説明

太陽電池モジュール用接着剤、封止用保護シート及び太陽電池モジュール

【課題】太陽電池使用の初期段階だけでなく、屋外で長時間太陽電池を使用しても、封止用保護シートにおける封止層・バリア層間を強固に接着し続けることのできる接着剤を提供すること。
【解決手段】充填剤で太陽電池素子を覆ってなる充填剤層と、これを封止するための封止層と、バリア層とをこの順で積層した太陽電池モジュールにおいて、前記封止層と前記バリア層とを接着するための接着剤であって、接着剤が不飽和カルボン酸成分を0.1〜10質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体である太陽電池モジュール用接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに用いる接着剤、封止用保護シート及び太陽電池モジュールに関するものである。詳しくは、積層体構造をなす太陽電池モジュールにおいて、封止層・バリア層間を接着するための接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、化石燃料の代替エネルギー源として、太陽電池を利用したエネルギー源が注目されている。一般に太陽電池を構成する太陽電池モジュールは、シリコーン系半導体などからなる太陽電池素子(セル)を備え、太陽電池素子をオレフィン系共重合体などからなる充填剤で覆い、その充填剤層の太陽光を受光する上層側にガラスなどからなる上層透明基材層を積層し、充填剤層の下層側に封止層やバリア層などからなる封止用保護シートを積層した構成を有している。
【0003】
太陽電池モジュールの多くは屋外で使用され、しかも30年以上の長期間使用されることもあるため、十分な耐候性が必要とされる。そこで、かかる耐候性維持のため、太陽電池モジュールには、充填剤層を保護するための封止用保護シートが通常必要とされ、充填剤層・シート間、及びシート中の封止層・バリア層間などの接着に用いる接着剤に耐候性が要求されている。
【0004】
封止用保護シート中の封止層には、一般にポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂又はポリエステル樹脂などからなるフィルムが、バリア層には、一般に蒸着膜を備えた樹脂フィルムなどが適用され、両層を強固に接着しうる接着剤が検討されている。例えば、特許文献1、2には、ポリオレフィン樹脂フィルムなどからなる封止層と、金属蒸着膜を備えたポリエチレンテレフタレ−トフィルムからなるバリア層とを接着するにあたり、ウレタン系ラミネート用接着剤を用いることで、接着性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−111077号公報
【特許文献2】特開2005−322687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の接着剤は、太陽電池使用の初期段階においては層間を強固に接着し続けることができるが、屋外で太陽電池を長時間使用しつづけると、しだいに層間の接着性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、太陽電池使用の初期段階だけでなく、屋外で長時間太陽電池を使用しても、封止用保護シートにおける封止層・バリア層間を強固に接着し続けることのできる接着剤を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成の酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体からなる接着剤を用いることで、電池使用の初期段階は勿論、屋外などで電池を長時間使用しても、封止用保護シートにおける封止層・バリア層間を強固に接着し続けうることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)充填剤で太陽電池素子を覆ってなる充填剤層と、これを封止するための封止層と、バリア層とをこの順で積層した太陽電池モジュールにおいて、前記封止層と前記バリア層とを接着するための接着剤であって、接着剤が不飽和カルボン酸成分を0.1〜10質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体であることを特徴とする太陽電池モジュール用接着剤。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル成分を0.1〜25質量%含有することを特徴とする上記(1)記載の太陽電池モジュール用接着剤。
(3)水性分散体が、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする上記(1)又は(2)記載の太陽電池モジュール用接着剤。
(4)水性分散体が、ポリウレタン樹脂及び/又はヒドラジド系架橋剤を含み、その含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部であることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の太陽電池モジュール用接着剤。
(5)封止層と、上記(1)〜(4)いずれかに記載の太陽電池モジュール用接着剤を用いて形成された接着層と、バリア層とをこの順で積層してなることを特徴とする封止用保護シート。
(6)さらに支持層を含むことを特徴とする上記(5)記載の封止用保護シート。
(7)充填剤で太陽電池素子を覆ってなる充填剤層と、上記(5)又は(6)記載の封止用保護シートとを含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、太陽電池使用の初期段階だけでなく、屋外など耐候性が要求される環境下で長時間太陽電池を使用しても、封止用保護シート中の封止層・バリア層間を強固に接着し続けることのできる太陽電池モジュール用接着剤が提供できる。そして、封止用保護シートや太陽電池モジュールを得る際、本発明の接着剤を用いることで環境負荷やコストの低減が期待できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の太陽電池モジュール用接着剤(以下、接着剤と略すことがある)は、不飽和カルボン酸成分を0.01〜10質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体であり、太陽電池モジュールにおいて、封止層とバリア層との接着性を高める効果を有している。
【0013】
接着剤に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂において、その主成分たるオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。中でも、層間の接着性を良好とするためにエチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテンなどの炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0014】
本発明において、酸変性したポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボン酸成分により酸変性された樹脂を用いる。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドなどがあげられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0015】
不飽和カルボン酸成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などがあげられる。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量としては、0.1〜10質量%であり、0.5〜8質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、2〜4質量%がさらに好ましい。含有量が0.1質量未満になると、水性分散体とすることが困難であり、一方、10質量%を超えると、接着剤の耐候性が低下する傾向がある。
【0017】
そして、本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂は、十分な接着性を得るために、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物があげられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどがあげられ、これらを単独で又は混合して用いる。中でも、入手のしやすさと接着性向上の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルが好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
【0020】
酸変性ポリオレフィン樹脂では、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましく、2〜18質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満になると、所望の接着性が得られない傾向にあり、一方、25質量%を超えると、接着剤の耐候性が低下する傾向にある。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されてさえいれば、共重合の形態としては特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などがあげられる。
【0022】
酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−無水マレイン酸共重合体などがあげられ、中でもエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体が最も好ましい。共重合体の形態はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などのいずれでもよいが、入手が容易という点からランダム共重合体、グラフト共重合体が好適である。
【0023】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂の分子量が高くなるにつれ、接着剤の耐候性は優れる傾向にある。したがって、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート値(JIS K7210:1999に準ずる)は、300g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、0.001〜50g/10分がさらに好ましく、0.01〜10g/10分が特に好ましく、0.1〜5g/10分が最も好ましい。メルトフローレートが300g/10分を超えると、接着剤の耐候性が低下する傾向にあり、好ましくない。一方、0.001g/10分未満になると、樹脂の高分子量化に伴い、製造面において制約を受けることがある。
【0024】
本発明では、以上のような酸変性ポリオレフィン樹脂を用いるが、接着剤としてこれをそのままの状態で用いるのではなく、水性分散体として使用する。水性分散体とすることで、後述する各種添加剤と混合することが容易となる。
【0025】
水性分散体中における酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均粒子径としては、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。
【0026】
水性分散体において、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物としては、カルボキシル基を中和できるものであればよい。したがって、このような目的で添加される塩基性化合物は、水性化助剤ともいえるが、本発明の効果を損なわないためには、塩基性化合物として揮発性のものが用いられる。
【0027】
水性分散体に添加する塩基性化合物としては、接着層形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が接着層の耐水性向上の点から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が効率よく進行しないことがあり、好ましくない。一方、250℃を超えると、接着層形成時に乾燥により有機アミン化合物を揮発させ難くなり、結果、接着層の耐水性が低下することがあり、好ましくない。
【0028】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどをあげることができる。
【0029】
塩基性化合物の添加量としては、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、一方、3.0倍当量を超えると、接着層形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色することがあり、いずれも好ましくない。
【0030】
また、水性分散体においては、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に有機溶剤を添加することが好ましい。有機溶剤の使用量としては、水性媒体中の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤の使用量が40質量%を超えると、実質的に水性媒体とは見なせなくなり、本発明の目的のひとつ(環境保護)を逸脱するだけでなく、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下してしまうことがある。なお、水性化の際に添加した有機溶剤は、ストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で系外へ留去させて適度に減量してもよく、有機溶剤量を低くしても、特に性能面での影響はない。
【0031】
本発明において使用される有機溶剤としては、沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。有機溶剤の沸点が30℃未満になると、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化の効率が十分に高まらないことがあるため好ましくない。一方、250℃を超えると、有機溶剤を樹脂形成時に乾燥により揮発させ難くなり、結果、接着層の耐水性が低下することがあるため好ましくない。
【0032】
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0033】
本発明において、水性分散体には界面活性剤や乳化剤などの不揮発性水性化助剤を実質的に含有していないことが、接着性や耐候性の点で好ましい。
【0034】
ここで不揮発性水性化助剤とは、樹脂の分散や安定化に寄与する不揮発性の化合物のことを意味する。不揮発性水性化助剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、反応性界面活性剤、水溶性高分子などがあげられ、一般に乳化重合に用いられるものの他、乳化剤類も含まれる。
【0035】
例えば、アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネートなどがあげられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体等やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体などがあげられ、両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等があげられる。反応性界面活性剤としては、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルジアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩などの反応性2重結合を有する化合物があげられる。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩などがあげられる。
【0036】
本発明において水性分散体を得るための方法は特に限定されない。例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、塩基性化合物、水、さらに必要に応じて有機溶剤を、好ましくは密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができ、この方法が最も好ましい。この方法によれば、不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも酸変性ポリオレフィン樹脂を良好に水性分散化することができる。
水性分散体における樹脂固形分濃度としては、特に限定されないが、コーティングのしやすさや接着層の厚みの調整しやすさなどの点から、水性分散体全質量に対して、1〜60質量%が好ましく、2〜50質量%がより好ましく、5〜30質量%がさらに好ましい。
【0037】
本発明における水性分散体は、接着剤の耐候性を良好なものとするため、酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂又は架橋剤を含有していることが好ましい。
【0038】
酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂などがあげられる。これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0039】
これらの中でも接着性や耐候性、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体との混合安定性に優れるなどの点でポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
ポリウレタン樹脂は、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。ポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオールなどがあげられる。
【0041】
一方、ポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知ジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメチルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などがあげられ、中でも接着性、耐候性を発現させやすい点でイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0042】
本発明における水性分散体にポリウレタン樹脂を含有させる際は、水性分散体との混合安定性の点から、ポリウレタン樹脂を直接水性分散体に添加するのではなく、ポリウレタン樹脂の水溶液又は水性分散体を予め用意し、これを本発明における水性分散体に添加するのがよい。
【0043】
使用可能な市販されているポリウレタン樹脂の水性分散体としては、アデカ社製のアデカボンタイターシリーズ、第一工業製薬社製のスーパーフレックスシリーズ、楠本化成社製のNeoRezシリーズ、DIC社製のハイドランシリーズなどがある。
【0044】
ポリウレタン樹脂の使用量としては、水性分散体中の酸変性ポリオレフィン樹脂固形分量100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜40質量部がより好ましく、1〜30質量部がさらに好ましい。添加量が0.1質量部未満になると、性能改善の効果が少なく、一方、50質量部を超えると、性能改善効果が期待できないばかりかむしろ低下する傾向があるため、いずれも好ましくない。
【0045】
他方、架橋剤としては、ヒドラジド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、アミン系架橋剤及びポリオールなどの酸変性ポリオレフィン樹脂と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する化合物が使用でき、これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。中でも接着性や耐候性を良好にしたり、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体との混合安定性に優れるなどの点でヒドラジド系架橋剤が好ましい。
【0046】
ヒドラジド系架橋剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどの炭素原子を2〜10個、特に4〜6個含有するジカルボン酸ジヒドラジド;エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジンなどの炭素原子を2〜4個有する脂肪族の水溶性ジヒドラジンなどがあげられ、これらは1種又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アジピン酸ジヒドラジドは、水に対する溶解性と各種性能のバランスとに優れており、好ましく使用できる。
【0047】
使用可能な市販されているヒドラジド系架橋剤としては、大塚化学社製アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ジヒドラジドなどがある。
【0048】
ヒドラジド系架橋剤の使用量としては、水性分散体中の酸変性ポリオレフィン樹脂固形分量100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜40質量部がより好ましく、1〜30質量部がさらに好ましい。使用量が0.1質量部未満になると性能の改善効果が少なく、一方、50質量部を超えると性能改善の効果が期待できないばかりかかえって性能が低下することもあり、いずれも好ましくない。なお、架橋剤の形態が溶液や分散体である場合、使用量としては、その溶液や分散体中の固形分で算出される。
【0049】
本発明では、このように水性分散体中に酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂又は架橋剤を含有させてもよく、両者は、同時に水性分散体中に含有させてもよい。ただこの場合、理由は不明であるが、両者を併用するより、両者のいずれか一方のみを使用した方が、接着剤の耐候性をより向上できる場合がある。例えば、水性分散体中に、ポリウレタン樹脂及びヒドラジド系架橋剤の両者を含有させた場合、これらを含有しない場合と比べ耐候性向上の効果が認められるが、ポリウレタン樹脂及びヒドラジド系架橋剤のいずれか一方のみを含有させた場合は、両者を含有させる場合と比べ、より一層耐候性向上の効果が認められる。
【0050】
上述の水性分散体からなる本発明の接着剤は、充填剤で太陽電池素子を覆ってなる充填剤層と、これを封止するための封止層と、バリア層とをこの順で積層した太陽電池モジュールにあって、前記封止層と前記バリア層とを接着するためのものである。太陽電池モジュールでは、充填剤層、封止層、バリア層に続き、バリア層の下層側に必要に応じてさらにその他の層を積層してもよく、封止層以下バリア層及びその他の層を順次積層したものを封止用保護シートという。封止用保護シートは、バックシート、バックカバー、封止用シート、裏面封止シート、保護シート、裏面保護シート、裏面保護部材、保護フィルムなどと呼ばれることもある。
【0051】
太陽電池モジュールにおいて、封止用保護シート中の封止層・バリア層間を接着するには、通常、まず封止層の下層側又はバリア層の上層側に本発明の接着剤を使用して接着層を形成する。
【0052】
ここで、上層とは、太陽電池モジュールとした際の、太陽光の受光面側のことであり、下層とは受光面の反対側のことである。なお、両面発電タイプの太陽電池モジュールであっても太陽光を直接受光する面側が上層であり、間接光を受光する面側が下層となる。
接着層の厚みとしては、0.01〜30μmの範囲とすることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましく、0.5〜6μmであることがさらに好ましく、0.5〜5μmであることが特に好ましく、0.5〜4μmであることが最も好ましい。接着剤の厚みが0.01μm未満では十分な接着性が得られず、一方、30μmを超えると、性能向上の効果が乏しく、コスト面でも不利となる。
【0053】
封止用保護シートにおける接着層は、接着剤をコーティングすることにより形成できる。コーティング方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることが可能であり、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法などが採用できる。
【0054】
これらの方法により封止層下層側、もしくはバリア層上層側に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理することにより、均一な接着層を封止層下層側、もしくはバリア層上層側に密着させて形成することができる。
【0055】
乾燥処理法としては、乾燥時間を短くできることや、上記架橋剤との反応を促進させるために、加熱処理法が好ましく採用できる。乾燥温度としては、50〜200℃の範囲が好ましく、70〜180℃がより好ましく、80〜150℃がさらに好ましく、90〜120℃が特に好ましい。乾燥温度が50℃未満では、乾燥効率が不十分であったり、層間の接着性が低下する傾向があり、一方、乾燥温度が200℃を超えると、封止層が変形又は変質することがあるため、いずれも好ましくない。他方、乾燥時間は特に限定されず、通常2〜600秒の範囲で行うことよい。
【0056】
本発明では、このように接着剤をコーティングするだけで容易に接着層を形成でき、かつコーティング方法としても様々な方法が採用できる。このため、如何なる大きさの太陽電池の場合でもコストをかけずに容易に所望の接着層を形成することができる。
【0057】
次に、本発明の封止用保護シートについて説明する。まず封止用保護シートにおける封止層としては、基材として充填剤を十分封止しうるものが使用されてさえいれば、特に限定されない。基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記すこともある)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフッ化ビニル(以下、PVFと記すこともある)、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと記すこともある)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、アルミ箔(以下、AL箔と記すこともある)などの金属箔などがあげられ、これらは、屋外での長期間の使用に耐えうるものであり、好ましい。中でも、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂の中ではPETが、フッ素樹脂の中ではPVF、PVDFが経済性や層間の接着性などの観点から好ましい。
【0058】
PETなどのポリエステル樹脂を封止層に用いる際は、加水分解を抑制するために、耐加水分解性のものを用いることが好ましい。耐加水分解性のポリエステル樹脂としては、数平均分子量が18000〜40000の範囲で、環状オリゴマーの含有率が1.5質量%以下、固有粘度が0.5dl/g以上のものがあげられ、さらに分子中の末端のカルボン酸がカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0059】
封止層の厚みとしては、特に限定されず、例えば10〜500μmの範囲が好ましく、20〜250μmがより好ましい。
【0060】
また、封止層に、コロナ放電処理、フレームプラズマ処理、大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理、オゾン処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、薬品処理、溶剤処理などの表面処理がなされていると、バリア層を接着性よく積層することが可能となる。
【0061】
さらに、封止層は、水蒸気バリア性を付与させるために、アルミ蒸着膜、アルミナ蒸着膜、シリカ蒸着膜、アルミナ・シリカ二元蒸着膜などの蒸着膜を設けてもよい。
【0062】
他方、封止用保護シート中のバリア層は、主に水蒸気バリアを具現するための層であり、結果として水蒸気バリア性を達成できるものであれば、どのようなものでも使用できる。
【0063】
バリア層における水蒸気バリア性の指標としては、JIS−K7126に準じて測定される水蒸気透過度が3.0g/m・24h以下であることが好ましく、1.0g/m・24h以下がより好ましく、0.5g/m・24h以下がさらに好ましい。バリア層は水蒸気バリア性と共に、酸素バリア性などのガスバリア性も備えていることが好ましい。
【0064】
バリア層としては、例えば、アルミ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルム、シリカ/アルミナ二元蒸着フィルムなどの蒸着フィルム、アルミ箔などの金属箔、塩化ビニリデン、液晶ポリマーなどがあげられる。これらの中でも、金属箔、蒸着フィルムが水蒸気バリア性に優れ好ましい。なお、蒸着フィルムは、一般にポリエステル樹脂フィルムやポリアミド樹脂フィルムなどに蒸着されていることが多いが、比較的水蒸気バリア性に優れるPETなどのポリエステル樹脂フィルムの蒸着フィルムが好ましい。ポリエステル樹脂フィルムとしては、前記耐加水分解性のポリエステル樹脂を用いてもよい。
【0065】
バリア層の厚みとしては、特に限定されないが、一般に3〜100μmの範囲とし、5〜50μmの範囲が好ましい。
【0066】
また、前述のように、封止用保護シートには、封止層、バリア層以外に必要に応じてその他の層が含まれていてもよく、この場合、その他の層として、例えば、封止用保護シートの強度を保持したり、外力から受ける衝撃や引っ掻きなどから、バリア層や太陽電池モジュールを保護することを目的として支持層が設けられていることが好ましい。
【0067】
支持層の基材としては、結果としてシートの強度保持などが達成できれば、どのようなものでも使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、アルミ箔などの金属箔などがあげられる。中でも、屋外での長期間の使用に適性のある、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂フィルムとしては、前記耐加水分解性のポリエステル樹脂がより好ましい。
【0068】
支持層の厚みとしては、特に限定されないが、一般に10〜500μmの範囲とし、20〜250μmの範囲が好ましい。
【0069】
本発明では、このようにその他の層として支持層を設けることが好ましいが、支持層以外にも必要に応じて幾層にも層を重ねることで、目的の封止用保護シートとしてもよい。
支持層以外のその他の層に用いうる基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂、アルミ箔などの金属箔などがあげられる。
【0070】
封止用保護シート中、その他の層を接着するにあったては、接着性を高める効果のある接着剤であれば、いかなる接着剤でも使用できる。ただ、その他の層も太陽電池モジュールを構成する一部材に含まれることを考慮すると、かかる接着剤の場合も耐候性に優れるものを選択するのが好ましく、本発明の接着剤が好適である。
【0071】
ここで、封止用保護シートの構成を例示すると、上層側から(層間には接着層が存在するが、ここでは省いて記載する)、封止層/バリア層、封止層/バリア層/支持層、封止層/バリア層/その他の層、封止層/バリア層/支持層/その他の層などがあげられ、このうち封止層/バリア層/支持層のように支持層を備えるものが好ましい。
【0072】
封止用保護シートを作製するには、一般にドライラミネート法などが適用できる。ドライラミネート法とは、層の上に接着剤を塗布し乾燥することで接着層を形成し、後に相手方の層と圧着させる方法である。
【0073】
また、太陽電池モジュールには、通常、充填剤層の上層側にガラスなどからなる上層透明基材層が備えられている。近年では太陽電池モジュール自体に柔軟性を付与することを目的に、上層透明基材層として、樹脂フィルム(シート)を用いる場合があり、また、本発明の封止用保護シートを構成する封止層と同様の基材層を用いられることも多い。そのような場合にあっては、上層透明基材層と充填剤層との接着に際し、本発明の接着剤を用いることが可能となる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種の特性について、以下の方法で測定又は評価した。
【0075】
1.酸変性ポリオレフィン樹脂の特性
(1)構成
H−NMR分析(日本電子社製ECA500、500MHz)より求めた。テトラクロロエタン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)メルトフローレート値(MFR)
JIS K7210:1999記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0076】
2.封止用保護シートの評価
(1)接着性評価
得られた封止用保護シートから擬似試験片を15mm幅で切り出し、50℃下で3日間放置した後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用いて、引張速度200mm/分、T型剥離、25℃なる条件にて擬似試験片の層間剥離強度を測定した。測定はn=5で行い、測定値はその平均値とした。
(2)耐候性評価
得られた封止用保護シートを高温高湿器内で85℃−85%RHの環境下で3000時間暴露した後、取り出した封止用保護シートから擬似試験片を15mm幅で切り出し、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用いて、引張速度200mm/分、T型剥離、25℃なる条件にて擬似試験片の層間剥離強度を測定した。測定はn=5で行い、測定値はその平均値とした。
評価基準としては、高温高湿処理後の層間剥離強度が、高温高湿処理前の層間剥離強度と比べ30%以上の割合を保持していることが好ましく、50%以上の割合を保持していることがより好ましく、70%以上の割合を保持していることがさらに好ましい。
【0077】
<酸変性ポリオレフィン樹脂>
酸変性ポリオレフィン樹脂としては、市販品であるボンダインTX8030(アルケマ社製、以下、TX8030とする)、ボンダインHX8290(アルケマ社製、以下、HX8290とする)を用いた。酸変性ポリオレフィン樹脂の組成などを表1に示す。これら酸変性ポリオレフィン樹脂は以下に示す製造例1、2に示す方法で水性分散体として利用した。
【0078】
【表1】

【0079】
製造例1(TX8030の水性分散体の製造)
撹拌機とヒーターを備えた1リットル容ガラス容器に、TX8030を100g、イソプロパノールを125.0g、トリエチルアミンを3.7g、蒸留水を271.3g仕込んだ。撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに120分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ約40℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得た。
【0080】
このようにして得られたTX8030の水性分散体(以下、TXEmとする)の固形分濃度は20質量%であり、数平均粒子径は0.085μmであった。
【0081】
なお、ポリオレフィン樹脂水性分散体の粒子径は、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率は1.5として求めた。
【0082】
製造例2(HX8290の水性分散体の製造)
撹拌機とヒーターを備えた1リットル容ガラス容器に、HX8290を125g、イソプロパノールを125.0g、トリエチルアミンを3.7g、蒸留水を246.3g仕込んだ。撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに120分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ約40℃まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得た。
【0083】
このようにして得られたHX8290の水性分散体(以下、HXEmとする)の固形分濃度は25質量%であり、数平均粒子径は0.072μmであった。
【0084】
(実施例1)
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体としてTXEmを、封止層基材として厚み125μmのPETフィルム(ユニチカ社製)をそれぞれ用意し、TXEmを封止層基材の片面にマイヤーバーでコーティングした後、100℃で90秒間乾燥させ、厚さ4μmの接着層を有するPETフィルムを得た。この接着層と、バリア層として厚み25μmのAL箔とを貼り合わせ、130℃下で2.5kg/cmの圧力を7秒間加えることにより封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0085】
(実施例2)
ウレタン樹脂として市販品たるスーパーフレックスシリーズ(第一工業製薬社製、水性分散体、以下FLEXとする)を用い、TXEmの固形分100質量部に対してFLEXの固形分0.1質量部を添加し撹拌混合した。以降は、得られた混合液を用い、乾燥温度を100℃に代えて120℃とする以外、実施例1と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0086】
(実施例3、4)
ウレタン樹脂の添加量を、表2に示したように変更した以外は実施例2と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0087】
(実施例5)
バリア層としてAL蒸着PETフィルムを用いた以外は、実施例3と同様に行い、封止用保護シートを得た。なお、バリア層の蒸着側を上層側すなわち接着面とした。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0088】
(実施例6)
封止層基材としてPVFフィルムを用いた以外は、実施例3と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0089】
(実施例7)
ヒドラジド系架橋剤の市販品である大塚化学社製アジピン酸ジヒドラジド(水性分散体、以下ADHとする)を用い、TXEmの固形分100質量部に対してADHの固形分0.1質量部を添加し撹拌混合した。以降は、得られた混合液を用い、実施例2と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0090】
(実施例8、9)
ADHの添加量を、表2に示したように変更した以外は実施例7と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0091】
(実施例10)
ADHに代えて、オキサゾリン系架橋剤の市販品としてエポクロスWS700(日本触媒社製、水溶液、以下WS700とする)を用いる以外、実施例8と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0092】
(実施例11)
TXEmの固形分100質量部に対してFLEXの固形分3.0質量部及びADHの固形分3.0質量部を添加し撹拌混合した。以降は、得られた混合液を用い、実施例2と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0093】
(実施例12)
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体をTXEmに代えてHXEmとする以外、実施例4と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。
【0094】
【表2】

【0095】
(比較例1)
接着剤としてTXEmとFLEXとの混合液に代えてFLEX自体を用いる以外、実施例2と同様に行い、封止用保護シートを得た。得られた封止用保護シートを用いて、接着性評価、耐候性評価を行った。結果は、接着性評価(初期の層間剥離強度)は1.5N/15mmであった。一方、耐候性評価(高温高湿処理後の層間剥離強度)は保護シートが容易に剥がれてしまったため、正確な測定ができなかった。
【0096】
実施例1〜12の結果より、本発明の接着剤は、封止用保護シートにおける封止層・バリア層間を耐候性よく接着できるものであることが確認できた。
【0097】
実施例2〜4はウレタン樹脂を含む接着剤を、実施例7〜10は架橋剤を含む接着剤を用いた例であり、これらを含まない実施例1に比べ、耐候性向上の点で差が認められた。また、実施例3と実施例2、4との比較、及び実施例8と実施例7、9との比較から、TXEmにウレタン樹脂やヒドラジド系架橋剤を添加して使用する場合、添加量が少な過ぎても好ましくなく、多すぎても好ましくないことが確認できた。さらに、実施例8、10の比較から、ヒドラジド系架橋剤を接着剤中に配合することは、オキサゾリン系架橋剤を配合する場合と比べ、保護シートの耐候性向上に有用であることが確認できた。
【0098】
また、実施例3、5、6の結果から、封止層・バリア層間の接着力は、封止層基材及びバリア層の組成により変化し、当該実施例中、封止層基材としてPETフィルム、バリア層としてAL箔を用いた実施例3の保護シートが最も耐候性に優れていた。
【0099】
実施例11は、接着剤中にウレタン樹脂及びヒドラジド系架橋剤の両者を配合した例で、それぞれを単独で使用した場合(実施例3、実施例8)と比べ、保護シートの耐候性が劣る結果となった。
【0100】
実施例12は、接着剤中に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂のアクリル酸エステル成分の含有量及びメルトフローレートを、実施例4の場合から変更したものである。実施例12の保護シートは、実施例4の保護シートより耐候性が良好となっている。これは、HXEmが、TXEmの場合と比べより多くのウレタン樹脂を添加することで、より効果的に耐候性を高めることができるためである。
【0101】
以上に対し、比較例1は、接着剤として、酸変性ポリオレフィン樹脂を含まないウレタン樹脂の水性分散体を用いたため、保護シート中の封止層・バリア層間を強固に接着させることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤で太陽電池素子を覆ってなる充填剤層と、これを封止するための封止層と、バリア層とをこの順で積層した太陽電池モジュールにおいて、前記封止層と前記バリア層とを接着するための接着剤であって、接着剤が不飽和カルボン酸成分を0.1〜10質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を含む水性分散体であることを特徴とする太陽電池モジュール用接着剤。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル成分を0.1〜25質量%含有することを特徴とする請求項1記載の太陽電池モジュール用接着剤。
【請求項3】
水性分散体が、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1又は2記載太陽電池モジュール用接着剤。
【請求項4】
水性分散体が、ポリウレタン樹脂及び/又はヒドラジド系架橋剤を含み、その含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の太陽電池モジュール用接着剤。
【請求項5】
封止層と、請求項1〜4いずれかに記載の太陽電池モジュール用接着剤を用いて形成された接着層と、バリア層とをこの順で積層してなることを特徴とする封止用保護シート。
【請求項6】
さらに支持層を含むことを特徴とする請求項5記載の封止用保護シート。
【請求項7】
充填剤で太陽電池素子を覆ってなる充填剤層と、請求項5又は6記載の封止用保護シートとを含むことを特徴とする太陽電池モジュール。


【公開番号】特開2012−74424(P2012−74424A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216238(P2010−216238)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】