説明

嫌気硬化性組成物

【課題】
本発明は鋳物や焼結金属の巣埋めに用いられる嫌気硬化性組成物に関するものであり、特定のアクリレートモノマーとバリウムスルフォネートを配合することにより、防錆効果のある嫌気硬化性組成物に関する。
【解決手段】
(a)分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物、(b)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートから選ばれる化合物、(c)有機過酸化物、(d)o−ベンゾイックスルフィミド、(e)バリウムスルフォネート、からなることを特徴とする嫌気硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳物や焼結金属の巣埋めに用いられる嫌気硬化性組成物に関するものであり、特定のアクリレートモノマーとバリウムスルフォネートを配合することにより、防錆効果のある嫌気硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気硬化性組成物は(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主成分としたものであり、空気または酸素と接触している間はゲル化などせずに長期間液状状態で保たれ、空気または酸素が遮断もしくは排除されると急速に重合を開始する性質を有するものである。このような性質を利用して前記組成物はネジ、ボルト等の接着、固定、嵌め合い部品の固着、フランジ面間の接着、シール、鋳造部品に生じる巣孔の充填(巣埋め剤)等に使用されている。
【0003】
前述の巣穴の充填について詳説すると、鋳物または焼結金属などには多数の巣穴が存在しており、このままでは使用に供することができず、このため前記巣穴を巣埋め剤で埋めて使用することが通常行われている。巣埋め剤としては珪酸ソーダ系組成物や前記嫌気硬化性組成物が使用されるが、嫌気硬化性組成物は硬化後の物性が安定しており、巣埋め剤として良好である。巣穴の充填の方法としては、鋳物または焼結金属を低粘度の嫌気硬化性組成物中に浸漬し、真空状態にすることにより巣穴中の空気が排出され、真空状態を解除すると、巣穴中に嫌気硬化性組成物が充填される。この状態で養生することにより、嫌気硬化性組成物は嫌気硬化をし、その結果、巣穴が充填されるものである。これらは特許文献1,特許文献2などに開示されている。また、使用条件が過酷でない部位には巣穴すべてを埋めるまでもなく表面部分のみ埋めればよい場合は、比較的低粘度の嫌気固化性組成物を塗布して、毛細管現象により浸透させたり、真空状態にして充填するなどの方法も使用されている。
【特許文献1】特開平1−75506号公報
【特許文献2】特開平1−188605号公報
【0004】
一方、嫌気硬化性組成物に防錆効果をもたせることにより、充填処理された鋳物や焼結金属に防錆効果を付与させることができると予想される。そのため、嫌気硬化性組成物に単に防錆剤を添加させればよいと考えられるが、前述のとおり、嫌気硬化性組成物は保存中には反応せず、使用時に素早く反応するという相反する性質をバランスで保っているものであるため、一般的な防錆剤を添加すると、保存安定性が低下し、保存中にゲル化したり、沈殿物を生じたりなどの不具合を生じる。また、保存安定性に影響がない程度の少量を添加しても防錆効果を期待することはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、鋳物や焼結金属に生じる巣穴の充填を目的とした嫌気硬化性組成物に防錆効果を持たせることが期待されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述した従来の問題点を克服するものである。すなわち本発明は、(a)分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物、(b)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートから選ばれる化合物、(c)有機過酸化物、(d)o−ベンゾイックスルフィミド、(e)バリウムスルフォネート、からなることを特徴とする嫌気硬化性組成物を提供するものである。
【0007】
本発明に使用される(a)成分は分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物であり、以下に説明されるものである。まず、ラジカル重合性官能基とは、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、プロペニル基などがあげられる。このようなラジカル重合性官能基を1つ有する化合物は一般的にラジカル重合性モノマーと呼ばれ、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等があげられる。なお、(メタ)アクリルとはアクリルとメタクリルを総称したものである。
【0008】
ラジカル重合性官能基を2つ以上有するものとして、比較的低分子の化合物の分子中にラジカル重合性官能基が2つ以上存在するいわゆるラジカル重合性多官能モノマーと、比較的高分子の化合物の両末端などにラジカル重合性官能基を有する、いわゆるラジカル重合性オリゴマーが挙げられる。ラジカル重合性多官能モノマーとしてはエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0009】
ラジカル重合性オリゴマーとしてはビスフェノールなどのグリシジルエーテルのエポキシ基にアクリル酸、メタクリル酸もしくはそれらの多量体を反応させて得られるエポキシ変性(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレートと末端イソシアネート基含有化合物とを反応して得られるウレタン結合含有(メタ)アクリレート、ポリエーテル樹脂の末端に(メタ)アクリロイル基を反応させた化合物、ポリエステルの末端に(メタ)アクリロイル基を反応させた化合物などが挙げられる。
【0010】
これらは単独で用いても良いし嫌気硬化性組成物の粘度の調整、あるいはその硬化物の特性を調整する目的で、複数を混合してもどちらでも良いが、通常、単独で所望の性能を出すことが困難であるためラジカル重合性モノマーとラジカル重合性オリゴマーを混合して使用することが好ましい。
【0011】
本発明に用いられる(b)成分は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートから選ばれる化合物である。(b)成分は(a)成分100部に対して40部以上配合することが望ましい。本発明には(b)成分が必須であり、本成分がないと防錆効果が発揮されない。
【0012】
本発明において用いられる(c)有機過酸化物は、従来より嫌気硬化性組成物にて用いられているもので、特に限定されるものではなく、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等のジアリルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、メチルシクロヘキサンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド等のジアシルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシマレエート等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0013】
これらの有機過酸化物は単独で或いは二種以上の混合物として用いることができる。この(c)成分の配合量は、(a)成分と(b)成分の合計重量100重量部に対して0.1〜5重量部である。0.1重量部より少ないと重合反応を生じさせるのに不十分である場合があり、5重量部よりも多いと、嫌気硬化性組成物の安定性が低下する場合がある。
【0014】
本発明に用いられる(d)成分はo−ベンゾイックスルフィミドであり嫌気硬化性組成物には通常使用される成分である。o−ベンゾイックスルフィミドはいわゆるサッカリンであり、(d)成分の添加量は(a)成分と(b)の合計重量100重量部に対して0.1〜5重量部配合される。
【0015】
本発明に用いられる(e)成分はバリウムスルフォネートである。防錆剤としては、カルシウムスルフォネート、亜鉛スルフォネート、およびナトリウムスルフォネート等の金属スルフォネート塩や、アミン化合物などの塩基性物質が公知であるが、本発明ではバリウムスルフォネートのみが使用可能である。その他の化合物では防錆効果が発揮しなかったり、保存安定性が低下するなどの問題が生じ、本発明の目的を発揮できない。バリウムスルフォネートとしては、例えば、分子量400〜1200の石油スルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸などの合成スルホン酸のバリウム塩を挙げることができる。石油スルホン酸は、石油留分を精製したのち発煙硫酸などによりスルホン化することにより得られ、中和により所望の塩とする。アルキルベンゼンスルホン酸及びアルキルナフタレンスルホン酸は、それぞれベンゼン及びナフタレンをアルキル化したのち発煙硫酸などによりスルホン化することにより得られ、中和により所望の塩とする。これらのバリウムスルフォネートは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
バリウムスルフォネートは商業的に入手できるものを使用できる。例えば、ロックハートケミカル社のLockGuard3650、同3655、同3660、同4945、松村石油研究所社のスルホールBa−30N、楠本化成社のNA−SULBSN、NA−SUL611などが挙げられる。(e)成分の添加量は(a)成分と(b)成分の合計重量100重量部に対して10〜50重量部が好ましい。10重量部より少ないと、防錆効果が期待できない。50重量部より多くても防錆効果は頭打ちとなるためそれより多く添加しても不経済となるため。また、過剰に(e)成分を添加すると硬化性成分の割合が低くなるため硬化物の強度が低下する可能性がある。
【0017】
本組成物は上記成分以外に重合を促進する成分を添加することができる。重合促進剤としてはアミン化合物、メルカプタン化合物、ヒドラジン誘導体を挙げることができる。アミン化合物は1,2,3,4−テトラヒドロキノリン、1,2,3,4−テトラヒドロキナルジン等の複素環第2級アミン、キノリン、メチルキノリン、キナルジン、キノキサリンフェナジン等の複素環第3級アミン、N,N−ジメチル−アニシジン、N,N−ジメチルアニリン等の芳香族第三級アミン類、1,2,4−トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ベンゾキサゾール、1,2,3−ベンゾチアジアゾール、3−メルカプトベンゾトリゾール等のアゾール系化合物等が挙げられる。また、メルカプタン化合物としてはn−ドデシルメルカプタン、エチルメルカプタン、ブチルメルカプタン等の直鎖型メルカプタンが挙げられる。ヒドラジン誘導体としてはエチルカルバゼート、N−アミノルホダニン、アセチルフェニルヒドラジン、p−ニトロフェニルヒドラジン、p−トリスルホニルヒドラジドが挙げられるがこれに限定したものではない。
【0018】
本発明は更に種々の添加剤を使用できる。例えば、保存安定性を得るためには、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のラジカル吸収剤、エチレンジアミン4酢酸又はその2−ナトリウム塩、シユウ酸、アセチルアセトン、o−アミノフエノール等の金属キレート化剤等を添加することもできる。
【0019】
更に、その他に嫌気硬化性樹脂の性状や硬化物の性質を調整するために、増粘剤、充填剤、可塑剤、着色剤等を必要に応じて使用することができる。
【0020】
本発明の嫌気硬化性組成物を用いて鋳物や焼結金属などの巣穴を埋める方法としては、嫌気硬化性組成物の液槽に浸漬する方法や、金属表面に塗布して浸透させる方法などが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は鋳物や焼結金属の巣穴を充填することができる嫌気硬化性組成物であり、保存安定性を損なうことなく防錆効果を持たせることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。なお、表中の配合はすべて重量部である。
実施例1:(a)成分として2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン20重量部(表中bmppと略す)、(b)成分としてエチルメタクリレート80重量部、(c)成分としてクメンハイドロパーオキサイド1重量部、(d)成分としてo−ベンゾイックスルフィミド1重量部、(e)成分としてバリウムスルフォネートであるLockGuard3650(LockHart社製)20部、その他の成分として硬化促進剤としてアセチルフェニルヒドラジン0.3重量部、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン0.2重量部、保存安定性向上剤としてエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩0.02重量部(表中EDTA・2Naと略す)を混合し、嫌気硬化性組成物を調製した。
【0023】
同様に、表1に示す成分を混合し嫌気硬化性組成物(実施例2〜比較例10)を調製した。ただし、表中、LockGuard3660、LockGuard3655はバリウムスルフォネートであり、LockGuard3945はカルシウムスルフォネート、LockGuard7960はマグネシウムスルフォネート、LockGuard1960はナトリウムするフォネートである。
【0024】
得られた各組成物の保存安定性を測定した。保存安定性試験は加速促進試験を行った。まず、各組成物をガラス製試験管に5g入れ、これを80℃の加熱炉に入れて一定時間放置し、その後、各成分がゲル化や硬化をしているかの確認を行った。ゲル化や沈殿物が生じているものは×、明らかな増粘や沈殿物がやや生じているものは△、特に変化がないものは○とした。ちなみに、80℃加速促進試験は、嫌気硬化性組成物の保存安定性の目安として有効的でこの試験で2時間以上液体を保持できれば常温で6ヶ月〜1年程の安定性を保持できるものとして一般的である。
【0025】
巣穴充填:直径50mm厚さ50mmの円柱形状の鉄焼結材を試験片として用いた。試験片を80℃加熱炉に入れ、試験片を加熱した。その後、試験片に各嫌気硬化性を刷毛塗りにて塗布した。5分養生し、嫌気硬化性組成物をウエスにて拭き取った。これにより、試験片の巣穴に嫌気硬化性組成物が浸透し、浸透した嫌気硬化性組成物は酸素が遮断されるため硬化して、巣穴を埋めることができる。巣穴以外は酸素と接しているため硬化せずウエスで拭き取ることができる。また、試験片を加熱したのは硬化を促進するためであり、加熱しなくとも養生時間を長くすることにより硬化させることができるものである。
【0026】
上記により得られた試験片をサンダーにて平均100μm研磨して、防錆試験片とした。5%塩水噴霧試験を所定時間行い、さびの発生を検査した。試験片の表面を目視で確認し錆が発生したものは×、発生していないものを○とした。
【0027】
その結果を表1に記した。本発明の組成物は保存安定性が高く、防錆効果を有していることが分かる。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は鋳物や焼結金属の巣埋めを封孔することができる嫌気硬化性組成物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子中に少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物、(b)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートから選ばれる化合物、(c)有機過酸化物、(d)o−ベンゾイックスルフィミド、(e)バリウムスルフォネート、からなることを特徴とする嫌気硬化性組成物。