説明

太陽電池モジュール

【課題】太陽電池セルに入射する光の波長を分光感度の高い長波長側に効率よく変換することができ、耐候性にも優れる太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】太陽電池セルの受光面上に、最外層となる表面保護層7、波長変換層8、封止樹脂層6が設けられ、表面保護層7は、350nm以下の短波長域の光を透過し、波長変換層8は、表面保護層7の直下に設けられ、350nm以下の短波長域の光を吸収するとともに、より長波長域の発光波長を有する波長変換材料を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに関し、特に、入射光を分光感度の高い波長域に変換し、発光する波長変換層を有する太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減が地球的な課題となる中、クリーンでかつ再生可能なエネルギーとして、太陽光発電に大きな期待が寄せられている。太陽電池の主流は、現在までのところ、単結晶シリコンや多結晶シリコンの結晶を製造し、これをスライス加工して板状の半導体として使用する結晶シリコン系太陽電池である。
【0003】
結晶シリコン系の太陽電池モジュールは、光電変換可能な波長域が限られており、太陽光に含まれる紫外線域の光を光電変換できないため、変換効率が上がらないという問題があった。そこで、この紫外線域の光を太陽電池モジュールによって光電変換可能な波長に変換する蛍光体等の波長変換物質を太陽電池モジュール中に含有する構成が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、光電変換層の光入射側に、光電変換層での光電変換効率の低い波長範囲の光を吸収して光電変換効率の高い波長範囲の光を発光する波長変換体の層を光電変換層と平行に設けた太陽電池が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載される太陽電池では、波長変換体の層は、例えば、光電変換層と透明保護カバーとの間に透明接着剤層を設け、この透明接着剤層中に波長変換体の微粉末を分散混入することで形成している。
【0006】
同じく、特許文献2には、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールにおいて、照射された光を吸収し、吸収した光の波長より長い波長の光に変換する波長変換層を有する太陽電池モジュールが開示されている。特許文献2では、波長変換層はセル受光面に塗布されて形成されるか、太陽電池セルを保護する封止剤として形成される。
【0007】
特許文献3には、光が太陽電池素子に到達するまでの経路中に、酸化物蛍光体を含む材料を配設した太陽電池が開示されている。ここで、酸化物蛍光体は200〜400nmの波長範囲にある紫外線を400〜1000nmの波長範囲に変換することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−200576号公報
【特許文献2】特開平7−202243号公報
【特許文献3】特開2003−218379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、通常の太陽電池モジュールは、表面保護層としてガラスを使用するため、350nm以下の短波長域の光は、波長変換物質に到達する前にガラスでカットされてしまう。
【0010】
また、封止樹脂層の下部に波長変換層を設けた場合には、封止樹脂そのものによる短波長域の光の吸収、及び劣化防止の必要性から封止樹脂に含有されている紫外線吸収材による短波長域の光の吸収によって、波長変換層による変換効果を妨げていた。
【0011】
表面保護層の前面に波長変換材を含有するフィルムを設けることでこの問題は回避できるが、この場合、波長変換層が直接外界に晒されるため、波長変換材やフィルムを形成する樹脂成分が長期に亘る耐候性を満足しないという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、太陽電池セルに入射する光の波長を分光感度の高い長波長側に効率よく変換することができ、耐候性にも優れる太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明に係る太陽電池モジュールは、太陽電池セルの受光面上に、最外層となる表面保護層、波長変換層、封止樹脂層が設けられ、上記表面保護層は、350nm以下の短波長域の光を透過し、上記波長変換層は、上記表面保護層の直下に設けられ、350nm以下の短波長域の光を吸収するとともに、より長波長域の発光波長を有する波長変換材料を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、最外層となる表面保護層は、短波長域の光を透過するため、波長変換層の励起帯を全範囲でカバーすることができ、より高い波長変換効果が得られ、太陽電池セルによる光電変換効率を向上させることができる。また、表面保護層が最外層となるため、波長変換層が外部に晒されることなく、耐候性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用された太陽電池モジュールを示す分解斜視図である。
【図2】太陽電池セルのストリングスを示す断面図である。
【図3】太陽電池セルの裏面電極及び接続部を示す平面図である。
【図4】実施例に係るモジュール構造αを示す分解斜視図である。
【図5】実施例に係るモジュール構造βを示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明が適用された太陽電池モジュール及び、太陽電池の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。以下では、結晶シリコン系太陽電池を例に説明するが、本発明は、薄膜シリコン系太陽電池、いわゆる化合物薄膜系太陽電池、有機系、量子ドット型など、各種太陽電池に用いることができる。
【0017】
[太陽電池モジュール]
本発明が適用された太陽電池モジュール1は、図1〜図3に示すように、複数の太陽電池セル2がインターコネクタとなるタブ線3によって直列に接続されたストリングス4を有し、このストリングス4を複数配列したマトリクス5を備える。そして、太陽電池モジュール1は、このマトリクス5が封止接着剤の樹脂シート6で挟まれ、受光面側に設けられた表面保護層7及び波長変換層8、裏面側に設けられたバックシート9とともに一括してラミネートされることにより形成される。
【0018】
すなわち、太陽電池モジュール1は、受光面側から順に、表面保護層7、波長変換層8、封止樹脂シート6、太陽電池セル2、封止樹脂シート6、バックシート9の順に積層される。なお太陽電池モジュール1は、適宜、周囲にアルミニウムなどの金属フレームが取り付けられる。
【0019】
封止樹脂シート6を構成する封止接着剤としては、例えばポリエチレン−ポリ酢酸ビニル共重合体(EVA)等の透光性封止樹脂が用いられる。封止樹脂は、波長200nm〜800nmにおける光透過率が80%以上であることが好ましい。また、バックシート8としては、ガラスや、アルミニウム箔を樹脂フィルムで挟持した積層体等が用いられる。
【0020】
太陽電池モジュールの各太陽電池セル2は、光電変換層11を有する。光電変換層11は、単結晶型シリコン光電変換素子、多結晶型光電変換素子を用いる結晶シリコン系太陽電池である。
【0021】
また、光電変換層11は、受光面側に内部で発生した電気を集電するフィンガー電極12とフィンガー電極12の電気を集電するバスバー電極13とが設けられている。バスバー電極13及びフィンガー電極12は、太陽電池セル2の受光面となる表面に、例えばAgペーストがスクリーン印刷等により塗布された後、焼成されることにより形成される。また、フィンガー電極12は、受光面の全面に亘って、例えば約50〜200μm程度の幅を有するラインが、所定間隔、例えば2mmおきに、ほぼ平行に複数形成されている。バスバー電極13は、フィンガー電極12と略直交するように形成され、また、太陽電池セル2の面積に応じて複数形成されている。
【0022】
また、光電変換層11は、受光面と反対の裏面側に、アルミニウムや銀からなる裏面電極14が設けられている。裏面電極13は、図2及び図3に示すように、例えばアルミニウムや銀からなる電極が、スクリーン印刷やスパッタ等により太陽電池セル2の裏面に形成される。裏面電極14は、後述する導電性接着フィルム17を介してタブ線3が接続されるタブ線接続部15を有する。
【0023】
そして、太陽電池セル2は、タブ線3によって、表面に形成された各バスバー電極13と、隣接する太陽電池セル2の裏面電極14とが電気的に接続され、これにより直列に接続されたストリングス4を構成する。タブ線3とバスバー電極13及び裏面電極14とは、導電性接着フィルム17によって接続される。
【0024】
[タブ線]
タブ線3は、図2に示すように、隣接する太陽電池セル2X、2Y、2Zの各間を電気的に接続する長尺状の導電性基材である。タブ線3は、例えば厚さ50〜300μmに圧延された銅箔やアルミ箔をスリットし、あるいは銅やアルミなどの細い金属ワイヤーを平板状に圧延することにより、導電性接着フィルム17とほぼ同じ幅の1〜3mm幅の平角線を得る。そして、タブ線3は、この平角線に、必要に応じて金メッキ、銀メッキ、スズメッキ、ハンダメッキ等を施すことにより形成される。
【0025】
太陽電池モジュール1は、タブ線3によって各太陽電池セル2が互いに電気的に接続されストリングス4を構成する。また、太陽電池モジュール1は、太陽電池セル2の裏面側に、外部出力線が電気的に接続されることによりタブ線3が集電した電力を外部に供給する図示しないターミナルボックスが設けられている。
【0026】
[波長変換層]
波長変換層8は、表面保護層7を介して入射する太陽光の短波長域の光を吸収するとともに、分光感度の高い長波長域の光に変換、発光することにより、太陽電池モジュール1の発電効率を向上させるものである。
【0027】
波長変換層8は、透明樹脂に蛍光体物質が溶解あるいは分散されてフィルム状に成型されることにより、波長変換フィルムとして構成される。蛍光体物質は、入射光に対して波長変換を行うものであり、光電変換層での光電変換効率の低い短波長域の光を吸収して光電変換効率の高い長波長域に光を発光する。
【0028】
単結晶シリコンや多結晶シリコンからなる光電変換層11を有する太陽電池では、多少の相違はあるものの、波長500nm以下の光に対して吸収が小さくなり、波長400nm以下の光に対しては、その吸収が非常に小さい。
【0029】
したがって、光電変換層11を用いる場合、波長変換層8の蛍光体物質としては、400nm以下、より好ましくは350nm以下の短波長域の光を吸収するとともに、より長波長域の発光波長を有する波長変換材料を用いる。
【0030】
このような蛍光体物質としては、発光中心としてユーロピウムもしくはマンガンをドープした無機化合物を用いることができる。例えば、青色発光を示すBaMgAl1017:Eu(BAM)は、励起帯が200nm〜430nm、蛍光ピークが400nm〜550nmであることを特徴とし、内部量子効率は90%程度を有する。また、緑色発光を示すBaMgAl1017:Eu,Mn(BAM,Mn)は、吸収ピークが200nm〜400nm、蛍光ピークが480nm〜570nmであることを特徴とし、内部量子効率は85%程度を有する。
【0031】
蛍光体物質を分散する透明樹脂は、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリスチレン・ポリエチレン・ポリブチレン・ポリスチレンブロック共重合体(SEBS)、ポリエチレン-ポリ酢酸ビニルランダム共重合体(EVA)を使用することができる。
【0032】
なお、太陽電池セル2は、光電変換層として、上述した単結晶シリコンを用いたもの、多結晶シリコンを用いたものの他、公知の光電変換層のいずれも適用することができる。太陽電池セル2は、光電変換層によって固有のバンドギャップを有するために分光感度が異なっている。したがって、蛍光体物質として、発光スペクトルの波長域が、使用する太陽電池セル2の分光感度の波長域を包含しているものを選択する。
【0033】
[表面保護層]
また、表面保護層7としては、例えば、透明ガラスや透光性プラスチック等の透光性の材料が用いられる。表面保護層7は、波長変換層8へ短波長域の光を入射させる必要から、短波長域の光、好ましくは350nm以下の光を吸収することなく透過させるものを用いる。
【0034】
このような表面保護層7としては、石英ガラス板を用いるのが好ましい。石英ガラスは、通常のガラスで起こる200nm〜330nmの吸収が殆ど無いことから、無機蛍光体の励起帯の波長を幅広く利用出来るという利点がある。
【0035】
[効果]
太陽電池モジュール1は、最外層として石英ガラス板等からなる表面保護層7が積層され、表面保護層7の直下に波長変換層8が設けられる。また、波長変換層8は、表面保護層7の直下に設けられるとともに、封止樹脂シート6に封止された太陽電池セル2の受光面上に設けられる。
【0036】
最外層となる表面保護層7は、短波長域の光、好ましくは350nm以下の光を透過するため、波長変換層8の励起帯を全範囲でカバーすることができ、より高い波長変換効果が得られ、太陽電池セルによる光電変換効率を向上させることができる。また、表面保護層7が最外層となるため、波長変換層8が外部に晒されることなく、耐候性にも優れる。
【0037】
波長変換層8は、表面保護層8の直下に設けられることにより、短波長域の光が封止樹脂シート6を構成するEVA等の樹脂や樹脂内の添加剤によって吸収される前に入射され、効率よく長波長域の光を発光することができる。また、波長変換層8は、封止樹脂シート6に封止された太陽電池セル2の受光面上に設けられることにより、分光感度の高い長波長域の光を太陽電池セル2の受光面に入射させることができる。
【実施例1】
【0038】
次いで、本発明の実施例について説明する。先ず、波長変換フィルム20を作成した。波長変換フィルム20は、ポリスチレン・ポリエチレン・ポリブチレン・ポリスチレンブロック共重合体(SEBS)をトルエンに溶解し、25wt%溶液を調製した。この溶液に蛍光物質であるBaMgAl1017:Eu(BAM)を添加した分散液を用意した。次に38μmの剥離PET(Poly Ethylene Terephthalate)上にバーコーターを用いて製膜し、115℃で乾燥後60μmの波長変換フィルムを得た。以下、この蛍光体としてBAMを用いた波長変換フィルムを波長変換フィルムAという。
【0039】
また、同様の作製法で、BaMgAl1017:Eu,Mn(BAM,Mn)を用いた波長変換フィルムBを、有機蛍光色素 (LUMOGEN F VIOLET 570:BASF社製)を用いた波長変換フィルムCを得た。なお、蛍光物質や有機蛍光色素を含有しないSEBSフィルムをフィルムDとする。
【0040】
実施例1では、透光性の表面保護部材21として石英ガラスを用い、波長変換フィルム20として上述した波長変換フィルムAを用いた。なお、石英ガラスは厚みが1.0mm(信越石英株式会社製:SUPRASIL-P248)のものを用いた。また、図4に示すように、受光面側から順に、表面保護部材21(石英ガラス板)、波長変換フィルム20(波長変換フィルムA)、封止樹脂(EVA樹脂)22、太陽電池セル23、封止樹脂(EVA樹脂)22、裏面保護部材24を重ね、真空ラミネータを用いて160℃でラミネートした太陽電池モジュールを作成した。以下、このようなモジュール構造を構造αという。実施例1にかかる波長変換フィルムAは、蛍光体(BAM)の濃度を樹脂に対し0.5wt%とした。また、この波長変換フィルムAのフィルム厚は60μmである。
【0041】
実施例2では、波長変換フィルムBを用いた以外は実施例1と同様である。なお、波長変換フィルムBは、蛍光体(BAM,Mn)の濃度を樹脂に対し0.5wt%とした。また、この波長変換フィルムBのフィルム厚は60μmである。
【0042】
実施例3では、波長変換フィルムA内の蛍光体(BAM)の濃度を樹脂に対し0.1wt%とした以外は、実施例1と同様である。
【0043】
実施例4では、波長変換フィルムA内の蛍光体(BAM)の濃度を樹脂に対し1.0wt%とした以外は、実施例1と同様である。
【0044】
実施例5では、透光性の表面保護部材21として石英ガラスを用い、波長変換フィルム20として上述した波長変換フィルムAを用いた。また、図5に示すように、受光面側から順に、表面保護部材21(石英ガラス板)、封止樹脂(EVA樹脂)22、波長変換フィルム20(波長変換フィルムA)、太陽電池セル23、封止樹脂(EVA樹脂)22、裏面保護部材24を重ね、真空ラミネータを用いて160℃でラミネートした太陽電池モジュールを作成した。以下、このようなモジュール構造を構造βという。すなわち、実施例5は、モジュール構造以外は、実施例1と同様である。
【0045】
実施例6では、波長変換フィルムCを用いた。有機蛍光色素の濃度は樹脂に対し0.5wt%である。また、この波長変換フィルムのフィルム厚は60μmである。モジュール構造は実施例1と同様に構造αである。
【0046】
比較例1では、透光性の表面保護部材21としてソーダガラス板を用い、波長変換フィルム20として、蛍光体物質を含有しない波長変換フィルムD(SEBSフィルム)を用いた。なお、ソーダガラスは厚みが1.0mm(セントラル硝子株式会社製:ソーダライムガラス)のものを用いた。さらに、図5に示すように、構造β、すなわち表面保護部材21(ソーダガラス)、封止樹脂(EVA樹脂)22、波長変換フィルム20、太陽電池セル23、封止樹脂(EVA樹脂)22、裏面保護部材24を重ね、真空ラミネータを用いて160℃でラミネートした太陽電池モジュールを作成した。また、このSEBSフィルムのフィルム厚は60μmである。
【0047】
比較例2では、波長変換フィルム20として波長変換フィルムAを用いた他は、比較例1と同様の構成を有する。比較例2にかかる波長変換フィルムAは、蛍光体(BAM)の濃度を樹脂に対し0.5wt%とした。また、この波長変換フィルムAのフィルム厚は60μmである。
【0048】
比較例3では、波長変換フィルムとして実施例6と同様のものを用いた他は、比較例1と同様の構成を有する。
【0049】
これら実施例及び比較例にかかる太陽電池モジュールについて、ソーラーシミュレーター(株式会社ワコム電創製)にて形成される照射強度100mW/cmの擬似太陽光を各太陽電池モジュール及び太陽電池セルに照射し、電流−電圧特性を市販のI−Vテスタを用いて測定して、短絡電流値Iscを算出した。擬似太陽光は、前記ソーラーシミュレーターによりキセノンランプ光をAMフィルタ(AM1.5)に通過させて形成されたものである。
【0050】
実験結果を表1に示す。表中、ΔIsc(A)は、モジュールIsc(A)から太陽電池セルIsc(A)を引いた電流値、つまり、波長変換フィルムや透光性の表面保護部材といった太陽電池セル以外の構成要素に起因して増加した電流値である。また、表中、増加分とは、波長変換材を用いないSEBSフィルムを挿入した比較例1を基準に、各実施例及び比較例において、電流値がどの程度増加したかを示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、透光性の表面保護層21として石英ガラス板を用いている実施例1〜6では、ソーダガラスを用いている比較例1〜3に比べてΔIsc(A)が、より増加している。これは、一般のソーダガラスは、350nm以下にて急激に透過率が低下するためであり、これに対して石英ガラスは、約170nmまで高い透過率を有する。従って、紫外域で高い透過率を有する石英ガラス板を用いた実施例1〜6では、蛍光体の励起帯を全範囲でカバーすることができ、より高い波長変換効果が得られることが分かる。
【0053】
比較例1に係る波長変換剤を用いないSEBSフィルムを挿入した太陽電池モジュールと、実施例1〜実施例6に係る波長変換フィルムを挿入したモジュールを比較すると、波長変換フィルムを挿入した全てのモジュールでΔIscが高くなる。これは、蛍光体による波長変換により、太陽電池の分光感度の低い短波長域の光を分光感度の高い長波長の光へ変換した効果であると考えられる。
【0054】
モジュール構造αの実施例1と、モジュール構造βの実施例5を比較する。モジュール構造αの太陽電池モジュールではΔIsc(A)=0.695を示し、モジュール構造βの太陽電池モジュールではΔIsc(A)=0.677を示した。モジュール構造αでより高い効果を示したのは、封止樹脂やそれに含まれる紫外線吸収剤による影響を受けないため、波長変換の効果がより大きくなったためと考えられる。
【0055】
同じモジュール構造αを有する実施例1、実施例3及び実施例4において、BAM蛍光体の濃度を比較すると、0.5wt%が最も効果が高いことが示された(ΔIsc(A)=0.695)。0.1wt%(ΔIsc(A)=0.682)では、濃度が薄いので波長変換の効果が弱いと考えられ、1wt%(ΔIsc(A)=0.685)では、濃度が濃すぎるために蛍光体粒子による光散乱の影響で透過率が低下したために特性がさほど上がらないと考えられる。従って、波長変換によるΔIsc向上への影響は濃度に大きく影響され、今回実験した濃度範囲では0.5wt%で最も高い効果が発現した。
【0056】
実施例1と比較例1とを比較すると、本実施例1では、石英ガラス板を用いたモジュール構造αにおいて、最適に濃度制御された波長変換フィルムを挿入することで、太陽電池特性を向上させることが出来ることが分かった。
【符号の説明】
【0057】
1 太陽電池モジュール、2 太陽電池セル、3 タブ線、4 ストリングス、5 マトリクス、6 シート、7 表面保護層、8 波長変換層、9 バックシート、11 光電変換層、12 フィンガー電極、13 バスバー電極、14 裏面電極、15 タブ線接続部、17 導電性接着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池セルの受光面上に、最外層となる表面保護層、波長変換層、封止樹脂層が設けられ、
上記表面保護層は、350nm以下の短波長域の光を透過し、
上記波長変換層は、上記表面保護層の直下に設けられ、350nm以下の短波長域の光を吸収するとともに、より長波長域の発光波長を有する波長変換材料を有する太陽電池モジュール。
【請求項2】
上記表面保護層は、石英ガラスである請求項1記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
上記太陽電池セルの受光面から順に、表面保護層、波長変換層、封止樹脂層、太陽電池セルが設けられている請求項2記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
上記波長変換層は、上記波長変換材料である蛍光体を含有したフィルムである請求項3記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
上記蛍光体は、発光元素を添加した無機化合物からなる請求項4記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
上記蛍光体の濃度は、0.5wt%である請求項4記載の太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−4806(P2013−4806A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135574(P2011−135574)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】