説明

宇宙における大型構造物の構築方法

【課題】宇宙における大型構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】宇宙における大型構造物の構築方法は、移動機能を備えた複数の小型人工衛星に構造物を折りたたんだ状態で各々搭載し、各々の小型人工衛星が宇宙空間の所定の位置まで移動した後、各々の小型人工衛星に搭載された構造物を展開し、展開された複数の構造物を連結して大型構造物を構築する。大型構造物の構築後、小型人工衛星に備えられた機器を用いて大型構造物の振動、位置及び姿勢の変動を計測するとともにそれらの制御を行う。また、大型構造物の一部に不具合が発生した場合には、その部分の小型人工衛星を移動させて大型構造物から切り離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間において太陽発電人工衛星,宇宙ステーション、多目的プラットフォーム等の大型構造物を構築するための構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題や無重量状態を利用した工業的利用のため、太陽発電人工衛星や大型プラットフォーム等の宇宙における大型構造物の必要性が高まりつつある。これらの構造物は1辺の長さが100mから数kmに及ぶものも想定されている。これを構築するためには、構造物をロケット・スペースシャトル等に搭載し,無重力下の宇宙空間でこれを組み立てなければならない。例えば宇宙ステーションの場合、スペースシャトルで機材を運搬し、軌道上で船外活動を行う宇宙飛行士とシャトル等のロボットアームを用いて建設が進められている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
また、自由飛行型のロボットを用いて建設することも検討されている。
【0003】
また、組立られたあとの大型構造物は柔軟で大きな断面積をもつため、大気のドラッグや太陽輻射圧などの外力の影響により振動や姿勢の変動が発生すると考えられているが、その制振方法については重力傾斜による安定やテザーによる張力による制振などパッシブなものが検討されているだけで十分な検討がなされていない状況にある(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
また、故障が発生したときの扱いについてはほとんど考えられておらず、一部の破損が全損を招く恐れがあった。
【特許文献1】特開平2−24073号公報
【特許文献2】特開2003−212195号公報
【特許文献3】特開2000−264299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の宇宙ステーションの建設のように、スペースシャトル等で資材を運搬して宇宙飛行士が組み立てる方法は、まず第一に放射線やデブリの危険があり、宇宙飛行士やシャトルの建設現場での移動方法は効率的でなく、限定的な場所に留まって徐々に組み立てていくしかないものである。
また、自由飛行型ロボットを用いる場合はロボットが実用化していないことが問題である。さらに、この自由飛行型ロボットには高い能力が要求されるが、万一故障した場合には、それが腕関節の1つだけの故障であっても建設を中止することも考慮しなければならないほど重要な影響を与えることになる。
【0006】
振動、位置及び姿勢の変動に関しては、大きな構造物なので大気ドラッグや太陽輻射圧の影響を大きく受けると予想されるにもかかわらず、これまで十分検討されていない状況にある。これまでのところ、重力傾斜による姿勢制御やテザーによる制振が提案されているだけである。
大型構造物の一部が破損した場合の対策についてもほとんど考えられていない。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためのものであって、宇宙飛行士による船外活動が不要であり、自由飛行型ロボットを用いることなく冗長系を有するシステムとして導入することができるとともに、組立後においても小型人工衛星の部分が制振・位置・姿勢制御を行うセンサ・アクチュエータとして機能させることができ、さらに、大型構造物の一部が破損した場合もその破損部分を自律的に廃棄でき、新しいモジュールと取り替えることが容易にできる宇宙における大型構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1記載の宇宙における大型構造物の構築方法は、移動機能を備えた複数の小型人工衛星に構造物を折りたたんだ状態で各々搭載し、各々の小型人工衛星が宇宙空間の所定の位置まで移動した後、各々の小型人工衛星に搭載された構造物を展開し、展開された複数の構造物を連結して大型構造物を構築することを特徴とする。
また、本発明の請求項2記載の宇宙における大型構造物の構築方法は、請求項1記載の発明において、大型構造物の構築後、小型人工衛星に備えられた機器を用いて大型構造物の振動、位置及び姿勢を計測するとともに制御することを特徴とする。
また、本発明の請求項3記載の宇宙における大型構造物の構築方法は、請求項1又は請求項2記載の発明において、大型構造物の一部に不具合が発生した場合には、その部分の小型人工衛星を移動させて大型構造物から切り離すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)宇宙飛行士や自由飛行型ロボットによる人工衛星軌道上での組み立て作業が不要であり、自動的に大型構造物を構築することができる。
(2)大型構造物の組み立て後の制振、位置及び姿勢の制御を、小型人工衛星をセンサ・アクチュエータとして機能させることにより、能動的に行うことができる。
(3)大型構造物の一部が故障した場合には、故障部分の小型人工衛星を移動させることにより切り離し、新たな構造物を連結することにより、容易に交換することができる。
(4)大型構造物のもつ計算能力を活用し、地上等での各種計算需要に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る宇宙における大型構造物の構築方法を実施するための最良の形態を実施例に基づいて図面を参照しながら以下に説明する。
【実施例1】
【0011】
本実施例においては、100m×100mの面積を持つ1MW級の太陽発電衛星の構築を行う場合について説明する。
図1において、小型人工衛星2は、面積が約0.5m×2.5mの短冊状の太陽電池パネル80枚からなる収納状態の展開構造物1を搭載している。この展開構造物1は、折りたたんだ状態で約2m×2.5m×1mの大きさになる。
【0012】
小型人工衛星2は、約0.5m×0.5m×0.5mの大きさで、公知のGPS受信機、加速度計、地球センサ、CCDカメラ、ファイバーオプティカルジャイロ、リアクションホイール、コールドガスジエットスラスタ及び計算機等の必要な機器を搭載している。
この太陽発電衛星を実現するためには、100機の太陽電池パドルを備えたモジュールと1機の送電機能を備えたモジュールが必要である。
【0013】
図1に示すように、小型人工衛星2に短冊状の太陽電池パネルからなる展開構造物1を搭載したモジュールは、小型人工衛星2を操作することにより展開構造物1を折りたたんだ状態で所定の位置に移動する。
所定の位置に移動されたモジュールは、図2に示すように、折りたたまれた状態の展開構造物1の展開を行い、隣接するモジュールとラッチ等の公知の締結手段を用いて締結され、周囲と連結状態にある連結展開構造物3が構築される。さらに、順次モジュールを加えることにより連結展開構造物3を拡大していき、大型構造物を構築する。
【0014】
次に、図3に示すように、大型構造物に送電ケーブル4及び送信機、アンテナ5等からなる送信機能を持ったモジュールを加え、全体として太陽発電衛星の機能が整備される。この状態で、大型構造物の振動、位置及び姿勢の制御を行うため、小型人工衛星2に備えられたGPS受信機、加速度計、地球センサ、CCDカメラ、ファイバーオプティカルジャイロを用いて大型構造物の振動、位置及び姿勢を計測し、小型人工衛星2に備えられたリアクションホイール、コールドガスジエットスラスタを用いて大型構造物の振動、位置及び姿勢の制御を行う。
【0015】
図4に示すように、大型構造物の長年の使用等により、一部に故障したモジュール6が発生した場合は、当該故障したモジュール6の小型人工衛星を制御することにより、自律的に故障したモジュール6を大型構造物から離脱させ、廃棄する。次に、小型人工衛星2に短冊状の太陽電池パネルからなる展開構造物1を搭載した代替モジュール7を、小型人工衛星2を操作することにより、展開構造物1を折りたたんだ状態で故障したモジュール6の後の位置に移動させる。その後、展開構造物1を展開し、周囲のモジュールとラッチ等により締結する。
大型構造物構築後は、各小型人工衛星の計算機を制御以外の計算需要にも活用する。計算課題は、地上から通信により与え、計算を行う。
【0016】
本発明は、上記実施例に示した太陽発電人工衛星に限定されるものではなく、種々の機能を持つ展開構造物を配置することにより、様々な機能を有する大型構造物を構築することができるものである。また、大型構造物を構成する小型人工衛星、締結手段等は公知のものを用いるため、詳細な説明は省略している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る小型人工衛星と展開構造物からなるモジュールを、展開構造物を収納した状態で所定の位置まで移動した状態を示す概念図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る小型人工衛星と展開構造物からなるモジュールを、所定の位置で展開構造物を展開し,相互に締結して大型構造物を構築する状態を示す概念図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る太陽発電人工衛星の機能を備えた大型構造物の完成した状態を示す概念図である。
【図4】大型構造物の一部が故障した場合の取替え方法を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0018】
1 展開構造物
2 小型人工衛星
3 連結展開構造物
4 送電ケーブル
5 送信機・アンテナ
6 故障したモジュール
7 代替モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動機能を備えた複数の小型人工衛星に構造物を折りたたんだ状態で各々搭載し、各々の小型人工衛星が宇宙空間の所定の位置まで移動した後、各々の小型人工衛星に搭載された構造物を展開し、展開された複数の構造物を連結して大型構造物を構築することを特徴とする宇宙における大型構造物の構築方法。
【請求項2】
大型構造物の構築後、小型人工衛星に備えられた機器を用いて大型構造物の振動、位置及び姿勢を計測するとともにそれらの制御を行うことを特徴とする請求項1記載の宇宙における大型構造物の構築方法。
【請求項3】
大型構造物の一部に不具合が発生した場合には、その部分の小型人工衛星を移動させて大型構造物から切り離すことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の宇宙における大型構造物の構築方法。
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−7878(P2006−7878A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185422(P2004−185422)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)