説明

太陽電池モジュールの製造方法及び成膜装置

【課題】安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜可能な成膜工程を備えた太陽電池モジュールの製造方法、及び、安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜可能な成膜装置を提供すること。
【解決手段】本太陽電池モジュールの製造方法は、CIS系光吸収層及び第1バッファ層が形成された基板上に、成膜室で前記第1バッファ層上に第2バッファ層として酸化亜鉛膜をイオンプレーティング法により成膜する成膜工程を有する太陽電池モジュールの製造方法であって、前記成膜工程は、予め把握した前記酸化亜鉛膜の抵抗率と前記成膜室内の水蒸気分圧との関係に基づいて、前記成膜室内の水蒸気分圧を制御して前記抵抗率を調整する抵抗率調整工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛膜の成膜工程を有する太陽電池モジュールの製造方法、及び酸化亜鉛膜の成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料が不要であり温室効果ガスを排出しない太陽光発電が注目されている。太陽光発電に用いられる太陽電池モジュールとしては、例えば、銅(Cu),インジウム(In),及びセレン(Se)を含む化合物からなるCIS系光吸収層を有するCIS系薄膜太陽電池モジュールが開示されている。
【0003】
CIS系薄膜太陽電池モジュールは、例えば、ガラス基板上に、金属裏面電極層、CIS系光吸収層、第1バッファ層、第2バッファ層、及び透明電極層が順次積層された層構成を有する。CIS系薄膜太陽電池モジュールにおいて、第2バッファ層の材料としては酸化亜鉛(ZnO)が用いられている。酸化亜鉛からなる第2バッファ層は、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等により成膜される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第09/110092号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MOCVD法により酸化亜鉛からなる第2バッファ層を成膜すると、成膜速度が遅いため生産性が低いという問題がある。又、MOCVD法では有毒なガスを取り扱う場合もあり、安全上の問題を十分に考慮しなければならない。そこで、MOCVD法に代わる生産性が高く安全性に優れた酸化亜鉛膜の成膜技術としてイオンプレーティング法が検討されている。しかし、イオンプレーティング法では安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜可能な成膜工程を備えた太陽電池モジュールの製造方法、及び、安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜可能な成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本太陽電池モジュールの製造方法は、CIS系光吸収層及び第1バッファ層が形成された基板上に、成膜室で前記第1バッファ層上に第2バッファ層として酸化亜鉛膜をイオンプレーティング法により成膜する成膜工程を有する太陽電池モジュールの製造方法であって、前記成膜工程は、予め把握した前記酸化亜鉛膜の抵抗率と前記成膜室内の水蒸気分圧との関係に基づいて、前記成膜室内の水蒸気分圧を制御して前記抵抗率を調整する抵抗率調整工程を備えることを要件とする。
【0008】
本成膜装置は、CIS系光吸収層及び第1バッファ層が形成された基板の前記第1バッファ層上に第2バッファ層として酸化亜鉛膜をイオンプレーティング法により成膜する成膜室を有する成膜装置であって、前記成膜室内に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、予め把握した前記酸化亜鉛膜の抵抗率と前記成膜室内の水蒸気分圧との関係に基づいて、前記成膜室内の水蒸気分圧を前記酸化亜鉛膜の所望の抵抗率に対応する水蒸気分圧に制御する水蒸気分圧制御手段と、を備えることを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜可能な成膜工程を備えた太陽電池モジュールの製造方法、及び、安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜可能な成膜装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態に係る太陽電池モジュールを例示する平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う部分拡大断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う部分拡大断面図である。
【図4】本実施の形態に係る成膜装置の概略構成を例示する模式図である。
【図5】図4のマスフローコントローラ近傍の拡大図である。
【図6】成膜室内の水蒸気分圧と成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率及び透過率との関係を例示する図である。
【図7】成膜室内の水蒸気分圧と成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率のばらつきとの関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
まず、本実施の形態に係る太陽電池モジュールの構造及び製造方法について説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る太陽電池モジュールを例示する平面図である。図2は、図1のA−A線に沿う部分拡大断面図である。図3は、図1のB−B線に沿う部分拡大断面図である。各図は、太陽電池モジュールの平面形状が矩形状である場合の例を示し、太陽電池モジュールを平面視した場合(受光面側から視た場合)の短手方向をX方向、長手方向をY方向、厚さ方向をZ方向としている。なお、説明の便宜上、平面図においても断面図に対応するハッチングを施している。
【0014】
図1〜図3を参照するに、太陽電池モジュール10は、基板11と、第1電極層12と、発電層17とを有するCIS系薄膜太陽電池モジュールである。以下、太陽電池モジュール10を構成する各要素について説明する。
【0015】
基板11は、第1電極層12及び発電層17を形成する基体となる部分であり、例えば、青板ガラスや低アルカリガラス等のガラス基板、ステンレス板等の金属板、またはポリミイド等の樹脂基板を用いることができる。基板11の厚さは、例えば、数mm程度とすることができる。
【0016】
第1電極層12は基板11上に形成されており、Y方向に沿って設けられた溝部12xにより分割されている。第1電極層12の材料としては、例えば、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)等の高耐蝕性かつ高融点の金属を用いることができる。第1電極層12の厚さは、例えば、数10nm〜数μm程度とすることができる。第1電極層12は、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)等の金属をターゲットとしてDCスパッタ法により基板11上に成膜できる。溝部12xの幅は、例えば、数10〜数100nm程度とすることができる。溝部12xは、例えば、レーザスクライブ法等により形成できる。
【0017】
発電層17は、第1電極層12上に形成されている。発電層17は、CIS系光吸収層13と、第1バッファ層14と、第2バッファ層15と、第2電極層16とを有し、照射された太陽光等を光電変換する部分である。発電層17が光電変換することにより生じた起電力は、第1電極層12及び/又は第2電極層16にそれぞれはんだ等で取り付けられた図示しない電極リボン(銅箔リボン)から外部に電流として取り出すことができる。以下、発電層17を構成する各要素について説明する。
【0018】
CIS系光吸収層13は、p型半導体からなる層であり、第1電極層12上及び溝部12x内に形成されている。CIS系光吸収層13としては、例えば、銅(Cu),インジウム(In),セレン(Se)からなる化合物や、銅(Cu),インジウム(In),ガリウム(Ga),セレン(Se),硫黄(S)からなる化合物等を用いることができる。前記化合物の一例を挙げれば、CuInSe、Cu(InGa)Se、Cu(InGa)(SSe)等である。CIS系光吸収層13の厚さは、例えば、0.5μm〜10μm程度とすることができる。
【0019】
CIS系光吸収層13の代表的な製法には、セレン化及び/又は硫化法と多源同時蒸着法との2種類がある。本実施の形態においては、何れの製造方法を採用してもよい。セレン化及び/又は硫化法では、まず、第1電極層12上に銅(Cu)、インジウム(In)、及びガリウム(Ga)を含む積層構造又は混晶の金属プリカーサー膜(Cu/In、Cu/Ga、Cu−Ga合金/In、Cu−Ga−In合金等)をスパッタ法或いは蒸着法により形成する。その後、セレン(Se)及び硫黄(S)の何れか一方又は双方を含有する雰囲気中で400℃程度以上の熱処理を行うことにより、セレン化又は硫化されたCIS系光吸収層13を形成することができる。又、多源同時蒸着法では、第1電極層12が形成された基板11を500℃程度以上に加熱し、第1電極層12上に銅(Cu),インジウム(In),及びセレン(Se)を含む原料を適当な組合せで同時に蒸着することによって、CIS系光吸収層13を形成することができる。
【0020】
第1バッファ層14は、CIS系光吸収層13上に形成されている。第1バッファ層14の材料としては、例えば、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、又はインジウム(In)を含む化合物を用いることができる。第1バッファ層14の厚さは、例えば、数nm〜数百nm程度とすることができる。第1バッファ層14は、例えば、溶液成長法(CBD法)によりCIS系光吸収層13上に成膜できる。溶液成長法(CBD法)とは、前駆体となる化学種を含む溶液に基材を浸し、溶液と基材表面との間で不均一反応を進行させることによって薄膜を基材上に析出させる方法である。
【0021】
具体的には、例えば、CIS系光吸収層13上に、酢酸亜鉛を液温80℃の水酸化アンモニウムに溶解して亜鉛アンモニウム錯塩を形成させ、その溶液中に硫黄含有塩であるチオリアを溶解し、この溶液をCIS系光吸収層13に10分間接触させて、CIS系光吸収層13上に当該溶液から硫黄含有亜鉛混晶化合物半導体薄膜を化学的に成長させる。更に、成長した硫黄含有亜鉛混晶化合物半導体薄膜を大気中において設定温度200℃で15分間アニールして乾燥し、かつ膜中の水酸化亜鉛の一部を酸化亜鉛に転化すると同時に硫黄により改質を促進することにより、硫黄含有亜鉛混晶化合物を高品質化させることができる。なお、第1バッファ層14は、溶液を調整することにより、Cd、Zn、Zn、Zn(OH)、In、In、In(OH)(ここで、x、yは自然数)が含まれてもよい。
【0022】
第2バッファ層15は、第1バッファ層14上に形成されている。第2バッファ層15の材料は、酸化亜鉛(ZnO)であり、第2のバッファ層15における、アルミニウム・ガリウム・ホウ素等のドーピング不純物元素の濃度が1×1019atoms/cm以下である。また、第2バッファ層15の材料として、ZnOの代わりに、ZnMgOを適用することも可能である。第2バッファ層15の厚さは、例えば、50nm〜300nm程度とすることができる。第2バッファ層15の成膜方法については、後述する。
【0023】
CIS系光吸収層13、第1バッファ層14、及び第2バッファ層15は、Y方向に沿って設けられた溝部17xにより分割されている。溝部17xの幅は、例えば、数10〜数100μm程度とすることができる。溝部17xは、例えば、メカニカルスクライブ法等により形成できる。なお、本実施の形態においては、溝部17xの形成を、第2バッファ層15の成膜後に行ったが、CIS系光吸収層13の成膜後、又は、第1バッファ層14の成膜後に行ってもよい。
【0024】
第2電極層16は、n型半導体からなる透明な層であり、第2バッファ層15上及び溝部17x内に形成されている。第2電極層16としては、例えば、酸化亜鉛系薄膜やITO薄膜等を用いることができる。酸化亜鉛系薄膜を用いる場合には、硼素(B)やアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)等をドーパントとして添加することにより、低抵抗化でき好適である。第2電極層16の厚さは、例えば、0.1μm〜数μm程度とすることができる。第2電極層16は、例えば、スパッタ法(DC、RF)やMOCVD法等により形成できる。
【0025】
発電層17は、Y方向に沿って設けられた溝部17yにより分割されている。溝部17yの幅は、例えば、数10〜数100μm程度とすることができる。溝部17yは、例えば、メカニカルスクライブ法等により形成できる。溝部17yにより分割された各部分は複数のセル19を構成している。所定のセル19の溝部17x内に形成されている第2電極層16は、溝部17yを介して隣接するセル19の第1電極層12と電気的に接続されている。つまり、溝部17yにより分割された複数のセル19は、直列に接続されている。
【0026】
基板11のX方向の両外縁部には、発電層17が形成されてなく第1電極層12の表面が露出しているエッジスペース11xが形成されている。エッジスペース11xは、前述の電極リボン(銅箔リボン)を第1電極層12に取り付けるために設けられている。エッジスペース11xの幅は1mm以上とすることが好ましい。
【0027】
以上が、本実施の形態に係る太陽電池モジュールの構造及び製造方法についての概要である。なお、本実施の形態においては、溝部12x、溝部17x、溝部17yによってセル19が直列に接続された、言い換えれば、集積化された太陽電池モジュールを例にとって説明したが、本発明はこれに限るものではなく、集積化されない太陽電池モジュールにも適用できる。さらに、発電層17が発電した電力を取り出す取出方法として、本実施の形態では、電極リボンをエッジスペース11xに取り付けたが、本発明においては、第2電極層16に電極リボンを取り付ける等の他の取出方法を適用可能であり、上述の取出方法に限定されるものではない。
【0028】
次に、第2バッファ層15の成膜に用いるイオンプレーティング装置20について説明し、その後、イオンプレーティング装置20を用いた第2バッファ層15の成膜方法について説明する。
【0029】
図4は、本実施の形態に係る成膜装置の概略構成を例示する模式図である。図5は、図4のマスフローコントローラ近傍の拡大図である。図4及び図5を参照するに、イオンプレーティング装置20は、成膜室である真空容器21と、真空容器21中にプラズマビームPBを供給するプラズマ源であるプラズマガン(プラズマビーム発生器)22と、真空容器21内の底部に配置されてプラズマビームPBが入射する陽極部材23と、成膜の対象である基板Wを保持する基板保持部材WHを陽極部材23の上方で適宜移動させる搬送機構24とを備える。基板Wは、例えば、図2や図3に示す基板11そのものや、基板11に既に所定の層が形成されたもの等である。なお、上記の反応性プラズマ蒸着法(RPD)を用いたイオンプレーティング装置20は、本発明に係る成膜装置の代表的な一例である。
【0030】
プラズマガン22は、圧力勾配型であり、その本体部分は真空容器21の側壁に備えられる。プラズマガン22の陰極22a、中間電極22b及び22c、電磁石コイル22d、並びにステアリングコイル22eへの給電を調整することにより、真空容器21中に供給されるプラズマビームPBの強度や分布状態が制御される。
【0031】
なお、参照符号26aは、プラズマビームPBのもととなるAr等の不活性ガスを含むキャリアガスの供給路を示す。又、参照符号26b及び26cは酸素等の雰囲気ガスを供給するための供給路を示し、参照符号26dは排気系を示す。
【0032】
陽極部材23は、プラズマビームPBを下方に導く主陽極であるハース23aと、その周囲に配置された環状の補助陽極23bとを有する。ハース23aは、適当な正電位に制御されており、プラズマガン22から出射したプラズマビームPBを下方に吸引する。ハース23aは、プラズマビームPBが入射する中央部に貫通孔THが形成されており、貫通孔THに蒸着材料27が装填されている。蒸着材料27は、柱状若しくは棒状に成形されたタブレットであり、プラズマビームPBからの電流によって加熱されて昇華し、蒸着物質を生成する。ハース23aは蒸着材料27を徐々に上昇させる構造を有しており、蒸着材料27の上端は常にハース23aの貫通孔THの上端から貫通孔THの内部側に一定の深さで入り込んでいる。
【0033】
補助陽極23bは、ハース23aの周囲に同心に配置された環状の容器であり、容器内には永久磁石28aとコイル28bとが収容されている。これら永久磁石28a及びコイル28bは、磁場制御部材であり、ハース23aの直上にカスプ状磁場を形成し、これにより、ハース23aに入射するプラズマビームPBの向きが制御され、修正される。
【0034】
搬送機構24は、搬送路24a内に水平方向に等間隔で配列されて基板保持部材WHを支持する多数のコロ24bと、コロ24bを回転させて基板保持部材WHを所定の速度で水平方向に移動させる図示しない駆動装置とを備える。基板保持部材WHに基板Wが保持される。この場合、基板Wを搬送する搬送機構24を設けることなく、真空容器21の内部の上方に基板Wを固定して配置してもよい。
【0035】
真空容器21には、外部にヒータ30aが設けられた容器30から導入管31を経由して水蒸気を導入することができる。導入管31には、水蒸気の導入量を制御するマスフローコントローラ32及び開閉弁33が設けられている。容器30には水が貯留されており、貯留されている水はヒータ30aにより加熱されて水蒸気となり、開閉弁33が開いている場合には導入管31を経由して真空容器21に導入される。この際、マスフローコントローラ32によって真空容器21への水蒸気導入量が所望の値に制御される。容器30、ヒータ30a、及び導入管31は、本発明に係る水蒸気供給手段の代表的な一例である。なお、水蒸気の液化を防止するため、導入管31の周囲にヒータを設け、導入管31を加熱すると好適である。
【0036】
マスフローコントローラ32について更に詳しく説明する。マスフローコントローラ32は、設定部32a、制御部32b、流量制御バルブ32c、流量センサ32d等を有する。マスフローコントローラ32の設定部32aに所望の水蒸気導入量を設定すると、制御部32bは流量センサ32dの値を監視し、流量センサ32dの値が所望の水蒸気導入量と一致するように流量制御バルブ32cの開度を調整する。その結果、真空容器21への水蒸気導入量が所望の値に制御される。
【0037】
制御部32bは、例えばCPU、ROM、メインメモリ等を含み、制御部32bの機能は、ROM等に記録された制御プログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現される。但し、制御部32bの一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、制御部32bは、物理的に複数の装置により構成されてもよい。
【0038】
流量制御バルブ32cは、例えば、ソレノイドやピエゾアクチュエータを含み、制御部32bの指令に従って開度を調整する。より詳しくは、流量制御バルブ32cは、真空容器21(成膜室)内の水蒸気分圧が成膜後の酸化亜鉛膜の所望の抵抗率に対応する水蒸気分圧になるように、容器30、ヒータ30a、及び導入管31から真空容器21(成膜室)内へ供給する水蒸気導入量を調整する機能を有する。
【0039】
なお、真空容器21への水蒸気導入量が決まると、それに対応して真空容器21内の水蒸気分圧が決まる。つまり、マスフローコントローラ32によって導入量を制御して水蒸気を真空容器21に供給することにより、真空容器21内の水蒸気分圧を所望の値に制御することができる。マスフローコントローラ32は、真空容器21内の水蒸気分圧を0.1Pa以下の所望の値に制御可能である。
【0040】
後述のように、真空容器21内の水蒸気分圧と成膜される酸化亜鉛膜の抵抗値とは所定の関係があるため(後述の図6参照)、真空容器21内の水蒸気分圧を制御することにより、成膜される酸化亜鉛膜を所望の抵抗値に調整することが可能である。なお、マスフローコントローラ32は、本発明に係る水蒸気分圧制御手段の代表的な一例である。また、流量制御バルブ32cは、本発明に係る流量制御部の代表的な一例である。
【0041】
なお、真空容器21内の水蒸気分圧を直接測定する圧力センサ(図示せず)を設け、マスフローコントローラ32の制御部32bが圧力センサの値を監視し、圧力センサの値が所望の水蒸気分圧と一致するように流量制御バルブ32cの開度を調整するようにしてもよい。このようにしても、真空容器21内の水蒸気分圧を所望の値に制御することができる。
【0042】
次に、上記のように構成したイオンプレーティング装置20を用いて酸化亜鉛膜を成膜する成膜工程について説明する。
【0043】
まず、真空容器21(成膜室)の下部に配置されたハース23aの貫通孔THに、酸化亜鉛を主成分とする蒸着材料27を装着する。一方、ハース23aの上方の対向する位置に、例えばガラス製の基板Wを配置する。次に、基板Wに酸化亜鉛を付着形成(成膜)させるに際して、予め真空容器21にアルゴンガス及び酸素ガスを導入する。又、マスフローコントローラ32によって、真空容器21内の水蒸気分圧を、予め把握した酸化亜鉛膜の抵抗率と真空容器21内の水蒸気分圧との関係に基づいて、成膜後の酸化亜鉛膜の所望の抵抗値に対応する水蒸気分圧に制御する。
【0044】
そして、アース電位にある真空容器21を挟んで、負電圧をプラズマガン22の陰極22aに、正電圧をハース23aに印加して放電を生じさせ、これにより、プラズマビームPBを生成する。プラズマビームPBは、ステアリングコイル22eと補助陽極23b内の永久磁石28a等とによって決定される磁界に案内されてハース23aに到達する。
【0045】
プラズマに曝された蒸着材料27は、徐々に加熱される。蒸着材料27が十分に加熱されると、蒸着材料27が昇華し、酸化亜鉛等の蒸着物質が蒸発(出射)する。蒸着物質は、プラズマビームPBによりイオン化され、基板Wに付着(入射)し酸化亜鉛膜が成膜される。
【0046】
このように、本実施の形態に係る酸化亜鉛膜の成膜工程は、予め把握した酸化亜鉛膜の抵抗率と真空容器21(成膜室)内の水蒸気分圧との関係に基づいて、真空容器21(成膜室)内の水蒸気分圧を制御して成膜後の酸化亜鉛膜の抵抗率を調整する抵抗率調整工程を備えている。
【0047】
なお、永久磁石28a及びコイル28bによってハース23aの上方の磁場を制御することにより、蒸着物質の飛行方向を制御することができる。そのため、ハース23aの上方におけるプラズマの活性度分布や基板Wの反応性分布に合わせて基板Wの上の成膜速度分布を調整でき、広い面積にわたって均一な膜質の薄膜を得ることが可能となる。
【0048】
〈実施例〉
イオンプレーティング装置20を用いて、ガラス基板上に膜厚約200nmの酸化亜鉛膜を成膜した。そして、真空容器21内の水蒸気分圧と成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率及び透過率との関係、及び真空容器21内の水蒸気分圧と成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率のばらつきとの関係について検討を行った。なお、ガラス基板の温度は約115℃、アルゴンガスの導入量は約65sccm、酸素の導入量は約5sccmとした。
【0049】
図6は、成膜室内の水蒸気分圧と成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率及び透過率との関係を例示する図である。図6に示すように、真空容器21内(成膜室内)の水蒸気分圧が高くなるに従って、成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率は低下し、透過率は上昇することが確認された。但し、真空容器21内の水蒸気分圧が高くなるに従って、抵抗率及び透過率の変化する割合は小さくなる。図6からわかるように、真空容器21内の水蒸気分圧を所定値に制御することにより、成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率を任意の値近傍に調整できる。
【0050】
図7は、成膜室内の水蒸気分圧と成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率のばらつきとの関係を例示する図である。ここでは、イオンプレーティング装置20の開閉弁33を閉じて真空容器21内の水蒸気分圧を未調整とした状態で酸化亜鉛膜を5回成膜し、それぞれの回数毎に成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率(μΩ・m)を測定した。又、イオンプレーティング装置20の開閉弁33を開いてマスフローコントローラ32によって真空容器21内の水蒸気分圧を約0.004Paに制御した状態で酸化亜鉛膜を5回成膜し、それぞれの回数毎に成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率(μΩ・m)を測定した。
【0051】
なお、真空容器21内の水蒸気分圧が未調整の場合でも、成膜の対象である基板等に含まれる水分のため真空容器21内の水蒸気分圧は完全にゼロにはならない。発明者らの検討によれば、真空容器21内の水蒸気分圧が未調整の場合には、真空容器21内の水蒸気分圧は0.0005Pa未満の範囲内でばらつくことが確認されている。
【0052】
図7に示すように、真空容器21内の水蒸気分圧が未調整の場合には、成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率は安定せず、成膜する毎に大きくばらついている。これは、前述のように、真空容器21内の水蒸気分圧が未調整の場合には、成膜の対象である基板等に含まれる水分の影響により、真空容器21内の水蒸気分圧が0.0005Pa未満の範囲内でばらついていることに起因すると考えられる。つまり、テスト回数1〜5回の各回の水蒸気分圧がそれぞれ0.0005Pa未満の範囲内の異なる値であったため、成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率が一定の値にならなかったと考えられる。
【0053】
一方、真空容器21内の水蒸気分圧を約0.004Paに制御した場合には、成膜された酸化亜鉛膜の抵抗率は、何れも約45(μΩ・m)程度となり極めて安定している。これは、真空容器21内の水蒸気分圧が未調整の場合(水蒸気分圧は0.0005Pa未満)に比べて水蒸気分圧を高くしているため、成膜の対象である基板等に含まれる水分の影響を低減できるためと考えられる。
【0054】
なお、図7では、真空容器21内の水蒸気分圧を約0.004Paに制御した場合の酸化亜鉛膜の抵抗率のばらつきのみを示したが、発明者らの検討により、真空容器21内の水蒸気分圧を0.001Pa以上の値に制御することで、酸化亜鉛膜の抵抗率のばらつきを図7と同程度にできることが確認されている。つまり、真空容器21内の水蒸気分圧を、0.001Pa以上の値に制御することにより、成膜の対象である基板等に含まれる水分の影響を低減することが可能となり、安定的に所望の抵抗率の酸化亜鉛膜を成膜できる。ここで、安定的とは、図7に示すように、常に抵抗率のばらつきの少ない酸化亜鉛膜を成膜できることを意味している。
【0055】
なお、マスフローコントローラ32の性能上、真空容器21内の水蒸気分圧を0.1Paよりも大きな値に制御することは困難である。この点を考慮すれば、真空容器21内の水蒸気分圧は、0.001Pa以上0.1Pa以下に制御することが好ましいといえる。
【0056】
このように、成膜される酸化亜鉛膜の抵抗値及びそのばらつき並びに透過率は、真空容器21内の水蒸気分圧に大きく影響される。そして、真空容器21内の水蒸気分圧を0.001Pa以上0.1Pa以下の所定値に制御することにより、成膜の対象である基板等に含まれる水分の影響を低減することが可能となり、安定的に所望の抵抗率及び透過率の酸化亜鉛膜を成膜できる。
【0057】
以上、好ましい実施の形態及び実施例について詳説したが、上述した実施の形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0058】
例えば、上記の実施の形態においては、イオンプレーティング装置20は反応性プラズマ蒸着法(RPD)を用いて第2バッファ層15を成膜しているが、電子ビームを利用した他のイオンプレーティング式の成膜方式を用いてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 太陽電池モジュール
11 基板
11x エッジスペース
12 第1電極層
12x、17x、17y 溝部
13 CIS系光吸収層
14 第1バッファ層
15 第2バッファ層
16 第2電極層
17 発電層
19 セル
20 イオンプレーティング装置
21 真空容器
22 プラズマガン
22a 陰極
22b、22c 中間電極
22d 電磁石コイル
22e ステアリングコイル
23 陽極部材
23a ハース
23b 補助陽極
24 搬送機構
24a 搬送路
24b コロ
26a、26b、26c 供給路
26d 排気系
27 蒸着材料
28a 永久磁石
28b コイル
30 容器
30a ヒータ
31 導入管
32 マスフローコントローラ
32a 設定部
32b 制御部
32c 流量制御バルブ
32d 流量センサ
33 開閉弁
PB プラズマビーム
TH 貫通孔
W 基板
WH 基板保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CIS系光吸収層及び第1バッファ層が形成された基板上に、成膜室で前記第1バッファ層上に第2バッファ層として酸化亜鉛膜をイオンプレーティング法により成膜する成膜工程を有する太陽電池モジュールの製造方法であって、
前記成膜工程は、予め把握した前記酸化亜鉛膜の抵抗率と前記成膜室内の水蒸気分圧との関係に基づいて、前記成膜室内の水蒸気分圧を制御して前記抵抗率を調整する抵抗率調整工程を備えることを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記抵抗率調整工程は、前記成膜室内の水蒸気分圧が前記酸化亜鉛膜の所望の抵抗率に対応する水蒸気分圧になるように、前記水蒸気供給手段から前記成膜室内へ供給する水蒸気導入量を調整することを特徴とする請求項1記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記抵抗率調整工程において、前記水蒸気分圧を0.001〜0.1Paの範囲内の所定値に制御することを特徴とする請求項1又は2記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項4】
CIS系光吸収層及び第1バッファ層が形成された基板の前記第1バッファ層上に第2バッファ層として酸化亜鉛膜をイオンプレーティング法により成膜する成膜室を有する成膜装置であって、
前記成膜室内に水蒸気を供給する水蒸気供給手段と、
予め把握した前記酸化亜鉛膜の抵抗率と前記成膜室内の水蒸気分圧との関係に基づいて、前記成膜室内の水蒸気分圧を前記酸化亜鉛膜の所望の抵抗率に対応する水蒸気分圧に制御する水蒸気分圧制御手段と、を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記水蒸気分圧制御手段は、前記成膜室内の水蒸気分圧が前記酸化亜鉛膜の所望の抵抗率に対応する水蒸気分圧になるように、前記水蒸気供給手段から前記成膜室内へ供給する水蒸気導入量を調整する流量制御部を備えることを特徴とする請求項4記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−119477(P2012−119477A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267539(P2010−267539)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】