説明

太陽電池パネル

【課題】 火山礫などのアタックによる割れなど、従来の太陽電池パネルの諸問題を解決し、受光面側の機械的強度を高めるとともに長期信頼性を向上させることができる太陽電池パネルを提供するものである。
【解決手段】 ガラス板に合成樹脂によって太陽電池素子が封入された太陽電池パネルの受光面に、ポリウレタン樹脂が塗布されたことを特徴とする太陽電池パネルとすること。ポリウレタン樹脂としては、ヒマシ油系ポリオールを含むもの、液状ゴム系ポリオールを含むもの、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはその誘導体物を含むもの、水素添加によって二重結合を含まない構造としたヒマシ油系ポリオールを含むもの、水素添加によって二重結合を含まない構造とした液状ゴム系ポリオールを含むものを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池パネルの品質向上の分野に属するものである。特に、真空ラミネートによって製作される従来の一般的な太陽電池パネルに比較して、受光面側の機械的強度を高め、長期信頼性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池パネルとは、複数のシリコン等半導体からなる太陽電池素子を、樹脂等によって封入したものである。従来の太陽電池パネルの最も一般的な構造としては、図2に示すように、配線材201によって複数の太陽電池素子203を接続したストリング205を、白板強化ガラス基板207上にEVA樹脂(エチレンビニルアセテート)209によって封入し、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)シート211によって裏面をシールするとともに、周囲にアルミニウム製フレーム213をブチルゴム215などによって接着して取り付けたものである。アルミニウム製フレーム213には、取付用の穴217が開設されている。太陽光は、白板強化ガラス基板207側から入射する(A)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】 株式会社SUMCOホームページ(http://www.sumcosi.com/products/solar/process.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の構造は、白板強化ガラスを使用するので、低温下での脆さなども懸念される。例えば、火山観測用電源や南極観測用電源として太陽電池を使用する場合には、著しい低温下に設置されるとともに、火山礫やブリザードによって吹き上げられた砂塵、氷粒によって、白板強化ガラスが容易に破損するという問題が発生している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述の先行技術に基づく太陽電池パネルの諸問題を解決し、受光面側の機械的強度を高めるとともに長期信頼性を向上させることができる太陽電池パネルを提供するものである。
【0006】
このような本発明は、ガラス板に合成樹脂によって太陽電池素子が封入された太陽電池パネルの受光面に、ポリウレタン樹脂が塗布されたことを特徴とする太陽電池パネルとすることで実現できる。
【0007】
ポリウレタン樹脂としては、ヒマシ油系ポリオールを含むもの、液状ゴム系ポリオールを含むもの、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはその誘導体物を含むもの、水素添加によって二重結合を含まない構造としたヒマシ油系ポリオールを含むもの、水素添加によって二重結合を含まない構造とした液状ゴム系ポリオールを含むものが選択される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1によれば、太陽電池パネルの受光面にポリウレタン樹脂が塗布されているので、火山礫や砂塵、氷粒による衝撃によってガラスが破損することを防止できる。特に寒冷環境下での使用では、その効果は顕著となる。
【0009】
請求項2によれば、高い耐水性を得ることができ、長期にわたって安定的なポリウレタン塗膜を維持することができる。耐水性能は、屋外で使用される太陽電池にとっては、必要不可欠の性能であることは言うまでもない。本請求項の構成によって耐水性能が向上する理由は、本発明のウレタン原料となるヒマシ油系ポリオールの効果によるものである。ヒマシ油は、ヒマ(トウタイグサ科)という植物の種子から得られる油であるが、この油は、脂肪酸とグリセリンのエステルであり、脂肪酸の約90%がリシノレイン酸であるため、他の植物油脂とは異なった性状を示す。特に耐水性に優れる点が特徴としてあげられる。
【0010】
請求項3によれば、先ずは、ポリウレタン樹脂塗膜としての弾性をコントロールすることができるという効果があげられる。火山礫や砂塵、氷粒など、太陽電池パネルのガラス面(受光面)をアタックする異物の種類などにより、ポリウレタン塗膜の弾性を最適化する必要も生じるからである。次に、硬化物の脆化温度を低くできることから、耐寒性に優れたポリウレタン塗膜を得ることができる。液状ゴム系ポリオールによれば、脆化温度を−70℃程度まで下げることができる。さらに、液状ゴム系ポリオールは、耐水性にも優れている。
【0011】
請求項4によれば、高い耐光性を得ることができる。イソシアネートはポリオールとともにウレタン樹脂の主原料であるが、ヘキサメチレンジイソシアネート若しくはその誘導体物は脂肪族イソシアネートであり、トリレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネートとは異なり、黄変が起こりにくいという特性を有している。これは、その化学構造として芳香環を含んでいないという点が、寄与していると考えられる。黄変が発生しないということは、太陽電池の受光面側に塗布するポリウレタン塗膜としては、不可欠の特性である。
【0012】
請求項5、請求項6によれば、ポリオールの二重結合を水素添加によって除去しているので、高い耐水性に加えて高い耐光性も併せて得ることができる。ポリウレタン樹脂が光照射や高温の影響などによって黄変するのは、二重結合がこれらの外部エネルギーによって共鳴するからである。したがって、二重結合がなければ、太陽光のような全波長にわたる強い光が照射されたとしても、黄変を防止することができる。特にヘキサメチレンジイソシアネート若しくはその誘導体との組み合わせは、ポリオールとイソシアネートの両方が二重結合を含まないものなるので、極めて高い水準で耐水性と耐光性を両立できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の太陽電池パネルの断面構造例の説明図
【図2】一般に普及している白板強化ガラスによる太陽電池パネルの断面構造の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、本発明を実施するための最良の形態例を示す。図例は、ガラス板1に合成樹脂3によって太陽電池素子5が封入された太陽電池パネルの受光面に、ポリウレタン樹脂7が塗布されたことを特徴とする太陽電池パネルである。
【0015】
具体的には、配線材9によって複数の太陽電池素子5を接続したストリング11を、白板強化ガラス基板1上にEVA樹脂(エチレンビニルアセテート)3によって封入し、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)シート13によって裏面をシールするとともに、周囲にアルミニウム製フレーム15をブチルゴム17などによって接着して取り付けたものである。アルミニウム製フレーム15には、取付用の穴19が開設されている。太陽光は、白板強化ガラス基板1側から入射する(A)。ストリング11の両端からは正負電極の取出線21、23が、PET樹脂シート13を開孔して、外部に取り出されている。
【0016】
以下、さらに具体的に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例の内容によって、本発明の技術的範囲が何ら制限されるものではない。
【0017】
第1の実施例として、株式会社ケー・アイ・エス製単結晶太陽電池パネルGT40(535mm×666mm×35mm)のガラス面全面に、ポリウレタン樹脂を塗布した。このときのポリウレタン樹脂は、水酸基価160(KOHmg/g)のヒマシ油系ポリオールを100重量部(伊藤製油株式会社製URIC)、NCO含有量17.1%のヘキサメチレンジイソシアネート誘導体(旭化成株式会社製デュラネートシリーズ)をNCOインデックス(活性水素基当量に対するイソシアネート基当量比)=1.05として74重量部、これに可塑剤と適量の触媒、消泡剤を混合したものである。硬化条件は70℃で30分とし、その後24時間養生して完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、85℃〜−40℃の温湿度サイクル試験50サイクルと85℃85%の耐湿試験1,000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂の黄変は見られず、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。また、1,000時間の屋外暴露試験でも黄変は見られなかった。
【0018】
第2の実施例としては、第1の実施例と同じ太陽電池パネルのガラス面全面に、ポリウレタン樹脂を塗布した。このポリウレタン樹脂は、水酸基価160(KOHmg/g)のヒマシ油系ポリオールを100重量部(伊藤製油株式会社製URIC)、NCO含有量23.1%のヘキサメチレンジイソシアネート誘導体(旭化成株式会社製デュラネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として54重量部を混合したものである。硬化条件は70℃で30分とし、その後24時間養生して完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、85℃〜−40℃の温湿度サイクル試験50サイクルと85℃85%の耐湿試験1,000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂の黄変は見られず、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。また、1,000時間の屋外暴露試験でも黄変は見られなかった。
【0019】
第3の実施例として、第1の実施例と同じ太陽電池パネルのガラス面全面に、ポリウレタン樹脂を塗布した。このポリウレタン樹脂は、水酸基価123(KOHmg/g)の二重結合を水素添加によって除去されたヒマシ油系ポリオール100重量部(伊藤製油株式会社製URIC−Yシリーズ)、NCO含有量17.1%のヘキサメチレンジイソシアネート誘導体(旭化成株式会社製デュラネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として57重量部、これに可塑剤と適量の触媒、消泡剤を混合したものである。硬化条件は70℃で30分とし、その後24時間養生して完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、85℃〜−40℃の温湿度サイクル試験50サイクルと85℃85%の耐湿試験1,000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂の黄変は見られず、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。また、1,000時間の屋外暴露試験でも黄変は見られなかった。
【0020】
第4の実施例として、第1の実施例と同じ太陽電池パネルのガラス面全面に、ポリウレタン樹脂を塗布した。このポリウレタン樹脂は、水酸基価45(KOHmg/g)の水添液状ゴム100重量部(出光石油化学株式会社製エポール)、NCO含有量17.1%のヘキサメチレンジイソシアネート誘導体(旭化成株式会社製デュラネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として21重量部、これに可塑剤と適量の触媒、消泡剤を混合したものである。硬化条件は70℃で30分とし、その後24時間養生して完全硬化を確認した。この太陽電池パネルに、85℃〜−40℃の温湿度サイクル試験50サイクルと85℃85%の耐湿試験1,000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂の黄変は見られず、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。また、1,000時間の屋外暴露試験でも黄変は見られなかった。
【0021】
第5の実施例として、第1の実施例と同じ太陽電池パネルのガラス面全面に、ポリウレタン樹脂を塗布した。このポリウレタン樹脂は、水酸基価47(KOHmg/g)で液状ゴム系ポリオール100重量部(出光石油化学株式会社製poly−bd)、NCO含有量17.1%のヘキサメチレンジイソシアネート誘導体(旭化成株式会社製デュラネートシリーズ)をNCOインデックス=1.05として22重量部、これに可塑剤と適量の触媒、消泡剤を混合したものを用いた。この太陽電池パネルに、85℃〜−40℃の温湿度サイクル試験50サイクルと85℃85%の耐湿試験1,000時間を連続して施した。その結果、ウレタン樹脂の黄変は見られず、太陽電池パネルとしての電気特性は初期値の95%以上を維持していた。また、1,000時間の屋外暴露試験でも黄変は見られなかった。
【符号の説明】
【0022】
1,207 ガラス板(白板強化ガラス)1
3,209 合成樹脂(EVA樹脂)
5,203 太陽電池素子
7 ポリウレタン樹脂
9,201 配線材
11,205 ストリング
13,211 PET樹脂シート
15,213 アルミニウム製フレーム
17,215 ブチルゴム
19,217 取付用の穴
21、23 取出線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板に合成樹脂によって太陽電池素子が封入された太陽電池パネルの受光面に、ポリウレタン樹脂が塗布されたことを特徴とする太陽電池パネル。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂が、ヒマシ油系ポリオールを含むものである、請求項1記載の太陽電池パネル。
【請求項3】
ポリウレタン樹脂が、液状ゴム系ポリオールを含むものである、請求項1または2記載の太陽電池パネル。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂が、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはその誘導体物を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池パネル。
【請求項5】
ポリウレタン樹脂が、水素添加によって二重結合を含まない構造としたヒマシ油系ポリオールを含むものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池パネル。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂が、水素添加によって二重結合を含まない構造とした液状ゴム系ポリオールを含むものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池パネル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−160689(P2012−160689A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33879(P2011−33879)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(597027420)エヌ・イー・ティ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】