説明

孔版印刷装置

【課題】用紙搬送方向の一方の側部に高濃度画像が存在する場合であっても巻き上がりの発生を防止して良好な印刷物を得ることが可能な孔版印刷装置を提供する。
【解決手段】版胴9と、製版部3と、押圧手段10と、用紙を版胴9と押圧手段10との間に向けて給送する複数の給紙トレイ22,23,24を有する給紙部4とを具備する孔版印刷装置1において、製版画像の濃度分布を検出する濃度検出手段51を有すると共に前記製版画像の向きを任意に変更可能な機能を有し、給紙部4が少なくとも1つのサイズの用紙を縦向きと横向きとのうちの少なくとも1つの向きで給送可能な各給紙トレイ22,23,24を有し、濃度検出手段51の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に該製版画像に対応した給紙トレイが存在する場合にはこれを自動的に選択する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷装置の巻き上がり防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法としてデジタル式感熱孔版印刷が知られている。これは、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせたマスタに微細な発熱素子を複数有するサーマルヘッドを接触させ、この発熱素子に対しパルス的に通電を行いながらマスタをプラテンローラ等の搬送手段で搬送することにより、マスタの熱可塑性樹脂フィルムに画像情報に基づいた穿孔画像を熱溶融穿孔製版した後、この穿孔製版されたマスタを多孔性円筒状の版胴に巻装させ、プレスローラ等の押圧手段によって用紙を版胴外周面に押圧させることで版胴内周面に供給されたインキを版胴開孔部及びマスタ穿孔部から滲出させ、このインキを用紙に転移させることにより用紙上に印刷画像を得るものである。
【0003】
上述した孔版印刷を行う孔版印刷装置では、版胴外周面上に巻装されたマスタに穿孔された製版画像を介して版胴内部からインキを滲出させて用紙に転移させているため、用紙の搬送方向先端部にべた画像等の高濃度画像が存在するとインキの粘着力によって用紙がマスタに付着したまま排出されず、そのまま版胴と共に回転してしまういわゆる巻き上がりという不具合が発生してしまう。巻き上がりが発生すると用紙がマスタに貼り付いたままとなり、次の用紙に対する印刷が行われなくなり印刷不良が発生する。
【0004】
上述した巻き上がりを防止すべく、用紙搬送方向先端側の画像情報量が用紙搬送方向後端側の画像情報量に対して多い場合には画像情報出力を180度反転させ、用紙搬送方向先端側に少ない画像情報量が位置するように製版を行う孔版印刷装置が、例えば「特許文献1」に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−341400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術では、用紙搬送方向の先端側と後端側とで比較しているため、用紙搬送方向の少なくとも一方の側部に画像情報量が多い部分が連続している場合には対処できず、この部分が版胴外周面上のマスタに付着して巻き上がりが発生してしまう虞がある。本発明は上述した問題点を解決し、用紙搬送方向の少なくとも一方の側部に高濃度画像が存在する場合であっても巻き上がりの発生を防止して良好な印刷物を得ることが可能な孔版印刷装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、マスタを巻装する版胴と、前記マスタを製版する製版部と、前記版胴に用紙を押圧して該用紙にインキを転写させる押圧手段と、用紙を前記版胴と前記押圧手段との間に向けて給送する複数の給紙トレイを有する給紙部とを具備する孔版印刷装置において、前記マスタに製版される製版画像の濃度分布を検出する濃度検出手段を有すると共に前記製版画像の向きを任意に変更可能な機能を有し、前記給紙部が少なくとも1つのサイズの用紙を縦向きと横向きとのうちの少なくとも1つの向きで給送可能な前記各給紙トレイを有し、前記濃度検出手段の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に該製版画像に対応した前記給紙トレイが存在する場合にはこれを自動的に選択することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、さらに前記濃度検出手段の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に該製版画像に対応した前記給紙トレイが存在しない場合には使用者に用紙方向を変える旨を警告することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、マスタを巻装する版胴と、前記マスタを製版する製版部と、前記版胴に用紙を押圧して該用紙にインキを転写させる押圧手段と、用紙を前記版胴と前記押圧手段との間に向けて給送する用紙を貯容する給紙トレイを有する給紙部とを具備する孔版印刷装置において、前記マスタに製版される製版画像の濃度分布を検出する濃度検出手段を有すると共に前記製版画像の向きを任意に変更可能な機能を有し、前記濃度検出手段の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に前記給紙トレイに貯容された用紙が該製版画像に対応しない場合には使用者に用紙方向を変える旨を警告することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、用紙が版胴周面に貼り付いて巻き上がってしまう巻き上がりが発生しにくい条件で製版動作及び印刷動作を行うことができ、巻き上がりの発生を防止して良好な印刷を継続して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態を採用した孔版印刷装置を示している。同図において孔版印刷装置1は、印刷部2、製版部3、給紙部4、排版部5、画像読取部6、排紙部7等を有している。
装置本体8のほぼ中央部に配設された印刷部2は、版胴9と押圧手段としてのプレスローラ10とを有している。多数の開孔が形成された開孔部及び非開孔部を有する多孔性支持板を外周面に有する版胴9は、図示しない版胴駆動モータによって設定された印刷速度に応じた回転周速度で回転駆動される。多孔性支持板の開孔部上には樹脂あるいは金属の網体からなるメッシュスクリーンが複数層巻装されており、多孔性支持板の非開孔部上にはマスタの先端を挟持するクランパ11が開閉可能に設けられている。版胴9の内部には、版胴9の内周面にインキを供給する、インキローラ12及びドクターローラ13等を有する周知のインキ供給手段14が配設されている。
【0012】
版胴9の下方には、一対のアーム部材15にその支軸両端を回転自在に支持されたプレスローラ10が配設されている。プレスローラ10は、各アーム部材15が図示しない揺動手段によって揺動されることにより、その外周面を版胴9の外周面に対して接離自在に構成されている。
【0013】
印刷部2の右上方には製版部3が配設されている。製版部3は、マスタ16に穿孔製版を行うサーマルヘッド17及びプラテンローラ18、マスタ16を所定の長さに切断するマスタ切断手段19、マスタ16を印刷部2に向けて搬送するマスタ搬送ローラ対20,21等を有している。製版部3で製版された製版済みマスタは版胴9に向けて送られた後、版胴9の外周面上に巻装される。
【0014】
製版部3の下方には給紙部4が配設されている。給紙部4は、その上面に用紙Pを積載して上下動される第1給紙トレイ22、印刷部2の下方に直列に配置された第2給紙トレイ23及び第3給紙トレイ24、給紙ローラ25,26,27、分離ローラ対28、用紙搬送ローラ対29、レジストローラ対30等を有している。各給紙トレイ22,23,24には、積載された用紙Pのサイズを検知する図示しない用紙サイズ検出センサが設けられており、各給紙トレイ22,23,24にはハガキサイズからA3サイズまでの用紙が積載される。本実施形態において各給紙トレイ22,23,24に積載される用紙は、ハガキサイズ、B5サイズ、A4サイズでは縦向き(用紙搬送方向が用紙の長手方向)と横向き(用紙搬送方向が用紙の短手方向)とをそれぞれ選択でき、B4サイズ及びA3サイズでは縦向きのみに限定される。
【0015】
印刷部2の左上方には排版部5が配設されている。排版部5は、使用済みのマスタを外周面上より剥離して搬送する上排版部材31及び下排版部材32、使用済みのマスタを収容し装置本体8に対して着脱自在な排版ボックス33、排版ボックス内に使用済みのマスタを押し込む圧縮板34等を有する周知の構成である。
【0016】
装置本体8の上部には画像読取部6が配設されている。画像読取部6は、印刷すべき原稿を載置するコンタクトガラス35、原稿画像を走査して読み取る走査ユニット36、走査された画像を集束する結像レンズ37、集束後の画像を認識する画像センサ38、画像センサより出力された画像をA/D変換する図示しないA/D変換器、複数枚の原稿を連続的に処理するADFユニット39等を有する周知の構成である。
【0017】
印刷部2の左下方には排紙部7が配設されている。排紙部7は、剥離爪40、排紙搬送手段41、排紙トレイ42等を有している。剥離爪40は装置本体8に揺動自在に取り付けられており、図示しない爪揺動手段の作動によりその先端部が版胴9の外周面に近接する位置と離間する位置とを選択的に占める。剥離爪40の下方に配設された排紙搬送手段41は、駆動ローラ、従動ローラ、無端ベルト、吸引ファン等を有している。排紙トレイ42は、その上面に1対のサイドフェンス43と1つのエンドフェンス44とを有している。
【0018】
図2は、上述した孔版印刷装置1の制御部を示している。同図において孔版印刷装置1の全体制御を行うシステム制御部45は装置本体8の内部に設けられている。システム制御部45は、全てのデータ処理を行うCPU、データ保存のためのメモリ、CPUの機能を補う周辺LSI、外部機能ブロックとのインタフェース回路等を有する周知の構成である。
【0019】
システム制御部45は装置本体8の前面上部に設けられた図示しない操作パネルに接続されており、この操作パネル上には各種の操作を行うキー操作部46、各種の表示を行う表示部47が設けられている。さらにシステム制御部45には給紙部4の制御を行う給紙制御ユニット48が接続されており、給紙制御ユニット48からは各給紙トレイ22,23,24に貯容された用紙のサイズ及び向きの情報が入力される。表示部47には、給紙制御ユニット48から入力された用紙のサイズ及び向きの情報が表示される他、孔版印刷装置1の全ての情報及び警告等が表示される。
【0020】
上述した構成に基づき、図2に示すブロック図及び図3に示すフローチャートに基づいて本実施形態における孔版印刷装1の動作を説明する。
キー操作部46に設けられた図示しない製版スタートキーが押下されると(S1)、画像読取部6あるいはパソコン等の外部入力装置等の画像データ入力部49からの画像入力が開始される(S2)。入力された多値データは、サーマルヘッド17に設けられた複数の抵抗発熱素子への印字データ生成のための2値化処理部50及び濃度検出手段としての画像濃度分布解析部51へと送られ(S3,S4)、それぞれの処理が実行される。
【0021】
画像濃度分布解析部51では、入力された画像の濃度分布により排紙方向に対する2値印字データの回転条件を算出する(S5)。算出された結果は印字データ回転制御部52へと送られ、解析結果に見合った処理が実行される。処理を施された印字データは穿孔データ生成部53を介してサーマルヘッド17の抵抗発熱素子54へと送られる。画像を回転する必要のない場合である用紙が版胴9の周面に貼り付いて巻き上がってしまう巻き上がりが発生しにくい条件、すなわち画像濃度の高い部分が用紙搬送方向の下流側や用紙の少なくとも一方の側部には存在しない場合には、印字データ回転制御部52は印字データを回転させずに抵抗発熱素子54への転送を開始し(S6)、全ての印字データが転送完了されると(S7)製版動作が開始され、製版動作が完了すると続いて印刷動作が行われ(S8)、置数された印刷枚数が消化されると(S9)全ての動作が完了して孔版印刷装置1の動作が停止する。
【0022】
ステップS5において、画像を回転する必要がある場合である巻き上がりが発生し易い条件のうち、図4に示すように画像濃度の高い部分が用紙搬送方向の下流側に存在する場合には、印字データ回転制御部52は印字データを180度回転させて(S10)抵抗発熱素子54への転送を開始する(S6)。この場合の印字データの回転では、用紙搬送方向に対する画像の向きは変わるものの用紙に対する画像位置関係は変化しないのでユーザが希望する印刷物を得ることができる。
【0023】
ステップS5において、画像を回転する必要がある場合である巻き上がりが発生し易い条件のうち、図5に示すように画像濃度の高い部分が用紙の一方の側部に存在する場合には、印字データ回転制御部52は印字データを90度回転させる(S10)。しかし図5に示す場合において、例えば通常の印刷が第1給紙トレイ22から給送される用紙を使用する場合であって第1給紙トレイ22に縦向きの用紙が積載されている場合には、用紙の通紙方向(横向き)と用紙セット方向(縦向き)とが不一致となるため、システム制御部45は同サイズの用紙が横向きにセットされている給紙トレイを検出し(S11)、例えば第2給紙トレイ23に同サイズの用紙が横向きにセットされている場合には自動的に第2給紙トレイ23を選択し(S12)、ステップS6〜S9までの動作を行って停止する。ステップS11において回転した印字データと適合する給紙トレイが存在しない場合には、システム制御部45は表示部47に適合する給紙トレイが存在しない旨の表示を行い、給紙トレイに貯容する用紙の向きを変えるように使用者に対して警告を行う。
【0024】
上述の構成によれば、用紙が版胴9の周面に貼り付いて巻き上がってしまう巻き上がりが発生しにくい条件で製版動作及び印刷動作を行うことができ、巻き上がりの発生を防止して良好な印刷を継続して行うことができる。
【0025】
上記実施形態では、給紙部4が複数の給紙トレイ22,23,24を有する例を説明したが、本発明は給紙部が単一の給紙トレイを有する孔版印刷装置に対しても適用可能である。この場合、巻き上がりが発生しにくい条件で印字データを回転した際に、適合する給紙トレイが存在しない場合には給紙トレイに貯容する用紙の向きを変えるように使用者に対して警告を行う。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を適用可能な孔版印刷装置の概略正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられるシステム制御部のブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態における孔版印刷装置の動作を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態における印字データの回転を説明する概略図である。
【図5】本発明の一実施形態における印字データの回転を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1 孔版印刷装置
3 製版部
4 給紙部
9 版胴
10 押圧手段(プレスローラ)
16 マスタ
22,23,24 給紙トレイ
51 濃度検出手段(画像濃度分布解析部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタを巻装する版胴と、前記マスタを製版する製版部と、前記版胴に用紙を押圧して該用紙にインキを転写させる押圧手段と、用紙を前記版胴と前記押圧手段との間に向けて給送する複数の給紙トレイを有する給紙部とを具備する孔版印刷装置において、
前記マスタに製版される製版画像の濃度分布を検出する濃度検出手段を有すると共に前記製版画像の向きを任意に変更可能な機能を有し、前記給紙部が少なくとも1つのサイズの用紙を縦向きと横向きとのうちの少なくとも1つの向きで給送可能な前記各給紙トレイを有し、前記濃度検出手段の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に該製版画像に対応した前記給紙トレイが存在する場合にはこれを自動的に選択することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の孔版印刷装置において、
前記濃度検出手段の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に該製版画像に対応した前記給紙トレイが存在しない場合には使用者に用紙方向を変える旨を警告することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項3】
マスタを巻装する版胴と、前記マスタを製版する製版部と、前記版胴に用紙を押圧して該用紙にインキを転写させる押圧手段と、用紙を前記版胴と前記押圧手段との間に向けて給送する用紙を貯容する給紙トレイを有する給紙部とを具備する孔版印刷装置において、
前記マスタに製版される製版画像の濃度分布を検出する濃度検出手段を有すると共に前記製版画像の向きを任意に変更可能な機能を有し、前記濃度検出手段の検出結果に基づき、巻き上がりに対して条件の良い向きに前記製版画像の向きを変えると共に前記給紙トレイに貯容された用紙が該製版画像に対応しない場合には使用者に用紙方向を変える旨を警告することを特徴とする孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−279785(P2009−279785A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132093(P2008−132093)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)