説明

太陽電池モジュール及び裏面保護シート

【課題】 黒色などの暗色系を有する太陽電池用裏面保護シートに高い反射率特性を持たせることを目的とする。
【解決手段】 電気エネルギーに変換する太陽電池セル10を備えた太陽電池モジュール1であって、前記太陽電池セル10の受光面と反対の側に、前記太陽電池セル10の周囲から入射する太陽光を前記太陽電池セル側に反射させる裏面保護シート25を配置し、前記裏面保護シート25が金属反射層を備えた凹凸形状層を含み、前記凹凸形状層は複数の凸部または凹部の周期が190nm以上600nm以下に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール及びこれに使用する裏面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源として太陽電池が注目され、現在種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され様々な分野で利用が促進されている(特許文献1参照)。
この太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、有機化合物系等に分類される。このうち、現在市場で流通しているものはほとんどが結晶系シリコン太陽電池であり、この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型及び多結晶型に分類される。
【0003】
単結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が良いために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造が高コストになるという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所があり、現在の主流となっている。
上記のような太陽電池素子を使用し、表面シ−ト層、充填剤層、光起電力素子としての太陽電池素子、充填剤層、および、裏面保護シ−ト層等の順に積層し、真空吸引して加熱圧着するラミネ−ション法等を利用して製造されている。
【0004】
上記の太陽電池モジュ−ルを構成する裏面保護シ−ト層としては、現在、強度に優れたプラスチック基材等が、最も一般的に使用され、その他、金属板等も使用されている。而して、一般に、太陽電池モジュ−ルを構成する裏面保護シ−ト層としては、例えば、強度に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐薬品性、光反射性、光拡散性等に優れ、特に、水分、酸素等の侵入を防止する防湿性に優れ、更に、表面硬度が高く、かつ、表面の汚れ、ゴミ等の蓄積を防止する防汚性に優れ、極めて耐久性に富み、その保護能力性が高いこと、その他等の条件を充足することが必要とされている。
【0005】
また、光利用効率を高めるべく太陽電池モジュールの前面から入射した太陽光のうち、太陽電池モジュール内にてエネルギー変換を行なう太陽電池セルに入射せずに前記太陽電池セルの裏面側に設けた裏面保護シートへ入射する太陽光を再利用する試みが行なわれている(特許文献2参照)。
【0006】
上記太陽電池モジュールを構成する裏面保護シート層としては、太陽光の反射率を高め太陽電池のエネルギー変換を高めるために、光が散乱する白色の熱可塑性樹脂シートを積層したものが知られている(特許文献3、4参照)。また、反射材の表面を凹凸構造とする試みも行われている。反射材の表面を凹凸構造とすることで、より光利用効率の向上が望める(特許文献5参照)。
【0007】
しかしながら、凹凸構造の反射材として例えばアルミニウムなどの金属が用いられるが、アルミニウムは、水分や酸等による腐食がおこりやすく、十数年自然環境に耐え得ることが出来ず、光利用効率向上の効果が低下してしまうことが問題となっている。また、太陽電池を家屋の屋根等に配置する場合には、家屋全体とのバランスを考慮した外観性の観点から、黒色などの暗色系の色に着色されることが好まれており、暗色系の色に着色された太陽電池用バックシートが求められている。
しかし、暗色系の色に着色された裏面保護シートはカーボンブラックを用いてなるシートが一般的であり、カーボンブラックが太陽光を吸収して温度が上昇し、発電効率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−295437号公報
【特許文献2】特開2000−332279号公報
【特許文献3】特開2006−270025号公報
【特許文献4】特開2007−177136号公報
【特許文献5】特開平11−307791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、黒色などの暗色系外観を有し、外観性の観点で優れた裏面保護シートであり、従来の暗色系外観を持つ裏面保護シートに比べ光利用効率を上げるのが可能であると共に、長期的な性能劣化を最小限に抑え、特に加水分解や充填材によって発生する酸等を防止し、極めて耐久性に富み、かつ、より低コストで太陽電池モジュールを構成する裏面保護シート及びそれを使用した太陽電池モジュールを安定的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために本発明は以下の手段を提案している。
電気エネルギーに変換する太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールにおいて、前記太陽電池セルの受光面と反対の側に、前記太陽電池セルの周囲から入射する太陽光を前記太陽電池セル側に反射させる裏面保護シートを配置し、前記裏面保護シートが金属反射層を備えた凹凸形状層を含み、前記凹凸形状層は複数の凸部または凹部の周期が190nm以上600nm以下に形成されていることを特徴としている。
【0011】
ここで周期とは、互いに隣り合う凸部又は凹部の相対応する2点を当該保護シートが延在する方向に平行に測った距離を言い、ねじ山で言えばピッチに相当する語である。
前記受光面で受光されずに前記裏面保護シートへ入射する光を前記凹凸形状による回折光により入射面側に戻し、前記太陽電池モジュールに備えられた前面板により全反射するなどして前記太陽電池セルに入射することで発電効率を向上することができる。
【0012】
上述で示される微小の周期で複数の凸部または凹部が配置された場合には、正反射が低減され、前記太陽電池セル周囲で、前記裏面保護シートが直接視認できる状態でも全体が黒っぽく見えるため外観が良好になる。
前記凹凸形状層は複数の凸部または凹部の周期が200nm以上400nm以下で配置するとよい。
【0013】
上述の範囲内では正反射がさらに低減され、前記太陽電池セル周囲で、前記裏面保護シートが直接視認できる状態でも回折光が発生することはほぼ無く、全体がさらに黒っぽく見えるため外観が良好になる。
前記凹凸形状層は凸部又は凹部の深さ又は高さを、それらの周期の1/2倍以上1倍未満にするとよい。
【0014】
前記凹凸構造層は、凸部又は凹部の深さ又は高さを大きくすると、より暗く見えるようになり、凹部又は凸部の深さ又は高さを、それらの中心間距離の1/2倍以上あれば極めて暗く見えるようになる。また凹部又は凸部は深ければ深いほど又は高ければ高いほど暗く見えるようになるが、前記金属反射層を備えた前記凹凸形状層の反射率は低下していき、再利用する光が少なくなり好ましくない。凹部又は凸部の深さ又は高さを、それらの中心間距離が1倍未満であれば再利用する光の減少も少ない。
【0015】
前記裏面保護シートの最背面側から前面側に向けて、耐候層、金属反射層、凹凸形状層、光透過性絶縁層を順次備え、前記耐候層と前記金属反射層の間及び/もしくは金属反射層と凹凸形状層の間にバリア層を少なくとも1層以上備えるとよい。
前記バリア層を積層することによって特に水分、酸等の浸入を防止することができ、前記金属反射層の腐食を防ぎ、長期安定性を向上させる。
【0016】
前記金属反射層は、膜厚が5nm以上100nm以下であるとよい。
前記金属反射層の一般的な金属層は、反射率は膜厚に依存し、40nm以上が好ましく、概ね40nm以上の厚みがあれば高い反射率で安定する。一方40nmより厚みが小さい場合、反射率の低下がはっきりと現れる。目視で認識できる程度の金属層として効果を発揮するために5nm以上の厚みが必要である。また100nm以上だと目視で認識できるほどのクラックが生じる。
【0017】
前記耐候層と前記光透過性絶縁層を熱可塑性樹脂により構成し、これらの熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、いずれも前記凹凸形状層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも低いものにするとよい。
上述のような構成であれば、折り曲げた場合でも割れ等が発生するのを抑制し、耐熱性及び可とう性のバランスが良くなり、寸法変化率も少ない。
【0018】
前記透過性絶縁層の厚さが50μm以上500μm以下であると好適である。
上述範囲内では前記裏面保護シートは可とう性に優れ、50μm以下だと部分放電を有し、また500μm以上だと折り曲げた場合に割れが発生し、可とう性が良くない。
さらに、前記の裏面保護シートによれば、前記各効果を奏する太陽電池モジュールを形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による太陽電池モジュールによれば、耐熱性及び可とう性、耐候性に優れている。そして前記凹凸形状層により正反射が低減され、前記太陽電池セル周囲で、前記裏面保護シートが直接視認できる状態でも全体が黒色などの暗色系外観を有し、且つ発電効率の向上が可能である。また本発明の裏面保護シートによれば、上記効果のある太陽電池モジュールを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の太陽電池モジュールの概略構成を示す断面図である。
【図2】図1の裏面保護シートの拡大断面図である。
【図3】裏面保護シートの別の形態の概略構成を示す断面図である。
【図4】凹凸構造領域に採用可能な凹凸形状の一例を示す斜視図である。
【図5】凹凸構造領域に採用可能な凹凸形状の一例を示す斜視図である。
【図6】凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【図7】微細な凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【図8】図1乃至図3に示す裏面保護シートを備えた太陽電池モジュールを或る条件のもとで観察している様子を概略的に示す図である。
【図9】図1乃至図3に示す裏面保護シートを備えた太陽電池モジュールを図8とは別の条件のもとで観察している様子を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の裏面保護シートおよびそれを使用した太陽電池モジュールについてその構成を図面を用いて詳細に説明する。
図1は実施形態の裏面保護シートを用いた太陽電池モジュールの縦断面図である。図1に示すように太陽電池モジュール1の裏面側にこのモジュール1の一部をなす裏面保護シート25が積層されるような構成である。
【0022】
前記太陽電池モジュール1は前面板2と充填層4と太陽電池セル10と裏面保護シート25から構成されており、光線を受光することにより発電を行なう装置である。なお、光線としては、通常、太陽光20や室内灯等の人工照明の光が採用される。
太陽電池モジュール1では光線として、太陽光20が前記太陽電池セル10に入射してきた入射光12や反射して前記太陽電池セル10に入射する反射光14が受光され発電するようなしくみである。太陽電池モジュール1では裏面保護シート25の制御により損失する反射光を減少させ、今まで以上に発電効率が向上する構成である。
【0023】
前面板2は、太陽電池モジュール1の最前面に配置されて、表面に光線が直接的に入射するものである。この前面板2は、光線透過率が高い透明な材料が用いられ、具体的には強化ガラス、PEN(ポリエチレンナフタレート)などの樹脂シートが使用されている。また、前面板2の厚みは、強化ガラスであれば約3〜5mm、樹脂シートであれば数十〜数百μmに設定されている。
【0024】
前面板2に入射した光は充填層4へと入射する。充填層4は、前面板2の裏面側に積層されており、前記太陽電池セル10を封止する役割を有している。この充填層4は、前面板2から入射した光線を透過させるため光線透過率が高い材料が用いられ、例えば、難燃性をもつEVA(エチレン・ビニル・アセテート)から形成されている。
【0025】
充填層4を透過した光は前記太陽電池セル10へと入射する。この前記太陽電池セル10は、充填層4内部に複数埋設されており、光電効果より受光部に入射した光を電力へと変換する機能を有している。この前記太陽電池セル10としては、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、薄膜シリコン型、CIGS(Cu・In・Ga・Seの化合物)系薄膜型等が用いられる。このような複数の前記太陽電池セル10は、互いに電極(図示省略)により接続され、該電極によって発電した電力が外部に取り出されるようになっている。
【0026】
充填層4及び前記太陽電池セル10を透過した光は、太陽電池モジュール1の裏面に配された裏面保護シート25へ入射する。この裏面保護シート25は、入射した光を一部太陽電池モジュール1へと反射する機能を有している。裏面保護シート25で反射された光は、太陽電池モジュール1における前面板2と大気との界面でさらに反射され、前記太陽電池セル10の受光面に反射光14として到達することで、前記太陽電池セル10の光電変換により電力へと変換される。これにより光利用効率の向上が図られている。
図2は一実施形態の裏面保護シート25の概略構成を示す縦断面図である。この裏面保護シート25は、透光性絶縁層34、凹凸形状層42、金属反射層40、接着層32、耐候層30が順に積層されることで構成されている。
【0027】
透過性絶縁層34は耐水性、紫外線に対する耐久性等の耐候性を有しているものが望ましく、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−(ポリ)スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、リエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、エポキシン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等から形成されていることが好ましい。
【0028】
上述の樹脂の中でも、高い耐熱性、強度、耐候性、耐久性、水蒸気等に対するガスバリア性等を有したものとして、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ乳酸系樹脂が好ましい。
上述のポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。これらのポリエステル系樹脂の中でも、耐熱性、耐候性等の諸機能面及び価格面のバランスが良好なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0029】
上述のフッ素系樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体からなるペルフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(EPE)、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとのコポリマー(ECTFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、フッ化ビニル系樹脂(PVF)等が挙げられる。これらのフッ素系樹脂の中でも、強度、耐熱性、耐候性等に優れるポリフッ化ビニル系樹脂(PVF)やテトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)が特に好ましい。
【0030】
上述の環状ポリオレフィン系樹脂としては、例えばa)シクロペンタジエン(及びその誘導体)、ジシクロペンタジエン(及びその誘導体)、シクロヘキサジエン(及びその誘導体)、ノルボルナジエン(及びその誘導体)等の環状ジエンを重合させてなるポリマー、b)当該環状ジエンとエチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、スチレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン系モノマーの1種又は2種以上とを共重合させてなるコポリマー等が挙げられる。これらの環状ポリオレフィン系樹脂の中でも、強度、耐熱性、耐候性等に優れるシクロペンタジエン(及びその誘導体)、ジシクロペンタジエン(及びその誘導体)又はノルボルナジエン(及びその誘導体)等の環状ジエンのポリマーが特に好ましい。
【0031】
なお、透光性絶縁層34の形成材料としては、上述の合成樹脂を1種又は2種以上混合して使用することができる。また、透光性絶縁層34の形成材料中には、加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性等を改良、改質する目的で、種々の添加剤等を混合することができる。この添加剤としては、例えば滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、充填剤、強化繊維、補強剤、帯電防止剤、難燃剤、耐炎剤、発泡剤、防カビ剤、顔料等が挙げられる。上述の透光性絶縁層34の成形方法としては、特に限定されず、例えば押出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の公知の方法が採用される。
【0032】
透光性絶縁層34中に紫外線安定剤又は分子鎖に紫外線安定基が結合したポリマーを含有することも可能である。この紫外線安定剤又は紫外線安定基により、紫外線で発生するラジカル、活性酸素等が不活性化され、裏面保護シート25の紫外線安定性、耐候性等を向上させることができる。この紫外線安定剤又は紫外線安定基としては、紫外線に対する安定性が高いヒンダードアミン系紫外線安定剤又はヒンダードアミン系紫外線安定基が好適に用いられる。
【0033】
凹凸形状層42において、凹部または凸部またはその両方の周期が一定の周期を有しているとき、凹凸構造領域に太陽光を照射すると、凹凸構造領域は、入射光である太陽光の進行方向に対して特定の方向に回折光を射出する。特に、金属反射層40で凹凸構造領域を被覆していることにより、高い反射率、高い回折効率を得ることができやすくなる。
【0034】
最も代表的な回折光は、1次回折光である。1次回折光の射出角βは、下記等式(1)から算出することができる。
[数1]
d=λ/(sinα―sinβ)・・・・・(1)

この等式(1)において、dは凹部または凸部の構造の周期を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。またαは0次回折光、すなわち正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は太陽光の入射角の絶対値と等しく、正反射光の射出角は入射角とはZ軸に対して対称な関係である。なおα、βはZ軸から時計回りの方向を正方向とする。
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは波長λに応じて変化する。すなわち、凹凸構造領域は、分光器としての機能を有している。したがって、太陽光が白色光である場合、凹凸構造領域の観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は周期dに応じて変化する。
【0035】
一例として、凹凸構造領域は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。ここでの法線方向とは凹凸構造領域を面として捉えたときに、その面と垂直な方向を意味する。しなわち、1次回折光の射出角βは0°であるとする。そして、観察者はこの1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
[数2]
d=λ/sinαN・・・・・(2)

等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと太陽光の入射角|αN|と周期dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。
【0036】
ここで周期dを可視光の波長と同程度以下に小さくすると(具体的には周期dが400nm以下)法線方向には1次回折光が射出しなくなる。つまり本発明における凹凸形状層42の凹部または凸部またはその両方の周期が400nm以下であると、可視光領域400〜700nmにおいて、凹部または凸部またはその両方からの回折光成分が、法線方向へ発生することを避けることができる。等式(2)において89°の太陽光であっても400nmの光がようやく法線方向付近へ向かうことになるので、実質的に可視波長の全てについて実際上起こりうるほぼ全ての照明条件下で十分な強度の回折光が凹凸構造領域から法線方向に発生することが無くなる。
【0037】
また凹凸形状層42の凹部または凸部またはその両方の周期が200nm以上400nm以下にすることにより深い角度の太陽光に対して、同様に深い角度から回折光を観測することができる。また、それ以外の条件下では、回折光が発生せず、一般的な観察条件下では回折光認識されることはない。従って、法線方向から観察した際に、凹凸構造領域をより確実に低反射にすることができ、その結果一般的な観察条件下では黒色を表示し、外観を損ねる心配はない。
【0038】
また凹凸形状層42は深い角度の太陽光に対して、同様に深い角度から回折光を発生することにより、前記太陽電池セルの裏面側に設けた裏面保護シートへ入射する太陽光をいくらか再利用できる。
凹凸形状層42は前記裏面保護シートに含まれており、前記裏面保護シートは前記太陽電池モジュールに備えられていることにより、前記凹凸形状層により発生する回折光が前記太陽電池セルに入射するためには発生した回折光が前記太陽電池モジュールの最前面に配置された前記前面板に反射して前記太陽電池セルに入射することを意味する。
【0039】
前記前面板と大気の屈折率には差があり、前記裏面保護シートが1次回折光の射出角βは等式(1)を変形した下記等式(3)から算出することができる。
[数3]
nd=λ/(sinα―sinβ)・・・・・(3)

この等式(3)において、dは凹部または凸部の構造の周期を表し、λは入射光及び回折光の波長を表し、nは前記前面板の屈折率を表している。またαは0次回折光、すなわち正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は太陽光の入射角の絶対値と等しく、正反射光の射出角は入射角とはZ軸に対して対称な関係である。なおα、βはZ軸から時計回りの方向を正方向とする。
【0040】
前記前面板と大気の屈折率には差があり、大気(屈折率約1)から90°で入射してきた場合が前記太陽電池セルに裏面保護シートが回折光として光の再利用ができる最大波長となり、等式(3)は下記等式(4)へ簡略化することができる。
[数4]
d+nd=λmax・・・・・(4)

一例として、凹凸形状層42の凹部または凸部の構造の周期を600nm、前記前面板を屈折率1.5の強化ガラスを使用すると等式(4)より前記太陽電池セルに裏面保護シートが回折光として光の再利用ができる最大波長は1500nmとなり、前記太陽電池セルがシリコン系の材料である場合、シリコン系は最高でも1300nm未満の吸収波長までしか有さないことより、有効であることがわかる。
【0041】
上述内容より法線方向に発生する回折光の発生率は低く、法線方向から観察した場合黒色などの暗色系の色を有し、法線方向以外では可視光、赤外光領域の光を再利用できる前記裏面保護シートを備える前記太陽電池モジュールである。
凹凸形状層42の凸部又は凹部の高さや深さが大きい方が凹凸形状層42に備えられた金属反射層40の反射率が小さくなり、視認ではより黒色などの暗色系に近づくようになり、高さや深さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、黒色などの暗色系に知覚されるようになる。典型的には高さや深さは中心間距離の1/2倍以上1倍未満とすることが望ましい。具体的には、例えば中心間距離が400nmであった場合、高さ又は深さを200nm以上とすることで黒色などの暗灰色を有し、400nm以上の高さ又は深さとすることでより黒い外観を有する一方反射率の低下が激しく、再利用する光が減少する。
【0042】
凹凸形状層42を形成する材料は透過性絶縁層34との密着性が高いことが望ましい。
凹凸形状層42に用いられる材料としては、ポリマー組成分が望ましく、ポリマー組成物の他に例えば硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等が適宜配合されてもよい。
【0043】
上述のポリマー組成物としては、特に限定されるものではなく、例えばポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル−(ポリ)スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、リエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、これらのポリマーを1種又は2種以上混合して使用することができる。
【0044】
上述のポリウレタン系樹脂の原料であるポリオールとしては、例えば水酸基含有不飽和単量体を含む単量体成分を重合して得られるポリオールや、水酸基過剰の条件で得られるポリエステルポリオールなどが挙げられ、これらを単体で又は2種以上混合して使用することができる。
【0045】
水酸基含有不飽和単量体としては、(a)例えばアクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アリルアルコール、ホモアリルアルコール、ケイヒアルコール、クロトニルアルコール等の水酸基含有不飽和単量体、(b)例えばエチレングリコール、エチレンオキサイド、プロピレングリコール、プロピレンオキサイド、ブチレングリコール、ブチレンオキサイド、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルデカノエート、プラクセルFM−1(ダイセル化学工業株式会社製)等の2価アルコール又はエポキシ化合物と、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸との反応で得られる水酸基含有不飽和単量体などが挙げられる。これらの水酸基含有不飽和単量体から選択される1種又は2種以上を重合してポリオールを製造することができる。
【0046】
また上述のポリオールは、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル、スチレン、ビニルトルエン、1−メチルスチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、酢酸アリル、アジピン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、マレイン酸ジエチル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソプレン等から選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和単量体と、上述の(a)及び(b)から選択される水酸基含有不飽和単量体とを重合することで製造することもできる。
【0047】
水酸基含有不飽和単量体を含む単量体成分を重合して得られるポリオールの数平均分子量は1000以上500000以下であり、好ましくは5000以上100000以下である。また、その水酸基価は5以上300以下、好ましくは10以上200以下、さらに好ましくは20以上150以下である。
【0048】
水酸基過剰の条件で得られるポリエステルポリオールは、(c)例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノルA、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ハイドロキノンビス(ヒドロキシエチルエーテル)、トリス(ヒドロキシエチル)イソシヌレート、キシリレングリコール等の多価アルコールと、(d)例えばマレイン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、トリメット酸、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸等の多塩基酸とを、プロパンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール中の水酸基数が前記多塩基酸のカルボキシル基数よりも多い条件で反応させて製造することができる。
【0049】
上述の水酸基過剰の条件で得られるポリエステルポリオールの数平均分子量は500以上300000以下であり、好ましくは2000以上100000以下である。また、その水酸基価は5以上300以下、好ましくは10以上200以下、さらに好ましくは20以上150以下である。
【0050】
当該ポリマー組成物のポリマー材料として用いられるポリオールとしては、上述のポリエステルポリオール、及び、上述の水酸基含有不飽和単量体を含む単量体成分を重合して得られ、かつ、(メタ)アクリル単位等を有するアクリルポリオールが好ましい。かかるポリエステルポリオール又はアクリルポリオールをポリマー材料とすれば耐候性が高く、反射構造層15の黄変等を抑制することができる。なお、このポリエステルポリオールとアクリルポリオールのいずれか一方を使用してもよく、両方を使用してもよい。
【0051】
なお、上述のポリエステルポリオール及びアクリルポリオール中の水酸基の個数は、1分子当たり2個以上であれば特に限定されないが、固形分中の水酸基価が10以下であると架橋点数が減少し、耐溶剤性、耐水性、耐熱性、表面硬度等の被膜物性が低下する傾向がある。
【0052】
凹凸形状層42の形成方法としては、プラスチック原料をスクリュまたはプランジャで加熱シリンダ内で送り込み、加熱流動化させ、先端のダイを通過させて形を与え、これを水または空気で冷却固化させて、長尺品を作る押出成形法がある。他にも形状が切削された金型を用いたプレス法、キャスティング法、射出成形法、UV成形法などが挙げられる。これらの方法によれば、シート形成と同時に凹凸構造の前面を形成することが可能である。
【0053】
金属反射層40は入射してきた光を反射する機能を有する層である。金属反射層40に用いられる材料としては、反射性を有しかつ蒸着が可能であれば特に限定されるものではなく、例えばアルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)等の金属や、これらの合金等が挙げられる。また、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の高屈折率材料を含んでも良い。中でも、アルミニウムは紫外、可視、近赤外領域において、反射率が高く、表面に酸化皮膜を生成することにより、内部の侵食を防ぐことが可能となる。また、高い水蒸気バリア性を有するという利点がある。また、銀は可視、近赤外領域においてアルミニウムと比較しても反射率が高いという利点がある。また、金は可視領域の短波長側に吸収があるものの、600nm以上の波長においてはアルミニウムよりも反射率が高い。さらに、これら3種の金属は非常に侵食されにくいという利点があるため、金属反射層40に用いる材料として望ましい。
【0054】
金属反射層40を形成する際には、凹凸形状層42に沿って金属を蒸着することで形成される。この金属反射層40の蒸着手段としては、凹凸形状42に収縮、黄変等の劣化を招来することなく金属が蒸着できれば特に限定されるものではなく、(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)が採用される。これらの蒸着法の中でも、生産性が高く良質な反射層が形成できる真空蒸着法やイオンプレーティング法が好ましい。
【0055】
なお、金属反射層40は、単層構造でもよく、2層以上の多層構造でもよい。このように金属反射層40を多層構造とすることで、蒸着の際に懸かる熱負担の軽減により凹凸形状層42の劣化が低減され、さらに凹凸形状層42と金属反射層40との密着性等を改善することができる。このとき、金属膜の上に酸化金属層を設けても良い。また、上述の物理気相成長法及び化学気相成長法における蒸着条件は、凹凸形状層42や前記耐候層30の樹脂種類、金属反射層40の厚み等に応じて適宜設計される。
【0056】
金属反射層40の一般的な金属層は、反射率は膜厚に依存し、厚みは40nm以上が好ましく、概ね40nm以上の厚みがあれば高い反射率で安定する。一方40nmより厚みが小さい場合、反射率の低下がはっきりと現れる。目視で認識できる程度の金属層として効果を発揮するために5nm以上の厚みが必要である。また100nm以上だと目視で認識できるほどのクラックが生じる。
【0057】
裏面保護シート25において、金属反射層40を用いる場合にはその密接着性等を向上させるため、金属反射層40の蒸着対象面である凹凸形状層42の表面に表面処理を施すとよい。このような表面処理としては、例えば(a)コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いた酸化処理、及び(b)プライマーコート処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理、蒸着アンカーコート処理などが挙げられる。これらの表面処理の中でも、凹凸形状42との接着強度が向上し、緻密かつ均一な金属反射層40の形成に寄与するコロナ放電処理及びアンカーコート処理が好ましい。
【0058】
上述のアンカーコート処理に用いるアンカーコート剤としては、例えばポリエステル系アンカーコート剤、ポリアミド系アンカーコート剤、ポリウレタン系アンカーコート剤、エポキシ系アンカーコート剤、フェノール系アンカーコート剤、(メタ)アクリル系アンカーコート剤、ポリ酢酸ビニル系アンカーコート剤、ポリエチレンアルイハポリプロピレン等のポリオレフィン系アンカーコート剤、セルロース系アンカーコート剤などが挙げられる。これらのアンカーコート剤の中でも、金属反射層40の接着強度をより向上することができるポリエステル系アンカーコート剤が特に好ましい。
【0059】
上述のアンカーコート剤のコーティング量(固形分換算)は、1g/m以上、3g/m以下が好ましい。アンカーコート剤のコーティング量が1g/mより少ないと、金属反射層40の密着性向上効果が小さくなる。一方、当該アンカーコート剤のコーティング量が3g/mより多いと、裏面保護シート25の強度、耐久性等が低下するおそれがある。
なお、上述のアンカーコート剤中には、密接着性向上のためのシランカップリング剤、
ブロッキングを防止するためのブロッキング防止剤、耐候性等を向上させるための紫外線
吸収剤等の各種添加剤を適宜混合することができる。
【0060】
接着層32は、該接着層32が接する2つの層との密着性が良好であることが望ましく、耐久性、クッション性などの諸特性を補うために用いられ、一例としてシリコン系樹脂等が用いられる。この接着層32を設けることで、その他の層のみでは不足する性能を補うことができる。例えば、耐久性、クッション性などを高めるためにはシリコーン系樹脂を用いる。特に屋外使用の太陽電池モジュールの場合、日照時の太陽電池モジュールの熱上昇は著しく、樹脂材料から作製した裏面保護シート25に反りが発生し、太陽電池モジュールの故障を招く恐れもある。耐候層30は金属反射層40を形成する材料との密着性が高い材質から形成されていることが望ましい。
【0061】
以上のような裏面保護シート25を作製する方法の例としては、透光性絶縁層34上に金属版を用いたUV成形法により凹凸形状層42を成形するとともに蒸着等により金属反射層40を形成し、接着層32を介し耐候層30を接着する。
このようにして、本実施の形態の裏面保護シート25は、光透過性を有し一方の面が光入射面とされ他方の面が光出射面とされた透光性絶縁層30と、光出射面側に設けられ光出射面から出射した光を透光性絶縁層30に向けて反射する反射機能を有する、または観察する方向によって黒色などの暗色系に見えるような金属反射層40、凹凸形状層42と、裏面側から保護する耐候層30とを有している。
【0062】
以上のような構成の裏面保護シート25を有する太陽電池モジュールにおいては図1のように太陽電池モジュール1の充填層4及び太陽電池セル10を透過した光は、該太陽電池モジュール1の裏面に配された裏面保護シート25へ一部入射する。そして、裏面保護シート25に入射した光は、透光性絶縁層30及び接着層32を透過して、表面の凹凸形状42に沿って積層する金属反射層によって、太陽電池セル10側に反射される。そして、太陽電池モジュール1内に再帰させられた光は太陽電池セル10に受光されることで発電に寄与し、光の利用効率の向上が図られる。
【0063】
本実施形態の裏面保護シート25によれば、金属反射層40に密着する層である接着層32によって凹凸形状層42の凹凸形状を十分に埋めることができる。この点、凹凸形状層の凹凸形状42がしっかり形成されていなければ、その凹凸形状を充分に埋める事ができなくなり、層間剥離が生じたり、凹凸形状に追随した形状が表面に露呈してしまう。したがって、凹凸形状層42の凹凸形状の成形が層間剥離や塵や埃の巻き込みを防止することが可能となる。
【0064】
図3は裏面保護シートの別の実施形態の概略構成を示す断面図である。裏面保護シート25は、接着層32と耐候層30の間にバリア層48を接着層32で接着した構成である。ここで図2の裏面保護シート25と同一の構成要素については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
バリア層48は、ガスや水蒸気透過性が高い材料を指し、アルミニウム合金などが好ましい。実際には銅(Cu)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)などの合金が望ましく、酸素や水蒸気などのガスバリア性に優れている。またアルミニウムは、表面に酸化皮膜を生成することにより、内部の侵食を防ぐことが可能となる。
【0065】
図4または図5は凹凸形状層42の凹凸構造領域に採用可能な凹凸形状の一例を示す斜視図である。凹部または凸部50またはその両方の周期dが190nm以上600nm以下の領域にあり、かつ金属反射層が十分形成された場合を考えると、透過率が低くなり、凹凸構造領域が暗い、あるいは黒色などの暗色系を有することになる。特に2次元的に一定の周期で配列されている場合、法線方向から観察する際の反射率は一層低下し、凹凸構造領域によって黒色などの暗色系を有することができる。
図4または図5に示す凸部50は互いに略直交するx方向とy方向とに格子状に配列しているが、凸部50はそれとは異なる方向に交差するような格子状配列であっても良い。いずれの場合も、凸部50はドット状である。
【0066】
また、凸部50はその側面がテーパを有する形状(テーパ形状)を有しており、したがって、その断面積が上下方向に漸増または漸減する構造を有しているが、それらの凸部50の一部はテーパ形状を有していなくてもよい。テーパ形状は、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、または切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凸部50は、その配置に対応して溝(即ち、格子線)を格子状に配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。
【0067】
図6は前記凹凸形状層42の凹凸構造領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。ここでは、裏面保護シート25の凹凸形状60の凹部または凸部の構造の周期d1は太陽光62の波長λより大きい場合であり、回折光が1次回折光66を射出する様子を概略的に示す原理図である。
等式(1)から明らかなように、回折格子の凹部または凸部の構造の周期d1が前記太陽光62の波長λより大きい場合、界面に対して斜め方向から太陽光62を照射すると、回折格子は図6で示すように正の角度範囲内の射出角βで1次回折光66を射出する。
【0068】
図7は前記凹凸形状層42の凹凸構造が微細な領域が回折光を射出する様子を概略的に示す図である。ここでは、微細な凹凸形状70の凹部または凸部の構造の周期d2が太陽光72の波長λより小さい場合であり、回折光が1次回折光76射出する様子を概略的に示す原理図である。
等式(1)から明らかなように、回折格子の凹部または凸部の構造の周期d1が前記太陽光72の波長λより小さい場合、界面に対して斜め方向から太陽光72を照射すると、回折格子は、図7に示すように負の角度範囲内の射出角βで1次回折光76を射出する。
【0069】
図6、7より凹凸形状の凹部または凸部の構造の周期dが波長λと比較して大きい場合、この回折格子は法線方向に回折光を発生する。これに対し、凹凸形状の凹部または凸部の構造の周期dが波長λと比較して小さい場合、この回折格子は法線方向に回折光を生じることが無く、負の角度範囲に1次回折光を射出する。
【0070】
図8は図1乃至図3に示す裏面保護シートを備えた太陽電池モジュールを或る条件のもとで観察している様子を概略的に示す図である。また、図9は図1乃至図3に示す裏面保護シートを備えた太陽電池モジュールを他の条件のもとで観察している様子を概略的に示す図である。図8は前記太陽電池モジュール1をZ方向から観察した図であり、図1を凹凸形状面の法線方向から観察した図ともいえる。
【0071】
裏面保護シート25に備えられている凹凸形状層42はテーパ形状を有している。このような構造を採用した場合、凸部または凹部または両方の周期dが十分に短ければ、正反射についての反射率は小さく、実質的に、法線方向に回折光を射出せず、その結果法線方向から観察した場合黒色などの暗色系を有する。
図9は前記太陽電池モジュール1をZ方向から観測した図であり、図8の正面である法線方向に比べ角度をずらして観察した図ともいえる。
【0072】
前述の通り、界面に対して斜め方向から照射した照射光は回折格子は法線方向から負の角度範囲に1次回折光を射出することから、正面である法線方向からでは暗色系に観察された裏面保護シート25は射出光である波長の青、緑または赤色を帯びたシートになる。
図9で観察される裏面保護シート25の回折光が前面板2の前記光入射面の界面で太陽電池セルの前記受光面に向け反射させるため、受光面で受光されずに透過する光を再利用することで発電効率を向上することができる。
【実施例1】
【0073】
次に実施例について説明する。図2の構成を利用して実施サンプルを作製した。
前記金属反射層40の材料としてアルミニウムを使用し、蒸着法によって凹凸形状層42に沿って蒸着した。また金属反射層40であるアルミニウムの膜厚を50nm、70nm、90nm、95nm、100nm、105nmと異なる6種類の実施サンプル1乃至6を作製し、外観上の問題がないかを観察した。
【0074】
表1より実施サンプル1乃至6を作製した後、外観判断ではアルミニウムが100nmまたは105nm程の厚みがあると、外観目視で認識できるほどクラックが生じており、外観上問題がある。また、本来アルミニウムは表面に酸化皮膜を生成することにより、内部の侵食を防ぐことが可能なのに対し、クラックが生じた部分から内部へ侵食し、腐食が進むことになるので、性能上の問題もある。したがって前記
金属反射層40の膜厚は5nm以上100nm以下の範囲を満たしていることが必要である。
【表1】

【0075】
次に図2または3の構成を利用して実施サンプル7〜12を作製した。
実施サンプル7〜12は透過性絶縁層、凹凸形状層、耐候層のTg温度変えたサンプルであり、且つ、実施サンプル10〜12についてはアルミ箔を積層したサンプルとなる。
作製した実施サンプル7〜12を切削加工し、200mm(MD:Machine Directionロール流れ方向)×200mm(TD:Transverse Directionロール垂直方向)の大きさの試験片を作製した。次いで、この試験片の中央に150mm(MD)×150mm(TD)の標線を引き、恒温槽中、150℃30分間放置した。その後、冷却して、上記標線における長さを測定し、寸法変化率を下記等式(5)より算出した。
【数1】

【0076】
また、処理後の試験片の形状を外観目視で観察し、下記基準で判定した。
○:変形がなかった
△:極僅かに変形していた
×:変形していた
作製した実施サンプル7〜12を切削加工し、500mm(MD)×500mm(TD)の大きさの試験片を作製し、次いで透過性絶縁層側表面に対し、キセノンウェザーメーター促進試験による変色度(ΔE )をカラーメーターで測定した。キセノンウェザーメーター促進試験はアトラスCi35をブラックパネル温度63℃、340nm照度0.25W/m2 、照射時間300hrsで運転した。
【0077】
ΔEはLabデータから等式(6)により算出した。なお、Lは明度であり、aは赤色度であり、bは黄色度である。
[数6]
ΔE=√{(L−L+(a−a+(b−b}・・・・・(6)

なお、L、a、bは暴露後の値であり、L、a、bは暴露前の値である。
【0078】
また、ΔEの値が小さいほど、色の変化が小さく、耐候性が優れていることを示す。耐候性を、下記基準で判定した。
○:ΔEが10以下であった
△:ΔEが10以上15未満であった。
×:ΔEが15以上であった
【0079】
作製した実施サンプル7〜12を切削加工し、20mm(MD)×100mm(TD)の大きさの試験片を作製し、この試験片を縦長に吊るし、バーナーを用いて、バーナー先端から試験片下端まで10mm離した状態で、試験片の下端を5秒間接炎した。接炎終了後、試験片の接炎部分の燃焼状態を外観目視で観察し、下記基準で判定した。
○:着火しなかった
×:着火した
【0080】
表2より実施サンプル7〜12の凹凸形状層のTg温度が他の層より大きい場合、寸法変化率が大きく、変形しやすい状態が観察された。しかし、他の層より小さい場合は上述問題は無く、比較的安定だと言える。
耐候性については、実施サンプル7〜9については変色度が高く、実施サンプル10〜12については変色度が小さい結果となった。これはアルミ箔のバリア性が高く、変色を防止したと考えられる。
難燃性については実施サンプル7〜12について全て良好の結果となり、難燃性については図2または3の構成は比較的安定と言える。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の裏面保護シートはディスプレイ部材や照明装置などの各種光学機器に用いる裏面保護シートに利用が可能である。特に太陽電池の分野では強度に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐薬品性、光反射性、光拡散性等の諸堅牢性に優れ、極めて耐久性に富み、その保護能力性が高く、光の効率向上に利用が期待される。
【符号の説明】
【0082】
1 太陽電池モジュール
2 前面板
4 充填層
10 太陽電池セル
12 入射光(セルに直接入射)
14 反射光(セルに入射)
20 太陽光(光源)
25 裏面保護シート
30 耐候層
32 接着層
34 透光性絶縁層
38 耐候層
40 金属反射層
42 凹凸形状層
48 バリア層
50 凸部
60 凹凸形状層
62 太陽光(光源)
64 0次回折光
66 1次回折光
70 凹凸形状層
72 太陽光(光源)
74 0次回折光
76 1次回折光
d 凹部または凸部の構造の周期
d1 図6に示す凹部または凸部の構造の周期
d2 図7に示す凹部または凸部の構造の周期



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーに変換する太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールにおいて、前記太陽電池セルの受光面と反対の側に、太陽光を前記太陽電池セル側に反射させる裏面保護シートを配置し、前記裏面保護シートは金属反射層を備えた凹凸形状層を含み、前記凹凸形状層は複数の凸部または凹部の周期が190nm以上600nm以下に形成されていることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記凹凸形状層は複数の凸部または凹部の周期が200nm以上400nm以下で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記凹凸形状層は凸部又は凹部の深さ又は高さを、それらの周期の1/2倍以上1倍未満とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記裏面保護シートの最背面側から前面側に向けて、耐候層、金属反射層、凹凸形状層、光透過性絶縁層を順次備え、前記耐候層と前記金属反射層の間及び/もしくは金属反射層と凹凸形状層の間にバリア層を少なくとも1層以上備えることを特徴とする請求項1又は3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記金属反射層は、膜厚が5nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記耐候層と前記光透過性絶縁層を熱可塑性樹脂により構成し、これらの熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、いずれも前記凹凸形状層を構成する樹脂のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする請求項4又は5に記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記透過性絶縁層の厚さが50μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
金属反射層を備えた凹凸形状層を含み、前記凹凸形状層は複数の凸部または凹部の周期が190nm以上600nm以下に形成されていることを特徴とする太陽電池モジュール用の裏面保護シート。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−204772(P2012−204772A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70366(P2011−70366)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】