説明

太陽電池素子並びにその製造方法

【課題】鉛系ガラスを含まない導電性ペーストを用いて形成された電極を備え、優れた太陽電池特性を有する太陽電池素子を提供すること、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一導電型を呈する半導体基板の一主面上に該半導体基板とは異なる逆の導電型を呈する領域を備えると共に、当該領域上に反射防止膜を有し、この反射防止膜上に銀を主成分とする表面電極が設けられた太陽電池素子において、前記表面電極が、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスを含むことを特徴とする太陽電池素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池素子並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な太陽電池素子は、シリコン系の半導体基板、n型拡散層、反射防止膜、裏面電極、表面電極を備えており、表面電極の形成に際しては、銀を主成分とする導電性粒子、ガラスフリット、有機ビヒクルおよび溶剤等を混合した導電性ペーストを用い、スクリーン印刷や孔版印刷等によって電極パターンを形成した後、焼成を行うことにより電極形成を行っている。
この焼成の際、通常は、導電性ペーストに含まれるガラスフリットの作用により、反射防止膜を溶解・除去することによって、表面電極とn型拡散層との電気的接触が達成され、一般的にファイアースルーと称されている。
ファイアースルーが良好に行われるためには、導電性ペースト中のガラスフリットとして、反射防止膜との溶解性の良いガラスを使用することが望まれ、その中でも、従来はガラスの軟化点の調整がし易く、基板との密着性にも優れ、比較的にファイアースルーを良好に行うことができるといった理由から、酸化鉛を含むガラスが多く使用されてきた。
【0003】
一方、従来、基板表面において、反射率を低減するために表面に微細な凹凸を形成した、テクスチャー構造と称される形状に加工されることが広く行われており、多結晶シリコン基板に対して均一且つ微小なテクスチャー構造を形成し得る手法としては、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:以下「RIE」)法が知られている(以下、特許文献1参照)。
RIE法によれば、多結晶シリコン基板における結晶の不規則な面方位に左右されることなく均一に、しかも、より一層微細(例えば幅と高さがそれぞれ1μm以下)な突起を形成することができ、太陽電池素子表面の反射率を効率的に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−266649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の酸化鉛を含むガラスでは、ファイアースルーが充分でなく、オーミックコンタクトが得られなかったり、或いは、ファイアースルーが進みすぎて表面電極の一部が深く基板に侵食しているケースが度々見られるなど、ファイアースルー特性のコントロールが難しかった。
【0006】
また導電性ペーストに添加するガラスの種類によっては、導電性ペーストを印刷、焼成して表面電極を形成した場合、図3(b)に示されるように当該電極形状の外縁からガラス成分がにじみ出ている現象(以下、「にじみ現象」と称する)が見られることが分かった。「にじみ現象」が発生すると、その箇所での受光が阻害され、発電効率にも悪影響を与えることになるだけでなく、外観が悪くなる場合もあった。
【0007】
昨今、反射防止膜としては窒化珪素(SiNx)が多く使用されているが、本発明者等が試験研究を行った結果、「にじみ現象」は例えばSiNxを反射防止膜とする基板の中で、テクスチャー構造が比較的細かく、例えば幅と高さが1μm以下の微細な凹凸を備えた基板については、このにじみ現象が特に生じやすいことがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、その具体的手段は以下の通りである。
(1) 一導電型を呈する半導体基板の一主面上に該半導体基板とは異なる逆の導電型を呈する領域を備えると共に、当該領域上に反射防止膜を有し、この反射防止膜上に銀を主成分とする表面電極が設けられた太陽電池素子において、
前記表面電極が、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスを含むことを特徴とする太陽電池素子。
(2) 前記テルル系ガラスが、酸化物換算で、テルルを30〜80モル%、タングステンを10〜50モル%、ビスマスを5〜25モル%含み、
前記テルル、タングステン、およびビスマスの合計が80モル%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の太陽電池素子。
(3) 前記半導体基板の一主面は、幅と高さがそれぞれ2μm以下の突起を備えたテクスチャー構造を有しているものであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の太陽電池素子。
(4) 前記突起の幅と高さがそれぞれ0.1μm以上1μm以下であることを特徴とする前記(3)に記載の太陽電池素子。
(5) 一導電型を呈する半導体基板の一主面上に該半導体基板とは異なる逆の導電型を呈する領域を形成し、当該領域上に反射防止膜を形成し、この反射防止膜上に銀を主成分とする表面電極を形成する太陽電池素子の製造方法において、
銀を主成分とする導電性粉末と、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む導電性ペーストを、前記反射防止膜上に印刷、焼成して前記表面電極を形成することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。
(6) 前記テルル系ガラスが、酸化物換算で、テルルを30〜80モル%、タングステンを10〜50モル%、ビスマスを5〜25モル%含み、
前記テルル、タングステン、およびビスマスの合計が80モル%以上であることを特徴とする前記(5)に記載の太陽電池素子の製造方法。
(7) 前記反射防止膜を形成する前に、前記半導体基板の一主面側に幅と高さがそれぞれ2μm以下の突起を備えたテクスチャー構造を形成することを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の太陽電池素子の製造方法。
(8) 前記突起の幅と高さがそれぞれ0.1μm以上1μm以下であることを特徴とする前記(7)に記載の太陽電池素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性ペーストのファイヤースルー(焼成貫通)性を促進させることによって、優れたオーミックコンタクトが得られる。
また、導電性ペーストを印刷、焼成して表面電極を形成した場合でも、「にじみ現象」が低減され、その箇所での、導電性ペースト中のガラス成分のにじみによる、受光不良、外観不良を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法による太陽電池素子の一実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)〜(e)は本発明の太陽電池素子の製造工程を示す断面図である。
【図3】(a)は本実施形態、(b)は従来の「にじみ現象」の差異を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔太陽電池素子〕
まず太陽電池素子について説明する。
【0012】
本実施形態に係る太陽電池素子は、図1に示すように、逆導電型層1aが形成された光が入射する一主面(図1における上面に相当するものであり、以下では第1面とする)と該一主面の裏面に相当する他主面(図1における下面に相当するものであり、以下では第2面とする)を有する半導体基板1と、半導体基板1の第1面上(本実施形態では、逆導電型層1a上)に設けられた反射防止膜2と、を備えている。
さらに、太陽電池素子は、半導体基板1の第1面上に設けられた第1電極3と、半導体基板1の第2面上に設けられた第2電極4と、を有する。
【0013】
半導体基板1としては、所定のドーパント元素(導電型制御用の不純物)を有して一導電型(例えば、p型)を呈する単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板等の結晶シリコン基板が用いられる。半導体基板1の厚みは、例えば、250μm以下であるのがより好ましく、150μm以下であるのがさらに好ましい。本実施形態においては、半導体基板1として、p型の導電型を呈する結晶シリコン基板を用いる例で説明する。結晶シリコン基板からなる半導体基板1がp型を呈するようにする場合、ドーパント元素としては、例えば、ボロンあるいはガリウムを用いるのが好適である。
【0014】
半導体基板1の第1面側には、詳細には図2に示すように微細な突起1cが多数形成されている。この微細な突起1cは、半導体基板1の表面側に照射される光を多重反射させて、表面反射を減少させるために設ける。この微細な突起1cは、円錐形もしくは角錐形を呈し、RIE法によるガス濃度若しくはエッチング時間を制御することにより、その大きさを変化させることができる。
【0015】
逆導電型層1aは、半導体基板1とは逆の導電型を呈する層であり、半導体基板1の第1面の表層内に形成されている。半導体基板1としてp型の導電型を呈するシリコン基板を使用する場合であれば、逆導電型層1aは、n型の導電型を呈するように形成される。このような逆導電型層1aは、例えば当該シリコン基板の第1面にリン等の不純物を拡散させることによって形成できる。
【0016】
反射防止膜2は、所望の波長領域の光の反射率を低減させて、光生成キャリア量を増大させる役割を果たし、太陽電池素子の光電流密度Jscを向上させることができる。反射防止膜2は、例えばSiN膜、TiO膜、SiO膜、MgO膜、ITO膜、SnO膜、ZnO膜などからなる。その厚みは、材料によって適宜選択されて、適当な入射光に対して無反射条件を実現できるようにする。
【0017】
また、太陽電池素子は、図1に示すように、半導体基板1の第2面側の表層部にpを呈するBSF領域1bが形成されている。BSF領域1bは、半導体基板1の第2面近くでキャリアの再結合による効率の低下を低減させる役割を有しており、半導体基板1の第2面側に内部電界を形成するものである。
【0018】
第1電極3は、第1バスバー電極と、第1バスバー電極と交差する複数の線状のフィンガー電極とを有する。
この第1バスバー電極は、例えば、1.3mm〜2.5mm程度の幅を有している。一方で、フィンガー電極は、線状を成しており、その幅が50〜200μm程度であるため、第1バスバー電極よりも幅が小さい。
また、フィンガー電極は、互いに1.5〜3mm程度の間隔空けて複数設けられている。また、このような第1電極3の厚みは、10〜40μm程度である。上述のような第1電極3は、後に詳述するように銀を主成分とする導電性粉末と、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスフリットと、有機ビヒクルを有する導電性ペーストを用いてスクリーン印刷等で所望の形状に塗布した後、焼成することによって形成することができる。
【0019】
第2電極4は、第1電極3と同様の電極形状でもよく、上述の第1電極3と同等の材質及び製法で形成することができる。また、銀からなる第2バスバー電極を形成し、半導体基板1の第2面の第2バスバー電極の一部を除いた略全面にアルミニウムからなる集電電極を形成してもよい。
【0020】
以下、本発明の太陽電池素子の一実施形態について説明する。
【0021】
一導電型を呈する半導体基板の一主面側に他の導電型を呈する領域を備えると共に、当該領域上に反射防止膜を有し、この反射防止膜上に銀を主成分とする表面電極が設けられた太陽電池素子において、前記表面電極が、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスを含む。
【0022】
本発明の導電性ペーストは、前述した導電性粉末、ガラスフリット、適宜添加剤および有機ビヒクルを含む。
【0023】
導電性ペースト中のガラスフリットの含有量は、太陽電池電極形成用の導電性ペーストにおいて通常含まれ得る量で構わないが、一例として、導電性粒子100重量部に対し、0.1〜10重量部であることが好ましい。ガラスフリットの配合量が導電性粉末100重量部に対して、0.1重量部以上であれば、所定の密着性、電極強度を得ることができる。また10重量部以下であれば、電極表面にガラス浮きを生じたり、界面に流れ込んだガラスにより接触抵抗が増加するといった問題を低減できる。また特に限定されないが、本発明の導電性ペーストに配合されるガラスフリットとしては、平均粒径0.5〜5.0μmのものであることが望ましい。また、ガラスフリットは、軟化点が300〜550℃であることが望ましい。
【0024】
有機ビヒクルとしては特に限定はなく、銀ペーストのビヒクルとして通常使用されている有機バインダーや溶剤等が適宜選択して配合される。例えば有機バインダーとしては、セルロース類、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル等が、また溶剤としてはアルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、これらの混合溶剤が挙げられる。ここで有機ビヒクルの配合量は特に限定されるものではなく、導電性粉末、ガラスフリットなどの無機成分をペースト中に保持し得る適切な量で、塗布方法等に応じて適宜調整されるが、通常導電性粉末100重量部に対して5〜40重量部程度である。
【0025】
なお、本発明の導電性ペーストは実質的に鉛成分を含まないものであり、詳細には、導電性ペースト中の鉛含有量は1000ppm以下である。その他必要により、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤として通常添加され得る可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属酸化物、金属有機化合物等を適宜配合することができる。また、炭酸銀、酸化銀、酢酸銀といった銀化合物を配合しても良く、その他、焼成温度や太陽電池特性等の改善のため、酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン等を適宜添加しても良い。
【0026】
前記テルル系ガラスは、酸化物換算で、テルルを30〜80モル%、タングステンを10〜50モル%、ビスマスを5〜25モル%含み、前記テルル、タングステン、およびビスマスの合計が80モル%以上である。
【0027】
上記テルル系ガラスフリットにおいて、テルルは網目形成成分としてガラスのネットワークを形成しており、ガラスフリット全体に対して酸化物換算で30〜80モル%の範囲で含まれれば、ガラス形成が容易であり、好ましくは40〜70モル%の範囲である。この範囲であれば、ファイヤースルー性が改善されるという点で好ましい。
【0028】
タングステンは、上記ガラスフリットのガラス化範囲の拡大と安定化に寄与する。酸化物換算で10〜50モル%であればガラス形成が容易であり、好ましくは15〜35モル%の範囲で含まれる。この範囲であれば、さらにファイヤースルー性が改善されるという点で好ましい。
【0029】
ビスマスは上記ガラスフリットのガラス化範囲の拡大と化学的耐久性の向上に寄与する。ビスマスは酸化物換算で25モル%より多く含まれると結晶相を晶出しやすくなりガラスの安定性を損なう場合がある。好ましくは5〜25モル%の範囲であれば、ガラス成分のにじみが改善されるという点で好ましい。
【0030】
本発明に用いられる上記ガラスフリットにおいて必須ではないが、更に、リチウム、ナトリウムといったアルカリ金属元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムといったアルカリ土類金属元素、モリブデン、亜鉛、アルミニウム、ジスプロシウム、イットリウム、ニオブ、ランタン、銀、ジルコニウム、チタン、硼素、ゲルマニウム、リン、タンタルといった元素を含んでいても良い。それらの含有量は合計で20モル%未満の範囲である。
【0031】
前記太陽電池素子は、半導体基板の一主面側に幅と高さがそれぞれ2μm以下の突起を備えたテクスチャー構造を備えるものである。
この微細な突起1cの幅と高さはそれぞれ2μm以下に形成される。この突起1cの幅と高さが2μmより大きくなると、エッチングの処理時間が長くなる反面、基板1表面での反射率はさほど低減されない。
前記突起の幅と高さはそれぞれ0.1μm以上1μm以下である。
この範囲であれば基板1表面での反射率を低減でき、さらに第1電極との接着強度を向上させるという点で好ましい。
この微細な突起1cをシリコン基板1の表面側の全面にわたって均一且つ正確に制御性をもたせて形成するためには、0.1μm以上1μm以下が好適である。
【0032】
さらにこの微細な突起1cのアスペクト比(突起1cの高さ/幅)は、0.1〜2であることが望ましい。このアスペクト比が0.1以下の場合は、例えば波長500〜1000nmの光の平均反射率が25%程度であり、基板1表面での反射率が大きくなる。また、このアスペクト比が2以上の場合、製造過程で微細な突起1cが破損し、太陽電池素子を形成した場合にリーク電流が多くなって、良好な出力特性が得られないという問題がある。
〔製造方法〕
次に太陽電池素子の製造方法について説明する。
【0033】
まず、半導体基板1の製法について説明する。半導体基板1が単結晶シリコン基板の場合は、例えば引き上げ法などによって形成され、半導体基板1が多結晶シリコン基板の場合は、例えば鋳造法などによって形成される。なお、以下では、p型の多結晶シリコンを用いた例によって説明する。
【0034】
最初に、例えば鋳造法により多結晶シリコンのインゴットを作成する。次いで、そのインゴットを例えば、250μm以下の厚みにスライスする。その後、半導体基板1の切断面の機械的ダメージ層の除去や汚染層を清浄化するために、表面をNaOHやKOHあるいはフッ酸やフッ硝酸などでごく微量エッチングするのが望ましい(図2(a)参照)。
【0035】
次に、半導体基板1の第1面側に、多数の微細な突起1cを形成する。このような微細な突起1cは、RIE法を用いて形成することができ、例えば、RIE装置のRF電極の上部に半導体基板1を設置し、アースによって接地されたチャンバの内部を真空ポンプによって十分真空引きした後、チャンバ内にマスフローコントローラによって所定流量のエッチングガスを導入し、圧力調整器により所定圧力となるように調整する。その後、RF電源からRF電力をRF電極に印加することによって、エッチングガスを励起分解しプラズマ状態を生じさせると、発生したイオンやラジカルによって、半導体基板1の表面がエッチングされる。半導体基板1の表面をエッチングすると、該表面の構成成分は基本的には離脱する。しかしながら、該構成成分の一部は離脱しきれずに半導体基板1の表面に残り、離脱した物質の一部は再度、半導体基板1の表面に吸着し、これらがエッチング残渣となる。エッチングされた半導体基板1の材料を主成分とするエッチング残渣21を半導体基板1の表面に意図的に再付着させ、これをエッチングのマスクとして利用することで、ひいては表面凹凸構造の形成につながる半導体基板1の表面の粗面化を実現している。(図2(b)参照)。
【0036】
次に、半導体基板1の第1面の表層内にn型の逆導電型層1aを形成する。このような逆導電型層1aは、ペースト状態にしたPを半導体基板1表面に塗布して熱拡散させる塗布熱拡散法、ガス状態にしたPOCl(オキシ塩化リン)を拡散源とした気相熱拡散法、及びリンイオンを直接拡散させるイオン打ち込み法などによって形成される。この逆導電型層1aは0.2〜2.0μm程度の深さ、60〜150Ω/□程度のシート抵抗に形成される(図2(c)参照)。
【0037】
次に、半導体基板1の第2面側に、一導電型の半導体不純物が高濃度に拡散されたBSF領域1bを形成する。製法としては、例えば、BBr3(三臭化ボロン)を拡散源とした熱拡散法を用いて温度800〜1100℃程度で形成する方法、Al(アルミニウム)粉末及び有機ビヒクル等からなるAlペーストを印刷法で塗布したのち、温度600〜850℃程度で熱処理(焼成)してAlを半導体基板1に拡散する方法を用いることができる。また、Alペーストを印刷して焼成する方法を用いれば、印刷面だけに所望の拡散領域を形成することができるだけではなく、逆導電型層1a形成時に同時に第2面側にも形成されているn型の逆導電型層を除去する必要もなく、第2面側の周辺部のみレーザ等を用いてPN分離を行えばよい。また、焼成後のアルミニウムは除去せずに、集電電極として利用しても構わない(図2(d)参照)。
【0038】
次に、反射防止膜2を形成する。反射防止膜2は、例えば、PECVD(plasma enhanced chemical vapor deposition)法、蒸着法、スパッタ法などを用いて形成する。例えば、SiN膜からなる反射防止膜2をPECVD法で形成する場合であれば、反応室内を500℃程度としてシラン(SiH)とアンモニア(NH)との混合ガスを窒素(N)で希釈し、グロー放電分解でプラズマ化させて堆積させることで反射防止膜2が形成される(図2(e)参照)。
【0039】
次に、第1電極3と第2電極4とを以下のようにして形成する。
第1電極3は、後に詳述する銀(Ag)等からなる金属粉末と、有機ビヒクルとガラスフリットとを含有するAgペーストを用いて作製される。このAgペーストを、半導体基板1の第1面に塗布し、その後、最高温度600〜850℃で数十秒〜数十分程度焼成することによりファイヤースルー法によって反射防止層2を突き破り逆導電型層1a上に第1電極3が電気的にコンタクトされる。塗布法としては、スクリーン印刷法などを用いることができ、好ましくは塗布後、所定の温度で溶剤を蒸散させて乾燥させる。
次に、第2電極4は、例えばAg粉末などからなる金属粉末と、有機ビヒクルとガラスフリットを含有するAgペーストを用いて作製される。このAgペーストを予め決められた形状に塗布する。塗布法としては、スクリーン印刷法などを用いることができ、塗布後、好ましくは所定の温度で溶剤を蒸散させて乾燥させる。
そして、半導体基板1を焼成炉内にて最高温度が600〜850℃で数十秒〜数十分程度焼成することにより、第2電極4が半導体基板1の第2面上に形成される。
以上のようにして、太陽電池素子を作製することができる。
【0040】
以下、本発明の太陽電池素子の製造方法の一実施形態について説明する。
【0041】
上述のようにして、一導電型を呈する半導体基板の一主面側に他の導電型を呈する領域を形成し、当該領域上に反射防止膜を形成し、この反射防止膜上に、銀を主成分とする導電性粉末と、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスフリットと、有機ビヒクルを有する導電性ペーストを印刷、焼成して前記表面電極を形成する。
【0042】
導電性粉末としては銀を主成分にする他は特に制限はなく、その形状は、球状、フレーク状、樹枝状等、従来用いられているものが使用される。また、純銀粉末のほか、少なくとも表面が銀層からなる銀被覆複合粉末や、銀を主成分とする合金等を用いてもよい。銀粉末は、平均粒径が0.1〜10μmのものが好ましい。また平均粒径や粒度分布、形状等の異なる二種以上の銀粉末を混合して用いても良く、更に、銀粉末と銀以外の導電性粉末とを混合して用いても良い。
【0043】
本発明の導電性ペーストは、前述した導電性粉末、ガラスフリット、適宜添加剤と共に有機ビヒクルと混合され、スクリーン印刷その他の印刷方法に適したレオロジーのペースト、塗料、またはインク状とされる。
【0044】
本発明に使用されるテルル系ガラスフリットにおいて、テルルはガラスフリット全体に対して酸化物換算で30〜80モル%、好ましくは40〜70モル%の範囲で配合される。
【0045】
タングステンは、酸化物換算で10〜50モル%、好ましくは15〜35モル%の範囲で配合される。
【0046】
ビスマスは、酸化物換算で5〜25モル%の範囲で配合される。
【0047】
その他、リチウム、ナトリウムといったアルカリ金属元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムといったアルカリ土類金属元素、モリブデン、亜鉛、アルミニウム、ジスプロシウム、イットリウム、ニオブ、ランタン、銀、ジルコニウム、チタン、硼素、ゲルマニウム、リン、タンタルといった元素の含有量は合計で20モル%未満の範囲で配合される。
【0048】
前記反射防止膜を形成する前に、前記半導体基板の一主面側に幅と高さがそれぞれ2μm以下の突起を備えたテクスチャー構造を形成する。
前記突起の幅と高さはそれぞれ0.1μm以上1μm以下である。
【0049】
エッチングガスとして塩素系ガスとフッ素系ガスと酸素ガスとを所定流量で流しながら、反応圧力を5〜15Pa程度とし、RF電力を5〜10kW程度で印加してプラズマを発生させることで、半導体基板1の表面を粗面化することができる。より具体的にいえば、チャンバ17内に、塩素(Cl)と酸素(O)と三フッ化メタン(CHF)を流量比で1:6:4の割合で導入しながら、反応圧力を7Paとし、プラズマを発生させるRF電力5kWとして、5分間程度のエッチングを行うのが、その好適な一例である。ただし、第1のガスは、塩素(Cl)、三フッ化メタン(CHF)に限定されることはなく、例えば、塩素系ガスとしてHCl、ClF、フッ素系ガスとしてF、NF、CF、C、C、ClF、SF等の他の気体を組み合わせて使用しても構わない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
厚みが200μmで、比抵抗が1.5Ω・cmの15.6cm×15.6cm角の多結晶シリコンから成る基板をNaOHの溶液に浸漬して、片面10μmエッチングした後、チャンバ17内に、塩素(Cl)と酸素(O)と三フッ化メタン(CHF)を流量比で1:6:4の割合で導入しながら、反応圧力を7Paとし、プラズマを発生させるRF電力5kWでRIE法により基板表面に平均の高さが1μmの微細な突起を形成した。
次に、シリコン基板の表面部のシート抵抗が80Ω/□となるようにリン(P)を拡散した。
次に、シリコン基板の裏面側にアルミニウム(Al)ペーストをスクリーン印刷して750℃の温度で焼成した。このシリコン基板の裏面側のシート抵抗は15Ω/□であった。
次に、シリコン基板の表面側に、屈折率2.1、膜厚80ÅのSiNx膜をプラズマCVD法で形成して反射防止膜とした。
【0052】
一方、レーザー回折散乱式粒度分布測定により算出された平均粒径(D50)が1.8μmの銀粉末100重量部と、表1に示す組成のガラスフリット2重量部とを、エチルセルロース1.6重量部、ブチルカルビトール6.4重量部からなる有機ビヒクル中に分散させて導電性ペースト(試料1〜33)を作製した。
【0053】
なお、表中、ガラス組成の各成分はいずれも酸化物換算のモル%で示されており、また符号*が付されている試料は本発明の範囲外である。
【0054】
これらの各試料をシリコン基板の反射防止膜表面に印刷し、ピーク温度800℃で焼成することにより、幅100μm、ピッチ1.6mmのフィンガー電極と、幅2mmのバスバー電極を2本形成して太陽電池素子を形成した。
【0055】
それぞれの試料について「にじみ」の有無を観察した。
その結果を併せて表1に示す。なお、同表中における「にじみ」の欄の記号は以下の通りである。
◎:100μmラインに対してニジミなし。
○:100μmラインに対して片側10μm以下のニジミあり。
△:100μmラインに対して片側20μm以下のニジミあり。
×:100μmラインに対して片側20μm以上のニジミあり。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするガラスを含む導電性ペーストを用いて表面電極を形成した場合には、「にじみ現象」が効果的に抑制されている。
【0058】
本発明に係る導電性ペーストでは、ファイアースルー時に表面電極が反射防止膜(SiNx)を突き破ってシリコン基板に侵入した場合でも比較的浅い領域で止めることが出来る。しかしながら、その場合、オーミックコンタクトが得られないという懸念がある。オーミックコンタクトは電極と基板の接触抵抗を評価することにより良否判定が出来る。そこで、試料1〜6に対して、TLM(transmission line model)法により、フィンガー電極間の抵抗値をデジタルマルチメーター(HEWLETT PACKARD社製:3458A MULTIMETER)を用いて接触抵抗の測定評価を行った。
【0059】
その結果を表2に示す。なお、同表中における「接触抵抗」の欄の記号は以下の通りである。
◎:0.05Ωcm未満。
○:0.05Ωcm以上0.08Ωcm未満。
△:0.08Ωcm以上、0.10Ωcm未満。
×:0.10Ωcm以上。
【0060】
【表2】

【符号の説明】
【0061】
1……シリコン基板
1a:逆導電型層
1b:BSF領域
1c:微細な突起
2……反射防止膜
3……表面電極
4……裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一導電型を呈する半導体基板の一主面上に該半導体基板とは異なる逆の導電型を呈する領域を備えると共に、当該領域上に反射防止膜を有し、この反射防止膜上に銀を主成分とする表面電極が設けられた太陽電池素子において、
前記表面電極が、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスを含むことを特徴とする太陽電池素子。
【請求項2】
前記テルル系ガラスが、酸化物換算で、テルルを30〜80モル%、タングステンを10〜50モル%、ビスマスを5〜25モル%含み、
前記テルル、タングステン、およびビスマスの合計が80モル%以上であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池素子。
【請求項3】
前記半導体基板の一主面は、幅と高さがそれぞれ2μm以下の突起を備えたテクスチャー構造を有しているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池素子。
【請求項4】
前記突起の幅と高さがそれぞれ0.1μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池素子。
【請求項5】
一導電型を呈する半導体基板の一主面上に該半導体基板とは異なる逆の導電型を呈する領域を形成し、当該領域上に反射防止膜を形成し、この反射防止膜上に銀を主成分とする表面電極を形成する太陽電池素子の製造方法において、
銀を主成分とする導電性粉末と、テルル、タングステン及びビスマスを必須成分とするテルル系ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む導電性ペーストを、前記反射防止膜上に印刷、焼成して前記表面電極を形成することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。
【請求項6】
前記テルル系ガラスが、酸化物換算で、テルルを30〜80モル%、タングステンを10〜50モル%、ビスマスを5〜25モル%含み、
前記テルル、タングステン、およびビスマスの合計が80モル%以上であることを特徴とする請求項5に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項7】
前記反射防止膜を形成する前に、前記半導体基板の一主面側に幅と高さがそれぞれ2μm以下の突起を備えたテクスチャー構造を形成することを特徴とする請求項5又は6に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項8】
前記突起の幅と高さがそれぞれ0.1μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の太陽電池素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−84585(P2012−84585A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227448(P2010−227448)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】