説明

宙乗器

【課題】架空送電線に難着雪リングやカウンタウエイトが取り付けられている場合であってもこれらを容易に乗り越えることができ、また、軽量化による作業性の向上と、車輪構造の小型化による作業員の視界の確保を実現し、さらに、架空送電線に沿って宙乗器が勢い良く進行しているときにも騒音が生じることのない、2輪構造の宙乗器を提供する。
【解決手段】本発明は、枠体の上部に架空線に乗せた状態で転動する2個の車輪を前後に配置し、枠体の下部に作業員が座る腰掛部を吊設して、作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器において、梃子の原理を利用して車輪を強制的に回転させる補助レバーを備えている。また、補助レバーは、車輪の支持軸に連結した回転ギアと、操作片から成るラチェット機構部を備えており、操作片の操作により、車輪を所定の方向に強制的に回転させたり、車輪を自由に回転させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電鉄塔により支持されている架空地線、架空送電線等の架空線の保守、点検作業を行う際に、架空線に取り付けて作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器であり、特に、架空送電線に難着雪リングやカウンタウエイトが取り付けられている場合であっても、これらを容易に乗り越えることのできる2輪構造を備えている宙乗器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、送電鉄塔により支持されている架空地線、架空送電線等の架空線の保守、点検作業を行う際に、架空線に取り付けて作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器が使用されている。
【0003】
この宙乗器は、所定の枠体の上部に走行用の車輪を備えており、この車輪を架空地線や架空送電線等に乗せて宙乗器を取り付け、作業員が枠体の腰掛部に腰を乗せて宙乗器に乗り込み、架空地線や架空送電線等に沿って進行するものが一般的である。
【0004】
そして、架空送電線においては、雪の付着を防止するために、リング状に形成された複数の難着雪リングを所定の間隔を開けて装着している。
【0005】
また、雪の対策として、難着雪リングとカウンタウエイトが併用されることも多い。このカウンタウエイトは、架空送電線に付着した雪が、架空送電線自身のねじれにより大きな筒雪に発達してしまう事態を防ぐものである。
【0006】
このように、雪の対策として、架空送電線に難着雪リングとカウンタウエイトが装着されているときには、これらが宙乗器の進行に障害となってしまう。
【0007】
すなわち、宙乗器は、走行用の車輪を架空送電線に乗せ、この車輪を介して架空送電線に沿って進行するものであるが、架空送電線に難着雪リングとカウンタウエイトが装着されているときは、宙乗器における走行用の車輪がこれらに衝突して車輪の回転が停止し、架空送電線に沿った宙乗器の進行が阻止されてしまう。
【0008】
その為、架空送電線に沿った宙乗器の進行を継続するには、宙乗器における走行用の車輪が、難着雪リングやカウンタウエイトを乗り越えなければならない。
【0009】
このような要望に応えるため、4輪構造の宙乗器が開発されている。この4輪構造の宙乗器は、図14に示すように、所定の枠体100の上部において、2個の車輪101、102を一組とした車輪構成部103を、宙乗器の前後にそれぞれ取り付けている。また、枠体100の下部には、作業員Sが腰を乗せて座る板状の腰掛部104を取り付けている。
【0010】
車輪構成部103は、一対の水平フレーム間において2個の車輪101、102を挟み込むようにして軸止し、水平フレーム間に2個の車輪101、102を回転可能に保持している。この車輪構成部103を、枠体100における前側の枠部105と後側の枠部106の上部にそれぞれ取り付けている。
【0011】
具体的には、車輪構成部103は2個の車輪101、102を回転可能に保持している一対の水平フレームの中央部を前側の枠部105に軸止し、一対の水平フレームを前側の枠部105に揺動可能に取り付けている。同様に、一対の水平フレームを後側の枠部106にも揺動可能に取り付けている。
【0012】
そして、架空送電線107に装着しているカウンタウエイトKの位置に前側の車輪構成部103が到達したとき、まず、腰掛部104において作業員Sの腰を後側の枠部106寄りに移動させる。このように、宙乗器の重心を後側の枠部106側に移動させ、宙乗器の荷重を主として後側の枠部106に取り付けた車輪構成部103により支えるようにする。
【0013】
この状態で作業員Sが両腕を使って宙乗器を前方に移動させ、前側の枠部105に取り付けている車輪構成部103の前方の車輪101がカウンタウエイトKを乗り越えるようにする。このとき、車輪構成部103は、前方の車輪101がカウンタウエイトKにより押し上げられて前方の車輪101側が上方に向けて揺動する。また、後方の車輪102がカウンタウエイトKを乗り越えるとき、車輪構成部103は、後方の車輪102がカウンタウエイトKにより押し上げられて後方の車輪102側が上方に向けて揺動する。
【0014】
前側の枠部105に取り付けている車輪構成部103がカウンタウエイトKを乗り越えたときは、腰掛部104において作業員Sの腰を前側の枠部105寄りに移動させる。このように、宙乗器の重心を前側の枠部105側に移動させ、宙乗器の荷重を主として前側の枠部105に取り付けた車輪構成部103により支えるようにする。
【0015】
この状態で作業員Sが両腕を使って宙乗器をさらに前方に移動させ、後側の枠部106に取り付けている車輪構成部103の前方の車輪101がカウンタウエイトKを乗り越えるようにする。このとき、車輪構成部103は、前方の車輪101がカウンタウエイトKにより押し上げられて前方の車輪101側が上方に向けて揺動する。また、後方の車輪102がカウンタウエイトKを乗り越えるとき、車輪構成部103は、後方の車輪102がカウンタウエイトKにより押し上げられて後方の車輪102側が上方に向けて揺動する。
【0016】
このようにして、4輪構造の宙乗器は、カウンタウエイトKを乗り越えていくのである。
【0017】
尚、4輪構造の宙乗器で、2個の車輪を一組とした車輪構成部を、宙乗器の前後にそれぞれ取り付けているものとして、特許文献1に示す宙乗器が存在する。この特許文献1に示す宙乗器が、カウンタウエイト等を乗り越えていくときの車輪構成部の動作は、前記した図14に示す宙乗器と同様である。
【0018】
この他、4輪構造の宙乗器は、作業員Sが紐状部分を足で踏んで車輪構成部103の回転運動を制止するフットブレーキ機構を備えているのに加え、車輪構成部103に逆回転防止機構を備えている。
【0019】
架空送電線107の両端を送電鉄塔により支持して架空送電線107を垂らしたような状態としたとき、架空送電線107の全体によりカテナリー曲線を形成する。このカテナリー曲線を形成している架空送電線107には、下り勾配と上り勾配が生じる。宙乗器の逆回転防止機構は、例えば、上り勾配が生じている架空送電線107に沿って宙乗器が上り方向に向けて進行しているときに、車輪構成部103の逆回転を防止して、宙乗器が下り方向に向けて逆走してしまう事態を回避するものである。
【特許文献1】実公平7−53361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上記した図14に示す宙乗器や特許文献1に示す宙乗器は、難着雪リングやカウンタウエイトKを乗り越えるには適しているものの、4輪構造であることから、例えば、2輪構造の宙乗器と比較して、宙乗器全体の重量が重くなっていた。
【0021】
その為、4輪構造の宙乗器を送電鉄塔の上部に運ぶ作業や、4輪構造の宙乗器を架空送電線107に取り付ける作業、また、宙乗器を架空送電線107に沿って進行させる作業が、作業員にとって大きな負担となっていた。
【0022】
また、腰掛部104に腰を乗せて座っている作業員Sの顔の近くに宙乗器の4輪構造が存在するため、種々の作業において作業員Sの視界を遮り易くなっていた。
【0023】
さらに、車輪構成部103の逆回転防止機構は、車輪101、102に連設している所定の歯車部分と、この歯車部分に係合して車輪101、102の逆回転を防止する所定の爪部分により構成されているのが一般的であるが、逆回転防止機構の動作を解除した場合であっても、歯車部分と爪部分が係合したままの状態を維持するものがあり、宙乗器の進行時に騒音が生じていた。
【0024】
例えば、カウンタウエイトK間の距離が長い架空送電線107において、下り勾配が生じている架空送電線107に沿って宙乗器が下り方向に向けて勢い良く進行しているときに、係合している歯車部分と爪部分により比較的に大きな騒音が継続して生じていた。
【0025】
その結果、架空送電線107の下に住居が存在するときは、住民に不安を与えてしまう要因となっていた。
【0026】
そこで、本発明は如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、架空送電線に難着雪リングやカウンタウエイトが取り付けられている場合であってもこれらを容易に乗り越えることができ、また、軽量化による作業性の向上と、車輪構造の小型化による作業員の視界の確保を実現し、さらに、架空送電線に沿って宙乗器が勢い良く進行しているときにも騒音が生じることのない、2輪構造の宙乗器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、枠体の上部に架空線に乗せた状態で転動する2個の車輪を前後に配置し、枠体の下部に作業員が座る腰掛部を吊設して、作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器において、梃子の原理を利用して車輪を強制的に回転させる補助レバーを備えていることで、上述した課題を解決した。
【0028】
また、補助レバーは、車輪の支持軸に連結した回転ギアと、操作片から成るラチェット機構部を備えており、操作片の操作により、車輪を所定の方向に強制的に回転させたり、車輪を自由に回転させることができることで、同じく上述した課題を解決した。
【0029】
さらに、2個の車輪のそれぞれが、補助レバーを備えていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0030】
加えて、補助レバーは、車輪の強制的な回転動作を解除した場合、架空線に沿った宙乗器の進行時にほぼ無音状態となることで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、枠体の上部に架空線に乗せた状態で転動する2個の車輪を前後に配置し、枠体の下部に作業員が座る腰掛部を吊設して、作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器において、梃子の原理を利用して車輪を強制的に回転させる補助レバーを備えていることから、この補助レバーを操作することにより宙乗器が進行するように車輪を強制的に回転させ、例えば、架空送電線に難着雪リングやカウンタウエイトが取り付けられている場合であってもこれらを容易に乗り越えることができる。
【0032】
また、補助レバーは、梃子の原理を利用して車輪を強制的に回転させることから、作業員による軽微な力により車輪を回転させて、難着雪リングやカウンタウエイトを容易に乗り越えることができる。
【0033】
さらに、本発明に係る宙乗器は、枠体の上部に2個の車輪を配置していることから、腰掛部に腰を乗せて座っている作業員の顔の近くに2個の車輪だけが存在することとなり、従来の4輪構造の宙乗器のように、種々の作業において作業員の視界を遮ることがない。
【0034】
また、宙乗器全体の軽量化を実現し、宙乗器を送電鉄塔の上部に運ぶ作業、宙乗器を架空送電線に取り付ける作業、宙乗器を架空送電線に沿って進行させる作業等を容易に行うことができる。
【0035】
加えて、補助レバーは、車輪の支持軸に連結した回転ギアと、操作片から成るラチェット機構部を備えており、操作片の操作により、車輪を所定の方向に強制的に回転させたり、車輪を自由に回転させることができることから、架空送電線等における種々の作業形態に適宜対応できる。
【0036】
また、2個の車輪のそれぞれが、補助レバーを備えていることから、例えば、架空送電線に装着しているカウンタウエイトの位置に前側の車輪が到達したとき、前側の車輪の補助レバーを操作して宙乗器が進行するように前側の車輪を強制的に回転させて、前側の車輪がカウンタウエイトを容易に乗り越えることができる。
【0037】
同様に、架空送電線に装着しているカウンタウエイトの位置に後側の車輪が到達したとき、後側の車輪の補助レバーを操作して宙乗器が進行するように後側の車輪を強制的に回転させて、後側の車輪がカウンタウエイトを容易に乗り越えることができる。
【0038】
この他、上り勾配が生じている架空送電線に沿って宙乗器が上り方向に向けて進むときに、例えば、後側の車輪の補助レバーを操作して後側の車輪を強制的に回転させて、作業員による軽微な力により宙乗器を進行させることができる。
【0039】
そして、車輪を強制的に回転させる補助レバーは、車輪の逆回転を防止する機能も有することから、例えば、上り勾配が生じている架空送電線に沿って宙乗器が上り方向に向けて進行しているときに、車輪の逆回転を防止して、宙乗器が下り方向に向けて逆走してしまう事態を回避することができる。
【0040】
また、補助レバーは、車輪の強制的な回転動作を解除した場合、架空線に沿った宙乗器の進行時にほぼ無音状態となることから、例えば、カウンタウエイト間の距離が長い架空送電線において、下り勾配が生じている架空送電線に沿って宙乗器が下り方向に向けて勢い良く進行しているときに騒音が生じることがなく、架空送電線の近隣に住居をかまえている住民に不安感を与えることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0042】
本発明は、送電鉄塔により支持されている架空地線、架空送電線2等の架空線の保守、点検作業を行う際に、架空線に取り付けて作業員Sが乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器1である。
【0043】
宙乗器1を取り付ける架空線としては、架空地線や架空送電線2等が存在するが、本発明の理解を促すために、架空送電線2に難着雪リングやカウンタウエイトKが取り付けられている場合を想定して、以下の説明を行う。
【0044】
本発明の特徴は、架空送電線2に難着雪リングやカウンタウエイトKが取り付けられている場合であっても、宙乗器1がこれらのカウンタウエイトK等を容易に乗り越えることのできる2輪構造を備えている点にある。
【0045】
具体的には、本発明に係る宙乗器1は、図10乃至図13に示すように、枠体3の上部に架空送電線2に乗せた状態で転動する2個の車輪4、5を前後に配置し、枠体3の下部に作業員Sが座る腰掛部6を吊設して、作業員Sが乗り込んだ状態で架空送電線2に沿って進行していく。
【0046】
そして、宙乗器1を構成する枠体3は、図1・図3に示すように、2個の車輪4、5を回転可能に保持している一対の枠部7、8により形成されている。
【0047】
一方の枠部7は、図1・図2に示すように、所定の長さの水平板片9と、水平板片9の両断部に連設した略長方形状の小板片10により形成されている。この両小板片10の下部には、所定の開放機構Aを設置している。尚、開放機構Aの構成は、後に詳述する。
【0048】
他方の枠部8は、図3・図4に示すように、所定の長さの水平板片13と、水平板片13の両断部に連設した略方形状の小板片14と、小板片14に連設した長方形状の板片15により、全体が下向きの略コ字形に形成されている。また、板片15間に、L型鋼材を用いた補強板片18を固定している。
【0049】
そして、図1・図3に示すように、枠部7の水平板片9と枠部8の水平板片13の間には、略中央部において所定の長さの接続片16を固定している。また、枠部7の開放機構Aの下端部と枠部8の板片15の下端部間には、接続片17を固定している。このように、枠部7、8同士は、接続片16、17を介して固定されている。
【0050】
一対の枠部7、8により保持されている2個の車輪4、5は、図5に示すように、架空送電線2に安定した状態で乗せるために、それぞれ凹部19を有している。また、2個の車輪4、5は、梃子の原理を利用して車輪4、5を強制的に回転させる補助レバー20を備えている。
【0051】
補助レバー20は、図5に示すように、一端側が作業員Sが手で握る柄21の部分となっている。また、他端側に、ラチェット機構部22を備えている。このラチェット機構部22は、主として車輪4、5の支持軸30に連結した回転ギア24と、操作片26により構成されており、車輪4、5を所定の方向に強制的に回転させる機能(車輪4、5の逆回転を防止する機能を兼ねている)と、車輪4、5を自由に回転させる機能のそれぞれを有している。
【0052】
補助レバー20は、図5に示すように、2枚の板片23を接合して形成され、その端部にリング状の回転ギア24を回転可能に保持している。この回転ギア24は、図6(a)(b) (c)に示すように、外周面に沿って連続的に複数の歯25を設けている。個々の歯25は、略台形状に形成されている。
【0053】
また、補助レバー20は、回転ギア24の上方に、棒状の操作片26を有している。操作片26は、図6(a)(b) (c)に示すように、その両端部の下面に、回転ギア24の歯25に係合する2個の突片27、28を離隔した状態に設けている。
【0054】
この突片27は、図6(a)(b) (c)に示すように、外側に、回転ギア24の歯25の傾斜状側面50に当接する強制回転面32を設けている。また、強制回転面32に連なるようにして、内側に、回転ギア24の歯25の角部51に当接する静止許容面33を設けている。突片28も、同様に外側に強制回転面32、内側に静止許容面33を設けている。
【0055】
そして、操作片26は、図5に示すように、所定の軸29を介して補助レバー20に揺動可能に取り付けられている。
【0056】
この操作片26の揺動操作により、図6(a)(b) (c)に示すように、操作片26の突片27が回転ギア24の歯25に係合している状態、操作片26の両突片27、28が回転ギア24の歯25に係合していない状態、操作片26の突片28が回転ギア24の歯25に係合している状態のいずれかを選択できるようにしている。
【0057】
操作片26は、図6(a)(b) (c)に示すように、上部中央面に係合部34を設けている。係合部34は、略三角形状に形成されて上方に向けて突出しており、その頂部に係合穴35を設けている。
【0058】
また、操作片26の係合部34の上には、棒体36が下向きに突出するように配置されている。この棒体36は、先端部に半球形頭部37を設けている。棒体36は、柄21の部分の下端において、所定の取付孔に進退自在に取り付けられており、バネ等の弾性部材38を巻回している。この弾性部材38により、棒体36は下向きに突出するように付勢された状態となり、棒体36の半球形頭部37が係合部34の傾斜状側面や係合穴35に強めに当接した状態が常に維持される。
【0059】
一方、車輪4、5は、図5に示すように、車輪4、5自身に固定されている支持軸30を備えている。そして、回転ギア24の中央部を貫通するように車輪4、5の支持軸30を配置して、車輪4、5の支持軸30に補助レバー20の回転ギア24が固定されている。そのため、補助レバー20の操作により回転ギア24が回転したときには、回転ギア24と一緒に車輪4、5も回転することとなる。
【0060】
この他、宙乗器1は、作業員Sが腰掛部6に座っている状態で、車輪4、5の回転運動を制止するフットブレーキ機構40を備えている。
【0061】
このフットブレーキ機構40は、図3・図4に示すように、L型部材41と紐状部材42を備えている。
【0062】
L型部材41は、長尺の水平片と短尺な垂直片により形成され、水平片には複数の孔43が設けられている。L型部材41は、その折曲部分が、枠部8の両端部に位置する小板片14に軸止され、L型部材41に回動可能に取り付けられている。
【0063】
両L型部材41の水平片の端部には、カラビナ部材44を介して、腰掛部6の下を通過できる程度の長さを有する紐状部材42の両端部を取り付けている。腰掛部6は、2個の接続片61を介して宙乗器1の下方に取り付けられている。この接続片61は、両端部にリング部材62を有する縦型の接続片61に、内向きのコ字状である固定部材63を取り付けて形成されている。
【0064】
そして、両接続片61の固定部材63により腰掛部6の両端部を挟み込んでいる。この状態において、枠部8の板片15の下端部に取り付けたU字金具64に、両接続片61のリング部材62を掛止して、腰掛部6を枠部8に固定している。紐状部材42の下方は、腰掛部6を固定している縦型の接続片61の下側のリング部材62を通過するようにして、両L型部材41に取り付けられている。
【0065】
また、L型部材41の垂直片の上端部には、短尺な牽引板片45が取り付けられている。さらに、図3・図4に示すように、車輪4、5の端部には、円形の回転体47が固定されている。
【0066】
そして、車輪4、5の回転体47に、回転制止部材46が巻回されている。この回転制止部材46は、革部材等を用いてベルト状に形成したもので、その先端部は、枠部8の小板片14の内部側の所定の位置に固定されている。また、回転制止部材46の基端部は、牽引板片45に固定されている。
【0067】
さらに、L型部材41の垂直片の上端部と枠部8の小板片14間に、弾性部材48を取り付けている。この弾性部材48により、L型部材41は、回転制止部材46が車輪4、5の回転体47に強く接していない状態、すなわち、車輪4、5の回転が制止されていない状態となるように付勢されている。
【0068】
そして、作業員Sが腰掛部6に座っている状態で、腰掛部6の下に垂れるように位置している紐状部材42を足で踏むことにより、L型部材41は、回転制止部材46が車輪4、5の回転体47に強く接している状態、すなわち、車輪4、5の回転が制止されている状態となるように回動する。このように、作業員Sが紐状部材42を足で踏むことにより、架空送電線2に沿って移動する宙乗器1の進行速度を慎重に調整するのである。
【0069】
この他、宙乗器1は、枠部7に安全バンド70を取り付けている。また、枠部7、8間に保持している車輪4、5に隣接して、枠部7に半円状の輪郭部材80を取り付けている。
【0070】
さらに、枠部7には、2個の回動片90を、丁番機構91を介して回動可能に取り付けている。この回動片90はL型の板状に形成され、図7に示すように、補助レバー20を枠部7の水平板片9に沿うように配置した状態において、この補助レバー20が上方向に持ち上がらないようにL型の板部分で押さえ付けるものである。また、補助レバー20を使用するときは、回動片90を開放状態となるように回動させ、補助レバー20を持ち上げるのである。
【0071】
以下に、補助レバー20の操作と車輪4(5)の回転について、図6(a)(b) (c)を参照して説明する。
【0072】
まず、補助レバー20を操作して、車輪4(5)を左回転させる場合は、図6(a)に示すように、操作片26を動かして、操作片26の突片27を回転ギア24の歯25に係合させる。このとき、突片27の強制回転面32が、歯25の傾斜状側面50に面状に当接して、車輪4(5)の右回転が阻止された状態となる。また、回転ギア24の歯25の角部51に、突片27の静止許容面33が線状に当接している。
【0073】
この状態で、図6(a)に示すように、補助レバー20を矢印方向に動かすと、操作片26の突片27により回転ギア24の歯25が押されて回転ギア24が強制的に回転し、それに伴って車輪4(5)も強制的に左回転することとなる。
【0074】
これに対し、補助レバー20を非矢印方向に動かすと、回転ギア24の歯25の角部51に線状に当接している突片27の静止許容面33が滑りながら上方に持ち上げられ、当接している歯25を乗り越えてしまう。その為、補助レバー20を非矢印方向に動かしても、回転ギア24は回転せず、車輪4(5)も静止した状態を維持する。
【0075】
従って、図6(a)に示す状態で補助レバー20を矢印方向と非矢印方向に連続して往復揺動させると、回転ギア24と車輪4(5)は、強制的に左回転することとなり、右回転することはない。
【0076】
次に、車輪4(5)を自由に回転させる場合は、図6(b)に示すように、操作片26を動かして、両突片27、28が回転ギア24の歯25に係合していない状態とする。そのため、車輪4(5)と回転ギア24は、自由に回転できることとなる。
【0077】
次に、車輪4(5)を右回転させる場合は、図6(c)に示すように、操作片26を動かして、操作片26の突片28を回転ギア24の歯25に係合させる。このとき、突片28の強制回転面32が、歯25の傾斜状側面50に面状に当接して、車輪4(5)の左回転が阻止された状態となる。また、回転ギア24の歯25の角部51に、突片28の静止許容面33が線状に当接している。
【0078】
この状態で、図(c)に示すように、補助レバー20を矢印方向に動かすと、操作片26の突片28により回転ギア24の歯25が押されて回転ギア24が強制的に回転し、それに伴って車輪4(5)も強制的に右回転することとなる。
【0079】
これに対し、補助レバー20を非矢印方向に動かすと、回転ギア24の歯25の角部51に線状に当接している突片28の静止許容面33が滑りながら上方に持ち上げられ、当接している歯25を乗り越えてしまう。その為、補助レバー20を非矢印方向に動かしても、回転ギア24は回転せず、車輪4(5)も静止した状態を維持する。
【0080】
従って、図6(c)に示す状態で補助レバー20を矢印方向と非矢印方向に連続して往復揺動させると、回転ギア24と車輪4(5)は、強制的に右回転することとなり、左回転することはない。
【0081】
次に、一方の枠部7の両小板片10の下部に設置している開放機構Aの構成を説明する。
【0082】
この開放機構Aは、図8に示すように、小板片10の下部に固定されている掛止部材70と、接続変17の端部において上向きに90度折曲するように固定されている板片71と、この板片71に揺動可能に取り付けられている開放板片72により形成されている。
【0083】
掛止部材70は、枠部7の小板片10において、下向に延設した板片11に接続用板片12を配置し、この接続用板片12に突出した状態に設けられている。この掛止部材70は、図9(a)に示すように、縦方向に貫通している掛止孔73を備えている。
【0084】
また、板片71の上部には、所定の軸支部74を介して開放板片72を揺動可能に取り付けている。この軸支部74は、図9(b)に示すように、板片71の上部に設けている幅広軸受部75と、この幅広軸受部75を両側から挟み込むように配置される二股軸受部76により形成されている。そして、幅広軸受部75を二股軸受部76により挟み込み、両軸受部75・76にボルト部材Bを挿入し、板片71の上部に二股軸受部76を揺動可能に取り付けている。
【0085】
さらに、図9(b)に示すように、二股軸受部76には、開放板片72を固定している。この開放板片72には、ピン部材77を移動可能に取り付けている。
【0086】
ピン部材77は、図8に示すように、所定の長さを有しており、中間位置に操作片78を設けている。また、開放板片72には、ピン部材77を挿入して移動可能に保持する長筒部材79を有する保持枠80を固定している。保持枠80は、自身の水平板部分を開放板片72に当接させ、所定のネジ部材を介して開放板片72に固定されている。
【0087】
保持枠80の長筒部材79には、ピン部材77の操作片78を突出させる切欠溝81を設けている。この切欠溝81は、縦長溝82と、縦長溝82の上部に、接続溝を介して連設している短尺溝83により形成されている。短尺溝83の上端部は、縦長溝82の上端部よりも上方に位置している。
【0088】
保持枠80の長筒部材79は、バネ等の弾性部材を内装している。この弾性部材は、ピン部材77を常に上方に押し上げるように付勢している。
【0089】
そして、図9(a)に示すように、切欠溝81における縦長溝82の下端部に操作片78が位置するとき、ピン部材77の先端部は、保持枠80の長筒部材79内に配置されている。
【0090】
次に、操作片78を縦長溝82に沿って上方に移動させると、それに伴ってピン部材77の先端部が長筒部材79から突出していく。
【0091】
操作片78が縦長溝82の上端部に到達したときは、操作片78を接続溝に沿って横に移動させた後、短尺溝83に沿って上方にさらに移動させる。その結果、図8に示すように、ピン部材77の先端部が掛止部材70の掛止孔73に進入した状態となる。
【0092】
すなわち、図8に示すように、ピン部材77の先端部が掛止部材70の掛止孔73に進入した状態では、開放板片72に固定している保持枠80の上部が、枠部7の接続用板片12に当接している状態が維持される。
【0093】
また、図9(a)に示すように、切欠溝81における縦長溝82の下端部に操作片78が位置するとき、ピン部材77の先端部は、掛止部材70の掛止孔73から退出して保持枠80の長筒部材79内に配置され、図9(b)に示すように、保持枠80の上部が枠部7の接続用板片12から離れて、開放板片72が開放できる状態となる。
【0094】
尚、開放板片72の開放状態において、操作片78から手を離すと、保持枠80の長筒部材79が内装している弾性部材によりピン部材77が上方に押し上げられ、操作片78が縦長溝82の上端部に位置することとなる。
【0095】
以下に、本発明に係る宙乗器1の操作例を、図8乃至図14を参照して説明する。
【0096】
本発明に係る宙乗器1を架空送電線2に取り付けるときは、まず、図9(a)に示すように、操作片78を縦長溝82の下方に移動させてピン部材77の先端部を、掛止部材70の掛止孔73から退出させる。この状態で、図9(b)に示すように、保持枠80の上部を枠部7の接続用板片12から離して、開放板片72を開放させる。
【0097】
この開放板片72による開放部分を利用して、宙乗器1の枠部7、8間に取り付けられている車輪4、5を架空送電線2に乗せる。そして、図8に示すように、操作片78を短尺溝83の上方に移動させてピン部材77の先端部を掛止部材70の掛止孔73に進入させたときには、開放板片72の開放を阻止して、架空送電線2への宙乗器1の取り付け状態を確実に維持し、作業員Sの安全を確保している。
【0098】
宙乗器1の腰掛部6に作業員Sが乗り込んだ状態で、架空送電線2に沿って宙乗器1を進行させるときは、操作片26を動かして操作片26の突片27が回転ギア24の歯25に係合している状態において、図10に示すように、車輪5の補助レバー20を連続して往復揺動させ、車輪5を強制的に回転させて宙乗器1を前進させる。このとき、車輪4の補助レバー20は格納しておく。
【0099】
そして、宙乗器1の車輪4が架空送電線2に取り付けているカウンタウエイトKの位置に到達したときは、図11に示すように、車輪4の補助レバー20を取り出し、操作片26を動かして操作片26の突片27が回転ギア24の歯25に係合している状態において、車輪4の補助レバー20を連続して往復揺動させ、車輪4を強制的に回転させてカウンタウエイトKを乗り越えていく。このとき、車輪5の補助レバー20は格納しておく。
【0100】
そして、車輪4がカウンタウエイトKを乗り越えた後に、図12に示すように、車輪5の補助レバー20を取り出して連続して往復揺動させ、車輪5を強制的に回転させてカウンタウエイトKを乗り越えていく。このとき、車輪4の補助レバー20は格納しておく。
【0101】
車輪5がカウンタウエイトKを乗り越えた後は、図13に示すように、そのまま車輪5の補助レバー20を連続して往復揺動させ、車輪5を強制的に回転させて宙乗器1を前進させる。
【0102】
この他、カウンタウエイトK間の距離が長い架空送電線2において、下り勾配が生じている架空送電線2に沿って宙乗器が下り方向に向けて進行するときは、
車輪4、5の操作片26を動かして、操作片26の両突片27、28が回転ギア24の歯25に係合していない状態とする。
【0103】
その結果、車輪4、5は、自由に回転できることとなり、下り勾配が生じている架空送電線2に沿って宙乗器を勢い良く進行させることもできる。
【0104】
また、車輪4、5を逆方向に強制的に回転させるときは、必要に応じて車輪4、5の補助レバー20を取り出し、操作片26を動かして、操作片26の突片28が回転ギア24の歯25に係合している状態とし、補助レバー20を連続して往復揺動させれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、送電鉄塔により支持されている架空地線、架空送電線等の架空線の保守、点検作業を行う際に、架空線に取り付けて作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器であり、難着雪リングやカウンタウエイトが取り付けられている架空送電線や、急勾配が生じている架空送電線等においても、宙乗器を容易に進行させることができるものとして、様々な状態の架空送電線に取り付けられて幅広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】一対の枠部により前後の車輪を回転可能に保持し、それぞれの車輪が補助レバーを備えている宙乗器の構成を示す斜視図である。
【図2】宙乗器を構成する一方の枠部の構成を示す側面図である。
【図3】一対の枠部により前後の車輪を回転可能に保持し、それぞれの車輪が補助レバーを備えている宙乗器の構成を示す斜視図である。
【図4】宙乗器を構成する他方の枠部の構成を示す側面図である。
【図5】車輪と、車輪が備えている補助レバーの構成を示す斜視図である。
【図6】補助レバーの操作片と回転ギアの歯の配置関係を示すもので、(a)は車輪を強制的に左回転させるときの正面図、(b)は車輪と回転ギアを自由に回転させるときの正面図、(c)は車輪を強制的に右回転させるときの正面図である。
【図7】車輪の補助レバーが回動片内に格納されている状態と、回動片を開放して車輪の補助レバーを取り出している状態を示す斜視図である。
【図8】操作片を上方に移動させてピン部材の先端部を掛止部材の掛止孔に進入させている開放機構の構成を示す斜視図である。
【図9】開放機構の動作を示すもので、(a)は操作片を下方に移動させてピン部材の先端部を掛止部材の掛止孔から退出させた状態を示す斜視図、(b)は保持枠の上部を枠部の接続用板片から離して開放板片を開放している状態を示す斜視図である。
【図10】宙乗器の操作例を示すもので、後側の車輪の補助レバーを連続して往復揺動させ、後側の車輪を強制的に回転させて宙乗器を前進させている状態を示す側面図である。
【図11】宙乗器の操作例を示すもので、前側の車輪の補助レバーを連続して往復揺動させ、前側の車輪を強制的に回転させて前側の車輪がカウンタウエイトを乗り越えている状態を示す側面図である。
【図12】宙乗器の操作例を示すもので、後側の車輪の補助レバーを連続して往復揺動させ、後側の車輪を強制的に回転させて後側の車輪がカウンタウエイトを乗り越えている状態を示す側面図である。
【図13】宙乗器の操作例を示すもので、後側の車輪の補助レバーを連続して往復揺動させ、後側の車輪を強制的に回転させて宙乗器を前進させている状態を示す側面図である。
【図14】従来の4輪構造の宙乗器において、前側の枠部に取り付けている車輪構成部の前方の車輪がカウンタウエイトを乗り越えている状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0107】
K…カウンタウエイト
A…開放機構
B…ボルト部材
S…作業員

1…宙乗器
2…架空送電線
3…枠体
4…車輪
5…車輪
6…腰掛部
7…枠部
8…枠部
9…水平板片
10…小板片
11…板片
12…接続用板片
13…水平板片
14…小板片
15…板片
16…接続片
17…接続片
18…補強板片
19…凹部
20…補助レバー
21…柄
22…ラチェット機構部
23…板片
24…回転ギア
25…歯
26…操作片
27…突片
28…突片
29…軸
30…支持軸
32…強制回転面
33…静止許容面
34…係合部
35…係合穴
36…棒体
37…半球形頭部
38…弾性部材
40…フットブレーキ機構
41…L型部材
42…紐状部材
43…孔
44…カラビナ部材
50…傾斜状側面
51…角部
61…接続片
62…リング部材
63…固定部材
70…掛止部材
71…板片
72…開放板片
73…掛止孔
74…軸支部
75…幅広軸受部
76…二股軸受部
77…ピン部材
78…操作片
79…長筒部材
80…保持枠
81…切欠溝
82…縦長溝
83…短尺溝
90…回動片
91…丁番機構

100…枠体
101…車輪
102…車輪
103…車輪構成部
104…腰掛部
105…前側の枠部
106…後側の枠部
107…架空送電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体の上部に架空線に乗せた状態で転動する2個の車輪を前後に配置し、枠体の下部に作業員が座る腰掛部を吊設して、作業員が乗り込んだ状態で架空線に沿って進行する宙乗器において、梃子の原理を利用して車輪を強制的に回転させる補助レバーを備えていることを特徴とする宙乗器。
【請求項2】
補助レバーは、車輪の支持軸に連結した回転ギアと、操作片から成るラチェッ
ト機構部を備えており、操作片の操作により、車輪を所定の方向に強制的に回転させたり、車輪を自由に回転させることができる請求項1に記載の宙乗器。
【請求項3】
2個の車輪のそれぞれが、補助レバーを備えている請求項1または2に記載の宙乗器。
【請求項4】
補助レバーのラチェット機構部は、車輪の強制的な回転動作を解除した場合、架空線に沿った宙乗器の進行時にほぼ無音状態となる請求項1乃至3のいずれかに記載の宙乗器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−29025(P2010−29025A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190147(P2008−190147)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000220642)東京電設サービス株式会社 (21)