説明

媒体、および、画像データ

【課題】任意の画像に基づく錯視画像を表示することができる、媒体、および、画像データを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、錯視画像を表示する媒体、および、錯視画像を表示するための画像データであって、錯視画像は、原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分、または、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、所定の上記成分が、減衰または増幅されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錯視画像生成装置、媒体、画像データ、錯視画像生成方法、印刷媒体製造方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、視覚の錯覚(錯視)を引き起こす図形等が発見されている。例えば、ヘルマン格子や、シェブルール錯視、カフェウォール錯視、オオウチ錯視、Pinna錯視、Gurnsey−Morgan錯視等の錯視図形が発見されており、これらの錯視図形を見ると、大きさや位置や色等が実際とは異なって知覚されたり、実際には存在しないものが見えたり、静止画が動いて見えたりする錯視現象が引き起こされる(非特許文献1、4、5、6、7参照)。
【0003】
また、従来、ヒトの視覚皮質の単純細胞の数理モデルとして、かざぐるまウェーブレット・フレーム(非特許文献3参照)、単純かざぐるまフレームレット(非特許文献2参照)、かざぐるまフレームレットと呼ばれる方位選択性ウェーブレット・フレームが開発されており、画像解析等に利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】新井仁之著 「錯視図版集」三秀舎 2007年
【非特許文献2】Hitoshi Arai and Shinobu Arai, “2D tight framelets with orientation selectivity suggested by vision science”, JSIAM Letters Vol. 1 (2009), pp.9−12.
【非特許文献3】Hitoshi Arai and Shinobu Arai, “Finite discrete, shift−invariant, directional filterbanks for visual information processing, I: Construction”, Interdisciplinary Information Sciences, Vol. 13 (2007), pp.255−273.
【非特許文献4】北岡明佳著 「錯視入門」朝倉書店 2010年
【非特許文献5】Hajime Ouchi, Japanese Optical and Geometrical Art, Dover Publ. Inc., New York, (1973)
【非特許文献6】B. Pinna and G. J. Brelstaff, “A new visual illusion of relative motion”, Vision Research 40 (2000), pp.2091−2096.
【非特許文献7】R. Gurnsey and G. Page(「e」にアキュート・アクセントを有す。), “Effects of local and global factors in the Pinna illusion”, Vision Research 46 (2006), pp.1823−1837.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、錯視図形は偶然的に発見されるか、あるいは、錯視研究者やデザイナーらにより特定のパターンを用いて職人芸的に見出されて作成されるものであって、
任意の画像から錯視画像を自動生成する方法がなかった、という問題点を有していた。特に、かざぐるまフレームレット、単純かざぐるまフレームレット、かざぐるまウェーブレット・フレームは、錯視図形における錯視発生の原因を解析する等のために利用されることがあったが、任意の画像から錯視画像を作成するために利用されるものではなかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、任意の画像から錯視画像を生成することができる錯視画像生成装置、媒体、画像データ、錯視画像生成方法、印刷媒体製造方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、本発明の錯視画像生成装置は、記憶部と制御部を少なくとも備えた錯視画像生成装置であって、上記記憶部は、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクを記憶するフィルタ記憶手段と、画像データを記憶する画像データ記憶手段と、を備え、上記制御部は、上記画像データに対して、上記方位選択性ウェーブレット・フレームまたは上記方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行い、サブバンド信号を取得する分解手段と、上記分解手段により取得された上記サブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する再構成手段と、を備え、上記再構成手段は、上記複数の上記詳細フィルタのうち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰または増幅させることにより、浮遊錯視を発生させる上記再構成画像データを生成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記複数の上記詳細フィルタのうち、上記浮遊方向と直交または斜交する上記方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記複数の上記詳細フィルタのうち、上記浮遊方向の直交軸に対して水平または垂直でなく、かつ、上記直交軸に対して負の角度の上記方位性を持つ上記詳細フィルタのなす群と、上記直交軸に対して正の角度の上記方位性をもつ上記詳細フィルタのなす群との2つの群のうち、一方の群に属する上記詳細フィルタ、および、上記浮遊方向と直交する上記方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記一方の群に属する上記詳細フィルタ、および、上記浮遊方向と直交する上記方位性をもつ上記詳細フィルタのうち、上記直交軸に対する角度の絶対値が0度以上45度以内の傾きの上記方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記直交軸に対する角度の絶対値が上記0度以上45度以内の傾きの上記方位性をもつ上記詳細フィルタのうち、当該0度に近づくほど高次数までの、当該45度に近づくほど低次数までの、上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記複数の上記詳細フィルタのうち、上記浮遊方向の直交軸に対して水平また
は垂直でなく、かつ、上記直交軸に対して負の角度の上記方位性を持つ上記詳細フィルタのなす群と、上記直交軸に対して正の角度の上記方位性をもつ上記詳細フィルタのなす群との2つの群のうち、他方の群に属する上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、増幅させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記2つの群のうち上記一方の群ではない他方の群に属し、上記直交軸に対する角度の絶対値が45度の傾きの上記方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、増幅させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記再構成手段は、上記再構成画像データの互いに隣接する画像領域において、互いに逆向きその他の互いに異なる向きの上記浮遊方向を持つように上記サブバンド信号を、減衰または増幅させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の錯視画像生成装置は、上記記載の錯視画像生成装置において、上記分解手段による上記多重解像度分解は、最大重複多重解像度分解、最大間引き多重解像度分解、または、一部間引き一部重複多重解像度分解であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、錯視画像を表示する媒体に関し、上記錯視画像は、原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分、または、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、所定の上記成分が、減衰または増幅されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、錯視画像を表示するための画像データに関し、上記錯視画像は、原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分、または、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、所定の上記成分が、減衰または増幅されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は錯視画像生成方法に関し、本発明の錯視画像生成方法は、記憶部と制御部を少なくとも備えた錯視画像生成装置において実行される錯視画像生成方法であって、上記記憶部は、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクを記憶するフィルタ記憶手段と、画像データを記憶する画像データ記憶手段と、を備え、上記制御部において実行される、上記画像データに対して、上記方位選択性ウェーブレット・フレームまたは上記または方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行い、サブバンド信号を取得する分解ステップと、上記分解ステップにて取得された上記サブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する再構成ステップと、を含み、上記再構成ステップは、上記複数の上記詳細フィルタのうち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰または増幅させることにより、浮遊錯視を発生させる上記再構成画像データを生成することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、印刷媒体製造方法に関し、記憶部と制御部と印刷部を少なくとも備えた錯視画像生成装置において実行される印刷媒体製造方法であって、上記記憶部は、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクを記憶するフィルタ記憶手段と、画像データを記憶する画像データ記憶手段と、を備え、上記制御部において実行される、上記画像データに対して、上記方位選択性ウェーブレット・フレームまたは上記方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行い、サブバンド信号を取得
する分解ステップと、上記分解ステップにて取得された上記サブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する再構成ステップと、上記再構成ステップにて取得された上記再構成画像データを上記印刷部に出力することにより印刷媒体を製造するための錯視画像の出力ステップと、を含み、上記再構成ステップは、上記複数の上記詳細フィルタのうち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰または増幅させることにより、浮遊錯視を発生させる上記再構成画像データを生成することを特徴とする。
【0020】
また、本発明はプログラムに関し、本発明のプログラムは、記憶部と制御部を少なくとも備えた錯視画像生成装置に錯視画像生成方法を実行させるためのプログラムであって、上記記憶部は、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクを記憶するフィルタ記憶手段と、画像データを記憶する画像データ記憶手段と、を備え、上記制御部において、上記画像データに対して、上記方位選択性ウェーブレット・フレームまたは上記方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行い、サブバンド信号を取得する分解ステップと、上記分解ステップにて取得された上記サブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する再構成ステップと、を実行させるためのプログラムであって、上記再構成ステップは、上記複数の上記詳細フィルタのうち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰または増幅させることにより、浮遊錯視を発生させる上記再構成画像データを生成することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は記録媒体に関するものであり、上記記載のプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクと、画像データと、を記憶し、画像データに対して、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行って、サブバンド信号を取得し、取得したサブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する場合に、複数の詳細フィルタのうち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性をもつ詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰または増幅させることにより、浮遊錯視を発生させる再構成画像データを生成する。これにより、任意の画像から錯視画像を生成することができる。より具体的には、本発明は、それぞれの原画像が持っている固有の方位性の分布をうまく利用して、原画像の表現を保ちながら錯視を発生させることができ、それによって様々な原画像に適用できるという汎用性のある用途を提供することができる。
【0023】
また、本発明によれば、複数の上記詳細フィルタのうち、上記浮遊方向と直交または斜交する上記方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、減衰させる。これにより、任意の原画像の表現を保ちつつ錯視画像を生成することができる。
【0024】
また、本発明によれば、複数の上記詳細フィルタのうち、上記浮遊方向の直交軸に対して水平または垂直でなく、かつ、上記直交軸に対して負の角度の上記方位性を持つ上記詳細フィルタのなす群と、上記直交軸に対して正の角度の上記方位性をもつ上記詳細フィルタのなす群との2つの群のうち、一方の群に属する方位性をもつ詳細フィルタ、および、上記浮遊方向と直交する上記方位性をもつ上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する
サブバンド信号を減衰させる。これにより、浮遊錯視が強調された再構成画像データを生成することができる。
【0025】
また、本発明によれば、一方の群に属する詳細フィルタ、および、上記浮遊方向と直交する上記方位性をもつ上記詳細フィルタのうち、浮遊方向の直交軸に対する角度の絶対値が0度以上45度以内の傾きの方位性をもつ詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰させるので、より任意の原画像の表現を保ちつつ浮遊錯視再構成画像データを生成することができる。
【0026】
また、本発明によれば、浮遊方向の直交軸に対する角度の絶対値が0度以上45度以内の傾きの方位性をもつ詳細フィルタのうち、当該0度に近づくほど高次数までの、当該45度に近づくほど低次数までの、詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰させるので、より任意の原画像の表現を保ちつつ浮遊錯視再構成画像データを生成することができる。
【0027】
また、本発明によれば、複数の上記詳細フィルタのうち、上記浮遊方向の直交軸に対して水平または垂直でなく、かつ、上記直交軸に対して負の角度の上記方位性を持つ上記詳細フィルタのなす群と、上記直交軸に対して正の角度の上記方位性をもつ上記詳細フィルタのなす群との2つの群のうち、他方の群に属する上記詳細フィルタの少なくとも一つに対応する上記サブバンド信号を、増幅させるので、浮遊錯視が強調された再構成画像データを生成することができる。
【0028】
また、本発明によれば、2つの群のうち一方の群ではない他方の群に属し、当該浮遊方向の直交軸に対する角度の絶対値が45度の傾きの方位性をもつ詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を増幅させるので、浮遊錯視が強調された再構成画像データを生成することができる。
【0029】
また、本発明によれば、再構成画像データの互いに隣接する画像領域において、互いに逆向きその他の互いに異なる向きの浮遊方向を持つようにサブバンド信号を、減衰または増幅させるので、画像領域全体にわたって同一の方位性の詳細フィルタに対応するサブバンド信号を減衰または増幅させる場合に比べて、浮遊方向が逆方向その他の互いに異なる方向となる画像領域が隣接するので、より浮遊錯視が強調された再構成画像データを生成することができる。
【0030】
また、本発明によれば、分解手段による多重解像度分解は、最大重複多重解像度分解、最大間引き多重解像度分解、または、一部間引き一部重複多重解像度分解であるので、好適な多重解像度分解を行ってサブバンド信号を取得することができる。
【0031】
また、本発明は、錯視画像を表示する媒体または錯視画像を表示するための画像データであって、錯視画像は、原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分、または、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、所定の成分が、減衰または増幅されているので、任意の原画像において発生させた錯視画像を提示することができる。
【0032】
また、本発明は、印刷媒体製造方法であって、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクと、画像データと、を記憶し、画像データに対して、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行って、サブバンド信号を取得し、取得したサブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する場合に、複数の詳細フィルタのう
ち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性をもつ詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰または増幅させることにより、浮遊錯視を発生させる再構成画像データを生成し、再構成画像データを印刷部に出力することにより印刷媒体を製造する。これにより、任意の原画像から生成した錯視画像を印刷した媒体を製造することができる。より具体的には、本発明は、それぞれの原画像が持っている固有の方位性の分布をうまく利用して、原画像の表現を保ちながら錯視を発生させた印刷媒体を製造することができ、それによって様々な原画像に適用した錯視画像の印刷媒体を製造することができるという汎用性のある用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本実施の形態が適用される本錯視画像生成装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は、次数5のレベル3の最大重複かざぐるまフレームレット・フィルタに次数5のレベル1とレベル2の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積して得られるフィルタで、実際に上記フレームレットによる最大重複多重解像度分解においてレベル3の分解フェーズにおける分解を得るためのフィルタの一例を示す図である。
【図3】図3は、次数7のレベル2(高周波数側)の最大重複かざぐるまフレームレット・フィルタに次数7のレベル1の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積して得られるフィルタであり、レベルによる違いを示すための図である。
【図4】図4は、次数7のレベル3(低周波数側)の最大重複かざぐるまフレームレット・フィルタに、次数7のレベル1とレベル2の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積して得られるフィルタであり、レベルによる違いを示すための図である。
【図5】図5は、次数7、レベルkのかざぐるまフレームレットにおいて、近似部分をaで表し、詳細部分をd(1)〜d(99)の記号(番号)で表した図である。
【図6】図6は、図5の各フィルタの配列に対応付けて付与した係数を表す図である。
【図7】図7は、本実施の形態における錯視画像生成装置100の基本処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図8は、最大重複多重解像度分解の分解フェーズおよび合成フェーズのフィルタ・バンクの一例を示す図である。
【図9】図9は、本実施の形態における錯視画像生成装置100の具体化処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】図10は、グレースケールの文字列による原画像を示す図である。
【図11】図11は、加工方法I−1の加工表を示す図である。
【図12】図12は、加工方法I−1により得られた再構成画像yを示す図である。
【図13】図13は、加工方法I−2の加工表を示す図である。
【図14】図14は、加工方法I−2により得られた再構成画像yを示す図である。
【図15】図15は、図12の再構成画像を奇数行に図14の再構成画像を偶数行に並べて作成した錯視画像を示す図である。
【図16】図16は、加工方法II−1の加工表を示す図である。
【図17】図17は、加工方法II−1により得られた再構成画像yを示す図である。
【図18】図18は、加工方法II−2の加工表を示す図である。
【図19】図19は、加工方法II−2により得られた再構成画像yを示す図である。
【図20】図20は、図17の再構成画像を奇数行に図19の再構成画像を偶数行に並べて作成した錯視画像を示す図である。
【図21】図21は、カラーイラストの原画像を示す図である。
【図22】図22は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法II−1で加工した再構成画像を示す図である。
【図23】図23は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法II−2で加工した再構成画像を示す図である。
【図24】図24は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法I−1で加工した再構成画像を示す図である。
【図25】図25は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法I−2で加工した再構成画像を示す図である。
【図26】図26は、縦に動かすと互いに反対方向の横に揺れる錯視画像を作成するための加工方法V−1−1による加工表を示す図である。
【図27】図27は、縦に動かすと互いに反対方向の横に揺れる錯視画像を作成するための加工方法V−1−2による加工表を示す図である。
【図28】図28は、横に動かすと互いに反対方向の縦に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−2−1による加工表を示す図である。
【図29】図29は、横に動かすと互いに反対方向の縦に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−2−2による加工表を示す図である。
【図30】図30は、縦に動かすと互いに反対方向の横に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−3−1による加工表を示す図である。
【図31】図31は、縦に動かすと互いに反対方向の横に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−3−2による加工表を示す図である。
【図32】図32は、横に動かすと互いに反対方向の縦に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−4−1による加工表を示す図である。
【図33】図33は、横に動かすと互いに反対方向の縦に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−4−2による加工表を示す図である。
【図34】図34は、縦に動かすと横に揺れ、かつ、横に動かすと縦に揺れる、浮遊錯視画像を作成する加工方法V−5−1による加工表を示す図である。
【図35】図35は、縦に動かすと横に揺れ、かつ、横に動かすと縦に揺れる、浮遊錯視画像を作成する加工方法V−5−2による加工表を示す図である。
【図36】図36は、加工方法Iにより作成された錯視画像を示す図である。
【図37】図37は、加工方法V−5により作成された錯視画像を示す図である。
【図38】図38は、方位性が軸対称となる加工表を用いて作成した2枚の再構成画像を奇数行と偶数行に交互に並べて結合させた錯視画像の例を示す図である。
【図39】図39は、奇数行と偶数行の画像が片方を1/2シフトさせて配列した錯視画像の例を示す図である。
【図40】図40は、奇数行と偶数行の画像が片方を1/2シフトさせて配列した錯視画像の例を示す図である。
【図41】図41は、円形配列を作成するために準備した逆方向に揺れる錯視画像を上下に並べた図である。
【図42】図42は、近づいたり離れたりすると回転しているように見える錯視図形を示す図である。
【図43】図43は、円形配列を作成するために準備した、横に動かすと縦に揺れる浮遊錯視画像を示す図である。
【図44】図44は、回転させると膨張したり縮小したりする錯視画像を示す図である。
【図45】図45は、斜め方向に動かすと、それと直交し且つ互いに反対向きの斜め方向に揺れる錯視を作る画像を作成する加工方法VI−1による加工表を示す図である。
【図46】図46は、斜め方向に動かすと、それと直交し且つ互いに反対向きの斜め方向に揺れる錯視を作る画像を作成する加工方法VI−2による加工表を示す図である。
【図47】図47は、隣接する画像領域が互いに反対方向に揺れるように加工方法VI−1およびVI−2により作成された錯視画像を示す図である。
【図48】図48は、本例によって改良された具体化処理のフローチャートを示す図である。
【図49】図49は、上述した具体化処理において閾値を用いた方法によりスケール変換した結果を示す図である。
【図50】図50は、本例においてA=15、B=85としてスケール変換をした結果を示す図である。
【図51】図51は、出力画像図49、図50に対する入力画像の具体化処理のステップSB−3の処理後であってステップSB−4の処理前の画像のLのヒストグラムである。
【図52】図52は、ステップSB−3の処理後の画像を、単純に閾値を用いてスケール変換した画像(図49)のLのヒストグラムである。
【図53】図53は、ステップSB−3の処理後の画像を、本例においてA=15、B=85としてスケール変換をした画像(図50)のLのヒストグラムである。
【図54】図54は、次数7のレベル2の最大重複かざぐるまフレームレット・フィルタに次数7のレベル1の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積して得られるフィルタを示す図である。
【図55】図55は、テスト画像に対し、次数7のかざぐるまフレームレットによりレベル2までの最大重複多重解像度分解を行った結果の各サブバンド信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明にかかる錯視画像生成装置、媒体、画像データ、錯視画像生成方法、印刷媒体製造方法、および、プログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0035】
[錯視画像]
本実施の形態の媒体および画像データにかかる錯視画像について以下に説明する。すなわち、本実施の形態の媒体は、錯視画像を表示する媒体であって、例えば、錯視画像を印刷した印刷媒体(紙、OHPシートなど)等のように、錯視画像を一時的ではなく表示する媒体である。また、本実施の形態の画像データは、錯視画像を表示するための画像データであって、例えば、ラスタ形式またはベクタ形式の二次元画像データ等である。
【0036】
本実施の形態の媒体および画像データにかかる錯視画像は、以下の特徴を有する。すなわち、本錯視画像は、原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分のうち、所定の成分が、減衰または増幅されていることを特徴とする。あるいは、本錯視画像は、原画像を構成する、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、所定の成分が、減衰または増幅されていることを特徴とする。
【0037】
このような錯視画像は、一例として、画像もしくは視認者が動くことによって浮遊を錯視されるものであり、画像が、明暗(輝度)、色調、或いは色の濃淡により形成される領域を有することでデザイン(意匠)、写真、及び/又は、文字として形成される錯視画像である。すなわち、錯視画像は、視認者の動き或いは画像の動きが引き起こす本来の動きとは異なる動きをするように見える。なお、原画像は、一例として、デザイン(意匠)、写真、文字等を表す、任意の画像であってもよい。
【0038】
また、本実施の形態において、「ウェーブレット」とは、古典的なウェーブレットや、狭義のウェーブレット等に限られず、広義のウェーブレットをも含む。例えば、ウェーブレットは、有限長波形、もしくは、0から増幅して速やかに0に収束するような振幅を伴う波様の振動であり、一例として、ガボール・フィルタや、カーブレットのようなウェーブレット擬きを含む。
【0039】
また、「各方位性のあるフィルタ」は、一例として、各方位性をもった複数の詳細フィルタであり、例えば、サブバンド信号等の成分がフィルタにより抽出される。
【0040】
ここで、減衰される所定の方位性の成分は、例えば、浮遊方向と直交または斜交する方位性の成分の少なくとも一つであってもよい。減衰される所定の方位性の成分は、これに限られず、複数の各方位性のうち、浮遊方向の直交軸に対して水平または垂直でなく、かつ、直交軸に対して負の角度の方位性の群と、直交軸に対して正の角度の方位性の群との2つの群のうち、一方の群に属する方位性の成分、および、浮遊方向と直交する方位性の成分の少なくとも一つであってもよい。より具体的には、減衰される所定の方位性の成分は、一方の群に属する方位性、および、浮遊方向と直交する方位性のうち、直交軸に対する角度の絶対値が0以上45度以内の傾きの方位性の成分の少なくとも一つであってもよい。更に具体的には、減衰される所定の方位性は、直交軸に対する角度の絶対値が0度以上45度以内の傾きの方位性のうち、当該0度に近づくほど高次数までの方位性であり、当該45度に近づくほど低次数までの方位性の成分の少なくとも一つであってもよい。
【0041】
一方、増幅される所定の方位性の成分は、複数の各方位性のうち、浮遊方向の直交軸に対して水平または垂直でなく、かつ、直交軸に対して負の角度の方位性の群と、直交軸に対して正の角度の方位性の群との2つの群のうち、他方の群に属する方位性の成分の少なくとも一つであってもよい。より具体的には、増幅される所定の方位性の成分は、他方の群に属し、直交軸に対する角度の絶対値が45度の傾きの方位性の成分の少なくとも一つであってもよい。
【0042】
ここで、本錯視画像は、互いに隣接する画像領域において、互いに逆向きその他の互いに異なる向きの浮遊方向を持つように、所定の方位性の成分が、減衰または増幅されていてもよい。これにより、浮遊錯視が強調されることとなる。
【0043】
以上で、本実施の形態の媒体および画像データにかかる錯視画像の説明を終える。なお、媒体および画像データにかかる錯視画像は、以下の実施の形態に記載の錯視画像生成装置や錯視画像生成方法、印刷媒体製造方法等により生成されてもよい。
【0044】
[錯視画像生成装置の構成]
次に、本錯視画像生成装置の構成について図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態が適用される本錯視画像生成装置の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本実施の形態に関係する部分のみを概念的に示している。
【0045】
図1において錯視画像生成装置100は、概略的に、制御部102と通信制御インターフェース部104と入出力制御インターフェース部108と記憶部106を備える。ここで、制御部102は、錯視画像生成装置100の全体を統括的に制御するCPU等である。入出力制御インターフェース部108は、入力装置112や出力装置114に接続されるインターフェースである。また、記憶部106は、各種のデータベースやテーブルなどを格納する装置である。これら錯視画像生成装置100の各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0046】
記憶部106に格納される各種のファイル(フレームレットファイル106aおよび画像データファイル106b)は、固定ディスク装置等のストレージ手段である。例えば、記憶部106は、各種処理に用いる各種のプログラム、テーブル、ファイル、データベース、および、ウェブページ等を格納する。
【0047】
これら記憶部106の各構成要素のうち、フレームレットファイル106aは、方位性のない近似フィルタ、および、各方位性をもった複数の詳細フィルタの集合である、方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクを記憶するフィルタ記憶手段である。ここで、本実施形態では、方位選択性ウェーブレット・フレームとして、かざぐるまフレームレット(pinwheel framelet)を用いるが、方位
選択性ウェーブレット・フレームはこれに限られず、例えば、単純かざぐるまフレームレット(simple pinwheel framelet)(非特許文献2参照)や、かざぐるまウェーブレット・フレーム(pinwheel wavelet frame)(非特許文献3参照)等を用いてもよい。なお、かざぐるまウェーブレット・フレームは、構成するフィルタの長さが原画像の画素数に応じて変化するのに対して、かざぐるまフレームレットおよび単純かざぐるまフレームレットは、フィルタの長さが画素数に関係しない、という性質がある。例えば、かざぐるまフレームレットは、方位選択性のある2次元フレームレットであり、マルチウェーブレット・フレームの一種である。一例として、かざぐるまフレームレットは、ヒトの視覚皮質の単純細胞を数理モデル化したものである。この分解は、ヒトの脳内で単純細胞により分解される信号の数理的なモデルである。なお、かざぐるまフレームレットは、単純かざぐるまフレームレットに比べて、神経科学的に、より大脳皮質V1野の単純細胞に近いモデルになっている。一例として、かざぐるまフレームレットには、次数があり、次数は3以上の奇数で、次数が大きくなるほど、それだけ多くの方位を検出できるようになる。なお、その分、フィルタの枚数は多くなり、計算時間も増すという性質がある。また、一例として、次数nのかざぐるまフレームレットのフィルタ数は、(n+1)+(n−1)となる。このうち、一つのフィルタが、近似フィルタであり、残りのフィルタが詳細フィルタである。ここで、図2は、次数5のレベル3の最大重複かざぐるまフレームレット・フィルタに次数5のレベル1とレベル2の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積して得られるフィルタである(循環相関積について、例えば、新井仁之著「線形代数 基礎と応用」株式会社日本評論社(2006年)を参照)。
【0048】
このかざぐるまフレームレットは、次数5であるので、たとえば図2に示すように、各レベルについて左側の6×6個のフィルタと、右側の4×4個のフィルタを合わせて、合計で52枚のフィルタの集合からなっている。このうち、図の中央上部の黒い矩形で囲んだ1枚が、レベル1からレベル3までの近似フィルタの循環相関積により得られるフィルタであり、その他の51枚が、レベル3の詳細フィルタにレベル1から2までの近似フィルタを循環相関積して得られるフィルタである。詳細フィルタから作られる上記フィルタの方位性は、近似フィルタのみから作られるフィルタを中心として、およそ風車の回転する向きに並べている。なお、後に詳述するように、各次数のかざぐるまフレームレットによる最大重複多重解像度分解には、レベルがあり、レベル1はもっとも細かい部分(高周波部分)を検出する。図2は、レベル3のかざぐるまフレームレットであり、レベル2、3・・・と大きくなるにつれ、大まかな部分(低周波部分)が検出される。なお、フレームレットファイル106aは、かざぐるまフレームレット等の方位選択性ウェーブレット・フレームを、関数の形式(フレームレット・フィルタの周波数応答関数等)で記憶してもよい。関数の具体例については後述する。
【0049】
なお、上記に限られず、本実施の形態において様々なウェーブレットを用いてもよい。ここで、ウェーブレットは、古典的なウェーブレットや、狭義のウェーブレット等に限られず、広義のウェーブレットをも含む。例えば、ウェーブレットは、有限長波形、もしくは、0から増幅して速やかに0に収束するような振幅を伴う波様の振動であり、一例として、ガボール・フィルタや、カーブレットのようなウェーブレット擬きを含む。また、フレームレットファイル106aは、方位選択性ウェーブレット・フレームのようなフレームに限らず、方位選択性フィルタ・バンク等のフィルタ群や方位性のあるフィルタを記憶してもよい。
【0050】
また、画像データファイル106bは、画像データを記憶する画像データ記憶手段である。一例として、画像データファイル106bに記憶される画像データは、入力装置112を介して入力された画像データでもよく、外部システム200等からネットワーク300を介して受信した画像データでもよい。また、画像データは、カラー画像のイメージデ
ータであってもよく、グレースケールのイメージデータであってもよい。なお、かざぐるまフレームレット等の方位選択性ウェーブレット・フレームにより多重解像度分解される前の元の画像(データ)を原画像(データ)と呼び、サブバンド信号に基づき再構成された後の画像(データ)を再構成画像(データ)と呼ぶ。ここで、画像データファイル106bは、目的の原画像の画像データと同一の画像サイズ(画素数)の単位インパルス信号を画像データとして記憶してもよい。なお、画像データファイル106bに記憶された単位インパルス信号は、画像データとして同様にフレームレットファイル106aに記憶されたフィルタ・バンクに入力され、出力された単位インパルス応答は、目的の原画像の画像データを高速計算するために用いられる。なお、高速計算方法の詳細は後述する。
【0051】
再び図1に戻り、入出力制御インターフェース部108は、入力装置112や出力装置114の制御を行う。ここで、出力装置114としては、モニタ(家庭用テレビを含む)等の表示装置や、プリンタ等の印刷装置等を用いることができる。また、入力装置112としては、カメラ等の撮像装置、外部記憶媒体に接続される入力装置等の他、キーボード、マウス、およびマイク等を用いることができる。
【0052】
また、図1において、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部102は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部102は、機能概念的に、分解部102a、再構成部102b、色空間変換部102d、および、錯視画像出力部102eを備える。再構成部102bは、更に浮遊錯視生成部102cを備える。
【0053】
このうち、分解部102aは、画像データに対して、フレームレットファイル106aに記憶された、かざぐるまフレームレット等の方位選択性ウェーブレット・フレームまたは方位選択性フィルタ・バンクによる多重解像度分解を行い、サブバンド信号を取得する分解手段である。ここで、「多重解像度分解」は、最大重複多重解像度分解、最大間引き多重解像度分解、および、一部間引き一部重複多重解像度分解を含む(最大重複多重解像度分解について、例えば、新井仁之著「ウェーブレット」共立出版株式会社(2010年)参照)。なお、分解部102aにより多重解像度分解を計算する際に、循環相関積、循環畳み込み積が使われるが、それらは高速フーリエ変換を用いる公知の高速計算方法により計算してもよい。上述のように、かざぐるまフレームレット等の方位選択性ウェーブレット・フレームによる多重解像度分解には、レベルがある。ここで、図3および図4は、かざぐるまフレームレットのレベルによる違いを示すための図であり、図3は、レベル2(高周波数側)の最大重複かざぐるまフレームレット・フィルタにレベル1の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積したフィルタを示し、図4は、レベル3(低周波数側)の最大重複フレームレット・フィルタにレベル1とレベル2の最大重複かざぐるまフレームレット・近似フィルタを循環相関積したフィルタを示している。なお、いずれも次数は7であるので、(7+1)+(7−1)=100個のフィルタがある。
【0054】
一例として、分解部102aは、まず、レベル1のかざぐるまフレームレットによる最大重複多重解像度分解により、もっとも細かい部分(高周波部分)を検出し、レベル2,3・・と大きくなるにつれ、大まかな部分(低周波部分)を検出する。
【0055】
かざぐるまフレームレットによる多重解像度分解には、分解フェーズと合成フェーズがある。各フェーズは、近似フィルタと詳細フィルタの配列(アレイ)からなるフィルタ・バンクにより構成されている。分解部102aは、分解フェーズおよび合成フェーズにおける画像処理を実行後、最終的に、原画像データを「フィルタ数×レベル」個の画像信号(すなわち、サブバンド信号)に分解する。
【0056】
例えば、次数7のかざぐるまフレームレットによるレベル5の最大重複多重解像度分解の場合、あるレベルk(k=1から5)のサブバンド信号には、1枚の近似フィルタにより得られる1つの近似部分と、99枚の詳細フィルタにより得られる99個の詳細部分がある。ここで、図5は、次数7、レベルkのかざぐるまフレームレットにおいて、近似部分をaで表し、詳細部分をd(1)〜d(99)の記号(番号)で表した図である。なお、記号(番号)の位置は、図3(k=2)または図4(k=3)における各フィルタの位置と対応づけられている。すなわち、aおよびd(1)〜d(99)は、図3または図4における対応する位置のフィルタから取得されたサブバンド信号を表している。
【0057】
また、再構成部102bは、分解部102aにより取得されたサブバンド信号を足し合わせることにより画像を再構成して、再構成画像データを取得する再構成手段である。例えば、再構成部102bは、上述した最大レベルの近似フィルタにより得られた近似部分のサブバンド信号と、すべての詳細フィルタにより得られた詳細部分のサブバンド信号を足し合わせることによって、画像を再構成して再構成画像データを取得する。このとき、かざぐるまフレームレットが完全再構成性であって、後述する浮遊錯視生成部102cによる処理を行わなければ、再構成部102bは、原画像と同じ画像を再現する。換言すれば、再構成部102bは、浮遊錯視生成部102cによる処理により特定のサブバンド信号を減衰(削除)したり増幅(強調)したりしてから、足し合わせることによって、(原画像とは異なり)浮遊錯視を発生させる再構成画像データを取得する。
【0058】
ここで、上述した記号(番号)を用いて、完全再構成性と浮遊錯視生成処理の関係について説明する。原画像の入力信号(原信号)をxとすると、最大重複多重解像度分解の完全再構成性は以下の式で表される。
x=a+(d(1)+・・・+d(99))+・・・+(d(1)+・・・+d(99))
【0059】
ここで、各詳細部分に対して適当な実数の係数を与えて、b5,1、・・・、b5,99、・・・、b1,1、・・・、b1,99とする。ここで、図6は、図5の各フィルタの配列に対応付けて付与した係数を表す図である。この場合、再構成画像(信号)は以下の式で表される。
y=a+(b5,1(1)+・・・+b5,99(99))+・・・+(b1,1(1)+・・・+b1,99(99))
【0060】
このとき、各係数b5,1=・・・=b5,99=・・・=b1,1=・・・=b1,99=1の場合は、明らかにx=y(原画像と再構成画像が同一)であり、完全再構成となる。本実施の形態において、一例として、浮遊錯視生成部102cは、浮遊錯視を作ることのできるような数値b5,1、・・・、b5,99、・・・、b1,1、・・・、b1,99を設定することにより、浮遊錯視を発生させる再構成画像を生成する。
【0061】
ここで、浮遊錯視を発生させるために減衰・増幅するサブバンド信号を説明する前に、詳細フィルタの分類について説明する。詳細フィルタは、その方位性に基づいて、5種類に分類することができる。すなわち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に直交する軸を「直交軸」と呼ぶとすると、(1)直交軸と同方向の方位性をもつ詳細フィルタ、(2)直交軸に垂直方向の方位性をもつ詳細フィルタ、(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ、(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ、(5)方位分離されていない詳細フィルタ、の5つに分類することができる。ここで、浮遊方向の直交軸に対する角度θは、反時計回りを正とし、−90°<θ≦+90°で表される。なお、直交軸に対して水平または垂直な方位性(θ=0°,90°)をもつ詳細フィルタは、
(1)または(2)に分類するので、(3)または(4)には分類しない。また、「(5)方位分離されていない詳細フィルタ」では、直交軸に対する角度の絶対値が同一である正の角度と負の角度の両方の方位性を含んでいるので、(3)または(4)に分類しない。
【0062】
縦方向を浮遊方向とした場合、図5の例では、「(1)直交軸と同方向の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号は、d(15)、d(23)、d(31)、d(39)、d(47)、d(55)、d(63)となる。また、「(2)直交軸と垂直方向の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号は、d(1)〜d(7)となる。また、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号は、d(64)〜d(99)となる。また、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号は、d(9)〜d(14)、d(17)〜d(22)、d(25)〜d(30)、d(33)〜d(38)、d(41)〜d(46)、d(49)〜d(54)となる。また、「(5)方位分離されていない詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号は、d(8)、d(16)、d(24)、d(32)、d(40)、d(48)、d(56)〜d(62)となる。以上が、詳細フィルタの分類についての説明である。
【0063】
浮遊錯視生成部102cは、錯視により浮遊させたい浮遊方向に対して所定の方位性(定めるところの特定の方位性)をもつ詳細フィルタに対応するサブバンド信号を減衰または増幅させる浮遊錯視生成手段である。
【0064】
本実施の形態において、浮遊錯視生成部102cは、一例として、複数の詳細フィルタのうち、錯視により浮遊させたい浮遊方向に直交する方位性をもつ詳細フィルタに対応するサブバンド信号を減衰させることにより、浮遊錯視を発生させる再構成画像データを生成してもよい。すなわち、浮遊錯視生成部102cは、上記分類の「(1)直交軸と同方向の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号を減衰させてもよい。例えば、図5において、錯視により縦方向(図5の上下方向)に浮遊させたい場合、浮遊錯視生成部102cは、d(15)、d(23)、d(31)、d(39)、d(47)、d(55)、d(63)のサブバンド信号を減衰させる。より具体的には、浮遊錯視生成部102cは、bk,15、bk,23、bk,31、bk,39、bk,47、bk,55、bk,63の係数を0以上1未満の数値に設定する(図6参照)。なお、原画像データから分解部102aにより生成されたサブバンド信号について、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号と、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」に対応するサブバンド信号との間で、信号強度の偏りが少なかった場合、この方法による浮遊錯視生成部102cの信号減衰では発生する浮遊錯視が弱いことがあるが、更に、以下の方法1または2でサブバンド信号を減衰または増幅させることで、信号強度の偏りを増幅させ浮遊錯視を増強させることができる。
【0065】
(方法1:2群のうち一方の群のサブバンド信号減衰)
方法1では、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群と、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群との2群のうち、一方の群に属する詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰させる。すなわち、浮遊錯視生成部102cは、複数の詳細フィルタのうち、浮遊方向の直交軸に対して水平または垂直でなく、かつ、直交軸に対して負の角度の方位性を持つ詳細フィルタのなす群と、直交軸に対して正の角度の方位性を持つ詳細フィルタのなす群との2群のうち、一方の群に属する詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を更に減衰させてもよい。より具体的には、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ
詳細フィルタ」のなす群を「一方の群」とする場合、浮遊錯視生成部102cは、当該一方の群に対応するbk,9〜bk,14、bk,17〜bk,22、bk,25〜bk,30、bk,33〜bk,38、bk,41〜bk,46、bk,49〜bk,54のうち少なくとも一つの係数を0以上1未満の数値に設定する。
【0066】
減衰させるサブバンド信号の範囲をより限定すると、一方の群に属する詳細フィルタのうち、直交軸に対する角度の絶対値が0度より大きく45度以内の傾きの方位性をもつ詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰させてもよい。より具体的には、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群を「一方の群」とした場合、浮遊錯視生成部102cは、bk,14、bk,21、bk,22、bk,28〜bk,30、bk,35〜bk,38、bk,42〜bk,46、bk,49〜bk,54のうち少なくとも一つの係数を0以上1未満の数値に設定する。
【0067】
更に減衰させるサブバンド信号の範囲を限定すると、直交軸に対する角度の絶対値が0度より大きく45度以内の傾きの方位性をもつ詳細フィルタのうち、当該0度に近づくほど高次数までの、当該45度に近づくほど低次数までの、詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰させてもよい。より具体的には、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群を「一方の群」とした場合、浮遊錯視生成部102cは、bk,14、bk,21、bk,22、bk,28〜bk,30、bk,36〜bk,38、bk,45、bk,46、bk,54のうち少なくとも一つの係数を0以上1未満の数値に設定する。ここで、上述のように、一方の群に属する詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を減衰させる場合は、浮遊方向と直交する方位性をもつ詳細フィルタに対応するサブバンド信号の必ずしも全てを減衰させなくともよい。
【0068】
(方法2:2群のうち他方の群のサブバンド信号増幅)
方法2では、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群と、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群との2群のうち、他方の群(方法1の一方の群とは異なる群)に属する詳細フィルタの少なくとも一つに対応するサブバンド信号を増幅させる。例えば、浮遊錯視生成部102cは、2群のうち他方の群に属し、当該浮遊方向の直交軸に対し45度の傾きの方位性をもつ詳細フィルタに対応するサブバンド信号を増幅させる。より具体的には、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群を「他方の群」とした場合、浮遊錯視生成部102cは、d(64)、d(71)、d(78)、d(85)、d(92)、d(99)の詳細フィルタに対応するサブバンド信号を増幅させるために、bk,64、bk,71、bk,78、bk,85、bk,92、bk,99の係数を1より大きな数値に設定する。
【0069】
以上が、浮遊錯視生成部102cにより減衰または増幅されるサブバンド信号のパターンの例である。なお、上述した図5を参照した記号(番号)と係数の例では、縦方向を浮遊方向とする例について説明したが、横方向に浮遊させたい場合は、45°の軸を中心に反転させたパターンの詳細フィルタのサブバンド信号を同様に減衰または増幅させればよい(例は後述する)。また、上述の例では、「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群を「一方の群」とし、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群を「他方の群」とした例について説明したが、両群を入れ替えて、左右反転させたパターンの詳細フィルタのサブバンド信号を同様に減衰または増幅させてもよい。このとき、浮遊方向は同軸だが逆向きになる。このことを利用して、隣接する2つの画像領域において、それぞれが互いに逆向きの方向に浮遊するように、浮遊錯視を強調させることができる。
【0070】
すなわち、浮遊錯視生成部102cは、サブバンド信号を減衰または増幅させる詳細フィルタの方位性が、再構成画像データの互いに隣接する画像領域において、浮遊方向が互いに逆方向になるように制御してもよい。換言すると、「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」と「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」との間には、互いに角度の絶対値が同一の詳細フィルタが存在するので、隣接する2つの画像領域間において、減衰・増幅させる対象の詳細フィルタの方位性の角度を正負入れ替えればよい。例えば、一方の画像領域において、上述の例のごとく、d(64)、d(71)、d(78)、d(85)、d(92)、d(99)のサブバンド信号を増幅させる場合、浮遊錯視生成部102cは、これと隣接する他方の画像領域において、d(14)、d(21)、d(28)、d(35)、d(42)、d(49)の詳細フィルタに対応するサブバンド信号を増幅させる。なお、浮遊錯視生成部102cは、原画像データを2以上の画像領域に分割してからそれぞれに対して上記該当のサブバンド信号を増幅または減衰させてもよく、また、同一または別々の2以上の原画像データについてそれぞれに対して上記該当のサブバンド信号を増幅または減衰させてから画像を結合させてもよい。
【0071】
再び図1に戻り、色空間変換部102dは、色空間の変換や色成分の分解・合成等を行う色空間変換手段である。例えば、色空間変換部102dは、画像データファイル106bに記憶された画像データがカラー画像の場合、分解部102aによる処理を行う前に、CIELAB色空間に変換する。これにより、画像は、L(輝度)、a(赤−緑)、b(黄−青)の三つの色成分に分解される。なお、色空間変換部102dは、CIELAB色空間以外の他の色空間に変換してもよい。CIELAB色空間を使用する利点は、輝度情報のみを分解部102aの入力信号とすることができる点である。なお、画像データがグレースケールの場合は、色空間変換部102dは、色空間に関する処理は行わなくてよい。
【0072】
また、錯視画像出力部102eは、浮遊錯視生成部102cによりサブバンド信号の減衰または増幅を行いながら再構成部102bにより再構成された再構成画像データを、必要ならば色空間変換部102dで色成分の合成や、色空間の変換、輝度・色のスケール変換等を行ってから、出力装置114に出力する。例えば、錯視画像出力部102eは、モニタ等の表示装置に再構成画像を表示出力してもよく、プリンタ等の印刷装置に再構成画像を印刷出力して印刷媒体を製造してもよい。印刷対象の媒体としては、例えば、紙、OHPシート等であってもよく、例えば、チラシやうちわ、カード、絵本、年賀状、クリスマスカード、名刺等の形態であってもよい。なお、出力する形態に応じて、錯視画像出力部102eは、用途に応じたデザイン変更(例えば、はがきサイズ等に変更)を行ってもよい。また、錯視画像出力部102eは、再構成画像データをネットワーク300を介して外部システム200に送信してもよい。
【0073】
すなわち、この錯視画像生成装置100は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、ネットワーク300に通信可能に接続されてもよい。図1において、通信制御インターフェース部104は、錯視画像生成装置100とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信制御を行う。すなわち、通信制御インターフェース部104は、通信回線等に接続されるルータ等の通信装置(図示せず)に接続されるインターフェースであり、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。図1において、ネットワーク300は、錯視画像生成装置100と外部システム200とを相互に接続する機能を有し、例えば、インターネット等である。
【0074】
図1において、外部システム200は、ネットワーク300を介して、錯視画像生成装置100と相互に接続され、画像データやかざぐるまフレームレットに関する外部データベースや、コンピュータを錯視画像生成装置として機能させるためのプログラムを提供す
る機能を備えてもよい。ここで、外部システム200は、WEBサーバやASPサーバ等として構成していてもよい。また、外部システム200のハードウェア構成は、一般に市販されるワークステーション、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置およびその付属装置により構成していてもよい。また、外部システム200の各機能は、外部システム200のハードウェア構成中のCPU、ディスク装置、メモリ装置、入力装置、出力装置、通信制御装置等およびそれらを制御するプログラム等により実現される。
【0075】
以上で、本実施の形態における錯視画像生成装置100の構成の説明を終える。
【0076】
[錯視画像生成装置100の処理]
次に、このように構成された本実施の形態における本錯視画像生成装置100の処理の一例について、以下に図7〜図53を参照して詳細に説明する。
【0077】
[基本処理]
まず、錯視画像生成装置100の基本処理について図7および図8を参照して説明する。図7は、本実施の形態における錯視画像生成装置100の基本処理の一例を示すフローチャートである。
【0078】
まず、分解部102aは、画像データファイル106bに記憶された画像データに対して、フレームレットファイル106aに記憶されたかざぐるまフレームレットによる最大重複多重解像度分解を行い、サブバンド信号を取得する(ステップSA−1)。ここで、図8は、最大重複多重解像度分解の分解フェーズおよび合成フェーズのフィルタ・バンクの一例を示す図である。図中の数字は、レベルを表している。PWは、詳細フィルタであり、次数7の場合、各レベルに99枚存在する。Aは、近似フィルタであり、同じく次数7の場合、各レベルに1枚存在する。
【0079】
図8に示すように、まず、分解部102aは、レベル1のかざぐるまフレームレットを用いて、原画像を入力信号として、99枚の詳細フィルタを通過する信号と、1枚の近似フィルタを通過する信号に分解する。次に、分解部102aは、レベル1の近似フィルタを通過した信号を、レベル2のかざぐるまフレームレットを用いて、99枚の(レベル2の)詳細フィルタを通過する信号と、1枚の(レベル2の)近似フィルタを通過する信号に分解する。分解部102aは、この処理を、最大レベル(図示の場合、レベル5)まで繰り返し行う。そして、分解部102aは、分解フェーズで得られた信号を合成フェーズのフィルタ・バンクにかけ、最終的に、99×5のサブバンド信号(詳細部分)と、1のサブバンド信号(近似部分)を取得する。
【0080】
再び図7に戻り、再構成部102bは、以上のように分解部102aにより取得されたサブバンド信号を単純に足し合わせて完全再構成とするのではなく、浮遊錯視生成部102cの処理により、特定パターンの詳細フィルタからのサブバンド信号を減衰または増幅させることで、再構成画像データ上で浮遊錯視を発生させる(ステップSA−2)。本実施の形態においては、図8に示すように、浮遊錯視生成部102cは、分解部102aにより出力されたサブバンド信号に対し係数をかけることで、サブバンド情報の処理を行う。なお、サブバンド信号を減衰または増幅させる詳細フィルタのパターンの具体例については、次項で詳述する。
【0081】
そして、再構成部102bは、以上のように浮遊錯視生成部102cにより処理されたサブバンド信号を足し合わせることにより、画像を再構成する(ステップSA−3)。
【0082】
これにて、錯視画像生成装置100の基本処理が終了する。
【0083】
[具体化処理]
次に、錯視画像生成装置100の基本処理を更に具体化した処理の詳細について図9〜図47を参照して説明する。図9は、本実施の形態における錯視画像生成装置100の具体化処理の一例を示すフローチャートである。この具体化処理においては、上記の基本処理の具体例に加えて、カラー画像に対して必要な色空間の変換処理および色成分の分解・合成処理、再構成データに対して用途に応じたデザインの加工処理、ならびに、完成品とするための印刷処理等について説明する。
【0084】
(ステップSB−1)
まず、利用者は、錯視により浮遊させたい原画像(文字列、イラスト、写真等)を準備し、入力装置112等を介して画像データファイル106bに記憶させる。
【0085】
錯視画像生成装置100は、記憶された画像データがカラー画像の場合、色空間変換部102dの処理により、CIELAB色空間に変換する。これにより、画像は、L(輝度)、a(赤−緑)、b(黄−青)の三つの色成分に分解される。なお、画像データがグレースケールの場合は、色空間変換部102dは、色空間に関する処理を行わない。
【0086】
(ステップSB−2)
そして、分解部102aは、原画像の各色成分(グレースケールの場合一色)を入力信号として、かざぐるまフレームレットによる最大重複多重解像度分解を行う。ここでは、次数7のかざぐるまフレームレットを用いて説明するが、他の次数や、他の方位選択性のあるウェーブレット・フレームを用いても、同様の画像処理を行うことができる。他の例として、単純かざぐるまフレームレット(simple pinwheel framelet)を用いてもよい(非特許文献2参照)。また、かざぐるまウェーブレット・フレーム(pinwheel wavelet frame)を用いることも可能である(非特許文献3参照)。また、最大重複多重分解度分解に限らず、最大間引き多重解像度分解、または、一部間引き一部重複多重解像度分解などの多重分解度分解を行ってもよい。
【0087】
(ステップSB−3)
そして、再構成部102bは、分解部102aによる最大重複多重解像度分解で得られたサブバンド信号をすべて足し合わせるのではなく、浮遊錯視生成部102cの処理により、あるサブバンド信号は削除し、あるサブバンド信号はそのまま加え、そしてあるサブバンド信号は増幅して加えるという加工を行う。この加工方法によって原画像を処理した画像を配列することにより浮遊錯視画像が得られる。以下では加工方法の例をいくつかのケースに分けて説明する。以下の例では、浮遊錯視生成部102cが、図6に示した係数bk,nを設定することにより、サブバンド信号を増減させる。なお、近似部分の係数aには操作を加えない(a=A=1)。
【0088】
(I)グレースケールの文字列で、横に動かすと縦に揺れる錯視を作る加工方法
例えば、図10に示すように、「科学技術振興機構」という文字列を加工して、横に動かすと縦に揺れる錯視画像を作成したい場合の加工方法について説明する。なお他の文字列でも同様に作成可能である。本例では、この図10の画像を、互いに逆向きの浮遊方向を持つように加工方法I−1とI−2で処理することにより、サブバンド信号を増幅または減衰させてから、画像を結合させることによって、隣接する2つの画像領域において同軸逆向きに浮遊させ浮遊錯視を強調させる。図11は、加工方法I−1の加工表を示す図である。なお、図6の係数の位置と以下に示す加工表の数値の位置は対応している。
【0089】
加工表の数値0,1,2について、0は対応するサブバンド信号を0倍、すなわち削除するということであり、1は対応するサブバンド信号を1倍、すなわち加工は加えない、そして2は対応するサブバンド信号を2倍に増幅するという意味である。たとえば、レベ
ルkの詳細部分d(1)の係数bk,1の位置にある加工表の数値は1であるから、何も変更は加えない。またbk,9に対応する位置にある加工表の数値は0であるから、d(9)は削除する。bk,64に対応する位置にある加工表の数値は2であるからd(64)は2倍する。
【0090】
浮遊錯視生成部102cが図11に示す加工方法I−1の加工表の数値を係数値として設定することにより、再構成部102bは、浮遊錯視を発生させる再構成画像yを取得する。図12は、加工方法I−1により得られた再構成画像yを示す図である。なお、この再構成画像y単体でも、横に動かすと縦に揺れる錯視画像となっている。ここで、図13は、加工方法I−2の加工表を示す図である。
【0091】
図13に示すように、加工方法I−2の加工表のパターンは、加工方法I−1の加工表のパターンに対して、対象とする詳細フィルタの方位性が、縦方向の軸に対称となるように設定される。すなわち、サブバンド信号を減衰・増幅させる対象の詳細フィルタの方位性の角度が正負入れ替わるように設定している。図14は、加工方法I−2により得られた再構成画像yを示す図である。この再構成画像y単体でも、横に動かすと縦に揺れるが、図12の再構成画像yとは同軸逆向きに浮遊する。
【0092】
その性質を利用して、再構成部102bは、図12の再構成画像を奇数行に図14の再構成画像を偶数行に並べて、図15に示すように、浮遊錯視を強調した錯視画像を作成する。すなわち、隣接する画像領域の文字列が互いに反対方向に揺れるので、錯視が強調された画像を得ることができる。なお、上記の例では、レベル5まで処理をおこなったが、浮遊錯視に適切なレベル数は画像の大きさ等により変わる。少ないレベル数までの処理の方が、原画像からあまり離れないが、少なすぎると錯視量が小さくなる。
【0093】
(II)グレースケールの文字列で、縦に動かすと横に揺れる錯視を作る加工方法
上述の(I)では、横に動かすと縦に揺れる錯視を作る加工方法について説明したが、つぎに、縦に動かすと横に揺れる錯視の加工方法について説明する。本例でも、図10の画像を、それぞれ、加工方法II−1とII−2で処理することにより、サブバンド信号を増幅または減衰させてから、画像を結合させることによって、隣接する2つの画像領域において同軸逆向きに浮遊させ浮遊錯視を強調させる。図16は、加工方法II−1の加工表を示す図である。
【0094】
浮遊錯視生成部102cが図16に示す加工方法II−1の加工表の数値を係数値として設定することにより、再構成部102bは、浮遊錯視を発生させる再構成画像yを取得する。図17は、加工方法II−1により得られた再構成画像yを示す図である。なお、この再構成画像y単体でも、縦に動かすと横に揺れる錯視画像となっている。ここで、図18は、加工方法II−2の加工表を示す図である。
【0095】
図18に示すように、加工方法II−2の加工表のパターンは、加工方法II−1の加工表のパターンに対して、対象とする詳細フィルタの方位性が、軸に対称となるように設定される。すなわち、サブバンド信号を減衰・増幅させる対象の詳細フィルタの方位性の角度が正負入れ替わるように設定される。図19は、加工方法II−2により得られた再構成画像yを示す図である。この再構成画像y単体でも、縦に動かすと横に揺れるが、図17の再構成画像yとは同軸逆向きに浮遊する。
【0096】
その性質を利用して、再構成部102bは、図17の再構成画像を奇数行に図19の再構成画像を偶数行に並べて、図20に示すように、浮遊錯視を強調した錯視画像を作成する。すなわち、隣接する画像領域の文字列が互いに反対方向に揺れるので、錯視が強調された画像を得ることができる。
【0097】
以上が、グレースケールの文字列の加工例(I)および(II)についての説明である。なお、グレースケールの場合、輝度は0から255の256階調であるが、処理後の輝度の数値が0から255の範囲を超えている場合がある。この場合、錯視画像出力部102eによる二種類の表示方法が考えられる。一つは、全体をスケールして0と255の範囲内に数値を収める方法(正規化の方法)である。上の文字列の場合はこの方法で表示している。もう一つの方法は、0以下の数値は0とし、255以上の数値は255に置き換えるというものである(閾値を用いた方法)。
【0098】
(III)カラー画像の場合で、縦に動かすと横に揺れる錯視を作る加工方法
カラー画像の場合で、縦に動かすと横に揺れる錯視を作る加工方法について説明する。カラー画像の場合、まず、色空間変換部102dが、原画像を色空間CIELABに変換し、L(輝度)、a(赤−緑)、b(黄−青)の成分に分解し、処理対象とする。なお、L(輝度)のみ加工する、L、a、bをすべて加工するなど、用途によって処理対象を選んでもよい。
【0099】
例えば、L、a、bの全てに処理を加える場合と、Lのみに処理を加える場合では、前者の方が錯視量は増えるが、後者に比べ画像がより原画像から離れる。原画像に近い画質を重視するか、錯視量の増大を重視するかにより処理する方法を選ぶことができる。また、実際に錯視画像出力部102eにより表示出力あるいは印刷出力する前には、色空間変換部102dは、処理した各色成分の画像信号を合成し、カラー画像に戻す(ステップSB−4)。なお、必要に応じて色空間sRGB等への変換を行ってもよい。
【0100】
ここでは、一例として、図21のカラーイラストの原画像から浮遊錯視を作る方法について説明する。なお、他の画像(カラー写真等)でも同様に作成可能である。上述した文字列の浮遊錯視のときと同様に、浮遊錯視生成部102cは、互いに反対向きに浮遊する錯視となるような二種類の加工方法II−1およびII−2を行う。図22は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法II−1で加工した再構成画像を示す図である。また、図23は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法II−2で加工した再構成画像を示す図である。なお、この例では、最大レベルは6で、L(輝度)にのみ加工処理を施した。錯視画像出力部102eによる表示方法は、上述した閾値を用いた方法にしたがった。
【0101】
(VI)カラー画像の場合で、横に動かすと縦に揺れる錯視を作る加工方法
同様に、図21のカラー画像から、横に動かすと縦に揺れる錯視を作る加工方法について説明する。上述した文字列の浮遊錯視のときと同様に、浮遊錯視生成部102cは、互いに反対向きに浮遊する錯視となるような二種類の加工方法I−1およびI−2を行う。図24は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法I−1で加工した再構成画像を示す図である。また、図25は、図21の原画像から得たサブバンド信号に加工方法I−2で加工した再構成画像を示す図である。なお、この例でも、最大レベルは6で、L(輝度)にのみ加工処理を施した。
【0102】
(V)加工表の他のバリエーション
上述した加工方法とは異なる他の加工方法および加工表の例について説明する。図26および図27は、縦に動かすと互いに反対方向の横に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−1−1およびV−1−2による加工表を示す図である。また、図28および図29は、横に動かすと互いに反対方向の縦に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−2−1およびV−2−2による加工表を示す図である。M〜Mは1以上の実数であり、好適には2程度が適切である。この例では、上記「(3)直交軸に対し正の角度の方位性をもつ詳細フィルタ」のなす群と、上記「(4)直交軸に対し負の角度の方位性をもつ詳細フィル
タ」のなす群との2群のうち一方の群に属する詳細フィルタにおいて、浮遊方向の直交軸に対し、0度より大きく45度以内の傾きの方位性をもつ詳細フィルタであって、当該0度に近づくほど高次数までの、当該45度に近づくほど低次数までの、詳細フィルタに対応するサブバンド信号が削除される。
【0103】
これらの加工方法V−1およびV−2は、錯視効果が比較的弱いが原画像により近い画像が再現できる。なお、加工方法V−2−1および加工方法V−2−2において、M=・・・=M=1の場合とすると、文字列傾斜錯視の原画像から錯視成分を除去した再構成画像を作成することができる。
【0104】
一方、錯視量が増えるが再構成画像は原画像から比較的離れる加工方法および加工表の例について図30〜図33を参照して説明する。図30および図31は、縦に動かすと互いに反対方向の横に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−3−1およびV−3−2による加工表を示す図である。また、図32および図33は、横に動かすと互いに反対方向の縦に揺れる錯視画像を作成する加工方法V−4−1およびV−4−2による加工表を示す図である。この例では、上記(3)および(4)の2群のうち一方の群に属する方位性をもつ詳細フィルタ全てに対応するサブバンド信号が削除されている。なお、M=・・・=M=2とすると、加工方法IおよびIIの加工表と同じになる。
【0105】
錯視が強くなるが原画像から離れる加工表の他の例について図34および図35を用いて説明する。図34および図35は、縦に動かすと横に揺れ、かつ、横に動かすと縦に揺れる、浮遊錯視画像を作成する加工方法V−5−1およびV−5−2による加工表を示す図である。図34および図35に示すように、この例では、浮遊方向を縦方向と横方向の両方とするために、縦方向の方位性をもつ詳細フィルタと横方向の方位性をもつ詳細フィルタに対応するサブバンド信号が削除される。なお、加工方法V−1〜5はバリエーションの代表例であり、これらを補間するようなバリエーションの加工表を用いてもよいものである。
【0106】
ここで、図36は、加工方法Iにより作成された錯視画像を示す図であり、図37は、加工方法V−5により作成された錯視画像を示す図である。図に示すように、図37の錯視画像は、錯視により、縦に動かすと横に揺れ、横に動かすと縦に揺れる。しかしながら、文字の形状は、加工方法Iによる図36に比べて原画像から離れている。
【0107】
(VI)斜め方向に浮遊する錯視を作る加工方法
上述した例においては、上下(縦)に動かすと左右(横)に揺れる錯視、または、左右(横)に動かすと上下(縦)に揺れる錯視を作成する加工表を用いたが、斜め方向(例えば、θ=+45°)に動かすと、それと直交する斜め方向(例えば、θ=−45°)に揺れる錯視を作る例について説明する。ここで、図45および図46は、斜め方向に動かすと、それと直交し且つ互いに反対向きの斜め方向に揺れる錯視を作る画像を作成する加工方法VI−1およびVI−2による加工表を示す図である。
【0108】
図45および図46に示すように、加工方法VI−1およびVI−2による加工表は、図34および図35に示した加工方法V−5−1およびV−5−2による加工表(M=・・・=M=2)を、時計回りに45度回転させたものである。すなわち、サブバンド信号を減衰・増幅させる対象の詳細フィルタの方位性を45度ずらしている。
【0109】
ここで、図47は、隣接する画像領域のカラーイラストが互いに反対方向に揺れるように加工方法VI−1およびVI−2により作成された錯視画像を示す図である。図47に示すように、この錯視画像は、斜めに動かすと、その方向と垂直な方向に浮遊してみえる。このように、上述した加工表において、サブバンド信号を減衰・増幅させる対象の詳細
フィルタの方位性を任意の角度ずらすことで、浮遊させる方向を変更することができる。また,このことを利用して、隣接する画像領域において、それぞれが互いに反対方向以外の異なる方向に浮遊するように、浮遊錯視を強調させることもできる。
【0110】
(ステップSB−5)
文字列及びカラーイラストを例として上述したように、隣接した画像領域において、錯視による浮遊方向が反対方向となるように並べることにより浮遊錯視が強調される。例えば、再構成部102bは、浮遊錯視生成部102cにより、方位性の角度が正負入れ替わる加工表を用いて作成した2枚の再構成画像を奇数行と偶数行に交互に並べて結合させる(図38参照)。なお、配列方法は、これに限られず様々なバリエーションが考えられ、例えば、奇数行と偶数行の画像が片方を1/2シフトさせて配列してもよい(図39および図40参照)。また、隣接した画像領域において、錯視による浮遊方向が反対方向とは限らない互いに異なる方向となるように並べることにより浮遊錯視を強調してもよい。
【0111】
また、並列に配列することに限らず、円形に配列してもよい。まず、錯視を強調するために、図41に示すように、縦に動かすと横に逆方向に揺れるものを上下に並べる。この例では、図形を上下段で1/2横にずらしているが、デザイン上の理由であり、必須ではない。そして、図41を同心円状に適当な数並べると、図42に示すように、近づいたり離れたりすると円配列が交互に回転しているように見える錯視図形を作成することができる。なお、図の例では、中心に向かって、図41を対数のオーダーで縮めた。また、円形に配列するために極座標変換を利用した。
【0112】
なお、横に動かすと縦に揺れる浮遊錯視画像(図43)を円形に並べると、図44に示すように回転させると膨張したり縮小したりする錯視画像を作成することができる。
【0113】
以上で、錯視画像生成装置100の具体化処理の説明を終える。
【0114】
[高速計算方法の例]
図9を参照して上述した具体化処理の例では、画像を入力する毎にステップSB−2およびSB−3の処理を計算するため、多くのフィルタリング計算をしなければならず比較的時間を要する。本例では、このフィルタリング計算時間を短縮させる高速計算方法の例について説明する。
【0115】
まず、制御部102(分解部102aおよび再構成部102b等)は、画像信号の代わりに、上記画像信号と同一画像サイズ(画素数)の単位インパルス信号を、用いるフィルタ・バンク(例えば、図8に上述したフィルタ・バンク)に入力し、出力された信号Fを、フレームレットファイル106a等の記憶部106に予め格納しておく。例えば、単位インパルス信号は、画像信号のうち、左上端の値が1で、残り全てが0の信号である。
【0116】
そして、浮遊錯視を作成する際、制御部102は、図9を参照して説明したステップSB−1の処理がなされた画像xに対して、Fとの循環畳み込み積x*F(巡回畳み込み積ともいう)を計算する(循環畳み込み積について、例えば、新井仁之著「フーリエ解析学」朝倉書店(2003年)参照)。ここで、計算されたx*Fは、図9を参照して上述した具体化処理にて計算されるような再構成画像yと同じものになる。
【0117】
このように、予め計算しておいたインパルス応答と原画像との畳み込み積を計算する高速計算方法を用いることで、同一画像サイズ(画素数)で同一加工方法による浮遊錯視画像を、複数の原画像について作成する場合において、大幅に時間と計算量を節約することができる。より具体的には、図9を参照して説明した具体化処理の例では、一原画像あたり浮遊錯視を作成するために25秒かかっていたところ、本高速計算方法を用いれば、予
めインパルス応答Fを計算しておくことによって(Fの算出には23秒かかるが)、一原画像あたり2秒で浮遊錯視を作成することができる。
【0118】
[輝度・色のスケール変換]
図9を参照して上述した具体化処理の例では、ステップSB−1において、画像データがカラー画像の場合、色空間変換部102dの処理により、CIELAB色空間に変換し、L(輝度)を加工対象とする例について説明した。そして、ステップSB−4において、処理後の輝度の数値が0から255の範囲を超えている場合に、0以下の数値は0とし、255以上の数値は255に置き換えるという閾値を用いた方法を採用する例について主に説明した。本例では、輝度および色のスケールを適切に変換することで、画像によっては錯視量を増やし,あるいは画像を見やすくすることができる、輝度・色のスケール変換の方法について説明する。ここで、図48は、本例によって改良された具体化処理のフローチャートを示す図である。なお、本例では、ステップSB−1において、CIELAB色空間に変換したL、a、bをすべて加工対象とする。
【0119】
図48に示すように、本例では、ステップSB−4において、輝度・色のスケール変換の処理が付加される。ここで、色空間変換部102dにより実行される、輝度・色のスケール変換の処理は、次のようなものである。
【0120】
すなわち、制御部102は、上述のようにL、a、bをすべて加工対象としてステップSB−2およびSB−3の処理(高速計算方法を用いてもよい)を実行する。このとき、原画像では、たとえばLの値は0以上100以下になっているが、処理後の画像は必ずしも0と100の間には収まらず、そのままでは0以上100以下でない値は表示できない。
【0121】
本例では、ステップSB−4において、色空間変換部102dは、閾値を用いた方法を採るのではなく、以下のスケール変換を行う。すなわち、0<A<B<100をみたすA,Bを予め設定しておき、色空間変換部102dは、処理後の値が、A以下の場合はAに、B以上の場合はBに置き換え、A以上かつB以下の範囲の場合は、値を引き延ばして0以上100以下になるように変換を行う。たとえば変換の方法として、以下の線形式を用いてもよい。
【数1】

【0122】
なお、上記においては、Lの値についてスケール変換を行ったが、a,bの値についても同様にスケール変換を行ってもよい。ここで、図49は、上述した具体化処理において閾値を用いた方法によりスケール変換した結果を示す図である。また、図50は、本例においてA=15、B=85としてスケール変換をした結果を示す図である。
【0123】
図49に比べて本例による図50の方が、錯視量が多く、かつ画像も鮮明になっていることがわかる。ここで、輝度値のヒストグラムを比較して説明する。図51は、具体化処理のステップSB−3の処理後であってステップSB−4の処理前の画像のLのヒストグラムである。また、図52は、ステップSB−3の処理後の画像を、単純に閾値を用いてスケール変換した画像のLのヒストグラムである。また、図53は、ステップSB−3の処理後の画像を、本例においてA=15、B=85としてスケール変換をした画像のLのヒストグラムである。
【0124】
図51に示すように、スケール変換処理前の画像では、100を超えたところにも値が
ある。これを閾値で単純なスケール変換する場合(図52)に比べて、本例でスケール変換すると(図53)、輝度のピークが高い方にあるため、全体に明るい画像になる。また、本例によれば、分布の広がりが大きくなっているので、グラデーションも明確になっており、かつ、錯視量も増えている。このように、本例の方法でスケール変換すると、画像によって、画像が見やすくなったり、錯視量が増えたりする効果が発生する。なお、スケール変換の方法は、各画像にそれぞれ適したものがあるので、画像に合わせてAおよびBの値を任意に選ぶことができる。
【0125】
[かざぐるまフレームレット]
本実施の形態で、例として用いているかざぐるまフレームレットは、上述したように公知の単純かざぐるまフレームレットあるいはかざぐるまウェーブレット・フレームなどの方位選択性ウェーブレット・フレーム、或いは方位選択性をもつフィルタ・バンクでもよい。ここで、かざぐるまフレームレットについて以下に説明する。
【0126】
次数をn≧3,奇数として、A=(Ak,l):(n+1)×(n+1)対称行列で、s=0,1・・・,[n/2],t=s,・・・,[n/2]に対して、As,t=An−s,t=As,n−t=An−s,n−t=sを満たす行列をみつける。ただし[]はガウス記号を表す。
【0127】
n=7の場合、条件を満たす行列は以下である。
【数2】

【0128】
B=(Bk,l):(n+1)×(n+1)行列とすると、以下の条件(P)を満たす行列である。
【数3】

【数4】

【0129】
【数5】

【数6】

ここで、Mは、方形格子、五の目格子、あるいは六角格子のサンプリング行列である。
【0130】
【数7】

【数8】

【数9】

【0131】
補題2(H.&S.Arai,2008) Pが方形格子,五の目格子,六角格子に関するフレームレット・フィルタであるための必要十分条件は、B=(Bk,l)が以下の条件をみたすことである。
【数10】

【0132】
<上記条件を満たすB=(Bk,l)の求め方>
{(k,l):k=0,1,・・・,n,l=s,・・・,n,}を次のように順序付ける。
【数11】

【0133】
μ=(k,l),ν=(k´,l´)
【数12】

【数13】

【数14】

【0134】
定理3(H.&S.Arai,2008)以上で得たB=(Bk,l)は補題2を満たす。したがって、Pは方形格子,五の目格子,六角格子に関するフレームレット・フィルタになっている。Pを、次数nのかざぐるまフレームレット(pinwheel framelet of degree n)とよぶ。図54は、レベル2における最大重複かざぐるまフレームレットフィルタ(maximal overlap pinwheel framelet filters at level 2)にレベル1の近似フィルタを循環相関積して得たフィルタを示す図である。また、図55は、テスト画像に対し、かざぐるまフレームレットによりレベル2の最大重複多重解像度分解(2nd stage of maximal overlap MRA decomposition
by pinwheel framelet)を行った結果の各サブバンド信号を示す図である。
【0135】
以上で、本実施の形態の説明を終える。このように、本実施の形態によれば、任意の原画像から錯視画像を生成することができる、錯視画像生成装置、錯視画像生成方法、印刷媒体製造方法、プログラム、および、記録媒体、並びに、錯視画像を表示する媒体、および、当該錯視画像を再生するための画像データを提供することができる。より具体的には、本発明により、例えば、社名や製品名等の文字や図形等を浮遊錯視化したものを、チラシやうちわ、カード等に印刷して配布すれば、企業等による宣伝効果を挙げることができ、広告産業等の分野で有用である。また、絵本等の娯楽品として提供することもでき、年賀状やクリスマスカード、名刺などで、あいさつの言葉や名前等を浮遊させて楽しむことができ、玩具や印刷関連等の分野において極めて有用である。また、スマートフォン等の
携帯電話やタッチパネル式のパーソナルコンピュータ等において、利用者が、好きな画像や文字列を、取り込んだり画面上に書いたりすると、それを浮遊錯視に変換したり、浮遊錯視画像を印刷することができるアプリケーションとして提供できるので、ソフトウェア関連分野等において極めて有用である。また、浮遊錯視画像をスクリーン、ディスプレーに表示することで、歩行者がその画像が浮遊するよう視認することもできる。
【0136】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0137】
例えば、錯視画像生成装置100がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、錯視画像生成装置100は、クライアント端末(錯視画像生成装置100とは別筐体)からの要求に応じて処理を行い、その処理結果を当該クライアント端末に返却するようにしてもよい。例えば、錯視画像生成装置100は、ASPサーバとして構成され、ユーザ端末からネットワーク300を介して送信された原画像データを受信し、この原画像データに基づいて加工した浮遊錯視画像の再構成画像データを、ユーザ端末に返信してもよい。
【0138】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0139】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0140】
また、錯視画像生成装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0141】
例えば、錯視画像生成装置100の各装置が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。なお、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じて錯視画像生成装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDDなどの記憶部106などには、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0142】
また、このコンピュータプログラムは、錯視画像生成装置100に対して任意のネットワーク300を介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0143】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0144】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0145】
記憶部106に格納される各種のデータベース等(フレームレットファイル106a〜画像データファイル106b)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、および、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0146】
また、錯視画像生成装置100は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、錯視画像生成装置100は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0147】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0148】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、任意の原画像から錯視画像を生成することができる、錯視画像生成装置、錯視画像生成方法、および、プログラム、並びに、記録媒体を提供することができる。より具体的には、本発明により、例えば、社名や製品名等の文字や図形等を浮遊錯視化したものを、チラシやうちわ、カード等に印刷して配布すれば、企業等による宣伝効果を挙げることができ、広告産業等の分野で有用である。また、絵本等の娯楽品として提供することもでき、年賀状やクリスマスカード、名刺などで、あいさつの言葉や名前等を浮遊させて楽しむことができ、玩具や印刷関連等の分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0149】
100 錯視画像生成装置
102 制御部
102a 分解部
102b 再構成部
102c 浮遊錯視生成部
102d 色空間変換部
102e 錯視画像出力部
104 通信制御インターフェース部
106 記憶部
106a フレームレットファイル
106b 画像データファイル
108 入出力制御インターフェース部
112 入力装置
114 出力装置
200 外部システム
300 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錯視画像を表示する媒体であって、
上記錯視画像は、
原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分、または、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、
所定の上記成分が、減衰または増幅されていること
を特徴とする媒体。
【請求項2】
錯視画像を表示するための画像データであって、
上記錯視画像は、
原画像を構成する、各方位性のあるフィルタによって抽出された成分、または、各方位性のあるウェーブレット成分その他の各方位性のある成分のうち、
所定の上記成分が、減衰または増幅されていること
を特徴とする画像データ。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図16】
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【図18】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図45】
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【図46】
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【図48】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図47】
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【図49】
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【図50】
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【図54】
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【図55】
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【公開番号】特開2012−198923(P2012−198923A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131317(P2012−131317)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【分割の表示】特願2012−503822(P2012−503822)の分割
【原出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【公序良俗違反の表示】
特許法第64条第2項第4号の規定により図面の一部または全部を不掲載とする。
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLU−RAY DISC
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】