妊娠性疾患のスクリーニング
本発明は、妊娠糖尿病、子癇前症、および妊娠高血圧をもつまたはもちやすい対象を同定するための方法ならびに組成物に関する。方法は、尿および/または血液試料に適用でき、妊娠の第三期の前に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、妊娠性疾患のスクリーニング、およびより具体的には、妊娠性疾患を示す妊娠した対象から得られた生体試料に存在するバイオマーカーのスクリーニングに関する。
【0002】
連邦政府の資金援助による研究に関する言明
本発明は、National Institutes of Healthにより与えられたHD39223による政府支援でなされた。従って、政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
妊娠糖尿病(GDM)および妊娠高血圧症候群(pregnancy-induced hypertension)(PIH)は、それぞれ、すべての妊娠の2〜3%および5〜10%に合併する。これらの疾患は、妊娠の第三期に起こることがあり、有意な母親および胎児の罹患率および死亡率に繋がる。妊娠糖尿病は、妊娠中の耐糖能異常の新たな発症または新たな診断として記載され、肩甲難産および出産時外傷のような巨大児に関連した胎児合併症を伴う。さらに、GDMは、帝王切開術率の増加およびPIHのリスクの増加と関連している。PIHは、早期陣痛、帝王切開術率の増加、急性腎不全、肝機能異常、卒中、凝固障害および死と関連している。胎児について、PIHは、出生時低体重、新生児集中治療の延長、および子宮内死と関連している。
【0004】
PIH関連疾患は、子癇前症(PE)および妊娠高血圧(gestational hypertension)(GH)を含む。子癇前症は、妊娠の第20週目後に発生する高血圧、腫脹(浮腫)、および尿中のタンパク質(アルブミン尿、タンパク尿)の組み合わせとして特徴付けられる。子癇前症は、重症度において軽症から重症まで様々である;軽症型は、時々、タンパク尿性妊娠高血圧症候群またはタンパク尿性妊娠高血圧と呼ばれる。妊娠(一過性)高血圧は、一般的に、タンパク尿または異常な浮腫なしに、かつ出産後10日間以内に消散する、妊娠期間または初期産褥期における高血圧の急性発症として特徴付けられる。
【0005】
子癇前症および子癇を発症するリスクが高い個体は、多胎妊娠、奇胎妊娠もしくは胎児水腫、慢性高血圧もしくは糖尿病、または子癇もしくは子癇前症の家族歴をもつ初妊婦および女性を含む。子癇前症(PE)および妊娠高血圧(GH)は、PIHの型である。
【0006】
GDMに起因するPIHを含むPIHについての現在の標準的治療は、しばしば胎児の健康を犠牲にしての、分娩である。カルシウム補給およびアスピリン治療を含むPIHを防ぐための予防ストラテジーは、ほとんど不成功であった。これらの試みが失敗した一つの理由は、スクリーニング検査の欠如が、妊娠結果を修正するのに十分早期に治療的介入を施す能力を制限していることである。例えば、浮腫およびタンパク尿の出現だけによりPEを診断することは、浮腫は正常な妊娠によくあることであり、かつ測定可能なタンパク尿は、通常、高血圧が現れた後のみ生じるため、信頼できない。それゆえに、そのような検査は特異性を欠き、妊娠の第三期における疾患の徴候の前にGDMまたはPIHを検出することができない。
【0007】
現在、妊娠の第三期の前にGDMまたはPIHを発症するリスクがある女性を信頼性をもって同定する単一の生化学マーカーまたは複数の生化学マーカーはない。従って、妊娠性疾患のリスクがある女性についての治療の早期実行および妊娠結果の改善へと導く診断方法および組成物の必要性が存在している。
【発明の開示】
【0008】
概要
本発明は、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)および/または胎盤性成長因子(PlGF)が、妊娠合併症、子癇前症、妊娠糖尿病、および妊娠高血圧のいずれかを発症するリスクについての初期指標として用いられうるという発見に基づいている。SHBGおよびPlGFについてのアッセイは、簡単かつ安価であり、受胎後5週間くらいの第一期中に行うことができ、女性側に何の準備も必要としない(例えば、検査は、絶食または非絶食条件下で行うことができる)。従って、本発明は、様々な妊娠合併症を発症するリスクの指標として、SHBGのようなインスリン抵抗性バイオマーカー、インターロイキン-6(IL-6)のようなサイトカイン、およびPlGFおよび可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt1)のような血管新生性バイオマーカーを利用するための方法を提供する。
【0009】
一般的に、本発明は、妊娠の第一期または第二期中に(例えば、受胎後5週間目において、または受胎後6〜12週間の間における任意の時期において、または8、10、12、14、16、18、20もしくは24週間目において)、妊婦から、血液または血清のような生体試料を得る段階;ならびに、試料において、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、またはSHBGおよびPlGFのレベルを測定する段階により、妊娠中の子癇前症、妊娠糖尿病および/または妊娠高血圧のような妊娠性疾患を発症する女性のリスクを測定する方法を特徴とする;試料におけるSHBG、またはSHBGおよびPlGFのレベルは、子癇前症、妊娠糖尿病、または妊娠高血圧を発症するリスクのレベルを示す。これらの方法において、試料は、絶食時または非絶食時試料でありうる。新しい方法は、妊娠糖尿病、妊娠高血圧、および子癇前症のすべてまたはいずれか1つもしくは複数のリスクのレベルを評価するために用いられうる。PlGFはまた、尿試料において検出されうる。
【0010】
特定の態様において、方法は、妊娠した対象から得られた生体試料、例えば、血清または血液の試料においてSHBGのレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られた生体試料、例えば、血清、血液または尿の試料においてPlGFのレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られたSHBGレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階;および、妊娠した対象から得られたPlGFレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたPlGFレベルと比較する段階を含む。正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGおよびPlGFの低レベルは、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことを示す。
【0011】
もう一つの局面において、SHBGおよび/またはPlGFレベルは、以下のものと相関している:1)SHBGおよびPlGFレベルが測定された時点における妊娠週齢;2)妊娠した対象の年齢;3)妊娠した対象の経産回数;および4)妊娠した対象の体格指数。
【0012】
もう一つの局面において、方法は、対象の生体試料、例えば、尿、血液または血清試料において少なくとも1つのサイトカインまたは成長因子(または両方)のレベルを測定する段階、および1つの値または複数の値を含む対象のプロファイルを作成する段階であって、各値が、特定のサイトカイン、SHBGおよび/またはPlGFのレベルを表している段階、ならびに、対象のプロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つの値または複数の値を含み、各値が、参照対象から得られた参照尿試料における特定のサイトカイン、SHBGおよび/またはPlGFのレベルを表している段階をさらに含む。サイトカインは、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、またはケモカインでありうる。例は、インターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1もしくはTNF-α、またはそれらの組み合わせを含む。参照プロファイルは、サイトカインを含む、または含むと考えられる、任意の源から得られた試料から作成されうる。サイトカインおよび/または成長因子の参照レベルは、参照プロファイルを作成するために用いられうる。例えば、参照プロファイルは、参照対象の尿、血清、血漿、羊水、または胎盤組織から得られうる。参照対象は、妊娠性疾患をもつ妊娠した個体または正常な妊娠をしている妊娠した個体でありうる。
【0013】
本発明の方法は、妊娠した対象から得られた試料を、SHBGおよび/またはPlGFに特異的な固定化された生体分子のアレイと接触させる段階および生体分子の改変を検出する段階により達成されうる。改変は、試料におけるSHBGおよび/またはPlGFのレベルを示し、生体分子のSHBGもしくはPlGFへの安定したまたは一過性の結合を含みうる。対象SHBGおよびPlGFレベルは、参照対象から得られた参照レベルと比較されうる。参照レベルは、さらに、1つまたは複数の参照対象から参照プロファイルを作成するために用いられうる。一つの局面において、生体分子は、モノクローナル抗体のような抗体である。もう一つの局面において、生体分子は、サイトカインを特異的に認識するウイルス抗原のような抗原である。さらにもう一つの局面において、生体分子は、受容体である。
【0014】
もう一つの局面において、本発明は、妊娠性疾患を検出するためのアレイを特徴とする。これらのアレイは、複数のアドレスを有する基板を含み、各アドレスは、その上に1つまたは複数の生体分子の1セットを配置しており、セットにおける各生体分子は、同じ分子を特異的に検出する;ここで1つまたは複数の生体分子の第一セットは、SHBGを特異的に検出し、1つまたは複数の生体分子の第二セットは、PlGFを特異的に検出する。アレイは、例えば、インターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1、またはTNF-αのようなサイトカインを特異的に検出する生体分子をさらに含みうる。一つの局面において、本発明のアレイは、例えば、可溶性fms様チロシンキナーゼ-1受容体(sFlt-1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、または線維芽細胞成長因子(FGF)-2のような少なくとも1つの成長因子を特異的に検出する固定化された成長因子特異的生体分子をそれに配置している少なくとも2つのアドレスをさらに含む。
【0015】
本発明はまた、妊娠性疾患を検出するためのあらかじめパッケージされた診断キットを特徴とする。キットは、本明細書に記載されているようなアレイ、および妊娠性疾患を検出しうる生体試料、例えば、尿、血液または血清試料、を検査するためにアレイを用いる際の使用説明書を含みうる。
【0016】
本発明はまた、妊娠性疾患を処置するために施される治療の効力を測定するための方法、例えば、新しいアレイを用いる方法を含む。これらの方法は、妊娠性疾患についての治療を受けた妊娠した患者から得られた試料とアレイを接触させる段階を含む。SHBGおよび/またはPlGFのレベルは測定され、治療の実施の前または後に患者から得られた試料において検出されたSHBGおよび/またはPlGFのレベルと比較されうる。その後、介護人には、さらなる評価のための比較情報が提供されうる。
【0017】
さらに、対象プロファイルは、デジタルコード化した参照プロファイルの複数を含むデータベースを含むか、または、それにアクセスできるコンピュータシステムへ入力されうる。複数の各プロファイルは、複数の値を有し、各値は、妊娠性疾患をもつまたはもちやすい妊娠した個体のSHBGおよび/またはPlGFのレベルを表している。この様式において、単一の対象プロファイルは、参照値に基づいて、妊娠性疾患を発症するリスクがある対象を同定するために用いられうる。
【0018】
従って、他の局面において、本発明はまた、1つまたは複数のデジタルコード化参照プロファイルを含むデータベースを含むコンピュータ可読媒体を特徴とし、第一参照プロファイルは、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるSHBGのレベルを表し、および任意で、第二参照プロファイルが妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるPlGFのレベルを表す。
【0019】
本発明はまた、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定するためのコンピュータシステムを特徴とする。これらのシステムは、1つまたは複数のデジタルコード化参照プロファイルを有するデータベースであって、第一参照プロファイルは、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるSHBGのレベルを表し、および任意で、第二参照プロファイルが妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるPlGFのレベルを表す、データベース;ならびに、コンピュータに以下のことをさせるためのコンピュータ実行可能コードを含むサーバーを含む:i)対象由来の試料において検出されたSHBGのレベル、またはSHBGおよびPlGFのレベルを含む妊娠した対象のプロファイルを受けること;ii)妊娠した対象プロファイルに診断的に関連している適合した参照プロファイルをデータベースから同定すること;およびiii)対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかについての表示(indication)を作成すること。
【0020】
リスクがある女性を同定するためのそれらの使用に加えて、新しい方法は、妊娠合併症のリスクがない女性を同定し、それに従って、妊娠中に後から追加で検査する必要がないように、すべての妊婦について日常的なスクリーニングまたは「プレスクリーニング」として用いられうる。
【0021】
本明細書に用いられる場合、用語「生物学的分子(biological molecules)」および「生体分子(biomolecules)」は、交換可能に用いられうる。これらの用語は、広く解釈され、一般的に、ポリペプチド、ペプチド、オリゴ糖、多糖、オリゴペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドを含むように意図されている。オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、例えば、DNAおよびRNA、例えば、アプタマーの形をとったものを含む。生体分子はまた、有機化合物、有機金属化合物、有機および有機金属化合物の塩、糖、アミノ酸およびヌクレオチド、脂質、炭水化物、薬物、ステロイド、レクチン、ビタミン、ミネラル、代謝産物、補因子、ならびに補酵素を含む。生体分子はさらに、記載された分子の誘導体を含む。例えば、生体分子の誘導体は、抗体のような、オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質の脂質ならびにグリコシル化誘導体を含む。生体分子の誘導体のさらなる例は、オリゴ糖および多糖の脂質誘導体、例えば、リポ多糖を含む。
【0022】
他に規定がない限り、本明細書で用いられるすべての技術的および科学的用語は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと類似したまたは等価の方法および材料は、本発明の実施または検査に用いられうるが、適した方法および材料は下に記載されている。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、全体として参照により組み入れられている。不一致がある場合、定義を含む本明細書が支配するものとする。さらに、材料、方法および実施例は、例証となるのみであり、限定することを意図されない。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかであると思われる。
【0024】
詳細な説明
妊娠高血圧症候群(PIH)および妊娠糖尿病(GDM)のような妊娠性疾患は、妊娠の第三期に起こり、有意な母親および胎児の罹患率および死亡率に繋がる。現在、妊娠の初期にいずれの疾患の発生も予測する有効な実験室検査はない。診断は、一般的に、症状が現れる第三期の間に、または日常的な血圧および血糖値スクリーニングでなされる。これらの疾患を予測しうる診断検査の決定的な欠如が、予防的治療剤を同定する研究者の能力を妨げている;現在の予防ストラテジーは、これらの介入が、妊娠結果を変える可能性が制限される妊娠期間の遅くに開始されるため、大部分は失敗した。さらに、初期予測マーカーの欠如は、高リスクの女性において予防的治療を実行する臨床医の能力を制限する。
【0025】
子癇前症(PE)は、病因が十分には理解されていない内皮細胞疾患である。sFlt1、血管内皮増殖因子(VEGF)および胎盤成長因子(PlGF)に対する内因性インヒビターの投与が結果として、動物においてPEとの表現型類似点を生じたように、PEは、血管新生関連タンパク質の発現における変化と関連していた。実際に、低レベルの血清PlGFおよびVEGF(血管新生促進性)およびsFlt-1(抗血管新生)のレベルの増加は、臨床症状の発生より前に起こるように見える。従って、本明細書に記載されているように、低レベルのPlGFは子癇前症に関連している。
【0026】
しかしながら、血管新生における変化に加えて、PEを発症する女性はまた、インスリン抵抗性の徴候を有する。妊娠を除くインビトロのモデルは、インスリンシグナル伝達および血管新生が親密に関連していることを示唆している。例えば、インスリンは、内皮細胞においてVEGF mRNAの発現を活性化し、インスリンおよびVEGFの両方のシグナル伝達は、酸化窒素生成へと導く。インスリン抵抗性症候群は、糖尿病、高血圧および心血管疾患のリスクの増加を与える一群の代謝系異常から構成される。肥満、高血圧、異常脂質血症、全身性炎症、および線維素溶解の低下のようなインスリン抵抗性症候群もまた、子癇前症と関連している。さらに、多嚢胞性卵巣症候群または妊娠糖尿病(2つの疾患はインスリン抵抗性を特徴とする)をもつ女性は、子癇前症のリスクが増加している。
【0027】
正常なインスリンシグナル伝達および血管新生の両方は、内皮細胞の健康を維持するため、先在するインスリン抵抗性をもつ女性は、血管形成誘導因子における変化に対する過度の応答をもち、両方の経路における変化は、相乗的にPEのリスクを拡大するように作用する。本発明は、インスリン抵抗性と血管新生の間に相互作用が存在するという疫学的証拠を提供する。
【0028】
本発明は、SHBGのようなインスリン抵抗性バイオマーカーおよびPlGFのような血管新生のバイオマーカーを、様々な妊娠合併症を発症するリスクの指標として利用するための方法を提供する。SHBGおよびPlGFレベルは、妊娠性疾患を発症する対象の可能性を予測するために、サイトカインまたは成長因子のような他のバイオマーカーレベルと共に用いられうる。重要なことには、インスリン抵抗性の他のマーカーと違って、SHBGは、絶食または非絶食状態において信頼性があり、最小の日内変動を示す(Hamilton-Fairley et al., Clin. Endocrinol. (Oxford), 43:159 (1995))。これらの特徴は、SHBGをインスリン抵抗性の固有のマーカーにし、特に、出産前の産科的管理中のように、絶食時血液試料が日常的には収集されない場合の臨床的状況において有用である。
【0029】
性ホルモン結合グロブリン(SHBG)は、循環エストロゲンおよびテストステロンを結合する、肝臓により合成される糖タンパク質である。肝臓のSHBG産生は、インスリンにより抑制され、従って、SHBGレベルの低下は、インスリン過剰血症およびインスリン抵抗性のマーカーである。インスリン抵抗性の指標としてのSHBG測定の臨床的有用性は、SHBGレベルの低下が、他の点では健康な女性において将来のII型糖尿病のリスクの増加と関連しているという研究において確立された(例えば、Lindstedt et al., Diabetes, 40:123 (1991)およびHaffner et al., J. Clin. Endocrinol. Metab., 77:56 (1993)参照)。正常な妊娠において、SHBGレベルは、第一期および第二期中に絶え間なく上昇し、正常な妊娠していない範囲の4〜6倍のピークに達する。妊娠の第一期中、SHBGレベルは、健康に月経がある女性における正常な範囲より3〜5倍上に増加する(Kerlan et al., Clin. Endocrinol. (Oxford), 40:253 (1994), O'Leary et al., Clin. Chem., 37:667 (1991))。このSHBGレベルにおける初期妊娠期間の増加は、第一期中のみ、ほとんど20倍上昇するエストラジオールレベルにおける同時発生の増加に酷似している(同上)。
【0030】
エストラジオールレベルは、出産まで、正常な妊娠していない初期卵胞期範囲の100倍より大きいレベルに達するように、妊娠の終わりまで上昇し続ける。対照的に、SHBGは、妊娠24週間以内に、正常な妊娠していない範囲の4〜6倍のレベルでピークに達し、その後レベルは、妊娠期間を通して一定のままである。インスリン抵抗性およびインスリンレベルはまた、通常の妊娠期間中、漸進的に増加するが、最大増加は、妊娠の後期中に生じる(例えば、Catalano et al., Am. J. Obstet. Gynecol., 165:1667 (1991), Stanley et al., Br. J. Obset. Gynaecol., 105:756 (1998)参照)。第三期中のインスリン抵抗性のこの生理学的増加は、SHBGレベルのさらなる増加を妨げることがあり、そうでなければSHBGレベルはエストラジオールレベルの漸進的増加を設定する際に予想される。
【0031】
第一期SHBGおよびPlGFレベルと、一変量および多変量分析における有害な妊娠結果との間の本明細書で同定された関連は、インスリン抵抗性が、子癇前症、妊娠高血圧、および妊娠糖尿病に寄与することを示している。さらになお、第一期SHBG測定は、これらの疾患のリスクが高い女性を同定するための有用なスクリーニング方法であることを実証している。
【0032】
リスクのある対象を同定する方法
インスリン抵抗性および代謝症候群は、子癇前症(PE)を発症する女性を特徴付ける。血管新生関連成長因子(PlGF)およびそれらのインヒビター(sFlt1)は、PEの発症と関連していた。本発明は、PEにおける、母体要因(例えば、インスリン抵抗性)のレベルおよび胎盤要因(例えば、PlGFおよびsFlt1のような血管新生の指標)のレベルは、子癇前症のような妊娠性疾患を発症する妊婦のリスクを疫学的に予測するために、相関されうる(すなわち、それらは、相加的な傷害の原因である)という最初の証拠を提供する。より具体的には、2つの経路、インスリン抵抗性(例えば、異常なSHBGまたはサイトカイン(IL-6のような)レベルにより証明されるような)および血管新生(例えば、低PlGFまたは高sFlt1により証明されるような)、における変化は、組み合わされた場合、妊娠性疾患を予測するために用いられうる。
【0033】
代謝症候群およびインスリン抵抗性(インスリンレベルの上昇、グルコースレベルの変化、この症候群のマーカー、すなわち性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の低レベル、脂質レベルの上昇、体格指数の上昇、炎症性マーカーの上昇、および凝固因子の変化を含むインスリン抵抗性の測定により特徴付けられる)は、心血管疾患および糖尿病のリスクを含む子癇前症および関連疾患のリスクの増加を与えるように、血管形成誘導因子と疫学的および生物学的に相互作用する。SHBGは、PlGFおよびsFlt1に有意な量の説明的情報(予測的情報)を加え、その組み合わせは、リスクのある対象を同定するための機構を提供する。
【0034】
新しい方法で用いる、妊娠中のSHBGレベルにおける自然増加のために、かつSHBGレベルに影響を及ぼすことが知られている他の因子を考慮すれば、SHBGレベルの結果は、妊娠への週の数(すなわち、血液採取時点における妊娠週齢)について調整されうる。さらに、SHBGのレベルはまた、年齢、妊娠週齢、人種、エストラジオールおよびテストステロンのレベル、ならびに体格指数(BMI)の1つまたは複数について調整されうる。
【0035】
検査集団のベースライン特徴は、表1(下の実施例における)に示されている。子癇前症(PE)を発症した女性は、未経産である可能性がより高く、より高い体格指数をもち、かつ正常血圧の対照と比較してより高い収縮期血圧をもつ女性であった。さらに、出産時の妊娠週齢はより早期であり、胎児の出生時体重は対照と比較してPEを発症した女性の間でより少なかった。
【0036】
出産前の最初の通院血液収集により、胎盤成長因子(PlGF)および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の血清レベルが、正常血圧の対照と比較して、その後にPEを発症した女性の間で有意により低かったことが明らかにされた(実施例における表2)。この妊娠初期において、sFlt1の血清レベルは2つの群の間で際立った差はなかったが、トレンド(trend)は、PEを発症した女性が、この妊娠初期においてさえも上昇したレベルをもつことを示唆した。PlGFとSHBGの間の相関は、強く正であり(r=0.58, P<0.001)、低ベースラインレベルのPlGFをもつ女性もまた、低レベルの血清SHBGをもつことを示唆した。sFlt1とSHBGの間の相関は、r=0.17、P=0.10であった。
【0037】
PlGFの血清レベルは、その後、対照集団の第25百分位数に基づいた切点(≦20 pg/ml対>20 pg/ml)をもつ2項変数(低い対高い)へ分類された。未調整の分析において、低いベースライン血清PlGFレベルをもつ女性は、高いベースラインPlGFレベルをもつ女性と比較して子癇前症を発症するリスクが6倍増加した(実施例における表3)。母親の年齢、血液収集の妊娠週齢、人種、経産回数、体格指数、収縮期血圧、ならびにsFlt-1およびSHBGの血清レベルについて調整した後、点推定値は、わずかに増加した(表3)。重要なことには、モデル適合度(曲線の下の領域)は、SHBGがモデルに加えられた場合、改善され(0.80〜0.86)、分析におけるSHBGの包含が、モデルの調整過剰を示さず、改善を示したことを示唆した。
【0038】
次に、特定点推定値層が、SHBGの低レベル(≦175 mg/dl)および高レベル(>175 mg/dl)に基づいて(この場合もやはり、対照の間で第25百分位数を示す)調べられた。これらの解析により、2つの層の間でPlGFについての著しく異なる点推定値が明らかにされた。SHBGの低い血清レベルをもつ女性の層において、PlGFの低い血清レベルをもつ女性の間での子癇前症のリスクは、25.5であり、一方、SHBGの高レベル(およびPlGFの低レベル)をもつ女性の間での推定値は、1.8であった(表3)。従って、層別解析におけるこれらの観察された点推定値の差は、PlGFの効果が、インスリン抵抗性の異なる程度により改変されたことを示唆した。相互作用または効果改変の示唆は、さらに探究された。
【0039】
一変量のモデルにおいて、相互作用項PlGFxSHBGは、統計学的に有意であった(ワルドp=0.02)。しかしながら、調整モデル(他の交絡要因、血清PlGF、sFlt1およびSHBGを含む)において、相互作用項は、もはや有意ではなく(ワルドp=0.10)、信頼区間は予想通り広がった。本発明者らは、その後、前に調べられた切点に基づいた相互作用項を、重要な交絡要因について調整した多変量モデルへ含めた。3つ(n-1)の相互作用項(高PlGFおよび高SHBG、および参照))をもつこのモデルにおいて、PlGFおよびSHBGの低い第一期レベルをもつ女性の間で子癇前症を発症するリスクは、低いPlGFレベルのみをもつ女性の間に見出されるリスクの約2倍、低いSHBGレベルのみをもつ女性の間でのリスクの約4倍であった(表3)。重要なことに、これらの推定値は、これらの解析が未経産(低PlGFおよび低SHBG、OR 13.8、95% CI 1.5〜124.2)または経産(OR、15.7、95% CI 0.9〜276.6)の女性に限定された場合、際立った違いはなく、経産回数におけるベースライン差は、本発明者らの発見を説明しないことを示唆した(他のデータ示さず)。
【0040】
図1に示された3-Dグラフは、参照対象より低いSHBGレベル(すなわち、<約175 nmol/L)および参照対象より低いPlGFレベル(すなわち、<約20 pg/ml/L)をもつ妊娠した対象は、妊娠性疾患を発症するリスクが増加していることを示している。グラフはまた、少なくとも以下の4つのリスクカテゴリーがあることを示している:非常に低いリスク、低いリスク、中間のリスク、および高いリスク。具体的には、低SHBGレベルおよび低PlGFレベルは、高いリスクに対応している。高SHGBレベルおよび高PlGFレベルは、非常に低いリスクに対応している。低SHGBレベルおよび高PlGFレベルは、低いリスクに対応している。高SHGBレベルおよび低PlGFレベルは、中間のリスクに対応している。低い、中間の、または高いリスクを示す結果をもつ女性は、その後、さらなる検査をしてもらうよう、および/または特定の疾患について処置されるよう取り計らうことができる。新しい検査は、それゆえに、リスクのある女性を決定するためだけでなく、将来の妊娠合併症のリスクがない女性を決定するために有用である。従って、新しい検査方法は、妊娠中のその後の必要のない検査を有意に減らすことができる。
【0041】
これらのデータは、循環血管形成誘導因子についてのマーカーおよびインスリン抵抗性についてのマーカーにおいて変化をもつ女性は、どちらかの測定においてのみ変化をもつ女性と比較して、かつどちらにも変化をもたない女性と比較して、子癇前症(PE)を発症するリスクが増加したという第一の証拠を提供する。具体的には、第一期において血清胎盤成長因子(PlGF)の低レベルをもつ女性は、その後のPEを発症するリスクが増加し、このリスクは、SHBG、つまりインスリン抵抗性の代理マーカーの低レベルももつ女性において際立っている。データは、PlGFレベルとPEのその後のリスクの関係がSHBGの血清レベルに依存して改変されたように、血清PlGFとSHBGの間に有意な相互作用があることを示している。
【0042】
有力な統計学的相互作用のこの発見はさらに、細胞内インスリンシグナル伝達と血管新生の間の重要な分子相互作用が生じることを示している。例えば、インスリンのインスリン受容体への結合は、特定のタンパク質キナーゼ(それらのうちの最も重要なのはタンパク質キナーゼBα/Aktキナーゼを含む)を含む様々なシグナル伝達経路の活性化へと導く。この重要な段階は、アポトーシス、代謝および増殖を含む細胞機能を支配する。さらに、インスリンはまた、血管内皮増殖因子(VEGF)mRNAの発現を含む血管新生に関与する遺伝子の発現を制御し、VEGF(および、おそらく、PlGF)シグナル伝達もまた、Aktリン酸化を活性化する。興味深いことに、糖尿病ラットは、VEGF mRNAの細胞発現の低下、インスリンにより救出されうる過程を示す。それゆえに、インスリン受容体における、または下流インスリンシグナル伝達経路における欠陥は、血管形成誘導因子における変化へ導きうる。これらの傷害の原因の組み合わせは、重要な細胞機能を変化させる、内皮細胞を傷つける、およびその後、PEを発症するリスクを増加させるように相乗的に作用しうる。
【0043】
正常な血管新生はまた、胎盤発達の重要な構成要素である。内皮細胞の完全性を維持することに加えて、VEGFおよびPlGFは、栄養芽細胞の増殖、遊走および浸潤、正常な胎盤形成を命令する、かつ子癇前症において変化する重要な過程の原因である。それゆえに、VEGF、PlGFおよびそれらのインヒビターsFlt1における変化は、PEの病気の発生において中枢の役割を果たしうる。さらに、しかしながら、インスリンおよびインスリン様成長因子は、内皮細胞増殖を含む血管機能において重要な役割を果たす。さらになお、研究者は、子癇前症をもつ女性において胎盤のレベルでのインスリンおよびインスリン様成長因子の変化を同定した。それゆえに、VEGF、PlGFおよびsFlt1の変化の存在下におけるインスリンまたはインスリン様成長因子の変化は、胎盤のレベルで相乗的に作用して、PEに特徴的な胎盤所見を説明する、異常な栄養芽細胞浸潤へ導きうる。
【0044】
炎症性およびインスリン抵抗性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、MCP-1およびIL-8)、血管新生関連成長因子(PIGF、FGF-2)、成長因子アンタゴニスト(sFlt-1)、および代謝症候群関連インスリン抵抗性についてのバイオマーカー(すなわち、性ホルモン結合グロブリン(SHBG))における特定の変化は、GDMおよびPIHのような妊娠性疾患に生物学的に関連づけることができる。下のさらなる詳細に考察されているように、本発明は、妊娠の第三期の前で、かつ第一期くらい早くに、尿および/または血液における、SHBG/PlGFレベルまたはそれらのアンタゴニストの変化が、子癇前症、妊娠高血圧および妊娠糖尿病のリスクの増加を示しうるという発見に一部基づいている。妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法が提供される。
【0045】
一つの態様において、本発明は、以下の段階を含む、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法を提供する:妊娠した対象から得られた血清試料において性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られた血清試料または尿試料において胎盤成長因子(PlGF)のレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られたSHBGレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階;および、妊娠した対象から得られたPlGFレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたPlGFレベルと比較する段階。正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGおよび/またはPlGFの低レベルは、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことを示している。SHBGおよび/またはPlGFレベルは、以下のものと相関している:1)SHBGおよびPlGFレベルが測定される時点における妊娠週齢;2)妊娠した対象の年齢;3)妊娠した対象の経産回数;および4)妊娠した対象の体格指数。本明細書に用いられる場合、SHBGまたはPlGFの「低レベル」とは、正常な妊娠をしている対象において検出されるSHBGまたはPlGFのレベル未満であるレベルとして定義されうる。一般的に、SHBGおよびPlGFのレベルは、検査対象と正常な妊娠をしている対象の間において、試料が対象妊娠期間プラスまたはマイナス1〜2週間内の約「x」週間目において両方の対象から採取される場合に比較できる(下記参照)。または、SHBGまたはPlGFのレベルは、1人または複数の参照対象により確立された閾値と比較して、「低い」と定義されうる。SHBGおよびPlGF、それぞれについての例示的閾値175 nmol/Lおよび20 pg/mlは、本明細書に考察されているように、図1に提供されている。
【0046】
方法はさらに、対象尿試料において少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階、および1つの値または複数の値を含む対象プロファイルを作成する段階であって、各値が特定のサイトカインのレベルを表す段階、および対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが、1つの値または複数の値を含み、各値が参照対象から得られた参照尿試料における特定のサイトカインのレベルを表す段階を含みうる。サイトカインおよび/または成長因子の参照レベルは、参照プロファイルを作成するために用いられうる。例えば、参照プロファイルは、参照対象の尿、血清、血漿、羊水または胎盤組織から得ることができる。参照対象は、妊娠性疾患をもつ妊娠した個体、および正常な妊娠をしている妊娠した個体でありうる。
【0047】
本明細書に用いられる場合、「妊娠性疾患」は、子癇前症(PE)または妊娠高血圧(GH)のような妊娠高血圧症候群(PIH)を含む。妊娠性疾患はさらに、妊娠糖尿病(GDM)を含む。本明細書に用いられる場合、「正常な妊娠」とは、妊娠性疾患を伴っていない妊娠である。
【0048】
「対象」プロファイルは、一般的に、「検査」プロファイルとして記載される。対象プロファイルは、GDMおよび/またはPIHを発症する対象のリスクを同定するために、第三期の前に対象から採取された試料から作成されうる。従って、「対象」プロファイルは、妊娠性疾患について検査されることになっている対象から作成される。
【0049】
「参照」プロファイルは、一般的に、「対照」プロファイルである。参照プロファイルは、正常な個体または妊娠性疾患をもつ個体の、妊娠における特定の時点において採取された試料から作成されうる。参照プロファイルまたは複数の参照プロファイルは、試料における、例えば、特定のサイトカインのレベル、または試料におけるSHGBおよびPlGFレベルについて閾値を確立するために用いられうる。「参照」プロファイルは、妊娠性疾患をもつ個々の妊婦から作成されるプロファイルか、または正常な妊娠をしている妊婦から作成されるプロファイルかのいずれかでありうる。または、参照プロファイルは、妊娠性疾患をもつ一組の妊婦か、または正常な妊娠をしている一組の妊婦のいずれかから作成されるプロファイルでありうる。参照プロファイルは、特定の同定可能なバイオマーカーのアレイ「シグネチャー(signature)」または「パターン」として表現される。アレイシグネチャーは、簡単な視覚的またはコンピュータ支援の同定のために色分けされうる。シグネチャーはまた、アレイにより同定されたバイオマーカーに起因する値に対応する1つまたは複数の数として記載されうる。図2(右側)に示されたキーは、どれくらいの値が、アレイにより同定されたバイオマーカー濃度に起因されうるかについての一つの例を提供する。本明細書に用いられる場合、「アレイ分析」は、因子分析または主成分分析(PCA)のような統計学的計算を用いてアレイから情報を外挿する過程である。
【0050】
シグネチャーとして表現されることに加えて、参照プロファイルは、「閾」値または一連の閾値として表現されうる。例えば、単一の閾値は、妊娠した対象においてSHGBまたはPlGFのレベルについて測定されうる。SHGB(約175 nmol/L)およびPlGF(約20 pg/ml)についての例示的閾値は、表3および図1に提供されている。サイトカインレベルに関して、単一の閾値は、正常な妊娠をしている妊婦からの一連のサイトカインレベルの値を平均することにより決定されうる。同様に、1つまたは2つまたはそれ以上の閾値は、妊娠性疾患をもつ妊婦からの一連のサイトカインレベルを平均することにより決定されうる。従って、閾値は、単一の値または複数の値を有し、各値は、例えば、妊娠性疾患をもつ妊娠した個体または複数の個体の、尿または血液試料において検出された特定のサイトカインまたは成長因子もしくはそのアンタゴニストのレベルを表している。
【0051】
例えば、サイトカイン値も考慮する場合、図2は、正常な妊娠をしている妊婦から得られた試料由来のMCP-1レベルについての閾値が、すべての5つの尿試料の平均に基づいて計算されうることを示している(262、104、102、35および20と呼ばれた患者についての「対照」水平カラムおよび対応する垂直MCP-1カラムを参照)。MCP-1の平均レベル(90+230+210+300+210 pg/mLを仮定する)は、約200 pg/mLである。381、305、289、94および64と呼ばれた患者由来の尿試料におけるMCP-1レベルとこれらのデータの比較は、約200 pg/mLより下のMCP-1レベルが、正常な妊娠を示していることを示す。対照的に、妊娠16〜18週間目において約200 pg/mLを上回る尿におけるMCP-1のレベルをもつ妊婦は、妊娠性疾患を発症するリスクがあることが予測される。同様に、同じ患者から採取された尿試料は、約20 pg/mLより上のIL-6レベルが妊娠性疾患を示していることを示す。さらに、同じ患者から採取された尿試料は、約200 pg/mLより上のIL-8レベルが妊娠性疾患を示していることを示す。
【0052】
SHBGおよびPlGFのレベルを含む、本発明のプロファイルを作成するために用いられる試料は、受胎後約6週間と24週間の間、約12週間と24週間の間、または約18週間と24週間の間において入手されうる。典型的には、試料は、第三期の前に、例えば、受胎後5〜24週間の間での任意の時点(例えば、8、10、12、14、16、18、または20週間)において、採取される。例えば、生体試料は、受胎後約6週間と24週間の間、約12週間と24週間の間、または18週間と24週間の間において、妊婦から入手されうる。試料は、対象プロファイルまたは参照プロファイルを作成するために用いられうる。
【0053】
対象プロファイルまたは参照プロファイルは、妊娠期間における時点で採取された試料から作成される。試料は、血液、血清または尿でありうる。対象および参照プロファイルは、対象および参照の妊娠期間内の類似した時間から採取された試料から作成される。一般的に、対象プロファイルが、対象妊娠期間内の「x」週目で採取された試料から作成された場合には、比較目的のための適切な参照プロファイルは、参照妊娠期間の「x」週プラスまたはマイナス2週間(または1週間)において採取された試料から作成されていることであろう。例えば、妊娠16週目であると推定される妊婦から得られた試料由来の対象プロファイルは、妊娠14週目〜18週目における妊婦から得られた試料由来の参照プロファイルまたは複数の参照プロファイルと比較されうる。
【0054】
妊娠性疾患をもつまたはもちやすい女性は、妊娠の第三期の前に同定されうる。バイオマーカーは、サイトカイン、成長因子、または成長因子インヒビターでありうる。より具体的には、インスリン抵抗性バイオマーカー、または血管新生性バイオマーカーは、サイトカイン、成長因子、および成長因子インヒビターを含む。インスリン抵抗性バイオマーカーは、SHBGを含む。血管新生性バイオマーカーは、PlGFを含む。
【0055】
対象プロファイルは、妊娠した対象から得られた血液、表面血清、または尿試料におけるレベルSHBGおよびPlGFを含みうる。プロファイルはさらに、対象由来の尿試料において検出された少なくとも2つのサイトカインのレベルを含んでもよく、正常な妊娠した対象から得られたSHBGおよびPlGFのレベルを含む「参照」プロファイルと対象プロファイルを比較する。参照プロファイルはさらに、尿試料において検出された少なくとも2つのサイトカインのレベルを含みうる。参照プロファイルが、正常な妊娠をしている参照対象から得られた試料由来である場合には、参照プロファイルに対する対象プロファイルの類似性は、検査された対象について正常な(妊娠性疾患を伴わない)妊娠を示している。または、参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ参照対象から得られた試料由来である場合には、対象プロファイルの参照プロファイルとの類似性は、検査された対象について、妊娠性疾患を伴った妊娠を示している。
【0056】
サイトカイン
本発明の方法はさらに、血液および/または血清試料において、SHBGおよびPlGFレベルを1つまたは複数のサイトカインのレベルと相関させる段階を含みうる。サイトカインは、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、またはケモカインでありうる。例は、インターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1もしくはTNF-α、またはそれらの組み合わせを含む。サイトカインは、細胞により、それら自身の機能(自己分泌作用)または隣接細胞の機能(傍分泌作用)のいずれかを変化させることを目的として分泌される、ありとあらゆる比較的低分子量の薬理学的活性タンパク質を含む。多くの場合、個々のサイトカインは、複数の生物活性を有する。異なるサイトカインはまた、同じ活性を有してもよく、炎症性および免疫系内に機能的冗長性を与える。結果として、1つのサイトカインの損失または中和がこれらの系のどちらかを著しく干渉することはまれである。この事実は、治療ストラテジーの開発において大きな重要性をもつ。
【0057】
サイトカインは、いくつかの群に細分化でき、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、およびケモカインを含む。代表的な免疫/ヘマトポイエチンは、エリスロポイエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、インターロイキン(IL)-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-9、IL-10およびIL-12を含む。代表的なインターフェロン(IFN)は、IFN-α、IFN-βおよびIFN-γを含む。
【0058】
代表的なTNFファミリーメンバーは、TNF-α、インターフェロン(IFN)β、gp39(CD40-L)、CD27-L、CD30-Lおよび神経成長因子(NGF)を含む。
【0059】
代表的なケモカインは、血小板因子(PF)4、血小板塩基性タンパク質(PBP)、groα、MIG、ENA-78、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)1α、MIP1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1、I-309、HC14、C10、Regulated on Activation, Normal T-cell Expressed, and Secreted (RANTES)、およびIL-8を含む。
【0060】
ケモカインは、強力な白血球活性化および/または走化性活性をもつ構造的に関連した糖タンパク質のファミリーである。それらは、長さが70〜90アミノ酸、分子量が約8〜10 kDaである。それらの大部分は、4つのシステイン残基をもつ2つのサブファミリーに当てはまる。これらのサブファミリーは、2つのアミノ末端のシステイン残基がお互いに直接隣接しているか、または1つのアミノ酸で分離されているかにより区別される。CXCケモカインとしても知られているケモカインは、第一と第二システイン残基の間に単一のアミノ酸を含む;βまたはCC、ケモカインは、隣接したシステイン残基を有する。たいていのCXCケモカインは、好中球についての化学誘引物質であり、一方、CCケモカインは、一般的に、単球、リンパ球、好塩基球および好酸球を誘引する。これらはまた、2つの他の小さな亜群がある。C群は、1つのメンバー(リンホタクチン)を有する。それは、4つのシステインモチーフにおいてシステインのうちの1つを欠くが、それのカルボキシル末端においてC-Cケモカインと相同性を有する。Cケモカインは、リンパ球特異的であるように思われる。第四の亜群は、C-X3-C亜群である。C-X3-Cケモカイン(フラクタルカイン/ニューロタクチン)は、最初の2つのシステインの間に3つのアミノ酸残基を有する。それらは、長いムチンの柄(stalk)を介して細胞膜へ直接的に繋がれ、白血球の接着および遊走の両方を誘導する。
【0061】
図2に示された尿、血清および血漿におけるサイトカインアレイのヒートマップは、尿試料が同時に収集されていて、正常血圧の妊娠である女性と比較して、子癇前症を発症した女性(「症例」)の間で、妊娠16〜18週間での尿において、IL-6が上昇し、IL-8が低下している(白色の円を参照)ことを実証している。これは、サイトカインのアレイがこの高感技術により尿中で測定された最初であり、かつこの妊娠初期において、尿中に違いが見られた最初である。図2はまた、妊娠16週間目において、もう一つのケモカイン、MCP-1のレベルが、対照と比較して症例の尿において上昇したことを実証している。すべてのタンパク質測定は、尿クレアチニン濃度について正規化された。
【0062】
成長因子
方法はさらに、少なくとも1つの、胎盤可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt1)のような成長因子インヒビター、またはVEGFのような成長因子のレベルを測定する段階を含む。sFlt1、膜貫通および細胞質ドメインを欠損するVEGF受容体のスプライスバリアントは、強力なVEGFおよびPlGFアンタゴニストとして働く。sFlt1は、出産後減少するsFlt1の全身性レベルの増加へと導く、子癇前症において上方制御されることが知られている(Maynard et al., J. Clinical Invest., 111:5, 2003、参照により本明細書に組み入れられている)。子癇前症をもつ患者における循環sFlt1の増加は、遊離VEGFおよびPlGFの循環レベルの減少と関連している。
【0063】
胎盤成長因子(PlGF)、血管形成誘導因子の血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーのメンバー(VEGFと58%配列同一性)、および他の胎盤VEGFは、GDMおよびPIHの病気の発生に寄与しうる。さらになお、サイトカインおよび成長因子は、特定の病的障害の進行に協同しているように思われる。例えば、IL-6は、子宮頚癌および膵臓癌ならびに多発性骨髄腫活性を促進することが知られている。これらの過程はまた、VEGFにより仲介される(Wei et al., Oncogene, 22:1517, 2003)。さらに、TNF-αは、骨髄腫細胞によるVEGF分泌に関与している(Alexandrakis et al., Ann Hematol, 82:19, 2003)。VEGFおよびIL-8の両方は、単球および内皮細胞増殖を活性化し、IL-8自身は、血管新生に関与しうるように、成長因子およびサイトカインは、同じ標的細胞に作用しうる。PlGFは、単球を活性化するだけでなく、それはまた、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β)およびケモカイン(MCP-1、IL-8)の転写を増加させるように、成長因子およびサイトカインはお互いに制御しうる。最後に、TNF-αは、栄養芽細胞のアポトーシスを誘導し、線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)のような胎盤成長因子はこの過程を緩和するように、成長因子は、サイトカイン媒介性傷害を相殺する(Garcia-Lloret et al., J Cell Physiol, 167:324, 1996)。サイトカインおよび成長因子の機能は、両方の正常な機能が正常な胎盤発達に必要であることから、絡み合っている可能性が高く、このゆえに、両方における変化は、妊娠性疾患へと導きうる。両方の同時検査は、対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを同定するためのより正確な方法を提供しうる。
【0064】
本発明はまた、将来の疾患の指標として、サイトカインおよび成長因子のレベル変化の組み合わせの使用を含む。例えば、1つの症例対象は、尿の91.2 pg/gCrのPlGFレベル(高い、PEと一致していない)をもったが、58 pg/gCrのIL-6レベル(高い、PEと一致している)、および460 pg/gCrのMCP-1レベル(高い、PEと一致している)をもった。従って、PlGFの単一尿測定は、この女性がPEのリスクがないことを間違って示唆したであろうが、IL-6およびMCP-1レベルの検査は、まさに反対のことを示唆したであろう。もう一つの例、対照の対象について、PlGFレベルが115.2 pg/gCr(高い、PEの低リスクと一致している)であり、IL-6レベルは20 pg/gCr(高い、PEの低リスクと一致している)であったが、MCP-1レベルは、410 pg/gCr(高い、PEの高リスクと一致している)であり、それゆえに、MCP-1レベルのみを利用することは、彼女の結果を間違って予測したであろう。それゆえに、本発明はまた、妊娠高血圧症候群と関連した将来の疾患に対する対象の素因を測定するための血清および/または尿におけるサイトカインおよび成長因子のレベルのパターンの使用を含む。
【0065】
もう一つの態様において、本発明は、妊娠した対象由来の第一の生体試料におけるTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8もしくはMCP-1またはそれらの任意の組み合わせを、同じ妊娠した対象由来の第二の生体試料におけるサイトカインレベルと比較する段階により、妊娠性疾患を同定する方法を提供する。第二試料と比較しての第一試料におけるサイトカインまたはサイトカインの任意の組み合わせのレベルの差は、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことを示している。第一および第二生体試料は、尿、血液、血清、羊水または胎盤組織から選択されうる。
【0066】
サイトカイン、成長因子またはそれらのアンタゴニストのような特定のタンパク質を同定するための例示的生化学検査は、酵素結合免疫吸着検定法、すなわちELISA検査のような標準化された検査形式を用いるが、本明細書に提供された情報は、他の生化学的または診断的検査の開発に適用してもよく、ELISA検査の開発に限定されない(例えば、ELISA検査の説明について、Molecular Immunology: A Textbook, Atassi et al.編集, Marcel Dekker Inc., New York and Basel, 1984を参照)。
【0067】
様々なサイトカインおよび成長因子についての市販のアッセイ酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)キットが入手できることは理解されている。例えば、成長因子に関して、sFlt-1、PlGFおよびFGF-2 ELISAキットは、R&D systemsから入手できる。これらのキットは、遊離または結合していないタンパク質を測定できる。sFlt-1およびPlGFについてのアッセイ内精度CV(%)は、それぞれ、約3.5および5.6である。sFlt-1およびPlGFについてのアッセイ間精度CV(%)は、それぞれ、約8.1および10.9である。血清FGF-2測定について、アッセイ内およびアッセイ間CV(%)は、それぞれ、約8および12.7である。尿PlGFおよびFGF-2について、アッセイ内およびアッセイ間CV(%)は、それぞれ、約11、9.8、12.1および14.4である。
【0068】
プロテオミクスおよびマイクロアレイ
本発明は、プロテオミクスの使用を通して、妊娠の終わりの前に妊娠の有害結果を正しく予測するための方法を提供する。プロテオミクスは、ヒト組織の小さな試料を用いてありとあらゆるタンパク質の微量の存在について検査することができる進化した技術である。プロテオミクスのツールを用いて、尿、血清、羊水、胎盤組織のような生体試料における特定のタンパク質のレベルの増加または減少が確かめられうる。本発明は、出産予定日から遠く隔たって妊娠合併症を診断することへの非侵襲性アプローチとして尿プロテオミクス分析を含む。さらに、数学的アルゴリズムを用いて、複雑なプロテオームまたは「フィンガープリント」が得られうる。前述のとおり、そのようなアルゴリズムは、「因子分析」および「主成分分析(PCA)」を含む。プロテオームは、濃度が正常から増加したおよび減少したタンパク質の群からなっていてもよく、PIHおよび/またはGDMに関連するような妊娠性疾患の診断となる。
【0069】
本発明は、生体試料における特定の分子の検出を容易にする固定化生体分子を含むアレイ(すなわち、「バイオチップ」または「マイクロアレイ」)を提供する。上で記載されかつ図2に示されたバイオマーカーを同定する生体分子は、GDMおよび/またはPIHに罹りやすい対象を検出するためのカスタムアレイに含まれうる。例えば、カスタムアレイは、SHBGおよび/もしくはPlGF、またはIL-6、IL-8およびMCP-1のような特定のサイトカインを同定する生体分子を含みうる。アレイはまた、FGF-2のような追加の成長因子を同定する生体分子を含みうる。アレイはさらに、sFlt-1のような成長因子アンタゴニストを同定する生体分子を含みうる。選択されたバイオマーカー(例えば、サイトカイン、または成長因子もしくはそのアンタゴニスト)を特異的に同定する生体分子を含むアレイは、本明細書に提供されたデータを用いて情報のデータベースを開発するために用いられうる。多変量予測モデル(例えば、ロジスティック回帰、判別分析または回帰木モデル)においてクロス確認エラー率を改善するように導く、サイトカインおよび/または成長因子を同定する追加の生体分子は、本発明のカスタムアレイに含まれうる。
【0070】
カスタマイズされたアレイは、GDMおよびPIHの生物学を研究する機会を提供する。有意性の標準p値(0.05)は、特定のバイオマーカーを同定するマイクロアレイ上に追加の特異的生体分子を排除するまたは含むことを選択されうる。
【0071】
本明細書に用いられる場合、用語「アレイ」は、一般的に、バインディングアイランド(binding island)、生体分子のあらかじめ定められた空間的配置、またはバインディングアイランドもしくは生体分子の空間的配置を指す。表面上に固定化された生体分子を含む本発明によるアレイはまた、「生体分子アレイ」と呼ばれうる。生体分子の表面への結合を促進するように活性化、適応、調製、または改変された表面を含む本発明によるアレイはまた、「結合アレイ」と呼ばれうる。さらに、用語「アレイ」は、表面がアレイの複数のコピーを有する場合であるような、表面上に配置された複数のアレイを指すように本明細書で用いられうる。複数のアレイを有するそのような表面はまた、「マルチプルアレイ」または「繰り返しアレイ」と呼ばれうる。本明細書での用語「アレイ」の使用は、生体分子アレイ、結合アレイ、マルチプルアレイ、およびそれらの任意の組み合わせを含みうる;適切な意味は文脈から明らかであると思われる。アレイは、妊娠性疾患において変化したサイトカインおよび他のタンパク質を検出するサイトカイン特異的生体分子を含みうる。生体試料は、尿のような排出液を含む身体の任意の組織由来の液体または固体試料を含みうる。尿以外の試料は、限定されないが、血清、血漿、羊水および胎盤組織を含む。
【0072】
本発明のアレイは基板を含む。「基板」または「固体支持体」または他の文法上の等価物とは、本明細書では、生体分子の付着に適切な任意の物質を意味し、少なくとも1つの検出方法に適している。当業者に認識されていると思われるが、可能な基板の数は非常に多い。可能な基板は、限定されるわけではないが、ガラスおよび改変または機能付与ガラス、プラスチック(アクリル樹脂(acrylics)、ポリスチレンおよびスチレンと他の物質とのコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、TEFLON(登録商標)などを含む)、多糖、ナイロンまたはニトロセルロース、樹脂、シリカまたはシリコンおよび改変シリコンを含むシリカに基づいた物質、炭素、金属、無機ガラス、プラスチック、セラミック、ならびに様々な他の重合体を含む。さらに、当技術分野において公知のように、基板は、デキストラン、アクリルアミド、ゼラチンまたはアガロースのような重合体を含む任意の数の物質でコーティングされうる。そのようなコーティングは、尿または血清由来の生体試料でのアレイの使用を容易にすることができる。
【0073】
本発明の平面アレイは、一般的に、アレイ型式において生体分子のアドレス可能位置(例えば、「パッド(pad)」、「アドレス」または「微小位置」)を含む。アレイのサイズは、組成物およびアレイの最終用途に依存する。約2個の異なる生体分子から何千ものまでを含むアレイが作製されうる。一般的に、アレイは、アレイの最終用途に依存して、2個から100,000個程度またはそれ以上を含む。本発明のマイクロアレイは、一般的に、生体試料に存在する、SHBG、PlGF、サイトカイン、成長因子またはそのアンタゴニストのようなバイオマーカーを同定または「捕獲する」少なくとも1個の生体分子を含む。いくつかの態様において、本発明の組成物は、アレイ型式にない場合がある;すなわち、いくつかの態様について、単一の生体分子を含む組成物も同様に作製されうる。さらに、いくつかのアレイにおいて、複数の基板が、異なるまたは同一の組成物のいずれかで用いられうる。従って、例えば、大きな平面アレイは、より小さい基板の複数を含みうる。
【0074】
平面アレイに代わるものとして、フローサイトメトリーと組み合わせたビーズに基づくアッセイが、マルチパラメトリックイムノアッセイを行うために開発された。ビーズに基づいたアッセイ系において、生体分子は、アドレス可能なミクロスフェア上に固定化されうる。各個々のイムノアッセイについての各生体分子は、ミクロスフェア(すなわち、「マイクロビーズ」)の別個の型に結合され、イムノアッセイ反応は、ミクロスフェアの表面上で起こる。別々の蛍光強度をもつ染色されたミクロスフェアは、別々に、それらの適切な生体分子を負荷される。異なる捕獲プローブを有する異なるビーズセットは、カスタムビーズアレイを作製する必要に応じて、プールされうる。その後、ビーズアレイは、イムノアッセイを行うために単一反応容器において試料とインキュベートされる。
【0075】
バイオマーカーのそれらの固定化された捕獲生体分子との生成物形成は、蛍光に基づいたレポーター系で検出されうる。サイトカイン、成長因子またはそれらのアンタゴニストのようなバイオマーカーは、蛍光発生体により直接的に標識されても、または二次蛍光標識された捕獲生体分子により検出されてもいずれでもよい。捕獲されたバイオマーカー由来のシグナル強度は、フローサイトメーターにおいて測定される。フローサイトメーターは、第一に、各ミクロスフェアをそれの個々の色コードにより同定する。第二に、各個々のビーズ上の捕獲されたバイオマーカーの量は、結合した標的に特異的な第二の色の蛍光により測定される。これは、同じ実験内で、単一試料からの複数の標的の多重的定量化を可能にする。感度、信頼性および正確さは、標準マイクロタイターELISA手順と比較される。ビーズに基づいたイムノアッセイ系では、サイトカインは、生体試料から同時に定量されうる。ビーズに基づいた系の利点は、捕獲生体分子の別々のミクロスフェアへの個々の結合である。
【0076】
従って、マイクロビーズアレイ技術は、複数のマイクロビーズを用いて、特異的な生体分子に結合したサイトカイン、成長因子または成長因子アンタゴニストを分別するために用いることができ、マイクロビーズのそれぞれは、マイクロビーズの表面上に特異的な抗タグ生体分子の約100,000個の同一分子を有しうる。いったん捕獲されれば、サイトカインのようなバイオマーカーは、流体として取り扱ってもよく、本明細書では、「流体マイクロアレイ」と呼ばれる。
【0077】
本発明のアレイは、サイトカイン、成長因子またはそのアンタゴニストのようなバイオマーカー分子を検出するための任意の手段を含む。例えば、マイクロアレイは、認識分子(例えば、抗体)の高密度固定化アレイを提供するバイオチップであってもよく、バイオマーカー結合は、間接的にモニターされる(例えば、蛍光により)。さらに、アレイは、質量分析法(MS)による直接的検出と結合させた、生化学的または分子間相互作用によるタンパク質の捕獲を含む型式でありうる。
【0078】
本明細書に記載されたバイオマーカーを検出するための新しい方法と共に用いられうるアレイおよびマイクロアレイは、全体として本明細書に組み入れられた、米国特許第6,329,209号;第6,365,418号;第6,406,921号;第6,475,808号;および第6,475,809号、ならびに米国特許出願第10/884269号に記載された方法により作製されうる。例えば、Zyomyx Human Cytokine Biochip(登録商標)は、30個の生物学的関連のあるサイトカインについての非常に高感度のタンパク質プロファイリングシステムを提供している。本明細書に記載されたバイオマーカーのセットの特定の選択を検出するための新しいアレイはまた、これらの特許に記載された方法を用いて作製されうる。
【0079】
本明細書に用いられる場合のアレイおよびマイクロアレイはさらに、固体表面に固定化された病原体コード化サイトカイン結合タンパク質を有するアレイを含む。例えば、TNFI型およびII型、インターフェロン、インターロイキン(IL)-1β、IL-18およびβ-ケモカインに対する結合活性をコードするポックスウイルス遺伝子が同定された。これらの高親和性受容体は、サイトカイン定量化および精製における多数の適用において代理抗体として働く可能性をもち、現在利用できる抗サイトカインのモノクローナル、ポリクローナル、または操作された抗体の既存のパネルを補完する有用な試薬である可能性がある。
【0080】
多くの態様において、固定化生体分子、または固定化しようとする生体分子は、タンパク質である。タンパク質の1つまたは複数の型は、表面上に固定化されうる。特定の態様において、タンパク質は、タンパク質の変性を最小限にする、タンパク質の活性における変化を最小限にする、またはタンパク質とそれらが固定化されている表面との間の相互作用を最小限にする方法および材料を用いて固定化される。
【0081】
本発明により有用な表面は、任意の望ましい形およびサイズでありうる。表面の非限定的例は、チップ、連続平面、曲面、可撓性表面、フィルム、プレート、シート、チューブなどを含む。表面は、好ましくは、約1平方ミクロンから約500 cm2までの範囲の面積を有する。本発明による面積、長さおよび幅は、行われるアッセイの必要条件に従って異なっていてもよい。考慮すべきことは、例えば、操作の容易さ、表面が形成されている材料の制限、検出装置の必要条件、成膜装置(例えば、アレイヤー)の必要条件などを含みうる。
【0082】
特定の態様において、バインディングアイランドもしくは固定化生体分子の群またはアレイを分離するための物理的手段を用いることが望ましい:そのような物理的分離は、異なる群またはアレイの、対象となる異なる溶液への曝露を容易にする。それゆえに、特定の態様において、アレイは、96、384、1536、または3456マイクロウェルプレートのウェル内に位置する。そのような態様において、ウェルの底は、アレイの形成のための表面としての役割を果たしてもよく、またはアレイは、他の表面上に形成され、その後、ウェルへ置かれてもよい。特定の態様において、ウェルなしの表面が用いられる場合のように、バインディングアイランドが形成されうる、または生体分子が表面上に固定化されてもよく、かつアイランドもしくは生体分子に対応するように空間的に配置された穴を有するガスケットが、表面上に置かれてもよい。そのようなガスケットは、好ましくは液密である。ガスケットは、アレイを作製する工程中の任意の時点において表面上に置かれてもよく、群またはアレイの分離がもはや必要がない場合には、除去されてもよい。
【0083】
固定化生体分子は、固定化生体分子の上に横たわる生体試料に存在する分子に結合することができる。または、固定化生体分子は、固定化生体分子の上に横たわる生体試料に存在する分子を改変する、または、その分子により改変される。例えば、生体試料に存在するサイトカインは、固定化生体分子と接触して、それに結合することができ、それにより、サイトカインの検出を容易にする。または、サイトカイン、または成長因子もしくはそのアンタゴニストは、固体表面上に固定化された生体分子と一過性様式で接触して、サイトカインの生体分子への安定した結合なしに結果としてサイトカインの検出を生じるといった反応を開始することができる。
【0084】
溶液中のもしくはアレイに固定化された生体分子の改変または結合は、当技術分野において公知の検出技術を用いて検出されうる。そのような技術の例は、競合結合アッセイおよびサンドイッチアッセイのような免疫学的技術;共焦点スキャナー、共焦点顕微鏡またはCCDに基づいたシステムのような装置、および蛍光、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー移転(FRET)、全内部反射蛍光(TIRF)、蛍光相関分光法(FCS)のような技術を用いる蛍光検出;比色分析/分光分析技術;表面プラズモン共鳴、表面で吸着された物質の質量における変化が測定されうる;通常の放射性同位元素結合およびシンチレーション近接アッセイ(SPA)を含む放射性同位元素を用いる技術;マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI)およびMALDI-飛行時間(TOF)型質量分析のような質量分析;偏光解析法、タンパク質フィルムの厚さを測定する光学的方法である;水晶結晶板微量天秤(QCM)、表面へ吸着した物質の質量を測定するための非常に高感度の方法;AFMおよびSEMのような走査型プローブ顕微鏡;ならびに、電気化学、インピーダンス、音響、マイクロ波、およびIR/ラマン検出のような技術を含む。例えば、Mere L, et al.,「Miniaturized FRET assays and microfluidics: key components for ultra-high-throughput screening」Drug Discovery Today 4(8):363-369(1999)およびその中に引用されている参照文献; Lakowicz J R, Principles of Fluorescence Spectroscopy, 第2版, Plenum Press (1999)を参照。
【0085】
妊娠性疾患を同定するのに適した本発明のアレイは、キットに含まれうる。そのようなキットはまた、非限定的例として、アレイのバインディングアイランドもしくは領域上への固定化のための生体分子を調製するのに有用な試薬、固定化生体分子への改変を検出するのに有用な試薬、または対象となる溶液由来の生体分子の固定化生体分子への結合を検出するのに有用な試薬、および使用のための使用説明書を含みうる。
【0086】
同様に、固定化生体分子を含むアレイは、キットに含まれうる。そのようなキットはまた、非限定的例として、固定化生体分子への改変を検出するために、または対象となる溶液由来の生体分子の固定化生体分子への結合を検出するために有用な試薬を含みうる。
【0087】
セラノスティックス(Theranostics)
本発明は、有害な妊娠結果となるリスクの高い女性を同定するための組成物および方法を提供するので、セラノスティックス的アプローチが、特定の治療的介入の効果を測定するために、ならびに1)有害結果を発生するリスクを低減するように、および2)介入の効果を増強するように介入を変えるために、そのような個体を検査するのに採用されうる。従って、妊娠性疾患の存在もしくはリスクを診断または確認することに加えて、本発明の方法および組成物はまた、そのような疾患をもつ対象の処置を最適化する手段を提供する。本発明は、診断学および治療学を統合して、例えばGDHおよび/またはPIHをもつ対象のリアルタイム処置を改善することにより、妊娠性疾患を処置することへのセラノスティックス的アプローチを提供する。実際に、これは、どの患者が特定の治療に最も適しているかを同定することができる検査を考案すること、および処置計画を最適化するために、薬物がどれくらいよく働いているかについてのフィードバックを提供することを意味する。妊娠高血圧症候群に関連した疾患の領域において、セラノスティックスは、長い時間をかけて、重要なパラメーター(例えば、サイトカインおよび/または成長因子レベル)における変化を柔軟にモニターすることができる。例えば、SHBGおよびPlGFのような一連の診断学的に関連した分子に特異的なセラノスティックス的マルチパラメーターイムノアッセイは、PIHについての処置を受けている対象の進行を追跡するために用いられうる。本明細書に提供されたマーカーは、尿、血液または血清のような容易に得られる体液において利用できるため、診断および処置に用いるのに特に適合している。
【0088】
臨床試験設定内において、本発明のセラノスティックス的方法または組成物は、試験設計を最適化する、有効性をモニターする、および薬物安全性を向上させるための重要情報を提供することができる。例えば、「試験設計」セラノスティックスは、患者層化、患者適格性(包含/排除)の決定、均一な処置群の作成、および一般集団を代表する患者試料の選択のために用いられうる。それゆえに、そのようなセラノスティックス的検査は、患者有効性濃縮のための手段を提供することができ、それにより、試験動員に必要とされる個体の数を最小限にする。「有効性」セラノスティックスは、治療をモニターし、有効性基準を評価するために有用である。最後に、「安全性」セラノスティックスは、有害な薬物反応を防ぐまたは投薬ミスを避けるために用いられうる。
【0089】
統計学的解析
本明細書に示されたデータは、妊娠性疾患を診断することに関連した情報のデータベースを提供する。分類および予測は、図2に示されているようなアレイにより作成されたデータを解釈および利用することに対する統計学的アプローチを提供する。予測ルールは、クロス確認に基づいて選択してもよく、さらに、分かれたコホートに関して選択されたルールを確証する。様々なアプローチは、本明細書に提供されたサイトカインおよび/または成長因子レベルに基づいた妊娠性疾患を予測するデータを作成するために用いられてもよく、判別分析、ロジスティック回帰および回帰木を含む。例えば、データは、ロジスティック回帰モデルに基づいて作成されうる。図9は、図2に示された5つの症例(対象)および5つの対照(参照)のそれぞれについて測定された5つのタンパク質(サイトカイン)のデータセットに適用される場合のベイズの判別分析を図示する。判別分析は、可能な範囲内で、症例が面の片側に、かつ対照が反対側に現れるように、マーカーデータの多変量空間において面を見出そうと試みる。この面を決定する係数は、分類ルール:閾値と比較されるマーカー値の一次関数を構成する。ベイズの分類において、データが得られる前に知られている症例である対象(すなわち、妊娠性疾患をもつまたはもちやすい対象)の確率に関する情報が用いられうる。例えば、症例であることの事前確率は、約0.5に設定されうる;一般集団に適用されるスクリーニング検査について、対応する確率は、約0.05である。対象は、対応する事後確率(すなわち、データを用いて更新された事前確率)が0.5を超える場合には、合併症(すなわち、妊娠性疾患)をもつとして分類される。10個の症例および対照のうち9個が正しく分類されていることに注目したい(図9参照)。
【0090】
追加の患者情報は、本明細書に提供されたSHBGおよび/またはPlGFレベルと組み合わせられうる。これらのデータは、本バイオマーカーデータを補完するトレンドを同定するために情報を解析するデータベースにおいて組み合わせられうる。結果は、電子フォーマットで保存されうる。
【0091】
本方法は、妊娠糖尿病または子癇前症および妊娠高血圧のようなPIH関連疾患に関連した様々な妊娠合併症を発症するリスクを測定するためのバイオマーカーとして、SHBGおよびPlGFレベルを、ならびに任意で、サイトカインおよび/または追加の成長因子レベルを用いる。子癇前症および妊娠高血圧は、肥満し、かつベースライン時に高〜正常血圧をもつ未経産(最初の妊娠)の女性において最もよく発症する。これらの疾患はまた、先在する糖尿病または妊娠糖尿病の病歴をもつ女性において、および多嚢胞性卵巣症候群をもつ女性において発症する。たいていの場合、子癇前症または妊娠高血圧は、前兆なしに、しばしば、これらの確立されたリスクファクターのいずれももたない女性において発症する。従って、本明細書に提供された妊娠性疾患を同定するための方法および組成物は、医学的診断の信頼性を向上させるために患者病歴と組み合わせられうる。解析は、例えば、試料を通して患者から得られた尿または血清バイオマーカーを評価することができる。さらに、患者に関する情報は、検査と共に供給されうる。そのような情報は、限定されるわけではないが、年齢、体重(BMI)、血圧、遺伝的病歴、経産回数、妊娠週齢、および下の実施例に記載されているような他のパラメーターまたは変数を含む。
【0092】
GDMおよびPIHについてのガイドラインを確立するために作成されたデータの解析における交絡要因および共変量は、情報のデータベースに含まれうる。これらのデータは、例えば、加齢が循環炎症性サイトカインにおける増加と関連しているために年齢を含みうる。さらに、民族性とサイトカイン遺伝子多型(IL-6、TNF-α、IL-10)との間の相関は、人種によるサイトカインのベースラインレベルを提供することができる。喫煙は、それが、sFlt-1レベルを低下させる、VEGFレベルを増加させる、サイトカインレベルを低下させる、GDMのリスクを増加させる、およびPEを発症するリスクを低下させるため、交絡要因の例である。過去および現在の喫煙歴をもつ女性におけるサイトカインおよび成長因子変化は、評価され、かつGDMまたはPIHを予測することに関連した情報のデータベースに加えられうる。
【0093】
肥満は、GDMおよびPEの発症の公知のリスクファクターであり、TNF-αおよびIL-6を含む特定のサイトカインの血清レベルは、両方とも、体格指数(BMI)と正に相関している。BMIは、メートルでの身長の二乗で割ったキログラムでの体重として計算される。さらに、VEGFを含む成長因子は、脂肪細胞から分泌される。BMIの上昇は、肥満がサイトカインの上昇へ導き、それが、インスリン抵抗性および炎症へ導き、それが、その後、GDMおよびPIHに罹りやすくする点において、因果的経路にありうる。
【0094】
GDMおよびPEは、それぞれ、胎児出生時体重の増加および減少へと導くため、胎児出生時体重は、第二義的結果とみなされうる。この情報は、症例(すなわち、GDMおよび/またはPIHを示している対象)および対照における一次曝露と胎児出生時体重との間の関連を決定するために含まれる。子癇前症は、胎児成長制限(FGR)として同定された異種起源性疾患の1つの原因である。胎盤由来の成長因子は、FGRの根元的な病態生理学に関与している可能性があり、特定の成長因子の母親の血清および尿レベルは、FGRである新生児をもつ女性において変化している可能性がある。例えば、PEをもつ女性の間では、妊娠15〜19週間目における遊離PlGFレベルは、小さなまたは在胎月齢の新生児(出生時体重<第10百分位数)をもつPEを発症する女性(n=18)の間で、ただPEを発症しただけの女性(n=25)と比較して、より低くありうる。未経産の女性の無作為選択は、比較目的のための合併症のない妊娠の対照を提供することができる。そのような女性は、例えば、妊娠期間中通して正常血圧;血糖正常、満期(>37週間);FGRの徴候なし;生児出生;分娩後6週間目の通院時における血圧上昇または高血糖なしでありうる。
【0095】
上記の統計学的解析は、本明細書に記載されているようなSHBGおよびPlGFレベルと相関しうる。第一義的結果は、GDM、PIH、ならびに、GDMおよびPEの病歴である。記述統計学は、正規性仮定は満たされているかどうか、変換は正規性を改善するために必要であるかどうか(例えば、対数サイトカインレベル)、またはノンパラメトリックアプローチは必要とされているかどうかを決定するために、符号化における誤差(例えば、アウトライアー)を見つけるために用いられうる。共変量および交絡要因分布が調べられうる(例えば、分割表)。
【0096】
さらに、上の情報から生じた統計学的解析は、本明細書に記載されたサイトカインおよび追加の成長因子レベルならびに成長因子アンタゴニストレベルに関する情報と組み合わせられうる。従って、本発明は、同じ女性においてサイトカインレベルおよび成長因子レベル(およびそれらのアンタゴニスト)を調べる段階、ならびにBMI、血圧および胎児出生時体重のような追加の統計学的情報を用いて、GDMおよび/またはPIHに罹りやすい個体を同定するためにこの情報を相関させる段階を含む。
【0097】
追加の解析は、GDMまたはPIHのリスクがある対象を同定するために行われうる。そのような解析は、一次曝露のそれぞれの二変量解析、結果との強い関係(生物学的および統計学的)をもつ変数を含む多変量モデル、因子分析を用いる変数縮約を含む複数の重要な曝露を明らかにするための方法、および予測モデルを含む。
【0098】
二変量解析について、必要に応じて、2サンプルt検定またはウイルコクソンの順位和検定を用いる、症例と対照の間の各一次曝露の平均レベルが導かれうる。関連性が線形に見える場合には、トレンドは、マンテル・ヘンツェル検定を用いて解析されうる。データは、対照の分布を用いてあまり細かくはないカテゴリー(例えば、三分位数)へ集合でき、多変量解析における指示変数としてこれらを調べることができる。
【0099】
多変量解析について、データは、2つの対照群、マッチングされたものとマッチングされていないもう一つのものの間で相関されうる。マッチングされたおよびマッチングされていない解析の両方において、関心対象となるすべての一次曝露の独立した効果は、ロジスティック回帰(マッチングされた解析において条件付きモデルをもつ)モデルを用いて調べられうる。モデルは、特定の予測変数の主効果を検定するための最小数の共変量を含みうる。交絡要因または仲介する可能性のある変数を明らかにした後に妊娠結果に加えて、特定のタンパク質の効果が決定されうる。上で述べたように、表1〜5は、そのような解析の例である。
【0100】
ロジスティック回帰モデルは、以下の一般式をとる[ln(pi/1-pi)=b0+b1Xli+b2X2i+...+bnXni+e]、piはGDMの確率である、b0は適合線の切片を表す、b1はSHBGのような成長因子のレベルにおける単位増加と関連した係数である、b2...bnは交絡共変量X2...Xnと関連した係数である、およびeは誤差項である。特定の成長因子またはサイトカインのレベルにおける単位増加と関連したオッズ比は、係数b1を累乗することにより推定され、この点推定値を囲む95%信頼区間は、その項を累乗することにより推定される(b1±1.96(b1の標準誤差))。1つより多いbn共変量をもつモデルにおいて、b1の効果は、モデルに含まれる交絡共変量のレベルの調整後、特定の成長因子またはサイトカインレベルのGDMおよび/またはPIHのリスクへの効果として解釈されうる。
【0101】
因子分析において、特定のサイトカインは、より少数の相互相関したサイトカインへ縮約されうる。回転主成分(正規分布した連続型変数である)由来の因子得点は、妊娠結果を予測する回帰分析において元のサイトカインレベルの代わりにモデル化されうる。このモデル構築ストラテジーは、上記のものと類似しているが、因子得点をモデル化することは、他のサイトカインシグネチャーとは無関係に、またはBMIもしくは他の重要なあらかじめ特定された交絡もしくは仲介変数とは無関係に、結果を予測するものとして特定のサイトカインシグネチャーの同定を可能にする。
【0102】
アレイ実験から導かれた相互相関した可能性のあるサイトカインの多様性アレイは、主成分分析を用いる因子分析で縮約されうる。主成分分析は、共に群をなす相関した変数のサブセットを同定する。これらのサブセットは、成分:お互いに相関していない、かつ元データにおける分散の大部分を説明する、数学的に導かれた変数を定義する。主成分分析(PCA)は、診断することが必要とされる最小数の成分を同定しようと試みる。同定後、成分は、解釈できる因子へ変換または回転される。解釈は、因子と元の独立変数との間の相関のパターンに基づいている;これらの相関は負荷量と呼ばれている。アレイ実験において、因子パターンは、推定的独立のサイトカインレベルの元のアレイ間の全体的な関係の根底にあるサイトカインのドメインまたは明確なグループ化を表す。これらのグループ化は、サイトカインシグネチャーパターンとみなされうる。
【0103】
図3および4に記載された患者データを用いて、図8に示されているようなPCA分析は、5つの探索的サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、MCP-1、およびIL-8)を3つの成分へ縮約するために用いられ、分離が、症例(5つの最も左のボックス)と対照(5つの最も右のボックス)の間に現れ始めていることを示した。因子分析は、SAS FACTOR手順の主成分オプションをもつ連続分布した変数を用いて行われた。主成分は、正規性偏差に対してかなり頑健であるが、変数は、正規性を改善するために変換されうる。因子分析に含まれる変数は、例えば、アレイ実験に含まれるすべてのサイトカインレベルを含む。たいていの場合、最小数の成分は、固有値が単位元を超える成分に基づいて選択される。固有値は、元の独立変数と主成分の間の二乗相関の和であり、成分に起因する分散の量を表す。
【0104】
因子過剰モデルを避けるために、一般的に、スクリーンプロット上の変曲点より下に位置し、かつ結果として生じる因子パターンに追加の明瞭さを与えない、単位元と等しいか、かろうじて超える固有値をもつ成分を除外する。解釈できる因子を生じるために、最小数の主成分は、直交バリマックス法を用いて回転されうる。この直交回転は、お互いに相関していないが(固有の独立したドメインを表す)、元のサイトカインの固有のサブセットと高度に相関している因子を生じる元の成分の変換である。一般的に、±0.30より大きい負荷量(因子と元の独立変数の間の相関;範囲-1.0〜1.0)は、結果として生じる因子パターンを解釈するために用いられる。選択された亜群(例えば、アジア人対白色人種の女性)内の同じ因子に関する負荷量間の類似性は、合同係数を用いて評価されうる。合同係数は、因子負荷量が亜群間で同一である場合、単位元にほぼ等しい。
【0105】
因子分析は、方法を検定する厳密な仮説ではないが、第一の支配的因子は有意でありうるが、残りの因子は誤差分散のみを説明し有意ではないという帰無仮説を検定するためにカイ二乗としておよそ分布された値を与えるバートレットの方法を用いることができる。確証的因子分析は、経験的に決定されたモデル(例えば、2つの独立変数が2つの因子に負荷している、3因子解)が、すべての独立変数が単一因子に負荷しているモデル(帰無仮説モデル)よりデータへのより良い適合度を与えるかどうかを評価するために行われうる。以下の3つの適合度検定指数が一般的に用いられる:(i)カイ二乗として分布された値を与え、かつより小さな値が、データへのより良い適合度を示している、最大尤度適合度検定指数、(ii)ベントレーの非ノルム適合度、および(iii)より高い値(範囲、0〜1.0)がより良い適合度を示す、ベントレーおよびボネットの比較適合度指数。
【0106】
解析データのデータベースおよびコンピュータ化方法
本明細書に記載された方法および解析により作成されたデータベースは、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定するためにコンピュータシステムに含まれうる、または関連づけられうる。データベースは、複数のデジタルコード化した「参照」(または「対照」)プロファイルを含みうる。複数の各参照プロファイルは、複数の値を有してもよく、各値は、試料におけるSHBGもしくはPlGF、または妊娠性疾患をもつ、もしくはもちやすい妊娠した個体の血液、血清もしくは尿において検出された特定のサイトカインのレベルを表している。または、参照プロファイルは、正常である妊娠した個体由来でありうる。両方の型のプロファイルは、対象プロファイルとの連続的または同時的比較のためにデータベースに含まれうる。コンピュータシステムは、妊娠した対象のプロファイルを受ける、および妊娠した対象プロファイルと診断的に関連している適合した参照プロファイルをデータベースから同定するためのコンピュータ実行可能コードを含むサーバーを含みうる。同定されたプロファイルは、診断またはさらなる分析のために介護人へ供給されうる。
【0107】
標準プログラムを用いて、電子的医療記録(EMR)は、サイトカイン、成長因子および成長因子アンタゴニストデータを、患者のBMIまたはGDMもしくはPIHを発症するリスクを予測するために有用な任意の他のパラメーターのような追加情報と組み合わせるデータベースを提供するために蓄積されうる。患者情報は、検査室について匿名性を維持するために、および機密保護目的のために、数字識別名を無作為に割り当てられうる。すべてのデータは、様々な地理的位置からの複数のユーザーへのアクセスを提供するネットワーク上に保存されうる。
【0108】
従って、本明細書に記載された様々な技術、方法および局面は、コンピュータに基づいたシステムおよび方法を用いて一部または全部、実行されうる。さらに、コンピュータに基づいたシステムおよび方法は、本明細書に記載された機能性を増加するまたは向上させる機能が実行されうる速度を増加させる、ならびに本明細書に記載された本発明のものの一部またはそれに加えて追加の特徴および局面を提供するために用いられうる。上記技術に従う様々なコンピュータに基づくシステム、方法および道具は、下に示されている。
【0109】
プロセッサーに基づいたシステムは、メインメモリ、好ましくは、ランダムアクセスメモリ(RAM)を含んでもよく、補助メモリもまた含んでもよい。補助メモリは、例えば、ハードディスクドライブおよび/またはリムーバブル記憶ドライブ、例えば、フロッピーディスクドライブ、磁気テープドライブ、または光ディスクドライブを含みうる。リムーバブル記憶装置は、リムーバブル記憶媒体から読むおよび/またはリムーバブル記憶媒体に書く。リムーバブル記憶媒体は、リムーバブル記憶ドライブにより読まれかつ書かれる、フロッピーディスク、磁気テープ、光ディスクなどでありうる。認識されているように、リムーバブル記憶媒体は、コンピュータソフトウェアおよび/またはデータを含みうる。
【0110】
代わりの態様において、補助メモリは、コンピュータプログラムまたは他の命令がコンピュータシステムへロードされるのを可能にするための他の類似した手段を含みうる。そのような手段は、例えば、リムーバブル記憶ユニットおよびインターフェースを含みうる。例としては、プログラムカートリッジおよびカートリッジインターフェース(ビデオゲーム装置に見出されるもののような)、リムーバブルメモリチップ(EPROMまたはPROMのような)および付随したソケット、ならびに、ソフトウェアおよびデータがリムーバブル記憶ユニットからコンピュータシステムへ移されるのを可能にする、他のリムーバブル記憶ユニットおよびインターフェースが挙げられる。
【0111】
コンピュータシステムはまた、コミュニケーションインターフェースを含みうる。コミュニケーションインターフェースは、ソフトウェアおよびデータがコンピュータシステムと外付け装置の間を移されるのを可能にする。コミュニケーションインターフェースの例は、モデム、ネットワークインターフェイス(例えば、イーサーネットカードのような)、コミュニケーションポート、PCMCIAスロットおよびカードなどを含む。コミュニケーションインターフェースを経由して移されるソフトウェアおよびデータは、電子的、電磁気的、光学的、またはコミュニケーションインターフェースにより受けられることができる他の信号でありうる、信号の形をとる。これらの信号は、信号を運ぶことができる回線を経由してコミュニケーションインターフェースへ供給され、無線媒体、ワイヤーもしくはケーブル、ファイバーオプティクス、または他のコミュニケーション媒体を用いて実行されうる。回線のいくつかの例は、電話線、携帯電話リンク、RFリンク、ネットワークインターフェイス、および他のコミュニケーション回線を含む。
【0112】
本明細書において、用語「コンピュータプログラム媒体」および「コンピュータ使用可能媒体」は、一般的に、リムーバブル記憶装置、ディスクドライブにインストールができるディスク、および回線上の信号のような媒体を指すために用いられる。これらのコンピュータプログラム製品は、ソフトウェアまたはプログラム命令をコンピュータシステムへ供給するための手段である。
【0113】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御論理とも呼ばれる)は、メインメモリおよび/または補助メモリに保存される。コンピュータプログラムはまた、コミュニケーションインターフェースを経由して受けられうる。そのようなコンピュータプログラムは、実行される場合、コンピュータシステムが本明細書に考察された方法の機能を実施するのを可能にする。特に、コンピュータプログラムは、実行される場合、プロセッサーが本発明の機能を実施するのを可能にする。従って、そのようなコンピュータプログラムは、コンピュータシステムのコントローラーを表す。
【0114】
要素がソフトウェアを用いて実行される態様において、ソフトウェアは、コンピュータプログラム製品に保存されうる、またはを経由して送信されうる、およびリムーバブル記憶ドライブ、ハードドライブ、もしくはコミュニケーションインターフェースを用いてコンピュータシステムへロードされうる。制御論理(ソフトウェア)は、プロセッサーにより実行される場合、プロセッサーに、本明細書に記載された方法の機能を実施させる。
【0115】
もう一つの態様において、要素は、例えば、PAL、特定用途向け集積回路(ASIC)または他のハードウェアコンポーネントのようなハードウェアコンポーネントを用いてハードウェアにおいて主に実行される。本明細書に記載された機能を実施するためのハードウェア状態機械の実行は、関連業者に明らかであると思われる。他の態様において、要素は、ハードウェアおよびソフトウェアの両方の組み合わせを用いて埋め込まれる。
【0116】
もう一つの態様において、コンピュータに基づいた方法は、本発明の方法へのウェブページ(Web Page)経由でのアクセスを提供することにより、ワールドワイドウェブ(World Wide Web)を通じてアクセスまたは実行されうる。従って、ウェブページはUniversal Resource Locator(URL)により同定される。URLは、サーバーマシーンおよびそのマシーン上の特定のファイルまたはページの両方を表す。この態様において、コンシューマーまたはクライアントコンピュータシステムは、特定のURLを選択するようにブラウザーと対話し、次には、ブラウザーに、URLに同定されたサーバーへそのURLまたはページの要求を送らせることが、構想される。典型的には、サーバーは、要求されたページを検索し、そのページについてのデータを要求しているクライアントコンピュータシステムへ送信して戻すこと(クライアント/サーバー対話は、典型的には、ハイパーテキストトランスポートプロトコール(「HTTP」)に従って行われる)により、要求に応答する。選択されたページは、その後、クライアントのディスプレイ画面においてユーザーへ提示される。クライアントは、その後、本発明のコンピュータプログラムを含むサーバーにおいて、例えば、本発明による解析を行うアプリケーションを起動させることができる。
【0117】
実施例
本発明は、以下の実施例においてさらに記載され、この実施例は、限定するわけではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を例証する役割を果たす。
【0118】
実施例1 − SHBGおよびPlGFアッセイ
研究対象集団およびデータ取得
Massachusetts General Hospital Obstetrical Maternal Study(MOMS)に登録されている患者の前向きコホート内症例対照研究が行われた。簡単には、MOMSコホートは、妊娠後期に起こる有害結果についての妊娠初期のリスクファクターの前向き研究のために1998年に設立された。この研究について、妊娠約12週間目にMOMSコホートに登録された、および20週間後に出産した、2001年6月1日と2003年5月1日の間の単生児妊娠をもつ連続した女性が、包含として適格である。すべての対象は、書面によるインフォームドコンセントを提供した。
【0119】
臨床スタッフにより用いられる医療記録である、電子的医療記録は、初期分娩後期間までの妊娠の事象を将来に関して詳述する臨床的および人口統計学的データを提供する。電子的医療記録から得られる特定の情報は、年齢、人種、身長、体重、妊娠期間中収集された血圧、胎児の在胎月齢および出産時の体重、妊娠結果、ならびにブトウ糖負荷試験の結果を含む実験室での値を含んだ。本研究についてのすべての対象は、先在する高血圧または糖尿病の病歴をもたなかった、本発明者らのネットワーク内で彼女らの妊娠管理および妊娠を開始および完了した、元気な赤ん坊を出産した、ならびに、その後の出産後6週間以内に高血圧の徴候をもたなかった。
【0120】
曝露
SHBGおよびPlGFについてのアッセイは、第一期くらい早く、例えば、妊娠の最初の5、6、7、8、9、10、11または12週間において、妊婦由来の血液試料、血清試料、または尿試料について行われる。書面によるインフォームドコンセントを提供した後、適格の女性は、出産前の最初の通院時に血清試料を収集され、試料は、3時間未満、氷上で保存され、その後、将来の分析のために-80℃で凍結された。一次曝露は、血清性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、胎盤成長因子(PlGF)、およびsFlt1(VEGFおよびPlGFの可溶性インヒビター)であった。VEGFの血清レベルは、妊娠初期に検出できない。本研究は、血管新生促進性性質をもつVEGF様分子であり、かつVEGF受容体Flt1に結合および活性化する、PlGFの血清レベルに焦点を当てた。低レベルのSHBGは、妊娠および非妊娠状態の両方において、インスリン抵抗性と関連していた。本方法において、SHBGは、絶食または非絶食状態のいずれかにおいて測定されうる。性ホルモン結合グロブリンは、アッセイ内変動係数(CV)<4%、およびアッセイ間CV<7.8%をもつ免疫放射定量測定法(Diagnostic Products Corporation, California USA)を用いて測定された。SHBGアッセイの感度は、2 nmol/Lである。sFlt1および遊離PlGFについての市販のアッセイELISAキット(R&D systems, Minnesota USA)は、2に前に記載されているように、用いられた。sFlt1およびPlGFについてのアッセイ内精度CV(%)は、それぞれ、3.5および5.6であった。sFlt1およびPlGFについてのアッセイ間精度CV(%)は、それぞれ、8.1および10.9であった。すべての試料は、二連で実行され、二連間に>10%変動が存在する場合には、アッセイは繰り返され、平均が報告された。対応する実験室は、症例状態に対して目隠しされ、すべての試料は、無作為に順序づけられた。
【0121】
結果
すべての妊娠結果は、前向きに調べられ、出産前のフローシートおよび実験室調査を含む医療記録の詳細な調査により検証された。適格症例は、研究期間中に連続的に同定された。子癇前症は、尿路感染症の非存在下におけるディップスティックによる32+または3300 mg/24時間のいずれかのタンパク尿と付随して、妊娠20週間後の、収縮期血圧上昇140 mm Hgまたは拡張期血圧90 mm Hgとして定義された。対照(〜2:1)は、症例と同じ期間内にMOMSコホートに参加した、妊娠週齢として適切に赤ん坊を出産した、かつ妊娠中を通して正常血圧および非タンパク尿のままであった女性から無作為に選択された。糖尿病、甲状腺疾患、肝臓疾患もしくは慢性腎疾患、または先在する慢性高血圧(妊娠の前もしくは妊娠20週の前に、血圧>140/90、または血圧降下剤の必要性として定義される)をもつ女性は、除外され、典型的には妊娠の第三期初期に実施される最初のブドウ糖負荷試験で不合格であったすべての女性も同様であった。
【0122】
統計学的解析
連続型変数は、スチューデントのt検定により解析され、カテゴリー変数は、カイ二乗検定により解析された。一次曝露 − PlGF、sFlt1およびSHBG − は連続型変数として、および対照における第25百分位数に基づいた切点をもつ2項変数として、調べられた。多変量解析は、ロジスティック回帰技術を用いて行われ、層化モデルを含む効果改変(相互作用)についての標準検定が行われた。PlGFの第一期血清レベルとPE3のリスクの間の強い関連性を仮定すれば、解析の目的は、PlGFの第一期レベルに基づいたリスクが、SHBGの血清レベルに基づいたインスリン抵抗性の様々な程度をもつ女性間で異なるかどうかを決定することであった。すべてのp値は両側をとられ、<0.05のp値は統計学的に有意とみなされた。PlGF、sFltおよびSHBGレベルは、以下のものと相互相関しうる:1)そのタンパク質が測定される時点における妊娠週齢(ga-pnv);2)女性の年齢(Mat年齢);3)彼女の経産回数(par);および4)彼女の体格指数(bmi)。表1〜3および図1は、多変量モデルに基づいた妊娠性疾患を予測するための疫学的証拠を提供する。
【0123】
(表1)
【0124】
表1は、子癇前症を発症した女性および正常血圧の対照のベースライン特徴を示す(*は、そのp<0.05を示す)。
【0125】
(表2)
【0126】
表2は、対照と比較した、子癇前症を発症した女性における胎盤成長因子、sFlt1およびSHBGの第一期血清レベルを示す(*は、そのp<0.001を示し、†はそのp=0.05を示す)。
【0127】
表3(下方)は、PEを発症した25人の女性および53人の正常血圧の対照のコホート内症例対照研究を示す。血管新生、具体的には胎盤成長因子およびsFlt1の測定は、様々な交絡因子について調整される。すべての測定は、妊娠10〜12週間目になされ、マーカーは、血液における測定からである。
【0128】
(表3)第一期PlGFおよびSHBGレベルによる子癇前症のリスク
*参照群、PlGF>20 pg/ml
†母親の年齢、血液収集の妊娠週齢、人種、経産回数、体格指数、収縮期血圧、喫煙歴、sFlt-1およびSHBGの血清レベルについて調整された多変量モデル
‡参照群はPlGF>20 pg/ml
¶母親の年齢、血液収集の妊娠週齢、人種、経産回数、体格指数、収縮期血圧、喫煙歴、sFlt-1の血清レベルについて調整された多変量モデル
【0129】
表3および図1におけるデータは、代謝症候群およびインスリン抵抗性(インスリンレベルの上昇、グルコースレベルの変化、この症候群のマーカーすなわちSHBGの低レベル、脂質レベルの上昇、体格指数の上昇、炎症性マーカーの上昇、および凝固因子の変化を含むインスリン抵抗性の測定を特徴とする)が、心血管疾患および糖尿病のリスクを含む、子癇前症および関連疾患のリスクの増加を与える血管形成誘導因子と疫学的および生物学的に相互作用することを示している。
【0130】
実施例2 − サイトカインアッセイ
本発明は、単一のサイトカインまたは成長因子の変化が、子癇前症、GDMもしくはGHをもつまたはもちやすい対象を同定するために用いられうることを実証している。尿、血漿および血清試料は、サイトカインアレイ(Zyomyx(登録商標))を用いてサイトカインレベルについて検査された。アレイは、血清または尿のような複雑な生体液の約40 μlの試料容量を用いる、IL-1α、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12(p70)、TNF-α、MCP-1、CD95(sFas)、IP-10、GM-CSF、IL-1β、IL-4、IL-7、IL-12(p40)、IL-13、TNF-β、MCP-3、MIG、CD23、GCSF、IL-2、IL-5、IL-8、IL-12(p40/p70)、IL-15、エオタキシン、TRAIL、sICAM-1、TGF-βおよびIFN-γを含む30個のサイトカインおよびケモカインの定量的分析を可能にする。データの品質は、ELISAアッセイにより確立された標準に匹敵する。尿におけるスパイク/回復分析が行われ、尿におけるサイトカインの回復(r=0.92)が測定された。すべての対象は正常な腎機能をもち、従って、尿素が分析を干渉した可能性は低かった。
【0131】
子癇前症を発症した5人の女性および正常血圧の妊娠である5人の対照由来の試料は、サイトカインレベルについて調べられた。すべての対象において、尿は、妊娠16〜18週間、妊娠性疾患の臨床診断のほとんど20週間前、において収集された。これらの試料は収集、分別され、分析が行われるまで-80℃で保存された。図2に示されたデータは、その後PEを発症した5人の女性および正常血圧の妊娠である5人の女性由来の血清、血漿および尿におけるサイトカインアレイパターンを示す。すべての女性は、未経産であった。サイトカイン定量化は、蛍光強度を用いる標準較正技術で行われた。
【0132】
図2に示された尿、血清および血漿におけるサイトカインアレイのヒートマップは、尿試料が同時に収集されていて、正常血圧の妊娠である女性(「参照」または「対照」)と比較して、子癇前症を発症した女性(「対象」または「症例」)の間で、妊娠16〜18週間での尿において、IL-6が上昇し、IL-8が低下している(白色の円を参照)ことを実証している。これは、サイトカインのアレイがこの高感技術により尿中で測定された最初であり、かつこの妊娠初期において、尿中に違いが見られた最初である。
【0133】
図2はまた、妊娠16週間目において、もう一つのケモカイン、MCP-1のレベルが、対照と比較して症例の尿において上昇したことを実証している。すべてのタンパク質測定は、尿クレアチニン濃度について正規化された。
【0134】
尿試料はさらに、標準プロテアーゼインヒビター(Complete MINI(商標)、Roche)の添加がサイトカイン回復を著しく向上させるかどうかを決定するために検査された。図3に示されているように、5つの尿試料が、収集時点においてインヒビターの添加有り(+I)、および無しで検査された。対数変換(pg/ml)されたタンパク質プロファイル(すべての試料は二連でなされた)が示されている。示されているように、サイトカインの回復は、プロテアーゼインヒビターの存在下において一貫しては増加しない。さらになお、サイトカイン濃度の上昇をもつ試料間においてさえも、回復の低下があるように見えない。最後に、サイトカインチップを用いる再現性研究もまた行われた(図4)。これらの結果は、尿サイトカインアッセイの再現性が優秀であることを示している。
【0135】
実施例3 − 成長因子アッセイ
サイトカインレベルと共に、本研究は、尿および血液試料における成長因子のレベルに関する情報を提供する。15人の対象(GDMを発症した5人、PEの5人および対照の5人)における妊娠16週間からの血清および尿試料が、例示的成長因子sFlt-1、遊離VEGF、および遊離PlGFについての市販のELISAキット(R&D Systems)で検査された。これらのELISAキットは、<10%のアッセイ間およびアッセイ内CVをもつ。すべてのアッセイは二連で行われ、平均は、図5および6に報告されている。遊離VEGFレベルは、検出できず、一般的に分娩日に検出される低VEGFレベルと一致している。
【0136】
図5に示された血清試料由来のデータは、対照女性と比較して、GDMを発症する女性は、妊娠16週間目において低い遊離PlGFレベルおよびわずかに上昇したsFlt-1レベルをもつ。さらに、その後PEを発症する女性は、この同じ時期において、よりいっそう低い遊離PlGFレベルおよびより高いsFlt-1レベルをもつ。sFlt-1/PlGFの比により反映される、抗血管新生性対血管新生促進性因子のバランスは、妊娠16週間目においてさえも異なる。
【0137】
尿試料由来のデータは、図6に示されている。sFlt-1は、それの大きなサイズのために尿へ分泌されないため、遊離PlGFが、尿試料における同定として標的にされた。尿サイトカインレベルは、尿PlGFレベルと比較された。図6におけるデータは、一般的に、低遊離PlGFレベルならびに上昇したIL-6およびMCP-1レベルが、その後のPEと強く関連していたことを実証している。
【0138】
図7は、妊娠後12±3ヶ月でのGDM(n=5)、PE(n=5)の病歴、および血糖正常/正常血圧の合併症を伴わない妊娠(UP)(n=5)をもつ女性の血清試料についてのデータを示している。これらのデータは、アテローム発生性および代謝性変化が、UPである女性と比較した場合、GDMおよびPEの病歴をもつ女性の間に存在していることを示している。重要なことには、CRPおよびIL-6の上昇は、持続性不顕性炎症を示唆し、インスリン抵抗性の増加(HOMA-IRの上昇)およびインスリン分泌の不足(低いΔI30/ΔG30)は、将来の2型糖尿病のリスクの増加を示唆している。両方の特徴は、サイトカインレベルの上昇と関連している。さらに、妊娠16週間目におけるこれらの同じ女性(GDM対UP)のIL-6およびTNF-αレベルは、血清IL-6(GDM 1.7 pg/ml対1.1 pg/ml)およびTNF-α(4.37 pg/ml対3.07 pg/ml)ならびに尿IL-6(GDM 4.24 pg/gCr対1.34 pg/gCr)のレベルは異なったことが見出される。これらのデータは、サイトカイン変化がGDMに先行し、分娩後に持続することを示している。
【0139】
実施例4 − IL-6、MCP-1およびIL-8アッセイ
本研究は、後にPE(またはGDM)を発症した女性の間での妊娠16週間目における尿IL-6(ならびに血清および尿のMCP-1ならびに尿IL-8)レベルにおける違いが検出できることを示している。対照的に、以前の研究は、そのような違いを検出することができなかった(Djurovic et al., BJOG, 109:759, 2002)。実施例2に記載され、かつ図2に示されているように、子癇前症を発症した5人の女性および正常血圧の妊娠である5人の対照由来の試料が、尿試料におけるサイトカインレベルについて調べられた。すべての対象において、尿は、妊娠16〜18週間、臨床診断のほとんど20週間前、に収集された。このデータを用いて、妊娠16週間目における、および分娩後の特定のタンパク質の平均レベルが比較された。平均間の差(Δ)、これが表した標準偏差の率、およびp値は、図4(下方)に示されている。
【0140】
(表4)
【0141】
平均差を検出するための検出力(1-β)は、0.75、1.0および1.25だけ異なる標準偏差(8つのあらかじめ特定されたサイトカインについて0.05/8、すなわち0.006の保存的ボンフェローニ調整されたpをもつ2サンプル、両側t検定に基づいた)および1:1の症例:対照で推定された。結果は、図10に示されている。データは、60個の症例および60個の対照が、0.75の標準偏差またはそれ以上で分散された平均における差を検出しうる少なくとも90%検出力を提供することを示している。図11は、妊娠性疾患を発症することにおける対象の相対的リスク(RR)を同定するための三分位数に渡る有意な線形トレンドを検出する計算(トレンドについてのカイ二乗検定)の結果を提供する表である。
【0142】
他の態様
本発明は、その詳細な説明と共に記載したが、前記の説明は例示することを意図し、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により定義されることは、理解されるべきである。他の局面、利点および改変は、特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】妊娠性疾患を発症するリスクがある対象を同定することにおける、PlGF(pg/ml)とSHBG(nmol/L)レベルの間の比較の3次元グラフである。
【図2】尿中のサイトカインレベルと妊娠性疾患を発症するリスクの間の相関を描くサイトカインアレイのヒートマップである。
【図3】プロテアーゼインヒビターの存在または非存在下における尿試料由来のサイトカインの回復に関するデータを提供する表である。
【図4】サイトカインアレイを用いて生体試料におけるサイトカインを同定することの再現性に関するデータを提供する表である。
【図5】妊娠した対象の血清におけるsFlt-1/PlGFの比に関するデータを提供する表である。
【図6】妊娠性疾患の同定におけるサイトカインレベルおよび成長因子レベルの相関に関するデータを提供する表である。
【図7】GDM、PEの病歴、および血糖正常/正常血圧の合併症を伴わない妊娠(UP)をもつ女性由来の血清試料についてのデータを提供する表である。
【図8】「症例」(すなわち、「対象」)対「対照」(すなわち、「参照」)の成長因子データの主成分分析(PCA)の結果の3次元グラフを描く。
【図9】5つの症例および5つの対照のそれぞれについて測定された5つのタンパク質(サイトカイン)のデータセットに適用された場合のベイズの判別分析の結果を描くグラフである。
【図10】症例対対照の対象におけるサイトカインレベルでの平均差を検出することについての結果を提供する表である。
【図11】妊娠性疾患を発症することにおいて対象の相対的リスク(RR)を同定するために三分位数に渡っての有意な線形トレンドを検出する計算(トレンドについてのカイ二乗検定)の結果を提供する表である。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、妊娠性疾患のスクリーニング、およびより具体的には、妊娠性疾患を示す妊娠した対象から得られた生体試料に存在するバイオマーカーのスクリーニングに関する。
【0002】
連邦政府の資金援助による研究に関する言明
本発明は、National Institutes of Healthにより与えられたHD39223による政府支援でなされた。従って、政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
妊娠糖尿病(GDM)および妊娠高血圧症候群(pregnancy-induced hypertension)(PIH)は、それぞれ、すべての妊娠の2〜3%および5〜10%に合併する。これらの疾患は、妊娠の第三期に起こることがあり、有意な母親および胎児の罹患率および死亡率に繋がる。妊娠糖尿病は、妊娠中の耐糖能異常の新たな発症または新たな診断として記載され、肩甲難産および出産時外傷のような巨大児に関連した胎児合併症を伴う。さらに、GDMは、帝王切開術率の増加およびPIHのリスクの増加と関連している。PIHは、早期陣痛、帝王切開術率の増加、急性腎不全、肝機能異常、卒中、凝固障害および死と関連している。胎児について、PIHは、出生時低体重、新生児集中治療の延長、および子宮内死と関連している。
【0004】
PIH関連疾患は、子癇前症(PE)および妊娠高血圧(gestational hypertension)(GH)を含む。子癇前症は、妊娠の第20週目後に発生する高血圧、腫脹(浮腫)、および尿中のタンパク質(アルブミン尿、タンパク尿)の組み合わせとして特徴付けられる。子癇前症は、重症度において軽症から重症まで様々である;軽症型は、時々、タンパク尿性妊娠高血圧症候群またはタンパク尿性妊娠高血圧と呼ばれる。妊娠(一過性)高血圧は、一般的に、タンパク尿または異常な浮腫なしに、かつ出産後10日間以内に消散する、妊娠期間または初期産褥期における高血圧の急性発症として特徴付けられる。
【0005】
子癇前症および子癇を発症するリスクが高い個体は、多胎妊娠、奇胎妊娠もしくは胎児水腫、慢性高血圧もしくは糖尿病、または子癇もしくは子癇前症の家族歴をもつ初妊婦および女性を含む。子癇前症(PE)および妊娠高血圧(GH)は、PIHの型である。
【0006】
GDMに起因するPIHを含むPIHについての現在の標準的治療は、しばしば胎児の健康を犠牲にしての、分娩である。カルシウム補給およびアスピリン治療を含むPIHを防ぐための予防ストラテジーは、ほとんど不成功であった。これらの試みが失敗した一つの理由は、スクリーニング検査の欠如が、妊娠結果を修正するのに十分早期に治療的介入を施す能力を制限していることである。例えば、浮腫およびタンパク尿の出現だけによりPEを診断することは、浮腫は正常な妊娠によくあることであり、かつ測定可能なタンパク尿は、通常、高血圧が現れた後のみ生じるため、信頼できない。それゆえに、そのような検査は特異性を欠き、妊娠の第三期における疾患の徴候の前にGDMまたはPIHを検出することができない。
【0007】
現在、妊娠の第三期の前にGDMまたはPIHを発症するリスクがある女性を信頼性をもって同定する単一の生化学マーカーまたは複数の生化学マーカーはない。従って、妊娠性疾患のリスクがある女性についての治療の早期実行および妊娠結果の改善へと導く診断方法および組成物の必要性が存在している。
【発明の開示】
【0008】
概要
本発明は、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)および/または胎盤性成長因子(PlGF)が、妊娠合併症、子癇前症、妊娠糖尿病、および妊娠高血圧のいずれかを発症するリスクについての初期指標として用いられうるという発見に基づいている。SHBGおよびPlGFについてのアッセイは、簡単かつ安価であり、受胎後5週間くらいの第一期中に行うことができ、女性側に何の準備も必要としない(例えば、検査は、絶食または非絶食条件下で行うことができる)。従って、本発明は、様々な妊娠合併症を発症するリスクの指標として、SHBGのようなインスリン抵抗性バイオマーカー、インターロイキン-6(IL-6)のようなサイトカイン、およびPlGFおよび可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt1)のような血管新生性バイオマーカーを利用するための方法を提供する。
【0009】
一般的に、本発明は、妊娠の第一期または第二期中に(例えば、受胎後5週間目において、または受胎後6〜12週間の間における任意の時期において、または8、10、12、14、16、18、20もしくは24週間目において)、妊婦から、血液または血清のような生体試料を得る段階;ならびに、試料において、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、またはSHBGおよびPlGFのレベルを測定する段階により、妊娠中の子癇前症、妊娠糖尿病および/または妊娠高血圧のような妊娠性疾患を発症する女性のリスクを測定する方法を特徴とする;試料におけるSHBG、またはSHBGおよびPlGFのレベルは、子癇前症、妊娠糖尿病、または妊娠高血圧を発症するリスクのレベルを示す。これらの方法において、試料は、絶食時または非絶食時試料でありうる。新しい方法は、妊娠糖尿病、妊娠高血圧、および子癇前症のすべてまたはいずれか1つもしくは複数のリスクのレベルを評価するために用いられうる。PlGFはまた、尿試料において検出されうる。
【0010】
特定の態様において、方法は、妊娠した対象から得られた生体試料、例えば、血清または血液の試料においてSHBGのレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られた生体試料、例えば、血清、血液または尿の試料においてPlGFのレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られたSHBGレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階;および、妊娠した対象から得られたPlGFレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたPlGFレベルと比較する段階を含む。正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGおよびPlGFの低レベルは、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことを示す。
【0011】
もう一つの局面において、SHBGおよび/またはPlGFレベルは、以下のものと相関している:1)SHBGおよびPlGFレベルが測定された時点における妊娠週齢;2)妊娠した対象の年齢;3)妊娠した対象の経産回数;および4)妊娠した対象の体格指数。
【0012】
もう一つの局面において、方法は、対象の生体試料、例えば、尿、血液または血清試料において少なくとも1つのサイトカインまたは成長因子(または両方)のレベルを測定する段階、および1つの値または複数の値を含む対象のプロファイルを作成する段階であって、各値が、特定のサイトカイン、SHBGおよび/またはPlGFのレベルを表している段階、ならびに、対象のプロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つの値または複数の値を含み、各値が、参照対象から得られた参照尿試料における特定のサイトカイン、SHBGおよび/またはPlGFのレベルを表している段階をさらに含む。サイトカインは、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、またはケモカインでありうる。例は、インターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1もしくはTNF-α、またはそれらの組み合わせを含む。参照プロファイルは、サイトカインを含む、または含むと考えられる、任意の源から得られた試料から作成されうる。サイトカインおよび/または成長因子の参照レベルは、参照プロファイルを作成するために用いられうる。例えば、参照プロファイルは、参照対象の尿、血清、血漿、羊水、または胎盤組織から得られうる。参照対象は、妊娠性疾患をもつ妊娠した個体または正常な妊娠をしている妊娠した個体でありうる。
【0013】
本発明の方法は、妊娠した対象から得られた試料を、SHBGおよび/またはPlGFに特異的な固定化された生体分子のアレイと接触させる段階および生体分子の改変を検出する段階により達成されうる。改変は、試料におけるSHBGおよび/またはPlGFのレベルを示し、生体分子のSHBGもしくはPlGFへの安定したまたは一過性の結合を含みうる。対象SHBGおよびPlGFレベルは、参照対象から得られた参照レベルと比較されうる。参照レベルは、さらに、1つまたは複数の参照対象から参照プロファイルを作成するために用いられうる。一つの局面において、生体分子は、モノクローナル抗体のような抗体である。もう一つの局面において、生体分子は、サイトカインを特異的に認識するウイルス抗原のような抗原である。さらにもう一つの局面において、生体分子は、受容体である。
【0014】
もう一つの局面において、本発明は、妊娠性疾患を検出するためのアレイを特徴とする。これらのアレイは、複数のアドレスを有する基板を含み、各アドレスは、その上に1つまたは複数の生体分子の1セットを配置しており、セットにおける各生体分子は、同じ分子を特異的に検出する;ここで1つまたは複数の生体分子の第一セットは、SHBGを特異的に検出し、1つまたは複数の生体分子の第二セットは、PlGFを特異的に検出する。アレイは、例えば、インターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1、またはTNF-αのようなサイトカインを特異的に検出する生体分子をさらに含みうる。一つの局面において、本発明のアレイは、例えば、可溶性fms様チロシンキナーゼ-1受容体(sFlt-1)、血管内皮増殖因子(VEGF)、または線維芽細胞成長因子(FGF)-2のような少なくとも1つの成長因子を特異的に検出する固定化された成長因子特異的生体分子をそれに配置している少なくとも2つのアドレスをさらに含む。
【0015】
本発明はまた、妊娠性疾患を検出するためのあらかじめパッケージされた診断キットを特徴とする。キットは、本明細書に記載されているようなアレイ、および妊娠性疾患を検出しうる生体試料、例えば、尿、血液または血清試料、を検査するためにアレイを用いる際の使用説明書を含みうる。
【0016】
本発明はまた、妊娠性疾患を処置するために施される治療の効力を測定するための方法、例えば、新しいアレイを用いる方法を含む。これらの方法は、妊娠性疾患についての治療を受けた妊娠した患者から得られた試料とアレイを接触させる段階を含む。SHBGおよび/またはPlGFのレベルは測定され、治療の実施の前または後に患者から得られた試料において検出されたSHBGおよび/またはPlGFのレベルと比較されうる。その後、介護人には、さらなる評価のための比較情報が提供されうる。
【0017】
さらに、対象プロファイルは、デジタルコード化した参照プロファイルの複数を含むデータベースを含むか、または、それにアクセスできるコンピュータシステムへ入力されうる。複数の各プロファイルは、複数の値を有し、各値は、妊娠性疾患をもつまたはもちやすい妊娠した個体のSHBGおよび/またはPlGFのレベルを表している。この様式において、単一の対象プロファイルは、参照値に基づいて、妊娠性疾患を発症するリスクがある対象を同定するために用いられうる。
【0018】
従って、他の局面において、本発明はまた、1つまたは複数のデジタルコード化参照プロファイルを含むデータベースを含むコンピュータ可読媒体を特徴とし、第一参照プロファイルは、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるSHBGのレベルを表し、および任意で、第二参照プロファイルが妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるPlGFのレベルを表す。
【0019】
本発明はまた、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定するためのコンピュータシステムを特徴とする。これらのシステムは、1つまたは複数のデジタルコード化参照プロファイルを有するデータベースであって、第一参照プロファイルは、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるSHBGのレベルを表し、および任意で、第二参照プロファイルが妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料におけるPlGFのレベルを表す、データベース;ならびに、コンピュータに以下のことをさせるためのコンピュータ実行可能コードを含むサーバーを含む:i)対象由来の試料において検出されたSHBGのレベル、またはSHBGおよびPlGFのレベルを含む妊娠した対象のプロファイルを受けること;ii)妊娠した対象プロファイルに診断的に関連している適合した参照プロファイルをデータベースから同定すること;およびiii)対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかについての表示(indication)を作成すること。
【0020】
リスクがある女性を同定するためのそれらの使用に加えて、新しい方法は、妊娠合併症のリスクがない女性を同定し、それに従って、妊娠中に後から追加で検査する必要がないように、すべての妊婦について日常的なスクリーニングまたは「プレスクリーニング」として用いられうる。
【0021】
本明細書に用いられる場合、用語「生物学的分子(biological molecules)」および「生体分子(biomolecules)」は、交換可能に用いられうる。これらの用語は、広く解釈され、一般的に、ポリペプチド、ペプチド、オリゴ糖、多糖、オリゴペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドを含むように意図されている。オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、例えば、DNAおよびRNA、例えば、アプタマーの形をとったものを含む。生体分子はまた、有機化合物、有機金属化合物、有機および有機金属化合物の塩、糖、アミノ酸およびヌクレオチド、脂質、炭水化物、薬物、ステロイド、レクチン、ビタミン、ミネラル、代謝産物、補因子、ならびに補酵素を含む。生体分子はさらに、記載された分子の誘導体を含む。例えば、生体分子の誘導体は、抗体のような、オリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質の脂質ならびにグリコシル化誘導体を含む。生体分子の誘導体のさらなる例は、オリゴ糖および多糖の脂質誘導体、例えば、リポ多糖を含む。
【0022】
他に規定がない限り、本明細書で用いられるすべての技術的および科学的用語は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと類似したまたは等価の方法および材料は、本発明の実施または検査に用いられうるが、適した方法および材料は下に記載されている。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、全体として参照により組み入れられている。不一致がある場合、定義を含む本明細書が支配するものとする。さらに、材料、方法および実施例は、例証となるのみであり、限定することを意図されない。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかであると思われる。
【0024】
詳細な説明
妊娠高血圧症候群(PIH)および妊娠糖尿病(GDM)のような妊娠性疾患は、妊娠の第三期に起こり、有意な母親および胎児の罹患率および死亡率に繋がる。現在、妊娠の初期にいずれの疾患の発生も予測する有効な実験室検査はない。診断は、一般的に、症状が現れる第三期の間に、または日常的な血圧および血糖値スクリーニングでなされる。これらの疾患を予測しうる診断検査の決定的な欠如が、予防的治療剤を同定する研究者の能力を妨げている;現在の予防ストラテジーは、これらの介入が、妊娠結果を変える可能性が制限される妊娠期間の遅くに開始されるため、大部分は失敗した。さらに、初期予測マーカーの欠如は、高リスクの女性において予防的治療を実行する臨床医の能力を制限する。
【0025】
子癇前症(PE)は、病因が十分には理解されていない内皮細胞疾患である。sFlt1、血管内皮増殖因子(VEGF)および胎盤成長因子(PlGF)に対する内因性インヒビターの投与が結果として、動物においてPEとの表現型類似点を生じたように、PEは、血管新生関連タンパク質の発現における変化と関連していた。実際に、低レベルの血清PlGFおよびVEGF(血管新生促進性)およびsFlt-1(抗血管新生)のレベルの増加は、臨床症状の発生より前に起こるように見える。従って、本明細書に記載されているように、低レベルのPlGFは子癇前症に関連している。
【0026】
しかしながら、血管新生における変化に加えて、PEを発症する女性はまた、インスリン抵抗性の徴候を有する。妊娠を除くインビトロのモデルは、インスリンシグナル伝達および血管新生が親密に関連していることを示唆している。例えば、インスリンは、内皮細胞においてVEGF mRNAの発現を活性化し、インスリンおよびVEGFの両方のシグナル伝達は、酸化窒素生成へと導く。インスリン抵抗性症候群は、糖尿病、高血圧および心血管疾患のリスクの増加を与える一群の代謝系異常から構成される。肥満、高血圧、異常脂質血症、全身性炎症、および線維素溶解の低下のようなインスリン抵抗性症候群もまた、子癇前症と関連している。さらに、多嚢胞性卵巣症候群または妊娠糖尿病(2つの疾患はインスリン抵抗性を特徴とする)をもつ女性は、子癇前症のリスクが増加している。
【0027】
正常なインスリンシグナル伝達および血管新生の両方は、内皮細胞の健康を維持するため、先在するインスリン抵抗性をもつ女性は、血管形成誘導因子における変化に対する過度の応答をもち、両方の経路における変化は、相乗的にPEのリスクを拡大するように作用する。本発明は、インスリン抵抗性と血管新生の間に相互作用が存在するという疫学的証拠を提供する。
【0028】
本発明は、SHBGのようなインスリン抵抗性バイオマーカーおよびPlGFのような血管新生のバイオマーカーを、様々な妊娠合併症を発症するリスクの指標として利用するための方法を提供する。SHBGおよびPlGFレベルは、妊娠性疾患を発症する対象の可能性を予測するために、サイトカインまたは成長因子のような他のバイオマーカーレベルと共に用いられうる。重要なことには、インスリン抵抗性の他のマーカーと違って、SHBGは、絶食または非絶食状態において信頼性があり、最小の日内変動を示す(Hamilton-Fairley et al., Clin. Endocrinol. (Oxford), 43:159 (1995))。これらの特徴は、SHBGをインスリン抵抗性の固有のマーカーにし、特に、出産前の産科的管理中のように、絶食時血液試料が日常的には収集されない場合の臨床的状況において有用である。
【0029】
性ホルモン結合グロブリン(SHBG)は、循環エストロゲンおよびテストステロンを結合する、肝臓により合成される糖タンパク質である。肝臓のSHBG産生は、インスリンにより抑制され、従って、SHBGレベルの低下は、インスリン過剰血症およびインスリン抵抗性のマーカーである。インスリン抵抗性の指標としてのSHBG測定の臨床的有用性は、SHBGレベルの低下が、他の点では健康な女性において将来のII型糖尿病のリスクの増加と関連しているという研究において確立された(例えば、Lindstedt et al., Diabetes, 40:123 (1991)およびHaffner et al., J. Clin. Endocrinol. Metab., 77:56 (1993)参照)。正常な妊娠において、SHBGレベルは、第一期および第二期中に絶え間なく上昇し、正常な妊娠していない範囲の4〜6倍のピークに達する。妊娠の第一期中、SHBGレベルは、健康に月経がある女性における正常な範囲より3〜5倍上に増加する(Kerlan et al., Clin. Endocrinol. (Oxford), 40:253 (1994), O'Leary et al., Clin. Chem., 37:667 (1991))。このSHBGレベルにおける初期妊娠期間の増加は、第一期中のみ、ほとんど20倍上昇するエストラジオールレベルにおける同時発生の増加に酷似している(同上)。
【0030】
エストラジオールレベルは、出産まで、正常な妊娠していない初期卵胞期範囲の100倍より大きいレベルに達するように、妊娠の終わりまで上昇し続ける。対照的に、SHBGは、妊娠24週間以内に、正常な妊娠していない範囲の4〜6倍のレベルでピークに達し、その後レベルは、妊娠期間を通して一定のままである。インスリン抵抗性およびインスリンレベルはまた、通常の妊娠期間中、漸進的に増加するが、最大増加は、妊娠の後期中に生じる(例えば、Catalano et al., Am. J. Obstet. Gynecol., 165:1667 (1991), Stanley et al., Br. J. Obset. Gynaecol., 105:756 (1998)参照)。第三期中のインスリン抵抗性のこの生理学的増加は、SHBGレベルのさらなる増加を妨げることがあり、そうでなければSHBGレベルはエストラジオールレベルの漸進的増加を設定する際に予想される。
【0031】
第一期SHBGおよびPlGFレベルと、一変量および多変量分析における有害な妊娠結果との間の本明細書で同定された関連は、インスリン抵抗性が、子癇前症、妊娠高血圧、および妊娠糖尿病に寄与することを示している。さらになお、第一期SHBG測定は、これらの疾患のリスクが高い女性を同定するための有用なスクリーニング方法であることを実証している。
【0032】
リスクのある対象を同定する方法
インスリン抵抗性および代謝症候群は、子癇前症(PE)を発症する女性を特徴付ける。血管新生関連成長因子(PlGF)およびそれらのインヒビター(sFlt1)は、PEの発症と関連していた。本発明は、PEにおける、母体要因(例えば、インスリン抵抗性)のレベルおよび胎盤要因(例えば、PlGFおよびsFlt1のような血管新生の指標)のレベルは、子癇前症のような妊娠性疾患を発症する妊婦のリスクを疫学的に予測するために、相関されうる(すなわち、それらは、相加的な傷害の原因である)という最初の証拠を提供する。より具体的には、2つの経路、インスリン抵抗性(例えば、異常なSHBGまたはサイトカイン(IL-6のような)レベルにより証明されるような)および血管新生(例えば、低PlGFまたは高sFlt1により証明されるような)、における変化は、組み合わされた場合、妊娠性疾患を予測するために用いられうる。
【0033】
代謝症候群およびインスリン抵抗性(インスリンレベルの上昇、グルコースレベルの変化、この症候群のマーカー、すなわち性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の低レベル、脂質レベルの上昇、体格指数の上昇、炎症性マーカーの上昇、および凝固因子の変化を含むインスリン抵抗性の測定により特徴付けられる)は、心血管疾患および糖尿病のリスクを含む子癇前症および関連疾患のリスクの増加を与えるように、血管形成誘導因子と疫学的および生物学的に相互作用する。SHBGは、PlGFおよびsFlt1に有意な量の説明的情報(予測的情報)を加え、その組み合わせは、リスクのある対象を同定するための機構を提供する。
【0034】
新しい方法で用いる、妊娠中のSHBGレベルにおける自然増加のために、かつSHBGレベルに影響を及ぼすことが知られている他の因子を考慮すれば、SHBGレベルの結果は、妊娠への週の数(すなわち、血液採取時点における妊娠週齢)について調整されうる。さらに、SHBGのレベルはまた、年齢、妊娠週齢、人種、エストラジオールおよびテストステロンのレベル、ならびに体格指数(BMI)の1つまたは複数について調整されうる。
【0035】
検査集団のベースライン特徴は、表1(下の実施例における)に示されている。子癇前症(PE)を発症した女性は、未経産である可能性がより高く、より高い体格指数をもち、かつ正常血圧の対照と比較してより高い収縮期血圧をもつ女性であった。さらに、出産時の妊娠週齢はより早期であり、胎児の出生時体重は対照と比較してPEを発症した女性の間でより少なかった。
【0036】
出産前の最初の通院血液収集により、胎盤成長因子(PlGF)および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の血清レベルが、正常血圧の対照と比較して、その後にPEを発症した女性の間で有意により低かったことが明らかにされた(実施例における表2)。この妊娠初期において、sFlt1の血清レベルは2つの群の間で際立った差はなかったが、トレンド(trend)は、PEを発症した女性が、この妊娠初期においてさえも上昇したレベルをもつことを示唆した。PlGFとSHBGの間の相関は、強く正であり(r=0.58, P<0.001)、低ベースラインレベルのPlGFをもつ女性もまた、低レベルの血清SHBGをもつことを示唆した。sFlt1とSHBGの間の相関は、r=0.17、P=0.10であった。
【0037】
PlGFの血清レベルは、その後、対照集団の第25百分位数に基づいた切点(≦20 pg/ml対>20 pg/ml)をもつ2項変数(低い対高い)へ分類された。未調整の分析において、低いベースライン血清PlGFレベルをもつ女性は、高いベースラインPlGFレベルをもつ女性と比較して子癇前症を発症するリスクが6倍増加した(実施例における表3)。母親の年齢、血液収集の妊娠週齢、人種、経産回数、体格指数、収縮期血圧、ならびにsFlt-1およびSHBGの血清レベルについて調整した後、点推定値は、わずかに増加した(表3)。重要なことには、モデル適合度(曲線の下の領域)は、SHBGがモデルに加えられた場合、改善され(0.80〜0.86)、分析におけるSHBGの包含が、モデルの調整過剰を示さず、改善を示したことを示唆した。
【0038】
次に、特定点推定値層が、SHBGの低レベル(≦175 mg/dl)および高レベル(>175 mg/dl)に基づいて(この場合もやはり、対照の間で第25百分位数を示す)調べられた。これらの解析により、2つの層の間でPlGFについての著しく異なる点推定値が明らかにされた。SHBGの低い血清レベルをもつ女性の層において、PlGFの低い血清レベルをもつ女性の間での子癇前症のリスクは、25.5であり、一方、SHBGの高レベル(およびPlGFの低レベル)をもつ女性の間での推定値は、1.8であった(表3)。従って、層別解析におけるこれらの観察された点推定値の差は、PlGFの効果が、インスリン抵抗性の異なる程度により改変されたことを示唆した。相互作用または効果改変の示唆は、さらに探究された。
【0039】
一変量のモデルにおいて、相互作用項PlGFxSHBGは、統計学的に有意であった(ワルドp=0.02)。しかしながら、調整モデル(他の交絡要因、血清PlGF、sFlt1およびSHBGを含む)において、相互作用項は、もはや有意ではなく(ワルドp=0.10)、信頼区間は予想通り広がった。本発明者らは、その後、前に調べられた切点に基づいた相互作用項を、重要な交絡要因について調整した多変量モデルへ含めた。3つ(n-1)の相互作用項(高PlGFおよび高SHBG、および参照))をもつこのモデルにおいて、PlGFおよびSHBGの低い第一期レベルをもつ女性の間で子癇前症を発症するリスクは、低いPlGFレベルのみをもつ女性の間に見出されるリスクの約2倍、低いSHBGレベルのみをもつ女性の間でのリスクの約4倍であった(表3)。重要なことに、これらの推定値は、これらの解析が未経産(低PlGFおよび低SHBG、OR 13.8、95% CI 1.5〜124.2)または経産(OR、15.7、95% CI 0.9〜276.6)の女性に限定された場合、際立った違いはなく、経産回数におけるベースライン差は、本発明者らの発見を説明しないことを示唆した(他のデータ示さず)。
【0040】
図1に示された3-Dグラフは、参照対象より低いSHBGレベル(すなわち、<約175 nmol/L)および参照対象より低いPlGFレベル(すなわち、<約20 pg/ml/L)をもつ妊娠した対象は、妊娠性疾患を発症するリスクが増加していることを示している。グラフはまた、少なくとも以下の4つのリスクカテゴリーがあることを示している:非常に低いリスク、低いリスク、中間のリスク、および高いリスク。具体的には、低SHBGレベルおよび低PlGFレベルは、高いリスクに対応している。高SHGBレベルおよび高PlGFレベルは、非常に低いリスクに対応している。低SHGBレベルおよび高PlGFレベルは、低いリスクに対応している。高SHGBレベルおよび低PlGFレベルは、中間のリスクに対応している。低い、中間の、または高いリスクを示す結果をもつ女性は、その後、さらなる検査をしてもらうよう、および/または特定の疾患について処置されるよう取り計らうことができる。新しい検査は、それゆえに、リスクのある女性を決定するためだけでなく、将来の妊娠合併症のリスクがない女性を決定するために有用である。従って、新しい検査方法は、妊娠中のその後の必要のない検査を有意に減らすことができる。
【0041】
これらのデータは、循環血管形成誘導因子についてのマーカーおよびインスリン抵抗性についてのマーカーにおいて変化をもつ女性は、どちらかの測定においてのみ変化をもつ女性と比較して、かつどちらにも変化をもたない女性と比較して、子癇前症(PE)を発症するリスクが増加したという第一の証拠を提供する。具体的には、第一期において血清胎盤成長因子(PlGF)の低レベルをもつ女性は、その後のPEを発症するリスクが増加し、このリスクは、SHBG、つまりインスリン抵抗性の代理マーカーの低レベルももつ女性において際立っている。データは、PlGFレベルとPEのその後のリスクの関係がSHBGの血清レベルに依存して改変されたように、血清PlGFとSHBGの間に有意な相互作用があることを示している。
【0042】
有力な統計学的相互作用のこの発見はさらに、細胞内インスリンシグナル伝達と血管新生の間の重要な分子相互作用が生じることを示している。例えば、インスリンのインスリン受容体への結合は、特定のタンパク質キナーゼ(それらのうちの最も重要なのはタンパク質キナーゼBα/Aktキナーゼを含む)を含む様々なシグナル伝達経路の活性化へと導く。この重要な段階は、アポトーシス、代謝および増殖を含む細胞機能を支配する。さらに、インスリンはまた、血管内皮増殖因子(VEGF)mRNAの発現を含む血管新生に関与する遺伝子の発現を制御し、VEGF(および、おそらく、PlGF)シグナル伝達もまた、Aktリン酸化を活性化する。興味深いことに、糖尿病ラットは、VEGF mRNAの細胞発現の低下、インスリンにより救出されうる過程を示す。それゆえに、インスリン受容体における、または下流インスリンシグナル伝達経路における欠陥は、血管形成誘導因子における変化へ導きうる。これらの傷害の原因の組み合わせは、重要な細胞機能を変化させる、内皮細胞を傷つける、およびその後、PEを発症するリスクを増加させるように相乗的に作用しうる。
【0043】
正常な血管新生はまた、胎盤発達の重要な構成要素である。内皮細胞の完全性を維持することに加えて、VEGFおよびPlGFは、栄養芽細胞の増殖、遊走および浸潤、正常な胎盤形成を命令する、かつ子癇前症において変化する重要な過程の原因である。それゆえに、VEGF、PlGFおよびそれらのインヒビターsFlt1における変化は、PEの病気の発生において中枢の役割を果たしうる。さらに、しかしながら、インスリンおよびインスリン様成長因子は、内皮細胞増殖を含む血管機能において重要な役割を果たす。さらになお、研究者は、子癇前症をもつ女性において胎盤のレベルでのインスリンおよびインスリン様成長因子の変化を同定した。それゆえに、VEGF、PlGFおよびsFlt1の変化の存在下におけるインスリンまたはインスリン様成長因子の変化は、胎盤のレベルで相乗的に作用して、PEに特徴的な胎盤所見を説明する、異常な栄養芽細胞浸潤へ導きうる。
【0044】
炎症性およびインスリン抵抗性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、MCP-1およびIL-8)、血管新生関連成長因子(PIGF、FGF-2)、成長因子アンタゴニスト(sFlt-1)、および代謝症候群関連インスリン抵抗性についてのバイオマーカー(すなわち、性ホルモン結合グロブリン(SHBG))における特定の変化は、GDMおよびPIHのような妊娠性疾患に生物学的に関連づけることができる。下のさらなる詳細に考察されているように、本発明は、妊娠の第三期の前で、かつ第一期くらい早くに、尿および/または血液における、SHBG/PlGFレベルまたはそれらのアンタゴニストの変化が、子癇前症、妊娠高血圧および妊娠糖尿病のリスクの増加を示しうるという発見に一部基づいている。妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法が提供される。
【0045】
一つの態様において、本発明は、以下の段階を含む、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法を提供する:妊娠した対象から得られた血清試料において性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られた血清試料または尿試料において胎盤成長因子(PlGF)のレベルを測定する段階;妊娠した対象から得られたSHBGレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階;および、妊娠した対象から得られたPlGFレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたPlGFレベルと比較する段階。正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGおよび/またはPlGFの低レベルは、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことを示している。SHBGおよび/またはPlGFレベルは、以下のものと相関している:1)SHBGおよびPlGFレベルが測定される時点における妊娠週齢;2)妊娠した対象の年齢;3)妊娠した対象の経産回数;および4)妊娠した対象の体格指数。本明細書に用いられる場合、SHBGまたはPlGFの「低レベル」とは、正常な妊娠をしている対象において検出されるSHBGまたはPlGFのレベル未満であるレベルとして定義されうる。一般的に、SHBGおよびPlGFのレベルは、検査対象と正常な妊娠をしている対象の間において、試料が対象妊娠期間プラスまたはマイナス1〜2週間内の約「x」週間目において両方の対象から採取される場合に比較できる(下記参照)。または、SHBGまたはPlGFのレベルは、1人または複数の参照対象により確立された閾値と比較して、「低い」と定義されうる。SHBGおよびPlGF、それぞれについての例示的閾値175 nmol/Lおよび20 pg/mlは、本明細書に考察されているように、図1に提供されている。
【0046】
方法はさらに、対象尿試料において少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階、および1つの値または複数の値を含む対象プロファイルを作成する段階であって、各値が特定のサイトカインのレベルを表す段階、および対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが、1つの値または複数の値を含み、各値が参照対象から得られた参照尿試料における特定のサイトカインのレベルを表す段階を含みうる。サイトカインおよび/または成長因子の参照レベルは、参照プロファイルを作成するために用いられうる。例えば、参照プロファイルは、参照対象の尿、血清、血漿、羊水または胎盤組織から得ることができる。参照対象は、妊娠性疾患をもつ妊娠した個体、および正常な妊娠をしている妊娠した個体でありうる。
【0047】
本明細書に用いられる場合、「妊娠性疾患」は、子癇前症(PE)または妊娠高血圧(GH)のような妊娠高血圧症候群(PIH)を含む。妊娠性疾患はさらに、妊娠糖尿病(GDM)を含む。本明細書に用いられる場合、「正常な妊娠」とは、妊娠性疾患を伴っていない妊娠である。
【0048】
「対象」プロファイルは、一般的に、「検査」プロファイルとして記載される。対象プロファイルは、GDMおよび/またはPIHを発症する対象のリスクを同定するために、第三期の前に対象から採取された試料から作成されうる。従って、「対象」プロファイルは、妊娠性疾患について検査されることになっている対象から作成される。
【0049】
「参照」プロファイルは、一般的に、「対照」プロファイルである。参照プロファイルは、正常な個体または妊娠性疾患をもつ個体の、妊娠における特定の時点において採取された試料から作成されうる。参照プロファイルまたは複数の参照プロファイルは、試料における、例えば、特定のサイトカインのレベル、または試料におけるSHGBおよびPlGFレベルについて閾値を確立するために用いられうる。「参照」プロファイルは、妊娠性疾患をもつ個々の妊婦から作成されるプロファイルか、または正常な妊娠をしている妊婦から作成されるプロファイルかのいずれかでありうる。または、参照プロファイルは、妊娠性疾患をもつ一組の妊婦か、または正常な妊娠をしている一組の妊婦のいずれかから作成されるプロファイルでありうる。参照プロファイルは、特定の同定可能なバイオマーカーのアレイ「シグネチャー(signature)」または「パターン」として表現される。アレイシグネチャーは、簡単な視覚的またはコンピュータ支援の同定のために色分けされうる。シグネチャーはまた、アレイにより同定されたバイオマーカーに起因する値に対応する1つまたは複数の数として記載されうる。図2(右側)に示されたキーは、どれくらいの値が、アレイにより同定されたバイオマーカー濃度に起因されうるかについての一つの例を提供する。本明細書に用いられる場合、「アレイ分析」は、因子分析または主成分分析(PCA)のような統計学的計算を用いてアレイから情報を外挿する過程である。
【0050】
シグネチャーとして表現されることに加えて、参照プロファイルは、「閾」値または一連の閾値として表現されうる。例えば、単一の閾値は、妊娠した対象においてSHGBまたはPlGFのレベルについて測定されうる。SHGB(約175 nmol/L)およびPlGF(約20 pg/ml)についての例示的閾値は、表3および図1に提供されている。サイトカインレベルに関して、単一の閾値は、正常な妊娠をしている妊婦からの一連のサイトカインレベルの値を平均することにより決定されうる。同様に、1つまたは2つまたはそれ以上の閾値は、妊娠性疾患をもつ妊婦からの一連のサイトカインレベルを平均することにより決定されうる。従って、閾値は、単一の値または複数の値を有し、各値は、例えば、妊娠性疾患をもつ妊娠した個体または複数の個体の、尿または血液試料において検出された特定のサイトカインまたは成長因子もしくはそのアンタゴニストのレベルを表している。
【0051】
例えば、サイトカイン値も考慮する場合、図2は、正常な妊娠をしている妊婦から得られた試料由来のMCP-1レベルについての閾値が、すべての5つの尿試料の平均に基づいて計算されうることを示している(262、104、102、35および20と呼ばれた患者についての「対照」水平カラムおよび対応する垂直MCP-1カラムを参照)。MCP-1の平均レベル(90+230+210+300+210 pg/mLを仮定する)は、約200 pg/mLである。381、305、289、94および64と呼ばれた患者由来の尿試料におけるMCP-1レベルとこれらのデータの比較は、約200 pg/mLより下のMCP-1レベルが、正常な妊娠を示していることを示す。対照的に、妊娠16〜18週間目において約200 pg/mLを上回る尿におけるMCP-1のレベルをもつ妊婦は、妊娠性疾患を発症するリスクがあることが予測される。同様に、同じ患者から採取された尿試料は、約20 pg/mLより上のIL-6レベルが妊娠性疾患を示していることを示す。さらに、同じ患者から採取された尿試料は、約200 pg/mLより上のIL-8レベルが妊娠性疾患を示していることを示す。
【0052】
SHBGおよびPlGFのレベルを含む、本発明のプロファイルを作成するために用いられる試料は、受胎後約6週間と24週間の間、約12週間と24週間の間、または約18週間と24週間の間において入手されうる。典型的には、試料は、第三期の前に、例えば、受胎後5〜24週間の間での任意の時点(例えば、8、10、12、14、16、18、または20週間)において、採取される。例えば、生体試料は、受胎後約6週間と24週間の間、約12週間と24週間の間、または18週間と24週間の間において、妊婦から入手されうる。試料は、対象プロファイルまたは参照プロファイルを作成するために用いられうる。
【0053】
対象プロファイルまたは参照プロファイルは、妊娠期間における時点で採取された試料から作成される。試料は、血液、血清または尿でありうる。対象および参照プロファイルは、対象および参照の妊娠期間内の類似した時間から採取された試料から作成される。一般的に、対象プロファイルが、対象妊娠期間内の「x」週目で採取された試料から作成された場合には、比較目的のための適切な参照プロファイルは、参照妊娠期間の「x」週プラスまたはマイナス2週間(または1週間)において採取された試料から作成されていることであろう。例えば、妊娠16週目であると推定される妊婦から得られた試料由来の対象プロファイルは、妊娠14週目〜18週目における妊婦から得られた試料由来の参照プロファイルまたは複数の参照プロファイルと比較されうる。
【0054】
妊娠性疾患をもつまたはもちやすい女性は、妊娠の第三期の前に同定されうる。バイオマーカーは、サイトカイン、成長因子、または成長因子インヒビターでありうる。より具体的には、インスリン抵抗性バイオマーカー、または血管新生性バイオマーカーは、サイトカイン、成長因子、および成長因子インヒビターを含む。インスリン抵抗性バイオマーカーは、SHBGを含む。血管新生性バイオマーカーは、PlGFを含む。
【0055】
対象プロファイルは、妊娠した対象から得られた血液、表面血清、または尿試料におけるレベルSHBGおよびPlGFを含みうる。プロファイルはさらに、対象由来の尿試料において検出された少なくとも2つのサイトカインのレベルを含んでもよく、正常な妊娠した対象から得られたSHBGおよびPlGFのレベルを含む「参照」プロファイルと対象プロファイルを比較する。参照プロファイルはさらに、尿試料において検出された少なくとも2つのサイトカインのレベルを含みうる。参照プロファイルが、正常な妊娠をしている参照対象から得られた試料由来である場合には、参照プロファイルに対する対象プロファイルの類似性は、検査された対象について正常な(妊娠性疾患を伴わない)妊娠を示している。または、参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ参照対象から得られた試料由来である場合には、対象プロファイルの参照プロファイルとの類似性は、検査された対象について、妊娠性疾患を伴った妊娠を示している。
【0056】
サイトカイン
本発明の方法はさらに、血液および/または血清試料において、SHBGおよびPlGFレベルを1つまたは複数のサイトカインのレベルと相関させる段階を含みうる。サイトカインは、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、またはケモカインでありうる。例は、インターロイキン(IL)-6、IL-8、IL-1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1もしくはTNF-α、またはそれらの組み合わせを含む。サイトカインは、細胞により、それら自身の機能(自己分泌作用)または隣接細胞の機能(傍分泌作用)のいずれかを変化させることを目的として分泌される、ありとあらゆる比較的低分子量の薬理学的活性タンパク質を含む。多くの場合、個々のサイトカインは、複数の生物活性を有する。異なるサイトカインはまた、同じ活性を有してもよく、炎症性および免疫系内に機能的冗長性を与える。結果として、1つのサイトカインの損失または中和がこれらの系のどちらかを著しく干渉することはまれである。この事実は、治療ストラテジーの開発において大きな重要性をもつ。
【0057】
サイトカインは、いくつかの群に細分化でき、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、およびケモカインを含む。代表的な免疫/ヘマトポイエチンは、エリスロポイエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、インターロイキン(IL)-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-9、IL-10およびIL-12を含む。代表的なインターフェロン(IFN)は、IFN-α、IFN-βおよびIFN-γを含む。
【0058】
代表的なTNFファミリーメンバーは、TNF-α、インターフェロン(IFN)β、gp39(CD40-L)、CD27-L、CD30-Lおよび神経成長因子(NGF)を含む。
【0059】
代表的なケモカインは、血小板因子(PF)4、血小板塩基性タンパク質(PBP)、groα、MIG、ENA-78、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)1α、MIP1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1、I-309、HC14、C10、Regulated on Activation, Normal T-cell Expressed, and Secreted (RANTES)、およびIL-8を含む。
【0060】
ケモカインは、強力な白血球活性化および/または走化性活性をもつ構造的に関連した糖タンパク質のファミリーである。それらは、長さが70〜90アミノ酸、分子量が約8〜10 kDaである。それらの大部分は、4つのシステイン残基をもつ2つのサブファミリーに当てはまる。これらのサブファミリーは、2つのアミノ末端のシステイン残基がお互いに直接隣接しているか、または1つのアミノ酸で分離されているかにより区別される。CXCケモカインとしても知られているケモカインは、第一と第二システイン残基の間に単一のアミノ酸を含む;βまたはCC、ケモカインは、隣接したシステイン残基を有する。たいていのCXCケモカインは、好中球についての化学誘引物質であり、一方、CCケモカインは、一般的に、単球、リンパ球、好塩基球および好酸球を誘引する。これらはまた、2つの他の小さな亜群がある。C群は、1つのメンバー(リンホタクチン)を有する。それは、4つのシステインモチーフにおいてシステインのうちの1つを欠くが、それのカルボキシル末端においてC-Cケモカインと相同性を有する。Cケモカインは、リンパ球特異的であるように思われる。第四の亜群は、C-X3-C亜群である。C-X3-Cケモカイン(フラクタルカイン/ニューロタクチン)は、最初の2つのシステインの間に3つのアミノ酸残基を有する。それらは、長いムチンの柄(stalk)を介して細胞膜へ直接的に繋がれ、白血球の接着および遊走の両方を誘導する。
【0061】
図2に示された尿、血清および血漿におけるサイトカインアレイのヒートマップは、尿試料が同時に収集されていて、正常血圧の妊娠である女性と比較して、子癇前症を発症した女性(「症例」)の間で、妊娠16〜18週間での尿において、IL-6が上昇し、IL-8が低下している(白色の円を参照)ことを実証している。これは、サイトカインのアレイがこの高感技術により尿中で測定された最初であり、かつこの妊娠初期において、尿中に違いが見られた最初である。図2はまた、妊娠16週間目において、もう一つのケモカイン、MCP-1のレベルが、対照と比較して症例の尿において上昇したことを実証している。すべてのタンパク質測定は、尿クレアチニン濃度について正規化された。
【0062】
成長因子
方法はさらに、少なくとも1つの、胎盤可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt1)のような成長因子インヒビター、またはVEGFのような成長因子のレベルを測定する段階を含む。sFlt1、膜貫通および細胞質ドメインを欠損するVEGF受容体のスプライスバリアントは、強力なVEGFおよびPlGFアンタゴニストとして働く。sFlt1は、出産後減少するsFlt1の全身性レベルの増加へと導く、子癇前症において上方制御されることが知られている(Maynard et al., J. Clinical Invest., 111:5, 2003、参照により本明細書に組み入れられている)。子癇前症をもつ患者における循環sFlt1の増加は、遊離VEGFおよびPlGFの循環レベルの減少と関連している。
【0063】
胎盤成長因子(PlGF)、血管形成誘導因子の血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーのメンバー(VEGFと58%配列同一性)、および他の胎盤VEGFは、GDMおよびPIHの病気の発生に寄与しうる。さらになお、サイトカインおよび成長因子は、特定の病的障害の進行に協同しているように思われる。例えば、IL-6は、子宮頚癌および膵臓癌ならびに多発性骨髄腫活性を促進することが知られている。これらの過程はまた、VEGFにより仲介される(Wei et al., Oncogene, 22:1517, 2003)。さらに、TNF-αは、骨髄腫細胞によるVEGF分泌に関与している(Alexandrakis et al., Ann Hematol, 82:19, 2003)。VEGFおよびIL-8の両方は、単球および内皮細胞増殖を活性化し、IL-8自身は、血管新生に関与しうるように、成長因子およびサイトカインは、同じ標的細胞に作用しうる。PlGFは、単球を活性化するだけでなく、それはまた、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β)およびケモカイン(MCP-1、IL-8)の転写を増加させるように、成長因子およびサイトカインはお互いに制御しうる。最後に、TNF-αは、栄養芽細胞のアポトーシスを誘導し、線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)のような胎盤成長因子はこの過程を緩和するように、成長因子は、サイトカイン媒介性傷害を相殺する(Garcia-Lloret et al., J Cell Physiol, 167:324, 1996)。サイトカインおよび成長因子の機能は、両方の正常な機能が正常な胎盤発達に必要であることから、絡み合っている可能性が高く、このゆえに、両方における変化は、妊娠性疾患へと導きうる。両方の同時検査は、対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを同定するためのより正確な方法を提供しうる。
【0064】
本発明はまた、将来の疾患の指標として、サイトカインおよび成長因子のレベル変化の組み合わせの使用を含む。例えば、1つの症例対象は、尿の91.2 pg/gCrのPlGFレベル(高い、PEと一致していない)をもったが、58 pg/gCrのIL-6レベル(高い、PEと一致している)、および460 pg/gCrのMCP-1レベル(高い、PEと一致している)をもった。従って、PlGFの単一尿測定は、この女性がPEのリスクがないことを間違って示唆したであろうが、IL-6およびMCP-1レベルの検査は、まさに反対のことを示唆したであろう。もう一つの例、対照の対象について、PlGFレベルが115.2 pg/gCr(高い、PEの低リスクと一致している)であり、IL-6レベルは20 pg/gCr(高い、PEの低リスクと一致している)であったが、MCP-1レベルは、410 pg/gCr(高い、PEの高リスクと一致している)であり、それゆえに、MCP-1レベルのみを利用することは、彼女の結果を間違って予測したであろう。それゆえに、本発明はまた、妊娠高血圧症候群と関連した将来の疾患に対する対象の素因を測定するための血清および/または尿におけるサイトカインおよび成長因子のレベルのパターンの使用を含む。
【0065】
もう一つの態様において、本発明は、妊娠した対象由来の第一の生体試料におけるTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8もしくはMCP-1またはそれらの任意の組み合わせを、同じ妊娠した対象由来の第二の生体試料におけるサイトカインレベルと比較する段階により、妊娠性疾患を同定する方法を提供する。第二試料と比較しての第一試料におけるサイトカインまたはサイトカインの任意の組み合わせのレベルの差は、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことを示している。第一および第二生体試料は、尿、血液、血清、羊水または胎盤組織から選択されうる。
【0066】
サイトカイン、成長因子またはそれらのアンタゴニストのような特定のタンパク質を同定するための例示的生化学検査は、酵素結合免疫吸着検定法、すなわちELISA検査のような標準化された検査形式を用いるが、本明細書に提供された情報は、他の生化学的または診断的検査の開発に適用してもよく、ELISA検査の開発に限定されない(例えば、ELISA検査の説明について、Molecular Immunology: A Textbook, Atassi et al.編集, Marcel Dekker Inc., New York and Basel, 1984を参照)。
【0067】
様々なサイトカインおよび成長因子についての市販のアッセイ酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)キットが入手できることは理解されている。例えば、成長因子に関して、sFlt-1、PlGFおよびFGF-2 ELISAキットは、R&D systemsから入手できる。これらのキットは、遊離または結合していないタンパク質を測定できる。sFlt-1およびPlGFについてのアッセイ内精度CV(%)は、それぞれ、約3.5および5.6である。sFlt-1およびPlGFについてのアッセイ間精度CV(%)は、それぞれ、約8.1および10.9である。血清FGF-2測定について、アッセイ内およびアッセイ間CV(%)は、それぞれ、約8および12.7である。尿PlGFおよびFGF-2について、アッセイ内およびアッセイ間CV(%)は、それぞれ、約11、9.8、12.1および14.4である。
【0068】
プロテオミクスおよびマイクロアレイ
本発明は、プロテオミクスの使用を通して、妊娠の終わりの前に妊娠の有害結果を正しく予測するための方法を提供する。プロテオミクスは、ヒト組織の小さな試料を用いてありとあらゆるタンパク質の微量の存在について検査することができる進化した技術である。プロテオミクスのツールを用いて、尿、血清、羊水、胎盤組織のような生体試料における特定のタンパク質のレベルの増加または減少が確かめられうる。本発明は、出産予定日から遠く隔たって妊娠合併症を診断することへの非侵襲性アプローチとして尿プロテオミクス分析を含む。さらに、数学的アルゴリズムを用いて、複雑なプロテオームまたは「フィンガープリント」が得られうる。前述のとおり、そのようなアルゴリズムは、「因子分析」および「主成分分析(PCA)」を含む。プロテオームは、濃度が正常から増加したおよび減少したタンパク質の群からなっていてもよく、PIHおよび/またはGDMに関連するような妊娠性疾患の診断となる。
【0069】
本発明は、生体試料における特定の分子の検出を容易にする固定化生体分子を含むアレイ(すなわち、「バイオチップ」または「マイクロアレイ」)を提供する。上で記載されかつ図2に示されたバイオマーカーを同定する生体分子は、GDMおよび/またはPIHに罹りやすい対象を検出するためのカスタムアレイに含まれうる。例えば、カスタムアレイは、SHBGおよび/もしくはPlGF、またはIL-6、IL-8およびMCP-1のような特定のサイトカインを同定する生体分子を含みうる。アレイはまた、FGF-2のような追加の成長因子を同定する生体分子を含みうる。アレイはさらに、sFlt-1のような成長因子アンタゴニストを同定する生体分子を含みうる。選択されたバイオマーカー(例えば、サイトカイン、または成長因子もしくはそのアンタゴニスト)を特異的に同定する生体分子を含むアレイは、本明細書に提供されたデータを用いて情報のデータベースを開発するために用いられうる。多変量予測モデル(例えば、ロジスティック回帰、判別分析または回帰木モデル)においてクロス確認エラー率を改善するように導く、サイトカインおよび/または成長因子を同定する追加の生体分子は、本発明のカスタムアレイに含まれうる。
【0070】
カスタマイズされたアレイは、GDMおよびPIHの生物学を研究する機会を提供する。有意性の標準p値(0.05)は、特定のバイオマーカーを同定するマイクロアレイ上に追加の特異的生体分子を排除するまたは含むことを選択されうる。
【0071】
本明細書に用いられる場合、用語「アレイ」は、一般的に、バインディングアイランド(binding island)、生体分子のあらかじめ定められた空間的配置、またはバインディングアイランドもしくは生体分子の空間的配置を指す。表面上に固定化された生体分子を含む本発明によるアレイはまた、「生体分子アレイ」と呼ばれうる。生体分子の表面への結合を促進するように活性化、適応、調製、または改変された表面を含む本発明によるアレイはまた、「結合アレイ」と呼ばれうる。さらに、用語「アレイ」は、表面がアレイの複数のコピーを有する場合であるような、表面上に配置された複数のアレイを指すように本明細書で用いられうる。複数のアレイを有するそのような表面はまた、「マルチプルアレイ」または「繰り返しアレイ」と呼ばれうる。本明細書での用語「アレイ」の使用は、生体分子アレイ、結合アレイ、マルチプルアレイ、およびそれらの任意の組み合わせを含みうる;適切な意味は文脈から明らかであると思われる。アレイは、妊娠性疾患において変化したサイトカインおよび他のタンパク質を検出するサイトカイン特異的生体分子を含みうる。生体試料は、尿のような排出液を含む身体の任意の組織由来の液体または固体試料を含みうる。尿以外の試料は、限定されないが、血清、血漿、羊水および胎盤組織を含む。
【0072】
本発明のアレイは基板を含む。「基板」または「固体支持体」または他の文法上の等価物とは、本明細書では、生体分子の付着に適切な任意の物質を意味し、少なくとも1つの検出方法に適している。当業者に認識されていると思われるが、可能な基板の数は非常に多い。可能な基板は、限定されるわけではないが、ガラスおよび改変または機能付与ガラス、プラスチック(アクリル樹脂(acrylics)、ポリスチレンおよびスチレンと他の物質とのコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、TEFLON(登録商標)などを含む)、多糖、ナイロンまたはニトロセルロース、樹脂、シリカまたはシリコンおよび改変シリコンを含むシリカに基づいた物質、炭素、金属、無機ガラス、プラスチック、セラミック、ならびに様々な他の重合体を含む。さらに、当技術分野において公知のように、基板は、デキストラン、アクリルアミド、ゼラチンまたはアガロースのような重合体を含む任意の数の物質でコーティングされうる。そのようなコーティングは、尿または血清由来の生体試料でのアレイの使用を容易にすることができる。
【0073】
本発明の平面アレイは、一般的に、アレイ型式において生体分子のアドレス可能位置(例えば、「パッド(pad)」、「アドレス」または「微小位置」)を含む。アレイのサイズは、組成物およびアレイの最終用途に依存する。約2個の異なる生体分子から何千ものまでを含むアレイが作製されうる。一般的に、アレイは、アレイの最終用途に依存して、2個から100,000個程度またはそれ以上を含む。本発明のマイクロアレイは、一般的に、生体試料に存在する、SHBG、PlGF、サイトカイン、成長因子またはそのアンタゴニストのようなバイオマーカーを同定または「捕獲する」少なくとも1個の生体分子を含む。いくつかの態様において、本発明の組成物は、アレイ型式にない場合がある;すなわち、いくつかの態様について、単一の生体分子を含む組成物も同様に作製されうる。さらに、いくつかのアレイにおいて、複数の基板が、異なるまたは同一の組成物のいずれかで用いられうる。従って、例えば、大きな平面アレイは、より小さい基板の複数を含みうる。
【0074】
平面アレイに代わるものとして、フローサイトメトリーと組み合わせたビーズに基づくアッセイが、マルチパラメトリックイムノアッセイを行うために開発された。ビーズに基づいたアッセイ系において、生体分子は、アドレス可能なミクロスフェア上に固定化されうる。各個々のイムノアッセイについての各生体分子は、ミクロスフェア(すなわち、「マイクロビーズ」)の別個の型に結合され、イムノアッセイ反応は、ミクロスフェアの表面上で起こる。別々の蛍光強度をもつ染色されたミクロスフェアは、別々に、それらの適切な生体分子を負荷される。異なる捕獲プローブを有する異なるビーズセットは、カスタムビーズアレイを作製する必要に応じて、プールされうる。その後、ビーズアレイは、イムノアッセイを行うために単一反応容器において試料とインキュベートされる。
【0075】
バイオマーカーのそれらの固定化された捕獲生体分子との生成物形成は、蛍光に基づいたレポーター系で検出されうる。サイトカイン、成長因子またはそれらのアンタゴニストのようなバイオマーカーは、蛍光発生体により直接的に標識されても、または二次蛍光標識された捕獲生体分子により検出されてもいずれでもよい。捕獲されたバイオマーカー由来のシグナル強度は、フローサイトメーターにおいて測定される。フローサイトメーターは、第一に、各ミクロスフェアをそれの個々の色コードにより同定する。第二に、各個々のビーズ上の捕獲されたバイオマーカーの量は、結合した標的に特異的な第二の色の蛍光により測定される。これは、同じ実験内で、単一試料からの複数の標的の多重的定量化を可能にする。感度、信頼性および正確さは、標準マイクロタイターELISA手順と比較される。ビーズに基づいたイムノアッセイ系では、サイトカインは、生体試料から同時に定量されうる。ビーズに基づいた系の利点は、捕獲生体分子の別々のミクロスフェアへの個々の結合である。
【0076】
従って、マイクロビーズアレイ技術は、複数のマイクロビーズを用いて、特異的な生体分子に結合したサイトカイン、成長因子または成長因子アンタゴニストを分別するために用いることができ、マイクロビーズのそれぞれは、マイクロビーズの表面上に特異的な抗タグ生体分子の約100,000個の同一分子を有しうる。いったん捕獲されれば、サイトカインのようなバイオマーカーは、流体として取り扱ってもよく、本明細書では、「流体マイクロアレイ」と呼ばれる。
【0077】
本発明のアレイは、サイトカイン、成長因子またはそのアンタゴニストのようなバイオマーカー分子を検出するための任意の手段を含む。例えば、マイクロアレイは、認識分子(例えば、抗体)の高密度固定化アレイを提供するバイオチップであってもよく、バイオマーカー結合は、間接的にモニターされる(例えば、蛍光により)。さらに、アレイは、質量分析法(MS)による直接的検出と結合させた、生化学的または分子間相互作用によるタンパク質の捕獲を含む型式でありうる。
【0078】
本明細書に記載されたバイオマーカーを検出するための新しい方法と共に用いられうるアレイおよびマイクロアレイは、全体として本明細書に組み入れられた、米国特許第6,329,209号;第6,365,418号;第6,406,921号;第6,475,808号;および第6,475,809号、ならびに米国特許出願第10/884269号に記載された方法により作製されうる。例えば、Zyomyx Human Cytokine Biochip(登録商標)は、30個の生物学的関連のあるサイトカインについての非常に高感度のタンパク質プロファイリングシステムを提供している。本明細書に記載されたバイオマーカーのセットの特定の選択を検出するための新しいアレイはまた、これらの特許に記載された方法を用いて作製されうる。
【0079】
本明細書に用いられる場合のアレイおよびマイクロアレイはさらに、固体表面に固定化された病原体コード化サイトカイン結合タンパク質を有するアレイを含む。例えば、TNFI型およびII型、インターフェロン、インターロイキン(IL)-1β、IL-18およびβ-ケモカインに対する結合活性をコードするポックスウイルス遺伝子が同定された。これらの高親和性受容体は、サイトカイン定量化および精製における多数の適用において代理抗体として働く可能性をもち、現在利用できる抗サイトカインのモノクローナル、ポリクローナル、または操作された抗体の既存のパネルを補完する有用な試薬である可能性がある。
【0080】
多くの態様において、固定化生体分子、または固定化しようとする生体分子は、タンパク質である。タンパク質の1つまたは複数の型は、表面上に固定化されうる。特定の態様において、タンパク質は、タンパク質の変性を最小限にする、タンパク質の活性における変化を最小限にする、またはタンパク質とそれらが固定化されている表面との間の相互作用を最小限にする方法および材料を用いて固定化される。
【0081】
本発明により有用な表面は、任意の望ましい形およびサイズでありうる。表面の非限定的例は、チップ、連続平面、曲面、可撓性表面、フィルム、プレート、シート、チューブなどを含む。表面は、好ましくは、約1平方ミクロンから約500 cm2までの範囲の面積を有する。本発明による面積、長さおよび幅は、行われるアッセイの必要条件に従って異なっていてもよい。考慮すべきことは、例えば、操作の容易さ、表面が形成されている材料の制限、検出装置の必要条件、成膜装置(例えば、アレイヤー)の必要条件などを含みうる。
【0082】
特定の態様において、バインディングアイランドもしくは固定化生体分子の群またはアレイを分離するための物理的手段を用いることが望ましい:そのような物理的分離は、異なる群またはアレイの、対象となる異なる溶液への曝露を容易にする。それゆえに、特定の態様において、アレイは、96、384、1536、または3456マイクロウェルプレートのウェル内に位置する。そのような態様において、ウェルの底は、アレイの形成のための表面としての役割を果たしてもよく、またはアレイは、他の表面上に形成され、その後、ウェルへ置かれてもよい。特定の態様において、ウェルなしの表面が用いられる場合のように、バインディングアイランドが形成されうる、または生体分子が表面上に固定化されてもよく、かつアイランドもしくは生体分子に対応するように空間的に配置された穴を有するガスケットが、表面上に置かれてもよい。そのようなガスケットは、好ましくは液密である。ガスケットは、アレイを作製する工程中の任意の時点において表面上に置かれてもよく、群またはアレイの分離がもはや必要がない場合には、除去されてもよい。
【0083】
固定化生体分子は、固定化生体分子の上に横たわる生体試料に存在する分子に結合することができる。または、固定化生体分子は、固定化生体分子の上に横たわる生体試料に存在する分子を改変する、または、その分子により改変される。例えば、生体試料に存在するサイトカインは、固定化生体分子と接触して、それに結合することができ、それにより、サイトカインの検出を容易にする。または、サイトカイン、または成長因子もしくはそのアンタゴニストは、固体表面上に固定化された生体分子と一過性様式で接触して、サイトカインの生体分子への安定した結合なしに結果としてサイトカインの検出を生じるといった反応を開始することができる。
【0084】
溶液中のもしくはアレイに固定化された生体分子の改変または結合は、当技術分野において公知の検出技術を用いて検出されうる。そのような技術の例は、競合結合アッセイおよびサンドイッチアッセイのような免疫学的技術;共焦点スキャナー、共焦点顕微鏡またはCCDに基づいたシステムのような装置、および蛍光、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー移転(FRET)、全内部反射蛍光(TIRF)、蛍光相関分光法(FCS)のような技術を用いる蛍光検出;比色分析/分光分析技術;表面プラズモン共鳴、表面で吸着された物質の質量における変化が測定されうる;通常の放射性同位元素結合およびシンチレーション近接アッセイ(SPA)を含む放射性同位元素を用いる技術;マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI)およびMALDI-飛行時間(TOF)型質量分析のような質量分析;偏光解析法、タンパク質フィルムの厚さを測定する光学的方法である;水晶結晶板微量天秤(QCM)、表面へ吸着した物質の質量を測定するための非常に高感度の方法;AFMおよびSEMのような走査型プローブ顕微鏡;ならびに、電気化学、インピーダンス、音響、マイクロ波、およびIR/ラマン検出のような技術を含む。例えば、Mere L, et al.,「Miniaturized FRET assays and microfluidics: key components for ultra-high-throughput screening」Drug Discovery Today 4(8):363-369(1999)およびその中に引用されている参照文献; Lakowicz J R, Principles of Fluorescence Spectroscopy, 第2版, Plenum Press (1999)を参照。
【0085】
妊娠性疾患を同定するのに適した本発明のアレイは、キットに含まれうる。そのようなキットはまた、非限定的例として、アレイのバインディングアイランドもしくは領域上への固定化のための生体分子を調製するのに有用な試薬、固定化生体分子への改変を検出するのに有用な試薬、または対象となる溶液由来の生体分子の固定化生体分子への結合を検出するのに有用な試薬、および使用のための使用説明書を含みうる。
【0086】
同様に、固定化生体分子を含むアレイは、キットに含まれうる。そのようなキットはまた、非限定的例として、固定化生体分子への改変を検出するために、または対象となる溶液由来の生体分子の固定化生体分子への結合を検出するために有用な試薬を含みうる。
【0087】
セラノスティックス(Theranostics)
本発明は、有害な妊娠結果となるリスクの高い女性を同定するための組成物および方法を提供するので、セラノスティックス的アプローチが、特定の治療的介入の効果を測定するために、ならびに1)有害結果を発生するリスクを低減するように、および2)介入の効果を増強するように介入を変えるために、そのような個体を検査するのに採用されうる。従って、妊娠性疾患の存在もしくはリスクを診断または確認することに加えて、本発明の方法および組成物はまた、そのような疾患をもつ対象の処置を最適化する手段を提供する。本発明は、診断学および治療学を統合して、例えばGDHおよび/またはPIHをもつ対象のリアルタイム処置を改善することにより、妊娠性疾患を処置することへのセラノスティックス的アプローチを提供する。実際に、これは、どの患者が特定の治療に最も適しているかを同定することができる検査を考案すること、および処置計画を最適化するために、薬物がどれくらいよく働いているかについてのフィードバックを提供することを意味する。妊娠高血圧症候群に関連した疾患の領域において、セラノスティックスは、長い時間をかけて、重要なパラメーター(例えば、サイトカインおよび/または成長因子レベル)における変化を柔軟にモニターすることができる。例えば、SHBGおよびPlGFのような一連の診断学的に関連した分子に特異的なセラノスティックス的マルチパラメーターイムノアッセイは、PIHについての処置を受けている対象の進行を追跡するために用いられうる。本明細書に提供されたマーカーは、尿、血液または血清のような容易に得られる体液において利用できるため、診断および処置に用いるのに特に適合している。
【0088】
臨床試験設定内において、本発明のセラノスティックス的方法または組成物は、試験設計を最適化する、有効性をモニターする、および薬物安全性を向上させるための重要情報を提供することができる。例えば、「試験設計」セラノスティックスは、患者層化、患者適格性(包含/排除)の決定、均一な処置群の作成、および一般集団を代表する患者試料の選択のために用いられうる。それゆえに、そのようなセラノスティックス的検査は、患者有効性濃縮のための手段を提供することができ、それにより、試験動員に必要とされる個体の数を最小限にする。「有効性」セラノスティックスは、治療をモニターし、有効性基準を評価するために有用である。最後に、「安全性」セラノスティックスは、有害な薬物反応を防ぐまたは投薬ミスを避けるために用いられうる。
【0089】
統計学的解析
本明細書に示されたデータは、妊娠性疾患を診断することに関連した情報のデータベースを提供する。分類および予測は、図2に示されているようなアレイにより作成されたデータを解釈および利用することに対する統計学的アプローチを提供する。予測ルールは、クロス確認に基づいて選択してもよく、さらに、分かれたコホートに関して選択されたルールを確証する。様々なアプローチは、本明細書に提供されたサイトカインおよび/または成長因子レベルに基づいた妊娠性疾患を予測するデータを作成するために用いられてもよく、判別分析、ロジスティック回帰および回帰木を含む。例えば、データは、ロジスティック回帰モデルに基づいて作成されうる。図9は、図2に示された5つの症例(対象)および5つの対照(参照)のそれぞれについて測定された5つのタンパク質(サイトカイン)のデータセットに適用される場合のベイズの判別分析を図示する。判別分析は、可能な範囲内で、症例が面の片側に、かつ対照が反対側に現れるように、マーカーデータの多変量空間において面を見出そうと試みる。この面を決定する係数は、分類ルール:閾値と比較されるマーカー値の一次関数を構成する。ベイズの分類において、データが得られる前に知られている症例である対象(すなわち、妊娠性疾患をもつまたはもちやすい対象)の確率に関する情報が用いられうる。例えば、症例であることの事前確率は、約0.5に設定されうる;一般集団に適用されるスクリーニング検査について、対応する確率は、約0.05である。対象は、対応する事後確率(すなわち、データを用いて更新された事前確率)が0.5を超える場合には、合併症(すなわち、妊娠性疾患)をもつとして分類される。10個の症例および対照のうち9個が正しく分類されていることに注目したい(図9参照)。
【0090】
追加の患者情報は、本明細書に提供されたSHBGおよび/またはPlGFレベルと組み合わせられうる。これらのデータは、本バイオマーカーデータを補完するトレンドを同定するために情報を解析するデータベースにおいて組み合わせられうる。結果は、電子フォーマットで保存されうる。
【0091】
本方法は、妊娠糖尿病または子癇前症および妊娠高血圧のようなPIH関連疾患に関連した様々な妊娠合併症を発症するリスクを測定するためのバイオマーカーとして、SHBGおよびPlGFレベルを、ならびに任意で、サイトカインおよび/または追加の成長因子レベルを用いる。子癇前症および妊娠高血圧は、肥満し、かつベースライン時に高〜正常血圧をもつ未経産(最初の妊娠)の女性において最もよく発症する。これらの疾患はまた、先在する糖尿病または妊娠糖尿病の病歴をもつ女性において、および多嚢胞性卵巣症候群をもつ女性において発症する。たいていの場合、子癇前症または妊娠高血圧は、前兆なしに、しばしば、これらの確立されたリスクファクターのいずれももたない女性において発症する。従って、本明細書に提供された妊娠性疾患を同定するための方法および組成物は、医学的診断の信頼性を向上させるために患者病歴と組み合わせられうる。解析は、例えば、試料を通して患者から得られた尿または血清バイオマーカーを評価することができる。さらに、患者に関する情報は、検査と共に供給されうる。そのような情報は、限定されるわけではないが、年齢、体重(BMI)、血圧、遺伝的病歴、経産回数、妊娠週齢、および下の実施例に記載されているような他のパラメーターまたは変数を含む。
【0092】
GDMおよびPIHについてのガイドラインを確立するために作成されたデータの解析における交絡要因および共変量は、情報のデータベースに含まれうる。これらのデータは、例えば、加齢が循環炎症性サイトカインにおける増加と関連しているために年齢を含みうる。さらに、民族性とサイトカイン遺伝子多型(IL-6、TNF-α、IL-10)との間の相関は、人種によるサイトカインのベースラインレベルを提供することができる。喫煙は、それが、sFlt-1レベルを低下させる、VEGFレベルを増加させる、サイトカインレベルを低下させる、GDMのリスクを増加させる、およびPEを発症するリスクを低下させるため、交絡要因の例である。過去および現在の喫煙歴をもつ女性におけるサイトカインおよび成長因子変化は、評価され、かつGDMまたはPIHを予測することに関連した情報のデータベースに加えられうる。
【0093】
肥満は、GDMおよびPEの発症の公知のリスクファクターであり、TNF-αおよびIL-6を含む特定のサイトカインの血清レベルは、両方とも、体格指数(BMI)と正に相関している。BMIは、メートルでの身長の二乗で割ったキログラムでの体重として計算される。さらに、VEGFを含む成長因子は、脂肪細胞から分泌される。BMIの上昇は、肥満がサイトカインの上昇へ導き、それが、インスリン抵抗性および炎症へ導き、それが、その後、GDMおよびPIHに罹りやすくする点において、因果的経路にありうる。
【0094】
GDMおよびPEは、それぞれ、胎児出生時体重の増加および減少へと導くため、胎児出生時体重は、第二義的結果とみなされうる。この情報は、症例(すなわち、GDMおよび/またはPIHを示している対象)および対照における一次曝露と胎児出生時体重との間の関連を決定するために含まれる。子癇前症は、胎児成長制限(FGR)として同定された異種起源性疾患の1つの原因である。胎盤由来の成長因子は、FGRの根元的な病態生理学に関与している可能性があり、特定の成長因子の母親の血清および尿レベルは、FGRである新生児をもつ女性において変化している可能性がある。例えば、PEをもつ女性の間では、妊娠15〜19週間目における遊離PlGFレベルは、小さなまたは在胎月齢の新生児(出生時体重<第10百分位数)をもつPEを発症する女性(n=18)の間で、ただPEを発症しただけの女性(n=25)と比較して、より低くありうる。未経産の女性の無作為選択は、比較目的のための合併症のない妊娠の対照を提供することができる。そのような女性は、例えば、妊娠期間中通して正常血圧;血糖正常、満期(>37週間);FGRの徴候なし;生児出生;分娩後6週間目の通院時における血圧上昇または高血糖なしでありうる。
【0095】
上記の統計学的解析は、本明細書に記載されているようなSHBGおよびPlGFレベルと相関しうる。第一義的結果は、GDM、PIH、ならびに、GDMおよびPEの病歴である。記述統計学は、正規性仮定は満たされているかどうか、変換は正規性を改善するために必要であるかどうか(例えば、対数サイトカインレベル)、またはノンパラメトリックアプローチは必要とされているかどうかを決定するために、符号化における誤差(例えば、アウトライアー)を見つけるために用いられうる。共変量および交絡要因分布が調べられうる(例えば、分割表)。
【0096】
さらに、上の情報から生じた統計学的解析は、本明細書に記載されたサイトカインおよび追加の成長因子レベルならびに成長因子アンタゴニストレベルに関する情報と組み合わせられうる。従って、本発明は、同じ女性においてサイトカインレベルおよび成長因子レベル(およびそれらのアンタゴニスト)を調べる段階、ならびにBMI、血圧および胎児出生時体重のような追加の統計学的情報を用いて、GDMおよび/またはPIHに罹りやすい個体を同定するためにこの情報を相関させる段階を含む。
【0097】
追加の解析は、GDMまたはPIHのリスクがある対象を同定するために行われうる。そのような解析は、一次曝露のそれぞれの二変量解析、結果との強い関係(生物学的および統計学的)をもつ変数を含む多変量モデル、因子分析を用いる変数縮約を含む複数の重要な曝露を明らかにするための方法、および予測モデルを含む。
【0098】
二変量解析について、必要に応じて、2サンプルt検定またはウイルコクソンの順位和検定を用いる、症例と対照の間の各一次曝露の平均レベルが導かれうる。関連性が線形に見える場合には、トレンドは、マンテル・ヘンツェル検定を用いて解析されうる。データは、対照の分布を用いてあまり細かくはないカテゴリー(例えば、三分位数)へ集合でき、多変量解析における指示変数としてこれらを調べることができる。
【0099】
多変量解析について、データは、2つの対照群、マッチングされたものとマッチングされていないもう一つのものの間で相関されうる。マッチングされたおよびマッチングされていない解析の両方において、関心対象となるすべての一次曝露の独立した効果は、ロジスティック回帰(マッチングされた解析において条件付きモデルをもつ)モデルを用いて調べられうる。モデルは、特定の予測変数の主効果を検定するための最小数の共変量を含みうる。交絡要因または仲介する可能性のある変数を明らかにした後に妊娠結果に加えて、特定のタンパク質の効果が決定されうる。上で述べたように、表1〜5は、そのような解析の例である。
【0100】
ロジスティック回帰モデルは、以下の一般式をとる[ln(pi/1-pi)=b0+b1Xli+b2X2i+...+bnXni+e]、piはGDMの確率である、b0は適合線の切片を表す、b1はSHBGのような成長因子のレベルにおける単位増加と関連した係数である、b2...bnは交絡共変量X2...Xnと関連した係数である、およびeは誤差項である。特定の成長因子またはサイトカインのレベルにおける単位増加と関連したオッズ比は、係数b1を累乗することにより推定され、この点推定値を囲む95%信頼区間は、その項を累乗することにより推定される(b1±1.96(b1の標準誤差))。1つより多いbn共変量をもつモデルにおいて、b1の効果は、モデルに含まれる交絡共変量のレベルの調整後、特定の成長因子またはサイトカインレベルのGDMおよび/またはPIHのリスクへの効果として解釈されうる。
【0101】
因子分析において、特定のサイトカインは、より少数の相互相関したサイトカインへ縮約されうる。回転主成分(正規分布した連続型変数である)由来の因子得点は、妊娠結果を予測する回帰分析において元のサイトカインレベルの代わりにモデル化されうる。このモデル構築ストラテジーは、上記のものと類似しているが、因子得点をモデル化することは、他のサイトカインシグネチャーとは無関係に、またはBMIもしくは他の重要なあらかじめ特定された交絡もしくは仲介変数とは無関係に、結果を予測するものとして特定のサイトカインシグネチャーの同定を可能にする。
【0102】
アレイ実験から導かれた相互相関した可能性のあるサイトカインの多様性アレイは、主成分分析を用いる因子分析で縮約されうる。主成分分析は、共に群をなす相関した変数のサブセットを同定する。これらのサブセットは、成分:お互いに相関していない、かつ元データにおける分散の大部分を説明する、数学的に導かれた変数を定義する。主成分分析(PCA)は、診断することが必要とされる最小数の成分を同定しようと試みる。同定後、成分は、解釈できる因子へ変換または回転される。解釈は、因子と元の独立変数との間の相関のパターンに基づいている;これらの相関は負荷量と呼ばれている。アレイ実験において、因子パターンは、推定的独立のサイトカインレベルの元のアレイ間の全体的な関係の根底にあるサイトカインのドメインまたは明確なグループ化を表す。これらのグループ化は、サイトカインシグネチャーパターンとみなされうる。
【0103】
図3および4に記載された患者データを用いて、図8に示されているようなPCA分析は、5つの探索的サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、MCP-1、およびIL-8)を3つの成分へ縮約するために用いられ、分離が、症例(5つの最も左のボックス)と対照(5つの最も右のボックス)の間に現れ始めていることを示した。因子分析は、SAS FACTOR手順の主成分オプションをもつ連続分布した変数を用いて行われた。主成分は、正規性偏差に対してかなり頑健であるが、変数は、正規性を改善するために変換されうる。因子分析に含まれる変数は、例えば、アレイ実験に含まれるすべてのサイトカインレベルを含む。たいていの場合、最小数の成分は、固有値が単位元を超える成分に基づいて選択される。固有値は、元の独立変数と主成分の間の二乗相関の和であり、成分に起因する分散の量を表す。
【0104】
因子過剰モデルを避けるために、一般的に、スクリーンプロット上の変曲点より下に位置し、かつ結果として生じる因子パターンに追加の明瞭さを与えない、単位元と等しいか、かろうじて超える固有値をもつ成分を除外する。解釈できる因子を生じるために、最小数の主成分は、直交バリマックス法を用いて回転されうる。この直交回転は、お互いに相関していないが(固有の独立したドメインを表す)、元のサイトカインの固有のサブセットと高度に相関している因子を生じる元の成分の変換である。一般的に、±0.30より大きい負荷量(因子と元の独立変数の間の相関;範囲-1.0〜1.0)は、結果として生じる因子パターンを解釈するために用いられる。選択された亜群(例えば、アジア人対白色人種の女性)内の同じ因子に関する負荷量間の類似性は、合同係数を用いて評価されうる。合同係数は、因子負荷量が亜群間で同一である場合、単位元にほぼ等しい。
【0105】
因子分析は、方法を検定する厳密な仮説ではないが、第一の支配的因子は有意でありうるが、残りの因子は誤差分散のみを説明し有意ではないという帰無仮説を検定するためにカイ二乗としておよそ分布された値を与えるバートレットの方法を用いることができる。確証的因子分析は、経験的に決定されたモデル(例えば、2つの独立変数が2つの因子に負荷している、3因子解)が、すべての独立変数が単一因子に負荷しているモデル(帰無仮説モデル)よりデータへのより良い適合度を与えるかどうかを評価するために行われうる。以下の3つの適合度検定指数が一般的に用いられる:(i)カイ二乗として分布された値を与え、かつより小さな値が、データへのより良い適合度を示している、最大尤度適合度検定指数、(ii)ベントレーの非ノルム適合度、および(iii)より高い値(範囲、0〜1.0)がより良い適合度を示す、ベントレーおよびボネットの比較適合度指数。
【0106】
解析データのデータベースおよびコンピュータ化方法
本明細書に記載された方法および解析により作成されたデータベースは、妊娠した対象が、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定するためにコンピュータシステムに含まれうる、または関連づけられうる。データベースは、複数のデジタルコード化した「参照」(または「対照」)プロファイルを含みうる。複数の各参照プロファイルは、複数の値を有してもよく、各値は、試料におけるSHBGもしくはPlGF、または妊娠性疾患をもつ、もしくはもちやすい妊娠した個体の血液、血清もしくは尿において検出された特定のサイトカインのレベルを表している。または、参照プロファイルは、正常である妊娠した個体由来でありうる。両方の型のプロファイルは、対象プロファイルとの連続的または同時的比較のためにデータベースに含まれうる。コンピュータシステムは、妊娠した対象のプロファイルを受ける、および妊娠した対象プロファイルと診断的に関連している適合した参照プロファイルをデータベースから同定するためのコンピュータ実行可能コードを含むサーバーを含みうる。同定されたプロファイルは、診断またはさらなる分析のために介護人へ供給されうる。
【0107】
標準プログラムを用いて、電子的医療記録(EMR)は、サイトカイン、成長因子および成長因子アンタゴニストデータを、患者のBMIまたはGDMもしくはPIHを発症するリスクを予測するために有用な任意の他のパラメーターのような追加情報と組み合わせるデータベースを提供するために蓄積されうる。患者情報は、検査室について匿名性を維持するために、および機密保護目的のために、数字識別名を無作為に割り当てられうる。すべてのデータは、様々な地理的位置からの複数のユーザーへのアクセスを提供するネットワーク上に保存されうる。
【0108】
従って、本明細書に記載された様々な技術、方法および局面は、コンピュータに基づいたシステムおよび方法を用いて一部または全部、実行されうる。さらに、コンピュータに基づいたシステムおよび方法は、本明細書に記載された機能性を増加するまたは向上させる機能が実行されうる速度を増加させる、ならびに本明細書に記載された本発明のものの一部またはそれに加えて追加の特徴および局面を提供するために用いられうる。上記技術に従う様々なコンピュータに基づくシステム、方法および道具は、下に示されている。
【0109】
プロセッサーに基づいたシステムは、メインメモリ、好ましくは、ランダムアクセスメモリ(RAM)を含んでもよく、補助メモリもまた含んでもよい。補助メモリは、例えば、ハードディスクドライブおよび/またはリムーバブル記憶ドライブ、例えば、フロッピーディスクドライブ、磁気テープドライブ、または光ディスクドライブを含みうる。リムーバブル記憶装置は、リムーバブル記憶媒体から読むおよび/またはリムーバブル記憶媒体に書く。リムーバブル記憶媒体は、リムーバブル記憶ドライブにより読まれかつ書かれる、フロッピーディスク、磁気テープ、光ディスクなどでありうる。認識されているように、リムーバブル記憶媒体は、コンピュータソフトウェアおよび/またはデータを含みうる。
【0110】
代わりの態様において、補助メモリは、コンピュータプログラムまたは他の命令がコンピュータシステムへロードされるのを可能にするための他の類似した手段を含みうる。そのような手段は、例えば、リムーバブル記憶ユニットおよびインターフェースを含みうる。例としては、プログラムカートリッジおよびカートリッジインターフェース(ビデオゲーム装置に見出されるもののような)、リムーバブルメモリチップ(EPROMまたはPROMのような)および付随したソケット、ならびに、ソフトウェアおよびデータがリムーバブル記憶ユニットからコンピュータシステムへ移されるのを可能にする、他のリムーバブル記憶ユニットおよびインターフェースが挙げられる。
【0111】
コンピュータシステムはまた、コミュニケーションインターフェースを含みうる。コミュニケーションインターフェースは、ソフトウェアおよびデータがコンピュータシステムと外付け装置の間を移されるのを可能にする。コミュニケーションインターフェースの例は、モデム、ネットワークインターフェイス(例えば、イーサーネットカードのような)、コミュニケーションポート、PCMCIAスロットおよびカードなどを含む。コミュニケーションインターフェースを経由して移されるソフトウェアおよびデータは、電子的、電磁気的、光学的、またはコミュニケーションインターフェースにより受けられることができる他の信号でありうる、信号の形をとる。これらの信号は、信号を運ぶことができる回線を経由してコミュニケーションインターフェースへ供給され、無線媒体、ワイヤーもしくはケーブル、ファイバーオプティクス、または他のコミュニケーション媒体を用いて実行されうる。回線のいくつかの例は、電話線、携帯電話リンク、RFリンク、ネットワークインターフェイス、および他のコミュニケーション回線を含む。
【0112】
本明細書において、用語「コンピュータプログラム媒体」および「コンピュータ使用可能媒体」は、一般的に、リムーバブル記憶装置、ディスクドライブにインストールができるディスク、および回線上の信号のような媒体を指すために用いられる。これらのコンピュータプログラム製品は、ソフトウェアまたはプログラム命令をコンピュータシステムへ供給するための手段である。
【0113】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御論理とも呼ばれる)は、メインメモリおよび/または補助メモリに保存される。コンピュータプログラムはまた、コミュニケーションインターフェースを経由して受けられうる。そのようなコンピュータプログラムは、実行される場合、コンピュータシステムが本明細書に考察された方法の機能を実施するのを可能にする。特に、コンピュータプログラムは、実行される場合、プロセッサーが本発明の機能を実施するのを可能にする。従って、そのようなコンピュータプログラムは、コンピュータシステムのコントローラーを表す。
【0114】
要素がソフトウェアを用いて実行される態様において、ソフトウェアは、コンピュータプログラム製品に保存されうる、またはを経由して送信されうる、およびリムーバブル記憶ドライブ、ハードドライブ、もしくはコミュニケーションインターフェースを用いてコンピュータシステムへロードされうる。制御論理(ソフトウェア)は、プロセッサーにより実行される場合、プロセッサーに、本明細書に記載された方法の機能を実施させる。
【0115】
もう一つの態様において、要素は、例えば、PAL、特定用途向け集積回路(ASIC)または他のハードウェアコンポーネントのようなハードウェアコンポーネントを用いてハードウェアにおいて主に実行される。本明細書に記載された機能を実施するためのハードウェア状態機械の実行は、関連業者に明らかであると思われる。他の態様において、要素は、ハードウェアおよびソフトウェアの両方の組み合わせを用いて埋め込まれる。
【0116】
もう一つの態様において、コンピュータに基づいた方法は、本発明の方法へのウェブページ(Web Page)経由でのアクセスを提供することにより、ワールドワイドウェブ(World Wide Web)を通じてアクセスまたは実行されうる。従って、ウェブページはUniversal Resource Locator(URL)により同定される。URLは、サーバーマシーンおよびそのマシーン上の特定のファイルまたはページの両方を表す。この態様において、コンシューマーまたはクライアントコンピュータシステムは、特定のURLを選択するようにブラウザーと対話し、次には、ブラウザーに、URLに同定されたサーバーへそのURLまたはページの要求を送らせることが、構想される。典型的には、サーバーは、要求されたページを検索し、そのページについてのデータを要求しているクライアントコンピュータシステムへ送信して戻すこと(クライアント/サーバー対話は、典型的には、ハイパーテキストトランスポートプロトコール(「HTTP」)に従って行われる)により、要求に応答する。選択されたページは、その後、クライアントのディスプレイ画面においてユーザーへ提示される。クライアントは、その後、本発明のコンピュータプログラムを含むサーバーにおいて、例えば、本発明による解析を行うアプリケーションを起動させることができる。
【0117】
実施例
本発明は、以下の実施例においてさらに記載され、この実施例は、限定するわけではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を例証する役割を果たす。
【0118】
実施例1 − SHBGおよびPlGFアッセイ
研究対象集団およびデータ取得
Massachusetts General Hospital Obstetrical Maternal Study(MOMS)に登録されている患者の前向きコホート内症例対照研究が行われた。簡単には、MOMSコホートは、妊娠後期に起こる有害結果についての妊娠初期のリスクファクターの前向き研究のために1998年に設立された。この研究について、妊娠約12週間目にMOMSコホートに登録された、および20週間後に出産した、2001年6月1日と2003年5月1日の間の単生児妊娠をもつ連続した女性が、包含として適格である。すべての対象は、書面によるインフォームドコンセントを提供した。
【0119】
臨床スタッフにより用いられる医療記録である、電子的医療記録は、初期分娩後期間までの妊娠の事象を将来に関して詳述する臨床的および人口統計学的データを提供する。電子的医療記録から得られる特定の情報は、年齢、人種、身長、体重、妊娠期間中収集された血圧、胎児の在胎月齢および出産時の体重、妊娠結果、ならびにブトウ糖負荷試験の結果を含む実験室での値を含んだ。本研究についてのすべての対象は、先在する高血圧または糖尿病の病歴をもたなかった、本発明者らのネットワーク内で彼女らの妊娠管理および妊娠を開始および完了した、元気な赤ん坊を出産した、ならびに、その後の出産後6週間以内に高血圧の徴候をもたなかった。
【0120】
曝露
SHBGおよびPlGFについてのアッセイは、第一期くらい早く、例えば、妊娠の最初の5、6、7、8、9、10、11または12週間において、妊婦由来の血液試料、血清試料、または尿試料について行われる。書面によるインフォームドコンセントを提供した後、適格の女性は、出産前の最初の通院時に血清試料を収集され、試料は、3時間未満、氷上で保存され、その後、将来の分析のために-80℃で凍結された。一次曝露は、血清性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、胎盤成長因子(PlGF)、およびsFlt1(VEGFおよびPlGFの可溶性インヒビター)であった。VEGFの血清レベルは、妊娠初期に検出できない。本研究は、血管新生促進性性質をもつVEGF様分子であり、かつVEGF受容体Flt1に結合および活性化する、PlGFの血清レベルに焦点を当てた。低レベルのSHBGは、妊娠および非妊娠状態の両方において、インスリン抵抗性と関連していた。本方法において、SHBGは、絶食または非絶食状態のいずれかにおいて測定されうる。性ホルモン結合グロブリンは、アッセイ内変動係数(CV)<4%、およびアッセイ間CV<7.8%をもつ免疫放射定量測定法(Diagnostic Products Corporation, California USA)を用いて測定された。SHBGアッセイの感度は、2 nmol/Lである。sFlt1および遊離PlGFについての市販のアッセイELISAキット(R&D systems, Minnesota USA)は、2に前に記載されているように、用いられた。sFlt1およびPlGFについてのアッセイ内精度CV(%)は、それぞれ、3.5および5.6であった。sFlt1およびPlGFについてのアッセイ間精度CV(%)は、それぞれ、8.1および10.9であった。すべての試料は、二連で実行され、二連間に>10%変動が存在する場合には、アッセイは繰り返され、平均が報告された。対応する実験室は、症例状態に対して目隠しされ、すべての試料は、無作為に順序づけられた。
【0121】
結果
すべての妊娠結果は、前向きに調べられ、出産前のフローシートおよび実験室調査を含む医療記録の詳細な調査により検証された。適格症例は、研究期間中に連続的に同定された。子癇前症は、尿路感染症の非存在下におけるディップスティックによる32+または3300 mg/24時間のいずれかのタンパク尿と付随して、妊娠20週間後の、収縮期血圧上昇140 mm Hgまたは拡張期血圧90 mm Hgとして定義された。対照(〜2:1)は、症例と同じ期間内にMOMSコホートに参加した、妊娠週齢として適切に赤ん坊を出産した、かつ妊娠中を通して正常血圧および非タンパク尿のままであった女性から無作為に選択された。糖尿病、甲状腺疾患、肝臓疾患もしくは慢性腎疾患、または先在する慢性高血圧(妊娠の前もしくは妊娠20週の前に、血圧>140/90、または血圧降下剤の必要性として定義される)をもつ女性は、除外され、典型的には妊娠の第三期初期に実施される最初のブドウ糖負荷試験で不合格であったすべての女性も同様であった。
【0122】
統計学的解析
連続型変数は、スチューデントのt検定により解析され、カテゴリー変数は、カイ二乗検定により解析された。一次曝露 − PlGF、sFlt1およびSHBG − は連続型変数として、および対照における第25百分位数に基づいた切点をもつ2項変数として、調べられた。多変量解析は、ロジスティック回帰技術を用いて行われ、層化モデルを含む効果改変(相互作用)についての標準検定が行われた。PlGFの第一期血清レベルとPE3のリスクの間の強い関連性を仮定すれば、解析の目的は、PlGFの第一期レベルに基づいたリスクが、SHBGの血清レベルに基づいたインスリン抵抗性の様々な程度をもつ女性間で異なるかどうかを決定することであった。すべてのp値は両側をとられ、<0.05のp値は統計学的に有意とみなされた。PlGF、sFltおよびSHBGレベルは、以下のものと相互相関しうる:1)そのタンパク質が測定される時点における妊娠週齢(ga-pnv);2)女性の年齢(Mat年齢);3)彼女の経産回数(par);および4)彼女の体格指数(bmi)。表1〜3および図1は、多変量モデルに基づいた妊娠性疾患を予測するための疫学的証拠を提供する。
【0123】
(表1)
【0124】
表1は、子癇前症を発症した女性および正常血圧の対照のベースライン特徴を示す(*は、そのp<0.05を示す)。
【0125】
(表2)
【0126】
表2は、対照と比較した、子癇前症を発症した女性における胎盤成長因子、sFlt1およびSHBGの第一期血清レベルを示す(*は、そのp<0.001を示し、†はそのp=0.05を示す)。
【0127】
表3(下方)は、PEを発症した25人の女性および53人の正常血圧の対照のコホート内症例対照研究を示す。血管新生、具体的には胎盤成長因子およびsFlt1の測定は、様々な交絡因子について調整される。すべての測定は、妊娠10〜12週間目になされ、マーカーは、血液における測定からである。
【0128】
(表3)第一期PlGFおよびSHBGレベルによる子癇前症のリスク
*参照群、PlGF>20 pg/ml
†母親の年齢、血液収集の妊娠週齢、人種、経産回数、体格指数、収縮期血圧、喫煙歴、sFlt-1およびSHBGの血清レベルについて調整された多変量モデル
‡参照群はPlGF>20 pg/ml
¶母親の年齢、血液収集の妊娠週齢、人種、経産回数、体格指数、収縮期血圧、喫煙歴、sFlt-1の血清レベルについて調整された多変量モデル
【0129】
表3および図1におけるデータは、代謝症候群およびインスリン抵抗性(インスリンレベルの上昇、グルコースレベルの変化、この症候群のマーカーすなわちSHBGの低レベル、脂質レベルの上昇、体格指数の上昇、炎症性マーカーの上昇、および凝固因子の変化を含むインスリン抵抗性の測定を特徴とする)が、心血管疾患および糖尿病のリスクを含む、子癇前症および関連疾患のリスクの増加を与える血管形成誘導因子と疫学的および生物学的に相互作用することを示している。
【0130】
実施例2 − サイトカインアッセイ
本発明は、単一のサイトカインまたは成長因子の変化が、子癇前症、GDMもしくはGHをもつまたはもちやすい対象を同定するために用いられうることを実証している。尿、血漿および血清試料は、サイトカインアレイ(Zyomyx(登録商標))を用いてサイトカインレベルについて検査された。アレイは、血清または尿のような複雑な生体液の約40 μlの試料容量を用いる、IL-1α、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12(p70)、TNF-α、MCP-1、CD95(sFas)、IP-10、GM-CSF、IL-1β、IL-4、IL-7、IL-12(p40)、IL-13、TNF-β、MCP-3、MIG、CD23、GCSF、IL-2、IL-5、IL-8、IL-12(p40/p70)、IL-15、エオタキシン、TRAIL、sICAM-1、TGF-βおよびIFN-γを含む30個のサイトカインおよびケモカインの定量的分析を可能にする。データの品質は、ELISAアッセイにより確立された標準に匹敵する。尿におけるスパイク/回復分析が行われ、尿におけるサイトカインの回復(r=0.92)が測定された。すべての対象は正常な腎機能をもち、従って、尿素が分析を干渉した可能性は低かった。
【0131】
子癇前症を発症した5人の女性および正常血圧の妊娠である5人の対照由来の試料は、サイトカインレベルについて調べられた。すべての対象において、尿は、妊娠16〜18週間、妊娠性疾患の臨床診断のほとんど20週間前、において収集された。これらの試料は収集、分別され、分析が行われるまで-80℃で保存された。図2に示されたデータは、その後PEを発症した5人の女性および正常血圧の妊娠である5人の女性由来の血清、血漿および尿におけるサイトカインアレイパターンを示す。すべての女性は、未経産であった。サイトカイン定量化は、蛍光強度を用いる標準較正技術で行われた。
【0132】
図2に示された尿、血清および血漿におけるサイトカインアレイのヒートマップは、尿試料が同時に収集されていて、正常血圧の妊娠である女性(「参照」または「対照」)と比較して、子癇前症を発症した女性(「対象」または「症例」)の間で、妊娠16〜18週間での尿において、IL-6が上昇し、IL-8が低下している(白色の円を参照)ことを実証している。これは、サイトカインのアレイがこの高感技術により尿中で測定された最初であり、かつこの妊娠初期において、尿中に違いが見られた最初である。
【0133】
図2はまた、妊娠16週間目において、もう一つのケモカイン、MCP-1のレベルが、対照と比較して症例の尿において上昇したことを実証している。すべてのタンパク質測定は、尿クレアチニン濃度について正規化された。
【0134】
尿試料はさらに、標準プロテアーゼインヒビター(Complete MINI(商標)、Roche)の添加がサイトカイン回復を著しく向上させるかどうかを決定するために検査された。図3に示されているように、5つの尿試料が、収集時点においてインヒビターの添加有り(+I)、および無しで検査された。対数変換(pg/ml)されたタンパク質プロファイル(すべての試料は二連でなされた)が示されている。示されているように、サイトカインの回復は、プロテアーゼインヒビターの存在下において一貫しては増加しない。さらになお、サイトカイン濃度の上昇をもつ試料間においてさえも、回復の低下があるように見えない。最後に、サイトカインチップを用いる再現性研究もまた行われた(図4)。これらの結果は、尿サイトカインアッセイの再現性が優秀であることを示している。
【0135】
実施例3 − 成長因子アッセイ
サイトカインレベルと共に、本研究は、尿および血液試料における成長因子のレベルに関する情報を提供する。15人の対象(GDMを発症した5人、PEの5人および対照の5人)における妊娠16週間からの血清および尿試料が、例示的成長因子sFlt-1、遊離VEGF、および遊離PlGFについての市販のELISAキット(R&D Systems)で検査された。これらのELISAキットは、<10%のアッセイ間およびアッセイ内CVをもつ。すべてのアッセイは二連で行われ、平均は、図5および6に報告されている。遊離VEGFレベルは、検出できず、一般的に分娩日に検出される低VEGFレベルと一致している。
【0136】
図5に示された血清試料由来のデータは、対照女性と比較して、GDMを発症する女性は、妊娠16週間目において低い遊離PlGFレベルおよびわずかに上昇したsFlt-1レベルをもつ。さらに、その後PEを発症する女性は、この同じ時期において、よりいっそう低い遊離PlGFレベルおよびより高いsFlt-1レベルをもつ。sFlt-1/PlGFの比により反映される、抗血管新生性対血管新生促進性因子のバランスは、妊娠16週間目においてさえも異なる。
【0137】
尿試料由来のデータは、図6に示されている。sFlt-1は、それの大きなサイズのために尿へ分泌されないため、遊離PlGFが、尿試料における同定として標的にされた。尿サイトカインレベルは、尿PlGFレベルと比較された。図6におけるデータは、一般的に、低遊離PlGFレベルならびに上昇したIL-6およびMCP-1レベルが、その後のPEと強く関連していたことを実証している。
【0138】
図7は、妊娠後12±3ヶ月でのGDM(n=5)、PE(n=5)の病歴、および血糖正常/正常血圧の合併症を伴わない妊娠(UP)(n=5)をもつ女性の血清試料についてのデータを示している。これらのデータは、アテローム発生性および代謝性変化が、UPである女性と比較した場合、GDMおよびPEの病歴をもつ女性の間に存在していることを示している。重要なことには、CRPおよびIL-6の上昇は、持続性不顕性炎症を示唆し、インスリン抵抗性の増加(HOMA-IRの上昇)およびインスリン分泌の不足(低いΔI30/ΔG30)は、将来の2型糖尿病のリスクの増加を示唆している。両方の特徴は、サイトカインレベルの上昇と関連している。さらに、妊娠16週間目におけるこれらの同じ女性(GDM対UP)のIL-6およびTNF-αレベルは、血清IL-6(GDM 1.7 pg/ml対1.1 pg/ml)およびTNF-α(4.37 pg/ml対3.07 pg/ml)ならびに尿IL-6(GDM 4.24 pg/gCr対1.34 pg/gCr)のレベルは異なったことが見出される。これらのデータは、サイトカイン変化がGDMに先行し、分娩後に持続することを示している。
【0139】
実施例4 − IL-6、MCP-1およびIL-8アッセイ
本研究は、後にPE(またはGDM)を発症した女性の間での妊娠16週間目における尿IL-6(ならびに血清および尿のMCP-1ならびに尿IL-8)レベルにおける違いが検出できることを示している。対照的に、以前の研究は、そのような違いを検出することができなかった(Djurovic et al., BJOG, 109:759, 2002)。実施例2に記載され、かつ図2に示されているように、子癇前症を発症した5人の女性および正常血圧の妊娠である5人の対照由来の試料が、尿試料におけるサイトカインレベルについて調べられた。すべての対象において、尿は、妊娠16〜18週間、臨床診断のほとんど20週間前、に収集された。このデータを用いて、妊娠16週間目における、および分娩後の特定のタンパク質の平均レベルが比較された。平均間の差(Δ)、これが表した標準偏差の率、およびp値は、図4(下方)に示されている。
【0140】
(表4)
【0141】
平均差を検出するための検出力(1-β)は、0.75、1.0および1.25だけ異なる標準偏差(8つのあらかじめ特定されたサイトカインについて0.05/8、すなわち0.006の保存的ボンフェローニ調整されたpをもつ2サンプル、両側t検定に基づいた)および1:1の症例:対照で推定された。結果は、図10に示されている。データは、60個の症例および60個の対照が、0.75の標準偏差またはそれ以上で分散された平均における差を検出しうる少なくとも90%検出力を提供することを示している。図11は、妊娠性疾患を発症することにおける対象の相対的リスク(RR)を同定するための三分位数に渡る有意な線形トレンドを検出する計算(トレンドについてのカイ二乗検定)の結果を提供する表である。
【0142】
他の態様
本発明は、その詳細な説明と共に記載したが、前記の説明は例示することを意図し、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により定義されることは、理解されるべきである。他の局面、利点および改変は、特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】妊娠性疾患を発症するリスクがある対象を同定することにおける、PlGF(pg/ml)とSHBG(nmol/L)レベルの間の比較の3次元グラフである。
【図2】尿中のサイトカインレベルと妊娠性疾患を発症するリスクの間の相関を描くサイトカインアレイのヒートマップである。
【図3】プロテアーゼインヒビターの存在または非存在下における尿試料由来のサイトカインの回復に関するデータを提供する表である。
【図4】サイトカインアレイを用いて生体試料におけるサイトカインを同定することの再現性に関するデータを提供する表である。
【図5】妊娠した対象の血清におけるsFlt-1/PlGFの比に関するデータを提供する表である。
【図6】妊娠性疾患の同定におけるサイトカインレベルおよび成長因子レベルの相関に関するデータを提供する表である。
【図7】GDM、PEの病歴、および血糖正常/正常血圧の合併症を伴わない妊娠(UP)をもつ女性由来の血清試料についてのデータを提供する表である。
【図8】「症例」(すなわち、「対象」)対「対照」(すなわち、「参照」)の成長因子データの主成分分析(PCA)の結果の3次元グラフを描く。
【図9】5つの症例および5つの対照のそれぞれについて測定された5つのタンパク質(サイトカイン)のデータセットに適用された場合のベイズの判別分析の結果を描くグラフである。
【図10】症例対対照の対象におけるサイトカインレベルでの平均差を検出することについての結果を提供する表である。
【図11】妊娠性疾患を発症することにおいて対象の相対的リスク(RR)を同定するために三分位数に渡っての有意な線形トレンドを検出する計算(トレンドについてのカイ二乗検定)の結果を提供する表である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)妊娠した対象から得られた生体試料において性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを測定する段階;
b)妊娠した対象から得られた生体試料において胎盤成長因子(PlGF)のレベルを測定する段階;
c)妊娠した対象から得られたSHBGレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階;および
d)妊娠した対象から得られたPlGFレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたPlGFレベルと比較する段階
を含む、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法であって、
正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGおよびPlGFの低レベルにより、該妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことが示される、方法。
【請求項2】
妊娠性疾患が妊娠高血圧症候群(pregnancy-induced hypertension)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
妊娠高血圧症候群が子癇前症である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
妊娠高血圧症候群が妊娠高血圧である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
妊娠性疾患が妊娠糖尿病である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、妊娠の第三期の前で、かつ妊娠の同じ週の間に得られている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、受胎後約6週間から24週間の間における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、受胎後約12週間から24週間の間における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項6記載の方法。
【請求項9】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、受胎後約18週間から24週間の間における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項1記載の方法。
【請求項10】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、それぞれ、第一期における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項1記載の方法。
【請求項11】
妊娠した対象から得られた血清または血液試料において可溶性fms様チロシンキナーゼ-1受容体(sFlt-1)のレベルを測定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
妊娠した対象由来のSHBGおよびPlGFレベルを以下のものと相関させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法:1)SHBGおよびPlGFレベルが測定される時点における妊娠週齢;2)妊娠した対象の年齢;3)妊娠した対象の経産回数;ならびに4)妊娠した対象の体格指数。
【請求項13】
対象試料において、少なくとも1つのサイトカインもしくは成長因子、または少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの成長因子のレベルを測定する段階、ならびに1つの値または複数の値を含む対象プロファイルを作成する段階であって、各値が特定のサイトカイン、成長因子、SHBGまたはPlGFのレベルを表している、段階、ならびに対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つの値または複数の値を含み、各値が参照対象から得られた参照試料における特定のサイトカインのレベルを表している、段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
サイトカインが、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、およびケモカインからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
免疫/ヘマトポイエチンが、エリスロポイエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、インターロイキン(IL)-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10およびIL-12からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ケモカインが、血小板因子(PF)4、血小板塩基性タンパク質(PBP)、groα、MIG、ENA-78、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)1α、MIP1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1、I-309、HC14、C10、RANTES(Regulated on Activation, Normal T-cell Expressed, and Secreted)からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
インターフェロンが、IFN-α、IFN-βおよびIFN-γからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
腫瘍壊死因子(TNF)関連分子が、TNF-α、インターフェロン(IFN)β、gp39(CD40-L)、CD27-L、CD30-Lおよび神経成長因子(NGF)からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項19】
対象試料および参照試料が尿試料である、請求項13記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階が、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、もしくはMCP-1、またはそれらの任意の組み合わせのレベルを測定する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階が、IL-6、IL-8、またはMCP-1のレベルを測定する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項22】
参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の対象から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項23】
参照プロファイルが、正常な妊娠をしている1人または複数の対象から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項24】
成長因子が線維芽細胞成長因子(FGF)-2または血管内皮増殖因子(VEGF)である、請求項13記載の方法。
【請求項25】
妊娠した対象から得られた試料におけるSHBGのレベルおよびPlGFのレベルが、2つまたはそれ以上の異なる生体分子と共に測定され、第一生体分子は、SHBGと特異的に相互作用し、かつ第二生体分子は、PlGFと特異的に相互作用する、請求項1記載の方法。
【請求項26】
生体分子の改変を検出することにより対象プロファイルを調製する段階であって、該改変が試料におけるSHBGおよびPlGFのレベルを示している、段階;ならびに、該対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つまたは複数の値を含み、各値が、正常な妊娠をしている1人または複数の参照対象から得られた参照試料におけるSHBGおよびPlGFのレベルを表している、段階をさらに含み、参照プロファイルと比較して対象プロファイルにおけるSHBGおよびPlGFのより低いレベルが、妊娠性疾患をもつまたはもちやすい対象を示している、請求項25記載の方法。
【請求項27】
生体分子がアレイを形成するように固定化される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
アレイが、複数の第一生体分子の第一セットおよび複数の第二生体分子の第二セットを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
生体分子が抗体である、請求項25記載の方法。
【請求項30】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
生体分子が抗原である、請求項25記載の方法。
【請求項32】
抗原がウイルス抗原である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
生体分子が受容体である、請求項25記載の方法。
【請求項34】
改変がSHBGまたはPlGFの生体分子への結合である、請求項26記載の方法。
【請求項35】
a)妊娠した対象から得られた血液または血清試料において性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを測定する段階;および
b)妊娠した対象から得られたSHBGレベルを正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階
を含む、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法であって、
正常な妊娠をしている対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGの低レベルにより、該妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことが示される、方法。
【請求項36】
対象試料において少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階、ならびに1つの値または複数の値を含む対象プロファイルを作成する段階であって、各値が特定のサイトカインまたはSHBGのレベルを表している、段階、ならびに対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つの値または複数の値を含み、各値が参照対象から得られた参照試料における特定のサイトカインのレベルを表している、段階をさらに含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
アレイが複数のアドレスを有する基板を含み、各アドレスが1つまたは複数の生体分子の1セットをその上に配置していて、1セットにおける各生体分子が、同じ分子を特異的に検出する、妊娠性疾患を検出するためのアレイであって;1つまたは複数の生体分子の第一セットが性ホルモン結合グロブリン(SHBG)を特異的に検出し、1つまたは複数の生体分子の第二セットが胎盤成長因子(PlGF)を特異的に検出する、アレイ。
【請求項38】
少なくとも1つのサイトカインを特異的に検出する1つまたは複数の生体分子の1セットをその上に配置している少なくとも1つのアドレスをさらに含む、請求項37記載のアレイ。
【請求項39】
生体分子が抗体である、請求項37記載のアレイ。
【請求項40】
請求項37記載のアレイおよび該アレイを用いるための使用説明書を含む、妊娠性疾患を検出するためのあらかじめパッケージされた診断キット。
【請求項41】
a)妊娠性疾患についての治療を受けている妊娠した患者から第一試料を得る段階;
b)第一試料において、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベル、またはSHBGおよび胎盤成長因子(PlGF)のレベルを測定する段階;
c)段階b)において測定されたレベルを、治療の実施の前または後に該患者から得られた第二試料において検出された、SHBGのレベル、またはSHBGおよびPlGFのレベルと比較する段階
を含む、治療が、妊娠性疾患を処置するのに有効であるかどうかを決定する方法であって、
第一試料と第二試料の間の違いが該治療の効力を示している、方法。
【請求項42】
表示(indication)を介護人へ提供する段階をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
a)妊娠した対象から得られた試料においてインスリン抵抗性バイオマーカーのレベルを測定する段階;
b)妊娠した対象から得られた試料において血管新生バイオマーカーのレベルを測定する段階;
c)妊娠した対象から得られたインスリン抵抗性バイオマーカーレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたレベルと比較する段階;および
d)妊娠した対象から得られた血管新生バイオマーカーレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたレベルと比較する段階
を含む、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法であって、
正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するインスリン抵抗性バイオマーカーおよび血管新生バイオマーカーの低レベルにより、該妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことが示される、方法。
【請求項44】
インスリン抵抗性バイオマーカーが性ホルモン結合グロブリン(SHBG)である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
血管新生バイオマーカーが胎盤成長因子(PlGF)である、請求項43記載の方法。
【請求項46】
複数のデジタルコード化参照プロファイルを含むデータベースを含むコンピュータ可読媒体であって、第一参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを表し、かつ第二参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における胎盤成長因子(PlGF)のレベルを表している、コンピュータ可読媒体。
【請求項47】
以下を含む、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定するためのコンピュータシステム:
1つまたは複数のデジタルコード化参照プロファイルを含むデータベースであって、第一参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを表し、任意で、第二参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における胎盤成長因子(PlGF)のレベルを表している、データベース;ならびに
以下のことをコンピュータにさせるためのコンピュータ実行可能コードを含むサーバー:
i)対象由来の試料において検出された、SHBGのレベル、またはSHBGおよびPlGFのレベルを含む妊娠した対象のプロファイルを受けとること;
ii)妊娠した対象プロファイルと診断的に関連している適合した参照プロファイルをデータベースから同定すること;ならびに
iii)対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかについての表示を作成すること。
【請求項1】
a)妊娠した対象から得られた生体試料において性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを測定する段階;
b)妊娠した対象から得られた生体試料において胎盤成長因子(PlGF)のレベルを測定する段階;
c)妊娠した対象から得られたSHBGレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階;および
d)妊娠した対象から得られたPlGFレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたPlGFレベルと比較する段階
を含む、妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法であって、
正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGおよびPlGFの低レベルにより、該妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことが示される、方法。
【請求項2】
妊娠性疾患が妊娠高血圧症候群(pregnancy-induced hypertension)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
妊娠高血圧症候群が子癇前症である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
妊娠高血圧症候群が妊娠高血圧である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
妊娠性疾患が妊娠糖尿病である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、妊娠の第三期の前で、かつ妊娠の同じ週の間に得られている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、受胎後約6週間から24週間の間における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、受胎後約12週間から24週間の間における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項6記載の方法。
【請求項9】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、受胎後約18週間から24週間の間における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項1記載の方法。
【請求項10】
妊娠した対象および正常な妊娠をしている対象から得られた試料が、それぞれ、第一期における妊娠の同じ週の間に得られている、請求項1記載の方法。
【請求項11】
妊娠した対象から得られた血清または血液試料において可溶性fms様チロシンキナーゼ-1受容体(sFlt-1)のレベルを測定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
妊娠した対象由来のSHBGおよびPlGFレベルを以下のものと相関させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法:1)SHBGおよびPlGFレベルが測定される時点における妊娠週齢;2)妊娠した対象の年齢;3)妊娠した対象の経産回数;ならびに4)妊娠した対象の体格指数。
【請求項13】
対象試料において、少なくとも1つのサイトカインもしくは成長因子、または少なくとも1つのサイトカインおよび少なくとも1つの成長因子のレベルを測定する段階、ならびに1つの値または複数の値を含む対象プロファイルを作成する段階であって、各値が特定のサイトカイン、成長因子、SHBGまたはPlGFのレベルを表している、段階、ならびに対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つの値または複数の値を含み、各値が参照対象から得られた参照試料における特定のサイトカインのレベルを表している、段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
サイトカインが、免疫/ヘマトポイエチン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)関連分子、およびケモカインからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
免疫/ヘマトポイエチンが、エリスロポイエチン(EPO)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、インターロイキン(IL)-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10およびIL-12からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ケモカインが、血小板因子(PF)4、血小板塩基性タンパク質(PBP)、groα、MIG、ENA-78、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)1α、MIP1β、単球走化性タンパク質(MCP)-1、I-309、HC14、C10、RANTES(Regulated on Activation, Normal T-cell Expressed, and Secreted)からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
インターフェロンが、IFN-α、IFN-βおよびIFN-γからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
腫瘍壊死因子(TNF)関連分子が、TNF-α、インターフェロン(IFN)β、gp39(CD40-L)、CD27-L、CD30-Lおよび神経成長因子(NGF)からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項19】
対象試料および参照試料が尿試料である、請求項13記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階が、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、もしくはMCP-1、またはそれらの任意の組み合わせのレベルを測定する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階が、IL-6、IL-8、またはMCP-1のレベルを測定する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項22】
参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の対象から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項23】
参照プロファイルが、正常な妊娠をしている1人または複数の対象から得られる、請求項13記載の方法。
【請求項24】
成長因子が線維芽細胞成長因子(FGF)-2または血管内皮増殖因子(VEGF)である、請求項13記載の方法。
【請求項25】
妊娠した対象から得られた試料におけるSHBGのレベルおよびPlGFのレベルが、2つまたはそれ以上の異なる生体分子と共に測定され、第一生体分子は、SHBGと特異的に相互作用し、かつ第二生体分子は、PlGFと特異的に相互作用する、請求項1記載の方法。
【請求項26】
生体分子の改変を検出することにより対象プロファイルを調製する段階であって、該改変が試料におけるSHBGおよびPlGFのレベルを示している、段階;ならびに、該対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つまたは複数の値を含み、各値が、正常な妊娠をしている1人または複数の参照対象から得られた参照試料におけるSHBGおよびPlGFのレベルを表している、段階をさらに含み、参照プロファイルと比較して対象プロファイルにおけるSHBGおよびPlGFのより低いレベルが、妊娠性疾患をもつまたはもちやすい対象を示している、請求項25記載の方法。
【請求項27】
生体分子がアレイを形成するように固定化される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
アレイが、複数の第一生体分子の第一セットおよび複数の第二生体分子の第二セットを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
生体分子が抗体である、請求項25記載の方法。
【請求項30】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
生体分子が抗原である、請求項25記載の方法。
【請求項32】
抗原がウイルス抗原である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
生体分子が受容体である、請求項25記載の方法。
【請求項34】
改変がSHBGまたはPlGFの生体分子への結合である、請求項26記載の方法。
【請求項35】
a)妊娠した対象から得られた血液または血清試料において性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを測定する段階;および
b)妊娠した対象から得られたSHBGレベルを正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたSHBGレベルと比較する段階
を含む、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法であって、
正常な妊娠をしている対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するSHBGの低レベルにより、該妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことが示される、方法。
【請求項36】
対象試料において少なくとも1つのサイトカインのレベルを測定する段階、ならびに1つの値または複数の値を含む対象プロファイルを作成する段階であって、各値が特定のサイトカインまたはSHBGのレベルを表している、段階、ならびに対象プロファイルを参照プロファイルと比較する段階であって、参照プロファイルが1つの値または複数の値を含み、各値が参照対象から得られた参照試料における特定のサイトカインのレベルを表している、段階をさらに含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
アレイが複数のアドレスを有する基板を含み、各アドレスが1つまたは複数の生体分子の1セットをその上に配置していて、1セットにおける各生体分子が、同じ分子を特異的に検出する、妊娠性疾患を検出するためのアレイであって;1つまたは複数の生体分子の第一セットが性ホルモン結合グロブリン(SHBG)を特異的に検出し、1つまたは複数の生体分子の第二セットが胎盤成長因子(PlGF)を特異的に検出する、アレイ。
【請求項38】
少なくとも1つのサイトカインを特異的に検出する1つまたは複数の生体分子の1セットをその上に配置している少なくとも1つのアドレスをさらに含む、請求項37記載のアレイ。
【請求項39】
生体分子が抗体である、請求項37記載のアレイ。
【請求項40】
請求項37記載のアレイおよび該アレイを用いるための使用説明書を含む、妊娠性疾患を検出するためのあらかじめパッケージされた診断キット。
【請求項41】
a)妊娠性疾患についての治療を受けている妊娠した患者から第一試料を得る段階;
b)第一試料において、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベル、またはSHBGおよび胎盤成長因子(PlGF)のレベルを測定する段階;
c)段階b)において測定されたレベルを、治療の実施の前または後に該患者から得られた第二試料において検出された、SHBGのレベル、またはSHBGおよびPlGFのレベルと比較する段階
を含む、治療が、妊娠性疾患を処置するのに有効であるかどうかを決定する方法であって、
第一試料と第二試料の間の違いが該治療の効力を示している、方法。
【請求項42】
表示(indication)を介護人へ提供する段階をさらに含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
a)妊娠した対象から得られた試料においてインスリン抵抗性バイオマーカーのレベルを測定する段階;
b)妊娠した対象から得られた試料において血管新生バイオマーカーのレベルを測定する段階;
c)妊娠した対象から得られたインスリン抵抗性バイオマーカーレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたレベルと比較する段階;および
d)妊娠した対象から得られた血管新生バイオマーカーレベルを、正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象から得られたレベルと比較する段階
を含む、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定する方法であって、
正常な妊娠をしている少なくとも1人の対象に存在するレベルと比較して、妊娠した対象から得られた試料に存在するインスリン抵抗性バイオマーカーおよび血管新生バイオマーカーの低レベルにより、該妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいことが示される、方法。
【請求項44】
インスリン抵抗性バイオマーカーが性ホルモン結合グロブリン(SHBG)である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
血管新生バイオマーカーが胎盤成長因子(PlGF)である、請求項43記載の方法。
【請求項46】
複数のデジタルコード化参照プロファイルを含むデータベースを含むコンピュータ可読媒体であって、第一参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを表し、かつ第二参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における胎盤成長因子(PlGF)のレベルを表している、コンピュータ可読媒体。
【請求項47】
以下を含む、妊娠した対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかを決定するためのコンピュータシステム:
1つまたは複数のデジタルコード化参照プロファイルを含むデータベースであって、第一参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における性ホルモン結合グロブリン(SHBG)のレベルを表し、任意で、第二参照プロファイルが、妊娠性疾患をもつ1人または複数の妊娠した個体由来の1つまたは複数の試料における胎盤成長因子(PlGF)のレベルを表している、データベース;ならびに
以下のことをコンピュータにさせるためのコンピュータ実行可能コードを含むサーバー:
i)対象由来の試料において検出された、SHBGのレベル、またはSHBGおよびPlGFのレベルを含む妊娠した対象のプロファイルを受けとること;
ii)妊娠した対象プロファイルと診断的に関連している適合した参照プロファイルをデータベースから同定すること;ならびに
iii)対象が妊娠性疾患をもつまたはもちやすいかどうかについての表示を作成すること。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−506979(P2007−506979A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−528171(P2006−528171)
【出願日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/031268
【国際公開番号】WO2005/031364
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(300052453)ザ・ジェネラル・ホスピタル・コーポレイション (24)
【出願人】(505415019)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター インコーポレイティッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/031268
【国際公開番号】WO2005/031364
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(300052453)ザ・ジェネラル・ホスピタル・コーポレイション (24)
【出願人】(505415019)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター インコーポレイティッド (2)
【Fターム(参考)】
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