説明

孔版印刷装置

【課題】コストアップすることなく腰の弱いマスタであっても版胴巻装時におけるマスタへのしわの発生や画像位置ずれの発生を防止することが可能な孔版印刷装置を提供する。
【解決手段】版胴5と、マスタ24を製版して版胴5に向けて搬送する製版部3とを有し、製版部3は製版されたマスタ24を一時的に貯容するマスタストック手段19を有し、版胴5は搬送されたマスタ24の先端を位置決めしつつ保持するクランパ8をその外周面上に有する孔版印刷装置1において、マスタストック手段19がその内部にマスタ24を吸引する吸引手段19aを有し、マスタ24の先端がクランパ8によって位置決め保持された後に吸引手段19aを作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は孔版印刷装置に関し、詳しくは版胴上にマスタを巻装する際にマスタへのしわの発生を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法としてデジタル式感熱孔版印刷が知られている。これは、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせたマスタに微細な発熱素子を複数有するサーマルヘッドを接触させ、この発熱素子に対しパルス的に通電を行いながらマスタをプラテンローラ等の搬送手段で搬送することにより、マスタの熱可塑性樹脂フィルムに画像情報に基づいた穿孔画像を熱溶融穿孔製版した後、この穿孔製版されたマスタを多孔性円筒状の版胴に巻装させ、プレスローラ等の押圧手段によって用紙を版胴外周面に押圧させることで版胴内周面に供給されたインキを版胴開孔部及びマスタ穿孔部から滲出させ、このインキを用紙に転移させることにより用紙上に印刷画像を得るものである。
【0003】
上述した孔版印刷を行う孔版印刷装置では、製版動作完了後に印刷動作に先立って用紙上の狙いの位置に印刷画像を形成するための試し刷りが行われる。この試し刷りにおいて画像のずれや位置合わせに問題がない場合には印刷動作が行われるが、問題がある場合にはこれを修正するため用紙搬送方向である天地方向及びまたは版胴軸方向である左右方向への画像位置調整が行われる。この天地方向における画像位置調整方法として、給紙タイミングを変化させることにより版胴と用紙との相対位置を調整する技術が、例えば「特許文献1」に開示されている。
【0004】
上述の技術によって画像位置を調整した後に印刷動作が行われるが、版胴と巻装されたマスタとの間に弛みが生じていると繰り返しの印刷動作によって画像位置がずれたりマスタにしわが寄ったりして画像不良が生じてしまう。一般的に版胴に対してマスタを巻装する場合には、製版部に配設されたテンションローラ等の張力付与部材によってマスタに張力を付与しつつ巻装を行っているが、版胴上にマスタを保持するクランパと版胴開孔部との間には弛みが生じてしまう場合があった。以下にこのメカニズムを説明する。
【0005】
先ず、製版部内の搬送ローラ等によってマスタが版胴外周面上のクランパに向かって搬送される。このとき図8に示すように、クランパは開放状態で待機しており、搬送されるマスタに影響しないようにテンションローラは退避位置を占めている。搬送されたマスタの先端はクランパ上のストッパに突き当てられ、その後所定量搬送された後にマスタの搬送が停止される。ストッパに突き当てられた後にマスタを搬送するのは、次の工程で行われるクランパ閉塞動作の時にマスタ先端の突き当て状態に影響が生じないように、図9に示すようにマスタに撓みが生じるように搬送を行っている。これによりクランパと版胴開孔部との間に弛みが生じることとなる。
【0006】
所定量のマスタが搬送された後、クランパが閉じられてマスタの先端が版胴上に保持される。図10に示すようにテンションローラがマスタに対して張力を付与する位置に移動して版胴の回転開始に備える。クランパと版胴開孔部との間に弛みが生じた状態で版胴が回転してマスタの巻装が行われると、テンションローラ等の張力付与部材による張力がマスタに作用しなくなり、ラフな状態で版胴上にマスタが巻装される。特にインキが滲出する開孔部では、マスタがインキの粘力によって一度版胴周面に貼り付くと、その後にいくら張力付与部材によって張力を付与してもマスタを伸ばすことが困難となり、図11に示すように弛みが生じることとなる。
【0007】
上述した問題点を解決すべく、版胴への巻装時においてマスタに張力を付与する伸長部材を版胴外周面近傍に設け、この伸長部材によってマスタを伸長させて版胴上におけるマスタへのしわの発生を防止する技術が、例えば「特許文献2」に開示されている。また、製版部内部にマスタを逆搬送する手段を設け、クランプ後にマスタを逆搬送してマスタの弛みを除去する技術が、例えば「特許文献3」に開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭50−66308号公報
【特許文献2】特開2004−188913号公報
【特許文献3】特開2002−11933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
「特許文献2」に開示された技術では、版胴上にはメッシュスクリーンあるいはこれを支持する部材等によって形成される凹凸があるため、伸長部材によってマスタに張力を付与してもマスタをしっかりと版胴開孔部に押圧することができず、弛みを完全に除去することは困難であった。また「特許文献3」に開示された技術では、新規機構を追加する必要があることと張力の設定が難しく、腰の弱いマスタではマスタに張力を付与しすぎて逆にしわが発生してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決し、コストアップすることなく腰の弱いマスタであっても版胴巻装時におけるマスタへのしわの発生や画像位置ずれの発生を防止することが可能な孔版印刷装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、版胴と、マスタを製版して前記版胴に向けて搬送する製版部とを有し、前記製版部は製版されたマスタを一時的に貯容するマスタストック手段を有し、前記版胴は搬送されたマスタの先端を位置決めしつつ保持するクランパをその外周面上に有する孔版印刷装置において、前記マスタストック手段はその内部にマスタを吸引する吸引手段を有し、マスタの先端が前記クランパによって位置決め保持された後に前記吸引手段を作動させることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、さらに前記吸引手段を所定時間作動させ、前記吸引手段の作動中にマスタの搬送を停止させることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の孔版印刷装置において、さらにマスタの幅方向における中央部での吸引力を他の部位よりも大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製版されたマスタがクランパで位置決め保持された際に生じた弛みを吸引手段の作動によってマスタをマスタストック手段内に引き込むことにより除去するので、新たな機構を設けることなくマスタへのしわの発生や画像位置ずれの発生を防止することができ、コストアップすることなく良好な印刷画像を継続的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態を採用した孔版印刷装置を示している。同図において孔版印刷装置1は、印刷部2、製版部3、給紙部4を有している。
印刷部2は、図示しない装置本体のほぼ中央に配設され図示しない版胴駆動手段によって図1において時計回り方向に回転駆動される版胴5と、版胴5の外周面に対して接離自在であり給紙部4から給送される用紙Pを版胴5に押圧するプレスローラ6とを有している。
【0016】
版胴5は、その両側縁部を図示しない一対のフランジの周面にそれぞれ取り付けられた多孔性支持板5aと、多孔性支持板5aの外周面に複数層巻装された図示しないメッシュスクリーンとを有しており、多孔性支持板5aには複数の開孔5bを有する開孔部と開孔5bを有していない非開孔部とが形成されている。多孔性支持板5aの非開孔部には版胴5の一母線に沿った平面をなすステージ部7が設けられており、ステージ部7上には支軸8aによって開閉自在に支持されたクランパ8が配設されている。ステージ部7のクランパ支持側端部にはマスタの先端が突き当たる突き当て部7aが形成されており、クランパ8は版胴5が所定位置を占めた際に図示しない開閉手段によって開閉される。
【0017】
版胴5の内部には、版胴5の支軸を兼ねたインキ供給パイプ10、インキローラ11、ドクターローラ12等を有するインキ供給手段9が配設されている。
インキ供給パイプ10は図示しない一対のフランジ間に配設されており、図示しない軸受を介して各フランジをそれぞれ回転自在に支持している。複数のインキ供給孔10aを有するインキ供給パイプ10にはそれぞれ図示しないインキポンプ及びインキパックが接続されており、インキポンプの作動によりインキパック内のインキが各インキ供給孔10aから版胴5の内部に供給される。
【0018】
インキローラ11は、図示しない一対のフランジ間に配設されそれぞれインキ供給パイプ10に固設された図示しない一対のインキローラ側板間に回転自在に支持されており、図示しない駆動手段によって版胴5と同期して同方向に回転駆動される。インキローラ11は、その周面と版胴5の内周面との間に僅かな隙間が生じる位置に配置されている。
【0019】
インキローラ11の近傍にはドクターローラ12が配設されている。ドクターローラ12も図示しないインキローラ側板間に回転自在に支持されており、図示しない駆動手段によってインキローラ11と同期して逆方向に回転駆動される。ドクターローラ12は、その周面とインキローラ11の周面との間に僅かな隙間が生じる位置に配置されている。
【0020】
インキローラ11の周面とドクターローラ12の周面との近接部には断面楔形状の空間が形成され、この空間にインキ供給孔10aから供給されたインキが溜まることによりインキ溜まり13が形成される。インキ溜まり13のインキは、インキローラ11とドクターローラ12との近接部を通過する際にインキローラ11の周面に薄層状に供給され、プレスローラ6によって版胴5が押圧された際にインキローラ11の周面と版胴5の内周面とが接触することにより版胴5の内周面に供給される。
【0021】
版胴5の下方にはプレスローラ6が配設されている。版胴5の軸方向長さとほぼ同じ長さを有し、芯部6aの周囲にゴム等の弾性体を巻成してなるプレスローラ6は、芯部6aの両端を一対のプレスローラアーム14の一端間にそれぞれ回転自在に支持されている。板状部材である一対のプレスローラアーム14は、図示しない装置本体に回動自在に支持されたプレスローラ軸15にそれぞれの他端を固着されており、図示しない揺動手段によってそれぞれ一体的に揺動される。この揺動によりプレスローラ6は、その周面を版胴5の外周面より離間させる図1に示す離間に位置とその周面を所定の圧接力で版胴5の外周面に圧接させる押圧位置とを選択的に占める。
【0022】
印刷部2の右上方には、図示しないマスタ保持部材、プラテンローラ16、サーマルヘッド17、マスタ切断手段18、マスタストック手段19、マスタ搬送ローラ対20、可動マスタガイド板21、マスタガイド板22、テンションローラ23等を有する製版部3が配設されている。
【0023】
図示しないマスタ保持部材は製版部3の図示しない一対の側板間に設けられており、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせてなるマスタ24をロール状に巻成したマスタロール24aの芯部24bを回転自在かつ着脱自在に保持する。マスタロール24a保持位置の左方にはプラテンローラ16が配設されている。プラテンローラ16はマスタ24の幅とほぼ同じ軸方向長さを有しており、装置本体の図示しない側板間に回転自在に支持されている。プラテンローラ16は、装置本体に取り付けられたステッピングモータ25によって回転駆動され、図1において時計回り方向に回転する。プラテンローラ16の下方にはサーマルヘッド17が配設されている。プラテンローラ16の幅方向長さよりもその幅が大きく形成されたサーマルヘッド17は上面に複数の発熱素子を有しており、この発熱素子面をプラテンローラ16の周面に圧接させるべく図示しない付勢手段によって図1において上方に向けて付勢されている。各発熱素子は図示しないサーマルヘッドドライバによってその作動を個々に制御され、図示しないサーマルヘッドドライバには装置本体の上部に設けられた図示しない画像読取部からの画像情報に応じた作動信号が入力される。プラテンローラ16とサーマルヘッド17とによってマスタ24を製版搬送する製版搬送手段26が構成される。
【0024】
製版搬送手段26の左方にはマスタ切断手段18が配設されている。マスタ切断手段18は、装置本体に固定されその幅がマスタ24の幅よりも大きく形成された下刃18aを有する下刃ホルダと、下刃18a上をマスタ24の幅方向に往復移動する回転自在な上刃18bを有する上刃ホルダとからなる周知の構成である。
【0025】
マスタ切断手段18の左方には、上部に開口を有するマスタストック手段19が配設されている。製版されたマスタ24を一時的に貯容するマスタストック手段19は、その内部を図示しない複数の板部材によって仕切られた筐体状を呈しており、その最奥部にはマスタ24を内部に吸引する吸引手段としての吸引ファン19aが配設されている。吸引ファン19aの作動により密閉された空間であるマスタストック手段19の内部に負圧が発生し、製版搬送されたマスタ24はマスタストック手段19の奥部に向けて吸引され貯容される。
【0026】
マスタストック手段19の右方には、共に図示しない側板間に回転自在に支持された駆動ローラ20aとこれに圧接された従動ローラ20bとを有するマスタ搬送ローラ対20が配設されている。図示しない駆動手段によって回転駆動される駆動ローラ20aの支軸には図示しないトルクリミッタが設けられており、マスタ搬送ローラ対20はサーマルヘッド17によって製版されるマスタ24を挟持搬送する際にマスタ24に対して張力を付与する。
【0027】
マスタストック手段19に設けられた開口の上方には可動マスタガイド板21が配設されている。可動マスタガイド板21は図示しない側板間に回転自在に支持された支軸21aにその基端を取り付けられており、ステッピングモータ33によって回動され、製版搬送されたマスタ24を印刷部2に案内する搬送位置と、マスタ24がマスタストック手段19内に導入される際に邪魔とならない図1に示す退避位置とを選択的に占める。
【0028】
可動マスタガイド板21の左方にはテンションローラ23が配設されている。図示しないアーム部材によって回転自在に支持されたテンションローラ23は図示しないソレノイド等の移動手段によって移動自在に構成されており、印刷部2へとマスタ24を搬送する際に邪魔とならないように退避する図1に実線で示す退避位置と、マスタ24を版胴5の外周面に巻装する際にマスタ24に対して張力を付与する図1に破線で示す作用位置とを選択的に占める。テンションローラ23の近傍には、図示しない側板に固設され搬送されるマスタ24を印刷部2へと案内するマスタガイド板22が配設されている。
【0029】
製版部3の下方には給紙トレイ27、給紙ローラ28、レジストローラ対29等を有する給紙部4が配設されている。
その上面に多量の用紙Pを積載可能な給紙トレイ27は図示しない装置本体に上下動自在に支持されており、図示しないトレイ昇降手段の作動により上下動される。
【0030】
給紙トレイ27の上方であって用紙Pの搬送方向先端部と対応する位置には給紙ローラ28が配設されている。周面に高摩擦抵抗部材を有する給紙ローラ28は給紙部4の図示しない側板間に回転自在に支持されており、図示しない付勢手段によって図1において下方に向けて付勢されている。給紙ローラ28は、図示しないトレイ昇降手段によって給紙トレイ27が給紙位置まで上昇されたときに給紙トレイ27上の最上位の用紙Pに所定の圧接力で圧接し、給紙部4に設けられた図示しない給紙モータの作動により図1において時計回り方向に回転駆動される。給紙ローラ28の下方であって給紙トレイ27上の用紙Pの搬送方向先端部よりも用紙搬送方向下流側の位置には、高摩擦抵抗部材からなる用紙分離部材30が配設されている。用紙分離部材30は図示しない付勢手段によって付勢され、所定の圧接力で給紙ローラ28の周面に圧接されている。
【0031】
給紙ローラ28の用紙搬送方向下流側には、共に給紙部4の図示しない側板間に回転自在に支持された駆動ローラ29aと従動ローラ29bとを有するレジストローラ対29が配設されている。駆動ローラ29aには図示しないレジスト駆動手段からの駆動力が伝達され、従動ローラ29bは図示しない付勢手段の付勢力によって駆動ローラ29aに圧接されている。レジストローラ対29は、給紙ローラ28によって給紙トレイ27上から給送された用紙Pを一時停止させた後、所定のタイミングで版胴5とプレスローラ6との間に向けて給送する。
【0032】
レジストローラ対29の用紙搬送方向上流側には用紙ガイド板31が、用紙搬送方向下流側には用紙ガイド板32がそれぞれ配設されている。各用紙ガイド板31,32は、それぞれ給紙部4の図示しない側板に固設されており、給紙部4から印刷部2へと給送される用紙Pの給送をガイドする。
【0033】
図示しない装置本体の上部には原稿画像を読み取る図示しない画像読取部が配設されている。画像読取部で読み取られた画像データは図示しない画像メモリに格納された後に呼び出され、サーマルヘッド17の作動によってマスタ24上に呼び出された画像データに対応した製版画像が形成される。印刷部2の左上方には、版胴5上に巻装された使用済みのマスタを剥離する図示しない排版部が配設されている。図示しない排版部は版胴5の外周面に対して接離自在な排版部材を有する周知の構成であり、版胴5上より剥離した使用済みのマスタを貯容する排版ボックス、排版ボックス内において使用済みのマスタを圧縮する圧縮板等を有している。印刷部2の左下方には、印刷部2において印刷された用紙Pを排出する図示しない排紙部が配設されている。図示しない排紙部は版胴5の外周面より印刷済みの用紙Pを剥離する剥離爪、印刷済みの用紙Pを搬送する用紙搬送ユニット、印刷済みの用紙Pを積載する排紙トレイ等を有する周知の構成である。
【0034】
上述の構成に基づき、以下に孔版印刷装置1の動作を説明する。
図示しない画像読取部に原稿がセットされ、オペレータによって装置本体上部に設けられた図示しない操作パネル上の製版スタートキーが押下されると、画像読取動作及び排版動作が並行して行われる。排版部の作動により排版動作が完了すると、版胴5はクランパ8がほぼ右真横に位置する給版位置まで回転して停止し、開閉手段によりクランパ8が開放されて孔版印刷装置1は図2に示す給版待機状態となる。
【0035】
画像読取動作と並行して製版部3では製版動作が行われる。製版スタートキーが押下されると、ステッピングモータ25が作動してプラテンローラ16が回転駆動されると共に図示しない駆動手段が作動してマスタ搬送ローラ対20が回転駆動され、マスタロール24aよりマスタ24が引き出される。このとき可動マスタガイド板21は搬送位置を占め、テンションローラ23は退避位置を占めている。ステッピングモータ25のステップ数より、図3に示すように製版されつつ製版部3より引き出されたマスタ24の先端がステージ部7の突き当て部7aに突き当たり所定位置に到達したと判断されると、開閉手段が作動してクランパ8が閉じられて図4に示すようにマスタ24の先端が版胴5の外周面上に保持される。
【0036】
その後ステッピングモータ33が作動して可動マスタガイド板21が搬送位置から退避位置に変位されると共に、吸引ファン19aが作動を開始する。この吸引ファン19aの作動によりマスタストック手段19内が負圧となり、図4においてクランパ8の手前に形成されていたマスタ24の弛みが、マスタ24がマスタストック手段19内に引き込まれることにより除去されて図5に示す状態となる。マスタ24の弛みを除去しつつマスタ24をマスタストック手段19内に吸引している間も製版搬送手段26による製版は継続されており、製版搬送手段26によって製版搬送されたマスタ24はマスタストック手段19内に順次貯容されていく。その後マスタ24の弛みが完全に除去されると、図6に示すようにテンションローラ23が作用位置に変位され、マスタストック手段19内への製版済みのマスタ24の貯容が継続される。
【0037】
製版動作が進行し、ステッピングモータ25のステップ数より1版分のマスタ24が製版されたと判断されると、プラテンローラ16及びマスタ搬送ローラ対20の回転が停止すると共にマスタ切断手段18が作動してマスタ24が切断される。版胴5が図1において時計回り方向に回転することにより切断されたマスタ24は製版部3より引き出され、その全てが版胴5の外周面上に巻装される。巻装動作が完了すると、ステッピングモータ33が作動して可動マスタガイド板21が搬送位置に変位される。
【0038】
巻装動作完了後、給紙ローラ28が回転して給紙部4より用紙Pが1枚分離給送されると共に、版胴5が低速で図1において時計回り方向に回転する。用紙分離部材30によって分離給送された用紙Pはその先端をレジストローラ対29に挟み込まれて一時停止され、版胴5上に巻装されたマスタ24の製版画像領域先端部がプレスローラ6と対応する位置に到達するタイミングでレジストローラ対29が回転することにより印刷部2に向けて給送される。レジストローラ対29の作動とほぼ同時に図示しない揺動手段が作動し、プレスローラ6が押圧位置に変位される。この変位により用紙Pが版胴5に巻装されたマスタ24に圧接され、インキ供給手段9によって版胴5の内周面に供給されたインキが多孔性支持板5aの開孔5b、図示しないメッシュスクリーン開孔部、マスタ24の穿孔部を介して用紙Pに転写され、いわゆる版付けが行われる。版付けがなされた用紙Pは図示しない剥離爪によって版胴5の外周面より剥離され、図示しない用紙搬送ユニットを介して図示しない排紙トレイ上に排出される。
【0039】
版付け動作後、オペレータは操作パネル上のキーを操作して印刷画像位置、印刷速度等を調整した後、図示しない試し刷りキーを押下する。試し刷りキーが押下されると、版胴5が設定された印刷速度に基づいた周速度で回転すると共に給紙部4より用紙Pが1枚分離給送され、版付け時と同様に試し刷りが行われる。オペレータはこの試し刷りによって用紙P上の印刷画像を確認し操作パネル上で印刷枚数を設定した後に印刷スタートキーを押下する。これにより給紙部4より用紙Pが連続的に給送され、試し刷り時と同様に印刷が行われる。そして設定された印刷枚数が消化されると、全ての動作が停止して孔版印刷装置1は待機状態となる。
【0040】
上述の構成により、製版されたマスタ24がクランパ8で位置決め保持された際に生じた弛みを吸引ファン19aの作動によってマスタ24をマスタストック手段19内に引き込むことにより除去するので、新たな機構を設けることなくマスタへのしわの発生や画像位置ずれの発生を防止することができ、コストアップすることなく良好な印刷画像を継続的に得ることができる。
【0041】
上記実施形態では、マスタ24の先端をクランパ8で位置決め保持した後、吸引ファン19aを作動させてクランパ8の手前に生じたマスタ24の弛みを除去する際にマスタ24の製版搬送を継続する構成としたが、マスタ24の先端をクランパ8で位置決め保持した後にプラテンローラ16及びマスタ搬送ローラ対20の回転を停止させてマスタ24の製版搬送を中断し、吸引ファン19aを所定時間作動させてマスタ24の吸引を行った後にマスタ24の製版搬送を再開する構成としてもよい。この構成とすることにより、マスタ搬送ローラ対20から送り出されるマスタ24をマスタストック手段19内に引き込むことに吸引ファン19aの吸引力が使用されてしまい、マスタ24の弛みの除去に対して吸引ファン19aの吸引力が及ばなくなることを防止でき、弛みの除去を効果的に行うことができる。また、これにより吸引ファン19aの小型化を図ることができ、コストダウンを図ることができる。
【0042】
上記実施形態の変形例として、図7に示すように可動マスタガイド板21の上方に、マスタ24の幅方向中央部に対して上方から下方への送風を行う送風ファン34を設ける構成を採用してもよい。送風ファン34によってマスタ24の幅方向中央部に送風を行うことにより、マスタ24をマスタストック手段19内に引き込む力がマスタ24の両端部に比して中央部において大きくなり、クランパ8の剛性が小さくマスタ24の中央部に弛みが多く発生した場合であっても効果的にマスタ24に発生した弛みを除去することができ、弛みの除去をより効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態を採用した孔版印刷装置の要部概略正面図である。
【図2】本発明の一実施形態における給版待機状態を説明する概略図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるマスタの先端がクランパに位置決めされた状態を説明する概略図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるマスタの先端がクランパに保持された際にマスタに発生した弛み説明する概略図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるマスタの先端に発生した弛みが除去される状態を説明する概略図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるマスタの先端に発生した弛みが除去された後にテンションローラが作用位置を占めた状態を示す概略図である。
【図7】本発明の一実施形態の変形例を示す概略図である。
【図8】従来の孔版印刷装置におけるマスタの先端がクランパに保持された際にマスタに弛みが発生することを説明する概略図である。
【図9】従来の孔版印刷装置におけるマスタの先端がクランパに保持された際にマスタに弛みが発生することを説明する概略図である。
【図10】従来の孔版印刷装置におけるマスタの先端がクランパに保持された際にマスタに弛みが発生することを説明する概略図である。
【図11】従来の孔版印刷装置におけるマスタの先端がクランパに保持された際にマスタに弛みが発生することを説明する概略図である。
【符号の説明】
【0044】
1 孔版印刷装置
3 製版部
5 版胴
8 クランパ
19 マスタストック手段
19a 吸引手段(吸引ファン)
24 マスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴と、マスタを製版して前記版胴に向けて搬送する製版部とを有し、前記製版部は製版されたマスタを一時的に貯容するマスタストック手段を有し、前記版胴は搬送されたマスタの先端を位置決めしつつ保持するクランパをその外周面上に有する孔版印刷装置において、
前記マスタストック手段はその内部にマスタを吸引する吸引手段を有し、マスタの先端が前記クランパによって位置決め保持された後に前記吸引手段を作動させることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の孔版印刷装置において、
前記吸引手段を所定時間作動させ、前記吸引手段の作動中にマスタの搬送を停止させることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の孔版印刷装置において、
マスタの幅方向における中央部での吸引力を他の部位よりも大きくしたことを特徴とする孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−292067(P2009−292067A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148524(P2008−148524)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)