説明

太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法および太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム

【課題】高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、同時にフィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を有する太陽電池裏面保護膜に好適なポリエステルフィルムを生産性高く製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂からなる延伸フィルムを、熱固定ゾーン内で該ポリエステル樹脂の融点より35〜65℃低い温度で熱固定処理し、かつ熱固定ゾーンの最高温度部を経た後、140℃以上175℃以下の雰囲気下でフィルムの端部を切断分離し、フィルム連続製膜方向に1.8%以上5.0%以下の弛緩率で弛緩熱処理を施す太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法および太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、太陽電池裏面保護膜用として好適に用いられ、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、フィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を有するポリエステルフィルムを生産性高く製造することができる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法およびその方法を用いて得られた太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池モジュールを用いる太陽光発電システムは、クリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして普及が進んでいる。太陽電池モジュールの構造は、一般に、受光側の透明前面基板、充填材、太陽電池素子、充填材および裏面保護シート(以下、太陽電池バックシート、または太陽電池裏面保護膜と称することがある)等を順に積層し、次いでこれらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法によって製造される。
【0003】
太陽電池裏面保護膜は、一般的には複数のフィルムの積層体として構成されており、太陽電池素子の固定、保護、電気絶縁の目的で用いられる。耐熱性、耐加水分解性、電気絶縁性の他に、モジュール製造工程での作業効率向上や長時間保護機能を維持するために、太陽電池裏面保護膜に対し、高温時の寸法安定性を有していることも求められる。特許文献1には、耐加水分解性のポリエステルフィルムとポリプロピレン系フィルムを積層した構成の太陽電池裏面保護膜が開示されており、太陽電池裏面保護膜の高温時の寸法安定性として、150℃、30分における熱収縮率は1.0%以下であることが好ましいことが記載されている。
【0004】
太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの高温時の寸法安定性を得るために低熱収縮化する方法として、例えばオフラインでのアニール処理が検討されている(特許文献1、2)。オフラインでのアニール処理とは、ポリエステルフィルムを製造後にフィルムを一旦巻取り、別の工程に運んで再び巻きだしながらアニール処理をする方法であり、生産性が悪く、コストが高くなるため、より生産性の高い安価な低熱収化処理方法が求められている。
【0005】
一方、ポリエステルフィルムをその製造工程内であるテンター内で低熱収化する方法としては、結晶化のための熱固定ゾーンの後方で、フィルムの端部を切断分離し、その後方のフィルムの引取り速度を減じて流れ方向に熱弛緩処理する、インラインでのアニール方法が開示されている(特許文献3、4)。また、それらの方法に加えて、熱弛緩処理ゾーンにおいてフィルムに横方向の引張り力を与えるニップロール等のシート幅出し装置を設置したり(特許文献5)、フィルムの自重を支える手段を設ける(特許文献6)ことにより、フィルムにシワが入ることを防止したり、フィルムの平面性を改善する方法が知られている。しかしながら、これら特許文献では、フィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を得ること、また太陽電池裏面保護膜として必要な、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質低下を抑制することについて考慮されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−150084号公報
【特許文献2】国際公開第07/040039号パンフレット
【特許文献3】特開昭51−46372号公報
【特許文献4】特開昭62−263022号公報
【特許文献5】特開昭62−268629号公報
【特許文献6】特開平8−108467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術が有する上記課題を解消する目的でなされたものであり、太陽電池裏面保護膜に好適に用いることができるポリエステルフィルムを生産性高く製造する方法を提供することにある。すなわち、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、同時にフィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を有する太陽電池裏面保護膜に好適なポリエステルフィルムを生産性高く製造する方法、およびその方法を用いて得られた太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルフィルム製造時の熱固定ゾーンの温度と、インラインアニール処理を行うに際し、従来着目されていなかったフィルム端部を切断する温度のコントロールが重要であり、特定の熱固定温度と特定のインラインアニール処理とを用いることで、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、同時にフィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を有する太陽電池裏面保護膜に好適なポリエステルフィルムを生産性高く製造することができることを見出した。
【0009】
すなわち本発明の目的は、ポリエステル樹脂からなる延伸フィルムを、熱固定ゾーン内で該ポリエステル樹脂の融点より35〜65℃低い温度で熱固定処理し、かつ熱固定ゾーンの最高温度部を経た後、140℃以上175℃以下の雰囲気下でフィルムの端部を切断分離し、フィルム連続製膜方向に1.8%以上5.0%以下の弛緩率で弛緩熱処理を施す太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法を用いることで達成される。
【0010】
また、本発明は、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法で得られる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを包含するものであり、該ポリエステルフィルムの温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の破断伸度保持率が50%以上であり、該ポリエステルフィルムの150℃、30分保持後の縦方向熱収縮率が0.0%以上1.5%以下、かつ150℃、30分保持後の縦方向熱収縮率のフィルム幅方向におけるばらつきが0.2%以下である太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質低下が抑制され、かつフィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を有する太陽電池裏面保護膜に好適なポリエステルフィルムを生産性高く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いるフィルム製膜装置の平面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
[ポリエステル樹脂]
本発明に用いるポリエステル樹脂としては、多塩基酸またはそのエステル形成誘導体と、ポリオールまたはそのエステル形成誘導体を用い、重縮合して得られたものであり、多塩基酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、マレイン酸、イタコン酸などを使用し、ポリオール成分として、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、などを用いて得られる、結晶性または半結晶性ポリエステル或いは共重合ポリエステルが好ましい。それらの内、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリエチレンナフタレート(PEN)を主たる成分としたポリエステル樹脂を好ましく用いることができ、特にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いると、本発明の効果であるフィルム幅方向渡って均一な低い縦方向熱収縮率を得やすく、好ましい。主たる成分とは、ポリエステルを構成する全繰り返し単位のうち90モル%以上、好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上を占めることである。
【0015】
本発明におけるポリエステル樹脂には、本発明の効果が損なわれない範囲で他の成分を共重合してもよく、共重合成分は多塩基酸成分でもポリオール成分でもよい。共重合成分として、上記の多塩基酸成分、ポリオール成分のうち、主たる成分以外の成分が挙げられる。これら共重合成分は、一種でもよく、二種以上を用いてもよい。それらの共重合量が10モル%を超える場合、結晶性が低下して耐熱性の低下につながり、また熱収縮率が高くなる。
【0016】
ポリエステル樹脂の融点は、好ましくは250℃以上270℃以下、さらに好ましくは255℃以上265℃以下である。
ポリエステル樹脂の極限粘度数は、好ましくは0.60〜0.90dl/g、さらに好ましくは0.67〜0.85dl/gである。この範囲の極限粘度数であることで、フィルムのポリエステルの重量平均分子量を44,000〜61,000の範囲に調整することができる。ポリエステル樹脂の極限粘度数が0.60dl/g未満では、高温・多湿な環境下で長時間使用すると機械的性質が低下し易くなることがある。ポリエステル樹脂の極限粘度数が0.90dl/gを超えると、ポリエステル樹脂重合時の重合時間が長くなり、またフィルムの製膜時の溶融押出し負荷が高くなり、生産性が低下する場合がある。なお、ポリエチレンテレフタレートの極限粘度数は、重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃での測定値より求めることができる。
【0017】
[末端カルボキシル基濃度]
本発明に用いるポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、好ましくは6〜29当量/トン、さらに好ましくは6〜24当量/トン、特に好ましくは6〜20当量/トンの範囲である。該末端カルボキシル基濃度が上限値を超えると、耐熱性および耐加水分解性が低下しやすくなることがあり、高温・多湿の条件において長時間使用した場合に機械的性質が低下しやすくなることがある。
【0018】
[添加物]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、フィルム表面を滑らせハンドリング性を良好にするために滑剤を含有させてもよい。滑剤としては、有機物、無機物いずれの滑剤を用いてもよいが、無機物の滑剤を用いることがより好ましい。無機物の滑剤としては、例えば酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素、アルミナの粒子を挙げることができる。分散性と滑り性の観点から、滑剤として、好ましくは平均粒径0.1〜5.0μm、さらに好ましくは0.2〜4.0μmの粒子を用いる。粒子の形状は、板状、球状いずれであってもよいが、滑剤の中には水分を吸着し易いものや配位し易いものがあり、滑剤により持ち込まれた水分がフィルムの分子量を低下させ、耐熱性の低下や高温・多湿の条件において長時間使用した場合の機械的性質の低下につながることがあるため、吸着水や配位水の少ない構造、組成のものが好ましい。滑剤として特に好ましいものは、真球状シリカである。
【0019】
必要に応じてさらに性能を上げるために、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、従来公知の各種添加剤を含有してもよく、例えば、白色顔料、黒色顔料、耐加水分解剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤を添加することができる。
白色顔料としては酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウムを、黒色顔料としてはカーボンブラックを例示できる。耐加水分解剤としては、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物を例示することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物を例示することができる。
これらの滑剤や添加剤はフィルムに塗布する方法で機能を付与してもよく、あるいは該ポリエステルフィルム自体を多層構成とし、その少なくとも1層にこれらの剤を添加する方法でもよい。
【0020】
[製造方法]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。なお、ポリマーのガラス転移温度をTg、融点をTmと表記することがある。また、フィルムの製膜方向に関しては、製膜時のフィルム連続製膜方向を縦方向、長手方向、流れ方向、MD方向と称することがあり、またフィルム連続製膜方向と直交する方向を横方向、幅方向、TD方向と称することがある。
【0021】
本発明に用いるポリエステル樹脂の製造方法として、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールをエステル化反応させた後に重縮合反応を行う方法、テレフタル酸ジメチルに代表される芳香族ジカルボン酸エステルとエチレングリコールをエステル交換反応により反応させた後に重縮合反応を行う方法が挙げられる。
例えばエステル交換反応を用いた製造過程において、発生するアルコールを除去させつつエステル交換反応を実施した後、リン酸化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させ、次いで得られた反応生成物にアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物等の縮重合触媒を添加し、重縮合反応を行う。より高い耐加水分解性のポリエステルフィルムを得るために、ポリエステルポリマーの高極限粘度数化および低末端カルボキシル基濃度化が好ましく、その達成手段として固相重合を加えることが好ましい。
【0022】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、請求項に記載の方法を除く部分については、従来公知の製膜法に準拠して製造することができる。以下にその一例を示す。
まず、原料のポリエステル樹脂をスリットダイよりフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、得られた未延伸シートを少なくとも1軸方向、好ましくは2軸方向に延伸する。延伸は逐次2軸延伸でも同時2軸延伸でもかまわない。例えば逐次2軸延伸の例を説明すると、未延伸フィルムをロール加熱、赤外線加熱等で加熱し、フィルム連続製膜方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。延伸温度はポリエステルのTg以上の温度、さらにはTg〜(Tg+70℃)の範囲の温度とするのが好ましい。縦延伸後のフィルムは、続いて、横延伸、熱固定、弛緩熱処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、これら処理はフィルムを走行させながらインラインで行う。横延伸の処理はポリエステルのTgより高い温度から始める。そしてTgより(5〜70)℃高い温度まで昇温しながら行う。横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、通常逐次的に昇温する。例えばテンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、ゾーン毎に所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。
【0023】
多層構成の場合は、各層の原料を必要に応じて乾燥させた後、各々を別々の押出機で溶融混合し、フィードブロックを用いて積層した後、スリットダイに展開して未延伸フィルムを得る同時多層押出し法で実施し、その後の二軸延伸は上述の方法に従って製膜する。
延伸倍率は、縦方向、横方向ともに2.8〜4.0倍の範囲で行うことが好ましく、さらに好ましくは3.0〜3.8倍である。2.8倍未満とするとフィルムの厚み斑が低下したり、耐熱性が低下することがある。他方、4.0倍を超えるとフィルムの使用環境によってはデラミネーションを起こし易くなる。
【0024】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、接着剤を介して他シートと積層され、太陽電池の裏面保護膜を構成するか、直接上に太陽電池素子の封止樹脂が設けられる。該ポリエステルフィルムと接着剤や封止樹脂との接着性を向上させる目的で、本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムの片面に易接着性のコーティングを施してもよい。接着剤としては例えばエポキシ系やウレタン系接着剤が多く用いられ、封止剤はほとんどがEVA(エチレンビニルアセテート)である。易接着性コーティング層の構成材としては、ポリエステルフィルムと接着剤あるいはEVAの双方に優れた接着性を示す材であることが好ましく、例えばポリエステル樹脂やアクリル樹脂を例示することができ、さらに架橋成分を含有することが好ましい。コーティングは一般的な既知のコーティング方法を用いることができる。好ましくは、延伸可能なポリエステルフィルムに、前述のコーティング層の構成成分を含む水性液を塗布した後、乾燥、延伸し、熱処理するインラインコーティング法で行う。このとき、フィルムの上に形成された塗膜の厚さは0.01〜1μmであることが好ましい。
【0025】
以下、第1図を用いて請求項に記載のフィルム製造方法について説明する。第1図は本発明に用いるフィルム製膜装置の平面図の一例である。フィルム1はクリップ2、2´で両端を把持され、テンターの予熱ゾーン3、延伸ゾーン4、熱固定ゾーン5、弛緩熱処理ゾーン6、冷却ゾーン7を経て、下流の巻取り機(図示せず)に導かれる。弛緩熱処理ゾーン6には、切断刃8、8´が設置されており、この位置でフィルム両端部を切断して端部9、9´が分離される。フィルム速度は両端部分が分離されるまではクリップ速度でコントロールされるが、両端部分が分離された後は弛緩熱処理ゾーン6、冷却ゾーン7にかけて減速され、必要な弛緩状態に保たれる。
【0026】
本発明の熱固定ゾーン5での熱固定処理は、用いるポリエステル樹脂の融点より35〜65℃低い温度で行う必要がある。なお、熱固定処理温度を何段階かに分ける場合は、熱固定の最高温度部がかかる熱固定温度範囲である。さらに好ましい熱固定処理の温度は、融点より40〜55℃低い温度である。熱固定処理を下限値より低い温度で行うと、熱固定ゾーンでの結晶化緩和が不十分で、均一な低い縦方向熱収縮率が得られない。また、熱固定処理の温度が下限値より低い場合、縦方向熱収縮率を低くするために、後述する弛緩率を過度に高くする必要があり、テンター出口でフィルムが弛んでしまい、シワが入り、得られたフィルムの平面性低下につながる。一方、熱固定処理を上限値を超える温度で行うと、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が大きくなる。なお、横方向の熱収縮率を調整するために、熱固定ゾーンの後半で横方向の幅入れを行ってもよく、その幅入れ率は10%以内であれば、本発明の効果には影響を及ぼさない。
【0027】
本発明の効果を得るためには、熱固定ゾーンの最高温度を経て結晶化緩和を施したフィルムに残る残留延伸応力を適度に除去することが重要であり、フィルム両端部分の切断は、熱固定ゾーンの最高温度部を経た後、後方のテンター内、すなわち弛緩熱処理ゾーン6において、140℃以上175℃以下の雰囲気下で行う必要がある。この場合の雰囲気温度とは、フィルム両端部分を切断する切断刃から100mm以内の位置の雰囲気温度を測定した値である。
本発明において、本発明の課題である高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下の抑制と、フィルム幅方向に渡る均一な低い縦方向熱収縮率特性とを兼ね備えるフィルムを得るためには、熱固定温度とともに、従来着目されていなかったフィルム両端部分を切断するときの温度が非常に重要である。フィルム両端部分の切断が140℃より低い温度で行われると、緩和が不十分で、フィルム幅方向において均一な低い縦方向熱収縮率が得られない。一方で、フィルム両端部分の切断が175℃より高い温度で行われる場合も、フィルム幅方向において、均一な低い縦方向熱収縮率が得られず、さらに高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質が低下してしまう。
【0028】
さらに、下記式(1)で定義されるフィルム速度の減速率を弛緩率とし、本発明ではフィルム連続製膜方向における弛緩率を1.8%以上5.0%以下とすることが必要である。さらに好ましい弛緩率は2.0%以上4.8%以下である。
弛緩率が下限値に満たないと、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムとして求められる、低い縦方向収縮率が得られない。すなわち、本発明は高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質と、均一な低い縦方向熱収縮率の両特性を兼ね備えるフィルムを得るにあたり、通常よりも低い熱固定温度処理を行う必要があり、単に熱収縮率特性のみを目的とする場合であれば本発明よりも低い弛緩率でも同程度の縦方向熱収縮率が得られるものの、本発明においては、通常の弛緩率の範囲では十分な縦方向熱収縮率を得ることができない。
一方で、縦方向の熱収縮率を低くするために、弛緩率を上限値を超えて高くし過ぎると、テンター出口でフィルムが過剰に弛んでしまい、フィルムにシワが入ったり平面性が悪化する。
弛緩率={(端部切断分離前のフィルム速度−テンター下流のフィルム引取り速度)/端部切断分離前のフィルム速度}×100 (%) ・・・(1)
【0029】
本発明で用いる冷却ゾーン7の温度は特に限定されないが、弛緩熱処理ゾーン6の温度以下とすることが好ましい。冷却ゾーン7の温度を弛緩熱処理ゾーン6の温度より高くすると、フィルムに過度な収縮応力が生じて過剰な張力がかかり、フィルムが破断してしまう場合がある。
また、本発明におけるテンター内の好適なフィルム速度は100m/分以下、熱固定処理を受ける好適な時間は7秒以上、フィルム両端部を切断して以後フィルムがテンター内で弛緩熱処理を受ける好適な時間は3秒以上である。フィルム速度が100m/分を超え、熱固定処理時間が7秒未満、弛緩熱処理時間が3秒未満となると、得られる弛緩熱処理効果が徐々に低下し、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムとして求められる低熱収縮率が得られにくくなる。
本発明は、このように、オフライン工程などの別工程を経ることなく、インラインのフィルム製膜でもって本発明の目的とするフィルムが得られるため、生産性高くフィルムを製造することができる。
【0030】
[耐高温・多湿環境性]
本発明の製造方法で得られる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の破断伸度保持率が50%以上である。この温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間のエージングは、概ね30年間の屋外暴露状態に相当する耐高温・多湿環境性を検査する加速試験の一つであり、上記の破断伸度保持率が50%未満である場合は、屋外での長期使用において劣化を引き起こし、機械的性質が低下する可能性がある。かかる破断伸度保持率は好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは65%以上である。かかる破断伸度保持率のみを備えるポリエステルフィルムであれば、色々な方法が提案されているが、本発明はフィルム製膜でもって課題を解決するものであり、本発明の熱固定温度、およびフィルム両端部分を切断するときの温度の範囲でポリエステルフィルムを製造することで得ることができる。
【0031】
[熱収縮率]
本発明の製造方法で得られる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、150℃30分間熱処理したときのフィルム縦方向熱収縮率が平均値で0.0%以上1.5%以下、かつ150℃、30分保持後の縦方向熱収縮率のフィルム幅方向におけるばらつきが0.2%以下である。ここで、縦方向熱収縮率のフィルム幅方向におけるばらつきとは、フィルム幅方向に等間隔に長さ100mm、幅100mmのサンプルを5点切り出し、150℃、30分保持後、JIS−C2151に従いそれぞれの縦方向熱収縮率を求め、その標準偏差をばらつきとしたものである。
【0032】
この範囲の熱収縮率であることで、本発明のフィルムを用いて太陽電池をユニット化する場合に配線が曲がったりすることがなく、太陽電池素子にズレが発生することがなく、また真空ラミネートで封止剤と貼り合わされたときにはみ出しが生じず、生産性が損なわれることがない。フィルム縦方向熱収縮率が0.0%以上1.5%以下であっても、フィルム幅方向におけるばらつきが0.2%を超えると、面積が1m角以上の大型太陽電池モジュールの裏面保護膜として用いる場合、真空ラミネート時の加熱により面内に熱収縮ムラが生じ、裏面保護膜にシワが入るため好ましくない。
かかる熱収縮率特性は、本発明の熱固定温度、およびフィルム両端部分を切断するときの温度、および弛緩率の範囲でポリエステルフィルムを製造することで得ることができる。
【0033】
[フィルム厚み]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの厚みは、好ましくは25〜250μm、さらに好ましくは45〜220μm、特に好ましくは50〜200μmである。この範囲の厚みであることで、フィルムの腰があり、製造上扱いやすいフィルムを高い生産性で得ることができる。また、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、フィルムの特性を損なわない範囲で多層構成とし、積層フィルムとしてもよい。多層積層フィルムとする場合には、生産性の観点から共押出による多層積層フィルムとすることが好ましい。
【0034】
[太陽電池裏面保護膜]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、フィルム1枚で太陽電池裏面保護膜として使用してもよく、他のシートと積層した積層体を太陽電池裏面保護膜として使用してもよい。積層体の例として、絶縁特性を向上させる目的で別のポリエステルフィルムと貼り合わせた積層体、さらに耐久性を向上させる目的でポリフッ化ビニルなどの高耐候性樹脂からなるフィルムと貼り合わせた積層体を例示することができる。
【0035】
太陽電池裏面保護膜として用いる際には、水蒸気バリア性を付与する目的で水蒸気バリア層を積層することが好ましい。この構成の太陽電池裏面保護膜は、JIS Z0208−73に従い測定される水蒸気の透過率が5g/(m・24h)以下であることが好ましい。かかる水蒸気バリア層としては、水蒸気バリア性を有するフィルムや箔を用いることができ、フィルムとしてポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニリデンコートフィルム、ポリフッ化ビニリデンコートフィルム、酸化ケイ素蒸着フィルム、酸化アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルム、箔としてはアルミニウム箔、銅箔を例示することができる。また、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに直接水蒸気バリア層をコート、あるいは蒸着しても構わない。これらの水蒸気バリア層は、一例として本発明のポリエステルフィルムがEVA層と接着して用いられる際にはEVA接着面の反対側に積層したり、またさらにその外側に別のフィルムを積層して、複数のフィルムで挟みこむ構造をとる形態で用いることもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。評価方法を以下に示す。
【0037】
(1)フィルム厚み
フィルムサンプルをエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0038】
(2)極限粘度数(η)
重量比6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃の温度にて測定した溶液粘度から、下式(2)で計算した値を極限粘度数(η)として用いた。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C ・・・(2)
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml)、Kはハギンス定数である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示す。
【0039】
(3)末端カルボキシル基濃度
試料10mgをHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール):重クロロホルム=1:3の混合溶媒0.5mlに溶解してイソプロピルアミンを数滴添加し、H−NMR法(50℃、600MHz)により定量した。単位は当量/トンで示す。
【0040】
(4)ガラス転移温度、融点
ポリエステル樹脂サンプル約20mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(TA Instruments社製、DSCQ100)に装着し、25℃から20℃/分の速度で290℃まで昇温させ、290℃で3分間保持した後取り出し、直ちに氷の上に移して急冷した。このパンを再度示差熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させて、それぞれのガラス転移温度Tg(単位:℃)、融点Tm(単位:℃)を測定した。
【0041】
(5)耐高温・多湿環境性
フィルムの縦方向に100mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、温度85℃、湿度85%RHに設定した環境試験機内に3000時間放置する。その後試料片を取り出し、試料の縦方向の破断伸度を5回測定し、平均値を求めた。引張試験は東洋ボールドウィン社製(商品名「テンシロン」)を用いておこない、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minにて実施した。5点の平均値を、放置前のサンプルの破断伸度5点の平均値で割った値を破断伸度保持率[%]とし、下記基準にて耐高温・多湿環境性を評価した。
破断伸度保持率[%]
={(処理時間3000時間後の破断伸度)/(処理前の破断伸度)}×100
◎:破断伸度保持率が70%以上
○:破断伸度保持率が50%以上70%未満
×:破断伸度保持率が50%未満
【0042】
(6)縦方向熱収縮率、およびそのばらつき
製造したフィルムから、幅方向に等間隔に長さ100mm、幅100mmのサンプルを5点切り出し、JIS−C2151に従いそれぞれの縦方向熱収縮率を下式(3)から求めた。熱風循環式恒温槽の温度は150℃、保持時間は30分とした。5点の平均値を熱収縮率、標準偏差をばらつきとした。なお、正負符号は収縮方向(熱処理により寸法が短くなる方向)をプラスとした。
熱収縮率(%)=(ΔL/L0)×100 ・・・(3)
L0:熱処理前の長さ
ΔL:熱処理による寸法変化量
【0043】
(7)シワ、平面性
製造したフィルムから、縦方向1000mm×幅方向1000mにサンプルを切り出し、平坦な床の上にフィルムに両力が掛からないように広げて静置した。目視でフィルムのシワを観察し、以下の基準で評価した。
○:フィルムにシワが観察されない
×:フィルムに1本以上のシワが観察された
【0044】
[実施例1〜14、比較例1〜13]
常法により重合したポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部(極限粘度数0.70dl/g、末端カルボキシル基濃度12当量/トン、ガラス転移温度76℃、融点256℃)に、堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を5重量部配合したチップを、回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出し、スリットダイよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度20℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを100℃にて縦方向に3.4倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き130℃に加熱された雰囲気中で横方向に3.7倍延伸した。その後、テンター内で表1に記載の条件で熱固定、横方向に4.0%の幅入れを行い、続いて表1に記載の温度雰囲気下でフィルム両端を切り落とし、フィルム連続製膜方向に表1に記載の条件で弛緩した後、室温まで冷やして表1に記載の厚み、製品幅1200mmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りであった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のポリエステルフィルム製造方法によれば、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、かつフィルム幅方向に渡って均一な低い縦方向熱収縮率を有する太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを生産性高く製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
1: フィルム
2,2’: クリップ
3: テンターの予熱ゾーン
4: 延伸ゾーン
5: 熱固定ゾーン
6: 弛緩熱処理ゾーン
7: 冷却ゾーン
8,8’: 切断刃の設置位置
9,9’: フィルム端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂からなる延伸フィルムを、熱固定ゾーン内で該ポリエステル樹脂の融点より35〜65℃低い温度で熱固定処理し、かつ熱固定ゾーンの最高温度部を経た後、140℃以上175℃以下の雰囲気下でフィルムの端部を切断分離し、フィルム連続製膜方向に1.8%以上5.0%以下の弛緩率で弛緩熱処理を施すことを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエステルフィルムの製造方法で得られる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
該ポリエステルフィルムの温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の破断伸度保持率が50%以上であり、該ポリエステルフィルムの150℃、30分保持後の縦方向熱収縮率が0.0%以上1.5%以下、かつ150℃、30分保持後の縦方向熱収縮率のフィルム幅方向におけるばらつきが0.2%以下である、請求項3に記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−94699(P2012−94699A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241005(P2010−241005)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】