説明

安息角計算装置、安息角計算方法、安息角計算装置制御プログラム、及び該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

【課題】注入法の安息角に基づいて傾斜法の安息角を換算する。
【解決手段】本発明の安息角計算装置1は、粉体の注入法による安息角、篩い分け粒径平均、及びレーザー回折粒径平均の入力を受け付ける。凝集有無判定部7は、入力された篩い分け粒径平均、及びレーザー回折粒径平均に基づいて粉体の凝集の有無を判定し、判定結果を安息角換算部6に送る。安息角換算部6は、凝集有無判定部7から受け取った凝集の有無に応じて換算式を選択し、選択した換算式にて注入法の安息角を傾斜法の安息角に換算する。したがって、測定が容易で、一般的に広く用いられている注入法の安息角に基づいて、傾斜法の安息角を換算することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安息角計算装置、安息角計算方法、安息角計算装置制御プログラム、及び該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粉体の流動性試験として、安息角によって流動性を評価する方法が広く用いられている。安息角とは、粉体を堆積させたときに、堆積した粉体の表面と水平面とのなす角度の最大値を指す。安息角は、粉体の種類、含水量等の条件を等しくした場合、同一の値を示す。安息角が小さいほどその粉体の流動性が高いと言える。
【0003】
上述のように、安息角は、同一条件下では同一の値を示すので、粉体プロセスにおける品質管理、工程管理等にも広く用いられている。主な安息角の測定方法としては、非特許文献1等に記載されているように、注入法、排出法、傾斜法の3種が知られている。
【0004】
図2は、注入法の安息角の測定方法を示している。注入法の安息角は、図2(a)に示すような円盤状の上面を有する台101を用いて測定される。台101は、円盤状の上面が水平となるように設置される。そして、図2(b)に示すように、台101上に、漏斗102を介して粉体100を堆積させる。粉体100は、台101上で円錐状に堆積してゆき、円錐状に堆積した粉体100と、水平面との角度がある一定の角度φになると、それ以降、粉体100を注入しても円錐状に堆積した粉体100の表面を滑り落ちるのみで、角度φは変わらない。この角度φが注入法の安息角である。注入法を用いた安息角測定機としては、例えば、ホソカワミクロン社のパウダーテスター等が挙げられる(非特許文献2参照)。
【0005】
図3は、排出法による安息角の測定方法を示している。排出法の安息角は、図3(a)に示すような、底面の中心部に円形の穴104が形成された円筒容器103を用いて測定される。穴104を塞いだ状態で、円筒容器103のある程度の高さまで粉体100を注入し、円筒容器103の底面が水平となるように固定し、穴104を開放する。穴104を開放すると、穴104から粉体100が排出されてゆく。図3(b)に示すように、粉体100が排出されなくなったときの水平面と、円筒容器103内に残留している粉体100とのなす角度φが排出法の安息角である。
【0006】
図4は、傾斜法の安息角の測定方法を示している。傾斜法の安息角は、図4(a)に示すような円筒容器105を用いて測定される。円筒容器105内に粉体100を注入し、円筒容器105をその底面の円周方向にゆっくりと傾けてゆく。図4(b)に示すように、水平面と粉体100が形成する平面とのなす角度の最大値φが傾斜法の安息角である。
【0007】
なお、上記3種の安息角測定方法で測定した安息角は、その測定方法の違いから、通常それぞれ異なる値となる。
【0008】
以上のように、安息角の測定方法は、主に3種類の方法が知られているが、一般的に安息角という場合、注入法で測定した安息角を指す場合が多い。実際、工業的に最もよく用いられている方法が注入法である。
【非特許文献1】Powder technology handbook 2nd ed., rev. and expanded, edited by Keishi Gotoh, Hiroaki Masuda, Ko Higasitani, 1997, pp.416-417
【非特許文献2】改訂五版 化学工学便覧 編者:社団法人 化学工学協会 発行者:海老原熊雄 発行所:丸善株式会社 1988年 pp.254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、傾斜法の安息角に対する工業的ニーズが存在する。例えば、乾燥機、混合機、焼成機等の工業装置では、円筒状の反応機の中に粉体を注入して回転、撹拌しながら加熱等の処理を行うものも多い。これらの工業装置を設計する場合、回転する円筒状の反応機内における粉体の動作を把握すること、すなわち、傾斜法の安息角を把握することが設計上重要である。
【0010】
しかしながら、傾斜法の安息角を測定する装置は市販されておらず、また、傾斜法の安息角を測定する場合には、図4(b)に示すように、円筒容器105の底面方向から、粉体と水平面とのなす角を測定する必要があるため、円筒容器105の少なくとも一方の底面を透明にする必要がある。
【0011】
ここで、上記工業装置における円筒状の反応機では、反応機の底面が透明であることはほとんどないので、実際の反応機を用いて傾斜法の安息角を測定することは難しい。また、実際の反応機を用いない場合でも、傾斜法の安息角を測定するためには、底面が透明な測定容器を用意しなければならず、測定に手間がかかる。
【0012】
また、排出法の安息角は、図3(b)に示すように、円筒容器103内に残留している粉体と水平面とのなす角を測定する。ここで、粉体は、穴104を中心としたすり鉢状に残留するので、すり鉢状に堆積した粉体と水平面とのなす角を円筒容器103の上部から測定しなければならず、測定が難しい。
【0013】
これに対し、注入法の安息角は、図2(b)に示すように、円盤状の上面を有する台101の上に粉体を堆積させて測定するので、台101の材質の影響を受け難く、また、円錐状に堆積した粉体と水平面とのなす角は、分度器等を用いて容易に測定できる。そして、注入法の安息角測定機は、市販されているので、市販の測定機を用いて測定することもできる。
【0014】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、測定が容易な注入法による安息角に基づいて、傾斜法による安息角を換算する安息角計算装置、安息角計算方法、安息角計算装置制御プログラム、及び該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の計算装置は、上記課題を解決するために、粉体の注入法による安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って、上記注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出する安息角換算手段を備えていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の計算方法は、上記課題を解決するために、安息角計算装置によって粉体の傾斜法の安息角を算出する安息角計算方法であって、上記安息角計算装置が備えている安息角換算手段が、粉体の注入法による安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って、上記注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出することを特徴としている。
【0017】
本発明の発明者は、種々の粉体について注入法による安息角と、傾斜法による安息角との関連性を調べる実験を重ねた結果、粉体の注入法の安息角と傾斜法の安息角との間には規則性があり、この規則性には、安息角を測定した時の粉体の凝集の有無が大きく関わっていることを発見した。
【0018】
上記安息角計算装置は、安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って換算を行うので、注入法による安息角から傾斜法の安息角を換算することができる。
【0019】
したがって、測定が容易で、一般に広く用いられている注入法の安息角に基づいて、傾斜法の安息角を換算することができる。
【0020】
また、上記安息角換算手段は、粉体が凝集している場合、粉体の注入法による安息角に、1.05以上、1.15以下の数値を掛けた値を傾斜法による安息角の換算値として算出することが好ましい。
【0021】
本発明の発明者は、粉体が凝集している場合には、粉体の装入率及び測定容器の材質に関わらず、幅広い種類の粉体について、注入法による安息角に、1.05以上、1.15以下の数値を掛けた値が、傾斜法による安息角にほぼ等しくなることを発見した。
【0022】
したがって、粉体が凝集している場合、粉体の注入法による安息角に1.05以上、1.15以下の数値を掛けた値を傾斜法による安息角の換算値として算出することによって、幅広い種類の凝集している粉体について、傾斜法の安息角を換算することができる。
【0023】
また、上記安息角換算手段は、粉体が凝集していない場合、粉体の注入法による安息角に0.95以上、1.05未満の数値を掛けた値を傾斜法による安息角の換算値として算出することが好ましい。
【0024】
本発明の発明者は、粉体が凝集していない場合には、粉体の装入率及び測定容器の材質に関わらず、幅広い種類の粉体について、粉体の注入法による安息角に0.95以上、1.05未満の数値を掛けた値が、傾斜法による安息角にほぼ等しくなることを発見した。
【0025】
したがって、粉体が凝集していない場合、粉体の注入法による安息角に0.95以上、1.05未満の数値を掛けた値を傾斜法による安息角の換算値とすることによって、幅広い種類の凝集していない粉体について、傾斜法による安息角を換算することができる。
【0026】
また、上記安息角計算装置は、上記粉体の注入法による安息角を測定した時の篩い分け平均粒径及びレーザー回折平均粒径に基づいて算出される凝集度を、予め定めたしきい値と比較することにより、上記粉体の凝集の有無を判定する凝集有無判定手段を備えていることが好ましい。
【0027】
ここで、篩い分け平均粒径は、粉体を篩い分けすることによって求めた平均粒径であり、また、レーザー回折平均粒径は、粉体を溶媒中に懸濁させてレーザー光を照射し、該レーザー光の回折を解析することによって求めた平均粒径である。なお、溶媒中に懸濁させた状態では、粉体はほとんど凝集しない。すなわち、篩い分け平均粒径は、安息角を測定する時の粉体が凝集した状態の平均粒径を表し、レーザー回折平均粒径は、凝集していない状態の平均粒径を表す。
【0028】
したがって、ある粉体の篩い分け平均粒径とレーザー回折平均粒径とに基づいてその粉体の凝集度を算出することができ、算出した凝集度を予め定めたしきい値と比較することにより、上記粉体の凝集の有無を判定することができる。
【0029】
上記安息角計算装置は、凝集有無判定手段が判定した凝集の有無に基づいて、換算規則を選択することができるので、上記安息角計算装置は、注入法による安息角、篩い分け平均粒径、及びレーザー回折平均粒径の3つのパラメータに基づいて傾斜法による安息角の換算値を算出することができる。
【0030】
なお、上記計算装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記安息角換算手段として動作させることにより上記計算装置をコンピュータにて実現させる計算装置の計算装置制御プログラム、及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る計算装置は、以上のように、粉体の注入法による安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って、上記注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出する安息角換算手段を備えているので、粉体の注入法による安息角に基づいて、傾斜法による安息角を換算することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の一実施形態について図1〜図7に基づいて説明すると以下の通りである。
【0033】
本実施形態の安息角計算方法は、粉体の傾斜法の安息角を算出する安息角計算方法であって、粉体の注入法による安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って、上記注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出する安息角計算方法である。
【0034】
上記安息角計算方法に好適に用いられる安息角計算装置1について説明する。図1は、本実施の形態の安息角計算装置1の概略構成を示すブロック図である。図示のように、安息角計算装置1は、インターフェイス部2と計算処理部3を備えている。
【0035】
インターフェイス部2は、安息角計算装置1のユーザの操作入力を受け付けて計算処理部3に送信する。また、インターフェイス部2は、計算処理部3から出力される計算結果等を表示する。インターフェイス部2は、表示部4及び操作・入力部5を備えている。
【0036】
表示部4は、安息角の換算値等を表示するものであり、公知の液晶ディスプレイ等で構成することができる。操作・入力部5は、インターフェイス部2に設けられた、図示しない入力手段に入力された入力データを計算処理部3に送信する。なお、入力データとは、傾斜法の安息角を換算する対象となる試料粉体の注入法の安息角、篩い分け粒径平均、レーザー回折粒径平均、及び凝集の有無を示すデータを指す。また、操作・入力部5の入力手段は、ユーザが安息角や篩い分け粒径平均等を入力できるものであればよく、例えば、入力キーやタッチパネルで構成することができる。なお、篩い分け粒径平均、及びレーザー回折平均粒径については後述する。
【0037】
計算処理部3は、インターフェイス部2が送信する入力データを受信し、該入力データに基づいて所定の処理を行い、該処理結果をインターフェイス部2に返す。計算処理部3は、安息角換算部(安息角換算手段)6、凝集有無判定部(凝集有無判定手段)7、及び記憶部8を備えている。
【0038】
安息角換算部6及び凝集有無判定部7は、計算処理部3における上記所定の処理を行う。安息角換算部6及び凝集有無判定部7の詳細については後述する。
【0039】
記憶部8は、例えばRAM(random access memory)やHDD(ハードディスクドライブ)などの記憶装置を備えて、各種データ及び各種プログラムを記憶するものである。具体的には、記憶部8は、安息角計算装置1を動作させるプログラム等を記憶している。
【0040】
次に、安息角計算装置1を用いて傾斜法による安息角の換算値を算出するプロセスについて、図5に基づいて説明する。図5は、安息角の換算プロセスを示すフローチャートである。
【0041】
まず、操作・入力部5は、傾斜法による安息角を求める試料粉体について、試料粉体の注入法による安息角、試料粉体の篩い分け粒径平均、及び試料粉体のレーザー回折粒径平均の入力を受け付ける。操作・入力部5は、入力された注入法の安息角を安息角換算部6に送り、入力された篩い分け粒径平均、及びレーザー回折粒径平均を凝集有無判定部7に送る(S1)。なお、注入法の安息角は、上記〔背景技術〕で示した「パウダーテスター」等の市販の安息角測定装置を用いて測定してもよいし、文献等に記載の数値を用いてもよい。
【0042】
S2では、凝集有無判定部7は、操作・入力部5から送られる篩い分け粒径平均及びレーザー回折粒径平均に基づいて、下記の数式(1)にて試料粉体の凝集度を算出する。
(凝集度)={(dv)/(d1)} …(1)
(dv:篩い分け粒径平均、d1:レーザー回折粒径平均)
続いて、凝集有無判定部7は、算出した凝集度と、予め定めたしきい値である1.2とを比較する。凝集有無判定部7は、凝集度が1.2より大きい場合には、試料粉体は凝集していると判定し、凝集度が1.2以下の場合には、試料粉体は凝集していないと判定して、該判定結果を安息角換算部6に送る。なお、数式(1)の導出方法、及びしきい値の設定方法については後述する。
【0043】
安息角換算部6は、凝集有無判定部7から、試料粉体が凝集しているとの判定結果を受け取った場合、下記の凝集している粉体用の換算式(換算規則)を選択し(S3)、該換算式に注入法の安息角を代入して傾斜法の安息角を換算する(S5)。
【0044】
一方、凝集有無判定部7から、試料粉体が凝集していないとの判定結果を受け取った場合、安息角換算部6は、下記の凝集していない粉体用の換算式(換算規則)を選択し(S4)、該換算式に注入法の安息角を代入して傾斜法の安息角を換算する(S5)。
θ2=1.1×θ1 …(凝集している粉体用の換算式)
θ2=θ1 …(凝集していない粉体用の換算式)
(θ1:注入法の安息角、θ2:傾斜法の安息角)
なお、上記換算式の導出方法については後述する。
【0045】
続いて、安息角換算部6は、S5で算出した傾斜法の安息角の換算値を表示部4に送り、表示部4は、受け取った換算値を表示する(S6)。
【0046】
以上のようにして、安息角計算装置1は、試料粉体の凝集の有無に応じた換算式(換算規則)に従って、試料粉体の注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出することができる。なお、予め試料粉体の凝集の有無がわかっている場合、操作・入力部5に凝集の有無を入力して、傾斜法の安息角の換算値を算出することもできる。
【0047】
また、凝集していない粉体用の換算式は、θ2=θ1との式であるから、安息角換算部6は、粉体が凝集していない場合、入力された注入法の安息角の値を、そのまま傾斜法の安息角の換算値として表示部4に送る構成としてもよい。
【0048】
なお、本実施形態では、上記換算式におけるθ1の係数を、それぞれ1.1及び1.0とした例を示したが、上記換算式におけるθ1の係数は、それぞれ、1.05以上、1.15以下、及び0.95以上、1.05未満の数値範囲としても良い。また、より好ましい数値範囲は、それぞれ1.07〜1.13、及び0.97〜1.03である。なお、この理由については、後述する。
【0049】
また、本実施形態では、上記換算式を用いて傾斜法の安息角の換算値を算出する形態を示したが、上記換算式以外の換算規則に従って傾斜法の安息角の換算値を算出することもできる。例えば、注入法の安息角と傾斜法の安息角との間に成り立つ規則性を曲線で近似した近似曲線を換算規則とし、この曲線の方程式に注入法の安息角を代入して傾斜法の安息角の換算値を算出することもできる。また、注入法の安息角と傾斜法の安息角との関係をテーブルにしたものを換算規則とし、該テーブルを参照して傾斜法の安息角の換算値を算出することもできる。
【0050】
〔凝集の有無の判定方法について〕
本実施形態の安息角計算装置1は、数式(1)に基づいて凝集度を算出し、算出した凝集度と予め定めたしきい値とに基づいて粉体の凝集の有無を判定する。ここでは、この数式(1)の導出方法、及び凝集の有無の判定方法について説明する。
【0051】
まず、粉体の凝集の有無について簡単に説明する。凝集している粉体とは、その構成粒子(1次粒子と呼ぶ)が複数集まって2次粒子を形成している粉体を指す。一方、凝集していない粉体とは、1次粒子の1個1個がバラバラで存在する粉体を指す。したがって、1次粒子と2次粒子との粒径を比較することによって、粉体の凝集の有無を判定することができる。すなわち、ある粉体の1次粒子と2次粒子との粒径がほぼ等しい場合は、その粉体は凝集していないと判定することができ、1次粒子の粒径よりも2次粒子の粒径が大きい場合は、その粉体は凝集していると判定することができる。
【0052】
ここで、篩い分け粒径平均(dv)は、粉体を篩い分けすることによって、平均粒径を調べたものであり、2次粒子の粒径を測定することができる。一方、レーザー回折粒径平均(d1)は、粉体を水等の溶媒中に懸濁させた懸濁液にレーザー光を照射し、レーザー光の回折を分析することで粉体の平均粒径を調べたものである。溶液中に懸濁させた状態では、ほとんど全ての粒子が分散するので、1次粒子の粒径を測定することができる。
【0053】
したがって、篩い分け粒径平均及びレーザー回折粒径平均に基づいて凝集の有無を判定することができる。本実施形態では、篩い分け粒径平均及びレーザー回折粒径平均に基づいて凝集度を算出し、算出した凝集度と予め定めたしきい値とを比較することによって凝集の有無を判定する。凝集度は、2次粒子の平均体積をVとし、1次粒子の平均体積をVとした場合、(凝集度)=V/Vで表すことができる。
【0054】
また、2次粒子の平均体積Vは、V=k×(2次粒子の代表径)、と表すことができ、1次粒子の平均体積Vは、V=k×(1次粒子の代表径)と表すことができるので、凝集度は、V/V={(2次粒子の代表径)/(1次粒子の代表径)}と表すことができる。
【0055】
なお、粒子の代表径とは、例えば粒子が球形である場合には、直径であり、粒子が立方体であれば立方体の一辺の長さというように、粒径を代表する数値である。そして、kは、粒子の代表径によって変化する定数である。例えば、粒子が球形であり、粒子の代表径が直径である場合には、k=π/6となり、粒子が立方体であり、粒子の代表径が立方体の一辺の長さである場合には、k=1となる。
【0056】
ここで、上記の数式に、2次粒子の代表径として篩い分け粒径平均(dv)を代入し、1次粒子の代表径としてレーザー回折粒径平均(d1)を代入すると
(凝集度)={(dv)/(d1)} …(1)
との数式が得られる。
【0057】
なお、本実施の形態では、酸化チタン(IV)アナターゼ型(和光純薬工業)、α‐アルミナ(和光純薬工業)、試験用粉体A(APPIE JIS試験用粉体1、17種、重質炭酸カルシウム、日本粉体工業技術協会)、試験用粉体B(APPIE JIS試験用粉体1、16種類、重質炭酸カルシウム、日本粉体工業技術協会)、試験用粉体C(APPIE JIS試験用粉体1、3種、ケイ砂、日本粉体工業技術協会)、はくとう土(カオリン、和光純薬工業)、石英砂(和光純薬工業)、ソーダ石灰ガラス(三徳工業)、ポリスチロールA(品種SS‐1 粒度SS141 Lot.ICS2‐347、積水化成品工業)、ポリスチロールB(品種SS‐1 粒度SS171 Lot.ICS2‐34、積水化成品工業)、ポリプロピレンA(住友化学)、ポリプロピレンB(住友化学)の以上12種類の粉体について凝集度を算出し、その算出結果をまとめたものが表1である。なお、試験用粉体、ポリスチロール、及びポリプロピレンに付したアルファベットのA〜Cは、各試料を区別するためのものである。なお、ポリプロピレンAとポリプロピレンBとは、粒径が異なる。また、表1では、参考のため、粒径平均における幾何標準偏差、粒子密度、及び含液率を併せて示している。
【0058】
【表1】

【0059】
本実施形態では、2次粒子の平均体積Vを1次粒子の平均体積をVで割った値を凝集度としているので、凝集度は、1個の2次粒子が何個の1次粒子で構成されているかを示している。例えば、表1のはくとう土は、凝集度が1.1×10である。これは、110個ほどの1次粒子が集まって1個の2次粒子を構成していることを示している。また、表1の石英砂は、凝集度が1.2であり、これは、2次粒子がほとんど形成されていない、すなわち凝集していないことを示している。
【0060】
本実施形態では、凝集の有無の判定基準として、凝集度のしきい値を1.2に設定している。すなわち、凝集度が1.2以下の場合は凝集していないと判断し、凝集度が1.2より大きい場合は凝集していると判断している。表1では、凝集している粉体については、試料名の左側の欄に記号●を付し、凝集していない粉体は、記号○を付している。なお、理論上は、粉体が凝集していない場合には、凝集度が1.0となる。しかしながら、篩い分け粒径平均(dv)及びレーザー回折粒径平均(d1)の測定値は、通常、誤差を含むので、凝集度1.0に対してある程度の誤差範囲を含めた値をしきい値に設定することが望ましい。本実施の形態では、20%を誤差範囲としており、したがって、上述のように1.2をしきい値として凝集の有無を判定している。なお、誤差範囲は20%に限定されるものではなく、例えば測定値の誤差が大きくなると予想されるような場合には、誤差範囲を20%よりも広くしても良いし、測定値の誤差が小さいと予想されるような場合には、誤差範囲をより狭くしても良い。
【0061】
〔換算式の作成方法について〕
本実施の形態では、注入法の安息角と傾斜法の安息角との間に成り立つ規則性を示す換算規則の一例として、注入法の安息角と傾斜法の安息角との間に成り立つ規則性を直線で近似して得られた換算式を用いている。
【0062】
また、本実施の形態では、表1に示す12種類の粉体について、注入法によって安息角を測定すると共に、傾斜法によって安息角を測定し、両者の間に成り立つ規則性から換算式を求めている。この換算式の作成方法の一例を表2、図6、及び図7に基づいて説明する。
【0063】
表1に示す12種類の粉体のうち、記号●を付した6種類の粉体(何れも凝集している)を用いて凝集している粉体用の換算式を作成し、記号○を付した6種類の粉体(何れも凝集していない)を用いて凝集していない粉体用の換算式を作成する。
【0064】
なお、本実施の形態では、注入法及び傾斜法の安息角は、以下の条件で行った。すなわち、傾斜法の安息角の測定容器は、直径60mm、高さ88mmの円筒容器を用いた。また、傾斜法の安息角測定容器は、ポリプロピレン(PP)製及びステンレス製の2種類用意し、各容器に入れる粉体の装入率は、15%、20%、30%の3通りに設定した。また、注入法の安息角は、直径80mmの円盤に粉体を堆積させて測定した。
【0065】
この測定条件で測定した結果を表2に示す。表2に示すように、傾斜法の安息角は、容器の材質及び粉体の装入率を変えた場合でも、ほとんど同一の値となっている。そこで、異なる材質及び装入率で測定した傾斜法の安息角の平均値を傾斜法の安息角とした。そして、横軸をθ1とし、縦軸をθ2としてグラフ上にプロットした。
【0066】
【表2】

【0067】
●を付した6種類の粉体における注入法の安息角(θ1)と傾斜法の安息角(θ2)との関係を図6に示す。図示のように、プロットされた●は、ほぼ同一直線状に並んでいる。そして、各●を線形近似すると、
θ2=1.1×θ1 …(凝集している粉体用の換算式)
が得られる。この換算式は、凝集している粉体における注入法の安息角と傾斜法の安息角との間に成り立つ規則性を示しており、上記換算式に注入法の安息角(θ1)を代入することで、傾斜法の安息角(θ2)の換算値が算出される。
【0068】
なお、上記換算式は、注入法の安息角(θ1)と傾斜法の安息角とを実際に測定した値を用いて、これを線形近似して得られた数式であるから、安息角の測定誤差、及び近似による誤差を含んでいる。したがって、上記換算式におけるθ1の係数1.1は、誤差範囲を考慮して、1.05以上、1.15以下の値としても良い。また、より好ましい数値範囲は、1.07以上、1.13以下である。
【0069】
ここで、上記誤差範囲について説明する。上述のように、上記換算式は、注入法の安息角θ1及び傾斜法の安息角θ2の測定値に基づいて得られた数式である。したがって、上記換算式はθ1及びθ2の測定誤差を含み、θ1及びθ2の測定誤差の程度によって、上記換算式におけるθ1及びθ2の係数の誤差の程度が決まる。
【0070】
ここで、θ2は、2種類の測定容器を用いて3通りの挿入率で測定しているので、合計6回の測定を行っていることになる。そして、表2に示すように、挿入率、及び測定容器によって、θ2の測定値に特定の傾向、例えばある測定条件では他の測定条件と比べて有意に測定値が大きくまたは小さくなるということは見られない。
【0071】
したがって、表2に示されている6通りのθ2の測定値と、その平均値(表2の最右列)との差は、θ2の測定誤差であると考えることができる。
【0072】
ここで、θ2の測定値がどの程度の誤差を含むかを、
(最も平均値から離れたθ2の値)−(θ2の平均値)÷(θ2の平均値)×100
との数式で計算すると、12種の粉体のうちほとんどが±5%以内の値となっている。
【0073】
すなわち、θ2の測定値は、±5%程度の誤差範囲を含むものと考えられ、上記換算式におけるθ1及びθ2の係数も同様に±5%程度の誤差範囲を含むと考えられる。
【0074】
したがって、上記換算式におけるθ1の係数1.1に±5%程度の誤差範囲を含めた1.05以上、1.15以下の数値が、上記換算式におけるθ1の係数として好適であるといえる。また、誤差範囲を±3%とした場合には、上記換算式におけるθ1の係数1.1は、1.07以上、1.13以下となり、この場合、傾斜法の安息角の換算値をより精度良く計算することができる。
【0075】
また、○を付した6種類の粉体におけるθ1とθ2との関係を図7に示す。図示のように、○は、ほぼ同一直線状に並んでいる。そして、各○を線形近似すると、
θ2=1.0×θ1 …(凝集していない粉体用の換算式)
が得られる。この換算式は、凝集していない粉体における注入法の安息角と傾斜法の安息角との間に成り立つ規則性を示しており、上記換算式に注入法の安息角(θ1)を代入することで、傾斜法の安息角(θ2)の換算値が算出される。
【0076】
なお、凝集していない粉体用の換算式も、凝集している粉体用の換算式と同様に、θ1の係数1.0は、誤差範囲を考慮して、0.95以上、1.05未満としても良い。また、より好ましい数値範囲は、0.97以上、1.03以下である。
【0077】
このようにして求めた換算式を用いることによって、注入法の安息角から傾斜法の安息角の換算値を算出することができる。なお、換算式の作成方法は、上述の例に限定されない。例えば、上述した12種類以外の粉体を試料として換算式を求めても良い。
【0078】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0079】
最後に、安息角計算装置1の各ブロック、特に安息角換算部6及び凝集有無判定部7は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0080】
すなわち、安息角計算装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを記憶したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラム及び各種データを記憶するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである安息角計算装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記安息角計算装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0081】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0082】
また、安息角計算装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の安息角計算装置は、注入法の安息角から傾斜法の安息角を算出できるので、例えば、粉体の乾燥機、混合機、焼成機等の設計に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、安息角計算装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】注入法の安息角の測定方法を示す図である。
【図3】排出法の安息角の測定方法を示す図である。
【図4】傾斜法の安息角の測定方法を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示すものであり、安息角の換算プロセスを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態を示すものであり、凝集していない粉体用の近似曲線を示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示すものであり、凝集している粉体用の近似曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1 安息角計算装置
2 インターフェイス部
3 計算処理部
4 表示部
5 操作・入力部
6 安息角換算部(安息角換算手段)
7 凝集有無判定部(凝集有無判定手段)
8 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体の注入法による安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って、上記注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出する安息角換算手段を備えている安息角計算装置。
【請求項2】
上記安息角換算手段は、粉体が凝集している場合、粉体の注入法による安息角に1.05以上、1.15以下の数値を掛けた値を傾斜法による安息角の換算値として算出することを特徴とする請求項1に記載の安息角計算装置。
【請求項3】
上記安息角換算手段は、粉体が凝集していない場合、粉体の注入法による安息角に0.95以上、1.05未満の数値を掛けた値を傾斜法による安息角の換算値として算出することを特徴とする請求項1または2に記載の安息角計算装置。
【請求項4】
上記粉体の注入法による安息角を測定した時の篩い分け平均粒径及びレーザー回折平均粒径に基づいて算出される凝集度を、予め定めたしきい値と比較することにより、上記粉体の凝集の有無を判定する凝集有無判定手段
を備えていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の安息角計算装置。
【請求項5】
安息角計算装置によって粉体の傾斜法の安息角を算出する安息角計算方法であって、
上記安息角計算装置が備えている安息角換算手段が、
粉体の注入法による安息角を測定した時の粉体の凝集の有無に応じた換算規則に従って、
上記注入法による安息角から傾斜法による安息角の換算値を算出することを特徴とする安息角計算方法。
【請求項6】
請求項1に記載の安息角換算手段としてコンピュータを機能させるための安息角計算装置制御プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の安息角計算装置制御プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−26232(P2008−26232A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201066(P2006−201066)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)