説明

孔版印刷装置の圧胴

【課題】孔版印刷装置の圧胴において、特にはがき、画用紙、厚紙等の用紙に印刷する場合、用紙における圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部に圧が繰り返し掛かっても、マスタ側にテープ等を貼り付けるという面倒な作業を行うことなく、用紙の上記各端縁部と接触するマスタ部分の破れを未然に防止する。
【解決手段】はがきP(用紙)における圧胴10Aの回転方向Bの上流端縁部Paおよび両側端縁部Pbと対向・接触する弾性層50の所定領域に、はがきPの上流端縁部Paおよび両側端縁部Pbを逃がすための凹み100を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷装置の圧胴に関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷装置として、外周面に製版済みのマスタを装着した状態で回転する版胴と、給紙手段によって1枚ずつ搬送されてくる被印刷媒体の一例としての用紙を版胴上の製版済みのマスタに押圧しつつ回転する円筒状の圧胴とを有し、この押圧状態において、インキ供給手段からのインキを版胴上の製版済みのマスタに供給しながら用紙に転移させて印刷を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
圧胴は、版胴と略同一の直径を有し、版胴の回転速度と同一回転速度で回転駆動され、その外周面の一部に母線方向に沿って延在する凹部を有している。この凹部には、用紙の先端をクランプするクランプ手段が設けられている。このような圧胴によれば、凹部の位置を版胴のマスタクランパの位置に対応させることで、マスタクランパとの干渉を回避でき、圧胴を版胴に押圧するときの移動量を小さくすることができるため、押圧時の印圧音を小さくすることができる。また、クランプ手段により、用紙の先端を含む先端部をクランプして用紙を搬送するので、排紙時の用紙の版胴への排紙巻き上がりを防止することや、レジスト精度を向上することができるという効果を奏する。
【0004】
【特許文献1】特開平11−227310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上述の圧胴を用いた孔版印刷装置では、印刷画像を鮮明にしたいとの市場の要求から、マスタの厚さを薄くしたり、圧胴による版胴への押圧力を大きくしたりして対応している。そのため、図24に示すように、用紙Pとしての厚紙に印刷する場合、用紙Pにおける圧胴200の回転方向の上流端縁部Paおよび両側端縁部Pbに大きな圧が繰り返し掛かり、用紙Pの上流端縁部Paおよび両側端縁部Pbと接触するマスタ3部分が破れ、そこからインキがはみ出し、用紙Pの各端縁部Pa,Pbが小さな点状のインキ汚れになってしまう問題点があった。特に、はがき印刷の場合、切断によるバリの発生がひどいとき、印刷100枚前後でマスタ3が破れることもあった。切断によるバリは、はがきの上・下流端縁部Paおよび両側端縁部Pbに発生する。
ここで、用紙における圧胴の回転方向の上流端縁部とは、はがきや画用紙等の厚紙の切断によるバリの発生する箇所、すなわち用紙における用紙搬送方向の上流端および上流端面を含む用紙の上流端近傍の端縁部を指し、用紙における圧胴の回転方向の両側端縁部とは、用紙における用紙幅方向の左右の側端および左右の側端面を含む用紙の両側端近傍の端縁部を指す(以下、同様)。
【0006】
この際、印刷画像を鮮明にするため、圧胴200の版胴1に対する押圧力は、157.0〜235.4N(16〜24kgf)と比較的大きく設定されている。それ故に、用紙Pの各端縁部Pa,Pbに上記大きな押圧力が掛かり、その応力も大きくなってしまう。
用紙P(はがき等の厚紙)と接触することにより製版済みのマスタ3が破れる部分は、上記切断によるバリと接触する図25に誇張して示す一点鎖線部である。図25において、Xは被印刷媒体進行方向(もしくは被印刷媒体搬送方向)としての用紙進行方向(もしくは用紙搬送方向)を示している。ここでの用紙搬送方向Xは、圧胴200の回転による搬送方向と同義である。
【0007】
従来、上記マスタ破損を防止する効果的な方策はなく、ユーザによる個別対応として、例えば、はがき等の厚紙の各端縁部と対向・接触するマスタ側にテープ等を貼り付けることにより破れにくくしていたが、このような対処方法では作業が面倒であり、その作業を忘れたり、貼り付け状態が不充分であったりすると、せっかくの大切な厚紙を汚してしまう問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点・事情に鑑みてなされたものであり、孔版印刷装置の圧胴において、特にはがき、画用紙、厚紙等の用紙に印刷する場合、用紙における圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部に押圧力が繰り返し掛かっても、マスタ側にテープ等を貼り付けるという面倒な作業を行うことなく、用紙の上記各端縁部と接触するマスタ部分の破れを未然に防止することができる孔版印刷装置の圧胴を実現し提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の版胴と圧胴との間に被印刷媒体である用紙を挟んで搬送・印刷する方式では、押圧力が圧胴上の用紙と版胴上のマスタとに必ず繰り返し作用して、マスタを破損させてしまう状況が避けられないことに鑑み、特定の定型サイズ用紙の場合、押圧力を逃がす方法に着目した。例えば、はがき印刷の場合、はがきにおける圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部と対向する圧胴外周側の弾性層を逃がすように凹みを形成(弾性層の除去を含む)しておけば、押圧力が繰り返し用紙とマスタとに作用しても、はがきの上記各端縁部が圧胴外周の弾性層の凹みに逃げて、押圧力がはがきの上記各端縁部に作用することはなくなり、その結果、はがきの上記各端縁部に対応したマスタに作用する力が減少して、マスタが破れるまでの用紙の耐久枚数(耐刷枚数)を増やすことができる。本発明は、このような観点からなされたものであり、上記課題が以下の手段によって解決されるものである。
【0010】
上述した課題を解決するとともに上述した目的を達成するために、請求項ごとの発明では、以下のような特徴ある手段・構成を採っている。
請求項1記載の発明は、外周面に製版済みのマスタを装着して回転する版胴に被印刷媒体を押圧しつつ回転する、圧胴本体とこの外周に弾性層とを有する円筒体からなる孔版印刷装置の圧胴において、被印刷媒体における上記圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部と接触する上記弾性層の所定領域に、凹みを形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置の圧胴において、上記所定領域で囲まれた上記圧胴本体側の上記弾性層および該圧胴本体に、凹部を形成し、上記圧胴本体側の上記弾性層との間で上記所定領域の凹みを形成すべく上記凹部よりも小さい形状からなる弾性層を備え、上記圧胴本体の上記凹部に対して着脱可能な第1の着脱部材を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の孔版印刷装置の圧胴において、弾性層単体では精度が出し難い点および弾性体のため組み付け上処置しずらい点に鑑み、第1の着脱部材は、上記圧胴本体の上記凹部と嵌合可能な着脱部材本体と、該着脱部材本体に固着され、上記凹部よりも小さい形状からなる弾性層とからなることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の孔版印刷装置の圧胴において、上記圧胴本体の上記凹部における上記圧胴の回転方向の上流端部に設けられた第1の係止手段と、第1の着脱部材に設けられ第1の係止手段と係合可能な第1の被係止手段と、上記圧胴本体の上記凹部における上記圧胴の回転方向の下流端部の印刷範囲外に設けられた第2の係止手段と、第1の着脱部材に設けられ第2の係止手段と係合可能な第2の被係止手段とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明では、請求項2、3または4記載の孔版印刷装置の圧胴において、通常の被印刷媒体(例えば通常の用紙)に印刷を行う場合は、簡単な部品交換で外周の弾性層に凹みのない通常の圧胴に復元可能に構成したものである。例えば、はがき印刷の場合、通常年末に印刷作業が集中するため、圧胴本体側の弾性層との間で所定領域の凹みを形成すべく凹部よりも小さい形状からなる弾性層を備え、圧胴本体の凹部に対して着脱可能な第1の着脱部材を圧胴本体の凹部に組み込み、上記繁忙期を過ぎて、通常の用紙に印刷を行う場合は、圧胴本体側の弾性層に形成された凹部と密着・嵌合可能な弾性層を備え、圧胴本体の凹部に対して着脱可能であり、かつ、第1の着脱部材と互換性を有する第2の着脱部材を圧胴本体の凹部に組み込むというように、ユーザが簡単に交換できるように構成したものである。
すなわち、請求項5記載の発明は、請求項2、3または4記載の孔版印刷装置の圧胴において、上記圧胴本体側の弾性層に形成された上記凹部と密着・嵌合可能な弾性層を備え、上記圧胴本体の上記凹部に対して着脱可能であり、かつ、第1の着脱部材と互換性を有する第2の着脱部材を具備することを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項2ないし5の何れか一つに記載の孔版印刷装置の圧胴において、第1、第2の着脱部材は、磁性材料から形成されており、第1、第2の着脱部材が着脱される上記圧胴本体の上記凹部に磁石を埋設したことを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし6の何れか一つに記載の孔版印刷装置の圧胴において、上記被印刷媒体は、はがき、画用紙および厚紙の何れか一つであることを特徴とする。以下、はがき、画用紙および厚紙等の何れか一つを、単に「厚紙等」ともいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記課題を解決して新規な孔版印刷装置の圧胴を実現し提供することができる。請求項ごとの効果を挙げれば、以下のとおりである。
請求項1および7記載の発明によれば、被印刷媒体(例えば、はがき、画用紙および厚紙等の何れか一つ)における圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部と接触する弾性層の所定領域に、凹みを形成したことにより、印刷時の押圧力が被印刷媒体(例えば、はがき、画用紙および厚紙等の何れか一つ)における圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部に繰り返し作用しても、特には、はがきや画用紙あるいは厚紙における圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部に対向する部分に弾性層が無いため、被印刷媒体の上流端縁部および両側端縁部が凹みに逃げることで、バリ等による局部的に高い圧力が版胴上の製版済みのマスタに繰り返し掛からず、マスタ破れの発生を未然に防止することができる。これにより、従来のように例えばマスタ側にテープ等を貼り付けるという面倒な作業を行うことなく、厚紙等によるマスタ破れによるインキの漏れがなくなるため、安心して印刷作業を行うことができる。
【0018】
請求項2および7記載の発明によれば、上記構成により、請求項1および7記載の発明と同様の効果を奏するとともに、請求項5記載の構成を準備することが可能となる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、上記構成により、請求項2および7記載の発明と同様の効果を奏するとともに、例えば、はがき、画用紙および厚紙等の何れか一つ以外の、種々多様な被印刷媒体(例えば通常の用紙)サイズに対応した弾性層を準備することが可能となる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、上記構成により、請求項2および7、または請求項3および7記載の発明と同様の効果を奏するとともに、第1の着脱部材の交換作業が確実かつ精度良く行うことができるとともに、第1の着脱部材と圧胴本体との係止・固定が印刷範囲外で行えるため、画像範囲を制限することなく、厚紙等の印刷によるマスタ破れの発生を未然に防止することができる。
【0021】
請求項5記載の発明によれば、上記構成により、請求項2および7、請求項3および7、または請求項4および7記載の発明と同様の効果を奏するとともに、凹みを形成可能な第1の着脱部材と、凹部と密着・嵌合可能な弾性層を備え、圧胴本体の凹部に対して着脱可能であり、かつ、第1の着脱部材と互換性を有する第2の着脱部材とを交換することにより、例えば、はがき、画用紙および厚紙等の何れか一つ以外の、通常の被印刷媒体(例えば通常の用紙)への印刷も行うことができる。
【0022】
請求項6記載の発明によれば、上記構成により、請求項2および7、請求項3および7、請求項4および7、または請求項5および7記載の発明と同様の効果を奏するとともに、例えばネジ等による締結手段や結合手段を使わずに、第1または第2の着脱部材を圧胴本体の凹部に固定することができるので、第1の着脱部材と第2の着脱部材との交換を簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という)を説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能および形状等を有する構成要素(部材や構成部品)等については、一度説明した後では同一符号を付すことによりその説明を省略する。図および説明の簡明化を図るため、図に表されるべき構成要素であっても、その図において特別に説明する必要がない構成要素は適宜断わりなく省略することがある。公開特許公報等の構成要素を引用して説明する場合は、その符号に括弧を付して示し、各実施形態等のそれと区別するものとする。
【0024】
まず、図19〜図23を参照して、本発明を適用する圧胴を使用した孔版印刷装置の全体構成および動作について説明する。本発明を適用する孔版印刷装置の圧胴の好適な実施形態例としては、特許文献1で開示された孔版印刷装置の圧胴が基本になっているが、本発明は、特許文献1で開示された孔版印刷装置の圧胴以外の仕様の圧胴にも適用可能なことは無論である。
【0025】
図19に示すように、版胴1は、多孔構造の円筒体を有し、この円筒体の外周面にメッシュスクリーンを巻着して構成されている。この版胴1の外周部には、開閉自在なマスタクランパ2が版胴1の母線と平行に設けられている。このマスタクランパ2は、装置本体側に設けられた図示しない開閉装置により駆動力を伝達されて、所定位置にて開閉される。マスタクランパ2には、マスタ3の先端部が挾持されている。マスタ3の後端側は、版胴1の外周面に巻装されている。
【0026】
図19中、版胴1の右側には、マスタ3を原稿の情報に基づいて穿孔・製版する製版書き込み装置80が配置されている。製版書き込み装置80は、マスタ3に穿孔製版する多数の発熱素子を備えた製版手段としてのサーマルヘッド81と、マスタ3をサーマルヘッド81の発熱素子部に押し付けつつ、マスタ3を搬送するプラテンローラ82と、このプラテンローラ82を駆動するパルスモータ83と、マスタ3を切断するカッタ84と、このカッタ84を駆動するカッタ駆動モータ85と、このカッタ駆動モータ85により駆動されマスタ3の切断時機を決定する偏心カム86と、マスタ3の先端をマスタクランパ2へ案内する一対の給版ローラ87とから主に構成されている。製版書き込み装置80内において、マスタ3は、ロール状に巻かれて繰り出し可能に収納されている。図19中、版胴1の左側には、すでに版胴1に巻装されている使用済みのマスタ3を版胴1から剥離して格納する排版装置88が配置されている。
【0027】
ここで、孔版印刷装置で現在使用されているマスタ3について補説する。マスタ3としては、例えば熱可塑性樹脂フィルムと、和紙繊維とか合成繊維あるいは和紙繊維および合成繊維を混抄したもの等からなる多孔質支持体とを貼り合わせたラミネート構造のものが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムの材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)系のものが用いられる。
マスタ3は、上記した物に限らず、マスタ3の多孔質支持体の厚さを薄くしたマスタであってもよく、例えば特開平11−77949号公報に記載されているような合成繊維ベースマスタ(2)でもよいし、また特開平10−147075号公報に記載されているような熱可塑性樹脂フィルムと少なくとも一層の多孔性樹脂膜と多孔性支持体とを有するマスタ、すなわち熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に樹脂からなる多孔性樹脂膜を設け、さらにその表面に繊維状物質からなる多孔性支持体としての多孔性繊維膜を積層してなるマスタ、または熱可塑性樹脂フィルムと少なくとも一層の多孔性樹脂膜とからなるマスタ、あるいは実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタ等も使用することができる。
【0028】
マスタ種類としては、通常マスタが使用される。通常マスタとは、高耐刷マスタ以外の公知のマスタをいい、熱可塑性樹脂フィルムの厚みが高耐刷マスタのそれと比べて薄く、大体0.5〜2.5μmの範囲のものである。通常マスタのトータルの厚み(主として熱可塑性樹脂フィルムと多孔質支持体とを合わせたトータルの厚みを意味する。以下、同様。)は、大体10〜60μmの範囲のものである。
通常マスタは、熱可塑性樹脂フィルムの厚みが薄く、かつ、トータルの厚みも薄いため、価格が安く、いわゆる腰の強さ(剛性・剛度)および耐刷枚数が低い。
【0029】
版胴1は、図示しない駆動装置により時計回り方向に回転駆動される(図中矢印Aの方向)。版胴1の内部には、該版胴1と同方向に同期して回転するインキローラ4と、このインキローラ4の外周面と僅かに隙間を設けて配置されインキローラ4との間に楔状のインキ溜まり6を形成するドクターローラ5とが配設されている。このドクターローラ5により、インキ溜まり6のインキが所定量に計量されてインキローラ4の外周面に供給される。インキは、軸パイプ7に開けられた孔よりインキ溜まり6に供給される。インキローラ4の外周面に供給されたインキは、版胴1の内周面とインキローラ4外周面との間に僅かな隙間があるので、版胴1の内周面に供給される。
【0030】
版胴1の下方には、この版胴1に押圧される押圧手段としての圧胴10がインキローラ4に対向して配設されている。圧胴10の直径は、版胴1の直径と略同一に設定されている。圧胴10は、この圧胴10の基部をなす圧胴本体としての本体部40と、圧胴10を支持する軸11と、本体部40の外周面に設けられた弾性層50とから主に構成されている。本体部40および弾性層50については、後で詳細に説明する。
【0031】
圧胴10の外周面の一部には、版胴1上のマスタクランパ2との衝突を避けるために、圧胴10の母線方向に延在する凹部17が形成されている。この凹部17には、合成樹脂からなるクランパベース18が設けられており、このクランパベース18には、被印刷媒体(被印刷部材)としての用紙Pの先端部を圧胴10に保持する保持手段としての用紙クランパ19が取り付けられている。用紙クランパ19は、軸19aとともに所定の角度範囲で回動可能、すなわち揺動・開閉可能に図示しない支持部材により支持されており、装置本体側に設けられた図示しないカムにより所定のタイミングで開き、用紙Pをくわえた後、閉じて圧胴10に用紙Pを保持し、剥離爪20の位置に至ると再び開き、用紙Pを開放して該用紙Pを排紙搬送装置21に送り出す。
【0032】
圧胴10は、版胴1に対する押圧位置が回転毎に同じになるように、図示しない駆動機構に設けられた歯付きの無端ベルトで版胴1に連結されていて、反時計回り方向(図中矢印Bの方向)に回転するようになっている。
【0033】
圧胴10の軸11は、支点軸12を中心に揺動自在な一対のアーム13(一方のみ図示する)に支持されており、圧胴10は、アーム13の揺動に応じて版胴1に対して接離自在である。アーム13の自由端は、その一端が装置本体の図示しない側板に固定されたスプリング14によって圧胴10が版胴1に押圧するように常時付勢されている。アーム13の自由端には、カムフォロア15が設けられており、このカムフォロア15は、アーム13の揺動を制御する、すなわち、圧胴10の版胴1への押圧時機を制御するための印圧カム16に当接している。
【0034】
また、圧胴10は、用紙Pの搬送不良時の対処として、版胴1に対して圧胴10が押圧されないように、版胴1と同期して回転する印圧カム16により、所定のタイミングで版胴1から離間する。そして、搬送不良がない場合には、再び、用紙Pを保持した圧胴10がスプリング14により版胴1の外周面に押圧されることとなる。搬送不良が発生した場合には、圧胴10は、版胴1に押圧されず、図示しない印圧解除装置により圧解除されて、版胴1から離間した位置に保持されるようになっている。
【0035】
図19中、版胴1の右下方には、多数枚の用紙Pを積載可能なエレベータ方式の給紙トレイ30と、図中矢印C1,C2の方向に回転して圧胴10に用紙Pを給送する上下一対のレジストローラ(フィードローラ)31、31とが設けられている。給紙トレイ30は、積載された用紙Pの最上位が、常に呼び出しローラ32に適切な範囲、すなわち、用紙Pが搬送可能な範囲の押圧力で接触する状態を保持しつつ、昇降するように図示しない制御手段により制御される。
【0036】
給紙トレイ30とレジストローラ対31との間には、用紙Pの重送を防止する分離手段としての分離ローラ対33が配設されている。分離ローラ対33は、給紙トレイ30からの用紙Pをレジストローラ対31に送り出す給紙ローラ33aと、この給紙ローラ33aの下方に配設され、最上位の用紙P以外を給紙トレイ30に戻す分離ローラ33bとから構成されている。
分離ローラ対33とレジストローラ対31との間には、用紙Pをレジストローラ対31のニップ部に案内するガイド板34が設けられており、レジストローラ対31から用紙クランパ19に向かう部分にも、用紙Pを案内するガイド板34が設けられている。
【0037】
なお、呼び出しローラ32は、図中矢印Dの方向に、給紙ローラ33aは、図中矢印Eの方向に、分離ローラ33bは、図中矢印Fの方向にそれぞれ回転する。給紙トレイ30、レジストローラ対31、呼び出しローラ32および分離ローラ対33から給紙手段が構成されている。
【0038】
図19中、版胴1の左下方には、印刷後(インキ塗布後)の用紙Pを圧胴10から剥離するための剥離爪20と、剥離した用紙Pを排紙トレイ22に搬送する排紙搬送装置21と、排紙搬送装置21により搬送された用紙Pを蓄えておく排紙トレイ22とがそれぞれ配設されている。排紙搬送装置21は、用紙Pの裏面を吸引する吸着ファン23と、一対の搬送ローラ24、25と、これら搬送ローラ24、25の間に架け渡されたベルト26とから構成されている。
【0039】
次に、上述の孔版印刷装置の印刷動作について説明する。
まず、すでに版胴1に巻装されている使用済みのマスタ3が、版胴1から剥離され排版装置88に格納される。一方、製版書き込み装置80内のマスタ3には、図示しないスキャナからの画像信号に基づいてサーマルヘッド81によって穿孔製版が行われる。製版されたマスタ3は、プラテンローラ82および給版ローラ対87によって、版胴1に向けて送り出されて、その先端を版胴1のマスタクランパ2に挟持・保持される。
【0040】
上記製版動作が続行されて、版胴1が図中矢印Aの方向に回転するとともに、マスタ3が一定量送り出されつつ版胴1の外周面に巻装される給版動作が行われる。パルスモータ83のステップ数から1版分のマスタ3への製版が終了したと判断されると、カッタ駆動モータ85が駆動されることにより偏心カム86を回転させてカッタ84を駆動し、マスタ3が切断される。そして、版胴1の外周に製版された1版分の製版済みのマスタ3が巻き付けられて、製版給版動作が完了する。
【0041】
呼び出しローラ32により給紙された用紙Pは、給紙ローラ33aと分離ローラ33bにより重送が防止され、最上位の1枚だけがレジストローラ対31に送られる。この用紙Pの先端は、一旦、レジストローラ対31のニップ部で停止されて斜行等が防止された後、所定のタイミングでレジストローラ対31によって、圧胴10に向けて搬送される。このタイミングに合わせ、圧胴10中の用紙クランパ19は開き、用紙Pをくわえた後、用紙クランパ19は閉じ、圧胴10に用紙Pが保持されたまま、圧胴10が図中矢印Bの方向に回転し、版胴1と圧胴10とのニップ部に用紙Pが送り込まれる。
【0042】
図19において、版胴1と圧胴10とのニップ部は、スプリング14の付勢力により加圧されており、用紙Pが版胴1の外周面に押圧される。この押圧の際に、インキローラ4により、版胴1の外周面に巻装されている製版済みのマスタ3の穿孔部を通過してきたインキが用紙Pに転移・転写され、印刷が行われる。
【0043】
インキが転写された用紙Pは、さらに圧胴10が回転することにより、剥離爪20の手前で用紙クランパ19が開き、剥離爪20により剥離され、排紙搬送装置21によって排紙トレイ22に搬送され、排紙トレイ22上に積載され、印刷を終了する。
【0044】
図20、図21に示すように、本体部40は、一端に底板40aを有する有底円筒体、すなわち、カップ形状の円筒体からなる。本体部40の他端には円盤状のフランジ41が接着によって固着されている。本体部40およびフランジ41は、熱硬化性の樹脂、例えば、フェノール樹脂で一体成形されている。熱硬化性の樹脂は、加熱されることより可塑性を失い剛体に変化する樹脂であり、熱可塑性の樹脂に比べて熱膨張率が小さく、高強度で厚肉成形が可能で、変形しにくいという特長を有している。
【0045】
本体部40を熱硬化性の樹脂で一体成形することによって、本体部40の内部にリブを設ける必要がなくなり、従来のアルミニウムの押出し材を使用した場合よりも、圧胴10を軽量化することができる。また、従来のアルミニウムの押出し材よりも剛性がある。さらに、本体部40をカップ形状の円筒体とし、この開口端にフランジ41を固着することによって、圧胴10の強度を向上することができる。
【0046】
底板40aおよびフランジ41の各中心部には、軸11が挿通されている。軸11は、ピン42により底板40aに固定されている。軸11の圧胴10の両端から突出する各部分、すなわち、底板40aおよびフランジ41から突出する各部分には、玉軸受43、43がそれぞれ圧入されており、底板40aから突出する端部には、歯付きのプーリ44が固設されている。玉軸受43、43は、アーム13に固定されており、これによって圧胴10は、アーム13に回転自在に支持されている。歯付きのプーリ44には、上述した歯付きの無端ベルトが噛み合っている。
【0047】
弾性層50は、圧縮残留歪みが小さい単発泡のウレタンフォームのスポンジ状のシートからなり、この圧縮率が用紙Pの圧縮率よりも高いシートを使用している。
本例では、弾性層50に、株式会社イノアックコーポレーション製のポロンML−32を使用している。ポロンML−32は、環境保護を目的に開発された特許文献1で引用されたポロンL−24とほぼ同じ性能を持つウレタン系のマイクロセル発泡体である。
ポロンML−32と、従来使用されていたポロンL−24との各物性値の比較データを、表1に示す。後述の各実施形態、実施例1および各変形例では、弾性層50にポロンML−32を使用している。
【0048】
【表1】

【0049】
弾性層50は、本体部40の凹部17以外の周面、すなわち、円弧状の部分に図示しない両面テープにより接着されている。凹部17と円弧状部分との境では、図22に示すように、弾性層50の端面50aは、凹部17の縁面17aと略面一となっている。
【0050】
本体部40の底板40aと開口端40bとの外周には、図20および図23に示すように、その外径が本体部40の中央部から端部に向かって漸次増大するテーパー部40cがそれぞれ設けられている。このテーパー部40cに対応する弾性層50は、テーパー部40cに沿って本体部40の外周面に接着されている。換言すると、弾性層50の両端部分も、テーパー部40cと同様に、本体部40の中央部から端部に向かって漸次増大するテーパー状をなしている。
【0051】
したがって、本体部40の両端部の厚さが本体部40の中央部の厚さよりも漸次厚くなり、圧胴10の両端部の外径が圧胴10の中央部の外径よりも漸次大きくなるので、版胴1への押圧時に、弾性層50の両端部がその中央部よりも多く圧縮されることによって、この部分の硬度が高くなり、圧胴10の端部の剛性が向上する。低温印刷時や高速印刷時においては、圧胴10の両端部の剛性が不足して圧胴10の両端部が変形し、印圧が低くなり、用紙Pの幅方向における両端部で画像がかすれたり、欠損するといった問題が発生し易いが、上述のように圧胴10の両端部の剛性を向上させることによって、画像面積全域において印圧が確保され、画像のかすれや欠損を防止できる。
【0052】
図23において、各部の厚さおよび長さについて説明すると、本例では、本体部40の中央部の厚さt1は3〜5mmであり、弾性層50の厚さt2は3〜6mmである。このときの本体部40のテーパー部40cの母線方向の長さLは10〜30mmである。また、底板40aと開口端40bとにおける厚さが、本体部40の中央部の厚さt1よりも厚さt3だけ厚くなっていることによって、テーパー部40cの傾斜が設定されている。なお、厚さt3は、0.5〜0.7mmである。
【0053】
(第1の実施形態)
図1〜図4を参照して、本発明の第1の実施形態を説明する。
第1の実施形態は、図19〜図23に示した圧胴10を使用した孔版印刷装置と比較して、図19〜図23に示した圧胴10に代えて、図1および図2等に示す圧胴10Aを用いる点のみ相違する。この相違点以外は、第1の実施形態は図19に示した孔版印刷装置と同様である。
圧胴10Aは、図19〜図23に示した圧胴10と比較して、図1〜図3に示すように、用紙としてのはがきPにおける圧胴10Aの回転方向Bの上流端縁部Paおよび両側端縁部Pbと対向・接触する弾性層50の所定領域に、はがきPの上流端縁部Paおよび両側端縁部Pbを逃がすための凹み100を形成した点が主に相違する。
【0054】
凹み100を弾性層50の所定領域に形成する方法には、大別して2種類がある。1つは、図19等に示した従来の完成状態の圧胴10を後処理する方法である。すなわち、本体部40に弾性層50を両面テープで接着・固定した後、弾性層50の一部を適宜の切削器具等で削除・除去して、弾性層50の所定領域に溝状の凹み100を形成する方法である。図2において、長方形をなす太い網目状の外形線は、小サイズの用紙であるはがきPの輪郭・外周端を表している。結果的には、図1および図2に示すように、凹み100と、小サイズの用紙であるはがきPよりも輪郭形状の小さい小サイズ用弾性層102とが作製される。
【0055】
他の1つは、以下、説明する本実施形態の方法である。図2において、Pcは、圧胴10Aに配設されている図示を省略した用紙クランパによりくわえられるはがきPの先端部を示す。
凹み100の逃げ量は、被印刷媒体搬送方向である用紙搬送方向Xにおいて、X1=10mm、X2=5mm、被印刷媒体幅方向である用紙幅方向Yにおいて、Y1=Y2=10mm、Y3=5mm程度が良い。凹み100の逃げ量(溝幅)X1,X2,Y1,Y2,Y3が余り大きいと、版胴側の製版済みのマスタに、印圧が掛からないことによりインキが溜まって膨らむので、これを小さく保持する上でも、上記寸法が適当である。
【0056】
本実施形態では、本体部40に接着する前の弾性層50において、凹み100で囲まれた内側全体に凹部を形成すべくその領域部分を切り欠いた弾性層50を予め準備しておき、この切り欠いた弾性層50等からはがきPよりも輪郭形状の小さい小サイズ用弾性層102を作製する。その後、図2に示した凹み100の逃げ形状を本体部40にけがき、または本体部40の成型時に使用する金型に凹み100の逃げ形状線を反映しておき、これを貼り付け目標として、予め準備しておいた上記領域部分を切り欠いた弾性層50および小サイズ用弾性層102を圧胴本体部40にそれぞれ両面テープで接着・固定する。
小サイズ用弾性層102の材料仕様および厚さは、弾性層50と同じものを用いている。つまり、圧胴10Aの完成状態における弾性層50および小サイズ用弾性層102の外径は、同じである。
【0057】
本実施形態では、用紙Pとしては専ら「はがき」に印刷するための圧胴10Aとして説明したが、孔版上質等の普通紙や薄紙等の通常の用紙に印刷する場合には、圧胴10Aの凹み100に接触する用紙部分に押圧力が作用しなくなるため、凹み100に接触する用紙部分に印刷画像が形成されなかったり、印刷画像濃度が極端に薄くなる虞があり、印刷画質が悪くなってしまう。
そこで、例えば、凹み100形成部分に嵌合・密着する弾性層50と同様の材質・厚みからなる部材を埋設して対応してもよい。また、装置が複雑となることが許容されるのであれば、例えば、上記凹み100を形成した圧胴10A全体を装置本体に着脱可能なはがき専用の圧胴ユニットとして構成するとともに、あるいはその他使用する画用紙や厚紙専用の装置本体に着脱可能な圧胴ユニットとして構成し、凹み100を形成していない従来と同様の図19等に示した圧胴10からなる装置本体に着脱可能な圧胴ユニットとして構成してもよい。
【0058】
本実施形態の特徴的な圧胴10A構成で、はがきPに印刷する場合、図4(b)に拡大・誇張して示すように、押圧力は、小サイズ用弾性層102の各端上のはがきP部分までには掛かるが、凹み100を形成したはがきPにおける上流端縁部Paおよび左右の両側端縁部Pbには作用しないため、はがきPの各端縁部Pa、Pbに生じたバリPd等の凸部による局部的に高い圧力が版胴1上の対応する製版済みのマスタ3部分に掛からず、その結果、マスタ破れが発生しないこととなる。換言すれば、従来と比べて、マスタ破れが発生するまでのはがきP等の厚紙の耐刷枚数を顕著に増加させることができる。
【0059】
また、はがきPに印刷する場合、図4(a)に示すように、圧胴10Aが版胴1に押圧されることによって、弾性層50および小サイズ用弾性層102は全体的に圧縮されるが、特に、小サイズ用弾性層102のはがきPに対応する部分は、はがきPの形状に沿って凹んで、はがきPの体積分だけ圧縮される。このとき、小サイズ用弾性層102は、体積移動せずに弾性変形する。
体積移動せずに弾性変形するということは、気泡間のウレタンが座屈して、気泡中に移動し、はがきPの体積分を吸収するといことを意味する。このため、見かけ上、ウレタンフォームが圧縮分体積移動しないこととなる。これにより、特許文献1の段落「0059」〜「0060」および図8に記載したように、マスタ3に対するしわの発生を防止できる。
【実施例1】
【0060】
孔版印刷装置として株式会社リコー製の「プリポートA650」の圧胴10のみを改造して、これに代えた第1の実施形態の圧胴10Aと従来の圧胴10とを用い、官製はがきに孔版印刷を行う耐刷枚数に関する比較試験を印刷速度を変えて実施した。後述の主な試験条件および環境条件は、両者の比較試験で同じ条件で行った。
主な試験条件(印刷・環境条件)としては、印刷速度は主として120枚/分(120rpm)で、押圧力(印圧)は210Nに設定して行った。環境条件としては、常温(温度23℃、相対湿度65%)で行った。
マスタとしては、両者の比較試験で同一の、株式会社リコー製のマスタ:サテリオマスタータイプ(A3)(熱可塑性樹脂フィルム:ポリエチレンテレフタレート(PET)製で、該フィルムの厚さ:1.8μm、多孔質支持体の厚さ8μm、マスタのPETと多孔質支持体とを合わせたトータルの厚さ:30〜36μm)を用いた。なお、第1の実施形態の圧胴10Aの凹み100の逃げ形状寸法、圧胴10,10Aを構成する各材料等は上述したものを用いた。
【0061】
比較試験の結果、第1の実施形態の圧胴10Aを用いた場合には、印刷速度に関わらず、官製はがき1000枚以上印刷しても、マスタ破損およびこれに伴うインキ汚れが全く発生せず、印刷画質も良好で本発明の効果が確認された。
しかしながら、従来の圧胴10では、官製はがき500枚以下で、マスタ破損およびこれに伴うインキ汚れが確認された。
【0062】
(第2の実施形態)
図5〜図15を参照して、本発明の第2の実施形態を説明する。
第2の実施形態は、図1および図2等に示した圧胴10Aを使用した孔版印刷装置と比較して、圧胴10Aに代えて、図5〜図10、図12に示す圧胴10Bおよび図14に示す圧胴10Cを用いる点のみ相違する。第2の実施形態は、上記相違点以外は図1および図2等に示した第1の実施形態の圧胴10Aと同様である。
【0063】
圧胴10Bは、図1および図2等に示した圧胴10Aと比較して、圧胴10Aの所定領域に形成された凹み100で囲まれた圧胴本体側の弾性層50に、図8、図9、図12および図13に示すように凹部としての弾性層凹部90を形成した点、圧胴10Aの所定領域に形成された凹み100で囲まれた本体部40に、図8、図9、図10、図12および図13に示すように、凹部としての段差部104を形成した点、および図5〜図9、図11〜図13に示すように、弾性層凹部90よりも小さい形状(平面視での形状)からなる弾性層を備え、段差部104に対して着脱自在な第1の着脱部材としての着脱部材93を用いる点が主に相違する。
【0064】
圧胴10Cは、図1および図2等に示した圧胴10Aと比較して、圧胴10Aの所定領域に形成された凹み100で囲まれた圧胴本体側の弾性層50に、圧胴10Bと同様に、凹部としての弾性層凹部90を形成した点(図8、図9、図12、図13参照)、圧胴10Bと同様に、圧胴10Aの所定領域に形成された凹み100で囲まれた本体部40に、凹部としての段差部104を形成した点(図8、図9、図10、図12、図13参照)、図14、図15に示すように、弾性層凹部90と密着・嵌合可能であり、弾性層凹部90と平面視でほぼ同一の形状の弾性層を備え、段差部104に対して着脱自在であり、かつ、着脱部材93(第1の着脱部材)と互換性を有する第2の着脱部材としての着脱部材95を用いる点が主に相違する。
【0065】
着脱部材93(第1の着脱部材)は、図12等に示すように、本体部40の段差部104(凹部)と嵌合可能な着脱部材本体101と、該着脱部材本体101に図示しない両面テープで接着・固定され、段差部104(凹部)よりも平面視で小さい形状からなる弾性層としての小サイズ弾性層102とからなる。
【0066】
着脱部材95(第2の着脱部材)は、図15に示すように、本体部40の段差部104(凹部)と嵌合可能な着脱部材本体101と、該着脱部材本体101に図示しない両面テープで接着・固定され、弾性層凹部90と密着・嵌合可能であり、弾性層凹部90と平面視でほぼ同一の形状の嵌合弾性層105とからなる。
【0067】
上述したとおり、着脱部材本体101は、着脱部材93(第1の着脱部材)と着脱部材95(第2の着脱部材)とに亘り共通の構成部材(構成要素)であり、例えば鉄材・鋼板等の板金で形成されていて、図10および図11に示すように段差部104の曲面形状に倣う形状に成形されている。
本実施形態例では、弾性層凹部90と段差部104との形状は、その深さを除き、ほぼ同一の形状で形成されている。なお、段差部104は、着脱部材本体101との嵌合面積を稼ぐために弾性層凹部90とほぼ同一の形状で形成したが、これに限らず、弾性層凹部90よりも小さく、かつ、小サイズ弾性層102よりも大きい形状であってもよい。
【0068】
着脱部材本体101には、着脱部材93と着脱部材95とに亘り互換性を持たせるための以下の着脱手段(第1および第2の係止手段、第1および第2の被係止手段)も配設されている。着脱部材本体101を本体部40の段差部に着脱可能に組み込む際、圧胴10B,10Cの回転方向Bの下流側端部は印刷側にあるため、ネジ等の締結・結合手段での固定は困難(ネジの場合にはネジ孔が必要になり、印刷漏れ箇所になる)である。そこで、着脱部材本体101の一端側の着脱手段は嵌め込み方式として抜け防止構造とし、着脱部材本体101の他端側の着脱手段は圧胴の印刷範囲外に固定する締結・結合手段を用いるように構成した。
【0069】
すなわち、図10に括弧を付して示す各圧胴10B,10Cの本体部40の段差部104(凹部)における該圧胴10B,10Cの回転方向Bの上流端部には、着脱部材93または95を取り付けるための第1の係止手段としての開口孔104aが形成されている。
図10に示す各圧胴10B,10Cおよび図12に示す版胴10Bの本体部40の段差部104(凹部)における該圧胴10B,10Cの回転方向Bの下流端部の印刷範囲外には、着脱部材93や着脱部材95を取り付けるための第2の係止手段としての突起部104bが設けられている。図5、図8、図9および図12に示すように、本体部40の凹部17には、従来と同様のクランパベース18が取り付けられている。
突起部104bは、図12に示すように、上記印刷範囲外である凹部17近傍のクランパベース18の中央部に設けられていて、突起部104bには第2の係止手段ないしは締結手段としての固定ネジ103と螺合する雌ネジが切られている。クランパベース18の中央部には、突起部104bを避けるための逃げ開口部18aが形成されている。また、図5、図9および図12には図示していないが、用紙クランパ19側にも同じように固定ネジ103との接触を避けるための逃げ開口が形成されている。
【0070】
一方、図11に示すように、着脱部材本体101には、開口孔104aと係合可能な第1の被係止手段としてのL字形状をなす係合突起101aが固着されている。図9、図10および図11において、着脱部材本体101の係合突起101aが段差部104の開口孔104aに嵌入・係合されると、係合突起101aにおけるL字の曲げ部が本体部40の内面壁に係合することで、抜けないようになっている。
また、着脱部材本体101には、突起部104bと係合可能な第2の被係止手段としての二股状をなす係合爪101bが固着されている。係合突起101aおよび係合爪101bは、例えば着脱部材本体101と同じ鉄材で形成されている。
【0071】
次に、着脱部材本体101を介して各着脱部材93,95を本体部40の段差部104および開口孔104a,突起部104bに着脱する際の動作について述べる。
まず、着脱部材93を取り付ける際には、図10〜図12において、着脱部材93における着脱部材本体101の係合突起101aを段差部104の開口孔104aに嵌入させ、着脱部材本体101を圧胴10Bの回転方向Bの上流側に少しずらすと、係合突起101aにおけるL字の曲げ部が本体部40の内面壁に完全に係合することで抜け止めがなされる。次いで、着脱部材本体101の係合爪101bを突起部104bに挟み込み・係合させた後、固定ネジ103を介して係合爪101bを突起部104bに締結・固定する。この状態での、着脱部材93の取り付け完成状態が図5〜図9に示す圧胴10Bとなり、用紙P(はがきP)における上流端縁部Paおよび左右の両側端縁部Pbに対応して凹み100が形成される。
図5〜図9において、着脱部材93の取り付け完成状態の圧胴19Bの外径は、元々ある弾性層50と小サイズ用弾性層102との外径に亘り同じである。
【0072】
本実施形態の特徴的な圧胴10Bの構成で、はがきPに印刷する場合、図13(b)に拡大・誇張して示すように、第1の実施形態と同様に、押圧力は、小サイズ用弾性層102の各端上のはがきP部分までには掛かるが、凹み100を形成したはがきPにおける上流端縁部Paおよび左右の両側端縁部Pbには作用しないため、はがきPの各端縁部Pa、Pbに生じたバリPd等の凸部による局部的に高い圧力が版胴1上の対応する製版済みのマスタ3部分に掛からず、その結果、マスタ破れが発生しないこととなる。換言すれば、従来と比べて、マスタ破れが発生するまでのはがきP等の厚紙の耐刷枚数を顕著に増加させることができる。
また、図13(a)に示すように、第1の実施形態と同じ状態で圧胴10Bが版胴1に押圧されることによって、マスタ3に対するしわの発生を防止できる。
【0073】
次に、着脱部材95を取り付ける際には、図10、図11、図14および図15において、着脱部材95における着脱部材本体101の係合突起101aを段差部104の開口孔104aに嵌入・係合させるとともに、係合爪101bを突起部104bに係合させた後、固定ネジ103を介して、係合爪101bを突起部104bに締結・固定する。この状態での、着脱部材95の取り付け完成状態が図14に示す圧胴10Cとなり、嵌合弾性層105が圧胴10C本体側の弾性層50に密着・嵌合して凹み100の無い、つまり元々ある弾性層50と嵌合弾性層105とに亘り同一の外径・外周面が形成される。
図14に示す圧胴10Cは、図19等に示した従来の圧胴10と見かけ上同一とみなせるから、例えば、はがき、画用紙および厚紙等の何れか一つ以外の、通常の被印刷媒体(例えば用紙)への印刷も行うことができる。
【0074】
(第2の実施形態の変形例1)
図14〜図16を参照して、第2の実施形態の変形例1を説明する。上述したように、着脱部材95の取り付け完成状態が図14に示す圧胴10Cであり、その取付方法は着脱部材93の場合と全く同様である。これにより、はがき以外の通常の用紙に印刷を行う場合、図15の着脱部材95に変更すれば、通常の用紙への印刷を行うことができる。
ここで、図14に示すように、本体部40側の弾性層50と嵌合弾性層105との合わせ目106であるが、通常の印刷(文字等)では問題ないが、合わせ目106の若干の凹みにより、画像濃度が薄くなる可能性がある。この点については、特許文献1の段落「0070」に既に対処方法が開示されており、次の手段を講じている。すなわち、上記段落「0070」を引用すると、「上述の構成であると、ハーフトーン状の画像を印刷する場合には、ゴム層(61)と弾性層(52)との境界部では硬度が急激に変化するので、濃度ムラが発生するおそれがある。そこで、本発明の請求項11に対応する変形例として、図12に示すように、ゴム層(62)と弾性層(53)との境界部におけるゴム層(62)の端部の厚さが、圧胴(10)の回転方向(X)の下流側から上流側に向かって漸次薄くなっている。これに対応する弾性層(53)の端部の厚さは、圧胴(10)の回転方向(X)の下流側から上流側に向かって漸次厚くなっている。この両方の厚さが変化する部分の回転方向における長さL3は、L2と同様に5〜10mmである。」と記載されている。
本変形例でも、上記対処方法に従って、ゴム層(62)を弾性層50と、弾性層(53)を嵌合弾性層105とそれぞれ読み替えることで、図16に示すように、弾性層50と嵌合弾性層105同士の境界部の全てにおいて同じようにテーパ部106aを設ければ、より良好な印刷画像が得られることは明らかである。
【0075】
(第2の実施形態の変形例2)
図17および図18を参照して、第2の実施形態の変形例2を説明する。変形例2は、第2の実施形態における着脱部材93,95の着脱部材本体101の段差部104への固定方式を一部改良したことのみ相違する。
着脱部材93,95に共通の着脱部材本体101は、第2の実施形態と同様に、強磁性体である鉄材から形成されている。
一方、着脱部材93,95の着脱部材本体101が着脱される本体部40の所定箇所の段差部104には、開口部104cが形成されていて、開口部104cには着脱部材本体101を磁力により吸引固定するための永久磁石からなるマグネットキャッチ107が埋設されている。
本変形例では、段差部104に埋設されたマグネットキャッチ107により、固定ネジ103等の締結手段無しに、着脱部材93,95を本体部40側に固定できるため、交換作業が簡単となる。
【0076】
上記実施形態や変形例では、用紙として、専ら「はがき」に印刷する場合で説明したが、もちろん、他の用紙サイズに印刷する場合でも、専用の着脱部材を作製すれば、同じ効果を得られることは明白である。多くの着脱部材を準備して、厚紙印刷によるマスタ破れに対応することは可能である。
以上説明したとおり、本発明を特定の実施形態や変形例等について説明したが、本発明が開示する技術的範囲は、上述した実施形態や変形例あるいは実施例等に例示されているものに限定されるものではなく、それらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および用途等に応じて種々の実施形態や変形例あるいは実施例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】第1の実施形態を示す圧胴の斜視図である。
【図2】図1の圧胴ではがきに印刷する場合の、凹み形成箇所およびその寸法例を説明する要部を展開して示す説明図である。
【図3】図2におけるS2−S2断面図である。
【図4】(a)は、図2の圧胴での印刷状態を示す要部の断面図、(b)は、(a)におけるC部の拡大断面図である。
【図5】第2の実施形態の第1の着脱部材を取り付けた完成状態を示す圧胴の斜視図である。
【図6】図5の右側面図である。
【図7】図5の平面図である。
【図8】図5の正面図である。
【図9】図7のS7−S7断面図である。
【図10】図5の圧胴本体部を角度を変えて見た斜視図である。
【図11】図5の圧胴に用いられる着脱部材本体の斜視図である。
【図12】図10の圧胴本体部に第1の着脱部材を取り付ける構成および取付方法を説明する斜視図である。
【図13】(a)は、図5の圧胴での印刷状態を示す要部の断面図、(b)は、(a)におけるC部の拡大断面図である。
【図14】第2の実施形態の第2の着脱部材を取り付けた完成状態を示す圧胴の斜視図である。
【図15】図14に示した第2の着脱部材の斜視図である。
【図16】変形例1を説明するための図14のS14−S14断面図である。
【図17】変形例2を示す図であって、圧胴本体部の段差部に埋設するマグネットキャッチを説明する斜視図である。
【図18】図17の要部の断面図である。
【図19】本発明を適用する圧胴を使用した孔版印刷装置全体の概略的な正面図である。
【図20】圧胴の母線方向における縦断面図である。
【図21】圧胴の円周方向における縦断面図である。
【図22】圧胴のクランパベースの取付け部の拡大断面図である。
【図23】圧胴の端部の拡大断面図である。
【図24】従来の圧胴を使用した孔版印刷装置ではがきに印刷している状態を説明する一部断面側面図である。
【図25】従来の圧胴を使用した孔版印刷装置ではがきに印刷した場合に、マスタの破損箇所を説明する図である。
【符号の説明】
【0078】
1 版胴
3 マスタ
10A,10B,10C 圧胴
18a 逃げ開口部
40 本体部(圧胴本体、円筒体)
50 弾性層
90 弾性層凹部(圧胴本体側の弾性層に形成された凹部)
93 着脱部材(第1の着脱部材)
95 着脱部材(第2の着脱部材)
100 凹み
101 着脱部材本体
101a 係合突起(第1の被係止手段)
101b 係合爪(第2の被係止手段)
102 小サイズ用弾性層(弾性層)
103 固定ネジ(第2の係止手段、締結手段)
104 段差部(圧胴本体側に形成された凹部)
104a 開口孔(第1の係止手段)
104b 突起部(第2の係止手段)
105 嵌合弾性層(弾性層)
106 合わせ目
106a テーパー部
107 マグネットキャッチ・永久磁石(磁石)
P 用紙、はがき(被印刷媒体、シート状の記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に製版済みのマスタを装着して回転する版胴に被印刷媒体を押圧しつつ回転する、圧胴本体とこの外周に弾性層とを有する円筒体からなる孔版印刷装置の圧胴において、
被印刷媒体における上記圧胴の回転方向の上流端縁部および両側端縁部と接触する上記弾性層の所定領域に、凹みを形成したことを特徴とする孔版印刷装置の圧胴。
【請求項2】
上記所定領域で囲まれた上記圧胴本体側の上記弾性層および該圧胴本体に、凹部を形成し、
上記圧胴本体側の上記弾性層との間で上記所定領域の凹みを形成すべく上記凹部よりも小さい形状からなる弾性層を備え、上記圧胴本体の上記凹部に対して着脱可能な第1の着脱部材を有することを特徴とする請求項1記載の孔版印刷装置の圧胴。
【請求項3】
第1の着脱部材は、上記圧胴本体の上記凹部と嵌合可能な着脱部材本体と、該着脱部材本体に固着され、上記凹部よりも小さい形状からなる弾性層とからなることを特徴とする請求項2記載の孔版印刷装置の圧胴。
【請求項4】
上記圧胴本体の上記凹部における上記圧胴の回転方向の上流端部に設けられた第1の係止手段と、
第1の着脱部材に設けられ第1の係止手段と係合可能な第1の被係止手段と、
上記圧胴本体の上記凹部における上記圧胴の回転方向の下流端部の印刷範囲外に設けられた第2の係止手段と、
第1の着脱部材に設けられ第2の係止手段と係合可能な第2の被係止手段とを有することを特徴とする請求項2または3記載の孔版印刷装置の圧胴。
【請求項5】
上記圧胴本体側の上記弾性層に形成された上記凹部と密着・嵌合可能な弾性層を備え、上記圧胴本体の上記凹部に対して着脱可能であり、かつ、第1の着脱部材と互換性を有する第2の着脱部材を具備することを特徴とする請求項2、3または4記載の孔版印刷装置の圧胴。
【請求項6】
第1、第2の着脱部材は、磁性材料から形成されており、
第1、第2の着脱部材が着脱される上記圧胴本体の上記凹部に磁石を埋設したことを特徴とする請求項2ないし5の何れか一つに記載の孔版印刷装置の圧胴。
【請求項7】
上記被印刷媒体は、はがき、画用紙および厚紙の何れか一つであることを特徴とする請求項1ないし6の何れか一つに記載の孔版印刷装置の圧胴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2009−178934(P2009−178934A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19831(P2008−19831)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)