説明

安価なテラヘルツ・パルス波発生器

テラヘルツ領域での信号のパルスは、バイアスされたAustonスイッチに光学的に結合される、短いデューティサイクルを有するモード同期半導体レーザ・ダイオードから成る装置を使用して生成される。モード同期半導体レーザ・ダイオードからの出力は、最初にパルス圧縮器に供給され、得られた圧縮されたパルスはAustonスイッチに供給される。好ましくは、半導体レーザ・ダイオードのモード同期は制御可能であり、すなわちそれはアクティブなモード同期半導体レーザであり、それゆえレーザからの出力光信号の位相は、入力制御信号の位相に同期される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ周波数領域における電磁波のパルスの生成に関する。
【背景技術】
【0002】
「テラヘルツギャップ」としても知られ、例えば300ギガヘルツ〜10テラヘルツの間のいわゆる「テラヘルツ領域」における信号のパルスは、様々な用途、例えばスペクトラム・アナライザおよび撮像用途に対して有用である。従来技術のテラヘルツ・パルス波発生器は、一般に、ほぼ400テラヘルツに対応する780nmの搬送波波長で、各パルスが一般に50〜300フェムト秒の間の周期を有する、すなわち各パルスのスペクトル幅がほぼ3テラヘルツである光のパルスを生成するチタン・サファイア(Ti:サファイア)レーザを使用した。これらのパルスは、次に光スプリッタに導かれ、このスプリッタはこれらのパルスの2つのレプリカを生成する。レプリカのうちの一方のパルスはバイアスされたAustonスイッチに供給され、このスイッチは入力光パルスに応答しておよそ1〜2テラヘルツのスペクトル幅を有する電磁パルスを生成する。Austonスイッチは、テラヘルツ・パルスを収束させるために、アンテナ、ならびに場合によってはレンズ、例えばシリコン・レンズを含む。
【0003】
このようなテラヘルツ・パルスの1つの用い方は、テラヘルツ・パルスを供試材料、例えば医薬品に導き、それによりそれらのパルスが供試材料から反射して戻り、受信中のバイアスされないAustonスイッチに向かわせることである。バイアスされないAustonスイッチには、チタン・サファイア・レーザにより生成された光パルスの第2のレプリカを可変に遅延させたパルスが供給される。一般に、機械的に同調可能な光遅延線がこの遅延を実施する。バイアスされないAustonスイッチは、それがテラヘルツ光信号で刺激されるときに受信する反射テラヘルツ信号に応答して電気出力を生成する。
【0004】
第2のレプリカを遅延させた光パルスを使用して、出力がAustonスイッチにより生成される時点を制御する。言い換えれば、第2のレプリカを遅延させた光パルスはAustonスイッチの出力を「ゲート制御し」、第2のレプリカの光パルスが受信されたときだけ、そのスイッチから出力が生成される。検査されるべき反射テラヘルツ・パルスの一部がゲート・パルスと同時にAustonスイッチに到着するように、この遅延は変更される。第1のレプリカ、または供試材料の位置に変化がもたらされない限り、各反射パルスは同じでなければならないことに留意されたい。したがって、反射テラヘルツ・パルス全体の総形状を得るために、第2のレプリカの経路中の遅延を一連のテラヘルツ・パルスのそれぞれに対して変化させ、反射パルスのうちの1パルスの全幅にわたってスキャンする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不利なことに、チタン・サファイア・レーザを使用するとはなはだ高価になる。また、機械的に同調可能な遅延線を使用すると、測定は遅くなり、かつ比較的高価になる。その上に、遅延線は機械式であるので、この装置は要望されるほどには頑丈でなく、それゆえ車載用途に適さない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
テラヘルツ領域での信号のパルスの生成は、本発明の原理にしたがって、バイアスされたAustonスイッチに光学的に結合される、短いデューティサイクルを有するモード同期半導体レーザ・ダイオードから成る装置によって改善することができることを、本発明者は確認した。性能を改善するため、例えばテラヘルツ・パルスのスペクトル幅を増大させるため、すなわちそれらの持続時間を短くするために、モード同期半導体レーザ・ダイオードからの出力を、最初にパルス圧縮器に供給し、得られた圧縮されたパルスをAustonスイッチに供給してテラヘルツ・パルスを生成することができる。好ましくは、半導体レーザ・ダイオードのモード同期は制御可能であり、すなわちそれはアクティブなモード同期半導体レーザであり、それゆえレーザからの出力光信号の位相は、入力制御信号の位相に同期される。
【0007】
本発明の一態様によれば、材料の検査は、a)供試材料に供給されるテラヘルツ・パルスを生成するためにその出力がバイアスされたAustonスイッチに結合された第1のモード同期半導体レーザ・ダイオードと、b)供試材料に接触した、すなわち供試材料から反射した、かつ/または少なくとも部分的には供試材料を通過したテラヘルツ・パルスの受信、ならびに第2のレーザ・ダイオードからのレーザ・パルスの受信に応答して電気信号を生成するバイアスされないAustonスイッチに光学的に結合された、第2のモード同期半導体レーザとを含む装置を使用して行うことができる。レーザのうちの少なくとも一方のモード同期制御の位相を制御可能な状態で変化させて、接触したパルスのうちの1パルスの全幅にわたってスキャンし、それにより機械的に同調可能な光遅延線を使用する従来技術によって達成されるのと同じ効果を得ることができる。
【0008】
本発明の別の態様によれば、材料の検査は、第1のモード同期半導体レーザ・ダイオードから出力されたパルスが光スプリッタに導かれ、その光スプリッタがパルスの2つのレプリカを生成する装置を使用して行うことができる。レプリカのうちの一方は、固定遅延、例えばファイバー遅延または自由空間遅延を使用して遅延される。遅延されたレプリカおよび遅延されないレプリカはそれぞれ、各Austonスイッチに結合される。Austonスイッチのうちの一方はバイアスされており、もう一方はバイアスされていない。スキャニングは、レーザ・ダイオードにより生成されるパルスの繰り返し周波数をわずかに、反復して周期的に変化させることにより実施する。各サイクルにわたって、結果として、遅延線の出力におけるパルスが、遅延されないレプリカに対してシフトされることになる。
【0009】
性能を改善するため、例えばテラヘルツ・パルスのスペクトル幅を増大させる、すなわちそれらの持続時間を短くするために、モード同期半導体レーザ・ダイオードのそれぞれからの出力を最初にパルス圧縮器に供給し、得られた圧縮されたパルスを関連するAustonスイッチそれぞれに供給することができる。
【0010】
有利には、2モード同期半導体レーザ・ダイオードは、チタン・サファイア・レーザよりも安価であり、より少ない電力を使用し、より小型であり、メンテナンスをあまり必要とせず、かつより可搬性が高い。さらに有利なことに、機械的に同調可能な光遅延線を使用しないため、測定はより速くなり、かつ比較的安価になる。その上、この装置はより頑丈であり、特に車載用途に適する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の原理により、テラヘルツ領域での信号のパルスを生成するため、かつ材料を検査するための、例示的な構成を示す図である。
【図2】本発明の原理により、テラヘルツ領域での信号のパルスを生成するため、かつ材料を検査するための、別の例示的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の原理を、単に例として以下に示す。したがって、本明細書には明確に記載されず、または図示されていないが、本発明の原理を具現し、かつその精神および範囲に含まれる種々の構成を、当業者なら案出することができるであろうことを理解されたい。さらに、本明細書に記載された全ての例および条件付き文言は、主に、この技術を促進するために発明者(達)によって与えられた本発明の原理およびその概念を読者が理解することを助けるための、教示を目的とするものにすぎないことを明確に意図しており、かつこのような、具体的に記載された例および条件には限定されないものと解釈されるべきである。その上、本発明の原理、態様および実施形態、ならびに本発明の具体的な例を記載する、本明細書での全ての記述は、本発明の、構造的および機能的な同等物を包含することを意図している。さらに、このような同等物は、現在知られている同等物ならびに将来開発される同等物のいずれをも含むこと、すなわち構造にかかわらず同じ機能を実施する、開発されたいかなる要素をも含むことを意図している。
【0013】
本明細書の構成図はいずれも、本発明の原理を具現する例示的な回路の概念図を表していることは、当業者には理解されよう。「プロセッサ」と名付けられた任意の機能ブロックを含めて、図に示す種々の要素の機能は、専用のハードウェア、ならびに適切なソフトウェアに関連するソフトウェアを実行可能なハードウェアを使用することにより実現することができる。プロセッサにより実現する場合は、その機能は単一の専用プロセッサにより、単一の共用プロセッサにより、またはいくつかが共用されてよい複数の個別プロセッサにより実現することができる。
【0014】
本願の特許請求の範囲では、特定の機能を実行するための手段として表現された要素はいずれも、その機能を実行するいかなる方法をも包含することを意図している。これは、例えば、a)その機能を実施する電気的または機械的要素の組み合わせ、あるいはb)その機能を実施するためのソフトウェアを実行するのに適合した回路ならびにもし存在する場合はソフトウェアで制御される回路に結合された機械的要素と組み合わされた、ファームウェア、マイクロコードなどを含む任意の形態のソフトウェアを含むことができる。このような特許請求の範囲により定義される本発明には、種々の記載された手段により実現される諸機能が、特許請求の範囲が述べるやり方で組み合わされ、統合されるという事実がある。したがって、本出願人は、これらの諸機能を実現することができるいかなる手段も、本明細書に示すものと同等であるとみなす。
【0015】
本明細書に別段に明記しない限りは、図は縮尺通りに描かれていない。同じく、本明細書に別段に明記しない限りは、本明細書で開示される全実施形態の中の特定の機能を実現することができる全ての光学素子または光学系は、本開示の目的において互いに同等である。
【0016】
記載の中で、異なる図の中で同じ番号を付けられた構成要素は、同じ構成要素を示す。
【0017】
テラヘルツ領域での信号のパルスの生成は、本発明の原理にしたがって、バイアスされたAustonスイッチに光学的に結合された、短いデューティサイクルを有するモード同期半導体レーザ・ダイオードから成る装置によって達成される。性能を改善するため、例えばテラヘルツ・パルスのスペクトル幅を増大させるため、すなわちそれらの持続時間を短くするために、モード同期半導体レーザ・ダイオードからの出力を、最初にパルス圧縮器に供給し、得られた圧縮されたパルスをAustonスイッチに供給して、テラヘルツ・パルスを生成することができる。好ましくは、半導体レーザ・ダイオードのモード同期は制御可能であるので、すなわちそれはアクティブなモード同期半導体レーザであるので、レーザからの出力光信号の位相は入力制御信号の位相に同期される。
【0018】
図1は、モード同期半導体レーザ・ダイオード101およびバイアスされたAustonスイッチ103を含む、テラヘルツ領域での信号のパルスを生成するための例示的な構成を示す。また、モード同期正弦波発生器109,任意選択のパルス圧縮器113,および任意選択の光増幅器121も示す。
【0019】
モード同期半導体レーザ・ダイオード101は光のパルス、すなわち、一般に電気通信用途に使用される搬送波波長、例えば1.5μmまたは1.3μmにおいて、短いデューティサイクルを有する光パルスを生成する。1.5μmでのレーザ・ダイオードによる出力として供給される光パルスの搬送波周波数は200テラヘルツ前後である。また、電気通信用途向けに一般的に設計される現在のレーザ・ダイオードは、各パルスが1ピコ秒前後の幅を有し、パルス繰り返し速度がおよそ40ギガヘルツの光パルス列を生成することができるが、特別仕様のレーザ・ダイオードはより短いパルス幅を有するように設計することもできる。周波数領域において、モード同期半導体レーザ・ダイオード101からの出力は、200テラヘルツの光搬送波周波数に中心があり、1テラヘルツ前後の幅を有するローブである。好ましくは、モード同期半導体レーザ・ダイオード101のモード同期は制御可能であり、すなわちそれはアクティブなモード同期半導体レーザであり、したがってレーザからの出力光信号の位相は入力制御信号の位相に同期される。
【0020】
モード同期正弦波発生器109は正弦波のモード同期信号を生成し、その信号は入力制御信号としてモード同期半導体レーザ・ダイオード101に供給される。正弦波のモード同期信号の周波数は一般に40ギガヘルツ前後である。正弦波のモード同期信号は、モード同期半導体レーザ・ダイオード101により生成されるパルスの位相を制御する。モード同期半導体レーザ・ダイオード101は、例えばファイバー、自由空間、またはそれらの組み合わせを介して、バイアスされたAustonスイッチ103に光学的に結合される。
【0021】
バイアスされたAustonスイッチ103は、そのスイッチ上への光パルス入射に応答して、テラヘルツ領域での電磁パルスを生成する。より詳細には、バイアスされたAustonスイッチ103は、正弦波のモード同期信号の周波数と同じ繰り返し速度およびおよそ1ピコ秒の幅を有し、したがってテラヘルツ領域における周波数成分を有する、パルス化された電磁信号を生成することによって光パルスに応答する。バイアスされたAustonスイッチ103は、連続電圧によりバイアスすることができる。バイアスされたAustonスイッチ103の出力をアンテナ、例えばアンテナ125に結合し、それにより、得られた電気信号がテラヘルツ領域での周波数を有する電磁波をアンテナ125から伝播させ、例えば空間に放射させる。あるいは、得られた電気信号を焦点調節装置、例えばレンズまたはアンテナで捕捉し、例えばチップ上で生成されるテラヘルツ波を収容するために導波管に供給することができる。
【0022】
任意選択のパルス圧縮器113はパルスの持続時間を短縮させ、それに対応してそれらのスペクトル幅を増大させ、それにより性能を向上させることができる。任意選択のパルス圧縮器113は、モード同期半導体レーザ・ダイオード101から光パルスを受信し、圧縮されたパルスをバイアスされたAustonスイッチ103に供給する。パルス圧縮器113が波長分散補償器に結合された非線形光導波管から構成することができることは、当技術分野で周知である。
【0023】
任意選択の光増幅器121、例えばエルビウムドープ・ファイバ増幅器または半導体光増幅器は、それが受信した光信号を増幅し、増幅された信号をバイアスされたAustonスイッチ103に供給する。
【0024】
本発明の一態様では、材料、例えば図1に示す供試材料117の検査は、バイアスされたAustonスイッチ103により生成される電磁テラヘルツ・パルスを使用し、それらが供試材料117に「接触する」ように誘導し、接触後の電磁テラヘルツ・パルスのうちの少なくとも一部を解析することにより行うことができる。パルスは、検査されている材料から反射した場合、かつ/または少なくとも部分的にはその材料を通過した場合に、その材料に「接触した」ことになると留意されたい。図1に示す、材料の検査に有用な構成要素は、1)第2のモード同期半導体レーザ・ダイオード107、2)バイアスされないAustonスイッチ105、3)任意選択の位相同調器119、4)任意選択のパルス圧縮器115、および5)任意選択の光増幅器123である。
【0025】
好ましくは、モード同期半導体レーザ・ダイオード101と同じく、モード同期半導体レーザ・ダイオード107は、一般に電気通信の用途に使用される搬送波波長、例えば1.5μmまたは1.3μmで短いデューティサイクルを有する光のパルスを生成する。1.5μmでのレーザ・ダイオードによる出力として供給される光パルスの搬送波周波数は、200テラヘルツ前後である。上記のとおり、電気通信用途向けに設計された現在のレーザ・ダイオードは一般的に、各パルスが1ピコ秒前後の幅を有し、パルス繰り返し速度がおよそ40ギガヘルツである光パルス列を生成することができる。周波数領域において、モード同期半導体レーザ・ダイオード107からの出力は、200テラヘルツの光搬送波周波数に中心がありかつ1テラヘルツ前後の幅を有するローブである。好ましくは、モード同期半導体レーザ・ダイオード107のモード同期は制御可能であり、すなわちそれはアクティブなモード同期半導体レーザであり、したがってレーザからの出力光信号の位相は入力制御信号の位相に同期される。
【0026】
モード同期半導体レーザ・ダイオード107には、モード同期正弦波発生器109により生成された正弦波のモード同期信号が、それが任意選択の位相同調器119により修正された後に供給される。したがって、モード同期半導体レーザ・ダイオード107が生成するパルスの位相を制御するためにダイオード107に入力制御信号として供給されるのは、修正された正弦波のモード同期信号である。モード同期半導体レーザ・ダイオード107は、例えばファイバー、自由空間、またはそれらの組み合わせを介してバイアスされないAustonスイッチ105に光学的に結合される。
【0027】
バイアスされないAustonスイッチ105は、1)スイッチ105上への光パルス入射と、2)バイアスされたAustonスイッチ103により生成され、かつ材料117に接触した電磁パルスのエネルギーの一部である電磁信号とに応答して電気出力を生成する。材料117に接触した電磁信号は、任意選択のアンテナ127を介して受信され、アンテナ127はこのエネルギーを収束し、それをバイアスされないAustonスイッチ105に誘導する。
【0028】
より詳細には、バイアスされないAustonスイッチ105上への光パルス入射のそれぞれは、スイッチ105の中にキャリヤを発生させる。通常、飽和するまでは、入射光パルスが強いほどより多くのキャリヤが生成される。これらのキャリヤは、バイアスされないAustonスイッチ105が供試材料117から受信した信号に応答してスイッチ105の中に生成された電磁界により、出力、すなわち表示器111まで掃引される。したがって、バイアスされないAustonスイッチ105により出力が生成される時点は、モード同期半導体レーザ・ダイオード107により制御される。というのは、たとえ電磁信号が受信されており、それによりバイアスされないAustonスイッチ105の中に電磁界が発生している場合でも、スイッチ105の中に生成されたキャリヤが存在しなければ、出力は発生しないからである。同様に、たとえ光パルスに応答してキャリヤが生成されているとしても、バイアスされないAustonスイッチ105によって電磁信号が受信されない場合は、出力は発生しない。出力に到達する、生成されたキャリヤの密度は、受信された電磁信号の関数であり、例えばその強さに比例する。
【0029】
バイアスされないAustonスイッチ105で受信される電磁信号は、通常、供試材料に接触した電磁信号よりも広い。バイアスされないAustonスイッチ105で受信された電磁信号全体の表現を展開するためには、受信された信号に対するバイアスされないAustonスイッチ105からの出力値を、様々な時点で採取する必要がある。概念的には、これは、電磁信号をサンプリングすることのように思われ得る。しかし、レーザ・ダイオード107の各パルスに対して1つのサンプルしか採取することがでず、それゆえ受信された電磁信号全体の瞬間的なスナップショットを得ることはできない。この問題は、一般に、バイアスされたAustonスイッチ103から放出される一組の実質上同等のテラヘルツ・パルスのうちの各パルスに対して、バイアスされないAustonスイッチ105は、一組の、実質上互いに同等の電磁信号を受信することを理解することにより克服される。したがって、単一の受信パルスの表現を作成するために、このようにして受信された電磁信号のうちの、多くの別々の同等信号のそれぞれを、異なる諸時点でサンプリングすることができる。
【0030】
各測定が行われる諸時点は、レーザ・ダイオード107がその光パルスを生成し、それによりバイアスされないAustonスイッチ105の中にキャリヤを生成させる時点により設定される。その結果、位相同調器119が、レーザ・ダイオード107がその光パルスのそれぞれを生成する時点を制御する。したがって、レーザ・ダイオード107に供給される正弦波のモード同期信号の位相を変化させることにより、位相同調器119が、反射パルスの幅全体にわたる諸時点でサンプルを採取させるようにすることができ、それにより機械的に同調可能な光遅延線を使用する従来技術によって達成されるのと同じ効果を得ることができる。実際には、この位相は実質的に連続的に変化させることができるので、電磁信号に対して実質的に連続な波形を得ることができる。表示器111が、数値化およびそれに続く分析のためにサンプリングを実施することができることは、同業者には容易に理解されよう。
【0031】
モード同期半導体レーザ・ダイオード107に供給されるモード同期信号の位相を変えることを図示し、説明してきたが、そのモード同期信号の位相を一定に保持し、代わりにモード同期半導体レーザ・ダイオード101に供給されるモード同期信号の位相を変化させてもよいことは、同業者には容易に理解されよう。したがって、反射パルスのうちの1パルスの全幅にわたってスキャンするために、レーザのうちの少なくとも一方のモード同期制御の位相が制御可能な状態で変化させることができることが必要とされているにすぎない。
【0032】
測定全体を改善し、ノイズを減少させるために、複数の受信された電磁信号の存続期間と同じ時間の間に測定し、次の時間に進む前にそれらの測定値を一緒に平均することが望ましいであろうことに留意されたい。
【0033】
任意選択のパルス圧縮器115はパルスの持続時間を短くさせ、それに対応してそれらのスペクトル幅を増大させ、それにより性能を向上させることができる。任意選択のパルス圧縮器115はモード同期半導体レーザ・ダイオード107から光パルスを受信し、圧縮されたパルスをバイアスされないAustonスイッチ105に供給する。好ましくは、所与の一実施形態は任意選択のパルス圧縮器113および115を両方使用すべきであり、両パルス圧縮器は同一の特性を有すべきであることは、同業者には容易に理解されよう。当技術分野で周知のとおり、パルス圧縮器115は、波長分散補償器に結合された非線形光導波管で構成することができる。
【0034】
任意選択の光学的増幅器123、例えばエルビウムドープ・ファイバ増幅器または半導体光増幅器は、それが受信した光信号を増幅し、増幅された信号をバイアスされないAustonスイッチ105に供給する。好ましくは、所与の一実施形態は任意選択の光増幅器121および123を両方使用すべきであり、両光増幅器は同一の特性を有すべきであることは、同業者には容易に理解されよう。
【0035】
有利には、2モード同期半導体レーザ・ダイオードは、従来技術のシステムが必要としていたようなチタン−サファイアよりも安価であり、より少ない電力を使用し、より小型であり、メンテナンスをあまり必要とせず、かつより可搬性が高い。さらに有利なことに、機械的に同調可能な光遅延線を使用しないため、測定はより速くなり、かつ比較的安価になる。その上有利なことに、この装置はより頑丈であり、特に車載用途に適する。
【0036】
図2は、本発明の原理による、材料を検査するための別の例示的構成を示す。図2に、1)モード同期半導体レーザ・ダイオード101、2)バイアスされたAustonスイッチ103、3)バイアスされないAustonスイッチ105、4)同調可能な周波数発生器209、5)光遅延231、6)任意選択のパルス圧縮器113、7)光増幅器121、8)光スプリッタ233、9)供試材料117、および表示器111を示す。
【0037】
モード同期半導体レーザ・ダイオード101は光のパルスを生成し、それらはバイアスされたAustonスイッチ103に光学的に結合される。この目的のために、光パルスはスプリッタ233を通過し、このスプリッタは光パルスを2つの流れに分割し、それにより元の受信パルス列に対して2つのレプリカが作られ、それらのうちの最初のレプリカがバイアスされたAustonスイッチ103に伝播する。光スプリッタ233に到達する前に、光パルスは、使用される可能性のある任意選択のパルス圧縮器113および/または光増幅器121を通過してもよい。光スプリッタ233により生成された第2のレプリカの光パルスは、光遅延231を通過してバイアスされないAustonスイッチ105の上に至る。好ましくは、光遅延231は約10nsの遅延を有する。光遅延231はファイバー遅延または自由空間遅延として実施することができる。
【0038】
モード同期半導体レーザ・ダイオード101には、同調可能な周波数発生器209により正弦波のモード同期信号が供給される。正弦波のモード同期信号の周波数は、通常、40ギガヘルツ領域の中にあるが、それは制御可能な状態で可変である。正弦波のモード同期信号は、モード同期半導体レーザ・ダイオード101により生成されるパルスの周波数を制御する。
【0039】
動作上、レーザ・ダイオード101からバイアスされたAustonスイッチ103への経路は、光スプリッタ233が存在するために生成された光のうちの半分だけがバイアスされたAustonスイッチ103に到達することを除いて、図1での対応する経路と同じように機能する。同様に、光パルスは、光スプリッタ233の後、遅延231を介してバイアスされないAustonスイッチ105に達する。
【0040】
図1に関連して上で説明したものと同様に出力を生成するために、バイアスされたAustonスイッチ103で受信される電磁信号のスキャニングは、同調可能な周波数発生器209により生成されるモード同期信号の周波数をわずかに変化させ、その結果としてレーザ・ダイオード101により生成されるパルスの繰り返し周波数をわずかに変化させることによって実施される。好ましくは、光遅延231の時間遅延と最大の周波数シフトの積はおよそ1になるので、光遅延231による遅延が10nsであるとき、周波数変化は100MHzであることに留意されたい。周波数のわずかな変化は、周期的に繰り返し実施される。言い換えれば、初めは基準値である周波数が変化し、例えば100MHz増加または減少する。次に、その周波数は、急変してその元の値に戻るか、または逆掃引してその元の値に戻ることができる。周波数における変化の各サイクルにわたって、遅延線の出力でのパルスは、遅延されないレプリカのパルスに対して連続して時間的にシフトするように見える。
【0041】
光遅延231は、バイアスされないAustonスイッチ105に供給されるレプリカの経路の中に図示されているが、当業者には容易に理解されるように、代わりに光遅延231は、バイアスされたAustonスイッチ103に供給されるレプリカの経路の中に存在するように結合されることもできることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ領域の信号のパルスを生成する方法であって、
第1のモード同期半導体レーザ・ダイオードから光のパルスを供給するステップと、
バイアスされたAustonスイッチの中でテラヘルツ領域の電磁パルスを生成するステップであって、前記電磁パルスのそれぞれが、前記光のパルスのうちの対応する1パルスに応答して生成されるステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記光のパルスを処理するステップをさらに含み、前記処理が、増幅するステップおよび圧縮するステップから成る群の機能のうちの少なくとも1機能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイアスされないAustonスイッチにおいて、テラヘルツ領域での前記電磁パルスのうちの少なくとも一部を受信するステップと、
前記バイアスされないAustonスイッチにおいて、第2のモード同期半導体レーザ・ダイオードにより供給される光のパルスを受信するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のモード同期半導体レーザ・ダイオードにより供給される前記光のパルスを処理するステップをさらに含み、前記処理が、増幅するステップおよび圧縮するステップから成る群の機能のうちの少なくとも1機能である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記バイアスされないAustonスイッチにより受信された前記テラヘルツ領域でのパルスのエネルギーの前記少なくとも一部が、検査されている材料に接触している、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1および第2のレーザ・ダイオードによる出力として生成された前記光のパルスが、位相において互いにオフセットされる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記オフセットを変化させるステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光のパルスの2つのレプリカを生成するステップと、
前記レプリカのうちの一方を、前記レプリカのうちの他方に関して遅延させるステップと、
前記レプリカのうちの前記遅延されたレプリカと前記レプリカのうちの前記遅延されないレプリカのうちの一方を、バイアスされないAustonスイッチにおいて受信するステップと、
前記レプリカのうちの前記遅延されたレプリカと前記レプリカのうちの前記遅延されないレプリカのうちの他方を、前記バイアスされたAustonスイッチにおいて受信するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バイアスされないAustonスイッチにおいて、テラヘルツ領域での前記電磁パルスの少なくとも一部を受信するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記バイアスされないAustonスイッチにより受信されるテラヘルツ領域での前記電磁パルスのそれぞれのエネルギーの前記少なくとも一部が、検査されている材料に接触している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光パルスの周波数を変化させるステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記レプリカを生成する前に、前記光パルスを圧縮するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記レプリカを生成する前に、前記光パルスを増幅するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記遅延させるステップにおいて、前記レプリカのうちの前記第1のレプリカが、前記レプリカのうちの前記第2のレプリカに対してある一定量だけ遅延させられる、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
テラヘルツ領域の信号のパルスを生成するための装置であって、
第1の光のパルスを供給する第1のモード同期半導体レーザ・ダイオードと、
テラヘルツ領域の電磁パルスを生成するための手段であって、前記電磁パルスのそれぞれが、前記光のパルスのうちの対応する1パルスに応答して生成される手段とを備える、装置。
【請求項16】
テラヘルツ領域の前記電磁パルスが供試材料に接触した後のテラヘルツ領域の前記電磁パルスの少なくとも一部と、前記第1の光のパルスに対して制御可能な状態で遅延することができる第2の光のパルスとの受信に応答して電気信号を生成する手段をさらに備える、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記第1の光のパルスに対する前記第2の光のパルスの前記遅延を制御する手段をさらに備える、請求項16に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−503234(P2010−503234A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527467(P2009−527467)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/020298
【国際公開番号】WO2008/039342
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(596092698)アルカテル−ルーセント ユーエスエー インコーポレーテッド (965)
【Fターム(参考)】