説明

孔版印刷装置

【課題】片面印刷後の用紙をプレスローラの円周面に沿わせて反転させつつその先端部を版胴とプレスローラのニップ部に送り込み、残る片面の印刷を行う孔版印刷装置において、反転搬送に際して用紙をプレスローラに押圧するローラコロの動作タイミング不適正に伴う画像位置のずれを解消すること。
【解決手段】印刷速度が速い場合には、印刷速度が遅い場合に比べて、ローラコロ駆動手段72の動作タイミングを早くし、印刷速度が遅い場合には該動作タイミングを遅くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムからなる孔版マスタを穿孔製版して、多孔性円筒状版胴に巻着し連続的に両面印刷等を行える孔版印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インキ供給手段を有し、自身の中心軸線廻りに回転自在に支持された多孔性円筒状版胴に、製版されたマスタを巻着し、前記版胴に押圧手段で用紙を押圧して、マスタの穿孔部を通じてインキを惨み出させて印刷を行う孔版印刷装置が知られている。
【0003】
詳しくは、前記多孔性円筒状の版胴は、多孔性の支持円筒体に樹脂あるいは金属網体のメッシュスクリーンを複数層巻装した構成の回転自在なドラム形状をしたものが用いられる。前記マスタは、熱可塑性樹脂フィルム(厚みは大体1〜2μm程度のものが一般に用いられる。)に、多孔質支持体として和紙繊維とか合成繊維、あるいは和紙と合成繊維とを混抄したものを貼り合わせたラミネート構造の孔版マスタ(以下、単にマスタという。)が用いられる。
【0004】
このマスタのフィルム面をサーマルヘッドに接触させ、プラテンローラ等でマスタを搬送しながら加熱穿孔製版し、この製版済みのマスタを版胴に巻着し、プレスローラ等の押圧手段で該用紙を押圧して、版胴の開孔部及びマスタの穿孔部よりインキを滲み出させて印刷を行う。かかる孔版印刷装置は感熱デジタル孔版印刷装置とも称される。
【0005】
このような孔版印刷装置を用い、近年では印刷用紙の消費量を低減するために、用紙の表裏両面を印刷する両面印刷が行われる。従来は片面を印刷した後に排紙トレイに排出積載された印刷済み用紙を再度裏返して通紙してから、残るもう片面を印刷する方法で両面印刷が行われていた。
【0006】
しかし、従来の両面印刷方式では、印刷作業を二度行うことになり印刷時間が長くなることや、排紙トレイに積載された用紙をきれいに揃え直して再度給紙部にセットしたりする作業が非常に面倒であった。そこで二つの版胴を対向させて印刷を行う等の方法で、同時に両面印刷できる装置の提案が望まれているが、装置が大型化することや、片面印刷時には一方の版胴に無製版マスタを巻着することが必要であることから、マスタが無駄に消費されると共に操作が面倒であった。
【0007】
そこで用紙の制約はあるが製版面を2分割して、プレスローラ等の押圧手段を連続的に版胴に押圧させながらマスタ送り方向での前後2つの製版面に対して用紙を反転させて両面印刷を行う方法が試されている。
【0008】
この両面印刷法では、反転して通紙する場合に印刷画像位置合わせや、スキューなどを矯正するために規制手段で一且、用紙先端位置を合わせた状態で停止させる。その後に、同軸上に段ローラ状に複数配置したローラコロをプレスローラに押し当て、該ローラコロとプレスローラとの間に前記停止を解除された用紙を送り込み、これらのローラと用紙との摩擦力を利用して該用紙を搬送し、該用紙をプレスローラと版胴とのニップ部に送り込むことにより印刷を行なう(例えば、特許文献1参照、また、図1参照)。
【0009】
ここで、特許文献1の技術のように、プレスローラに対する前記ローラコロの接離動作をソレノイド等の駆動手段で行なうことにより用紙の搬送を制御する場合は、特に高速印刷の状況下では、プレスローラから離間した状態のもとで回転を静止している前記ローラコロが、用紙の到来に合わせて該離間した状態から前記駆動手段により変位させられてプレスローラに当接してから後、従動回転するまでの慣性力が用紙を遅れさせる負荷として働き、そのために、用紙位置が変動し、これにより印刷時の画像位置がずれ易い。
【0010】
また、静止状態にある用紙を高速で回転しているプレスローラに接触押圧して搬送することになるため、用紙サイズとか用紙の種類(厚み)等によって用紙の重量が変わる場合に、用紙重量の変化の前後でプレスローラに接触して動き出すときの該用紙の滑り量が変化し、スタート時の用紙先端位置がずれてしまう。用紙先端位置のずれは、印刷したときの画像位置の変化として現れるため、画質の点で問題を生ずる。
【0011】
また用紙は吸湿作用によって該用紙表面の摩擦係数が大きく変化する。このため、例えば、低湿環境では乾燥して用紙表面が滑り易く、反対に高湿環境では繊維が湿気を帯びて滑り難くなり、同様にプレスローラに接触して動き出すときの滑り量が変化して、スタート時の用紙先端位置がバラツキ、印刷したときの画像位置がずれ易いという問題もある。例えば版胴径がφ180mm、印刷枚数を120cpmとした場合、1msで約1.1mm程度移動するため、スタートが数ms変化しても画像位置が大きく変動してしまう。これを回避するため、その都度、使用する用紙サイズとか湿度、印刷する速度に応じて画像位置を合わせる必要があるが煩雑である。
【0012】
【特許文献1】特開2005−238774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述の事情の下になされたもので、両面印刷に際しての画像位置のずれを解消できる孔版印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を達成するため請求項1に係る発明は、インキ供給手段を有し、自身の中心軸線廻りに回転自在に支持された多孔性円筒状版胴に、製版されたマスタを巻着し、前記版胴に押圧手段で用紙を押圧して、マスタの穿孔部を通じてインキを惨み出させて印刷を行う孔版印刷装置であって、マスタをその送り方向での前後2面に分けて加熱穿孔製版する製版手段と、前記用紙をその送り方向の前後2面でそれぞれ押圧する押圧切り換え手段と、前記前後2面の一つである第1面を印刷された用紙をストッパに当接させた状態で保持し、その後に、前記前後2面の他の一つである第2面の位置に合わせてローラコロを変位させて前記押圧手段に当接させ、該押圧手段と前記ローラコロとで前記用紙を挟持して該用紙を反転させながら搬送し、前記版胴に前記押圧手段で用紙を押圧して両面に印刷を行うように構成した孔版印刷装置において、印刷速度に応じて、前記ローラコロの前記変位のタイミングを制御するように構成した。
請求項2にかかる発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、印刷速度が相対的に速い場合は、遅い場合に比べて前記ローラコロの上昇タイミングを進める方向に制御し、印刷速度が相対的に遅い場合は、速い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを遅れる方向に制御することとした。
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載の孔版印刷装置において、前記用紙の重量に応じて、前記ローラコロの前記変位のタイミングを制御するように構成した。
請求項4にかかる発明は、請求項3記載の孔版印刷装置において、相対的に前記用紙の重量が重ければ軽い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを進める方向に制御し、相対的に前記用紙の重量が軽ければ重い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを遅れる方向に制御することとした。
請求項5にかかる発明は、請求項4記載の孔版印刷装置において、前記重量の軽重を、前記用紙のサイズと厚さの因子で判定して制御することとした。
請求項6にかかる発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の孔版印刷装置において、前記ローラコロは1個以上のソレノイドで駆動され、該ソレノイドの内部温度に応じて該ソレノイドによる前記ローラコロの動作タイミングを制御するように構成した。
請求項7にかかる発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の孔版印刷装置において、当該孔版印刷装置が設定されている場所の環境湿度に応じて前記ソレノイドの動作タイミングを制御するように構成した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な手段により両面印刷に際しての画像位置のずれを解消可能な孔版印刷装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施の形態につき説明する。
【0017】
<本発明の実施に適する孔版印刷装置の構成>
本発明の実施に適する孔版印刷装置の構成要部を示した図1において、版胴1の左方上部近傍には製版装置Aが位置している。製版装置Aにおいて、マスタ8はロール8aに巻成され、図示しないホルダ手段によりロール芯8bを回転可能に支持されている。
【0018】
ロール8aから引き出されたマスタ8は製版装置Aの図示しない側板に回転自在に支持されたプラテンローラ9に、無数の発熱素子を有するサーマルヘッド10により押圧されている。プラテンローラ9は図示しないステッピングモータに連結されていて、時計回りに回転駆動されることにより、マスタ8はマスタロール8aより繰り出されるようになっている。
【0019】
サーマルヘッド10は、図示しないバネ部材等によりプラテンローラ9に付勢されている。プラテンローラ9のマスタ搬送下流側(図中、右側)には、搬送ローラ12が配置されている。搬送ローラ12は、互いが押圧した状態となるようにして製版装置Aの図示しない側板対に回転自在に支持された一対のローラからなり、その回転速度はプラテンローラ9の周速より僅かに速い周速に設定され、マスタ8との間で滑りながら回転することで製版に適する適度な張力を付加するようになっている。
【0020】
矢印63で示したマスタ8の搬送方向上、搬送ローラ12の上流側かつサーマルヘッド10の下流側には、製版されたマスタ8を適当な長さに切断する上下刃(ギロチンタイプ)または回転刃移動タイプ等のカッタ11が設けられ、搬送ローラ12の下流側には、マスタ8の先端部を案内するマスタガイド板13が設けられている。マスタガイド板13は製版装置Aの図示しない側板間に固設されている。
【0021】
これら、ロール芯8b、プラテンローラ9、サーマルヘッド10、カッタ11、搬送ローラ12、マスタガイド板13等で製版装置Aが構成されている。
【0022】
図2を参照するに、当該孔版印刷装置には、原稿読取装置としてスキャナ装置50を備えている。原稿読取装置において原稿台50aと排紙台50bとの間にスキャナ装置50が設けられていて、原稿台50aから排紙台50bへ原稿が搬送される過程でCCD等で原稿が読み取られて電気信号に変換されてCPUを備えた制御装置51へ送信される。制御装置51から製版装置Aに電気信号が送信されることにより、サーマルヘッド10の発熱素子に通電され、マスタ8が加熱穿孔されて製版が行われる。通常の片面印刷か両面印刷かの選択は操作パネル52を介してオペレータにより指示が入力されることによって実行される。なお、スキャナ装置50は孔版印刷装置と一体的に構成されていてもよいし、別体として構成されたスキャナ装置を接続して使用する方式でもよい。
【0023】
図1に戻って、製版部Aの右方下部近傍には、多孔性支持円筒体とその外周を覆う図示しない樹脂あるいは金属網体のメッシュスクリーンとが複数層巻装されて構成された版胴1が、インキパイプ5を支軸に回転自在に支持された図示しないフランジに固着され、図示しない駆動伝達手庚(ギヤ等)により駆動力を伝達されて時計回りに回転駆動されるように構成されている。
【0024】
版胴1の内部にはインキパイプ5に固設された図示しない側板により、インキローラ軸を回転自在に支持されたインキローラ2が、図示しない駆動伝達手段(ギヤ、ベルト等)により版胴1と同期して同方向に回転駆動されるようになっている。インキローラ2の外周面と僅かに隙間を設けてドクタローラ3が設けられ、インキローラ2とドクタローラ3との楔状空問に形成されるインキ溜まり4のインキをインキローラ2の外表面に薄膜状に供給する。
【0025】
インキ溜まり4のインキは、図示しないインキ供給装置により版胴外部に設けられたインキパック等より吸引され、インキパイプ5の供給穴5aより供給されたものであり、インキローラ2とドクタローラ3の回転により混練される。
【0026】
版胴1の非開孔部表面には版胴1の1つの母線に沿って、磁性体で形成されたステージ6が設けられている。ステージ6と平行にクランパ軸7aが回動可能に支持されている。クランパ軸7aにはクランパ7が一体的に固設されていて、図示しない開閉装置によりクランパ軸7aが正逆転回動することによりクランパ7が所定位置で開閉される。
【0027】
版胴1は自身の軸線方向にインキパック等と一体で係脱可能になっていると共に、図示しない画像移動装置により軸線方向に移動自在に設けられている。版胴1の下側には図示しない筐体側板に回転自在に支持されたアーム軸16aと、アーム軸16aに固定されたプレスローラアーム16対に、軸部を回転自在に支持された押圧手段としてのプレスローラ15が設けられている。
【0028】
アーム軸16aの一端側には図示しないアームが固定され、回転自在なカムフォロアが設けられており、このカムフォロアは図示しない筐体側板に回転自在に支持されている複数のカムに、スプリング等の付勢手段の付勢力により当接するようになっている。
【0029】
複数のカムは図示しない駆動手段により版胴と同期して回転し、押圧手段であるプレスローラ15を所定の位置で版胴1に当接させたり、離問させたりすることができるようになっている。例えば、複数のカムを切り換えて第一面、第二面、全体、のように押圧範囲を切り換えるような方式が採用される。
【0030】
プレスローラ15は図示しない駆動手段により版胴1と略同じ周速度で版胴1と反対方向に回転駆動される。プレスローラ15の下側には図3、図4にも示すように、プレスローラ15と離間した状態で複数のローラコロ17が、図示しない筐体側板に回転自在に軸部71aを軸支されたローラコロアーム71対に回転自在に軸支されており、ローラコロアーム71に連結された複数のソレノイド72に駆動電流が導通されることによりプランジャが吸引され、予め最低速度で設定されたタイミングでローラコロアーム71が時計回りに回動することにより、版胴1とほぼ同じ周速で回転しているプレスローラ15に後述する片面印刷済み用紙45Aを介して当接し、プレスローラ15より回転力を受けてプレスローラ15と反対方向に回転しながら用紙45Aを搬送するようになっている。
【0031】
ローラコロ17は軽量の樹脂などから構成されて、必要硬度に対してできるだけ慣性力が小さくなるように軽量の材料が用いられている。ソレノイド72は制御装置51により、使用される印刷速度(版胴回転速度)、用紙45のサイズとか用紙厚み情報や、給紙部近辺に設けられた図示しない湿度センサによる環境湿度の情報を元に、通電タイミングが制御される。
【0032】
用紙45のサイズは、図示しない給紙装置の給紙トレイに設けられて、用紙の対向する側縁を挟むようにして案内する左右一対のサイドフェンスの開閉量を検知することにより得ることができる。例えば、サイドフェンスは互いに対向し合う位置に延出するラックを夫々有し、これらのラックに挟まれて共通に噛み合うピニヨンの回転により連動して開閉するが、このピニヨンの回転位置をサイズセンサにより検出することによりサイドフェンスの対向間隔、すなわち用紙の幅サイズを検出することができる。
【0033】
レジストローラ14の上流位置には用紙を積載した給紙部があり、給紙トレイに積載された用紙を分離給紙部で一枚に分離して該レジストローラ14に送り出すようになっている。この分離給紙部とレジストローラ14との間の用紙搬送路に用紙の透過光を検出する厚さセンサを設けておき、この透過光の強度を検出することにより、用紙厚み情報を検出することができる。これら用紙のサイズや厚さの情報を得る手段については周知であり、例えば、特許第3788650号公報において開示されている。
【0034】
これら用紙のサイズや厚さを用紙の軽重を判断する因子として捉え、これら情報を制御装置51に集め、予め用意されたデータテーブルと照合されて印刷に供される用紙の重量を自動的に把握することができるようにしている。
こうして用紙の重量が把握されると、用紙の重量が重ければ軽い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを進める方向に制御し、用紙の重量が軽ければ重い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを遅れる方向に制御する。
【0035】
本実施例では印刷速度が速くなるにつれて、ローラコロ17が速い上昇速度で上昇し或いは上昇開始のタイミングが早期となるように動作して用紙45をプレスローラ15に当接させ、用紙45が動き出すときの負荷になるローラコロ15の慣性力を加味して所定量速くなる方向に制御装置51により制御される。
【0036】
例えば、印刷速度が相対的に速い場合は、遅い場合に比べてローラコロ17の上昇タイミングを進める方向に制御し、印刷速度が相対的に遅い場合は、速い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを遅れる方向に制御する。
【0037】
また、使用される用紙(ここでは主に使用される上質紙で設定している)の坪量に合わせて、例えば坪量64g/mを標準とした場合は、検出されたサイズと厚みにより坪量が減る場合は、通紙される用紙45の重量が軽く、プレスローラ15との接触移動時に滑り量が減るので、ソレノイド72に対する通電タイミングが予め設定された時間だけ遅れる方向に制御され、反対に坪量が増加し重量が増加する場合は滑り量が増えるので、通電タイミングが予め所定量速くなる方向に制御される。このように、用紙の重量に応じて、ローラコロの変位のタイミングを制御する。
【0038】
さらに、これに前記湿度センサからの環境湿度情報が加味されて、該湿度が低く用紙45A表面が滑りやすい場合は、滑り量に見合った分だけ通電タイミングが早まり、湿度が高い場合は逆に滑りにくくなるので通電タイミングが遅れる方向に制御する。
【0039】
ソレノイド72は、通電頻度により温度上昇するが、この温度上昇により内部抵抗が増加すると電流ドロップ等により吸引力が減少し、吸引力が減少するとソレノイド72の動作が初期よりは遅れてしまう。
【0040】
そこで、内部抵抗が増加し電流ドロップ等により吸引力が減少する事態になったと制御装置51が判断した場合、温度上昇による内部抵抗増で遅れが発生しないように、内部温度の上昇に伴なうソレノイド72の動作の遅れ分に見合った量だけ動作タイミングを進める方向に制御することとしている。
【0041】
制御装置51には予め内部温度の上昇に伴なうソレノイド72の遅れ分と、この遅れ分に見合う動作タイミングの進め量との関係を示すデータテーブルが備えられており、該制御装置51はソレノイド72に備えられた温度検知センサ73からの温度情報に基づいて動作タイミングを修正する。
【0042】
ローラコロ17による用紙の搬送方向上、下流であって、該ローラコロ17の上方には用紙45Aの先端と当接して用紙45Aのスタート位置及びスキューを矯正するストッパ27が備えられている。図1、図3、図4等において、ストッパ27の折曲部27bが用紙の先端部を受け止めて用紙を停止させるための部位である。
【0043】
ストッパ27の下方に位置するローラコロ17は図4に示したように用紙搬送時に上昇してプレスローラ15に当接しプレスローラ15とのニップ部にて用紙を挟んで搬送する。このローラコロ15の上昇経路上にストッパ27が位置するため、上昇時の干渉を避けるため図3に示したようにストッパ27には窓状の開放部27aが複数のローラコロ17の位置に合わせて設けられている。
【0044】
図1において、プレスローラ15の右側には、該プレスローラ15の円周上外表面に近接して湾曲し用紙45Aを案内するガイド板18が設けられている。プレスローラ15の外表面にはオフセット印刷機などで印刷物の汚れ防止等に用いられている微細なガラスビーズ等が均一に形成されており、版胴1の表面と接触した場合等や、後述する印刷された用紙45Aの画像面のインキなどによる転移汚れを最小にするようにしてある。また、ローラガイド板18の表面(プレスローラ15との対向面)には、用紙搬送時の抵抗を減少させるために摩擦係数の低いフッ素樹脂(4フッ化エチレン樹脂等)がコーティングされている。
【0045】
プレスローラ15の右側には図示しない給紙部と、該給紙部において給紙トレイに積載された用紙45を一枚づつ分離給送する分離給紙装置と、分離給送された用紙45をタイミングを取って版胴1とプレスローラ15とのニップ部に搬送するレジストローラ14が設けられている。
【0046】
版胴1の左下側(時計の文字盤で7時〜8時の位置)には版胴1に近接して揺動するように回動自在に支持された剥離爪26と、版胴1の表面に送風して用紙を剥離する剥離ファン28が設けられている。
【0047】
剥離爪26下方には図示しない筐体側板対に軸部26aを回転自在に支持され、図示しない駆動装置により反時計回りに回転駆動される排紙ローラ前19、排紙ローラ後20と、排紙ローラ前後19、20との間に張設された排紙ベルト21、用紙45を排紙ベルト21の上下面に吸引する吸引ファン22からなる排紙搬送装置60が設けられている。
【0048】
排紙搬送装置60とプレスローラ15との間には切り換えガイド板23が位置している。この切り換えガイド板23は、図示しない筐体側板に回転可能に支持された軸に固定されており、図示しない駆動手段(ソレノイド、ステッピングモータ等)により該軸部を支点として所定位置で揺動するようになっている。通常は図1に示すようにプレスローラ15の上面部と排紙ベルト21の上面部とを連絡する位置で保持されている。
【0049】
排紙搬送装置60の下方には下部搬送装置62が設けられている。下部搬送装置62は、回転自在に保持された搬送ローラ前40、搬送ローラ後41と、これら搬送ローラ前後40、41に張設された搬送ベルト42を有し、駆動モータ等で時計回りの向きに回転駆動される。搬送ベルト42は所定のタイミングで断続的に駆動される。
【0050】
搬送ベルト42の間には吸引ファン下43が設けられて、後述する用紙45Aを搬送ベルト42に吸着保持するようになっている。下部搬送装置62は搬送ローラ後41の軸部を支点に、搬送ローラ前40の軸部がプレスローラ15の図示しない側板部に移動自在に支持されており、プレスローラ15の離接動作と連動して揺動するような構成になっている。下部搬送装置62は制御装置51により、用紙45Aがストッパ17aに到達した後に停止するように制御される。
【0051】
下部搬送装置62の上部には破線矢印で示した移動経路に沿って移動ガイド24を移動する図示しない移動手段が設けられている。移動ガイド24は図1に示した搬送ローラ後41近傍位置(初期位置=待機位置)と、破線矢印の右端の位置であるプレスローラ15近傍位置(上部位置)との間を往復動可能である。移動ガイド24の図示しない側板部にはクランプ軸24aが回転自在に支持されている。
【0052】
クランブ軸24aは図示しない付勢バネにより、クランプ爪24bを反時計回りの向きに移動ガイド24に付勢している。クランプ軸24aには図示しない解除レバーが固定されており、初期位置(待機位置)及び上部位置では図示しない筐体側板に設けられた解除手段と当接し、時計回りに回転してクランプ爪24bを開放し、初期位置(待機位置)と上部位置との間の移動位置ではクランプ爪24bで用紙45Aの先端部を挟持するようになっている。
【0053】
排紙搬送装置60の左下方には排紙された用紙45を積載する排紙トレイ25が設けられている。図6は用紙45と下部搬送装置から印刷済み用紙45Aを連続的に搬送している状態図である。
【0054】
<孔版印刷装置の印刷動作>
図2に示した操作パネル52で、両面印刷モード、印刷枚数、印刷速度などが選択されて、スキャナ装置50に図示しない原稿がセットされた後に該操作パネル52のスイッチ操作によりスタート信号(スタートボタン等が押される等)が出されることにより、図示しない駆動モータにより図1に示した版胴1が回転し、図示しない排版装置により使用済みのマスタが版胴1表面より剥離され廃棄される。
【0055】
版胴1はクランパ7が略真上位置(時計の文字盤で12時の位置)になるまで回転して停止する。版胴1が停止すると、図示しない開閉装置によりクランパ軸7aが回転されることでクランパ7が解放されて給版待機状態となる。
【0056】
原稿が原稿読取部(スキャナ装置50)に送出され、まず図5に示す原稿80の矢印で示す送り方向での前半に相当する第1面80aの画像がCCD等で電気信号に変換され、A/D変換器、製版制御装置等を経由して画像情報に応じてサーマルヘッド10に通電し、図示しないステッピングモータによりプラテンローラ9が回転してマスタ8を搬送しながら、マスタ8の感熱フィルムの送り方向での前半分の製版が開始される。
【0057】
マスタガイド板13によりマスタ8の先端部がステージ6とクランパ7との間に案内され、図示しないステッピングモータ等のステップ数よりマスタ8の先端部がクランパ7に届いたと判断されると、図示しない開閉装置によりクランパ7が閉じられ、マスタ8の先端部を挟持すると共に、版胴1がマスタ搬送速度とほぼ同じ速度で回転を再開し、製版されたマスタ8の巻着が行われる。
【0058】
図示しないステッピングモータのステップ数より原稿80の前半に相当する第1面80aに対応する、マスタ8の送り方向の前半に位置する第1面8Aの製版が完了したと判断されると、プラテンローラ9、版胴1の回転が停止し、原稿80の送り方向下流に位置する次の第2面80bに対応するマスタ8の製版待機状態となる。
【0059】
次に、原稿が原稿読取部(スキャナ装置50)に自動的にあるいは再セットされ、スタートボタン等が再度押されて、スタート信号により前記と同様に原稿が原稿読取部に送出され、残り片面(後半部)の画像が第1面8A同様にマスタ8の所定位置に第2面8Bとして製版が行われる。この時、版胴1もマスタ搬送速度と同じ速度で回転を再開する。
【0060】
図示しないステッピングモータのステップ数より、マスタ8の第2面8Bの製版が完了したと判断されるとカッタ11が作動しマスタ8が切断されると共に、プラテンローラ9及び搬送ローラ12が停止し、切断されたマスタ8の後端部が版胴1の回転により引き出されて版胴1への巻着が完了する。
【0061】
本説明では、マスタ8の送り方向後半に対応する第2面8Bの製版時に版胴1や製版装置Aを一時的に停止しているが、このようにしないで、予めスキャンしてメモリに格納しておいて連続的に第1面8A及び第2面8Bを製版するように構成する方が、製版時間の短縮やファーストプリントタイムを短縮する上では望ましい。
【0062】
ローラコロ17の動作を行うソレノイド52の導通タイミングは、指定された印刷速度及び温度検知センサ73及び、使用される湿度情報(前記したように、給紙部近辺に設けられた図示しない湿度センサによる環境湿度の情報)から予め所定のタイミングが選定され、後述する用紙45が前記した厚さセンサや前記したサイズセンサを通過することで、該用紙45の重量が把握され、最終的なソレノイド52の導通タイミングが制御装置51により決定される。なお、これら温度検知センサ73、湿度センサ、厚さセンサ、サイズセンサ等の検知情報は図2に各種センサ90としてまとめて表示したが個々に制御装置51に入力されるようになっている。
【0063】
版胴1に対するマスタ8の巻着が完了すると用紙45が一枚だけ、図示しない分離給紙装置により送り出されレジストローラ14でタイミングを取られて版胴1とプレスローラ15との問に向けて搬送される。図示しない用紙検出手段により用紙45の進入が検知されることで図示しない係止手段が解除され、図示しないカムの回転に沿ってカムフォロアがカムの凹部に移動することで、図6に示すように、プレスローラ15は図示しない付勢スプリングにより版胴1に用紙45を連続的に押圧して、マスタ8の第1面8Aにインキを充填する版付けが開始される。
【0064】
上記の動作と平行して版胴1のクランパ7が通り過ぎた頃に、切り換えガイド23が図示しない駆動手段により図6に示すように反時計回りの向きに回転して停止する。移動ガイド24も「初期位置=待機位置」(図1参照)から用紙45の先端位置を挟持すべく斜め上方の「上部位置」(図6参照)に移動して、図示しない解除レバーが解除手段に係合することで、クランプ爪24bは時計回りの向きに回転してクランプ爪24bの先端部と移動ガイド24の面との間隔が開いた開放された状態で待機して停止する。
【0065】
図6において、移動ガイド24が停止する頃に用紙45は切り換えガイド23と剥離ファン28により版胴1より下方に剥離されて、「上部位置」で待機する可動ガイド24の下面に案内されてクランプ爪24bとの隙問部に挿入される。
【0066】
用紙45先端部が挿入された頃に可動ガイド24が用紙45の搬送速度とほぼ同じ速度で「初期位置=待機位置」(図1参照)に移動を開始して、図示しない解除レバーと解除手段との係合が解除されることで、図示しない付勢バネによりクランプ爪24bが反時計回りの向きに回動して用紙45の先端を挟持し、用紙45の先端を保持した状態で下方に搬送する。この搬送途中の状態を図7に示す。
【0067】
プレスローラ15は、図示しないカム切り換え機構により、第1面8Aの範囲で押圧した後に版胴1から離問した初期位置に復帰して停止する。用紙45はクランプ爪24bにより可動ガイド24に保持されて該可動ガイド24と共に移動搬送され、可動ガイド24が「初期位置=待機位置」(図1参照)で停止した時に図示しない解除レバーが解除手段と係合することでクランプ爪24bが時計回りに回動して用紙45は開放される。
【0068】
切り換えガイド23は用紙45の後端部が通り過ぎた頃に時計回りの向きに回転して、図6、図7に示した位置から図1に示す初期位置に復帰するように制御される。印刷された用紙(45Aとする。)は下部搬送装置62の吸引ファン下43により排紙ベルト下42に吸引され、搬送ベルト42が設定された速度で時計回りに回転して用紙45Aの端面がストッパ27の折曲部27bに当接した直後に停止し、用紙45Aが位置決めされる。
【0069】
版胴1の次の回転でマスタ8の第2面8Bの位置に対応する位置になったと判断されると、ソレノイド72に通電されてローラコロ17が上昇して、用紙45Aを上昇させながら先端部をストッパ17aから解除し、プレスローラ15に当接することで用紙45Aはプレスローラ15とローラコロ17に押圧挟持されて、プレスローラ15の回転力により版胴1の速度と同じ速度で、マスタ8の第1面8Aの画像を印刷した用紙45Aを搬送し始める。
【0070】
この時、プレスローラ15も図示しないカム装置によりマスタ8の第2面8Bにのみ対応した位置で押圧するように制御される。ローラコロ17の上昇タイミングは、版胴1の印刷速度、用紙45のサイズと厚み、機内の湿度やソレノイド72の内部温度などから最適なタイミングになるように制御される。
【0071】
用紙45Aは湾曲したローラガイド板18により案内されて、版胴1とプレスローラ15とのニップ部に向けて搬送される。用紙45Aはプレスローラ15により版胴1に押圧されてマスタ8の第2面8Bにインキを充填する版付けが行われる。用紙45Aは版胴1に近接離間する排紙爪26と剥離ファン28により版胴1より剥離されて、切り換えガイド23の上面に案内されて排紙ベルト21に吸着搬送されて排紙トレイ25に排出される。次に所定の枚数の印刷が同様な工程で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】孔版印刷装置の概略構成を説明した図である。
【図2】孔版印刷装置の制御ブロック図である。
【図3】ローラコロとその駆動手段及び用紙のストッパを取り出して示した斜視図である。
【図4】ストッパ及びその近傍の部材構成を説明した部分正面図である。
【図5】両面原稿における片面ずつの画像面を示した正面図である。
【図6】両面印刷における第1面印刷後、第2面印刷のため用紙の反転動作に入った後の途中状態における孔版印刷装置の要部構成を示した部分正面図である。
【図7】両面印刷における第1面印刷後、第2面印刷のため用紙の反転動作に入った後の途中状態における孔版印刷装置の要部構成を示した部分正面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 版胴
2 インキローラ
3ドクタローラ
4 インキ溜まり
5 インキパイプ
5a 供給穴
6 ステージ
7 クランパ
7aクランパ軸
8 マスタ
8aロール
8b ロール芯
9 プラテンローラ
10 サーマルヘッド
11 カッタ
12 搬送ローラ
15 プラテンローラ
16 プレスローラアーム
16a アーム軸
17 ローラコロ
18 ガイド板
19 排紙ローラ前
20 排紙ローラ後
21 排紙ベルト
22 吸引ファン
24 移動ガイド
24a クランプ軸
24b クランプ爪
25 排紙トレイ
26 剥離爪
26a 軸部
27 ストッパ
27a 開放部
27b 折曲部
28 剥離ファン
40 搬送ローラ前
41 搬送ローラ後
42 搬送ベルト
43 吸引ファン下
45 用紙
50 スキャナ装置
50a 原稿台
50b 排紙台
51 制御装置
52 操作パネル
60 排紙搬送装置
62 下部搬送装置
63 矢印
71 ローラコロアーム
71a 軸部
73 温度検知センサ
80 原稿
80a (原稿の)第1面
80b (原稿の)第2面
80A (マスタの)第1面
80B (マスタの)第2面
90 各種センサ
A 製版装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ供給手段を有し、自身の中心軸線廻りに回転自在に支持された多孔性円筒状版胴に、製版されたマスタを巻着し、前記版胴に押圧手段で用紙を押圧して、マスタの穿孔部を通じてインキを惨み出させて印刷を行う孔版印刷装置であって、マスタをその送り方向での前後2面に分けて加熱穿孔製版する製版手段と、前記用紙をその送り方向の前後2面でそれぞれ押圧する押圧切り換え手段と、前記前後2面の一つである第1面を印刷された用紙をストッパに当接させた状態で保持し、その後に、前記前後2面の他の一つである第2面の位置に合わせてローラコロを変位させて前記押圧手段に当接させ、該押圧手段と前記ローラコロとで前記用紙を挟持して該用紙を反転させながら搬送し、前記版胴に前記押圧手段で用紙を押圧して両面に印刷を行うように構成した孔版印刷装置において、
印刷速度に応じて、前記ローラコロの前記変位のタイミングを制御するように構成したことを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の孔版印刷装置において、
印刷速度が相対的に速い場合は、遅い場合に比べて前記ローラコロの上昇タイミングを進める方向に制御し、印刷速度が相対的に遅い場合は、速い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを遅れる方向に制御することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の孔版印刷装置において、
前記用紙の重量に応じて、前記ローラコロの前記変位のタイミングを制御するように構成したことを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項4】
請求項3記載の孔版印刷装置において、
相対的に前記用紙の重量が重ければ軽い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを進める方向に制御し、相対的に前記用紙の重量が軽ければ重い場合に比べてローラコロの上昇タイミングを遅れる方向に制御することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項5】
請求項4記載の孔版印刷装置において、
前記重量の軽重を、前記用紙のサイズと厚さの因子で判定して制御することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の孔版印刷装置において、
前記ローラコロは1個以上のソレノイドで駆動され、該ソレノイドの内部温度に応じて該ソレノイドによる前記ローラコロの動作タイミングを制御するように構成したことを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の孔版印刷装置において、
当該孔版印刷装置が設定されている場所の環境湿度に応じて前記ソレノイドの動作タイミングを制御するように構成したことを特徴とする孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−190201(P2009−190201A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31031(P2008−31031)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)