説明

太陽電池用ウェーハの製造方法、太陽電池セルの製造方法、および太陽電池モジュールの製造方法

【課題】シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハの表面を微細に多孔質化することで、ウェーハ表面における入射光の反射率を十分に低減し、なおかつ、より変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用ウェーハの製造方法は、半導体ウェーハの少なくとも片面に低級アルコールを接触させる第1工程(S1)と、該第1工程の後に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含むフッ化水素酸を接触させる第2工程(S2)と、を有する処理により前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面を多孔質化し、前記第2工程の後に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に対して酸化処理を施す第3工程(S5)を有し、太陽電池用ウェーハとすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用ウェーハの製造方法、太陽電池セルの製造方法、および太陽電池モジュールの製造方法に関する。本発明は、特に、変換効率の高い太陽電池の製造を目的とした、半導体ウェーハの表面を多孔質化する太陽電池用ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池セルは、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハを用いて形成される。太陽電池セルの変換効率を高めるためには、太陽電池セルの受光面で反射してしまう光および太陽電池セルを透過してしまう光を低減する必要がある。ここで例えば、シリコンウェーハを用いて結晶系太陽電池を作製する場合、シリコンウェーハは光電変換に寄与する可視光の透過率が低いため、変換効率を向上させるためには、受光面となるシリコンウェーハ表面における可視光の反射ロスを低く抑え、入射する光を有効に太陽電池の中に閉じ込めることを考慮すればよい。
【0003】
シリコンウェーハ表面における入射光の反射ロスを低減する技術としては、表面に反射防止膜を形成する技術と、表面にテクスチャ構造とよばれるミクロなピラミッド型の凹凸などの凹凸構造を形成する技術とがある。後者の技術のうち、表面にテクスチャ構造を形成する方法は、単結晶シリコンに適した方法であり、(100)単結晶シリコン表面をアルカリ液でエッチングする方法が代表的である。これは、アルカリを用いたエッチングでは、(111)面のエッチング速度が(100)面、(110)面のエッチング速度よりも遅いことを利用するものである。さらに、後者の技術として近年はシリコン表面を多孔質化することによって、表面に凹凸構造を形成し、入射光の反射ロスを低減する手法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、単結晶シリコン基板を陽極、Ptを陰極としてフッ化水素酸中で電流を流す陽極化成処理により、表面に多数の微細孔を形成する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ミクロンサイズのテクスチャ構造が形成されたシリコン基板表面にさらに微細なサブミクロンオーダーの凹凸を形成するために、この表面に金属粒子を無電解メッキした後、基板を酸化剤およびフッ化水素酸の混合水溶液でエッチングする技術が記載されている。具体的には、アルカリテクスチャー処理を施したp型の単結晶シリコン基板を過塩素酸銀と水酸化ナトリウムを含む水溶液に浸漬させ、表面に銀微粒子を形成する。その後、過酸化水素水、フッ化水素酸および水の混合溶液に浸漬させ、サブミクロンオーダーの凹凸を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−169097号公報
【特許文献2】特開2007−194485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の陽極化成処理による方法では、その実施例において多孔質層の厚さが50μmまたは25μmと記載されているとおり、基板表面には相当に大きな孔の多孔質層が形成されるため、入射光の反射ロスの低減効果が不十分である。より高い変換効率の太陽電池を得るためには、基板表面により微細な孔を形成して、入射光の反射率をより低減することが必要である。
【0008】
また、特許文献2に記載された方法によれば、比較的微細な多孔質層が形成される。しかしながら、この特許文献では、シリコンウェーハ表面での入射光の反射率を下げることのみを考慮しており、このウェーハから製造した太陽電池の実際の変換効率については何ら検討されていない。
【0009】
この特許文献2のように、これまでに知られる多孔質化技術の多くは、シリコンウェーハ表面での入射光の反射率を極力下げるとの観点で主に検討されており、これらのウェーハから製造した太陽電池の実際の変換効率まで検討されていないのが実状である。
【0010】
しかしながら、本発明者の検討によれば、ウェーハ表面に対する多孔質化の程度がより大きいほど、すなわちより微細な多孔質層を形成するほど、太陽電池表面の反射率低減により優れる一方、太陽電池としての変換効率がさほど上昇しない場合もあることが判明した。
【0011】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハの表面を微細に多孔質化することで、ウェーハ表面における入射光の反射率を十分に低減し、なおかつ、より変換効率の高い太陽電池を作製できる太陽電池用ウェーハの製造方法、ならびに、この方法を含む太陽電池セルの製造方法および太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するべく、本発明者が鋭意検討し、様々な多孔質化処理方法で試行錯誤をくり返した結果、以下に示す方法によれば、半導体ウェーハ表面にサブミクロンオーダーの凹凸を形成し、効果的に表面における光の反射ロスを低減しつつ、このウェーハから製造した太陽電池の変換効率を高くすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の知見および検討に基づくものであり、その要旨構成は以下の通りである。
【0013】
(1)半導体ウェーハの少なくとも片面に低級アルコールを接触させる第1工程と、
該第1工程の後に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含むフッ化水素酸を接触させる第2工程と、
を有する処理により前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面を多孔質化し、
前記第2工程の後に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に対して酸化処理を施す第3工程を有し、太陽電池用ウェーハとすることを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
【0014】
(2)前記半導体ウェーハがシリコンウェーハであり、
前記金属イオンがSiより貴な金属のイオンである上記(1)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【0015】
(3)前記第2工程の後かつ前記第3工程の前に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に、前記金属イオンから析出した金属を前記片面から除去する溶液を接触させる工程を有する上記(1)または(2)に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【0016】
(4)前記酸化処理が、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に酸化剤を含む液体を接触させる処理である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【0017】
(5)前記酸化処理が、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に対する、酸素を含む雰囲気下での熱処理である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【0018】
(6)前記酸化処理が、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面上に液相成長法により酸化膜を形成する処理である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【0019】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、該太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する太陽電池セルの製造方法。
【0020】
(8)上記(7)に記載の太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、該太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半導体ウェーハ表面に対して低級アルコールによる処理(第1工程)および金属イオンを含むフッ化水素酸による処理(第2工程)を行うことにより、ウェーハ表面を微細に多孔質化し、ウェーハ表面における入射光の反射率を十分に低減することができる。さらに、半導体ウェーハに対して酸化処理を施すことにより、ウェーハ表面の凹凸形状を変化させることなく表面再結合現象を抑制することができるため、得られた太陽電池用ウェーハを用いてより変換効率の高い太陽電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に従う代表的な太陽電池用ウェーハの製造方法のフロー図である。
【図2】本発明の参考実験例3において、第2工程におけるCu濃度とシリコンウェーハ表面の相対反射率との関係を示すグラフであり、(a)は波長600nmにおける相対反射率を、(b)は波長700nmにおける相対反射率を、縦軸としたものである。
【図3】本発明の参考実験例4において、第2工程におけるフッ化水素酸の濃度とシリコンウェーハ表面の相対反射率との関係を示すグラフであり、(a)は波長600nmにおける相対反射率を、(b)は波長700nmにおける相対反射率を、縦軸としたものである。
【図4】本発明の参考実験例5において、第2工程における処理時間とシリコンウェーハ表面の相対反射率との関係を示すグラフであり、(a)は波長600nmにおける相対反射率を、(b)は波長700nmにおける相対反射率を、縦軸としたものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明に従う代表的な太陽電池用ウェーハの製造方法のフロー図である。まず、本発明に用いる半導体ウェーハは特に限定されないが、以下では、本発明の一実施形態として、単結晶または多結晶シリコンウェーハ(以下、まとめて単に「ウェーハ」ともいう。)を用いて、これらに多孔質化処理を施し、単結晶または多結晶シリコン太陽電池用ウェーハを製造する方法を説明する。
【0024】
単結晶シリコンウェーハは、チョクラルスキ法(CZ法)などにより育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。また、ウェーハ表面の面方位についても、(100),(001)および(111)など、必要に応じて選択することができる。多結晶シリコンウェーハは、多結晶シリコンインゴットからスライス加工により得ることができる。
【0025】
単結晶シリコンウェーハ、多結晶シリコンウェーハいずれの場合も、インゴットから切り出したウェーハ表面にはスライス加工によりシリコン層へ導入されたクラックや結晶歪などのダメージが生じている。このため、スライス加工後、ウェーハを洗浄し、酸またはアルカリでウェーハ表面にエッチング処理を施し、ダメージが生じている表面を除去することが好ましい。スライス加工由来の上記ダメージの侵入深さは、スライス加工条件により決定される因子であるが、概ね10μm以下の深さである。よって、KOHなどのアルカリもしくはフッ化水素酸(HF)/硝酸(HNO)混合酸により一般的に実施されているエッチング処理で対応可能である。
【0026】
本発明は、ウェーハの少なくとも片面を多孔質化して太陽電池用ウェーハとする方法である。すなわち、本明細書において「太陽電池用ウェーハ」とは、ウェーハの少なくとも片面に対して本発明に規定する処理を施し、該片面を多孔質化した状態のウェーハを意味するものである。この片面は、太陽電池セルにおいて受光面となる面である。そして、本発明の特徴的工程は、ウェーハの少なくとも片面に低級アルコール液を接触させる第1工程(ステップS1)と、この第1工程の後に、このウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含むフッ化水素酸を接触させる第2工程(ステップS2)と、この第2工程の後に、この半導体ウェーハの少なくとも前記片面に対して酸化処理を施す第3工程(ステップS5)と、を有することである。
【0027】
以下、本発明の上記特徴的工程を採用したことの技術的意義を、作用効果とともに具体例で説明する。詳細な工程は実施例で後述するが、本発明者は、酸エッチング処理後、風乾したp型(100)単結晶シリコンウェーハを2−プロパノール(イソプロピルアルコール;IPA)などの低級アルコール中に所定時間浸漬させ、その後銅(Cu)を溶解させたフッ化水素酸中に所定時間浸漬させたところ、外観上ウェーハ表面が黒くなり、可視光全域の波長において反射率が低くなることを見出した。また、ウェーハ表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を確認したところ、数μm程度の凹凸表面上にさらに微細な多数の凹凸が形成されていた。
【0028】
さらに、これまでの多孔質化技術では、反射率を低減させることを主眼とした検討がされており、低反射率にするほど当然に太陽電池の変換効率は高くなると考えられていた。しかしながら、本発明者の検討によると、ウェーハ表面に対する多孔質化の程度がより大きいほど太陽電池表面の反射率低減により優れる一方、本発明の上記のような処理により多孔質化がある程度進んでも、反射率は低いものの太陽電池としての変換効率はさほど上昇しないことを見出した。
【0029】
低反射率から期待されるほどの高変換効率が得られない理由として、太陽電池用ウェーハ表面上の微細な多孔質化構造に電子がトラップされる表面再結合現象が多発して、外部に取り出せる電子が減少する現象がおきていることが考えられる。すなわち、ウェーハ表面に存在するSi原子は、一定の割合でダングリングボンド(不飽和結合部)を有しており、このダングリングボンドは、光入射により得られた電子またはホールに対する捕獲箇所として作用する(キャリア成分の表面再結合現象)。多孔質化構造を微細にするほど、ウェーハ表面の表面積は増大し、結果としてダングリングボンドの数も増加することになり、表面再結合現象がより頻繁に発生することになる。このため、期待されるほどに高変換効率が得られなかったと考えられる。
【0030】
そこで、上記の第1および第2工程を含む多孔質化工程の後、多孔質化したウェーハ表面に対して酸化処理を行ったところ、このウェーハから製造した太陽電池の変換効率が向上することがわかった。これは、ダングリングボンド部に対し酸化処理を施すことで、再結合中心を消滅させることができるためと考えられる。本発明者は以上の知見に基づき、本発明を完成するに至った。なお、この酸化処理は、ウェーハ表面に対して何らかのエッチング作用を全く有しないか、有する場合でもごくわずかの処理であるため、ウェーハ表面の凹凸形状をほとんどあるいは全く変化させることはない。そのため、ウェーハ表面の反射率は、酸化処理前の低い状態を維持したままとすることができる点でも好ましい。
【0031】
第1および第2工程の表面処理によってウェーハ表面を多孔質化できる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のような反応メカニズムで多孔質化されたと推定している。第2工程で、Cuを溶解させたフッ化水素酸にウェーハを浸漬させると、ウェーハ表面の何らかの核を基点として、Cuが微粒子として多数析出する。この反応は、Cu2++2e→Cuの還元反応であり、この際の電荷移動に伴い、ウェーハ表面のSiから電子が奪われ、Cu微粒子の析出箇所ではSiの溶解が発生する。ここで、フッ化水素酸の役割については、Siの溶解箇所でSiが水と反応して生成したSiOをその都度瞬間的に溶解して、多孔質構造を作るとのモデル(大見モデル)と、フッ素イオンがSiを直接酸化するとのモデル(Chemlaモデル)が考えられる。このような反応の詳細は、J. Electrochem. Soc. 144, 3275 (1997)“The Role of Metal Induced Oxidation for Copper Deposition on Silicon Surface”およびJ. Electrochem. Soc. 144, 4175 (1997)“Electrochemical and radiochemical study of copper contamination mechanism from HF solution onto silicon substrates”に詳細に記載されている。そして、本発明においては、第1工程で無極性溶媒である低級アルコールで処理することにより、ウェーハ表面の表面電位を制御し、フッ化水素酸浸漬時に金属析出が進行しやすい状態にすることができ、第2工程におけるSi溶解反応を均一に促進させることができるものと考えられる。さらに、低級アルコールで処理することにより、ウェーハ表面の有機物を除去して、上記反応が進行するようにする作用もあると考えられる。
【0032】
本発明によれば、半導体ウェーハ表面に対して低級アルコールによる処理(第1工程)および金属イオンを含むフッ化水素酸による処理(第2工程)を行うことにより、ウェーハ表面を微細に多孔質化し、ウェーハ表面における入射光の反射率を十分に低減することが可能となった。さらに、半導体ウェーハに対して酸化処理を施すことにより、ウェーハ表面の凹凸形状を変化させることなく表面再結合現象を抑制することができるため、得られた太陽電池用ウェーハを用いてより変換効率の高い太陽電池を作製することが可能となった。
【0033】
本実施形態では、第2工程の後かつ第3工程の前に、このウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含まないフッ化水素酸を接触させる工程(ステップS3)をさらに行うことが好ましい。具体的には、第2工程後のウェーハを、金属イオンを含まないフッ化水素酸に所定時間浸漬させることができる。この工程により、第2工程で形成された表面凹凸の深さをある程度制御することができる。
【0034】
また、第2工程および/またはステップS3は、光照射環境下にて行うことが好ましい。第2工程を光照射環境下にて行うことにより、上記の反応メカニズムによる表面の多孔質化がより促進されるためである。また、ステップS3を光照射環境下にて行い、この照射条件を制御することにより、ウェーハ表面を所望の表面状態とすることができるためである。光照射環境は、具体的には蛍光灯光、ハロゲン光などを反応表面に照射することにより作り出す。
【0035】
さらに、少なくとも第2工程の後、本実施形態では第3工程の後に、このウェーハの少なくとも前記片面に、前記金属イオンから析出した金属(微粒子)をこの片面から除去する溶液を接触させる工程(ステップS4)をさらに行うことが好ましい。例えば、第2工程でCuを溶解させたフッ化水素酸を用いる場合、前記片面に残留したCu微粒子を除去するべく、前記片面に硝酸溶液を接触させる。この工程により、ウェーハ表面に残存して付着している金属粒子を除去することができる。
【0036】
そして、以上の工程の後に、このウェーハの少なくとも前記片面に対して酸化処理を施す第3工程(ステップS5)を行い、太陽電池用ウェーハを得る。
【0037】
以下、各工程について好ましい態様について説明する。なお、第1工程の低級アルコール処理、第2工程の金属イオン含有フッ化水素酸処理、および第3工程の金属イオン非含有フッ化水素酸処理を合わせて、本明細書においては「多孔質化処理工程」と称する。
【0038】
(第1工程:低級アルコール処理)
本明細書において「低級アルコール」とは、炭素数10以下の直鎖または分岐の任意のアルコールを意味する。炭素数が10を超えると、アルコールの粘性が高くなり、ウェーハ表面をアルコールでコーティングすることになってしまう。炭素数が10以下であれば、粘性が低い無極性溶媒としてウェーハ表面を無極性状態にすることができる。典型的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール、フェニルアルコールなどが挙げられるが、毒性面、価格面を考慮すると、エタノールおよび2−プロパノール(イソプロピルアルコール;IPA)を用いることが好ましい。処理時間、すなわちウェーハに低級アルコール液を接触させる時間(以下、各工程において処理液との接触時間を「処理時間」という)は、特に制限されないが、0.5分以上10分以下とすることが好ましく、3分以下とすることがより好ましい。0.5分以上であれば本発明の反射率の低減効果を十分に得ることができ、10分を超えて処理しても反射率の低減効果は飽和するためである。低級アルコール液の温度は、アルコールが蒸発または凝固しない温度であれば問題なく、常温とすればよい。
【0039】
(第2工程:金属イオン含有フッ化水素酸処理)
本実施形態において、金属イオンはSiより貴な金属、例えばCu,Ag,Pt,Auなどのイオンであることが好ましい。これにより、第2工程において、ウェーハ表面への金属の微粒子の析出およびSiの溶出が効率的に起こるからである。価格面を考慮すれば、Cuのイオンとすることが好ましい。本発明の反射率の低減効果を十分に得る観点から好ましい条件を以下に挙げる。金属を溶解させたフッ化水素酸において、金属濃度は、10ppm以上1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以上400ppm以下とすることがより好ましい。また、フッ化水素酸の濃度は、好ましくは2質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上30%質量以下である。さらに、処理時間は、好ましくは0.5分以上30分以下、より好ましくは1分以上10分以下、さらに好ましくは3分以下である。金属含有フッ化水素酸の温度は、処理時間や蒸発損失などを考慮して適宜選択すればよく、常温〜100℃とすることが好ましい。
【0040】
(ステップS3:金属イオン非含有フッ化水素酸処理)
本実施形態において、ウェーハ表面に形成された多孔質層の深さを適切な深さまで拡張するために、フッ化水素酸の濃度は、好ましくは2質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量%以上30質量%以下である。また、本明細書において「金属イオンを含まないフッ化水素酸」とは、厳密に金属イオンの含有量がゼロの場合のみならず、不純物として10ppm未満の金属が含まれている場合をも含むものとする。例えばCu,Ag,Pt,AuなどのSiより貴な金属のイオンが10ppm未満であれば、これらの金属微粒子が新たに析出して、ウェーハ表面に新たな凹凸が形成されるよりも、第2工程ですでに形成された凹凸をより深くする反応が支配的になる。処理時間は、プロセスタクトタイムに合わせて設定すればよく、好ましくは0.5分以上60分以下である。金属非含有フッ化水素酸の温度は、処理時間や蒸発損失などを考慮して適宜選択すればよく、常温〜100℃とすることが好ましい。
【0041】
(ステップS4:金属除去溶液処理)
本実施形態において、第2工程において金属としてCuを用いる場合、Cu微粒子の除去を硝酸(HNO)溶液で行うことができる。このとき、硝酸濃度は、好ましくは0.001〜70%の範囲であり、より好ましくは0.01%〜0.1%の範囲内である。処理時間は、プロセスタクトタイムに合わせて設定すればよく、好ましくは0.5分以上10分以下であり、より好ましくは1分以上3分未満である。硝酸溶液の温度は、処理時間や蒸発損失などを考慮して適宜選択すればよく、常温〜100℃とすることが好ましい。この工程で用いる処理液は硝酸に限定されず、除去する対象の金属に合わせて、これを溶解可能な溶液を選択すればよい。例えば、Ag,Pt,Auの場合は、王水(HCl/HNO)やヨウ化カリウム溶液(KI)などを用いることができる。好適な濃度および処理時間は、Cuの場合と同様である。
【0042】
(第3工程:酸化処理)
本実施形態において、酸化処理はウェーハ表面の再結合中心を減少させることができるものであれば特に限定されないが、例えば以下のようにして行うことができる。この酸化処理により、ウェーハ表面に形成される好ましい酸化膜の厚みは、1〜100nmである。1nm未満の場合、再結合中心を減少させる効果が十分に得られない可能性があり、100nmを超えると、太陽電池製造プロセスにおける電極形成時に、接触抵抗が高くなり、結果として、太陽電池としての変換効率が低下する可能性があるからである。
【0043】
第1に、半導体ウェーハの少なくとも片面に、酸化剤を含む液体を接触させる処理で酸化を行うことができる。酸化剤を含む液体として、例えば、オゾンガスを水に溶解させたオゾン水を挙げることができる。この場合、オゾン濃度は、好ましくは0.1〜20ppmである。0.1ppm未満の場合、ウェーハ表面の酸化を十分に行えない可能性があり、20ppmを超える処置を施しても、濃度に見合った効果が得られず、酸化能力は飽和してしまうからである。また、処理時間は、好ましくは1〜10分、より好ましくは5〜10分である。1分未満の場合、ウェーハ表面の酸化を十分に行えない可能性があり、10分を超える場合、処置を施しても、時間に見合った効果が得られず、酸化能力は飽和してしまうからである。処理温度は常温とすればよい。
【0044】
また、過酸化水素水を用いてもよい。この場合、過酸化水素の濃度は、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.3〜30質量%である。0.1質量%未満の場合、ウェーハ表面の酸化を十分に行えない可能性があり、30質量%を超える処置を施しても、濃度に見合った効果が得られず、酸化能力は飽和してしまうからである。また、処理時間は、好ましくは1〜30分、より好ましくは5〜30分である。1分未満の場合、ウェーハ表面の酸化を十分に行えない可能性があり、30分を超える処置を施しても、時間に見合った効果が得られず、酸化能力は飽和してしまうからである。処理温度は20〜80℃とすればよい。
【0045】
また、アンモニア/過酸化水素の混合水溶液(いわゆるSC−1洗浄液)または塩酸/過酸化水素の混合水溶液(いわゆるSC−2洗浄液)を用いてもよい。SC−1洗浄液の場合、アンモニアの濃度は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%であり、SC−2洗浄液の場合、塩酸の濃度は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%である。また、過酸化水素の濃度は、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.3〜10質量%である。いずれの値も下限値を下回ると、ウェーハ表面の酸化を十分に行えない可能性があり、上限値を超えると、後のリンス工程で十分な洗浄が行いにくいからである。なお、SC−1洗浄液については、アンモニアに替えて、NaOH,KOHなどの無機アルカリや、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、コリンなどの有機アルカリを用いてもよい。また、処理時間は、好ましくは1〜20分、より好ましくは5〜20分である。1分未満の場合、ウェーハ表面の酸化を十分に行えない可能性があり、20分を超える処置を施しても、濃度に見合った効果が得られず、酸化能力は飽和してしまうからである。処理温度は20〜80℃とすればよい。
【0046】
第2に、半導体ウェーハの少なくとも片面に対して、酸素を含む雰囲気下での熱処理を施してもよい。熱処理は一般に半導体ウェーハの熱酸化として使用されている技術であれば限定されることはなく、例えばドライ酸化またはパイロジェニック酸化を挙げることができる。熱処理の温度は、好ましくは600〜1200℃、より好ましくは800〜1000℃であり、処理時間は、好ましくは1〜30分、より好ましくは5〜20分である。熱処理温度および処理時間のいずれも、下限値を下回ると酸化能力が不足して、所望の効果が得られない可能性があり、上限値を超える処理を施しても、酸化能力が飽和してしまうからである。
【0047】
第3に、半導体ウェーハの少なくとも片面上に液相成長法により酸化膜を形成してもよい。ここで、「液相成長法」とは、Siが飽和したHSiF溶液にHBOを添加した溶液に、ウェーハを浸漬させることにより、ウェーハ表面にSiO膜を形成する方法である。この方法によっても、ダングリングボンド部に対して酸化処理を施すことができ、再結合中心を消滅させることができる。処理液の調合は、例えば以下のようにして行う。まず、濃度4mol/LのHSiF溶液にシリカゲル粒子を加え、24時間常温にて撹拌した後、解け残ったシリカゲルをろ過で除去する。その後、この溶液に、HBOを濃度が0.01〜1mol/L、好ましくは濃度0.05〜0.15mol/Lとなるように添加する。処理時間は1分以上、好ましくは10〜30分とし、処理温度は20℃以上、好ましくは30〜40℃とする。
【0048】
各工程において、ウェーハ表面に処理液を接触させる方法としては、例えば浸漬法、スプレー法が挙げられる。また、受光面となるウェーハの片面に処理液を滴下させるキャスト法を用いてもよい。
【0049】
また、ステップS1〜ステップS5の少なくとも1工程の後に、水による洗浄工程を行ってもよい。
【0050】
以上、本発明の太陽電池用ウェーハの製造方法は、単結晶シリコンウェーハのみならず、多結晶シリコンウェーハにも適用可能である。既述のとおり、テクスチャ構造を形成する方法は、単結晶シリコンに適した方法であり、表面に様々な面方位が出現している多結晶シリコンについては、ウェーハ全面に均一なテクスチャ構造を形成することが困難であった。しかし、本発明の多孔質化処理によって、これまでのテクスチャ構造よりも微細な凹凸をウェーハ表面に形成できるため、多結晶シリコンウェーハの表面の反射率も十分に抑制することができる。
【0051】
また、これまで単結晶または多結晶シリコンウェーハから結晶系シリコン太陽電池に用いるための太陽電池用ウェーハを製造することについて述べてきたが、本発明は結晶系シリコンに限られることはなく、アモルファスシリコン太陽電池や薄膜系太陽電池に用いるための太陽電池用ウェーハにも適用可能であることは勿論である。
【0052】
(太陽電池セルの製造方法)
本発明に従う太陽電池セルの製造方法は、これまで説明した本発明に従う太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、この太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する。セル作製工程は、ドーパント拡散熱処理でpn接合を形成する工程と、電極を形成する工程とを少なくとも含む。ドーパント拡散熱処理は、p基板に対してはリンを熱拡散させる。
【0053】
なお、pn接合形成工程は、本発明における多孔質化処理工程の前に行ってもよい。すなわち、スライス加工によるダメージ除去のためのエッチング処理後、ドーパント熱拡散処理でpn接合を形成したウェーハの状態で、本発明における多孔質化処理を行う。こうして得た太陽電池用ウェーハに対して電極を形成して、太陽電池セルとすることもできる。
【0054】
本発明に従う太陽電池セルの製造方法によれば、セルの受光面における入射光の反射ロスを抑制し、高い変換効率の太陽電池セルを得ることができる。
【0055】
(太陽電池モジュールの製造方法)
本発明に従う太陽電池モジュールの製造方法は、上記太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、この太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する。モジュール作製工程は、複数の太陽電池セルを配列し、電極を配線する工程と、強化ガラス基板上に配線された太陽電池セルを配置し、樹脂と保護フィルムで封止する工程と、アルミフレームを組み立てて、端子ケーブルを配線と電気的に接続する工程とを含む。
【0056】
本発明に従う太陽電池モジュールの製造方法によれば、太陽電池セルの受光面における入射光の反射ロスを抑制し、高い変換効率の太陽電池モジュールを得ることができる。
【0057】
以上、本発明を説明したが、これらは代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0058】
本発明の効果をさらに明確にするため、以下に説明する実施例・比較例の実験を行った比較評価について説明する。
【0059】
(実験例1)
<試料の作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハを用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99質量%のエタノール溶液に1分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液5mLと、50質量%フッ化水素酸15mLと、水10mLとの混合液に3分間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。この工程までが多孔質化処理工程に該当する。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、窒素雰囲気にて乾燥させた。そして、各実施例について、それぞれ以下に示す酸化処理を行い、その後エアブローでウェーハ表面を乾燥させ、本発明にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。
【0060】
(実施例1〜4)
ウェーハをオゾン水に浸漬させる酸化処理を行った。処理時間は10分とし、オゾン濃度は表1に示した。
【0061】
(実施例5〜7)
ウェーハを過酸化水素水に浸漬させる酸化処理を行った。処理時間は10分とし、過酸化水素の濃度は表1に示した。
【0062】
(実施例8〜16)
ウェーハを、アルカリ成分/過酸化水素の混合水溶液に浸漬させる酸化処理を行った。処理時間は10分とし、用いたアルカリの種類と、アルカリおよび過酸化水素の濃度は表1に示した。
【0063】
(実施例17〜22)
ウェーハを塩酸/過酸化水素の混合水溶液に浸漬させる酸化処理を行った。処理時間は10分とし、塩酸および過酸化水素の濃度は表1に示した。
【0064】
(実施例23〜27)
ウェーハに液相成長法(LPD:Liquid Phase Deposition)による酸化処理を行った。具体的には、まず、濃度4mol/LのHSiF溶液を調製し、この溶液にシリカゲル粒子(関東化学社製、特級試薬:白色)を加え、24時間常温にて撹拌した。その後、この溶液に、HBOを濃度が1mol/Lとなるように添加して、処理溶液とした。ウェーハをこの処理溶液に浸漬させた。処理温度および処理時間は表1に示した。
【0065】
(実施例28〜33)
ウェーハにドライ酸化またはパイロジェニック酸化の熱処理を施した。熱処理の温度は800℃とした。処理時間は表1に示した。
【0066】
(比較例1)
実施例1の製造工程のうち、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施す工程までを行い、ウェーハを乾燥させ、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。すなわち、比較例1は本発明における多孔質化処理および酸化処理を行わないものである。
【0067】
(比較例2)
酸化処理を行わないこと以外は実施例と同じ方法で、比較例にかかる太陽電池用ウェーハを製造した。
【0068】
<評価1:ライフタイム測定>
以下のようにして、実施例・比較例の各ウェーハについてライフタイムを測定した。ライフタイムは、太陽電池基板における、受光により発生した電子およびホールの寿命を表す指標であり、この値が大きいほど太陽電池としての変換効率は大きくなるものである。よって、本実験では太陽電池セルを作製し、変換効率を測定するのに替えて、ライフタイムを測定することで変換効率の大小を評価した。測定には、セミラボ製WT−2100を使用した。なお、測定に際しては、ヨウ素パック処理等の表面パシベーション処置は施さず、作成したサンプルを、そのまま測定することで、表面状態の影響を把握することとした。
【0069】
<評価2:反射率測定>
反射率測定器(島津製作所社製:SolidSpec3700)により、ウェーハの被処理面における反射スペクトルを300〜1200nmの範囲で測定した。太陽光には波長500〜700nmの光が多く含まれるため、この波長領域で反射率が低いことが望ましい。そこで、波長600nmの相対反射率を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
<評価結果>
表1より、比較例1と比較例2とを比べると、比較例2は、比較例1よりも反射率を大きく減少させることができたものの、変換効率を評価する指標であるライフタイムはさほど上昇しなかった。このことから、本発明に規定する多孔質化処理をウェーハ表面に施すことにより、反射率を十分に低減することができたものの、多孔質化処理のみでは変換効率の上昇に上手く結びつけることができていないことがわかった。次に、各実施例は、比較例2と同レベルの低い反射率を維持したまま、比較例1および比較例2よりもライフタイムを上昇させることができた。このことから、本発明に規定する酸化処理を施すことにより、より高い変換効率を有する太陽電池セルを製造可能な太陽電池用ウェーハが得られることがわかった。しかも、酸化処理によって反射率が大きく上昇することもないことから、表面の凹凸形状をさほど変化させない処理であるといえる。
【0072】
(実験例2)
次に、多孔質化処理の条件を変更しても、酸化処理によりライフタイムが向上するという本発明の効果が得られることを、以下の実験例により示す。
【0073】
(多孔質化処理条件2)
Cuを含むフッ化水素酸で処理する工程を以下のように変更した以外は、実験例1と同様にして、太陽電池用ウェーハを製造した。すなわち、ウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液5mLと、50質量%フッ化水素酸15mLと、水10mLとの混合液に5分間浸漬させた。ウェーハをオゾン濃度が5.0ppmのオゾン水に15分間浸漬させる酸化処理を行った場合を実施例34、酸化処理を行わない場合を比較例3とした。
【0074】
(多孔質化処理条件3)
Cuを含むフッ化水素酸で処理する工程を以下のように変更した以外は、実験例1と同様にして、太陽電池用ウェーハを製造した。すなわち、ウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液5mLと、50質量%フッ化水素酸6mLと、水19mLとの混合液に3分間浸漬させた。ウェーハをオゾン濃度が5.0ppmのオゾン水に10分間浸漬させる酸化処理を行った場合を実施例35、酸化処理を行わない場合を比較例4とした。
【0075】
実験例1と同様にして各ウェーハについてライフタイム測定および反射率測定を行った。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2より、いずれの多孔質化処理条件の場合にも、多孔質化により反射率が減少し、さらに酸化処理を行うことによって、酸化処理しない場合に比べてライフタイムを上昇させることができた。
【0078】
以下に、本発明における酸化処理を行わず、多孔質化処理の条件を様々に変更して行った参考実験例をさらに示す。
【0079】
(参考実験例1:低級アルコール処理)
<試料の作製>
参考例1
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハを用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを100質量%の2−プロパノール(イソプロピルアルコール;IPA)に10分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液10mLと、50質量%フッ化水素酸10mLと、水10mLとの混合液に10分間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、太陽電池用ウェーハを製造した。
【0080】
参考例2
100質量%の2−プロパノールに替えて、同じく低級アルコールである99質量%エタノール(ETOH)とした点以外は、実施例1と同じ方法で太陽電池用ウェーハを製造した。
【0081】
参考比較例1
参考例1の製造工程のうち、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施す工程までを行い、ウェーハを乾燥させ、太陽電池用ウェーハを製造した。
【0082】
参考比較例2
100質量%の2−プロパノールに10分間浸漬させる工程を行わなかった(本発明における第1工程を無処理とした)以外は、参考例1と同じ方法で太陽電池用ウェーハを製造した。
【0083】
参考比較例3
100質量%の2−プロパノールに替えて、低級アルコールではない30質量%過酸化水素水とした点以外は、参考例1と同じ方法で太陽電池用ウェーハを製造した。
【0084】
<評価:反射率測定>
既述の方法で各試料の反射率を測定し、波長600nmおよび700nmの相対反射率を表2に示した。
【0085】
【表3】

【0086】
表3より、参考比較例2,3は参考比較例1に比べて反射率がわずかに増加した。一方、参考例1,2では参考比較例1に比べて顕著に反射率を低減することができた。この結果から、本発明における多孔質化処理を行うと、反射率を低減できることがわかった。
【0087】
(参考実験例2:低級アルコール処理時間と反射率との関係)
<試料の作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハを用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99質量%エタノール(ETOH)に所定時間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液10mLと、50質量%フッ化水素酸10mLと、水10mLとの混合液に10分間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、太陽電池用ウェーハを製造した。上記所定時間を0分、1分、3分、5分、10分として5種類の試料を作製した。なお、0分は当該工程を行わないことを意味する。
【0088】
<評価:反射率測定>
既述の方法で5種類の試料の反射スペクトルを測定し、波長600nmおよび700nmの相対反射率を表3に示した。
【0089】
【表4】

【0090】
表4より、エタノール処理時間は1分で十分であり、10分以下の範囲で反射率低減効果は持続することがわかった。
【0091】
(参考実験例3:Cu濃度と反射率との関係)
<試料作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハを用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99質量%エタノール(ETOH)に1分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを所定濃度溶解させた硝酸銅溶液10mLと、50質量%フッ化水素酸10mLと、水10mLとの混合液に3分間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、太陽電池用ウェーハを製造した。上記所定濃度(ppm)を33.3,83.3,166.7,250.0,333.3,500.0,666.7として7種類の試料を作製した。
【0092】
<評価:反射率測定>
既述の方法で7種類の試料の反射スペクトルを測定し、波長600nmおよび700nmの相対反射率をそれぞれ図2(a)および図2(b)に示した。図2(a),(b)ともに、Cu濃度が100〜400ppmの範囲で反射率が最小となり、400ppmを超えると多少反射率低減効果が小さくなることがわかった。このことから、Cu濃度が100〜400ppmの範囲で高い反射率低減効果が得られることがわかった。
【0093】
(参考実験例4:フッ化水素酸の濃度と反射率との関係)
<試料作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハを用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99質量%エタノール(ETOH)に1分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm溶解させた硝酸銅溶液5mLと、所定濃度になるように調合されたフッ化水素酸と、水との混合液25mLの混合溶液に3分間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1%硝酸に5分間浸漬させ、太陽電池用ウェーハを製造した。上記所定濃度(質量%)を1.7,8.3,16.7,25.0,33.3として5種類の試料を作製した。
【0094】
<評価:反射率測定>
既述の方法で5種類の試料の反射スペクトルを測定し、波長600nmおよび700nmの相対反射率をそれぞれ図3(a)および図3(b)に示した。図3(a),(b)ともに、フッ化水素酸の濃度が10%以上の場合に、高い反射率低減効果が得られることがわかった。
【0095】
(参考実験例5:第2工程処理時間と反射率との関係)
<試料作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハを用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99%エタノール(ETOH)に1分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm溶解させた硝酸銅溶液10mLと、50質量%フッ化水素酸10mLと、水10mLとの混合液に所定時間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、太陽電池用ウェーハを製造した。上記所定時間を0分、1分、3分、5分、10分、20分、30分として7種類の試料を作製した。なお、0分は当該工程を行わないことを意味する。
【0096】
<評価:反射率測定>
既述の方法で7種類の試料の反射スペクトルを測定し、波長600nmおよび700nmの相対反射率をそれぞれ図4(a)および図4(b)に示した。図4(a),(b)ともに、処理時間が1〜30分の範囲で0分よりも低い反射率を得ることができ、特に処理時間が1〜10分の範囲で高い反射率低減効果が得られることがわかった。
【0097】
<参考実験例のまとめ>
以上、本発明における酸化処理を行わず、多孔質化処理の条件を様々に変更して行った参考実験例を示したが、本発明における酸化処理は既述のとおり反射率をほとんど変化させることがないことから、上記参考実験例の試料に対して酸化処理を行っても、ほぼ同じ程度の反射率が得られるものと思われ、かつ、酸化処理によって、ライフタイムが向上するものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、ウェーハ表面を微細に多孔質化し、ウェーハ表面における入射光の反射率を十分に低減し、なおかつ、得られた太陽電池用ウェーハを用いてより変換効率の高い太陽電池を作製することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの少なくとも片面に低級アルコールを接触させる第1工程と、
該第1工程の後に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含むフッ化水素酸を接触させる第2工程と、
を有する処理により前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面を多孔質化し、
前記第2工程の後に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に対して酸化処理を施す第3工程を有し、太陽電池用ウェーハとすることを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記半導体ウェーハがシリコンウェーハであり、
前記金属イオンがSiより貴な金属のイオンである請求項1に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程の後かつ前記第3工程の前に、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に、前記金属イオンから析出した金属を前記片面から除去する溶液を接触させる工程を有する請求項1または2に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記酸化処理が、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に酸化剤を含む液体を接触させる処理である請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記酸化処理が、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面に対する、酸素を含む雰囲気下での熱処理である請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記酸化処理が、前記半導体ウェーハの少なくとも前記片面上に液相成長法により酸化膜を形成する処理である請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハの製造方法における工程に加えて、該太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製する工程をさらに有する太陽電池セルの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の太陽電池セルの製造方法における工程に加えて、該太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製する工程をさらに有する太陽電池モジュールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−26571(P2013−26571A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162424(P2011−162424)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】