保持する熱を放射して逃がすことの少ない特性である。また、この吸収率αと放射率εを併せて評価した指数である選択吸収面効率についても概ね0.650以上という好適な値の選択吸収面を作製できている。従って、反応温度65℃〜120℃、反応時間18min〜2.5minが、本発明における好適な化成処理時間である。
【0022】
【表1】

【実施例2】
【0023】
(比較例)
従来の方法による化成処理として、6価クロムを用いた化成処理を行った。39.8重量%硫酸水溶液に重クロム酸ナトリウムを6.5重量%となるよう添加して得た溶液に、基板としてJFE430LN−BAを用いて、120℃の浴温にて10分間浸漬し、化成処理を行い、選択吸収面を作製した。得られた選択吸収面について、実施例1と同様に吸収率α、放射率εを測定し、選択吸収面効率を計算した。
【0024】
その結果、吸収率α=0.92、放射率ε=0.12、選択吸収面効率=0.778であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
このように、本発明によれば、UV・可視・近赤外域については吸収率が高く、熱放射に関わる赤外域については反射率が高いという優れた特性を持つ選択吸収面を製造することができ、高い選択吸収面効率を持つ優れた選択吸収面を製造することが可能である。また、クロムを使用しないため環境負荷が小さく、安全に製造を行うことが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
40〜60重量%硫酸水溶液に過マンガン酸塩を3〜10重量%添加し、酸素ガスの発生が停止するまで反応させて得られる溶液に、ステンレス鋼を65℃〜120℃の温度範囲で、18min〜2.5min浸漬することを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られる選択吸収面を使用した太陽熱利用集熱器。

【公開番号】特開2006−336960(P2006−336960A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163863(P2005−163863)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】