説明

太陽電池

【課題】同じ構成元素であって、その組成比が異なるパッシベーション膜が表裏2つの導電型層上にそれぞれ形成され、変換効率に優れた太陽電池の提供。
【解決手段】一方の面を第一導電型層1、他方の面を第二導電型層2としてなる光電変換部と、第一導電型層1を覆うように配された第一パッシベーション層3および第二導電型層2を覆うように配された第二パッシベーション層4と、第一電極5および第二電極6と、を少なくとも備えた太陽電池10であって、両パッシベーション層3,4は、同じ構成元素からなり、前記構成元素として、金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素と、酸素および/または窒素とを含み、かつ、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の組成比が、両パッシベーション層3,4において異なることを特徴とする太陽電池10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池のパッシベーション膜に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用したクリーンエネルギー生成技術として、太陽電池には近年一層多くの期待が集まっている。
結晶またはアモルファスのシリコンを用いた太陽電池の一般的な構成は、例えば結晶シリコンを基板とした場合は、当該基板中にドナーまたはアクセプターとなる不純物をそれぞれ、一方の側と他方の側にドーピングすることによりpn接合を形成し、各導電型層に電極を設けたものが挙げられる。
【0003】
太陽電池の低コスト化のためにシリコン基板には薄型化が求められているが、この際、表面再結合速度を低減することが重要となる。
特許文献1には、pn接合を形成したシリコン基板表面において、p型層およびn型層の上に異なる元素からなるパッシベーション膜をそれぞれ形成することによって、表面再結合速度を減少させ、変換効率を高めた太陽電池が開示されている。具体的には、シリコン基板の片面にp型層およびn型層からなるpn接合を形成し、p型層上に酸化珪素膜または酸化アルミニウム膜からなる第1パッシベーション膜、n型層上に窒化珪素膜からなる第2パッシベーション膜を形成することによって変換効率を高めている。
【0004】
しかしながら、異なる構成元素(元素組成)を有するパッシベーション膜をp型層およびn型層を覆うようにそれぞれ形成するためには、異なる成膜装置を使用する必要があり、製造コストが高価になる問題がある。例えば、酸化珪素膜の成膜には900℃の酸素雰囲気下でシリコン基板を加熱処理するオーブン装置が必要であり、窒化珪素膜の成膜にはプラズマCVD装置が必要であり、酸化アルミニウムの成膜には蒸着装置が必要である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−10746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、単一の成膜装置によって、同じ構成元素からなるパッシベーション膜を2つの導電型層上に形成することにより、変換効率の向上を図った太陽電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の太陽電池は、一方の面を第一導電型層、他方の面を第二導電型層としてなる光電変換部と、前記第一導電型層を覆うように配された第一パッシベーション層および前記第二導電型層を覆うように配された第二パッシベーション層と、前記第一導電型層上に配された第一電極および前記第二導電型層上に配された第二電極と、を少なくとも備えた太陽電池であって、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、同じ構成元素からなり、前記構成元素として、金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素と、酸素および/または窒素とを含み、かつ、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の組成比が、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層において異なる、ことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の太陽電池は、請求項1において、前記金属元素および半金属元素が、以下の元素群αであることを特徴とする。
前記元素群αは、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ルテチウム(Lu)、およびストロンチウム(Sr)である。
本発明の請求項3に記載の太陽電池は、請求項1または2において、前記第一導電型層をn型半導体層、前記第二導電型層をp型半導体層とした場合、前記第一パッシベーション層は正の固定電荷を、前記第二パッシベーション層は負の固定電荷を、それぞれ有することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の太陽電池は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、HfとAlとOから構成される場合、HfとAlとの比においてAlが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Hfの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜である、ことを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の太陽電池は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、HfとYとOから構成される場合、HfとYとの比においてHfが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Yの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜である、ことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の太陽電池は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、AlとYとOから構成される場合、AlとYとの比においてAlが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Yの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜である、ことを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の太陽電池は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記光電変換部が、無機半導体、有機半導体または化合物半導体からなる結晶である、ことを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の太陽電池は、請求項1〜7のいずれか一項において、前記光電変換部が、無機半導体、有機半導体または化合物半導体からなる薄膜である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の太陽電池によれば、2つの導電型層上に、同じ構成元素からなるパッシベーション膜を形成するので、単一の装置で成膜することができる。
また、本発明の太陽電池によれば、当該パッシベーション膜と各導電型層の界面における表面再結合速度を低減することができる。この結果、本発明の太陽電池の変換効率を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明にかかる太陽電池の一例の概略構成図
【図2】試料薄膜S1のC−V特性を示すグラフ
【図3】試料薄膜の概略構成図
【図4】試料薄膜S1のキャリアライフタイムを示すグラフ
【図5】試料薄膜S2のC−V特性を示すグラフ
【図6】試料薄膜S2のキャリアライフタイムを示すグラフ
【図7】試料薄膜S2のμ−PCDマッピング
【図8】試料薄膜S3のC−V特性を示すグラフ
【図9】試料薄膜S4の組成―Vfb特性を示すグラフ
【図10】本発明にかかる太陽電池の一例の概略構成図
【図11】本発明にかかる太陽電池のパッシベーション膜の形成に用いうる成膜装置の一例の概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明にかかる太陽電池の実施形態例として、図1に示す概略構成図のように、一方の面を第一導電型層1、他方の面を第二導電型層2としてなる光電変換部と、第一導電型層1を覆うように配された第一パッシベーション層3および第二導電型層2を覆うように配された第二パッシベーション層4と、第一導電型層1上に配された第一電極5および第二導電型層2上に配された第二電極6と、を少なくとも備えた太陽電池10が挙げられる。
【0012】
第一パッシベーション層3の第一電極5に対応する位置は開口しており、第一電極5と第一導電型層1とが導通している。同様に、第二パッシベーション層4の第二電極6に対応する位置は開口しており、第二電極6と第二導電型層2とが導通している。
【0013】
太陽電池10において、第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、同じ構成元素からなる。
前記構成元素は、金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素と、酸素および/または窒素とを含み、かつ、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の組成比が、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層において異なる。
【0014】
本発明の太陽電池において、前記金属元素および半金属元素が以下の元素群αであることが好ましい。当該パッシベーション膜と各導電型層の界面における表面再結合速度をより低減することができる。
【0015】
前記元素群αは、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ルテチウム(Lu)、およびストロンチウム(Sr)である。
【0016】
第一パッシベーション層3と第二パッシベーション層4とは、各層を構成する元素は同じであるが、その元素組成比が異なるために、各層の有する固定電荷が異なるものとなる。
固定電荷は、元素組成比を調整することで制御できる。つまり、パッシベーション層3,4の固定電荷を導電型層1,2の固定電荷と反対の固定電荷とすることによって、各導電型層における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0017】
すなわち、第一導電型層1がn型半導体層である場合、第一パッシベーション層3は正の固定電荷とすれば、第一導電型層1と第一パッシベーション層3との界面における表面再結合速度を低減できるので、好ましい。この結果、光起電力によって生じる電子を、第一導電型層1からより効率的に、第一電極5に取り出せる。
【0018】
第二導電型層2がp型半導体層である場合、第二パッシベーション層4は負の固定電荷とすれば、第二導電型層2と第二パッシベーション層4との界面における表面再結合速度を低減できるので、好ましい。この結果、光起電力によって生じる正孔を、第二導電型層2からより効率的に、第二電極6に取り出せる。
【0019】
前記元素群αのうち、特にアルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)の中から2つの元素を選択し、元素組成比を調整することが好ましい。第一パッシベーション層3と第二パッシベーション層4が有する固定電荷をそれぞれ正と負に制御することがより容易にできる。
【0020】
本発明にかかる太陽電池において、第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4の膜厚は特に制限されず、例えば4nm〜30nmの範囲の膜厚とすればよい。
【0021】
以下では、本発明にかかる太陽電池を、第一導電型層1がn型半導体層であり、第二導電型層2がp型半導体層である場合を説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明にかかる太陽電池は、第一導電型層1がp型半導体層であり、第二導電型層2がn型半導体層であってもよい。
一般に、太陽電池は半導体の一種であるから、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されることは周知である。本発明にかかる太陽電池のC−V特性のグラフにおいても同様にフラットバンド(Vfb)が観測される。
【0022】
<HfとAlとOから構成されるパッシベーション層>
第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、HfとAlとOから構成される場合、HfとAlとの比においてAlが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Hfの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜であることが好ましい。
このような薄膜では、例えば第一パッシベーション層3におけるAlとHfとの組成比をAl<Hfとすることによって、当該第一パッシベーション層3の固定電荷を正側に大きくすることができる。同様に、例えば第二パッシベーション層4では、Al>Hfとすることによって、当該第二パッシベーション層4の固定電荷を負側に大きくすることができる。
【0023】
前記HfとAlとOから構成される第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4としては、例えばアルミニウム酸化物(Al)とハフニウム酸化物(HfO)とをそれぞれ特定の割合で混在させた薄膜が挙げられる。ここで、前記酸化物の組成式におけるOの下付き文字xおよびyは、それぞれ独立に任意の正の数である。
この場合、前記「Alが主体の組成域」とは、「Alが主体の組成域」を意味する。また、前記「Hfの割合を増すにつれ、」とは、「HfOの割合を増すにつれ、」を意味する。
このような薄膜は、例えばAlからなるターゲットおよびHfOからなるターゲットを使用したPLD法(Pulsed Laser Deposition法)、またはスパッタ法、CVD法等によって成膜することができる。
【0024】
第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4における、AlとHfOとの組成比は、例えば図2に示すC−V特性のグラフにおけるVfbのシフトする程度に基づいて、所望の割合に設定することができる。
【0025】
図2のC−V特性グラフは、図3に示す構成の試料薄膜S1のP1〜P5の位置で測定して得られたデータをプロットしたものである。また、得られたデータを表1に示す。
前記試料薄膜S1は、SiO薄膜を形成したシリコン基板(p−Si)上に、Al100%の領域(P1)〜HfO100%の領域(P5)へ、2つの化合物の組成比が漸次変化するように形成されたものである。
【0026】
【表1】

【0027】
試料薄膜S1は、可動マスクとAlからなるターゲット(Target A)およびHfOからなるターゲット(Target B)を使用した、コンビナトリアルPLD成膜法によって形成できる。
具体的には、酸素雰囲気下(1.0×10−5Torr)、シリコン基板温度を300℃とし、KrFエキシマレーザ(波長248nm、エネルギー密度0.5J/cm2)を、HfO(ターゲット純度98%)およびAl(ターゲット純度99.99%)に対して、繰り返し周波数5Hzで照射し、組成傾斜膜として形成する方法が例示できる。
【0028】
その後、Ptからなるゲート電極を、直径0.1mmの円形マスクを使用して、高さ50nmとなるように、マグネトロンスパッタ法(アルゴン雰囲気:3.6cm/min)で形成すればよい。
【0029】
図3は試料薄膜の概略構成図を示し、シリコン基板(p−Si)上のSiO上に試料薄膜S1を設け、さらにその上にゲート電極を等間隔にP1〜P5の5箇所設けたものである。試料薄膜S1は、コンビナトリアルPLD成膜法により薄膜を形成しているため、図3においては試料薄膜S1上の左側(P1)がA(Al)100%であり、右側(P5)がB(HfO)100%となっている。したがって、P2ではA:B組成比=75:25、P3ではA:B組成比=50:50、P4ではA:B組成比=25:75となっている。なお、ゲート電極を設けたのは試料薄膜S1のC−V特性を測定するためである。
【0030】
図2のC−V特性グラフでは、膜中の固定電荷を反映してヒステリシスが存在する。P1(Al100%)では膜中の負の固定電荷に対応してVfbが正の値を持つ。P2〜P4では、HfOの組成比が増すにつれてVfbが負の方向へシフトしている。
P4のVfbは、P5のVfbよりも負の方向にシフトしている。
【0031】
試料薄膜S1の表面におけるキャリアライフタイムを測定した結果を図4に示す。
【0032】
図2および図4の結果から、n型導電層上の第一パッシベーション層3におけるAlとHfOとの組成比は、
Al:HfO=50:50〜99.9:0.1が好ましく、
Al:HfO=60:40〜90:10がより好ましく、
Al:HfO=60:40〜75:25がさらに好ましい。
上記範囲の組成比とすることにより、当該第一パッシベーション層3における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0033】
また、図2および図4の結果から、p型導電層上の第二パッシベーション層4におけるAlとHfOとの組成比は、
Al:HfO=50:50〜0.1:99.9が好ましく、
Al:HfO=40:60〜10:90がより好ましく、
Al:HfO=40:60〜25:75がさらに好ましい。
上記範囲の組成比とすることにより、当該第二パッシベーション層4における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0034】
上記範囲の組成比を有する、Al、Hf、Oからなる第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4をそれぞれ形成することによって、本発明にかかる太陽電池10の変換効率を高めることができる。
当該第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、前述のPLD法によって形成できる。この際、例えば図11に示す成膜装置が適用可能である。
【0035】
図11に示す、本発明にかかる太陽電池のパッシベーション膜の形成に用いる成膜装置60では、エキシマレーザー51をTargetA52またはTargetB53に照射してプルーム54を発生させる。光電変換部57(基板)の一方の面をプルーム54側に向けて、可動マスク55を光電変換部57とプルーム54との間に挿入し、可動マスク55の開口部56の動きを制御することによって、光電変換部57の一方の面に第一パッシベーション層を形成できる。次に、光電変換部57の他方の面をプルーム54側に向けることによって、第一パッシベーション層と同様の方法で、第二パッシベーション層を前記他方の面に形成できる。なお、図11では、成膜室58内の雰囲気は、真空ポンプP、ガス流入口G等により適宜調整される。基板温度の調整はヒーター(不図示)で調整される。
このような成膜装置を用いれば、ターゲットを交換し、可動マスクの動き(図中では両方矢印で示す)を制御することによって、同一の元素からなり、異なる元素組成比を有する第一パッシベーション層および第二パッシベーション層を、単一の成膜装置によって形成できる。
【0036】
<HfとYとOから構成されるパッシベーション層>
第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、HfとYとOから構成される場合、HfとYとの比においてHfが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Yの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜であることが好ましい。
このような薄膜では、例えば第一パッシベーション層3におけるHfとYとの組成比をHf<Yとすることによって、当該第一パッシベーション層3の固定電荷を正側に大きくすることができる。同様に、例えば第二パッシベーション層4では、Hf>Yとすることによって、当該第二パッシベーション層4の固定電荷を負側に大きくすることができる。
【0037】
前記HfとYとOから構成される第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4としては、例えばハフニウム酸化物(HfO)とイットリウム酸化物(Y)とをそれぞれ特定の割合で混在させた薄膜が挙げられる。ここで、前記酸化物の組成式におけるOの下付き文字yおよびzは、それぞれ独立に任意の正の数である。
この場合、前記「Hfが主体の組成域」とは、「HfOが主体の組成域」を意味する。また、前記「Yの割合を増すにつれ、」とは、「Yの割合を増すにつれ、」を意味する。
このような薄膜は、例えばHfOからなるターゲットおよびYからなるターゲットを使用したPLD法(Pulsed Laser Deposition法)、またはスパッタ法、CVD法等によって成膜することができる。
【0038】
第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4における、HfOとYとの組成比は、例えば図5に示すC−V特性のグラフにおけるVfbのシフトする程度に基づいて、所望の割合に設定することができる。
【0039】
図5が示す試料薄膜S2のC−V特性グラフは、図3に示す構成の試料薄膜S2のP1〜P5の位置で測定して得られたデータをプロットしたものである。また、得られたデータを表2に示す。
前記試料薄膜S2は、SiO薄膜を形成したシリコン基板上に、HfO100%の領域(P1)〜Y100%の領域(P5)へ、2つの化合物の組成比が漸次変化するように形成されたものである。
【0040】
【表2】

【0041】
試料薄膜S2は、可動マスクとHfOからなるターゲット(Target A)およびYからなるターゲット(Target B)を使用した、コンビナトリアルPLD成膜法によって形成できる。
具体的には、酸素雰囲気下(1.0×10−5Torr)、シリコン基板温度を300℃とし、KrFエキシマレーザ(波長248nm、エネルギー密度0.5J/cm)を、HfO(ターゲット純度98.0%)に対しては繰り返し周波数5Hzで、Y(ターゲット純度99.9%)に対しては繰り返し周波数3Hzで照射し、組成傾斜膜として形成する方法が例示できる。
その後、Ptからなるゲート電極を、直径0.1mmの円形マスクを使用して、高さ50nmとなるように、マグネトロンスパッタ法(アルゴン雰囲気:3.6cm/min)で形成すればよい。
【0042】
図3は試料薄膜の概略構成図を示し、シリコン基板(p−Si)上のSiO上に試料薄膜S2を設け、さらにその上にゲート電極を等間隔にP1〜P5の5箇所設けたものである。試料薄膜S2は、コンビナトリアルPLD成膜法により薄膜を形成しているため、図3においては試料薄膜S2上の左側(P1)がA(HfO)100%であり、右側(P5)がB(Y)100%となっている。したがって、P2ではA:B組成比=75:25、P3ではA:B組成比=50:50、P4ではA:B組成比=25:75となっている。なお、ゲート電極を設けたのは試料薄膜S2のC−V特性を測定するためである。
【0043】
図5のC−V特性グラフでは、膜中の固定電荷を反映してヒステリシスが存在する。P1(HfO100%)では膜中の負の固定電荷に対応してVfbが正の値を持つ。P2〜P4ではAl、の組成比が増すにつれてVfbが負の方向へシフトしている。
P4のVfbは、P5のVfbよりも負の方向にシフトしている。
【0044】
試料薄膜S2の表面におけるキャリアライフタイムを測定した結果を図6に示す。
試料薄膜S2の上面から見た場合の、表面におけるμ‐PCDマッピングを図7に示す。
【0045】
図5〜7の結果から、n型導電層上の第一パッシベーション層3におけるHfOとYとの組成比は、
HfO:Y=40:60〜0.1:99.9が好ましく、
HfO:Y=30:70〜10:90がより好ましく、
HfO:Y=25:75〜15:85がさらに好ましい。
上記範囲の組成比とすることにより、当該第一パッシベーション層3における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0046】
また、図5〜7の結果から、p型導電層上の第二パッシベーション層4におけるHfOとYとの組成比は、
HfO:Y=50:50〜99.9:0.1が好ましく、
HfO:Y=60:40〜90:10がより好ましく、
HfO:Y=65:35〜75:25がさらに好ましい。
上記範囲の組成比とすることにより、当該第二パッシベーション層4における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0047】
上記範囲の組成比を有する、Hf、Y、Oからなる第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4をそれぞれ形成することによって、本発明にかかる太陽電池10の変換効率を高めることができる。
当該第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、前述のPLD法によって形成できる。この際、例えば図11に示す成膜装置が適用可能である。
【0048】
<AlとYとOから構成されるパッシベーション層>
第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、AlとYとOから構成される場合、AlとYとの比においてAlが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Yの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜であることが好ましい。
このような薄膜では、例えば第一パッシベーション層3におけるAlとYとの組成比をAl<Yとすることによって、当該第一パッシベーション層3の固定電荷を正側に大きくすることができる。同様に、例えば第二パッシベーション層4では、Al>Yとすることによって、当該第二パッシベーション層4の固定電荷を負側に大きくすることができる。
【0049】
前記AlとYとOから構成される第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4としては、例えば酸化アルミニウム(Al)と酸化イットリウム(Y)とをそれぞれ特定の割合で混在させた薄膜が挙げられる。ここで、前記酸化物の組成式におけるOの下付き文字xおよびzは、それぞれ独立に任意の正の数である。この場合、前記「Alが主体の組成域」とは、「Alが主体の組成域」を意味する。また、前記「Yの割合を増すにつれ、」とは、「Yの割合を増すにつれ、」を意味する。
このような薄膜は、例えばAlからなるターゲットおよびYからなるターゲットを使用したPLD法(Pulsed Laser Deposition法)、またはスパッタ法、CVD法等によって成膜することができる。
【0050】
第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4における、AlとYとの組成比は、例えば図8に示すC−V特性のグラフにおけるVfbのシフトする程度に基づいて、所望の割合に設定することができる。
【0051】
図8に示す試料薄膜S3のC−V特性グラフは、図3に示す構成の試料薄膜S3のP1〜P5の位置で測定して得られたデータをプロットしたものである。また、得られたデータを表3に示す。
前記試料薄膜S3は、SiO薄膜を形成したシリコン基板上に、Al100%の領域(P1)〜Y100%の領域(P5)へ、2つの化合物の組成比が漸次変化するように形成されたものである。
【0052】
【表3】

【0053】
試料薄膜S3は、可動マスクとAlからなるターゲット(Target A)およびYからなるターゲット(Target B)を使用した、コンビナトリアルPLD成膜法によって形成できる。
具体的には、酸素雰囲気下(1.0×10−5Torr)、シリコン基板温度を300℃とし、KrFエキシマレーザ(波長248nm、エネルギー密度0.5J/cm2)を、Al(ターゲット純度99.99%)に対しては繰り返し周波数5Hzで、Y(ターゲット純度99.9%)に対しては繰り返し周波数3Hzで照射し、組成傾斜膜として形成する方法が例示できる。
【0054】
本発明において、前記組成傾斜膜の形成後、熱処理を行ない、試料薄膜S4としてもよい。熱処理の方法としては例えば酸素雰囲気下のRTA(Rapid Thermal Annealing)処理が挙げられる。PLDによって形成した前記組成傾斜膜は、酸素雰囲気にて成膜を行っているが、酸化物の組成が若干変化していることがある。特に、絶縁膜自体が酸素欠損状態になっていることが考えられ、前記RTA処理によって、前記酸素欠損を補うことができる。
【0055】
前記RTAの具体的な手段として、PLDによって形成した前記組成傾斜膜を酸素雰囲気(N+O[5%])の加熱炉の中に入れて10分放置し、その後、700℃で1分間の熱処理を行い、十分に加熱炉内が冷めた後に、熱処理後の組成傾斜膜を取り出し、試料薄膜S4とすればよい。
【0056】
その後、Ptからなるゲート電極を、直径0.1mmの円形マスクを使用して、高さ50nmとなるように、マグネトロンスパッタ法(アルゴン雰囲気:3.6cm/min)で形成すればよい。
【0057】
図3は試料薄膜の概略構成図を示し、シリコン基板(p−Si)上のSiO上に試料薄膜S3を設け、さらにその上にゲート電極を等間隔にP1〜P5の5箇所設けたものである。試料薄膜S3は、コンビナトリアルPLD成膜法により薄膜を形成しているため、図3においては試料薄膜S1上の左側(P1)がA(Al)100%であり、右側(P5)がB(Y)100%となっている。したがって、P2ではA:B組成比=75:25、P3ではA:B組成比=50:50、P4ではA:B組成比=25:75となっている。なお、ゲート電極を設けたのは試料薄膜S3のC−V特性を測定するためである。
【0058】
図8のC−V特性グラフでは、膜中の固定電荷を反映してヒステリシスが存在する。P1(Al100%)では膜中の負の固定電荷に対応してVfbが正の値を持つ。P2〜P4では、Yの組成比が増すにつれてVfbが負の方向へシフトしている。
P4のVfbは、P5のVfbよりも負の方向にシフトしている。
【0059】
図9に示す、試料薄膜S4の組成とVfbの関係を示すグラフではP1〜P2の間で膜中の負の固定電荷に対応してVfbが正の最大となり、P4付近で膜中の正の固定電荷に対応してVfbが負の最大となっている。
また、図9の破線は電圧の掃引方向が正から負の場合のVfbの値、実線は電圧の掃引方向が負から正の場合のVfbの値を示す。
【0060】
図8および図9の結果から、n型導電層上の第一パッシベーション層3におけるAlとYとの組成比は、
Al:Y=40:60〜0.1:99.9が好ましく、
Al:Y=35:65〜10:90がより好ましく、
Al:Y=30:70〜20:80がさらに好ましい。
上記範囲の組成比とすることにより、当該第一パッシベーション層3における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0061】
また、図8および図9の結果から、p型導電層上の第二パッシベーション層4におけるAlとYとの組成比は、
Al:Y=60:40〜99.9:0.1が好ましく、
Al:Y=70:30〜99.9:0.1がより好ましく、
Al:Y=80:20〜90:10がさらに好ましい。
上記範囲の組成比とすることにより、当該第二パッシベーション層4における表面再結合速度を低減し、当該太陽電池の変換効率を高められる。
【0062】
上記範囲の組成比を有する、Al、Y、Oからなる第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4をそれぞれ形成することによって、本発明にかかる太陽電池10の変換効率を高めることができる。
当該第一パッシベーション層3および第二パッシベーション層4は、前述のPLD法によって形成できる。この際、例えば図11に示す成膜装置が適用可能である。
【0063】
本発明にかかる太陽電池の構成としては、図10に示す太陽電池20の構成も例示できる。図10の太陽電池20は、一方の面を第一導電型層11、他方の面を第二導電型層12としてなる光電変換部と、第一導電型層11を覆うように配された第一パッシベーション層13および第二導電型層12を覆うように配された第二パッシベーション層14と、第一導電型層11上に配された第一電極5および第二導電型層12上に配された第二電極16と、を少なくとも備える。
第二導電型層12の表面には、裏面電界効果を得るために第二導電型層と同じ導電型の不純物をドープした高濃度不純物拡散領域17が設けられている。高濃度不純物拡散領域17の表面には第二パッシベーション層14が除かれた開口部があり、高濃度不純物拡散領域17と第二電極16とが直接コンタクトしている。
【0064】
以上で説明した太陽電池10,20は、その光電変換部が、無機半導体、有機半導体または化合物半導体からなる結晶であってもよいし、無機半導体、有機半導体または化合物半導体からなる薄膜であってもよい。
例えば、第一導電型層11が結晶シリコン基板にP(リン)をドープしたn型導電層であり、第二導電型層12が結晶シリコン基板にB(ボロン)をドープしたp型導電層である場合が挙げられる。
以上に示した実施例においては、Al,Y,およびHfから選ばれる2種の元素の酸化物を含むパッシベーション層を例示したが、本発明におけるパッシベーション膜はこれらに何ら限定されることなく、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の酸化物を含むものであってもよく、また、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の窒化物を含むものであってもよい。また、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の酸化物及び窒化物の両方を含むものであってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…第一導電型層、2…第二導電型層、3…第一パッシベーション層、4…第二パッシベーション層、5…第一電極、6…第二電極、10…太陽電池、11…第一導電型層、12…第二導電型層、13…第一パッシベーション層、14…第二パッシベーション層、15…第一電極、16…第二電極、17…高濃度不純物拡散領域、20…太陽電池、51…エキシマレーザー、52…TargetA、53…TargetB、54…プルーム、55…可動マスク、56…開口部、57…光電変換部、58…成膜室、P…真空ポンプ、G…ガス流入口、60…成膜装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面を第一導電型層、他方の面を第二導電型層としてなる光電変換部と、前記第一導電型層を覆うように配された第一パッシベーション層および前記第二導電型層を覆うように配された第二パッシベーション層と、前記第一導電型層上に配された第一電極および前記第二導電型層上に配された第二電極と、を少なくとも備えた太陽電池であって、
前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、同じ構成元素からなり、前記構成元素として、金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素と、酸素および/または窒素とを含み、かつ、前記金属元素および半金属元素の中から選択される2つの元素の組成比が、前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層において異なる、ことを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記金属元素および半金属元素が、以下の元素群αであることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池。
前記元素群αは、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ルテチウム(Lu)、およびストロンチウム(Sr)である。
【請求項3】
前記第一導電型層をn型半導体層、前記第二導電型層をp型半導体層とした場合、
前記第一パッシベーション層は正の固定電荷を、前記第二パッシベーション層は負の固定電荷を、それぞれ有することを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、HfとAlとOから構成される場合、HfとAlとの比においてAlが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Hfの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、HfとYとOから構成される場合、HfとYとの比においてHfが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Yの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記第一パッシベーション層および前記第二パッシベーション層は、C−V特性のグラフにおいてフラットバンド(Vfb)が観測されるものであり、かつ、AlとYとOから構成される場合、AlとYとの比においてAlが主体の組成域では、負の固定電荷に対応して前記Vfbが正の値をもち、Yの割合が増すにつれ、その組成域で前記Vfbが負の方向にシフトする薄膜である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記光電変換部が、無機半導体、有機半導体または化合物半導体からなる結晶である、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記光電変換部が、無機半導体、有機半導体または化合物半導体からなる薄膜である、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−33538(P2012−33538A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169323(P2010−169323)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】