説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】トナーのある場所のみ自動的に定着液が付着する構成とし、位置情報も要らず、厳しい付着位置精度も要らないため安価に構成できる定着装置及びこれを備える画像形成装置を提供する。
【解決手段】トナーを軟化させる軟化剤を含むトナー定着液により、記録紙上の未定着トナーを記録紙上に定着させる定着装置であって、前記トナー定着液を液滴として噴霧する霧化器と、噴霧された前記液滴に電荷を付加する電極と、を備え、前記霧化器は、前記記録紙上の前記未定着トナーに前記液滴を噴霧し、前記電極は、噴霧された前記液滴に前記未定着トナーが有する電荷極性とは逆の極性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー像を記録紙上に定着させて画像を形成する複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置における定着装置及びこの定着装置を使用する画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の記録紙上に画像を形成する装置は多くあり、その中でも主流なのがトナーを使用したいわゆる電子写真方式で、普通紙で高速、高密度に、また、最近ではカラー画像も手軽に作成できることからオフィス等に広く普及している。
かかる電子写真方式ではほとんど熱を利用した定着方式を採用している。これはハロゲンヒータやセラミックヒータ等の発熱体でローラやフィルム等を熱し、未定着トナーが乗った記録紙を定着ローラ対(加熱ローラ及び加圧ローラ)で挟んで加熱・加圧してトナーを溶融、変形させ、記録紙の繊維中にアンカリングすることで定着させる。
この方式は均一性、安定性に優れているため広く普及しているが、一方でエネルギを使いすぎる欠点があり、従来から、かかる不都合の解消、又は従来から知られている種々の定着方式を改善する技術が提案されている(例えば、特許文献1乃至5参照)。
特許文献1に示されるように、古くから定着方式には熱方式と蒸気定着方式が考えられていた。蒸気定着方式はトナーを溶かす溶媒蒸気中に未定着トナーが乗った記録紙を挿入するもので、確かに、この方式は熱方式に比べてエネルギの消費は少ない。しかし、液に臭気があったり、また、人体に害を及ぼしたりする懸念があり、広く普及しなかった。だが近来、無臭かつ無害でトナーを膨潤かつ溶解させて定着可能な液が開発されてきたことで、再び、液による定着方式が見直されてきている。
【0003】
ところで、現在のようにカラー複写機が主流になると、記録紙上のトナーが数層も重なり、20〜25μmの高さとなっている。仮に、A4の紙全面にこの高さのトナーがベタであったとすると、必要定着液量は、このトナーの間隙を埋め尽くすだけ必要で、実験的には約1ミリリットル/A4であった。これでは、仮に1万枚定着するためには10リットル必要となり、大きなタンクが必要となってしまう。また、記録紙は液のために片面が膨潤し反り返る、いわゆるカール現象が起きてしまい品質を大幅に下げる。
また、液使用量を減らすために、特許文献2のように画像のある部分のみ液を塗布し、画像のない部分は塗布しないことにより必要量を減らそうという試みがある。
特許文献3乃至5には、記録紙上のトナー像に定着液を噴射させた後に加圧工程を実施する技術、定着液が入ったカプセルを帯電させて、供給ユニットと反対側にある電極に誘導する技術、及び定着液を0.5〜5μm程度の微小径をもつミスト状にする技術が開示されている。
【特許文献1】特公昭40−10867号公報
【特許文献2】特開2004−109751公報
【特許文献3】特開2004−294847公報
【特許文献4】特開2006−133306公報
【特許文献5】特開2004−333866公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2の方式は、画像位置情報に基づいて定着液の付与を行うため定着液を付着させる位置精度が厳しいために構成が複雑になることや、地肌汚れ等の画像位置情報のないトナーには付与されないため、未定着のままで排紙され、ユーザーや廻りの環境を汚してしまう欠点があった。
また、特許文献4のカプセルトナーを帯電させ、記録紙の後にライン状の電極を設けて画像信号に合わせて印加し、カプセルトナーを引っ張るという技術は、構成が複雑で、しかもライン単位の選択性しか得られない。
そこで、本発明の目的は、上述した実情を考慮して、トナーのある場所のみ自動的に定着液が付着する構成とし、位置情報も要らず、厳しい付着位置精度も要らないため安価に構成できる定着装置及びこれを備える画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、トナーを軟化させる軟化剤を含むトナー定着液により、記録紙上の未定着トナーを記録紙上に定着させる定着装置であって、前記トナー定着液を液滴として噴霧する霧化器と、噴霧された前記液滴に電荷を付加する電極と、を備え、前記霧化器は、前記記録紙上の前記未定着トナーに前記液滴を噴霧し、前記電極は、噴霧された前記液滴に前記未定着トナーが有する電荷極性とは逆の極性を付与する定着装置を特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記霧化器はピエゾ素子を備え、該ピエゾ素子の振動によって前記トナー定着液を噴霧する請求項1記載の定着装置を特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記ピエゾ素子は、駆動周波数が300KHz乃至1MHzである請求項2記載の定着装置を特徴とする。
【0006】
また、請求項4に記載の発明は、前記霧化器により噴霧される前記液滴の直径は、4μm乃至10μmである請求項1乃至3の何れか一項記載の定着装置を特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、前記液滴を満たすための噴霧室と、該噴霧室内の前記液滴を回収するための排気ダクトを設け、回収された前記液滴を再度利用する請求項1乃至4の何れか一項記載の定着装置を特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、前記トナー定着液によりトナーが定着した前記記録紙をさらに加圧する加圧ローラを備えた請求項1乃至5の何れか一項記載の定着装置を特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6の何れか一項記載の定着装置を備えた画像形成装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、定着液を用いた定着装置において、噴霧定着液に未定着トナーと逆の電荷を注入することにより噴霧定着液がクーロン力により未定着トナーに引き寄せられて付着し、未定着トナーのない部分には付着量が少ないか又は存在しないので、自動的なオンデマンド塗布を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明による定着装置を示す概略図である。図2は図1の定着装置における噴霧器を拡大して示す概略斜視図である。
本発明は、記録紙1へのトナーの定着をトナー定着液5の使用によって行うものである。トナー定着液5は、溶媒中にトナー軟化剤を溶解又は分散してできている。このトナー定着液5を適量トナーに付着させることでトナーを溶解し、記録紙1に定着させる。
図1を参照して、本実施の形態をさらに説明する。図示しない画像形成部によって形成された未定着トナー2を載せた記録紙1は、図1の右側から左方向に向かってローラ17及び18によって張られた搬送ベルト3によって運ばれてくる。この時、未定着トナー2は、画像形成部の最終工程でマイナスに帯電している。
ここで記録紙1は噴霧室4に入る。噴霧室4には、噴霧器6があり、この噴霧器6は交流電源10により駆動される。図2に示すように、ピエゾ素子32に電源10から交流電圧を掛けることで、ピエゾ素子32の両端に微少な変位が発生し、ホーン型の形状により変位が拡大され先端部で最大となる。
スポンジによって構成される定着液導入材7は、一端が図1の定着液ボトル8内のトナー定着液5に浸され、これにより定着液導入材7は、毛細管現象により、トナー定着液5で全体が濡れた状態となる。定着液導入材7の反対端を噴霧器6の先端に触れさせると、定着液5は振動で液滴5aとなり、空中に噴霧される。
【0009】
図1の電極9は、直流電源11からプラスに帯電している。この電極9の近傍を、噴霧されたトナー定着液5が通過するのでトナー定着液5の液滴5aはプラスに帯電する。この噴霧された液滴5aは落下せずに気流によって噴霧室4中に漂う。
ここで未定着トナー2を載せた記録紙1が噴霧室4に入ると、マイナスに印加しているトナーに、クーロン力によって液滴5aが引き寄せられて付着する。こうしてトナーの無い部分には液滴5aが付着せず、トナーがある部分のみにトナー定着液5が付着することになり、自動的にオンデマンド塗布が行われる。
従って、定着液量は少なくて済み、記録紙1のカール、コックリングも少なく記録紙1の品位を落とさない。また、画像位置情報を記憶し、狙って付着させる方式と異なり、構成も簡単で、仮に地肌汚れ等の、画像位置情報にはないトナーであっても液滴が付着して定着されるため、トナーが未定着のままで排紙されてユーザーや廻りの環境を汚してしまうことのない、優れたオンデマンド塗布方式と言える。
ここで液滴5aの滴径が大きいと落下してしまい記録紙1に全て付着し、記録紙1が汚濁してしまう。また、径が小さ過ぎるとトナーを溶かすのに必要な量を付着させるのに時間が掛かってしまう。実験的には、液滴の径は10〜4μmが良い。
【0010】
図3は駆動周波数と液滴平均直径との関係を表として示す図である。また、平均液滴径は、前述の駆動周波数により変化し、図3に示すように、駆動周波数が300〜1、000kHz(1MHz)がもっとも良いことが判った。
一般的に、液滴径d[m]と周波数f[Hz]には以下の式が成り立つことが知られている。
d=0.34(8πT/ρf2)1/3
(T:液体の表面張力(水の場合0.0721N/m(24°Cで)、ρ:液体の密度(水の場合1、000kg/m3))
【0011】
本実験は、上記の式と良く合致する。さて、このようにオンデマンド塗布を行うと、噴霧した液滴5a全てが付着する訳ではないため、記録紙通過後も噴霧室4内には多くの噴霧された液滴5a、すなわち、トナー定着液5が浮遊し続けることになり、最終的には噴霧室4内壁又は記録紙通過部分に落下しかつ付着して周囲を汚染する可能性がある。
噴霧器6にピエゾ素子32を利用した霧化器を用いた時、その駆動周波数を300KHz〜1MHzの範囲とすると、噴霧液滴5aは4〜10μmとなり、空中を浮遊するに最適な液滴径とすることができ、すぐに落下して記録紙全体に多量に付着する不具合を防ぐことができる。
このように記録紙1上のトナーのみに選択的にトナー定着液5が載った状態でもトナーは軟化し、液滴5aが乾燥するか又は記録紙1の繊維内やトナー内部に浸透することにより、即座に硬化して定着が行われる。塗布直後のトナーが軟化した状態の時に加圧すると、定着力が増し、また、トナーが平坦化されそれによって色の再現性を良くすることができる。
【0012】
以下に、噴霧室4内に液滴5aとして浮遊し続ける噴霧液5を回収して再利用する方法を説明する。図1には、噴霧室4内に浮遊する噴霧液5を吸引排気するための排気ダクト12が示されており、噴霧室4は、排気ダクト12を介して大気に通じている。
排気ファン14は、通常噴霧室4から大気方向に強制的な空気流を作り、噴霧室4内に浮遊している残余のトナー定着液5(液滴5a)をトナー定着液回収フィルタ13に付着させ、再度液体化したトナー定着液5はチューブ33を通り定着液ボトル8に導かれ、再利用される。排気ファン14の吸気は、記録紙1の噴霧室4への出入り口34から行われる。
通常連続して定着すべき記録紙1が来ている時には噴霧室4内を噴霧したトナー定着液5で満たし、しばらく来ない状態が続いた時、例えば、機械がスタンバイ状態の時などは排気を行い、噴霧室4内のトナー定着液5を回収しておく。
【0013】
また、定期的にトナー定着液5を噴霧しない状態で排気を続け、噴霧室4の内壁に付着あるいは液化したトナー定着液5も乾燥させておく必要がある。これは、噴霧室4内に付着したトナー定着液5が記録紙1に付着しないようにするためである。
また、図1の符号15は加圧ローラであり、対向ローラ16との間に記録紙1を挟み加圧する。トナー定着液5が付着していた記録紙1上のトナーは、トナー定着液5の作用で軟化状態であるが、さらに加圧されることにより記録紙1の紙繊維内部に入り込み、アンカリングされて定着が強固なものとなる。
前述したように、トナー定着液5を用いた定着装置において、定着液量低減のため、また記録紙1のカール又はコックリング対策のため、トナーが付着している部分のみにトナー定着液5の液滴5aを付着させるいわゆるオンデマンド塗布は必須となっている。
【0014】
図4は本発明の定着装置を使用する画像記録装置(画像形成装置)を示す概略図である。図5は図4の像担持体の周辺を示す概略図である。次に、本発明による定着装置を適用する画像記録装置について説明する。
図4及び図5を参照して、画像形成部には像担持体23があり、それぞれ搬送方向にブラック(24Bk)、マゼンタ(24M)、イエロー(24Y)、シアン(24C)の順で並んでいる。それぞれの像担持体の下にはローラ21と22に掛けられた搬送ベルト20が設けられている。
記録紙1は図4の右方から左方に搬送され、ブラック、マゼンタ、イエロー、シアンの順で像担持体23からトナーを転写され、各色の像が重なりカラー画像を作る。4色のトナーが記録紙1上に載ると、最後に、ローラ17及び18によって張られた搬送ベルト3を介して本発明による定着装置19に入る。
前述の通り、記録紙1上の、トナー定着液5を付与された画像データのある未定着トナー2は溶解・定着する。次に、像担持体23は、図5に示すように、クリーニングブラシ31、クリーニングブレード30により像担持体23上の残留トナーを掻き取る。
【0015】
次に、除電ランプ29により像担持体23の電荷を除去する。帯電チャージャ28で均一なマイナス帯電を与え、露光27により潜像を作る。現像スリーブ25でプラス帯電キャリア26上の未定着トナー2が像担持体23上に転写され、プラス転写チャージャ24により未定着トナー2は記録紙1上に2次転写されて未定着画像となる。
ゆえにこの時点で未定着トナーはマイナス帯電となっている。従って、前述のプラスに帯電した液滴5aはクーロン力により選択的に未定着トナーに付着することになる。もちろん、電子写真プロセスの帯電極性が逆の場合は、未定着トナーがプラスになっているため、液滴5aにはマイナスの電荷を注入する必要がある。
この後、従来の複写機、プリンタ等では記録紙1は最後に熱を使った定着器に入ることになるが、熱方式は非常に電力を消費する。また複写機を使用していない時も立ち上がりに時間を掛けないためにヒータ温度をかなり高く保つ必要があり、稼働中はスタンバイ状態を含めてかなりの電力を消費している。
それに対し、本発明の定着液を使った定着方式は、定着部において動作時でも低電力で、しかもスタンバイ状態にはほとんど電力を消費しないメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による定着装置を示す概略図。
【図2】図1の定着装置における噴霧器を拡大して示す概略斜視図。
【図3】駆動周波数と液滴平均直径との関係を表として示す図。
【図4】本発明の定着装置を使用する画像記録装置を示す概略図。
【図5】図4の像担持体の周辺を示す概略図。
【符号の説明】
【0017】
A 画像形成装置
1 記録紙
2 未定着トナー
4 噴霧室
5 トナー定着液
5a 噴霧されたトナー定着液(液滴、噴霧定着液)
6 霧化器(噴霧器)
7 定着液導入材
8 定着液ボトル
9 電極
10 交流電源
11 直流電源
19 定着装置
23 像担持体
24 転写手段(プラス転写チャージャ)
32 ピエゾ素子
34 噴霧室への出入り口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナーを軟化させる軟化剤を含むトナー定着液により、記録紙上の未定着トナーを記録紙上に定着させる定着装置であって、前記トナー定着液を液滴として噴霧する霧化器と、噴霧された前記液滴に電荷を付加する電極と、を備え、前記霧化器は、前記記録紙上の前記未定着トナーに前記液滴を噴霧し、前記電極は、噴霧された前記液滴に前記未定着トナーが有する電荷極性とは逆の極性を付与することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記霧化器はピエゾ素子を備え、該ピエゾ素子の振動によって前記トナー定着液を噴霧することを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記ピエゾ素子は、駆動周波数が300KHz乃至1MHzであることを特徴とする請求項2記載の定着装置。
【請求項4】
前記霧化器により噴霧される前記液滴の直径は、4μm乃至10μmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の定着装置。
【請求項5】
前記液滴を満たすための噴霧室と、該噴霧室内の前記液滴を回収するための排気ダクトを設け、回収された前記液滴を再度利用することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の定着装置。
【請求項6】
前記トナー定着液によりトナーが定着した前記記録紙をさらに加圧する加圧ローラを備えたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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