説明

孔あけ加工工具及び孔あけ加工方法

【課題】、エンジンのシリンダヘッドの吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドの孔あけ加工において、設備の投資コストを減少させ、かつ加工時間を短縮させること。
【解決手段】孔あけ加工工具21は、バルブシートが圧入されるバルブシート圧入孔を形成するバルブシート圧入孔加工用刃具33と、バルブガイドが圧入されるバルブガイド圧入孔を形成するバルブガイド圧入孔加工用刃具31と、圧入されるバルブガイドを案内するガイド口元ザグリを形成するバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32と、を備える。バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32は、ワークに対して点接触する形状の刃であって、バルブシート圧入孔加工用刃具33の刃とは回転時に異なる位相となるように配置される刃を、2枚有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドの吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドを圧入する孔を形成する孔あけ加工工具及び孔あけ加工方法に関する。詳しくは、設備の投資コストを減少させ、かつ、孔あけの加工時間を短縮させることが可能な孔あけ加工工具及び孔あけ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンのシリンダヘッドの吸気バルブ又は排気バルブの軸を保持するバルブガイドと、吸気バルブ又は排気バルブの弁座であるバルブシートとは、シリンダヘッドに圧入される。このため、専用の孔あけ加工工具(例えば特許文献1参照)を用いて、バルブシートが圧入される孔(以下、バルブシート圧入孔と称する)と、バルブガイドが圧入される孔(以下、バルブガイド圧入孔と称する)と、圧入されるバルブガイドをバルブガイド圧入孔に案内するためのザグリ(皿取り形状)の孔(以下、バルブガイド口元ザグリと称する)と、がシリンダヘッド内に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−305581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バルブシート圧入孔及びバルブガイド圧入孔の加工については、高精度であること、特に真円度が高いことが要求される。一方、バルブガイド口元ザグリの加工については、高精度は要求されないが、ラジアル抵抗が大きい。ラジアル抵抗とは、孔あけ加工工具に放射線状に設けられた刃がワーク(シリンダヘッド)に接触した際、そのワークから受ける半径方向の負荷により、孔あけ加工工具に対してかかる抵抗のことをいう。
このため、バルブシート圧入孔及びバルブガイド圧入孔の加工は、ラジアル抵抗が大きいバルブガイド口元ザグリの加工により生ずる自励振動という悪影響を受けないように、バルブガイド口元ザグリの加工とは別工程で行われる。すなわち、従来の孔あけ加工工具を用いた場合、バルブガイド口元ザグリを形成する第1の工程と、バルブシート圧入孔及びバルブガイド圧入孔を形成する第2の工程と、が別々に必要となる。
このため、従来の孔あけ加工工具を用いると、設備全体の投資コストが増大し、かつ、加工時間が長時間となる。
【0005】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドの吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドを圧入する孔を形成する孔あけ加工工具及び孔あけ加工方法であって、設備の投資コストを減少させ、かつ、加工時間を短縮させることが可能な孔あけ加工工具及び孔あけ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の孔あけ加工工具(例えば実施形態における孔あけ加工工具21)は、エンジンのシリンダヘッド(例えば実施形態におけるシリンダヘッド1)の吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドが圧入される孔を、ワークである前記シリンダヘッドに形成する孔あけ加工工具であって、前記バルブシートが圧入されるバルブシート圧入孔(例えば実施形態におけるバルブシート圧入孔11)を前記ワークに形成するバルブシート圧入孔加工用刃具(例えば実施形態におけるバルブシート圧入孔加工用刃具33)と、前記バルブガイドが圧入されるバルブガイド圧入孔(例えば実施形態におけるバルブガイド圧入孔13)を前記ワークに形成するバルブガイド圧入孔加工用刃具(例えば実施形態におけるバルブガイド圧入孔加工用刃具31)と、圧入される前記バルブガイドを前記バルブガイド圧入孔に案内するためのバルブガイド口元ザグリ(例えば実施形態におけるバルブガイド口元ザグリ12)を前記ワークに形成するバルブガイド口元ザグリ加工用刃具(例えば実施形態におけるバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32)と、を備える孔あけ加工工具であって、前記バルブガイド口元ザグリ加工用刃具は、前記バルブシート圧入孔加工用刃具の刃とは回転時に異なる位相となるように配置され、前記ワークに対して点接触する刃を、2枚(例えば実施形態における刃32a及び32b)有することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具は、次の第1乃至第3の特徴を有する。第1の特徴は、ワークに対して点接触する刃を有する点である。第2の特徴は、従来よりも少ない刃数である2枚の刃を有する点である。第3の特徴は、これらの2枚の刃の回転時の位相は、バルブシート圧入孔加工用刃具の刃の回転時の位相とは異なっている点である。第3の特徴により、バルブシート圧入孔加工用刃具によるバルブシート圧入孔の加工に対する、バルブガイド口元ザグリの加工時にかかるラジアル抵抗の影響度合、すなわち自励振動の大きさは、同位相であった場合と比較して低下する。さらに、第1の特徴と第2の特徴より、バルブガイド口元ザグリ加工時のラジアル抵抗自体が小さくなるため、当該影響度合、すなわち自励振動の大きさはさらに一段と低下する。これにより、バルブシート圧入孔の精度、特に真円度を高精度に確保できる。したがって、バルブシート圧入孔と、バルブガイド口元ザグリと、バルブガイド圧入孔と、を1工程で加工することが実現可能になる。その結果、従来2工程で加工していた場合と比較して、設備の投資コストを減少させ、かつ、加工時間を短縮させることが可能になる。
【0008】
この場合、前記バルブガイド口元ザグリ加工用刃具は、バイト刃形状を有することで、前記ワークに対して点接触するようにしてもよい。
【0009】
この場合、前記バルブシート圧入孔加工用刃具の刃と、前記バルブガイド圧入孔加工用刃具とは、回転時に同位相となるように配置されているようにしてもよい。
【0010】
本発明の孔あけ加工方法は、エンジンのシリンダヘッド(例えば実施形態におけるシリンダヘッド1)の吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドが圧入される孔を、ワークである前記シリンダヘッダに形成する孔あけ加工工具(例えば実施形態における孔あけ加工工具21)であって、前記バルブシートが圧入されるバルブシート圧入孔(例えば実施形態におけるバルブシート圧入孔11)を前記ワークに形成するバルブシート圧入孔加工用刃具(例えば実施形態におけるバルブシート圧入孔加工用刃具33)と、前記バルブガイドが圧入されるバルブガイド圧入孔(例えば実施形態におけるバルブガイド圧入孔13)を前記ワークに形成するバルブガイド圧入孔加工用刃具(例えば実施形態におけるバルブガイド圧入孔加工用刃具31)と、圧入される前記バルブガイドを前記バルブガイド圧入孔に案内するためのバルブガイド口元ザグリ(例えば実施形態におけるバルブガイド口元ザグリ12)を前記ワークに形成するために、前記バルブシート圧入孔加工用刃具の刃とは回転時に異なる位相となるように配置され、前記ワークに対して点接触する形状の刃を2枚(例えば実施形態における刃32a及び32b)有する前記バルブガイド口元ザグリ加工用刃具(例えば実施形態におけるバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32)と、を備える孔あけ加工工具を、前記ワークに対して回転させながら挿入する工程を1工程だけ行うことで、前記バルブシート圧入孔と、前記バルブガイド圧入孔と、前記バルブガイド口元ザグリと、を前記ワークに形成することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、次の第1乃至第3の特徴を有するバルブガイド口元ザグリ加工用刃具を備える孔あけ加工工具が用いられる。第1の特徴は、ワークに対して点接触する刃を有する点である。第2の特徴は、従来よりも少ない刃数である2枚の刃を有する点である。第3の特徴は、これらの2枚の刃の回転時の位相は、バルブシート圧入孔加工用刃具の刃の回転時の位相とは異なっている点である。第3の特徴により、バルブシート圧入孔加工用刃具によるバルブシート圧入孔の加工に対する、バルブガイド口元ザグリの加工時にかかるラジアル抵抗の影響度合、すなわち自励振動の大きさは、同位相であった場合と比較して低下する。さらに、第1の特徴と第2の特徴より、バルブガイド口元ザグリの加工時にかかるラジアル抵抗自体が小さくなるため、当該影響度合、すなわち自励振動の大きさはさらに一段と低下する。これにより、バルブシート圧入孔と、バルブガイド口元ザグリと、バルブガイド圧入孔と、を1工程で加工しても、バルブシート圧入孔の精度、特に真円度を高精度に確保できる。すなわち、従来実現困難であった1工程での加工が容易に可能になる。その結果、従来2工程で加工していた場合と比較して、設備の投資コストを減少させ、かつ、加工時間を短縮させることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バルブガイド口元ザグリの加工時にかかるラジアル抵抗は小さくなり、バルブシート圧入孔加工用刃具によるバルブシート圧入孔の加工に対する、バルブガイド口元ザグリの加工時にかかるラジアル抵抗の影響度合、すなわち自励振動の大きさも低くなる。これにより、バルブシート圧入孔の精度、特に真円度を高精度に確保できる。したがって、バルブシート圧入孔と、バルブガイド口元ザグリと、バルブガイド圧入孔と、を1工程で加工することが実現可能になる。その結果、従来2工程で加工していた場合と比較して、設備の投資コストを減少させ、かつ、加工時間を短縮させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具の加工により、バルブシート圧入孔等が形成されたシリンダヘッドの概略外観構成を示す上面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具によりシリンダヘッド内に形成された、バルブシート圧入孔と、バルブガイド口元ザグリと、バルブガイド圧入孔と、の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具の概略構成を示す斜視図である。
【図4】図3のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具の刃の形状を説明する図であって、刃とワークの接触部の拡大図を示している。
【図5】図3のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具の刃の枚数を説明する図であって、半径方向の断面図を示している。
【図6】図3のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具の刃の、バルブシート圧入孔加工用刃具の刃に対する位相の関係を説明する図であって、半径方向の断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具の加工により、バルブシート圧入孔11等が形成されたシリンダヘッド1の概略外観構成を示す上面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具の加工によりシリンダヘッド1内に形成された、バルブシート圧入孔11と、バルブガイド口元ザグリ12と、バルブガイド圧入孔13と、の概略構成を示す断面図である。
本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具の加工により、図2中X−X’線を軸にして、シリンダヘッド1の表面から内部に向けて(図2中上から下に向けて)、バルブシート圧入孔11と、バルブガイド口元ザグリ12と、バルブガイド圧入孔13と、がその順に同芯に形成される。
なお、バルブシート圧入孔11とバルブガイド口元ザグリ12との間の図2中細線で示す領域には、吸気バルブ又は排気バルブ用の管(図示せず)が配設される。このため、図2に示すように、バルブガイド口元ザグリ12の深さは一様でなく、管の配設位置に応じて異なっている。
【0015】
図3は、本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具21の概略構成を示す斜視図である。
なお、以下、孔あけ加工工具21の加工対象、すなわち、バルブシート圧入孔11と、バルブガイド口元ザグリ12と、バルブガイド圧入孔13と、が形成される対象を、ワークと称する。本実施の形態ではシリンダヘッド1がワークとなる。
孔あけ加工工具21には、図3のA−A'線が示す軸を中心に回転可能なように、図3中左側の端から順に、バルブガイド圧入孔加工用刃具31と、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32と、バルブシート圧入孔加工用刃具33と、基端部34と、が同芯に設けられている。
【0016】
バルブガイド圧入孔加工用刃具31には、軸から半径方向に放射状に4枚の刃31a乃至31dが均等に形成されている。図3においては、バルブガイド圧入孔加工用刃具31のうち、左から1番目の点線の円周上の符号31a乃至31dが付されている各点から軸を結ぶ線が通る領域に、対応する刃31a乃至31dが形成されている。これらの4枚の刃31a乃至31dの各々は、軸方向には螺旋状に形成されている。軸から各々の刃31a乃至31dまでの半径方向の長さは、バルブガイド圧入孔13の半径とほぼ一致しており、バルブガイド圧入孔加工用刃具31の軸方向の長さはバルブガイド圧入孔13の深さとほぼ一致している。したがって、このような4枚の刃31a乃至31dが形成されたバルブガイド圧入孔加工用刃具31が、ワーク内に挿入されつつ、軸を中心として回転することで、バルブガイド圧入孔13がワーク内に形成される。
【0017】
バルブシート圧入孔加工用刃具33には、軸から半径方向に放射状に4枚の刃33a乃至33dが均等に形成されている。図3においては、バルブシート圧入孔加工用刃具33のうち、左から3番目の点線の円周上の符号33a乃至33dが付されている各点から軸を結ぶ線が通る領域に、対応する刃33a乃至33dが形成されている。これらの4枚の刃33a乃至33dの各々は、軸方向には螺旋状に形成されている。軸から各々の刃33a乃至33dまでの半径方向の長さは、バルブシート圧入孔11の半径とほぼ一致しており、バルブシート圧入孔加工用刃具33の軸方向の長さはバルブシート圧入孔11の深さとほぼ一致している。したがって、このような4枚の刃33a乃至33dが形成されたバルブシート圧入孔加工用刃具33が、ワーク内に挿入されつつ、軸を中心として回転することで、バルブシート圧入孔11がワーク内に形成される。
【0018】
バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32には、軸から半径方向に放射状に2枚の刃が均等に形成されている。図3においては、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32のうち、左から2番目の点線の円周上の符号32a及び32bが付されている各点から軸を結ぶ線が通る領域に、対応する刃32a及び32bが形成されている。これらの2枚の刃32a及び32bの各々は、軸方向には螺旋状に形成されている。軸から各々の刃32a及び32bまでの半径方向の長さは、バルブガイド口元ザグリ12の半径とほぼ一致しており、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の軸方向の長さはバルブガイド口元ザグリ12の最深の深さとほぼ一致している。したがって、このような2枚の刃32a及び32bが形成されたバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32が、ワーク内に挿入されつつ、軸を中心として回転することで、バルブガイド口元ザグリ12がワーク内に形成される。
【0019】
バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32は、次の第1乃至第3の特徴を有している。第1の特徴は、バイト刃形状によりワークに対して点接触となる刃32a及び32bを有する点である。第2の特徴は、従来よりも少ない刃数である2枚の刃32a及び32bを有する点である。第3の特徴は、2枚の刃32a及び32bの各々の回転時の位相は、バルブシート圧入孔加工用刃具33の4枚の刃33a乃至33dの各々の回転時の位相とは異なっている点である。ここで位相とは、半径方向の断面における回転時の刃の回転位置をいう。以下、第1乃至第3の特徴について詳細に説明する。
【0020】
図4は、第1の特徴を説明する図である。すなわち、図4は、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃の形状を説明する図であって、刃とワークの接触部の拡大図を示している。図4aは、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51を示しており、図4bは、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32を示している。
従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51の刃51aは、図4aの白抜き矢印で示すように、ワーク61に対して線接触となる形状を有している。このため、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51による加工においては、ラジアル抵抗が大きい。
これに対して、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃32a(及び図5や図6に示す刃32b)は、図4bの白抜き矢印で示すように、ワーク61に対して点接触となる形状、例えばバイト刃形状を有している。このため、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32による加工においては、ワーク61に対する接触面積が従来より低減し、その分だけラジアル抵抗が小さくなる。
【0021】
図5は、第2の特徴を説明する図である。すなわち、図5は、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃の枚数を説明する図であって、半径方向の断面図を示している。図5aは、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51を示しており、図5bは、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32を示している。
従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51は、図5aに示すように、4枚の刃51a乃至51dを有している。これに対して、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32は、図5bに示すように、2枚の刃32a及び32bを有している。すなわち、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃数は、従来と比較して減少している。刃数の減少は、そのままワーク61に対する接触面積の低減に結びつき、その分だけ、加工時にかかるラジアル抵抗が小さくなる。
【0022】
次に第3の特徴について説明する。
図3に示すように、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の2枚の刃32a及び刃32bの位相は、バルブシート圧入孔加工用刃具33の4枚の刃33a乃至33dの位相と比較すると異なっている。例えば、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃32bと、バルブシート圧入孔加工用刃具33の刃33bとの位相差は角度θとなっている。
図6は、第3の特徴を説明する図である。すなわち、図6は、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃と、バルブシート圧入孔加工用刃具33の刃との回転時の位相の関係を説明する図であって、半径方向の断面図を示している。図6aは、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51を示しており、図6bは、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32を示している。
なお、図6においては説明を容易なものとすべく、全ての刃具の断面積は同一とされているが、実際には図3から明らかなように異なる場合もある。また、図6aにおいては容易に視認できるように、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51(実線部分)と、従来のバルブシート圧入孔加工用刃具52(点線部分)とは、左右方向に軸がずれた状態で描画されているが、実際には軸は一致する。
仮に、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51と、従来のバルブシート圧入孔加工用刃具52とを単純に組み合わせることで実現される孔あけ加工工具(以下、従来の組合せ加工工具と称する)を用いたとする。この場合、図6aに示すように、従来のバルブガイド口元ザグリ加工用刃具51の4枚の刃51a乃至51dの各々は、従来のバルブシート圧入孔加工用刃具52の4枚の刃52a乃至52dの各々に対して同位相となるように形成される。
このため、仮に、従来の組合せ孔あけ加工工具にて、バルブシート圧入孔と、バルブガイド口元ザグリと、バルブガイド圧入孔と、を1工程で加工しようした場合、従来のバルブシート圧入孔加工用刃具52によるバルブシート圧入孔の加工に対して、バルブガイド口元ザグリの加工時にかかるラジアル抵抗が存在すると、自励振動が生ずるという悪影響を及ぼす。この悪影響により、バルブシート圧入孔の精度、特に真円度が悪化するため、1工程での加工は非常に困難なものとなる。
これに対して、図6bに示すように、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の2枚の刃32a及び32bの各々は、バルブシート圧入孔加工用刃具33の4枚の刃33a乃至33dの各々に対して回転時の位相が異なるように形成される。
したがって、本発明の一実施形態に係る孔あけ加工工具21にて、バルブシート圧入孔11と、バルブガイド口元ザグリ12と、バルブガイド圧入孔13と、を1工程で加工する場合、バルブシート圧入孔加工用刃具33によるバルブシート圧入孔11の加工に対する、バルブガイド口元ザグリ12の加工時にかかるラジアル抵抗の影響度合、すなわち自励振動の大きさは、同位相の図6aの場合と比較して低下する。さらに、図4や図5を用いて説明したように、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32によりかかるラジアル抵抗自体が従来と比較して小さいため、当該影響度合、すなわち自励振動の大きさはさらに一段と低下する。これにより、バルブシート圧入孔11の精度、特に真円度を高精度に確保でき、その結果、1工程での加工が容易に実現可能になる。
【0023】
同様の趣旨で、図3から明らかなように、本発明の一実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃32a及び32bの各々は、バルブガイド圧入孔加工用刃具31の4枚の刃の各々に対して位相が異なるように形成される。なお、バルブガイド圧入孔加工用刃具31とバルブシート圧入孔加工用刃具33との各々の刃の位相の関係は特に限定されないが、本実施の形態では同位相とされている。
【0024】
次に、以上の孔あけ加工工具21の動作について説明する。
孔あけ加工工具21の基端部34は、所定の工作機械(図示せぬ)により回転されるスピンドル軸(図示せぬ)に取り付けられる。この場合、孔あけ加工工具21の軸(図3中A−A’線の軸)は、スピンドル軸と一致する。
【0025】
その後、孔あけ加工工具21は、スピンドル軸により回転された状態で、孔あけ加工工具21の先端部から、すなわち、バルブガイド圧入孔加工用刃具31の先端部から、シリンダヘッド1内に挿入されていく。ここで、孔あけ加工工具21が、その軸(図3中A−A’線の軸)を図2中X−X’線の軸を一致させてシリンダヘッド1内に挿入されたとする。この場合、このような挿入工程が1工程だけ実施されるだけで、バルブシート圧入孔11と、バルブガイド口元ザグリ12と、バルブガイド圧入孔13と、が図2に示すようにシリンダヘッド1内に形成される。
【0026】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)本実施形態に係るバルブガイド口元ザグリ加工用刃具32は、次の第1乃至第3の特徴を有している。
第1の特徴は、図4に示すように、バイト刃形状によりワーク61に対して点接触となる刃32a及び32bを有する点である。
第2の特徴は、図5に示すように、従来よりも少ない刃数である2枚の刃32a及び32bを有する点である。
第3の特徴は、図6に示すように、2枚の刃32a及び32bの各々の回転時の位相は、バルブシート圧入孔加工用刃具33の4枚の刃33a乃至33dの各々の回転時の位相とは異なっている点である。
第3の特徴により、バルブシート圧入孔加工用刃具33によるバルブシート圧入孔11の加工に対する、バルブガイド口元ザグリ12の加工時にかかるラジアル抵抗の影響度合、すなわち、自励振動の大きさは同位相の場合と比較して低下する。さらに、第1の特徴と第2の特徴より、バルブガイド口元ザグリ12の加工時にかかるラジアル抵抗自体が従来と比較して小さくなるため、当該影響度合、すなわち自励振動の大きさはさらに一段と低下する。これにより、バルブシート圧入孔11の精度、特に真円度を高精度に確保することができるので、バルブシート圧入孔11と、バルブガイド口元ザグリ12と、バルブガイド圧入孔13と、を1工程で加工することが容易に実現可能になる。その結果、従来2工程で加工していた場合と比較して、設備の投資コストを減少させ、加工時間を短縮させることが可能になる。
【0027】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃は、本実施の形態ではバイト刃形状を有していたが、これに限定されず、ワークに対して点接触となる形状を有していれば任意の形状とすることができる。
例えば、バルブガイド口元ザグリ加工用刃具32の刃数は、本実施の形態では2枚とされたが、本実施の形態に限定されず、従来の刃数よりも少なければ任意の枚数とすることができる。
【符号の説明】
【0028】
11 バルブシート圧入孔
12 バルブガイド口元ザグリ
13 バルブガイド圧入孔
21 孔あけ加工工具
31 バルブガイド圧入孔加工用刃具
32 バルブガイド口元ザグリ加工用刃具
32a 刃
32b 刃
33 バルブシート圧入孔加工用刃具
34 基端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダヘッドの吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドが圧入される孔を、ワークである前記シリンダヘッドに形成する孔あけ加工工具であって、
前記バルブシートが圧入されるバルブシート圧入孔を、前記ワークに形成するバルブシート圧入孔加工用刃具と、
前記バルブガイドが圧入されるバルブガイド圧入孔を、前記ワークに形成するバルブガイド圧入孔加工用刃具と、
圧入される前記バルブガイドを前記バルブガイド圧入孔に案内するためのバルブガイド口元ザグリを、前記ワークに形成するバルブガイド口元ザグリ加工用刃具と、
を備え、
前記バルブガイド口元ザグリ加工用刃具は、
前記バルブシート圧入孔加工用刃具の刃とは回転時に異なる位相となるように配置され、前記ワークに対して点接触する刃を、2枚有する
ことを特徴とする孔あけ加工工具。
【請求項2】
前記バルブガイド口元ザグリ加工用刃具は、バイト刃形状を有することで、前記ワークに対して点接触する
ことを特徴とする請求項1に記載の孔あけ加工工具。
【請求項3】
前記バルブシート圧入孔加工用刃具の刃と、前記バルブガイド圧入孔加工用刃具とは、回転時に同位相となるように配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の孔あけ加工工具。
【請求項4】
エンジンのシリンダヘッドの吸気バルブ又は排気バルブのバルブシート及びバルブガイドが圧入される孔を、ワークである前記シリンダヘッドに形成する孔あけ加工工具であって、
前記のバルブシートが圧入されるバルブシート圧入孔を、前記ワークに形成するバルブシート圧入孔加工用刃具と、
前記バルブガイドが圧入されるバルブガイド圧入孔を、前記ワークに形成するバルブガイド圧入孔加工用刃具と、
圧入される前記バルブガイドを前記バルブガイド圧入孔に案内するためのバルブガイド口元ザグリを前記ワークに形成するために、前記バルブシート圧入孔加工用刃具の刃とは回転時に異なる位相となるように配置され、前記ワークに対して点接触する刃を2枚有する前記バルブガイド口元ザグリ加工用刃具と、
を備える孔あけ加工工具を、
前記ワークに対して回転させながら挿入する工程を1工程行うことで、
前記バルブシート圧入孔と、前記バルブガイド圧入孔と、前記バルブガイド口元ザグリと、を前記ワークに形成する
ことを特徴とする孔あけ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−88261(P2011−88261A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245292(P2009−245292)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】